頭が痛い   作:orphan

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第2話

 目を開くとそこは……後頭部だった。

感覚としてはオッサンの言葉を最後まで聞き遂げた直後、瞬きを一度した後の事である。

白い雲の浮かぶ空を背景に人間が落ちてくる。

コートと言えば良いのだろうか――服飾について明るくない俺には分からない――ともかく上着を着てマフラーを首に巻いているそれは俺目掛けて落ちてきている。

 

「きゃあああああああああ!!」

 

 甲高い悲鳴。どうやら落ちてきているのは女性らしい事が分かる。

 

女性はパニックになっているのか着地姿勢を取ることもせず背中から落ちようとしている。

 

この時の俺は、今自分がどんな状況であるのか把握出来ていなかった。

俺は咄嗟の事に立ち上がることもしないまま、地面に背中を着けたままで女性に向かって手を伸ばす。

 

女性が落ちた距離は目測で五メートル強と言ったところ。足からならともかく背中や首、頭を地面に強打すれば怪我を負う事は免れないだろう。

少女を受け止めようと全身に力を込める。運動からは縁遠い生活を送っていたので体に自信は無いが、みたところ落ちてくる女性は小柄で体重も軽そうだ。受け止め方さえ間違えなければどうにかなりそうである。

万が一にも受け止め損ねないように、今までの人生で一度もしたことが無いほどに精神を集中させる。

落ちてくる女性の顔も知らないくせに、俺はなんでこんな事が出来るんだ?

 

くだらない考えが頭を過ぎる。僅かな時間に驚く程の思考が行われていることに驚くと共に余計な事を考えてしまっている自分に苛立つ。

もしかしたら落ちてくる女性は死んでしまうかも知れないのだ。その為に自分は全力を振るうべきであり、その為に全力を振るえない事は恥ずべきことだ。

 

頭の中が女性のことで一杯になっていく。

 

「え?!」

 

 驚いたのは女性についてではない。

 

女性の体を受け止めようとした瞬間感じたことが無いほどの強風が吹いて、女性の体を一瞬浮き上がらせたのだ。

 

驚愕に思考を凍らせた俺は、少女の体を捕まえるタイミングを完全に逃し、少女の体は無様に横たわったままの俺の体に着地した。

 

「うわっ!」

 

 女性の体を受け止めた時の衝撃が余りに軽く、虚をつかれて情けない声を挙げる俺。

どう考えてもその衝撃は少女自身の体重よりも軽かったのである。

 

「大丈夫?」

 

 とはいえ、俺の疑問よりも落ちてきた女性の方が重要だ。

女性の体が動いている事から意識が有るのを確認して声をかける。

 

「あっ…………あの……」

 

 女性――どちらかと言えば未だ少女か――は俺に声を掛けられるとびくりと肩を揺らして身を縮こまらせる。

発した声も聞き取れそうに無いほど小さく、たどたどして震えている。

 

「ごめん、取りあえずちょっと失礼」

 

 俺の体の上で硬直している少女に一言詫びて少女の体を持ち上げる。俺の体の上に乗っかった格好になったままでは少女も話し難いだろうし、貧弱な人間関係の中で生きてきた俺にとっても見ず知らずの少女と顔をつき合わせるような距離では話し難い。

俺が肩を掴んだ瞬間にひぃっと小さく悲鳴を挙げる少女。傷つかない訳でも躊躇しない訳でも無いが俺にとっても嬉しいことではないのだ。悲鳴を無視して少女の体を俺の横、地面に下ろした。

 

「ちょっとあんた。本屋ちゃんに何してんのよ!」

 

 どうにか少女と距離を置くことに成功して、溜息を吐いていると急に肩を掴まれて引き寄せられた。

 

「いっってえええ!」

 

 後ろから真っ直ぐに引っ張られると、当然人間の体は後ろを振り向くのではなく後ろに引き倒される。それもちょっと信じられないような馬鹿力で引き倒されれば、ちょっと信じられない速度で地面に後頭部をぶつけるのは当たり前の事である。

弛緩しきっていた俺にそれに抵抗するような余裕がある筈も無く、俺はあっけなく地面に後頭部をぶつけた。

 

