ハリー・ポッターと野望の少女   作:ウルトラ長男

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(*M*)<オレハウソガダイキレエナンダ
皆様こんばんわ。東方SSを読み漁っているウルトラ長男です。
特に今回は語る事もない14話をお送りします。


第14話 異なる思想

 ホグワーツへと向かう特急列車の中、心地よい振動に揺られながらミラベルは本を読みふけっていた。

 読んでいるのはロックハート著の『バンパイアとバッチリ船旅』という本で主人公のロックハートが吸血鬼と共に船に乗って世界中を回るという物語だ。

 無論『知識』を持つミラベルはこの主人公が実際にはロックハートではなく、彼に記憶を消された他の誰かである、という事は知っているがそれを抜きにして一つの物語として見てみれば楽しめるものだ。

 所々想像で書いたような部分や自分を格好良く見せようとして演出過多になっている場所、逆に描写不足な場面などが目立つが往往にして物語などそんなものだ。

 そうして本を読んでいるとコンパートメントが開く音がし、女生徒の声が聞こえてきた。

 

「ごめーん、ここ空いてる?」

「ああ」

「ありがとう。でも不思議ねえ……何でここだけ誰もいないのかしら?」

 

 本から目を離さずに返事をし、ページを捲る。

 コンパートメントの中に生徒が二人入ってくる気配を感じたが邪魔さえされなければ誰が入ってこようと関係ない。

 だがどうやら放っておいてくれる気はないらしく、先ほどとは違う声が高圧的に話しかけて来た。

 

「ねえねえ、穢れた血のグレンジャーじゃあるまいし本ばっか読んでないで顔上げなよ。

まさか挨拶も出来ないってことはないでしょ?」

「あれ? ちょっと待ってミリセント……こ、この人もしかして……」

「せっかく同じコンパートメントなんだからさ。自己紹介くらいしようよ」

 

 話しかけて来ているのはミリセント、という生徒らしい。中々ハッキリ自分の意見を言う少女のようだ。

 ミラベルは仕方ないか、と判断して本を閉じ、膝に置いた。

 すると二人の少女が同時に息を呑み、一歩後ろに下がった。

 どうやら本で顔が隠れていたせいで誰だかわかっていなかったらしい。

 

「げえっ!? ベレスフォード!?」

「ややややっぱり! ここだけ誰もいないから何かおかしいとは思ってたのよ!」

 

 ミラベルの事を知らない生徒は今や一人もいない。

 スリザリンの誇る最優秀生徒にして校内一の美少女、そして学生らしからぬ存在感を放つ異彩の生徒だ。

 ハロウィンの時に見せ付けたあの圧倒的な存在感は未だ記憶に新しく、生徒達の心に畏敬と共に刻み込まれている。

 スリザリン内での彼女に対する感情は大きく分けて尊敬、崇拝、そして恐怖の3つに分類される。

 その圧倒的な能力と存在感を純粋に尊敬し、憧れる者。

 完全に魅了され、彼女こそスリザリンの指導者と妄信する者。

 そして逆に、高すぎる能力や隠す気のない苛烈さに恐れを抱く者。

 この二人の女生徒はどうやらその3番目に位置するようだ。

 

「「し、失礼しました!」」

「まあ待て」

 

 慌ててUターンしようとする二人だったがもう遅い。彼女達は自ら猛獣の檻に飛び込んでしまったのだ。

 ローブの端を掴まれて強引にコンパートメント内に引き戻され、椅子に着席させられる。

 ミリセントは女子にしてはかなり身長の高い生徒であったが、ミラベルの前ではまるで意味をなさなかった。

 ミラベルはこの外見に似合わず腕力も下手な男子を超えるらしい。

 

「私の顔を見て逃げ出すとは随分無礼な奴等だな。オークか何かと勘違いしていないか?」

「いえむしろオークの方がまだマシというか何というか……」

「ミリセント黙って! 機嫌を損ねたらどうなるかわからないのよ!?」

 

