ハリー・ポッターと野望の少女   作:ウルトラ長男

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(*M*)<ヒャッハー
皆様こんばんわ。日曜はやる事なく家でゴロゴロしてるウルトラ長男です。
今回は賢者の石~秘密の部屋の間の夏休みをお送りします。
夏休みという事で遠出するミラベル。彼女が行き着いた先は……。

あ、それと今回は2本立てです。
忘れていなければ23時か24時辺りに13話投稿します。


ハリー・ポッターと秘密の部屋編
幕間 負け犬達の隠れ里


 魔法界の奥地に、とある隠れ里があった。

 日の光も射さない地下深くに存在するそこは、光に嫌われた者達が棲む場所だ。

 そんな里へと続く洞窟のような暗闇。そこを歩く一つの影があった。

 闇の中でも目立つ金色の髪を揺らし、ルーモスの光を頼りに歩くのは今年12歳を迎えたミラベル・ベレスフォードだ。

 服装は普段の制服ではなく、動き易い探検服に防暑帽まで被っており普段とは少しイメージが違う。

 別にこんなものをわざわざ着用しなくても魔法でどうにかなる事を考えれば、案外彼女は格好から入るタイプなのかもしれない。

 最低限の整備しかされていない道を迷いなく進み、道中に転がっている髑髏を踏み潰す。

 そんな彼女を遠巻きに見るのは、洞窟の天井に張りついた数匹もの蝙蝠。

 普段は侵入者……特に人間とあらば喜んで襲う獰猛な血吸い蝙蝠であったが、今現在少女に襲いかかる者はいない。

 それは、少女がこれまでに歩んできた道に転がる数十の同胞と同じ運命を辿りたくないからだ。

 遠巻きに自らを監視する蝙蝠を意にも介さず、ミラベルはやがて開けた場所へと到達した。

 辿り着いたそこは何ともジメジメした、辛気臭い村であった。

 

 陽光射さぬ地下の隠れ里。

 こんな所に棲む種族は限られている。

 いずれも闇に属する生物であり、大手を振って外を歩けぬ者達。

 中でも、ここに棲むのはかつて夜の王として恐怖の名を思いのままにした者達だ。

 

 ――吸血鬼。

 

 『夜の王』

 『ノスフェラトゥ』

 『ヴァンパイア』

 『ドラキュラ』

 

 恐怖の象徴であり、悪夢の化身。

 彼等はまさに伝説であり、その名を聞くだけで人々は震え上がった。

 限りなく不死に近く、滅ぼしても灰の中から蘇る。化物の中の化物。

 かつて彼等は、まさしく王者であった。

 

 ……しかし、それも今は昔の話。

 

 今では、物語の中やちょっとした伝記、そして稀の目撃情報としてのみ語られる時代の負け犬だ。

 ミラベルの持つ『原作知識』でもほとんど姿を現さず、名前だけの存在と化していた哀れな王の末裔達。

 ギルデロイ・ロックハートの書く自伝の中では便利なやられ役にされ、エルドレド・ウォープルという作家に使役され、その権威に伝説の面影は最早ない。

 

「……虚しいものだ。これがかつて夜を席巻した者達の末路とはな」

 

 侮蔑と、どこか哀れみを含む声でミラベルが呟く。

 こうして人目から逃げるように隠れ棲む様はまさに時代に置き去りにされた敗者そのものだ。

 恐怖の名はヴォルデモートに取られ、その存在意義すら霞んでいる。

 闇の生物を悉く己の配下に加えていたヴォルデモートだが、そんな彼が何故か吸血鬼を使役する事は一度としてなかった。

 その理由は、この里を見ればわかるというものだ。

 なるほど、これでは声をかける気にもならない。

 

「……この里に、何か用かな……お嬢さん」

 

 しばらく里を眺めていると、暗がりから一人の男が姿を現した。

 痩せこけた頬の、青白い顔をした男だ。

 口元からは鋭い牙が生えており、彼が人間で無い事を教えてくれる。

 しかしその顔にはまるで覇気がなく、虐げられた民衆を思わせた。

 

「貴様……吸血鬼か?」

「如何にも。そういう君は……名を上げにきた魔法使いかね?」

 

 死んだ魚のような目で、男はミラベルを見る。

 その眼には諦めと失意しかなかった。

 侵入者に対し怒りの一つも抱かず、ただ何もかもを諦めたように肩を落としている。

 そんな彼にミラベルは侮蔑の言葉を投げつける。

 

「はっ、貴様等など殺した所で何の自慢にもならんよ。

噛み付いて来る分、鼠の方がまだ手応えがあるというものだ」

 

 それは嘘偽りのない本音であった。

 かつては西洋に吸血鬼あり、とまで恐れられた恐怖の代名詞。

 マグルの世界では未だに創作物などに使われ、恐るべき存在として描かれる化物がこんな情けない負け犬などと、嘲笑を通り越して怒りすら沸いてくる。

 優れた力を持って生まれる、産まれながらの征服者。それが吸血鬼だ。

 なのにこの様は何だ。この落ちぶれようはどうした事だ。

 

「では、何をしに来たのか聞いてもいいかね……?」

「限りなく不死に近いと言われる貴様等の秘密が欲しい。

そうだな……腕の一本、それと牙。これを譲ってはもらえんか?

