真・女神転生 クロス   作:ダークボーイ

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PART60 DARK AND SYADOW(前編)

 

 二人の八雲が同時にソーコムピストルを相手に向け、トリガーを引く。

 放たれた銃弾が双方をかすめ、鮮血が飛び散るが双方構わずトリガーを引き続け、ほぼ同時に空になったマガジンをイジェクト、もう片方の手でGUMPを抜く。

 

『SUMMON』

 

 トリガーを引きながらショートカットコマンドを入力、GUMPの展開と同時に八雲のGUMPからケルベロスが、シャドウ八雲のGUMPから同じくケルベロス、だがモノクロ画像のように黒ずみ、目にはまったく光の無いシャドゥケルベロスが同時に咆哮を上げながら互いに食らいつく。

 

「何もかも同じかよ」

「さてね」

 

 左手にGUMPを握ったまま、二人の八雲は同時に銃からナイフに持ち替え、振るった刃が双方の間で何度も火花を散らす。

 

「そっくりで面白みが無いぞ」

「なにせ、あんたのシャドウだからな」

 

 二人の八雲は同時に後ろに飛び退り、ナイフを握ったままGUMPをタイプ、ありったけの仲魔を双方一斉召喚する。

 

「ケチってる余裕も無いか」

「そうしてほしいね」

 

 舌打ちする八雲に、シャドウ八雲は陰湿な笑みを浮かべる。

 

『フルアタック!』

 

 二人の八雲から同時に号令が出され、双方の仲魔が相手へと一斉に襲いかかった。

 

 

「すげえ………」

「何から何までそっくり………」

「気をつけろ、流れ弾が飛んでくるぞ!」

 

 特別課外活動部が二人の八雲の戦いを唖然として見ていたが、美鶴の警告と共に流れ弾や流れ魔法が飛び交う。

 

「おわぁ!」

「危なっ!」

「離れてろ、オレ相手だけにそっちまで気遣ってる余裕は無い」

 

八雲が一応警告しながら、腰の後ろに手を突っ込んだかと思うと、そこから複数の手榴弾をまとめて取り出したのを見てペルソナ使い達の顔色が一気に変わる。

 

「逃げろ!」

「周囲の被害考えてねえ!」

「マジか?」

「うぉい!?」

 

 ペルソナ使い達が我先に逃げ出し、敵対している勇と足立ですら驚愕する中、まとめてピンを引き抜いた八雲は手榴弾を投下、シャドウ八雲も顔を引きつらせ、間近の一つを弾こうとするが、その手を八雲はためらいなく撃ち抜き、続けての爆発がシャドウ八雲を襲う。

 

「え、えげつない………」

「自分相手にそこまで………」

「オレ相手なら遠慮する必要無いだろ」

 

 悠と啓人が呆然とする中、八雲は油断を解かず、爆炎が晴れるとそこからシャドウ八雲が姿を表す。

 

「そうだな、オレ相手だからな。それにしても躊躇が無さすぎだろう」

「オレがそんな余裕のある仕事してきたか?」

 

 負傷しているシャドウ八雲にシャドウジャンヌ・ダルクが回復魔法をかけるのを見ながら、八雲は再度構える。

 

「そろそろウォーミングアップはいいか」

「ああ、十分温まったしな」

 

 全く同じ、含みのある笑みを浮かべた二人の八雲が、再度激突した。

 

 

「予想以上にとんでもない男だね、彼」

「はっ! 修二、組む相手間違えたんじゃねえか?」

「そういうお前はどうなんだよ、勇!」

 

 足立が嘲笑気味に笑い、勇もそれに続く中、修二は拳に魔力を込めながら言い返す。

 

「足立さんの正体知ってて組んだって事か?」

「ロクでもない奴ってのはなんとなくな。殺人鬼とは思わなかったが」

「はっはっは、殺人鬼か~」

 

 悠も勇と足立を両方睨む中、当の二人は平然としている。

 

「詳細は後回しにしろ!」

「向こうの霧の中からシャドウ反応多数! 向かってきます!」

「思念体とかいうオバケもいっぱい出てくるクマ!」

 

 美鶴が一喝する中、風花とクマの報告通り、無数の敵が周囲を取り囲み始める。

 

「形勢逆転、って奴かな?」

「あまく見ねえ方がいいぞ」

「マハ・ブフーラ!」

「キャハハハハ!」

 

 ペルソナ使い達にシャドウと思念体が襲いかかろうとし、足立がほくそ笑むが勇の警告通り、カチーヤの氷結魔法がそれを阻み、ネミッサが笑いながらアールズロックを乱射する。

 

「あっちの白いのか黒いのかわからねえ二人に気をつけろ。とんでもない力持ってるらしいぞ」

「どうやらそうみたいだね………」

「円陣を組め! そっちの二人には実力者を向けろ!」

 

 カチーヤとネミッサを要注意と判断する足立と勇だったが、そこで己のシャドウと戦いながらの八雲の指示に、ペルソナ使い達が慌てて円陣を組み始める。

 

「勇はオレが抑える。雑魚を頼むぞ」

「大丈夫なのか? あいつって確か…」

 

 円陣に加わらず、勇と対峙する修二に純平が声をかけるが、修二は答えずに勇を睨みつける。

 

「友達がいがねえな、修二」

「お前の方こそだろ、勇」

 