 ミリセントの言葉を、もう一人のパグ犬のような潰れた顔の生徒が止める。

 どうもこちらの生徒はかなりミラベルを怖がっているらしい。

 別にそんな恐れなくても余程の無礼を働かれない限りは何もしないのだが、どうやらそうは思わないようだ。

 あわあわと怯えてせわしなく顔を動かす様は本当のパグ犬のようであり、奇妙な愛嬌すら感じさせた。

 

「別に取って喰ったりしないから落ち着け。

もう知っているようだが私はミラベル・ベレスフォード。

今年で2年になるスリザリンの生徒だ。貴様等は?」

「ミ、ミリセント・ブルストロード……同じく2年、スリザリン……です」

「パ、パンジー・パーキンソンです。そ、その、同じく2年生です、はい」

 

 ミリセントにパンジー……どちらも『知識』にある名前だ。

 だがどういった人物でどのような役割だったのかがさっぱり思い出せない。

 恐らくはマルフォイの腰巾着同様、大して重要ではないのだろう。

 

「ブルストロードにパーキンソン、か。ところでさっき穢れた血がどうとか聞こえたが……」

「い、いえ! それは決して貴女に向けた言葉じゃなくて! ハーマイオニー・グレンジャーの事です!」

「そ、そうそう! いくらミリセントでも貴女にそんな事言うわけありません!」

 

 ミラベルの問いに慌てて二人が弁解するが、そんなのは言われなくてもわかっている。

 最初にグレンジャー、という名前を聞いているしそれに血筋で言うならそもそもこちらの方が上だ。

 ベレスフォード家に勝る血筋などそれこそ魔法界でも極少数しか存在しないのである。

 

「わかっている。そうではなく、ハーマイオニー・グレンジャーの事だ」

「グレンジャーですか?」

「ああ。まず貴様等は何をもって“穢れた血”と呼んでいる?」

 

 穢れた血、とは魔法界でも禁忌とされる最大の侮辱の言葉だ。

 例えるならば黒人に対し「nigger」と言うのと同義の、人種差別的な侮蔑を意味する。

 故にホグワーツ生達もその言葉を使わないように気を付けているがスリザリン生だけは例外だ。

 特にマグル生まれでありながら優秀な成績を誇るハーマイオニーなどはその悪口の対象になり易く、スリザリン生が影でそう言っているのをミラベルも何度か聞いていた。

 

「え? そりゃあ勿論マグルの血が流れているからで……」

「ふむ。では何故マグルの血が流れていると穢れているのだ?」

「え? そ、それは……マグルは私達のように魔法を使えないし、選ばれた人間じゃないから……」

「ではそのマグル生まれでありながら魔法に秀でているグレンジャーはむしろ選ばれた人間と思えるが、それについてはどう思う?」

「え? ええと、それは、その……」

 

 ミラベルからの切り替えしに反論出来ず、しどろもどろになるパンジーに、小さく溜息をつく。

 なるほど、やはりこんなものか。結局、彼女は穢れた血、という言葉の意味もよく理解せず口にしていただけらしい。

 

「要するに、よくわからないんだな?」

「……は、はい……」

「周りが言っていたから、あるいは親にそう教育されたからオウムのように繰り返しているだけの借り物思想という事か」

 

 ミラベルは一度目を伏せ、憂いに満ちたような顔をする。

 そしてこの魔法界全体に浸透している純血思想を改めて厄介だと考えた。

 こんな子供達ですら、その言葉の本当の意味も理解せず軽々しく穢れた血という台詞を口にする。

 これを完全に取り除くのには一体どれだけの年月が必要となるのか……。

 

(根深いな……これでは仮に魔法界を支配しても意識改革に何年かかるかわからんぞ)

 

 純血思想の根深さと厄介さを改めて実感し、ミラベルは目を開けた。

 するとミリセントとパンジーが不思議そうな顔をしており、こちらに目を向けている。

 何か聞きたそうな感じだ。

 

「どうした?」

「あ、あの、ベレスフォードさんはマグルを穢れた血と思わないんですか?」

「別にどちらでも構わん。私にとって重要なのは優れているかそうでないかだ」

 