「ちくしょおおおお。なんだ一体!? 一体何に襲われたんだああああ」

 

 我慢できずに叫びながら地面をのた打ち回る。衝撃的には金属バットの一撃に匹敵するだろうに痛みはそこまでの物ではない。金属バットなんかまともに食らったら悶絶すら出来ない筈なので衝撃の割りに痛みは少ない筈である。

 

「それにしたっていてええええええええ」

 

 もしかしたらオッサンの言っていた優れた肉体のお陰でそんなに痛く無かったのかもしれないが、その優れた肉体でこの痛みって事は普通だったら俺って死んでね? と軽く戦慄する。

 

「ちょっ、大丈夫? あんた」

 

 俺を引き倒したときと同じ声が俺に声をかけてきた。

 

「ふざけんなボケエエエエ! 痛がってんのが見えるだろうがああ」

 

「ボケってあんたそんな派手に痛がるほうがおかしいのよ。そんなに大した勢いで

ぶつかってないんだからそんなに痛いはず無いじゃない」

 

 どういう神経をしてるんだか知らないが、下手人に反省の色は全く見られないようだ。声の調子が完全に俺に対して怒っているものになっているのは一体全体どういう訳ですか?

後頭部の痛みがじんじんと内に染み込むような痛みに変わって、みっともなく声を荒げずに済むようになると今度は亀のように丸まって後頭部を抑える。

何処のどいつですかこんな凶行を行うのは。

 

「ちょっとアスナさん、あんな勢いで頭ぶつけたら痛いに決まってるじゃないですか。ええと、あの大丈夫ですか」

 

 もう一人、先ほど落ちてきた少女ではないだろうからまた別の三人目の人の声がする。

こちらはさっきのキツめの声の奴よりも幼い声だ。多分男じゃないだろうか。

 

「ああ、うん大丈夫。めちゃくちゃ痛いけど」

 

 必死に痛みを堪えて顔を上げる。痛くて痛くて涙が滲んでいて視界がはっきりしないが、目の前に落ちてきた少女と髪の長い少女、二人の少女より一回り以上小さい少年が居た。

 

「ほらアスナさん、とても痛いって言ってますよ」

 

「そ、そんなことよりあんた本屋ちゃんに何もしてないでしょうね」

 

 心配そうに俺の事を見ていた少年が、髪の長い少女の方に振り返ってそう言ったが、髪の長い少女は少し怯んだだけで直ぐに俺の方に話を逸らした。

 

「何の話だよ。俺はそこの子を受け止めただけ。なんか震えてて喋ってくれないから取りあえず退かす為に体に触りはしたけど、他意は無かったし他に何もしてねえよ」

 

「本当に何もされてない? 本屋ちゃん」

 

 髪の長い少女は丸きり俺の言うことを信じていないようで、落ちてきたほうの少女に確認をとっている。

 

後頭部は馬鹿でかいたんこぶが出来てきた代わりに痛みも引いてきて、痛みのほうもヒリヒリとしたものになっている。

漸く落ち着けた俺は地べたに座ったままとはいえ蹲った状態から姿勢を正して、足を広げるようにして少女達の方を向いた。

 

電光石火の出来事に完全に忘れてしまっていたが、俺はさっきまで自称神を名乗るオッサンと居て頭を掴まれていた。

 オッサンの口振りだと此処はもう俺の居た世界とは別の世界らしいんだが。

 

「っっっっっうっ」

 

 オッサンの事を思い出した途端に胃がせり上がってくるのを感じた。

 

オッサンの悪意に満ちた瞳が頭に浮かぶ。オッサンの殺意に包まれる感覚を思い出す。俺の視界を塞ぐ、オッサンの作り物染みた手の感触も、オッサンが唇に浮かべた冷笑も、俺を呪った言葉も、閃光の様に頭の中に焼きついて俺の頭の中をグルグルと駆け回る。

無重力空間にでも投げ出されたみたいな浮遊感と脱力感に体の制御が覚束ない。

 

それと同時に40度近い高熱に浮かされている時に立ち眩みがした時のような、高速で回転しながら自由落下していく視界。

 

「がっ」

 

 顔面、特に額が痛んだ。回り続けている視界がタイルの目のような物を映している。きっと腕の支えを失って顔を地面に打ち付けたんだろうと思った。

 

