皆様こんばんわ。
時々イーディスをダフネと書き間違えそうになるウルトラ長男です。
それでは今回はようやくイーディスが目立ち始める16話でお送りします。
「Trick or Treat!」
大広間に生徒達の陽気な声が響き、ダンブルドアが朗らかに笑う。
そして壇上の彼が杖を一振りするとテーブルの上にはパンプキンパイや、カボチャのスコーン、シフォンケーキやクッキーが現れた。
今日は10月31日、記念すべきハロウィーンの日だ。
去年はトロールのせいで途中中断してしまっただけに生徒達の期待も一際高く、例年以上の盛り上がりを見せていた。
「ねえミラベル、マルフォイがクィディッチチームのシーカーになったって話はもう知ってる?」
「ああ。チームメイト全員にニンバス2001を与えてチーム入りさせてもらったらしいな」
スコーンを齧りながらのイーディスの言葉に、ミラベルが興味なさそうに返す。
マルフォイがどんな手段でチーム入りをしようが彼女にとってはどうでもいい事だ。
どのみちそんな方法でしかチーム入り出来ないなら、どれだけ上等な箒に乗ろうと関係ない。
今のままではマルフォイは永遠にハリー・ポッターに勝てないだろう、というのがミラベルの考えだった。
「これでスリザリンは一気に有利になったわけだけど今年のクィディッチ杯、ミラベルはどう見る?」
「マルフォイをシーカーではなくビーター辺りにすれば優勝を狙えただろう。奴はシーカーに向かん」
「じゃあつまり……」
「順当に進めばトップはグリフィンドールだな。去年のような事がない限りは」
去年、ハリー・ポッターは1年でありながら抜群のセンスを見せ付けて後一歩で優勝というところまでチームを導いた。
だが最後の試合前に意識不明となり、結局クィディッチの優勝杯はスリザリンの手に渡ってしまったのだ。
それさえなければグリフィンドールが優勝していた事だろう、というのは大多数の意見でありミラベルも肯定している。
「いっそミラベルがチームに入っちゃえばいいんじゃない? あなたなら勝てるでしょ」
「練習に使う時間が勿体無い。そんな暇があるなら魔法の研究でもしていた方が有意義だ」
「貴女、今のままでも十分強いでしょ。それ以上研究してどうする気よ? 世界征服でもするつもり?」
「そうだと言ったらどうする?」
「……貴女のは冗談に聞こえないからやめて……」
実は冗談でも何でもなく大真面目なのだが、流石にそう思う者もいないだろう。
イーディスは引き攣った笑みを浮かべてカボチャのクッキーを齧る。
ミラベルもそれ以上何かを言う事なく、シフォンケーキを切り分けて皿に載せた。
そして柔らかな生地を口に入れながら、思う。そろそろ動く時か、と。
本来なら、学校に着いてすぐにバジリスクを始末してしまうつもりでいた。
バジリスクが秘密の部屋にいる事もわかっていたし、だからこそネズミを秘密の部屋に送り込んで座標さえ確認してしまえば後は姿現しで秘密の部屋に行く事が出来ると思っていたのだ。
しかし事はそう簡単ではなかった。
いざネズミを秘密の部屋の探索に送ってみれば悉く不発に終わり、耳に入るのは見付からなかった、という泣き言ばかり。
地下にあるというのがわかっていて、そこを重点的に探すように命じているのに見付からない。
どうやら秘密の部屋というだけあって、正規の入り口以外から入るのはかなり難しいらしい。
魔法の防壁か、それとも別の手段かは知らないがネズミ如きに突破出来るほど甘くはないという事か。
(あるいは、トム・リドルが何かしたのか……)
どちらにせよ、秘密の部屋を甘く見すぎていたようだ。
その事に気付いてからはすぐにネズミ達の調査を中止させ、“待ち”に徹する事を決めた。
秘密の部屋の座標を知る術がない以上姿現しは出来ない。いや、厳密に言えば出来るのだがそんな不安定な飛び方をしたら身体が“バラけて”しまう。故に、今出来る事は向こうから出てくるのを待つだけだ。
(問題は、出てくるタイミングだ)
“この場に居合わせれば遭遇出来る”、という機会は4度訪れる。
1度目はアーガス・フィルチのペットであるミセス・ノリスが襲われる時。
2度目はグリフィンドールの1年、コリン・クリービーが襲われる時。
3度目はハッフルパフのジャスティン・フレッチリーとほとんど首無しニックが襲われる時。
そして4度目はハーマイオニーとレイブンクローのペネロピー・クリアウォーターが襲われる時だ。
