ハリー・ポッターと野望の少女   作:ウルトラ長男

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(*M*)<ソノミミガオトウトニニテイル……
皆様こんばんわ。夢の中でアズカバンに放り込まれたウルトラ長男です。
夢の中の私は何故かヴォルデモートになっており、闇の帝王な私は一緒に逮捕されていた空条承太郎と一緒に脱獄を試み、アズカバンから逃げ出しました。
その後私は承太郎と共にDIOを倒す旅に同行し、いつの間にかハリポタ関係なしの7人目のスタンド使いな夢になっていました。
どういう世界観だ、これ……。


第15話 無知という罪

「おはよう、ミラベル」

「ああおはよう、ライナグル」

 

 心地よい眠りから目を覚まして大広間に行き、イーディスと挨拶を交わしてスリザリンのテーブルにつく。

 朝は一日の始まりだ。この朝という時間を気持ちよく過ごせるかどうかでその日の調子が左右されると言っても過言ではない。

 だからこそ、この朝食の時間は何よりも掛け替えのない物なのだ、とミラベルは考える。

 言うならば一日の活力源、車で言うところのエンジンだ。

 これを欠かしては健やかな一日を送る事はとても出来ないだろう。

 

「最初の授業は何だっけ?」

「マクゴナガル教諭の変身術だ」

「うわ、初っ端からそれか」

 

 イーディスはマクゴナガルが苦手だ。

 グリフィンドールの寮監という事もそうだが、何よりあの厳格さが醸し出す息の詰まる空気が好きになれないのだ。

 また彼女は変身術もあまり得意ではない。

 苦手な教師であるマクゴナガルが教える苦手な科目の変身術。これほど嫌な組み合わせが他にあるだろうか?

 そんな事もあり、どうやらイーディスの新学期一日目は今日の天気のように雲行きが怪しくなりそうだ。

 

「他の授業なら別にいいんだけど、よりにもよってそれかあ……」

「そう嘆くな。その次は貴様の好きな飛行訓練だぞ」

 

 ベーコンエッグをナイフで切り分けてフォークを刺し、口に入れる。

 本来ならソースやマヨネーズをかけて食べるところだが、ベーコンの塩味が効いているおかげでその必要はなさそうだ。

 バターを塗ったトーストはサクサクとした歯ごたえながら中はパン本来の柔らかさを保っており、文句のつけようがない。この学校の屋敷妖精は相変わらずいい仕事をしているようだ。

 口の中の物を飲み込んだ後にミルクを喉に流し込み、ほう、と一息つく。

 この静かで、穏やかな時間。これこそ至福というものだ。食文化を知らない動物では決して味わえない、人類のみに許された一時だ。

 眼を閉じて意識を己の内へ埋没させ、余韻を楽しむ。これがミラベルの朝の密かな楽しみでもあった。

 だが……。

 

『車を盗み出すなんて退校処分になっても当たり前です! 首を洗って待ってらっしゃい、承知しませんからね! 車がなくなっているのを見て私とお父さんがどんな思いだったか、お前はちょっとでも考えたんですか!?』

 

 突如広間に馬鹿でかい声が響き、ミラベルの余韻を一撃で破壊した。

 あまりの大音声に天井がビリビリと震え、テーブルの上の食器はまるで地震のようにカチャカチャと音を立てる。

 

『昨夜ダンブルドアからの手紙が来てお父さんは恥ずかしさのあまり死んでしまうのではないかと心配しました! こんな事をする子に育てた覚えはありません! お前もハリーもまかり間違えば死ぬ所だった! 全く愛想が尽きました! お父さんは役所で尋問を受けたのですよ、みんなお前のせいです! 今度ちょっとでも規則を破ってごらん、私がお前をすぐ家に引っ張って帰ります!』

 

 そこまで一方的に捲くし立て、ようやく怒声は収まったようだ。

 広間の生徒達は何事かと声の出所へと目を向け、そこでひっくり返りそうになっているハリーとロンを見る。

 どうやら今のは彼らに送られた『吼えメール』だったらしい。

 