 かつての友人同士は絶縁宣言とも取れる言葉と共に、激突する。

 修二が振りかざした拳が勇へと振り下ろされるが、勇の周囲の思念体が壁となってそれを阻む。

 

「腰が入ってないんじゃないか?」

「別のモンは入ってるぞ」

 

 ニヤリと笑う勇に、修二も笑うと握っていた拳を開き、そこから魔力の弾丸を打ち出す。

 

「がっ…!」

「手加減はナシだ!」

 

 思念体の壁を貫いた魔力の弾丸が直撃し、勇の体勢が崩れた所で修二は魔力の刀を作り出し、勇へとためらいなく振り下ろすが、とっさにかざした勇の手に思念体が瞬時に収束、先程よりも高密度の壁となって魔力の剣を受け止める。

 

「悪いな、お前がその体の使い方を熟知してるように、オレもこの体の使い方を覚えたんだな」

「そうみたいだな」

 

 修二は一度後方に跳んで離れると、一斉に仲魔を召喚する。

 対し、勇は漂う思念体を幾つか収束させ、それらは融合した思念体となって勇の周囲に浮遊する。

 更に勇は周囲に漂うマガツヒを引き寄せると、それは紅い剣となってその手に収まる。

 

「次はこっちから行くぜ。人修羅~!」

 

 勇は手にした紅剣を横薙ぎに振るうと、そこからマガツヒが溢れ出し、それは弾丸となって修二に襲いかかる。

 

「ベツリノアメ」

 

 半ば無造作に赤い剣を勇が振るう度にマガツヒの弾丸が飛び交い、一斉に修二と仲魔へと向かう。

 

「くっ!」

「人修羅!」「人修羅殿!」

 

 とっさに防御する修二に、仲魔のクィーンメイブとクー・フーリンもサポートに入る。

 

「まだまだ行くぜ、セキベツノヘキレキ!」

 

 勇が紅剣を一際大きく振るったかと思うと、刀身が半ばから折れ、折れた部分が長大化しながら高速の槍となって修二を襲う。

 

「避けろ人修羅!」

 

 仲魔のセイテンタイセイがとっさにかばおうと槍の軌道上に割り込むが、物理無効特性を持つはずのセイテンタイセイの体を槍は貫き、一撃で限界に達したセイテンタイセイの体が実体を保てなくなって帰還していく。

 

「こ、れは………」

「セイテンタイセイが一撃!? どんな特性だ!」

「さあな。自分で食らってみたらどうだ?」

 

 手持ちの仲魔でも強力なセイテンタイセイが一撃でやられた事に、修二の警戒はMAXになり、対して勇は笑みを浮かべながら、マガツヒを収束させて紅剣を再生させていく。

 

(さっきのをまた食らったらまずい! だったら!)

「間合いを詰めろ! あの剣を振らせるな!」

「承知!」

 

号令と共に修二がクー・フーリンと間合いを詰めて拳と槍が振るわれるが、それは勇の周囲を漂う融合思念体に阻まれる。

 

「!?」「これは!」

「カクゼツノカベ」

「自動防御かよ!」

 

 修二は拳を連続で放つが、その全てが漂う融合思念体に阻まれ、勇には届かない。

 

「どうした? 全然来ないぞ?」

「離れて人修羅! マハジオダイン!」

 

 嘲笑する勇に、クイーンメイヴが電撃魔法を放つが、即座に融合思念体が広がったかと思うと、魔法攻撃まで阻んでしまう。

 

「残念。そんなんじゃムスビは揺らがないぞ」

「戦闘でも引きこもりか、勇!」

「ああ、そうさ」

 

 絶対の盾に守られながら、勇は再び紅剣を振りかざす。

 

(まずい!)

 

 とっさに身構える修二だったが、その脇を通り過ぎる影が有った。

 

「ふっ!」

「アルテミシア!」『ブフダイン!』

「ちっ!」

 

 明彦の拳と美鶴の氷結魔法が繰り出され、勇は振りかざした紅剣を戻しながら後ろへと下がる。

 

「明彦さん! 美鶴さんも!」

「助太刀する」

「どうやらこいつはヨスガのリーダー並に危険な奴らしいしな」

 

 特別課外活動部でも有数の実力者の助太刀に、修二は気を取り直す。

 

「それと無敵なんてのは有り得ない。絶対どこかに隙があるはずだ」

「例えば、今こいつは攻撃と防御を同時にしなかった、とかな」

「………!」

 

 二人のペルソナ使いに指摘され、勇は無言で歯を噛みしめる。

 その歪んだ顔は指摘が正しい事を証明していた。

 

「攻め続けるぞ。ガードが下がった時がチャンスだ」

「そちらに合わせる。相手を休ませるな」

「おうよ! 行くぞ!」

 

 明彦と美鶴の助言を受けながら、修二は仲魔と共に再度勇へと攻撃態勢を取った。

 

 

「マガツイザナギ!」『マハジオダイン!』

 

 悠のペルソナ・イザナギとよく似た、だが色だけは赤黒い不吉な色をした足立のペルソナから強烈な電撃魔法が放たれる。

 

「くっ!」

「うわあっ!」

「きゃあ!」

 

 特別捜査隊がかろうじてこらえる中、足立はほくそ笑む。

 