どうせ1日も経てば再生するだろう?」

 

 ミラベルは人間を超越して不死となる事を望んでいる。

 その方法として最も強力とされるのはやはり闇魔法の深遠たる『分霊箱』だが、ミラベルはこれを善しとしなかった。

 何故ならこれは魂を引き裂く行為であり、魂という己の存在そのものを著しく弱体化させてしまう。

 加えて容姿がそれに合わせて醜くなるのもまたミラベルには気に入らなかった。

 世界最高の芸術たる己を歪めるなど、彼女には我慢出来ないのだ。

 

 しかも分霊箱自体もそこまで絶対ではない。

 確かに箱自体が壊されなければ永久の命が約束されるが、逆を言えば箱そのものは無力だ。

 悪霊の火などの強力な魔法攻撃で容易く壊れてしまう。

 そこでミラベルが考えたのは数を増やす事だが、すぐに最大の愚行としてこの考えを排除した。

 分霊箱は魂を裂く。

 一回でさえ魂の大幅な弱体化を免れぬだろう行為。それを数回も繰り返せば、それはもう魂ですらない絞りカス同然の何かに成り下がるだろう。

 ミラベルはそう考え、分霊箱を真っ先に候補から除外した。

 

 故にミラベルが望むのは、己を一切弱体化させる事なき不死。

 魂を削る事無く、己という存在の一切を失う事なく。

 超然たる支配者に相応しい永遠を手に入れる。それが理想!

 そしてミラベルは吸血鬼という存在に、その鍵を見出した。

 故にここまで赴いたのだ。

 

「牙は、我等の誇りだ……そう簡単には渡せぬ」

「……ふっ」

 

 くたびれた吸血鬼の返答に、ミラベルが返したのは笑みであった。

 嘲笑ではない。

 どこか認めるような、そんな優しい笑みだ。

 

「安心したぞ。どうやら誇りを完全に失っているわけではなさそうだ」

 

 これで素直に牙を渡してくるならば、それこそ興醒めであった。

 そう、これでいい。

 上位種たるもの、最後の誇りを捨ててはならない。

 この反応をこそミラベルは期待していたのだ。

 

「ならば吸血鬼よ。だからこそ言おう。

貴様等が誇りをまだ持っているのならば……その誇り、この私に預けてみろ」

「……何?」

「貴様等はこのままでいいのか?

夜の王とまで謳われた一族が時代に置き去りにされ、こんな惨めな負け犬のままであっていいのか?」

 

 吸血鬼の名が堕ちた理由は、他の闇の一派が原因だ。

 吸魂鬼や死喰い人、そしてヴォルデモート。今や恐怖の代名詞は彼等に移っている。

 確かに吸血鬼は弱点の多い種族ではある。

 大蒜に弱く、流水を渡れず、日の光に弱く、十字架に弱い。

 白木の杭で滅ぼされ、銀の武器に浄化され、聖書に怯む。

 これでは人々が恐れなくなっても仕方が無い。

 だが、それを抜けば最も不死に近い一族である事に変わりはないのだ。

 そして、その不死に至る手軽さもまたミラベルの興味を惹いた。

 一体どういうプロセスを経ているのかは知らないが、吸血鬼に血を吸われるだけで同じ吸血鬼になるのだから、分霊箱などより余程リスクが少ないと言えるだろう。

 ならばそれを解明出来れば……あるいは、人工的に不死の生物を作り出す事も可能ではないか?

 それが、ミラベルが彼等の身体の一部と牙を欲する理由であった。

 

「いいわけがない……だが、仕方なかろう。それが時代の流れなのだ。

私達は、時代の波に乗り遅れてしまったのだよ」

「なるほど。ではその時代の波がもう一度来るとすればどうだ?」

「……何?」

「時代の波は再び訪れる。否、私が呼び起こす。

古き理念を排除し、新たな秩序と世界をこのミラベルが築き上げる。

その世界で、かつての威光を取り戻したいとは思わんか?」

 

 小娘の戯言だ。

 そう切り捨ててしまえばどれだけ楽だっただろう。

 だが彼女の言葉には不思議な力強さがあった。

 信じたくなるような、強烈な魅力があった。

 恐ろしい事だ……魅了の魔眼を持つはずの吸血鬼が、逆に人間の少女に魅了されようとしている。

 吸血鬼は無意識のうちにゴクリと唾を飲み込んでいた。

 