「……ビックリしたあ……あれが吼えメールかあ……。

確かあれって音声を通常の数百倍にするんだよね」

「…………」

「で、早く開けないと爆発するっていう…………ミラベル?」

 

 ミラベルは何も返事を返さず、無言で椅子から立ち上がる。

 そして懐に手を入れると、その身長には不釣合いに巨大な杖を取り出した。

 吸血樹から造られたという彼女愛用の、鈍器にも使える杖だ。

 それを持ってミラベルはグリフィンドールのテーブルへと向かって歩き出す。

 その時イーディスは見た。ミラベルの背後でゆらめく、手にベアークローを装着した巨大な黒い修羅の幻影を。

 なんだか『コーホー』という恐ろしい呼吸音まで聴こえてきそうだ。

 

「ちょっ、待ってミラベル! その杖でどうする気!?」

「知れた事。あの下郎を殺処分する」

「ちょ!?」

 

 いくら何でも本当にそんな事しないだろうとは思いたいが、しかし今のミラベルならやりかねない。

 イーディスは友人を犯罪者にしたくない一心でしがみつき、ミラベルの歩みを止めた。

 ここで自分が手を離したら本当にグリフィンドールから死者が出る!

 今の彼女は冗談抜きでウィーズリーに攻撃魔法を放ちかねない!

 

「離せライナグル! 私の朝食を邪魔した罪は万死に値する!」

「不可抗力だから! 吼えメールは不可抗力で彼、被害者だから!」

「知らん。いかなる事情があろうと関係ない」

「何であんた、食事の事になるとそんな沸点低いの!?」

 

 

 

 その後なんとかイーディスの努力の甲斐もあってミラベルは落ち着きを取り戻し、ロンの処刑を先送りにしてくれた。

 先送り、というのが何とも怖いところだが今は時間と共に怒りが消えるのを待つ他あるまい。

 余談だがこの日以降、ロナルド・ウィーズリーはミラベルの半径30m以内に入る度に得体の知れない殺気に当てられるようになったとか。

 

*

 

 マクゴナガルの変身術授業はコガネムシをボタンに変える、というものだった。

 何てことはない課題であったが、どうやらほとんどの者が休み中に習った事を忘れてしまったらしく、これを出来た者は意外にもほんのわずかであった。

 無論、そのほんのわずかの中にミラベルが入っていたのは言うまでもない。

 そして出来なかった大多数にイーディスとマルフォイが入ってしまった事もまた、説明するまでもない事だろう。

 それが終わった後の休み時間は、生徒達にとって羽を休めるのに丁度いい時間だ。

 特に2年生は今年からクィディッチ参加も可能とあって飛行訓練している生徒が大勢いる。

 そんな生徒達を見ながら、ミラベルとイーディスは外を散歩していた。

 

「見てくれよ、この箒。最新のニンバス2001だ。ポッターのニンバス2000なんか目じゃないぞ」

 

 友人達を集め、得意気に自身の箒を自慢しているのはマルフォイだ。

 彼は今年新発売された最新の競技用箒、「ニンバス2001」を掲げて周囲に見せびらかしている。

 恐らくは去年、特例でハリーにニンバス2000が与えられたのが余程悔しかったのだろう。そのニンバス2000を上回る箒を手にした事で随分ご機嫌な様子だ。

 彼はたまたま近くまで来たミラベルに気付いたらしく、自慢気に話しかけてくる。

 

「どうだいベレスフォード、これでも君は僕がポッターに劣ると言うのかい?」

「ん? ……ああ、貴様か」

 

 ミラベルは至極興味なさそうにマルフォイへと視線を向ける。

 その手の中には確かに立派な新型の箒があり、持ち主とは不釣合いに輝いていた。

 

「ところで君も自分の箒を持って来たんだろう? 2年からは箒の持ち込みが許されるからね。

ウィーズリーじゃあるまいし、まさか2年にもなって未だに学校の箒を使うってことはないよねえ?」

「無論。これが私の箒だ」

 