……確実を期するならば、4度目だ。
4度目と他3度の違い。それは正確な場所と時間がわかっている事にある。
4度目以外は正確にどこで襲われたのかが描写されず、精々廊下だとか階段の前だとかしか書かれていない。
襲われる人物にネズミを張り付かせておいてもバジリスクに食われてミラベルの元に情報が届かないだろうし、誰かが襲われた後に向かった所でどのみち間に合わないだろう。
それに運よく鉢合わせても逃亡されては意味がないし、そうなれば二度とミラベルの前に姿を現さないかもしれない。
その点4度目は完璧だ。
場所は図書館付近と判明しているし、時期もクィディッチの試合……それもグリフィンドール対ハッフルパフの当日に限られている。
場所がわかっていれば逃走阻止の罠を仕掛ける事も出来るし、待ち伏せも容易だ。
どのみち、バジリスク抹殺はそこまで急ぐ事もない。猫や生徒がいくら犠牲になろうとミラベルの知った事ではないし、仮に何かの間違いで死んでしまっても気にはならないのだ。
それよりも確実に叩き潰す事が重要であった。
結局、今年も去年と同様“時”を待つ退屈な日々が続くようだ。
そう思うと少し憂鬱な気分となった。
*
“秘密の部屋は開かれた。継承者の敵よ、気を付けろ”。
ハロウィーンパーティーが終わり、それぞれの寮に戻る最中、それは起きた。
3階、廊下の途中にある奇妙な存在。それに目を惹かれ、幾人もの生徒が立ち止まってしまったのも無理の無い事だろう。
そこにあったのは壁に書かれた文字、床に広がる水溜り、松明の腕木にぶら下がりピクリとも動かない猫のミセス・ノリス。そしてその前で硬直し立ちすくむハリー・ポッター達だった。
それはハロウィーンパーティーの余韻を吹き飛ばして生徒達を沈黙させ、その場に釘付けにした。
やがてその沈黙を破るように、マルフォイの喜悦を含んだ声が廊下に響く。
「継承者の敵よ、気を付けよ! 次はお前達の番だぞ、穢れた血め!」
余程気分が昂揚しているのだろう。彼は廊下中に響く声で喚き、その声を聞いて何事かと管理人のアーガス・フィルチや教師達がそこに飛び込んできた。
フィルチはハリーを見付けると「お前がやったんだ!」と喚き始め、彼に詰め寄る。
2年であるハリーにこんな事が出来るわけもないのだが、頭に血の登ったフィルチには関係ないらしい。
恐らくは何かここに来る前に一悶着あったのだろう。フィルチの中ではハリーが犯人で固定されているようだ。
「アーガス、一緒に来なさい。ポッター君、ウィーズリー君、グレンジャー嬢、君達もじゃ」
「校長先生、私の部屋が開いてます。すぐ上です」
「ありがとう、ギルデロイ」
ダンブルドアがフィルチを諌めながら猫を抱き抱え、その横にロックハートが並ぶ。
そしてハリーとその友人二人を伴ってその場から立ち去った。
後に残された生徒達はしばらく沈黙していたが、やがてざわざわと騒ぎ出し、何が起こったのかと憶測の言葉があちこちを飛び交う。
イーディスも不安そうな顔をしており、上ずった声でミラベルへと話しかけた。
「『秘密の部屋は開かれた』……ミラベル、これどういう事なのかな?」
「さてな……ロクでもない事なのは確かだろうが」
無論ミラベルはこの言葉が現す意味を知っているがわざわざ説明したりはしない。
その代わりにマルフォイがニヤニヤとしながら「僕が教えてやるよ」などと話しかけてきた。
どうやら彼が解説をしてくれるらしい。全く親切な事だ。
「この学校には偉大なる創設者サラザール・スリザリンが残した秘密の部屋があるのさ。
偉大なるスリザリンはマグル生まれ……つまり、穢れた血は魔法を学ぶのに相応しくないとお考えになった。
そこで、秘密の部屋に穢れた血を追放する為の怪物を封じ込めたのさ」
「怪物?」
「そうだライナグル。『スリザリンの継承者』のみが操る事が出来る恐ろしい怪物さ。
そして今、秘密の部屋は開かれた。これより継承者の敵は一掃され、ホグワーツには選ばれた純血の魔法使いだけが残される」
そこまで言い、マルフォイはニヤついた顔をミラベルへと向ける。
彼女は由緒正しい純血の家系だが、しかし継承者の敵足りうる要素は満たしていた。
それはスリザリンの思想の否定、という行為そのものだ。
「ベレスフォード、君は以前純血主義を否定していたな。今からでも考えを改めた方がいいんじゃないのか?