「どうした? 君達はそんな物なのかな?」

「つ、強え………」

「これだけの力を隠していたとは………」

「ぐうう………」

「クマしっかり! 雪子回復を!」

「はい!」

「本気なんですね、足立さん………」

 

 皆がこらえるのがやっとの中、悠は絞り出すように声を吐き出す。

 

「本気? さあね。けど君らが思ってたほどじゃなさそうなのは確かさ」

「じゃあ、本気で行きます! イザナギ!」

 

 悠が己のペルソナで足立を狙うが、足立のペルソナはいともたやすくその一撃を弾く。

 

「ははっ、こんな物か」

「まだまだ! アバドン!」『アローシャワー!』

 

 悠はペルソナチェンジして攻撃を繰り出すが、それすら足立はたやすく弾く。

 

「だからその程度…!?」

 

 足立が余裕を浮かべかけるが、背後からの殺気にとっさにしゃがみ込み、先程まで彼が立っていた空間を二本の穂先が貫く。

 

「ちぇっ、チャンスだと思ったのに」

「こちらは、一切手加減無しでいかせてもらいます」

 

 突き出したカドゥケウスを戻しながらネミッサがぼやき、カチーヤが碧空双月を構え直しながら足立を睨む。

 

「さすがにそっちの二人は慣れてるね。ためらいなく背後から槍でぶっすりこようとするなんて」

「う~? ただ隙ありと思ったから」

「こちらも手段を選べるほど、優れた力を持ってるわけではないので」

 

 長柄武器を構える二人の魔女に、足立は警戒を強める。

 

「さすがにこっちは学生連中みたいにはいかないか………年齢はそう違わないみたいだけど」

「ネミッサ年齢なんて分からない」

「私一応成人してますが………」

「………これがマジモンの魔女って奴?」

 

 何気なしに呟いた事に相手が予想外の返答をしてきて、足立の頬が僅かにひきつる。

 

「ここは私達に任せてください。貴方達では力不足のようです」

「代わりに周りのうざいのよろしく」

「いや、オレも彼と戦います」

 

 足立と特別捜査隊の実力差を感じたカチーヤとネミッサが下がるよう促すが、悠は自ら前へと進み出る。

 

「おい相棒! やばいって!」

「センセイ! クマもそう思うクマ!」

「悪い、みんなは向こうを頼む」

「先輩! さっき散ったのがまた寄ってきた!」

「仕方有りません、足立警部は三人に任せましょう」

 

 慌てて洋介とクマが制止しようとするが、悠の決意は変わらず、そこへ思念体やシャドウが寄ってきた事に完二と直人はそちらに対峙する。

 

「さっきのビジョンクエスト、見たでしょ? 知ってる相手と戦うのは、きついわよ」

 

 足立に向けて剣を構える悠に、ネミッサが極めて珍しく、まともな警告をする。

 

「そうですね………けど、譲るわけにはいかない」

「そんなに君の叔父さんすら騙してたのが気に触ったかい? それとも…」

「黙れ」

 

 ふざけた態度のままの足立に、悠は静かに告げる。

 

「動機も言い訳も、あんたを倒してから聞く」

「おやおや、いっぱしのヒーロー気取りかな? 誰もがレッドやライダーになれる訳じゃ…」

「タナトス!」『五月雨斬り!』

「おわっ!?」

 

 嘲笑する足立に、横手から啓人のペルソナ攻撃が叩き込まれ、足立は慌てて己のペルソナで防御する。

 

「いきなりひどいなあ」

「話を聞く限り、あんたのしてきた事よりは大分マシみたいだけどね」

「啓人さん!」

「オレも助太刀する。色々と厄介な奴のようだから。それと、正義の味方になれるかどうかなんて、他人が決める事じゃない」

「…ええ!」

 

 うなずきながら、二人のペルソナ使いが並んで剣を構える。

 

「1対4か………流石に卑怯じゃないかな?」

「何言ってるの?」

「そんなモノを降ろしてる人に、数の違いは意味ないでしょう」

 

 こちらを取り囲む四人に足立がおどけるように言うが、ネミッサとカチーヤは相手の実力を見抜き、油断せずに隙を伺っていた。

 

「やれやれ、じゃあやるかな」

「逃さない!」

 

 やる気が無いようで、その実全身から瘴気を漏らす足立に、悠が飛び出しながら剣を振り下ろした。

 

 

「もう、なんなのこれ!」

「シャドウ、更に増加!」

「オバケも湧いてきてる!」

「来んな~!」

 

 ゆかりが風花を守るように弓を構える中、同じように雪子と千枝が次々押し寄せてくるシャドウと思念体に辟易していた。

 

「シャドウも思念体もそれ程強いのは来てない」

「でも数がやべえ! 凌ぎきれるか!?」

「なんとか凌がないと!」

「ワンワン!」

 

 チドリがペルソナでアナライズとジャミングを並列して周辺の敵にしかける中、順平が焦りながらも乾、コロマルと共にチドリの周りを囲みながら奮戦する。

 

「全方位、全て敵で有ります」

「見れば分かるで!」

「姉さんに近寄るな!」

「とにかく、今はあちらの戦闘に近寄らせないようにしないといけません!」

「下手に近づくとこっちも巻き添え食うぞ!」

「それが一番困るクマ!」

 

 アイギス、ラビリス、メティスのロボ三姉妹に直斗と完二、クマが加わり、三種の激戦を繰り広げている所に雑魚が近寄らないようにと奮戦を繰り広げていた。

 