 言いながらミラベルが箒をマルフォイの前に見せる。

 それは柄の部分が銀色に装飾された見慣れない、美しい箒だ。

 クリーンスイープよりも細くシャープなシルエットに、一本一本が先端まで研ぎ澄まされた尾、そして中央部分に金文字で描かれた「Silver Arrow」の文字。その下には製作者であるレオナルドのロゴが記入されている。

 一目見てわかる、上質な箒だ。マルフォイの持つニンバス2001にも負けないくらい……いや、マルフォイの目の錯覚でなければ、ニンバス以上に拘り抜いて造られた至玉の一品に思えた。

 

「そ、それは……?」

「シルバーアロー。今は生産中止になっている箒だが、それを私専用に再生産させたものだ」

 

 箒は通常、ちゃんと登録された正規の箒しか乗る事を許されない。

 また、勝手な改造や魔法をかけての強化も認められてはいない。

 出来るのは精々、自分の飛び方のクセに合わせた些細なメンテナンスくらいだ。

 だがシルバーアローだけは別だ。これは元々職人一人の手作業で作られており、一本一本にムラがあった。早い話、一つとして同じ物は存在していなかったのだ。

 それ故にレオナルドが造り彼のロゴを入れた箒は全て「シルバーアロー」と認められ、使用を許された。

 そしてこれは紛れもなくレオナルド・ジュークス本人が手がけ、「シルバーアロー」と名付けた箒だ。

 言うならば最後の、とびきり性能がいいというだけの既存の箒に過ぎない。つまりこの箒の使用を禁止する事は出来ないのだ。

 手造りの箒だからこその、雑な規制であった。

 

 無論、それはあくまで分類上の話であり、性能の事となれば全く話は変わる。

 ニンバス系統の技術に加え、まだ発表されていない最先端の箒「ファイアボルト」のノウハウをも取り込んでリメイクされたそれはもはやシルバーアローではない。

 ファイアボルトと同じく新たな時代を翔ける為の新世代用競技箒、いわばシルバーアローⅡとでも呼ぶべき代物なのだ。

 

「ふ、ふん……なかなかいい箒を持ってるじゃないか……けど、ニンバス2001には……」

「おお、ミス・ベレスフォード。それはもしやシルバーアローですか?!」

 

 負け惜しみを言いかけたマルフォイの台詞を遮り、割り込んで来たのはマダム・フーチだ。

 恐らく休み時間に飛び回る生徒達を心配して見に来ていたのだろう。

 そんな時にミラベルの手にあるシルバーアローが眼に入ったらしく、妙にはしゃいだ様子で近づいてきた。

 どうやら彼女もシルバーアローのよさを知る一人らしい。

 

「ああ、この細身のデザインに柄の握り、矢のように研ぎ澄まされた尾の先端……懐かしいですねえ。

本当にこれはいい箒です。私も貴女達と同じくらいの時にこの箒で飛ぶ事を覚えたのですよ。

生産中止になってしまったのが残念でなりません。今でもシリーズを出していればきっとニンバス系を抑えて業界トップの売り上げだったでしょうに」

「そんなにいい箒だったんですか?」

 

 上機嫌で話すマダム・フーチへイーディスが不思議そうに尋ねる。

 いくらいい箒だったといっても所詮は過去に造られていた旧型だ。

 今を駆けるニンバスやクイーンスイープに太刀打ち出来るのか疑問に思うのも仕方ない事だろう。

 そんな彼女へ、マダム・フーチは自信満々に頷いて見せた。

 

「ええそれはもう。当時最高峰の箒で、誰もがシルバーアローを欲しました。

あまりに大勢が求める物だから生産数が間に合わなくて店に並ぶ事すら稀だったのです。

間違いなく、今でも通用する数少ない箒と言えましょう。

ところでミス・ベレスフォード……これ、後でちょっとだけ乗せてもらってもいいでしょうか?」

「まあ、構いませんが……」

「おお、感謝します。授業が終わった後が楽しみですよ」

 