 パンジーの問いにミラベルは己の思想を語り、そこで言葉を切る。

 これ以上は語っても仕方の無い事だ。根元にある思想が正反対すぎる。

 どちらにせよ彼女達のような純血思想者はミラベルにとってただの排除対象であり、いずれ魔法界を支配した暁には纏めて粛清するべき塵芥に過ぎない。

 腐った枝は全て切り落とし、腐敗の原因も切除する。そうする事でようやく新たな世界への道が拓けるのだ。

 

 さしあたって、まずはその思想の元凶でもあるサラザール・スリザリン……彼の遺した下らぬ遺産だ。

 秘密の部屋に遺された、マグル生まれを殺す為の蛇、バジリスク。そんなものは自分が作る新世界に必要ない。

 肉の一片も残さず蹂躙し、その思想ごと踏み躙ってくれよう。

 スリザリン生がスリザリンの思想を否定し破壊し尽す。これ程愉快な事が他にあろうか?

 そう思い、ミラベルは一瞬だけ好戦的な笑みを浮かべた。

 

*

 

 今年の新入生組分けで最も周囲の目を引いたのはやはりシドニー・ベレスフォードだろう。

 腰まで届く美しい銀髪に晴れ渡った晴天のように鮮やかな空色の瞳。少女と見紛う程の中性的な美貌という際立った容姿もあるが、何よりの理由は姉であるミラベルの存在だ。

 何せ彼女ときたら去年の組分けの際にいきなり威圧感を発して周囲を黙らせ、トロールが来たらあっという間にスリザリン生全員を黙らせ、とにかく出鱈目な事ばかりしでかしている存在だ。

 その弟、とくれば注目を浴びないわけがない。

 姉同様にスリザリンに入るというのが大半の予想であったのだが、意外や意外、彼が入ったのはハッフルパフであった。

 無論その事に大半の生徒が安堵したのは言うまでもないだろう。

 何せこれで、少なくとも姉ほど過激な人物ではないと証明されたのだから。

 

 組分けが終わればその後は歓迎会だ。

 テーブルには無数の料理が並び、生徒達が新しい一年についての期待や不安を口々に話す。

 注目の的は何と言っても「闇の魔術に対する防衛術」の担当として新任したギルデロイ・ロックハートだ。

 かなりの数のファンがいるようで、女子生徒などは6割がその話題で盛り上がっている。

 そしてそれはスリザリン寮も例外ではなかった。

 

「ロックハート先生かあ……まさか本の著者自身が教師になるとはねえ。

なんだかもう、今からドキドキしてきたよ」

「なんだライナグル。貴様もロックハートのファンか?」

「まあ、ミリセント程じゃないけどね。どっちかというと物語の主人公ってイメージかな。

なんか実際に会えるのが信じられないみたいな、やってる事が凄すぎて現実味を感じないっていうか……」

 

 イーディスの話を聞きながらテーブルに並んだサンドイッチを手に取る。

 サンドイッチはイギリス発祥の食べ物の中では最も世界に親しまれている物だ。

 パンに具を挟むだけというシンプルながらいくらでも応用の効くこの食べ物は世界中の至る場所で見る事が出来、国ごとによってバリエーションも異なる。

 ミラベルはまずチキンを挟んだサンドイッチを手に取り、軽く齧り付いた。

 チキンの少ししつこい味をパンが和らげ、口の中で調和する。

 割と何を挟んでもそれなりに美味くなるのがサンドイッチの魅力だが、ミラベルの個人的な好みを言えば肉と野菜をバランスよく挟んだものが一番食べやすい。

 個人的な不満点をあげればパンの固いハードタイプばかりなのが気に食わない。

 ミラベルは日本などで普及している柔らかいソフトタイプを好むのだ。

 

「ふむ。その感想は正しいかも知れんぞ、ライナグル」

「え?」

「本の中に登場する『主人公・ロックハート』は現実には存在しないという事だ。

あれは多分に誇張や創作が入っている、ロックハートをモデルにしただけの実在しない人間だよ」

「え? でもロックハート先生は実在するし、それにあれは自身の体験を書いたもののはずでしょ?」

「だから誇張と言ったろう。ま、私の言葉が正しい事は奴自身が授業の中で証明するさ」

 