「ちょ、ちょっとあんた大丈夫? ねえ、ねえってば」

 

アスナと呼ばれていた髪の長い少女の声がする。他にも少年ととてもか細いが落ちてきた少女の声も。どうやら俺の事を心配してくれているらしい。

 

そうと分かっているのに今の俺にそれに反応する余裕は無い。顔の痛みもそうだが吐き気がまだ収まらない。オッサンの事を思い出した直後程ではないが、今も油断すれば逆流したものが口から飛び出しそうだ。

 

腹の中に物が入ってるかは謎だが、少なくとも胃酸は出てるらしい。食道を胃酸が逆流して慌てて閉じた口の中に溜まる。

胃酸独特の臭いと味、食道を溶かされる感触は極めてリアルで、オッサンと会う前と変わっていない。

 

ははは、死んだ後も生前と変わらない感覚があるなんて事が無い限り本当に俺は生きてるらしい。俺が死んだという確信も俺には有りはしないが、なんとなく今の自分が生きていることが実感されていく。

 

「ご、ごめんなさい。そんなに痛かったなんて思わなくて。ちょ、あんたどうしよう」

 

「どうしようって僕に言われてもわかりませんよー。とりあえず誰か呼んで来ましょう」

 

 俺が尋常な状態でない事に気付いたらしく、少女も少年も慌てている。髪の長い少女はさっきまでの詰問するような調子を潜めて謝罪の言葉を口にしたし、少年は自分の手には余ると判断して誰かを呼びに行こうとしている。もう一人の少女もやっぱりおろおろとして落ち着かない様子だ。

自分の症状が唯の吐き気であることが分かっていること俺は、少年を引きとめようとしたが口の中の液体は未だ健在である。仕方無しに少年の着ている服を掴んで注意を引き首を振って誰かを呼ぶ必要の無い事を知らせる。

 

「えっと首を振っているのは人を呼んでこなくて良いという事ですか?」

 

 巧い具合に少年がこちらの意図を理解してくれた。首を縦に振って肯定するが、しかし異論があるのかその声からは反意が篭っているような気がする。

 

「ちょっとそんな訳無いでしょ。急いで誰か呼んでこないと」

 

 少年の直ぐ傍から髪の長い少女の声がして、立ち上がろうとして靴が地面を擦る音がする。

 掴んでいた少年の服を離して、今度は少女を引き止める。確か少女は制服みたいな格好をしていてスカートを履いていたので、それには間違っても触れないようにして出来るだけ高い位置を掴む。

 

「ちょっと離しなさいよ。誰か呼んでくるから」

 

 少女の方も俺の言うことを聞く気はないらしい。俺を引きずって行こうとは流石にしないが、彼女の服を掴んでいる俺の手を離させようとしている。

なるほど先ほど俺を引き倒したときの威力に納得がいった。俺の手に触れる少女の指はほっそりとしていて手触りも良いが其処から発揮される握力は、その綺麗な指からは想像も着かない領域だ。

暫く少女を引きとめようとする俺と、俺の手を解かせようとする少女の間が硬直した。その間も強硬に首を振り続けると漸く少女も折れてくれたらしい。

 

「分かったわよ、誰も呼びに行かないわよ」

 

と言って膝を折った。

 その頃になると脱力も浮遊感も悪寒も眩暈も吐き気も収まってきて、俺は口の中の酸っぱい液体を胃に送り返した。

 

「はあっ…はあっ…はあっ…」

 

 途轍もなく気持ち悪い。普通嘔吐したってあんなに長い時間胃液が口の中に存在することは無いので当たり前だが、酸っぱかったり粘々した感触が残りもう語彙も表現力も足りていない俺では言い表すことの出来ない気持ち悪さだ。しかもちょっと痛い。

 

ふと背中を温かいものが往復している事に気付いた。

 

「えっ?」

 

 驚いた事に俺の背中を小さい手が撫でてくれていた。その手からは警戒心も気持ち悪がっている様子も感じられず、とても優しい感情が伝わってきている気がして手の触れている所からその周りへぽかぽかとした心地の良い熱が伝わっていく。