「りせちゃん! こちらクマ! こっちはすごい事なってるクマ! そっちは!?」

『クマ! こっちもやばい! 下からヨスガ、上からシャドウで挟み撃ちにされないように頑張ってる所! 悪いけど増援とか無理!! つうかそっち早くして!』

 

 クマの状況確認に、下に残っていたりせから悲鳴じみた返信が届く。

 

「恐らくは、下階のヨスガとの戦闘がこのタルタロスに何らかの影響を与え、シャドウが活性化しているのかもしれません」

「解析は後や! どないしたら収まるん!?」

「戦闘が影響してるのなら、戦闘行動を一刻も早く終了させるしか」

「出来るの?」

 

 直斗の推測に、ラビリスとメティスがもっともな意見を言うが、その間も絶え間なく戦闘は続いていた。

 

「どうやっても無理だろ! あっちのヘッドクラスのが終わらねえと!」

「その通りであります。しかし…」

 

 完二が持ち前の腕力とペルソナで敵を薙ぎ払う中、アイギスが両手のマシンガンを連射しながら向こうで繰り広げられる、こちら以上の三様の激戦の方を確認していた。

 

 

 二人の八雲が手にしたナイフが、鍔迫り合いで拮抗する。

 その周囲では、双方の仲魔が死闘を繰り広げていた。

 膠着状態から、同時に二人の八雲はナイフを弾いて離れ、片方はもう一人へと向かって空いている手を突き出し、もう片方は懐から攻撃アイテムをばら撒く。

 仕込まれていたトラッパーガンがコロナシェルを発射するのと、攻撃アイテムの炸裂はほぼ同時。

 跳んだのか飛ばされたのか、二人の八雲が後ろに転がるが体勢を即座に立て直す。

 

「仕込みまで一緒か」

「まあね」

 

 とっさにコロナシェルをかわした八雲が、攻撃アイテムの余波で僅かに焦げているシャドウ八雲を見る。

 それに続くように、双方の仲魔が離れて互いの主を取り囲む。

 

「これじゃあなかなか勝負はつかないな」

「そう思うか?」

 

 ほくそ笑むシャドウ八雲に、八雲は相手の仲魔を見ながらある事を感じていた。

 

「そろそろ、本気を出したらどうだ? デビルサマナーのフリなんてめんどくさいだけだろ」

「なぜそう思う?」

 

 八雲の指摘にシャドウ八雲が小首を傾げて見せるが、八雲は指で懐のGUMPホルスターを指差す。

 何気にシャドウ八雲が己の懐を見た時、そこにライアットボムを食らって焦げている己のGUMPに気付いた。

 

「GUMPが破壊されて、仲魔がそこまで言う事聞くと思うか? それ以前にお前はオレのシャドウだが、仲魔のシャドウじゃない」

「くく、くくく………さすが。じゃあサマナーごっこはここまでだ」

 

シャドウ八雲は先程までとは比べ物にならない邪悪な笑みを浮かべると、焦げたGUMPを無造作に投げ捨てる。

 乾いた音を立てて地面にぶつかったGUMPは割れて散らばるかと思った瞬間、更に粉々になってチリとなって消え去る。

 そしてシャドウ八雲は無造作に両脇にいるシャドウ仲魔を掴んだかと思うと、手と仲魔が融合していく。

 

「召喚士殿、これは!」

「グルルル………」

 

 八雲の仲魔達もその異様な光景に驚く中、手のみならず、シャドウ八雲の体の各所がシャドウ仲魔と融合していき、その体が巨大化していく。

 

「随分鍛え直したな」

「いいや、これが君だよ」

 

 八雲が見上げるほどに巨大になり、仲魔の姿を残したまま完全に融合した異形の姿と化したシャドウ八雲が顔だけはそのままに八雲を見る。

 

「そこまで体重は無いぞ」

「ふふ、そうやってごまかすのも大概にしたらどうだ? デビルサマナーなんてしょせん悪魔の力を借りないと何も出来ない。厄介な仕事ばかり回されて、いつも危険な事ばかりだろ? 命がけの割にしょぼいギャラで。もっと有意義に使いたい、いつもそう考えてるだろ?」

 

 異形の姿で見下ろしながら、顔だけを近づけつつシャドウ八雲は八雲へと語りかける。

 対して八雲は無言で銃口をシャドウ八雲の顎へと押し付け、無造作にトリガーを引いた。

 弾丸が頭部を貫き、頭頂部へと抜け鮮血が降り注ぐが、シャドウ八雲はわずかに顔をしかめて八雲を見つめる。

 

「自分相手にいきなりこれか。それとも図星を刺されたか?」

「ちっ、もうこの程度じゃ死なないか」

 

 頭頂からの鮮血が顔面を染めていく中、シャドウ八雲は歪めるような笑みを浮かべ、対して八雲は舌打ちする。

 

「どうやら、お互い言葉じゃ分からないようだ」

「ハナからだろ。そもそもそれが話し合いの体勢か?」

「それもそうだ」

 

 言うや否やシャドウ八雲がケルベロスと一体化した腕を突き出すと、そこから黒い炎が吐き出される。

 

「散れ!」

 

 八雲の指示を待つまでもなく、仲魔が一斉に黒い炎を回避する。

 