純血主義を認めて謝れば、もしかしたら許してもらえるかもしれないぞ?」
「……ククク……」
マルフォイの脅しに、しかしミラベルは微塵も動じない。
それどころか暗い嘲笑を顔に張りつけ、逆にマルフォイを見下すように言う。
「威を借りる狐もここまで来るといっそ清々しいな」
「何っ!?」
「あまり笑わせるなよマルフォイ。何故このミラベルがそのような下等な思想に媚びねばならんのだ?
私の前に出てくるというのならむしろ好都合……八つ裂きにしてその屍を晒し者にしてくれる」
その言葉を聞いてマルフォイとイーディスはゴクリと唾を飲み込む。
やりかねない……この女なら本当に、スリザリンの怪物を返り討ちにしてしまいそうな、得体の知れない怖さがある。
いや、実際に遭遇したなら間違いなく、嬉々として怪物を襲う! その確信が持てる!
「スリザリンの遺した遺産……それ即ちスリザリンの思想そのもの。
この手で引き裂いてやればさぞ、心地いいだろうな」
決してハッタリではなく本心からそう言うミラベルに恐怖を感じたのだろう。
マルフォイは青い顔をして引き下がり、早足で立ち去っていく。
それを見送ってから二人も歩き出し、地下への階段を下って寮の前へと辿り着いた。
そこで意を決したように、イーディスがわずかに上ずった声で言う。
「ねえミラベル」
「ん?」
「さっきのマルフォイとの会話だけど……本音でもああいう事、あまり言わない方がいいよ。
スリザリンで上手くやっていくなら、純血思想っていうのは切っても切れないものなんだし……」
「知らんな。私には関係ない」
イーディスは、思わず苦笑してしまった。
本当にこの友人はブレない。常に自信に溢れていて傲慢で身勝手で、そして退かず媚びず省みない。
まるで自分こそが世界の中心であると言わんばかりの尊大な態度はこの期に及んで微塵も萎える様子がなく、むしろますます増長している。
その姿を、羨ましいと……そうイーディスは思った。
確かにミラベルは人としては間違っているだろう。間違いなく最悪の部類だろう。
だが、一方で思う。彼女のように我を通す事が出来れば、それはどれほど気持ちいいのだろう。
何者にも怯えず己という存在を通し、自分に一切の偽り無く生きていけるならば、どれだけ自分に誇りを持てるのだろう。
そう思うと、わずかな嫉妬すら芽生えてしまう。
「ミラベルはさ……仮に、マグル生まれだったとしてもきっと、今と変わらなかったんだろうね」
「無論。例え両親がマグルだったとしても私は私のままだ」
「だよねえ……。でもさミラベル、大多数はそうじゃないんだよ?」
イーディスは自嘲気味の笑みを浮かべながら、言う。
確かにミラベルは強い。だが誰もがそう在れるわけではないのだ。
「スリザリンにも、純血じゃない生徒はいる。けどそういう生徒は自分からは絶対にその事を言わないの」
「……ふん、大方周囲からのけ者にされるから、だろう? 下らんな」
「そう、すっごく下らない。でもその下らない事が重いんだよ。
自分を偽って、純血だって嘘付いて、周囲と一緒にマグル生まれを馬鹿にしながら内心ではいつバレるのかとビクビクして……何人かは、そうして学校生活を過ごしてる」
イーディスは何かを言おうと口を開け、しかし言葉がなかなか出ない。
それでも深呼吸をして落ち着きを取り戻し、その一言……一つの質問を、ミラベルに投げかけた。
「ミラベルはさ……そういう生徒、どう思う?」
その質問に混ざった感情は期待と、そして恐怖。
イーディスのこの質問にどんな意味があるかは知らない。
だがどちらにせよ、誰がこの質問を投げかけてこようとミラベルの答えは不動だ。
常に彼女は、彼女自身の価値観によって動き、そして話しているのだから。
故に一切の迷いなく、無情な一言を言い放つ。
「唾棄すべき思考に囚われた弱者だ。それがどうした?」
「…………本当……ブレないなあ」
イーディスは寂しそうな笑みを浮かべ、背を向ける。
向いた先は、寮とは逆方向だ。
「ごめん、ちょっとトイレに寄っていく。先に戻ってて」
そう言って走り出したイーディスを、ミラベルは呼び止めなかった。
恐らく今の質問には彼女なりの悩みや苦しみがあったのだろう。
そして自分の答えは彼女の期待に沿う物ではなかった。
