皆様こんばんわ(2回目)
23時になりましたので、ミラベルもあまり動かない13話目をお送りします。
しかしどうでもいい事ですが、ヴォルデモートのAAの豊富さは何なのでしょうね。
インパクト絶大すぎて何やってても腹筋クルーシオしてきます。
一般住宅の並ぶマグノリア・クレセント通り。そこにはあからさまに不自然な、白い屋敷があった。
明らかに他の建物と一線を画す全高20mを超えるその屋敷を、しかし気に留める人間は一人もいない。
道行く人々全てが、まるでそれを当たり前の事と認識しているかのように通り過ぎていくのだ。
恐らくこの付近に住む人間でこの屋敷に違和感を感じる人物がいるとすれば、それはハリー・ポッターただ一人だろう。
それもそのはずで、これは魔法使いの別荘でありマグル避けの魔法がかけられているのだ。
だからこそロンドンにある『漏れ鍋』のように誰の目も引かずこうしてマグル達が住む町のド真ん中に堂々と建っていられるのである。
元々はベレスフォード家当主、ヒースコート・ベレスフォードが酔狂でマグルの街に作らせた別荘であったが、結局すぐに飽きてこうして町の中に放置されてしまったのがこの別荘の生い立ちである。
だが今、その誰もいないはずの屋敷に二人の人物が訪れていた。
「つまり貴様は何も知らない、という事か?」
リビングで椅子に座り、偉そうに足を組んでいるのはベレスフォード次期当主のミラベル・ベレスフォードだ。
彼女は従者に淹れさせた紅茶を一口飲み、「不味い」と呟く。
この従者は魔法使いとしてはそこそこの腕前だが、紅茶に関してはまだまだ練習が必要のようだ。
「そ、その通りで御座います、お嬢様」
紅茶を淹れたのは顔に包帯を巻いた若い男であった。
彼の名はクィリナス・クィレルといい、つい最近までホグワーツで「闇の魔術に対する防衛術」を教えていた元教師だ。
しかし学年末に賢者の石を巡ってミラベルと対立、敗北し忠誠の呪いをかけられて彼女の従者にされてしまったのだ。
「私が知っている事と言えばご主人さ……いえ、“例のあの人”が肉体を失っている事と、他の誰かに取り付かなければ霞のような状態になってしまう事くらいでして……」
「そんな状態で生きていられるとは、奴もつくづく化物だな」
クィレルは元・死喰い人だ。それ故何かヴォルデモートの弱みでも握っていないかと情報を聞き出してみたのだが、成果はサッパリだ。
やはり最近ヴォルデモート配下になったばかりの男では、重要な情報など何も握っていないという事らしい。
予想は出来ていたが失望しなかったといえば嘘になる。ミラベルは溜息をつき、従者の淹れた不味い紅茶をもう一口飲んだ。
「まあ、それなら仕方あるまい。ならばせめて知識を活かしてもらおう」
「知識、ですか?」
「ああ。ヴォルデモートの部下をやりながら教師をしていた貴様の事だ。法の裏をかくのは得意だろう?
後々、この屋敷はある儀式に使う。その時の為に魔法省の目を誤魔化す措置を施しておけ」
「え、ええ!?」
ミラベルはサラリと、当たり前のように言ったがこれはとんでもない無茶難題だ。
未成年の魔法使いには一人一人“匂い”があり、これのせいで魔法の行使が魔法省に筒抜けとなってしまう。
学校の外で魔法を使えばすぐに役人がすっとんでくるし、儀式など以ての外だ。
それをどうにかしろと、彼女はそう言ったわけだが、少しでも魔法省の知識を持つならば匙を投げてしまってもおかしくない難題であろう。
「やり方は任せる。一年以内に成し遂げろ」
「え!? あ、あの、出来なかった時は……!?」
クィレルの不安そうな声に、ミラベルは何も言わない。
ただぞっとするほど冷たい笑みだけを浮かべ、クィレルを一瞥した。
それを見てクィレルは悟った。
――出来なければ殺される!