 フランスパンでベーコンとレタスを挟んだサンドイッチを咀嚼し、飲み込む。

 悪くはない……だがやはり自分の好みとは違うようだ。

 その他にもサンドイッチはあるが、無駄に肉ばかりを挟んだ物や生クリームが挟まれた物などが大半を占めており、手を出す気にもならなかった。

 

「そういや話は変わるけど、あのシドニーって子、ミラベルの弟でしょ?」

「ああ」

「姉弟揃って超美形とかどんなインチキよ……貴女の一族って皆そうなの?」

「そうでもない。私とシドニーは母親似だが、兄などは父親に似て厳つい顔つきをしている」

 

 ミラベルが言うように長男であるサイモンなどは明らかに線の細い美形、というタイプではない。

 かなり濃い顔立ちの悪人と見間違えられてしまいそうな顔だ。

 だがその実ベレスフォード家で一番繊細で傷つきやすいのだから人は見た目で判断出来ないものである。

 無論言うまでもなく一番図太く身勝手で、そして図々しいのがミラベルだ。

 

「そういう貴様の家庭はどうなのだ? ライナグル」

「私? 私は一人っ子だから何とも言えないなあ……ウィーズリーくらい大家族なら比較しようもあるんだけど」

「ウィーズリーか……そういえば、その末弟が車に乗って暴れ柳に飛び込んだらしいな。

あちこちで噂になっている」

「ああ、なんかハリー・ポッターも一緒だったんでしょ?

マルフォイがさっき嬉しそうに『これであいつらも退学だ』って触れ回ってたよ」

 

 一体どこからそんな噂が流れたのかはわからないが、ハリー・ポッターとその友人が空飛ぶ車に乗って登校してきた、というのはもはや周知の事実だ。

 普通ならこれは一発で退学にされてもおかしくない……むしろ退学にされて当たり前の大暴挙である。

 仮に同じ事をイーディスがやったのなら間違いなくその日のうちに荷造りをする羽目になるだろう。

 だがそこは魔法界の英雄ハリー・ポッター、ダンブルドアが最も目をかけている少年だ。

 多少の罰は免れないだろうが、友人共々無罪放免となるだろう。

 

「ミラベルはどうなると思う?」

「無罪放免に10ガリオン。貴様は?」

「何事もなく明日以降の授業に出て来るに10ガリオン」

「賭けにならんな」

 

 結局のところハリーが退学になる、と喜んでいるのはマルフォイだけのようだ。

 大半の生徒はハリーが許されると思っているし、事実そうなる。

 それほどまでに「生き残った男の子」のネームバリューは強いのだ。

 むしろ彼を退学などにしてしまったが最後、間違いなく魔法界全体からホグワーツに苦情が殺到するだろうし、ダンブルドアの校長室は「吼えメール」で埋め尽くされるのは間違いない。

 法律を無視して車に乗り、数人のマグルに目撃された挙句暴れ柳に突っ込んだとしても、その“程度”ではハリー・ポッターの偉業は打ち消せないのだ。

 

 その後デザートの糖蜜パイを食べ終わり、上級生牽引の元スリザリンの寮へと辿り着いた。

 相も変わらず陰気臭さ溢れる地下の談話室であるが慣れてしまえばそれなりに魅力的な場所となる。

 その談話室を見渡していると、イーディスが肩を叩き、笑顔を向けてきた。

 

「これから一年、またよろしくねミラベル」

「……ああ、そうだな。よろしくライナグル」

 

 まあ、こういうのも悪くない。そう思いミラベルは、珍しく偽りでも嘲笑でもない笑みをイーディスへと向けた。

 




(*M*)<オレハホクトシンケンデンショウシャジャギサマダァ!!
今回は特に見せ場はありませんでした。ちょっとした日常の一コマです。
ちなみにイーディスが初期プロットではダフネ・グリーングラスだったのはここだけの秘密。

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