だが、だからといって自分の意見を変える気は毛頭ないし、これで彼女が自分から離れていくというのならどの道長続きはしない友情だったという事だ。
いや……そもそも今までの関係とて友と呼べるようなものだったかどうか……。
そこまで考えて小さく首を振り、寮への道を戻ろうとする。
だが新たに現れた気配を感知し、足を止めた。
「ミラベル……」
「……ダンブルドア校長か」
一体いつからそこにいたのか。
曲がり角から出てきたダンブルドアは慈愛に溢れた、キラキラと輝くブルーの眼でミラベルを見つめる。
この瞳は苦手だ。何もかもを見透かされているようで気に食わない。
彼はイーディスの走り去って行った方向を一瞥すると、静かに言う。
「追いかけないのかね?」
「貴方には関係無き事です」
疑問系ではあるが、その実言葉の裏にある本心は「追いかけろ」という命令系だ。
そのダンブルドアの言葉を、ミラベルは一言で切り捨てた。
「ミラベルよ、彼女は心に苦しみを抱えておる……君にもわかるはずじゃ」
「わかっていて尚追わない。その意味を理解出来ぬ貴方ではないはずだ」
イーディスの苦しみや悩みは全て彼女自身のものだ。
確かにここで追いかけてその傷を塞いだように“見せかける”事は可能だろう。
大丈夫だ、私が守ってやる、と手を差し伸べて安心させてやる事は出来るだろう。
事実そういった方法で“駒”を増やすのは一つの手だし、戦略として有効だ。
だが今の所、そういう手を彼女に使う気はミラベルになかった。
「……誰もが君のように確たる強さを持っているわけではない。
悩んで、傷ついて、支え合って……そうして人とは生きて行くものなのじゃ。
友として支えてやろうとは、思わぬのか?」
「支えねばならぬのは自力で立てぬ弱者のみ。それではどのみち私との仲など続くまい。
仮に私が隣に立つ事を許すとしたら、それは自らの足で立ち上がれる強者でなければならない」
自分に付いて来れない者になど用はない。
そう言い切るミラベルに、ダンブルドアは過去の己を重ねた。
やはり彼女は似ている。過去の自分が時を超えて目の前に立っているかのようだ。
かつてダンブルドアもまた、己の才能に自惚れていた魔法使いだったのだ。
自分と対等の立場に立てる魔法使いと出会う事は無く、その才能故に心は孤独であった。
だからこそ、初めて自分と同じ高さに立てたグリンデルバルドに何よりも強く惹かれた。
「友は何にも勝る宝なのじゃよ、ミラベル。失ってからでは遅いのじゃ」
この少女の可能性は無限大だ。
選ぶ道によってはヴォルデモートにも自分にも、グリフィンドールにもスリザリンにもなれる。
それどころか過去の偉人のどれとも違う、歴史上最高の英雄になる事だって夢ではない。
だからこそ、かつての自分のように歪んだ生き方をさせたくないのだ。
「……要らぬ世話ですよ、校長」
しかしダンブルドアの言葉は届かず、ミラベルはつまらなそうに鼻を鳴らすと寮へと入って行ってしまった。
やはり駄目なのだろうか、とダンブルドアは思う。
生まれながらの悪などいないと信じたい。彼女の中にも人間らしい情があると思いたい。
だがこれまでの素行や言動を見るに、とてもそうは思えぬのが実情。
イーディスという友人がいる事から、そこに彼女のわずかな情を期待してもこの有様である。
今の所ミラベルに見れる人間性は友人のイーディスのみだが、その友人との関係すら脆く、そして儚い。
果たして本当に、この少女に人間らしい情などあるのだろうか?
そう考え、ダンブルドアは小さくかぶりを振った。
自分が信じずに誰が信じるのだ、と。
イーディス「……グス……」
偶然トイレINしていたハーマイオニーさん「(あれ? 凄いデジャヴ……)」
嘆きのマートル「解せぬ」
(*M*)<ソノクチモオトウトニニテイル
皆様こんばんわ。今回はハロウィーン、バジリスク出現、そしてイーディスとの仲に亀裂の3本でお送りしました。
イーディスは常識人ですが、何故それがミラベルなんかの友人をしていたのか疑問に思っていた方は多いでしょう。
その理由がこれです。
ミラベルはスリザリン生唯一といっていい『反純血主義』であり、だからこそ純血以外の生徒には居心地がよかったのです。
それでは皆様、また明日お会いしまフォイ。