この少女はある意味でヴォルデモートよりも残忍で冷酷だ。
使えない道具と判断されたら、何の惜しみもなく、壊れた玩具をゴミ箱に入れるかのような気軽さで捨てられてしまう!
それだけは避けねばならない。彼女に見捨てられてしまったら最後、自分の未来は死ぬ事すら出来ない蟲で決定してしまうのだから。
「い、一命を賭して必ずやご期待に応えてみせます!」
煙突飛行で実家に帰る彼女の背へ力強く宣言し、クィレルは屋敷から飛び出した。
猶予期間は一年!
その間に何としても主人の要望に応え、魔法省を誤魔化す手段を見つけなくてはならない!
己が人間であり続ける、その為に!
「蟲は嫌だあァァァァァ!!」
クィレルは走った。
まずはこの無茶苦茶な難題をこなし、何としてもあの幼い主人に認めてもらう!
それしか生き延びる道はない!
*
(……やけに気合が入っていたな、あいつ……)
実家に戻ったミラベルは先程の従者の必死な態度を振り返って不思議そうに首をかしげる。
実の所、今回の指示は一つのテストのようなもので別に出来る事はあまり期待していないし、自力でどうにかする方法はちゃんと考えている。
あれは単にどの程度の事が出来るのかを試す簡単な試験のようなものなのだ。
少しでも魔法省の目を晦ませる事が出来たら御の字。出来なくも軽いお仕置きだけを与えてそれで済ますつもりであった。
そこで安心させてやろうと笑みを向けてやったのだが、何故か逆にクィレルを追い詰めてしまったらしくミラベルは軽く困惑していた。
(まあ、やる気があるのはいい事だ)
気合を入れてくれるならそれに越した事はない。
そう自身を納得させ、ミラベルはリビングへと向かった。
そこには父と弟、そしてクリスマスの時にはいなかった次男が座っていた。
どうやら長男のサイモンはいないらしいが、どちらにせよミラベルにとってはどうでもいい人間だ。
「帰ってきたかミラベル。成績はどうだった?」
「ハリー・ポッターにしてやられましたね。最後の最後で寮杯の独占を阻止されました」
鞄を開け、成績が書かれた紙をテーブルの上に出す。
父はそれを手に取ると最初は難しそうに顔を引き締めていたが、だんだんと綻び、最後にはだらしなくにやけきっていた。
だがすぐに我に返ったらしく、オホンと咳払いをすると再び顔を引き締めた。
「全科目学年トップで寮への貢献点も126点……流石は我が娘だ。よくやったぞミラベル。
ところで、マルフォイの倅はどうだった?」
「成績全科目500点満点中427点、総合成績は27位とまずまず。寮への貢献は32点です」
「ふははは、そうかそうか。圧倒的ではないか我が娘は」
余談だがミラベルは全科目で満点を軽くオーバーしている為、500点満点中970点という意味不明な数字になっている。
これは主に実技で稼いだ得点で、すでに7年に匹敵する実力を備えていたからこその配点だ。
2位はハーマイオニーの614点だが、ミラベルに言わせればマグル生まれにも関わらずここまでの点数を取る彼女こそ侮れない猛者だ。
もし彼女が自分と同じく純血の家系で幼い頃から英才教育を受けていたなら、あるいは勝負はわからなかったかもしれない。
「寮杯の独占を逃したのは痛かったが、まあそこは仕方あるまいよ。
ところでミラベル、欲しい物はあるか? 何でも買ってやるぞ」
「……いえ、特には」
本音を言えば日本のスシやテンプラが欲しい所だが、流石にそれは無茶というものだ。
それにミラベルはすでに姿現しを使う事が出来るので、本当に食べたくなった時は自分で向かっている。
「ときにミラベル、来学期からはクィディッチが出来るらしいが」
「ええ。それが何か?」
「マルフォイの倅は出るのかね?」
「……まあ、出るのではないでしょうか。一年がチーム入り出来ないのを誰よりも悔しがってましたから」
またマルフォイか、とうんざりしながらミラベルはメイドの出した紅茶を飲む。