 ニコニコと笑いながら生徒達の前へ戻っていくマダム・フーチの背を見てイーディスは苦笑した。

 どうやらマダムは随分シルバーアローに愛着があるようだ。

 まるで玩具を見付けた子供のように目を輝かせる様は見ていて微笑ましくすらあった。

 一方マルフォイは敗北感を感じたのか、苦々しい顔をしてミラベルのシルバーアローを睨み付けている。

 

「ふ、ふん! 箒の性能だけで全部決まるわけじゃない!」

 

 マルフォイは肩を怒らせながら立ち去るが、その捨て台詞がただの負け惜しみだと言う事は誰の目から見ても明らかだ。

 第一ついさっきまで箒の性能自慢をしていたのは他でもない彼自身である。

 イーディスは何だかなー、と呟き、愛用のクリーンスイープ7号を取り出した。

 こうして見ると自分の箒だけ格落ちしているような気がしてならない。

 ……いや、まあ、気に入ってはいるのだが。

 

「ほう、それが貴様の箒か」

「うん。ニンバスもいいんだけど個人的にはこっちの方が好きなんだよね。なんていっても安定感が違うし」

「ふむ。最新などの言葉に惑わされず自分に合った箒を使うか」

「はは、そんな上等なものでもないけどね」

 

 クリーンスイープはクリーンスイープ箒製造会社によって造られた世界初の量産型競技用箒だ。

 それ以前の競技用箒というのはシルバーアローのように職人の手によって造られていたのだが、増え続ける需要に供給が間に合わなくなり手造りの箒は市場から姿を消した。

 それに代わり、新たに台頭してきたのが今のニンバスやコメットといった魔法を用いて大量生産した箒であり、クリーンスイープシリーズはその先駆けとなった代物だ。

 1号から始まり番号が増えるたびに改良が加えられるこの箒は抜群の安定性を誇り、特にコーナリングスピードは業界トップクラスだ。

 

「それにしても何でマルフォイはあんなにミラベルに突っかかるのかしらねえ。ヘコまされるだけなのに」

「知らん。あんな男の思考などに興味はない」

「……あなた、本当に容赦ないよね……」

 

 マルフォイはもしかしてマゾなのではないだろうか。

 そんな、本人が聞いたら顔を真っ赤にして怒り出しそうな失礼な事を考えつつ、イーディスは箒に乗って空を飛ぶ生徒達を眺めていた。

 

*

 

 午後の授業はスネイプの魔法薬学だ。

 ラベンダーやセージといったハーブの効率的な使い方、調合の仕方などを教わり、班を作って実際に調合も行った。

 その際マルフォイの取り巻きが失敗して卵が腐ったような匂いの煙をあげていたが特にお咎めはなかった。

 これがハリー・ポッターならば今頃減点されていた事だろう。

 それが終われば次はいよいよ問題の「闇の魔術に対する防衛術」の時間だ。

 ミラベルとイーディスが教室の前まで行くと、そこには何故かハリーとその友人二人がおり、疲れたように歩いていた。

 そういえばグリフィンドールはスリザリンの前に防衛術の授業を受けていたはずだ。

 ハリーが苛立ったように話しているところを見ると、どうやらかなり酷い授業だったようだ。

 

「ハーマイオニー、君はロックハートの事を過大評価しすぎてる。授業を見たろう? あいつったらピクシー小妖精すら抑えられなかったじゃないか」

「違うわハリー。あれはきっと私達に経験を積ませようとしてたのよ」

「妖精に杖を奪われてみっともなく机の下に避難するのがかい? ハーマイオニーいい加減目を覚ませ」

 

 聞こえてきた内容にイーディスが顔をしかめ、疑わしいものを見るような目でハリー達を見た。

 吸血鬼や狼男すら倒してきた男が小妖精すら抑えられない? 馬鹿な、いくら何でもそれは有り得ないだろう。

 そう考えるも、歓迎パーティーの時にミラベルが言っていた言葉を思い出すと真っ向から笑い飛ばす事も出来ないのだ。

 やがてハリー達とすれ違う直前になるとハリーが何か言いたそうな目でミラベルを見ていたが、結局何も言う事なくその場から歩き去って行った。

 大方クィレルを倒した時の事でも聞きたかったのだろうが、ミラベルの持つ話しかけ難い雰囲気に呑まれて何も言えなかったのだろう。

 