「まあ、今の段階では夢物語に過ぎぬと言われても仕方が無い。

そこでだ……こちらからも対価をくれてやる」

「対価、だと?」

「フフ……とぼける必要はない。先ほどから随分、物欲しそうな眼を向けているじゃあないか」

 

 ミラベルはわずかに微笑み、杖を用いずに切断の魔法を使う。

 すると右手の掌が裂け、そこから真紅の血液が溢れ出した。

 

「“これ”が欲しかったんだろう? なあ吸血鬼」

「……!」

「世界で最高の美と才能を持つ処女の生き血だ。貴様等にとっては御馳走だろうよ」

 

 自分で自分を世界最高、などと言ってしまうのはどうかと思うが、しかし否定する事は出来なかった。

 理性で抑えようと思っても目は血走り、喉が死ぬほどに乾く。

 だらしなく舌を垂らし、気付けばその真紅の液体に釘付けとなっていた。

 いけない、アレを飲んでは駄目だ。

 あれは悪魔との取引だ。引き返せぬ魔道への誘いだ。

 

「さあどうする? ここで誇りを失ったまま惨めに生き続けるか。

それとも誇りを私に預け、未来への道を切り拓くか。

私はどちらでも構わんぞ? 断るならば、力づくで奪い取るまでの話だからな」

 

 これは譲歩なのだ、と少女は語る。

 その気になればこんな取引などせずとも、強引に引き裂いて牙と腕をもぎ取って行く事くらい出来る。

 それをしないのは吸血鬼という種族への一定の敬意があるからだ、と。

 何と傲慢な言葉だろう。何と他者を省みぬ人間だろう。

 だがその強烈なまでの自尊心はかつての彼等をこそ思い起こさせた。

 夜を我が物顔で席巻した在りし日の吸血鬼。少女はまさに、かつての夜の王そのものであった。

 

 気付けば吸血鬼は舌を出し、与えられる血液を嚥下していた。

 まるで狗のように足元に平伏し、上から垂らされる血液を受け入れていたのだ。

 それを見てミラベルは、勝ち誇ったように言う。

 

「取引、成立だな?」

 

 久方ぶりの新鮮な血液で腹を満たした吸血鬼は小さく頷き、自らの腕を爪で切断した。

 続けて牙を引き抜き、その二つを少女へと献上する。

 ミラベルは黙ってそれを受け取ると魔法で氷漬けにし、満足そうに頷いた。

 

「確かに受け取った。協力に感謝するぞ」

 

 目的の物を手に入れた少女は、もう用はないとばかりに踵を返す。

 だが里の出口前まで歩いた所で慌てたように吸血鬼が呼びとめた。

 

「ま、待ってくれ! な、名前を、聞かせてくれ……」

「ミラベル・ベレスフォード……新たな秩序の名だ。

もし次の波に興味があるならば、いつでも私の元を訪ねるといい」

 

 それだけを告げ、少女は今度こそ隠れ里を後にした。

 残された吸血鬼は小さな背中を見送りながら、しかし新たな時代の到来を予感する。

 間違いない……時代の波はすぐそこまで迫って来ている。

 かつてのヴォルデモートと同等の、いや、あるいはそれ以上の黄金の波。

 恐らくは敵対するだろう全てを無慈悲に押し流し、彼女の言う古い秩序全てを崩壊させる津波のような革命。

 その到来を予感し、そして吸血鬼は少女が去った方向へと頭を垂れた。

 

 落ちぶれた自分達吸血鬼が再び立ち上がるべき時が来た。

 そう、彼は確信したのだ。

 




(*M*)<オレノナヲイッテミヲォ!!
というわけで夏休みの小旅行編でお送りしました。
ハリーポッターって読み返すと吸血鬼が存在してるのは確かなのに、全く出番がないんですよね。
唯一登場したのが6巻のサングィニのみで、ヴォルデモート配下にすらいません。
しかし設定の緩い『いる事だけは確か』な存在というのは私のような二次創作作者にとってはこの上ない材料です。何せどんな好き勝手に設定入れてもいいわけですし。
設定が『ない』ならッ! 『付けて』いいッ!
そんな結構適当な理由で吸血鬼登場となりました。

まあ実際ハリポタ界の吸血鬼ってそんな立場高くなさそうですよね。
出番が全くないわ、なんかあちこちで退治されてるっぽいわ、サングィニさんは凄い飢えて痩せこけてるわ。
一応倒す事自体が一種のステータスみたいな扱いなので、最低限の威厳はまだ残っているでしょうが。
そんなわけで落ちぶれた一族、というアホみたいに不遇な扱いにしてしまいました。

ちなみにイーディスですが、彼女は夏休みの間、適当に友達と遊んでいると思われます。
フォイフォイはクィディッチに向けて練習中に、たまたま通りかかった空飛ぶ車(ウィーズリー家)に撥ねられてフォーイしてるんじゃないでしょうか。

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