「ジャンヌありったけの補助、カーリーとオベロンは撹乱、ケルベロスとミズチは融合した所を順次始末する。行くぞ」

『オウ!』

 

 八雲の声と共に仲魔達が一斉に動き出した。

 

 

「ぐぬぬぬ………」

「ちいいい………」

 

 渾身の力を込めて拳を突き出そうとする修二に、勇もありったけのマガツヒを使って防壁でそれを阻む。

 

「力を緩めるな! 防御はこちらで受け持つ!」

「ガードが下がりかけてる! チャンスだ!」

 

 勇の防御をしていた融合思念体を、美鶴と明彦がそれぞれなんとか抑え込みながら修二に檄を飛ばす。

 

「分かってるけど………!」

「そう簡単には………させねえぞ!」

 

 互いに他に手の打てない膠着状態が続く中、修二は必死にどうするべきか考えていた。

 

(仲魔もほとんどやられた、残ったのは雑魚の相手で手一杯、オレがどうにかするしか………)

 

 思考に気を取られた間に、押し返されそうになった修二は思考を中断して再度拳に力を込める。

 

(出来るか! オレは小次郎やフリンみてえに化け物みてえな実力も無ければ、八雲さんみたいな頭と仕込みも無ね! なんでか悪魔になっちまっただけだ!)

「ふぬぬぬ………!」

「気張るな………オイ!」

 

 気合を入れて拳を押し戻す修二に、勇が疲労か緊張か、額から汗を滴らせながら悪態をつく。

 

「人修羅、今からでもこっちに来ないか? お前ならムスビの守護者になれる。オレとムスビの世界を創生するのはどうだ?」

「千晶も、お前も、てめえの都合しか考えねえな! 答えは…これだ!」

 

 そこで突然修二は拳に込めていた力を緩める。

 反動で拳が防壁に半ば吹き飛ばされる中、修二はそれを気にせず、残った魔力を込めた頭突きを勇の顔面へと叩き込んだ。

 

「がっ………マジか………」

 

 予想外の攻撃に勇が陥没した鼻から血を垂れ流しながら地面に倒れ込む。

 

「そうだ、オレは人修羅。悪魔になりきれねえ半端者だ。だからこそ、そんな人が人じゃなくなっちまうような世界には絶対させねえ!」

「は、はは………それがお前なりのコトワリか………残念だったな!」

 

 ひしゃげた顔のまま、勇が両腕を左右へと付き出すと、そこに周辺を漂っていたおびただしいマガツヒが一気に集まっていく。

 

「ここに漂っていた奴と、ここでの戦いで生じた奴、こんだけあれば充分だ。呼ぶぜ、ムスビの守護を!」

「しまった!」「時間稼ぎか!」

 

 自分達が相手していた融合思念体も勇の方へと集結していくのを見た美鶴と明彦も、勇の目的を悟る。

 

「まずい、召喚が成立する!」

「下手に手出すと、巻き込まれるぜ」

 

 僅かに手を止めた八雲とシャドウ八雲が、同時に警告を発する。

 

「あは、あははは! 神様ってこう呼ぶんだ! すごいな!」

「ど、どうすれば!?」

「分からない! 最悪、神様とやらと戦う事になる」

「封印、結界、間に合わない!」

「その前にこいつ抑えとかないと!」

 

 膨大なマガツヒが集っていく様に足立が思わず哄笑し、悠と啓人が慌て、カチーヤが何か手がないかと考えるが、ネミッサの言う通り、足立を置いて打てる手は無かった。

 

「す、すごいエネルギーが更にすごい何かを呼んでます! 本当に神とかいうのが来るのかもしれません!」

「すっごいやばいクマ!」

「これはもう私のペルソナでも抑えられない」

「来るなら来い! こっちはあの世まで行ったんだ、今更神様なんて怖くねえ!」

「そっちのペルソナ使いってタフだね………」

「彼女の前だからカッコつけてるだけじゃない?」

 

 風花、クマ、チドリの三人がそろって最大級の警戒を発する中、順平が気合を入れるのを見た千枝とゆかりが思わず軽口を叩く。

 

「オルギア発動の準備を」

「いつでも行けるよ姉さん」

「あれが固着したら、一斉に仕掛けるで」

 

 自前のセンサーで召喚前よりも後を狙うべきと判断したロボ三姉妹が、それぞれ獲物を構えながらオルギアの準備をする。

そんな中、膨大なマガツヒが勇を中心に渦巻き、何かを呼び出していく。

 

「まずい、マジで神格レベルか………」

 

 GUMPからマックスレベルの警告音が鳴り響くのを聞きながら、八雲は状況の悪化とその対処を思案するが、それよりも早く動く者がいた。

 

「うおおおおぉぉお!!」

 

 修二が将門公から授かったマガタマを飲み込むと、全身全霊の力を込め、咆哮と共に今しも守護を呼び出さんとする勇へと殴りかかる。

 

「馬鹿………!! 全員伏せろ!」

「すごい事になるな」

 

 八雲が思わず叫び、シャドウ八雲ですら防御体勢を取る。

 

「え? 何?」

「危ない!」「ヤバい!」

 

 足立が思わず首をかしげるが、カチーヤとネミッサが率先して伏せた事にペルソナ使い達は一斉に続く。

 直後、すさまじいエネルギーが渦巻く中を修二の拳が貫き、その中心にいる勇へと突き刺さる。

 