そのお陰で大分気分を持ち直した俺は、誰が俺の背中を撫でてくれているのか気になって、肩越しに後ろを見てみた。

すると少年と髪の長い少女とは俺の体を挟んで反対側に、落ちてきた少女が居て俺の背中を撫でさすってくれていた。俺の上に落ちてきた直後の怯えた様な様子も見せず、静かにその小さい手を使って俺の痛みや吐き気を和らげようとしてくれている。

余りの心地よさに吐き気などが収まっても、暫くそれを言い出す気になれず、悪いとも思ったが善意に甘えさせてもらうことにした。こういう優しさに触れたのも考えてみると随分と久しぶりの事で、体の不調のみならず俺の精神的な部分まで随分と癒された気がした。

 

「ありがとう。もう大丈夫」

 

「その……こちらこそ助けて頂いてありがとうございます」

 

 体を起して少女にお礼を言う。少女のほうも小さい声ではあったが御礼を返してくれた。

 

「そっちの二人もありがとう。結局断っちゃったけど助かったよ」

 

「いえ、僕は何も出来ませんでしたから」

 

「私も何もしてないから。………それに、悪かったわね急にあんな事しちゃって」

 

 反対側を見て少年と髪の長い少女にもお礼を言うと少年は謙遜を、少女はそっぽを向きながらであるが謙遜と謝罪で応えた。

 両者共に申し訳無さそうな顔をしているがこの二人から受けた直接的な被害なんて頭を打っただけの話で、でかいたんこぶ一つ拵えただけでピンピンしている以上気にするほどのことではない。それにこれが男だったら拳の一つでもお見舞いしてやるところだが相手が女の子じゃあ無理な話である。暴力なんて小学校以来振るってもいないし振るわれた覚えもないのである。

これ以上話を蒸し返すのは無意味だと思ったので話を変えようかとも思ったが、そもそもこの二人はどうして此処に居るんだろうか。

 

「結構痛かったけどアレはさっきのとは関係ないから気にしないで。ただちょっと激しく

気分の悪い事を思い出して吐きそうになっただけだから。ああ、でも今度からいきなりああいうことするのは控えたほうがいいかも」

 

 立ち上がって履いていたジーパンに着いた土やら埃を払いながらこう言うと、髪の長い少女はホッとしたようで胸を撫で下ろすような仕草をした。

 

「ホントに、こんなに嫌なドキドキを味わうのは一生で一度で十分だわ。もう二度としない。それに、さっきはごめん」

 

 冗談めかしたように言って笑いを浮かべる少女だが、もう一度今度は視線を合わせて謝った。

これ以上気に病まれても今度はこちらが困る。自分は間違っても今日初めて会った少女に頭を下げさせて悦に入るような性癖は持っていないことでもあるし。

 

「所で三人とも何か用でも有ったんじゃないかな。時間があればさっきの風の事とか聞きたいんだけど」

 

「そういえば……ん? 風……風…風。そうだ!」

 

「うわあっ!」

 

 小柄な少女の体とはいえ人一人持ち上げるような強風が吹くような現象は、台風以外に心当たりが全く無い。もしも日常的に起こるようなら対策を考えなければならないので、話のついでに聞いてみると髪の長い少女は途端に少年を脇に抱えて近くにあった林の中に消えてしまった。

 走り去っていった少年と少女を追いかける訳にもいかず、残された少女に話を振った。

 

「そ、その……私は本を図書館島に運んでいる途中なので…」

 

「図書館島?」

 

「え……、あの…大学部にある施設の事なんですけど」

 

「それっていうのは部外者でも利用して大丈夫なのかな?」

 

「は、はい図書館島は一般にも開放されているので利用は可能ですっ」

 

 一応返事はしてくれるようだが少女は落ち着かない様子だ。それでも反応が無かった先程よりもマシなので、多分これでも少しは慣れてくれたほうなんだろう。まあ、俺みたいな不審者かつ普通に不細工な顔の男に話しかけられてまともに会話をしてくれるだけ上等だろう。一応此処に至るまでの事情こそ分かってはいるがこれからの指針は何も無く、此処が異世界という事以外何一つ知っていることも無い。図書館という名前が付いているのだから地図くらい置いてありそうなのでこの子には悪いけど案内をお願いしよう。幸い、この子は気が小さそうだし頼んでも断られることはないだろ。とかなり汚い考えを巡らせ実行に移す。