 教室に着いて全員が椅子に座るとロックハートが大きな咳払いをし、一冊の本を取り出した。

 その本の表紙にはロックハートが映っており、ウインクを飛ばしている。

 写真に映った己を指差しながら、彼は言う。

 

「私だ。ギルデロイ・ロックハート、勲三等マーリン勲章、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、そして『週刊魔女』5回連続『チャーミング・スマイル賞』受賞。

もっとも私はそんな事を自慢するわけではありませんよ。スマイルでカーディフの狼男を大人しくさせたわけではありませんからね」

 

 本人的には気の効いたジョークのつもりだったのだろう。

 だがその言葉で笑ったのはほんのわずかな生徒で大多数は白けた眼を壇上の教師に向けていた。

 しかしロックハートはそんな冷めた反応にも気付いていないようで、偉そうな口調で話しはじめる。

 

「全員、勿論私の本を揃えているね? そして勿論1、2冊くらいは読み終えている事とは思う。

そこでまず、簡単なミニテストを実施したい。心配は無用、君達がどのくらい私の本を読んでいるかをチェックするだけの、満点を取れて当たり前のテストだ」

 

 ロックハートの中では生徒達が自分の本を既に読み終えていて当然、となっているらしい。

 彼はテストペーパーを配りながら更に説明をする。

 

「嘆かわしい事に先ほど同じテストをしたグリフィンドールでは、ハーマイオニー・グレンジャー嬢以外誰も満点を取ってはくれなかった。

このスリザリンは勿論、そんな事はないと信じているよ」

 

 配られたテストを見て、ミラベルは反射的に破り捨ててやりたい衝動に駆られた。

 何せ書いている事と言えばロックハートの好きな色は何だとか、ひそかな大望は何だとか、誕生日はいつだとかそんなどうでもいい事ばかりだ。

 しかもそれが裏表に渡りビッシリと書いてあるのだから嫌になる。

 殴りたい。今すぐにロックハートの胸倉を掴み上げて原型がなくなるまで殴ってやりたい。

 ギリギリと拳を握り締めるミラベルに、横のイーディスから「落ち着いて!」と制止が入る。

 その言葉でわずかばかりの冷静さを取り戻し、ミラベルは小さく舌打ちをした。

 そして苛立ちを強引に押さえ付けて羽根ペンを持ち、空欄を埋める作業へと埋没する。

 ここで殴るのは簡単だ。だがそれではいけない。

 それでは去年の焼き直し……あの時と何も変わらない。

 逆に考えるのだ……これはまたとないチャンスだと考えるのだ。

 叩き潰すのは、十分に利用し尽くしてやった後にしなくては。

 

 30分後、ロックハートがテスト用紙を回収し、パラパラとめくった。

 そして首を振り、ノンノンノン、とわざとらしく言う。

 

「これはどうした事だね。私の好きな色はライラック色という事を何故皆答えていないのだ。

『バンパイアとゆっくり船旅』を読んでいる生徒も少ないようだね。私に退治された吸血鬼がレタスしか食べなくなった事を書けていない。

ミス・ライナグル、私の密かな大望は『世界一有名になる事』などではないよ? これではまるで私が有名になりたがっている目立ちたがり屋のようではないか」

 

 ようだ、どころか実際に誰がどう見ても目立ちたがり屋そのものなのだが、それを口にする者はいなかった。

 ロックハートはやれやれとかぶりを振り、続いて一枚の答案を取り出す。

 

「しかしミス・ベレスフォードは私が初めて乗ったマグルの船の名前がネブロド号である事を覚えていましたね。

それに誕生日に貰って嬉しい物が魔法と非魔法のハーモニーである事も知っていました。

しかも満点です、すばらしい! スリザリンに10点あげましょう!」

 