「おおおおぉぉ………!」

 

何も考えず、修二は文字通り全ての力を拳へと注ぎ込む。

 直後、何かを呼び出そうとしたエネルギーはその媒介である勇が力を失い、一気に拡散する。

 拠り所を失ったエネルギーは行き場を失い、周辺に凄まじい嵐となって吹き荒れた。

 

「うわああ!」

「何だこれ!?」

「神を呼ぶ程の力が暴走を始めたんです!」

「大丈夫、これくらいならすぐ治まる!」

 

 顔も上げられない嵐に、あちこちから悲鳴が響くが、カチーヤとネミッサが説明しながら収まるのを待つ。

 やがて嵐は唐突に収まり、皆が恐る恐る顔を上げる。

 見えたのは、拳を突き出したままの体勢で、全身におびただしい傷を負った修二と、その拳で胸を貫かれ、口から鮮血を吐き出す勇の姿だった。

 

「英草!」

「なんて無茶を! 今回復する!」

 

 一番間近にいた明彦と美鶴が、全身から鮮血を滴らせる修二に大慌てで救護に入るが、修二は残った手でそれを少し制す。

 

「は、はは………やれば出来るじゃねえか………」

 

 力を失い、修二へともたれかかりながら勇が呟く。

 

「勇………オレは………」

「分かってるよ………オレを止めたかったんだろ………」

 

 先程までとは打って変わった、おだやかな声で勇は修二に話し続ける。

 

「そうか………お前は最初から………世界を取り戻すためだけに………戦ってたのか………・」

「オレは………オレは!」

「そいつがお前のコトワリだ………あとは気にする…」

 

 最後まで言わず、勇の体から完全に力が失われる。

 うなだれた頭からトレードマークの帽子が地面へとこぼれ落ちた。

 突き刺さったままだった拳をゆっくり引き抜き、不思議と穏やかな勇の顔を見ながら、修二がその場に崩れ落ちる。

 

「まずい! 回復を!」

「ゆかり! 手伝ってくれ!」

「は、はい!」

 

 明彦が慌てて修二の体を支え、美鶴がゆかりと二人がかりで回復魔法を掛けてやる。

 そんな中、リーダーを失ったムスビの思念体達は互いに聞こえるかどうかの囁きで何かを話していたが、ほどなく霧散するようにその場から離れていく。

 

「オバケ達が………」

「消えてく?」

「思念体、拡散していきます。中核だった人物を失って、力其の物を失った模様です」

 

 思念体が引いていく事に雪子と千枝が唖然とするが、風花はアナライズして最早思念体に戦う意思も力も無い事を確認する。

 

「ちっ、何が創世だ。あっさりやられちまった」

「観念しろ! もうムスビの援護は無い!」

「それとも…」

 

 それらを見て舌打ちする足立に、啓人は警告を発するが、悠はそれに続けようとして思わず言葉を飲み込む。

 お前もああなりたいかという言葉を。

 

「けど、お友達は重傷のようだね。痛み分けって所かな?」

 

 足立に指摘され、悠は横目で修二の方を見るが、そこでは回復魔法やありったけの回復アイテムを使って皆が治癒している様子が見て取れた。

 

「あちらは任せよう。今はこいつだ」

「ええ………」

「任せる、か。随分お友達を信じてるんだな。だけど…!?」

 

 言葉の半ばで、突然足立が崩れるように膝をつく。

 

「足立………さん?」

「近づかない方がいい。フリかもしれない」

 

 予想外の事に悠がたじろぐが、啓人は警戒して距離を取る。

 しかし、そこから更に予想外の事が起きようとしていた。

 

「!? マガツヒが足立警部に集まっていきます!」

「どういう事だよ!?」

「いけない、これはさっきのと一緒」

 

 風花のアナライズに順平が思わず問うが、チドリが独自にそれが先程の守護召喚と類似している事に気付く。

 

「! ネミッサ、カチーヤ、そいつを殺れ! 何か喚ぶぞ!」

 

 シャドウ八雲と激戦中の八雲が、GUMPから再度鳴り響く警告音に振り向きもせずに叫ぶ。

 

「いい加減にくたばれ!」

「させません!」

 

 ネミッサとカチーヤが同時に穂先を繰り出すが、それは足立に突き刺さる目前に弾かれる。

 

「これって!」「この人、何かに憑依されてる! 恐らく最初から!」

 

 すでにもう何かが足立に降りている事に二人は気付き、慌てて距離を取る。

 

「どういう事!?」

「こいつ、利用されてただけ!」

「恐らく、マヨナカテレビの真の支配者に………」

「真の、支配者?」

 

 千枝と雪子がネミッサとカチーヤの説明に困惑する。

 そんな中、足立の体が漆黒へと染まっていった。

 その体が突然虚空へと浮かび上がる。

 

『人間は…ことごとくシャドウとなる。そして平らかにひとつとなった世界に、秩序の主として、私が降りるのだ』

「なんか訳のわかんねえ事言ってるぞ!」

「でも、なんかやべえ………」

「これは、まずいです! そいつはコトワリを持っている! それがカグツチを開放すれば、全てがシャドウの世界になってしまいます!」

 

 洋介と完二が足立の口を借りてしゃべる者に警戒するが、直斗はその言葉の意味をいち早く理解していた。

 