こちらはクィレルの淹れた物と違って普通に美味い。やはり紅茶はこうでなくては。
「ふむ、ならばお前もチーム入りしてマルフォイの倅を叩き潰してしまえ。
レオナルドに造らせたシルバーアローとお前の技量をもってすれば敵はいまい」
「父上……マルフォイは同じスリザリンなので私が活躍しても奴を喜ばせるだけです」
「むっ、そうか。ならば出なくてよろしい」
ミラベルにしてみればマルフォイなど正直どうでもいい相手だ。あんな甘やかされて育っただけの男では自分のライバルに成り得ないし、脅威になる事も未来永劫ない
むしろ自分のライバルとなる可能性を秘めているのはグリフィンドールのハーマイオニーやハリー・ポッターの方だ。
ハーマイオニーは言うまでもなくその頭脳と才能。ハリー・ポッターは爆発力。
どちらもまだミラベルの敵ではないが、このまま成長を続ければどうなるかわからない。
未来がなかなか楽しみな二人だ。
(ま、追いつく頃には私は更なる高みへと昇っているだろうがな)
1年目はダンブルドアの実力を読み違えて失敗した。
だがあの失敗により、自分の越えるべき高みが正確に見通せたのは僥倖だ。
低くはない頂だ……だが自分なら越えられる。
そうミラベルは確信し、紅茶を飲み干した。
*
煙突飛行を用いてダイアゴン横丁を訪れたミラベルは手元の紙を見て溜息をついた。
そこには今学期に必要とされる教科書の一覧が載っていたのだが、これがあまりにも酷い。
その大半がギルデロイ・ロックハート著の下らない本で埋められていたのだ。
小説として読む分にはともかく、こんなものが教科書として成立するとは思えない。
更にミラベルを不快にさせたのは、フローリシュ・アンド・ブロッツ書店にその本人がいた事だ。
彼はそこで迷惑にもサイン会などを開いており、中年の魔女が行列を作ってるせいで本を買うのにも一苦労だ。
ようやく本を買い揃えたミラベルは続いて夜の闇横丁へと踏み込んだ。
(何か面白い物でもあればいいのだが)
非合法の品を買うならばやはりボージン・アンド・バークス店が一番だ。
ミラベルは迷いなく薄汚れた路地を進み、小汚い店の中へと入っていく。
するとそこにはもう先客がいたようで、見覚えのある後姿が立っていた。
青白い顔に尖った顎、プラチナブロンドの髪。紛れもなくドラコ・マルフォイだ。
彼もミラベルの入店に気が付いたようで、「げえっ!」と声をあげている。
その隣には彼をそのまま大きくしたような男が立っており、一目で親子である事がわかった。
なるほど、あれがルシウス・マルフォイか。
「ベ、ベレスフォード! 何でお前がここに!」
「そう警戒するな。貴様などに用があって来たわけではない」
ドラコを無視してカウンターに行こうとするが、その道を塞ぐようにルシウスが立ち塞がった。
彼は値踏みするような目でミラベルを見下ろしており、ミラベルもまた挑発的な笑みを浮かべてルシウスを見上げる。
ルシウス本人は威圧感を出しているつもりなのだろうが、ダンブルドアに比べればまるで子供が凄んでいるようにしか感じられない。
それどころか逆にミラベルの出す覇気に呑まれてしまっている。
「君がベレスフォードの娘か。父上殿からかねがね、しつこい程に噂は聞いているよ。
大層、優れた魔女だそうだね?」
「ふ、私も貴方の事は聞いているぞルシウス・マルフォイ。
元死喰い人の分際で分不相応な地位に就いている賢しい男だとな」
二人の間で火花が散り、今にも杖を抜きそうな剣呑な空気が充満する。
一見すると対等に睨み合っているように見える構図だが、その実圧倒されているのはルシウスであった。
話には聞いていた。少女でありながらあまりにも尊大で不気味な威圧感を持つ小娘だと。
だが実際に相対してみて、まさかこれほどとは、とルシウスは唾を飲む。
これは何だ? 本当に息子と同い年の娘なのか?