 貰ってもあまり嬉しくない10点だが、文句は言うまい。

 その後の授業はひたすらロックハートが自身の過去の活躍を語る事に終始し、何一つ授業らしい事は行わなかった。

 初日ならばこんなものだろう、と普通なら思うかもしれないがこの男に限ってそれは当てはまらない。

 このロックハートという男はきっと、これから1年ずっとこの調子だろうと5割近くの生徒が確信していた。

 そんな馬鹿げた授業が終わると同時にミラベルは席を立ち、ロックハートの元へと歩いて行く。

 

「少しいいだろうか、ロックハート教諭」

「おや、貴女はミス・ベレスフォードですね。どうしました?」

「実は『雪男とゆっくり1年』に出てくる『幻を見せるマッチ』について深く理解したいと思ったのだが、生憎その為の本がある場所が閲覧禁止の棚でね。

そこでもし良ければ、ロックハート教諭の力と名前を貸して頂けないだろうか。貴方のサインがあれば私も禁書を調べる事が出来るし、より深く貴方の“実際の功績”を理解出来る」

「おお、『雪男とゆっくり1年』か。あれは私の書いた本の中でも思い入れの強い一冊だ。面白かったかい?」

「ええ。“良く出来た物語”だと感心させられます」

 

 適度に皮肉を混ぜておだてつつ、ロックハートのサインを求める。実の所おだてるどころか完全にけなしているのだが、どうやら彼は気付きもしないらしい。

 この無知な男はどうせ禁書の持つ重要性や危険性など全く理解していない事だろう。

 何故それらの本の閲覧を下級生が許されていないのか、知ろうとも思わないだろう。

 だからこそ利用出来るのだ。余程の理由がなければまず許可されないはずの禁書の閲覧。その行為をこうも容易く許してしまう。

 ミラベルはそれを利用することを考えたのだ。

 

「ふむ、そうですね。ミス・グレンジャーと並ぶ学年の最優秀生徒をちょっと応援してあげるくらい構わないでしょう」

 

 ロックハートはそう言い、ミラベルが何の本を借りようとしているのか確認すらせずにサインをしてしまった。

 いや、仮に確認したところでこの男にはわからなかっただろうが、ミラベルが借りようとしている本は『幻を見せるマッチ』とは全く無関係の、もっとおぞましい本である。

 彼女の野望を成就する為の、邪悪な呪法を記した禁書。それを今、この少女は合法的に読む事を許されてしまった。

 きっとロックハートは気付かないだろう。自分が今、どれだけ致命的な事をしでかしてしまったのか。

 これが後にどれだけの犠牲者を出す事になるのか。きっと想像すら出来ないのだろう。

 

 

 

 ミラベルが手にしたのは『時間操作』に関する一冊の本。

 逆転時計などの製作ノウハウにも使われる、太古に禁じられた魔法の数々。

 その知識が、最も渡ってはならない人物の手に渡ってしまった。

 

 

 




マダム・フーチ「ヒィッハアアアァァァァァッ! このシルバーアローとなら行けるぜえ!?
スピードの“向こう側”によォ!?」
マクゴナガル「マダム・フーチ正気に戻ってください!? マダァァァァァァムッ!」
イーディス「……どうしてこうなった」

※マダム、シルバーアローに乗ってご満悦中。

(*M*)<ソノメガオトウトニニテイル……
今回は朝食の一時、箒説明、ロックハートの授業の3本でお送りしました。
ちなみにこれは全て新学期初日の出来事です。
ミラベルは今回時間操作の禁書を手に入れましたが、勿論そのうち実戦で使います。
ハリポタ界って時折こういう滅茶苦茶な魔法や道具が当たり前のように出てくるから侮れません。

そしてロックハート先生、死亡フラグの綱渡り何とか成功です。
もしここで原作でハリーにやったように「私の活躍を実演しますので、ミス・ベレスフォードは私に倒される敵の役をやって下さい☆」とかやったらアウトでした。
ちなみにピクシー妖精はスリザリンの前にグリフィンドールの授業でやって懲りたらしく、出していません。
もし順序が逆だったなら……。
ロックハート、運のいい男です。

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