『こちら側も向こう側も…共に程なく二度とは晴れぬ霧に閉ざされる。人に望まれた、穏やかなりし世界だ………』

「そんなの望んでないわよ!」

「いや、望んでいた奴がいた。つい先程まで…」

 

 謎の存在にゆかりが思わず怒鳴るが、美鶴は勇の亡骸の方を見る。

 

『私は…アメノサギリ。霧を総べしもの。人の意に呼び起こされしもの。お前達が何者をくじこうとも、世界の侵食は止まらない。もはや全ては時の問題…お前達は、大衆の意思を煽り、熱狂させる…良い役者であった。…が、それも終わりだ。すぐにもシャドウとなり、現実を忘れ、霧の闇の中で蠢く存在となるであろう…』

「何モンだテメー!?…なんでこんな事すんだよ!?」

『私は人を望みの前途へと導く者。人自らが虚構と現との区別を否とした。心の平らかを望めど、現実では叶わぬゆえだ…そう、人自らがこうなる事を望んだのだ。我が望みは人の望み。それゆえ私は、こちらの世界を膨張させると決めた…』

「耳を貸すな! どうせその手の奴はろくな事を言わん! 聞くだけ無駄だ!」

「そうだね。討論の時間は終わりか?」

 

 アメノサギリの言葉を八雲が強引に中断させるが、シャドウ八雲はほくそ笑むだけだった。

 

『新しく不確かな覚醒…果たしてそれは賭けるに足る、人の可能性であるのか…見極めねばならない………』

 

 そう言うや否や、足立の体から闇が溢れ出し、溶け込んでいく。

 そして地鳴りと共に、闇の中から巨大な何かが姿を表す。

 それは巨大な目玉だった。

 全身から生えたパイプのような物から霧を吐き出し続けるそれは、巨大なまぶたを開き、その場にいる者達を見る。

 

「これが…霧を生んでいたものの正体…」

『そう…私はお前達を試さなければならない』

「カチーヤちゃん!」「はいネミッサさん!」『アブソリュート・ゼロ!!』

 

 正体を表したアメノサギリに、ネミッサとカチーヤが先制攻撃とばかりに強烈な氷結魔法を叩き込む。

 

「うだうだとウッサイ! こっちはまだやる事溜まってんの!」

「これは今ここで倒さないと、必ず危険な事になります!」

「出し惜しみナシね!」

 

 相手を有数の危険要素と判断し、ネミッサは光球となってカチーヤに憑依、互いの魔力を全開にする。

 

「合体した!?」

「そういう特技らしいわよ」

「周辺のシャドウもアメノサギリに集まっていきます! 極めて危険です!」

「話が簡単になっていい。あいつを倒せば一区切りになる」

「ええ! 知ってる人と戦うよりはずっとマシだ!」

 

 皆がまだ困惑する中、啓人と悠が前へと立ち、その場のペルソナ使い達が皆でアメノサギリへと対峙する。

 

「てめえは行かないのか?」

「必要あると思うか?」

「ちっ、てめえもあれの一部か」

 

 増援に行きたいが、シャドウ八雲と完全に拮抗状態の八雲が歯噛みしながらも、銃のマガジンを交換する。

 

(マジモンの神格レベル、あいつらの手に負えるか? だが…)

 

 シャドウ八雲の各所から、仲魔の物と同質の剣戟や槍が矢継ぎ早に繰り出され、八雲は回避に専念さざるを得なくなる。

 

(影響を受けたのか、こっちの力も上がってやがる………どうする?)

「向こうは大変だな。学生連中にアレの相手が出来るかな?」

「カチーヤとネミッサもいる。どうにかしてもらうさ。お前を放置していける状態でもないしな」

「じゃあ、どうする?」

「速攻で行かせてもらう」

 

八雲はナイフを手にし、仲魔にハンドサインを送る。

 

「ダイレクトアタック」

 

 声と同時に、八雲が仲魔達と一斉にシャドウ八雲へと突撃していく。

 

「特攻か!? オレの癖にワンパターンだな!」

 

 シャドウ八雲が嘲笑しながら、仲魔と融合している異形の体を振りかざす。

 だが八雲の仲魔達がいち早く反応する。

 炎を吐き出そうとしたシャドウケルベロスにケルベロスが噛み付き、それを阻止。

 振りかざされた複数の剣をジャンヌ・ダルクとカーリーが受け止める。

 魔法攻撃が繰り出されようとするのを、オベロンとミズチが相殺させて防ぐ。

 仲魔達の援護を受け、八雲は一気に飛び込むとシャドウ八雲にナイフを突き刺した。

 

「今更その程度で、オレが倒せるとでも?」

「思うわけないだろ」

 

 嘲笑するシャドウ八雲に、八雲も笑みを返すと、ナイフを突き刺したままソーコムピストルを抜く。

 

「ケルベロス」

 

 八雲の指示と同時にケルベロスが牙を外して離れ、同時にシャドウケルベロスの部分に八雲が弾丸を撃ち込み、内包されていた凍結魔法が炸裂する。

 

「ジャンヌ、カーリー」

 

 続けてジャンヌ・ダルクとカーリーが剣を弾いて離れると、八雲はチャイカムTNTをシャドウジャンヌ・ダルクとシャドウカーリーの部分に投げつけ、銃弾で撃ち抜いて極至近で爆破させる。