 

「悪いけどその図書館島まで連れて行ってもらってもいいかな? そこを目指して歩いてたんだけど迷っちゃって途方に暮れてたところなんだよね」

 

「う……わ、分かりました」

 

 少女が言葉に詰まったところで駄目押しに「駄目かな」と言うと、如何にか了解してもらった。

 

辺りに散らばっていた本を一緒に拾って歩き出す。少女の後ろを歩くのは憚られたが、横を並んで歩くような関係ではないし案内してもらっているので前を歩くのは少しやりにくい。妥協案として余り怯えられない程度の距離を取ることにしてついていった。

 

道中無言で歩き続ける俺と少女。俺は歳の離れた人や女の子と話をしたりする機会に恵まれなかった人間で、それがダブルで襲ってくるとなると尚更そんな経験が無い。今時の女子高生――身長なんかからすると女子中学生かもしれない――がどんな話をするのか分からないし、この少女は物静かなタイプだしで話し掛けようとする勇気も湧いてこなかった。何故俺が物静かなタイプが苦手かというと、小中高と同じクラスにいた物静かなタイプには悉く相手にされなかったからだ。例えどんな挨拶をしようと、落ちていた消しゴムを拾おうとも一言も話したことがないのである。少女の方は何度かこちらを振り向くような仕草を見せているが、どうせ警戒されているだろうし。もう何一つ会話が発生する気がしない。

 

どうしようもないので少女との会話を諦めて景色を見て歩くことにする。どうやらこの街は外国の街並みを真似て造られたらしく、俺がいつも生活していたような日本らしい家並みとは全く違って見ているだけでも心躍るものがあった。路面電車が走っていたりするが見るのは初めてだし、そもそもこんなに規模の大きい学校を見たのも初めてだ。日の差し加減や少女が制服を着ていることからしてどうやら放課後のようで、ちらほらと下校している生徒や部活に行く途中の生徒などが居る。その中にスケボーやローラーブレードで下校しているというのは時代錯誤な気もするが。

しかし、俺の気を引くものはこれだけに留まらなかった。俺達の目的地である図書館島はなんと広大な湖に浮かんでいたのだ。島というのがイメージ出来なかったが成る程、本当に島だ。しかもかなりデカイ。陸から図書館島までの長い橋もそそられるものがある。

こんな調子で色んな物を目にしてテンションが上がったせいで、俺は小学生みたいに一つ一つ「うわあー、うわあー」なんて歓声を挙げながら歩いていて

 

「クスクスッ」

 

と前を歩く少女にも笑われてしまった。

 そこでやっと自分がどんな事をしているのかに気がついて俺は顔から火がつくほど恥ずかしかった。

 

「向こうに世界樹が見えますよ」

 

「世界樹ぅ?」

 

 俺の事を気にしてないという事なのか少女が進行方向とは反対側の方角を指差した。しかし俺は世界樹という言葉に驚いてそれ所ではない。今更だがあのオッサンの言うことを鵜呑みにすれば、今俺はオッサン以外の『誰か』が作った世界に居るわけで、俺は当然その『誰か』というのがオッサンの同類である他の神様とかなのかと思っていたが。もしかして、もしかしてその『誰か』というのは普通の人間で、異世界というのは創作されたお話の中の事だったりするのかもしれない。俺の知る限り世界樹なんてものが出てくる世界で、こんな街並みが存在するお話は一つだけ。まだまだその『誰か』というのがオッサン以外の神様である事が否定されてはいないが、あのオッサンは俺に苦しめなんて言っていた。

嫌な予感が、それも人生最大レベルの嫌な予感がする。自分の死を予感できなかった時点でそんな物が使い物にならない事は証明済みだが、それでも嫌な予感が治まらない。

 

「へ、変な事を聞くようだけどこの街の名前ってな、何かなー?」

 

 緊張の余り変な喋り方をしてしまったがそんな事を気にしている余裕はない。

何故なら

 

「こ、この街の名前ですか?………麻帆良学園都市ですけど」

 

 ここがネギまの世界であることに気付いたからだ。


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