まるで外見だけが少女の、別の何かと相対しているかのような恐ろしさすら感じるではないか。
なるほど……これでは息子の手に余るわけだ。
「君の父上は、目上に対する口の利き方も教えてくれなかったのかな?」
「父をよくご存知ならば、私が貴方に礼儀を払う道理がないと理解出来るはずだが?」
ちっ、と舌打ちをしルシウスは顔を歪める。
確かに彼女の言う通り、ベレスフォードがマルフォイに対して礼儀を払う事は有り得ないだろう。
何せヒースコートときたら、未だにルシウスをアズカバン送りにする事を諦めてはいないのだから。
まるで蛇のような執念深さで、今もルシウスが尻尾を出すのを待ち続けている。
あの鬱陶しい男は今でもルシウスを死喰い人だと考えているのだ。
「忌々しい一族が……ウィーズリーよりも性質が悪い」
ルシウスはこれ以上話したくもない、とばかりに背を向けて店から出て行った。
その後を慌ててドラコが追い、店にはミラベルと主人だけになる。
「あー……お嬢様、何かお買い求めで?」
店の主人である猫背の男、ボージンは黒い髪を撫で付けながら恐る恐るミラベルへと話しかける。
実の所商品を見に来ただけで、目ぼしい物がなければ帰るつもりであったが、あんな騒ぎを起こした以上何か買ってやるのもいいだろう。
そう思い、ミラベルは壁に立てかけてある不気味な仮面を手に取った。
気味の悪い石造りの仮面で、所々罅割れている。
前学期の石を巡る戦いでハリーに顔を焼かれてしまったクィレルへの土産に丁度いいかもしれない。
素顔も隠せて一石二鳥だ。
「おお、その仮面をお求めですね? それは認識阻害の魔法がかかった品で、被るだけで他人からは誰なのかわからなくなる不思議な物にございます。
まさに身分を隠すにはうってつけの一品かと」
「ふむ……それと、この手を頂こうか」
「おお、『銀色の手』ですね。これはほとんど本物の手と変わらぬ働きをしてくれるもので、義手として非常に高い評価を受けています」
クィレルは顔の他にも片腕をハリーに焼かれて喪失している。
ならばこれは義手代わりに丁度いい品だ。
少し高めの代金を支払い、そして品物を受け取って店を出た。
とりあえず入学前の買い物はこんなところでいいだろう。後は出発の日を待つだけだ。
問題は無能教師ロックハートくらいのものだが、叩き潰してしまえば今度こそ退学処分くらい受けるだろう。
気に食わないが、直接的な手段に出るのは控えておいた方がよさそうだ。
とりあえずロックハートの本は暇つぶし用の小説と割り切るしかない。
その後読んでみた感想としては、意外にも普通に面白かった。
案外あの男は魔法使いなどよりも小説家に向いているのではなかろうか。
クィレル「我が頭上に死兆星ががががが……」
(*M*)<モウイチドダケチャンスヲヤロウ
というわけで第2章、秘密の部屋編スタートしました。
今回はまだ学校に行かず、ほのぼのとした家族の団欒と買い物です。
あとミラベルが買った石仮面ですが、JOJOとは無関係です。よって被っても吸血鬼にはなりません。
ちなみに幕間の遠出は家族の団欒~買い物間の夏休みに行われた事です。
それではまた明日、お会いしましょう。