 

「オベロン、ミズチ」

 

 更にオベロンとミズチが魔法攻撃を止めると、八雲はこちらに向けられるシャドウオベロンとシャドウミズチの攻撃を避けもせずにソーコムピストルを速射。

 シャドウオベロンに呪殺弾が、シャドウミズチに火炎弾が撃ち込まれていく。

 

「な…」

「自分の仲魔だ、弱点くらい知ってる。それをてめえはわざわざ合体して弱点を増やしてくれたしな」

 

 各所に的確に弱点となる攻撃を叩き込まれ、シャドウ八雲から余裕が消える。

 

「だが、この程度で…!」

「無論自分の弱点もな」

 

 八雲は突き刺したナイフを足場に、自分の頭上にあるシャドウ八雲の口の中に手榴弾を手ごと突っ込む。

 

「がっ!?」

「中から吹っ飛ばされたらさすがにタダじゃすまないだろ」

 

 八雲の指摘に、シャドウ八雲はなぜか笑みを浮かべて残っていたカーリーの腕とケルベロスの前足で逆に八雲の腕を掴み、更に中へと飲み込んでいく。

 

「はあ、ほうふる(さあ、どうする)?」

「………手榴弾を処理する一番いい方法知ってるか?」

 

 手榴弾を掴んだまま、腕を飲み込む事で抜けなくしたシャドウ八雲だったが、八雲はためらいなく、シャドウ八雲の腹の中でピンを抜いた。

 

「まひゃか!?」

「オレの癖に覚悟が足りないな」

 

 予想外の所業に、シャドウ八雲は慌てて八雲の腕を手榴弾ごと吐き出そうとするが、八雲はむしろ強引に腕を突っ込み続ける。

 

「小岩さん!?」

「まさか!」

 

 八雲のやろうとしている事に、明彦と美鶴が気付き、他の者達も思わずそちらに振り向いた瞬間、シャドウ八雲の体内で手榴弾が爆発。

 爆炎がシャドウ八雲の口から吹き出し、弾き飛ばされた八雲が地面に叩きつけられる。

 

「八雲!」「八雲さん!」

 

 それを見たネミッサが思わずカチーヤの中から抜け出し、カチーヤと共に八雲へと駆け寄る。

 

「生きてるよ………」

「幾らなんでも無茶…」

「八雲さん………腕が………」

 

 声を上げる八雲に二人が胸を撫で下ろすが、そこである異変に気付く。

 手榴弾を掴んでいた八雲の左腕が、焼け焦げ半ばから消失している事に。

 

「八雲! 腕! 腕半分!」

「半分で済んだか」

 

 ネミッサが慌て、カチーヤが失神しかけるが、八雲は冷静に残った右手で鎮痛剤アンプルを取り出し、左腕に注射する。

 

「ジャンヌ、傷塞いでくれ」

「は、はい! しかし再生までは………」

 

 仲魔ですら呆然とする中、むしろ当の八雲は冷静に回復を指示する。

 

「な、なんて事を! 幾らなんでも自分のシャドウ相手にそこまで!」

「お前らのがどうだったか知らんが、オレの影だっていうなら、腕一本くらいくれてやらないと、勝てなかったろうからな」

 

 そちらを見て絶句しているペルソナ使いの中で、いち早く我に帰った直斗が叫ぶが、八雲は冷静に反論しながら、回復魔法でなんとか焦げた断面と他の傷を塞ぐと、立ち上がってシャドウ八雲の方へと向かう。

 

「げ、は………」

「やっぱ死なないか」

 

 体内爆破という凄まじい荒業を食らったシャドウ八雲は地面に崩れ落ち、仲魔と融合していた部分が崩れて霧散していき、元の姿へと戻っていく。

 

「分かりきった事ばかりほざく口だったが、さすがに焼かれたら言えないか」

「ぎ、ざま………」

 

 こちらを見上げるシャドウ八雲を、八雲は無造作に蹴りを入れ、強引に起こすとその胸ぐらを残った右手で掴み上げる。

 

「確か、自分のシャドウってのは倒せば言う事聞くんだろ? ちょうど手が足りなくなった所だ。お前がオレなら手を貸せ」

「ひ………」

 

 淡々と迫る八雲に、シャドウ八雲が悲鳴を上げる。

 どちらがシャドウか分からない所業に誰もが無言だった。

 

「どうした? 返事は」

「あ、ああ………」

 

 片腕を失ったにも関わらず、どこまでも冷徹に迫る八雲に、シャドウ八雲の顔に初めて恐怖の表情が宿る。

 

「お………」

「お?」

「お前なんかオレじゃない~~~!!」

 

 シャドウ八雲の口から、決して言ってはいけない言葉が絶叫として放たれる。

 同時に、シャドウ八雲の体が黒い霧のように変じていったかと思うと、その体が崩れて霧散していく。

 それを見た八雲は、ただ舌打ちしただけだった。

 

「バックレやがった。オレのくせに」

「八雲、それよりも手! 手どうする!?」

「落ち着け。取り敢えず次はあっちだ。カチーヤ起こせ」

 

 流石に顔色が悪く頬を脂汗が滴りながらも、八雲は慌てるネミッサを差し置いて、ソーコムピストルの空マガジンをイジェクトして口に咥えてマガジンを交換、そのまま口で初弾を装填した。

 

 


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