真・女神転生 クロス   作:ダークボーイ

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PART59 FAR OFF DAWN

 

「タルタロス周辺戦闘は籠城戦に移行した模様!」

「タルタロスエントランスは完全封鎖、上階転移市街地に新たに陣地を構築」

「超力超神・改、各破孔部にて防衛戦展開中!」

「超力超神・改先行突入班、内部にて合流。再度動力部を目指します」

「珠閒瑠市市街地での戦闘は小康状態! 一部鎮圧に成功した模様!」

「当艦外部にて戦闘中の両名、戦闘続行中」

 

 レッド・スプライト号のブリッジ内に、各所からの報告が矢継ぎ早に入ってくる。

 

「どこを落とされても、ヤバイ事になるな………」

「コトワリだの守護だの、結局シュバルツバースと余り変わらねえな」

 

 状況を整理している通信班の隊員達が思わず愚痴る。

 

「核弾頭回収班から連絡! もう直シバルバー直下に到着する予定!」

「そっちも有るか、今の状態ではここまでの搬送は難しいな」

「アーサー、指示を!」

『レッド・スプライト号周辺の戦闘が終わらない状態での核弾頭搬送は極めて危険と判断。周辺に注意して待機を指示します』

「終わらないとと言っても………」

「こいつは………」

 

 アーサーの出した判断に、ブリッジにいた者達が艦外の映像を写し出してるディスプレイを見る。

 そこには、シュバルツバースですら見た事の無い光景が広がっていた。

 

 

 

 回転しながら宙を舞う二つの白刃が、剣舞がごとく幾度となくぶつかり合う。

 それに付随するが如く、魔力の波が放たれ、せめぎ合い、破裂していく。

 それを繰り出し続ける二人の思念体は、双方に攻撃の手を全く緩めようとしなかった。

 

「出来るな、さすが葛葉 キョウジを継いでいた者」

 

 白刃を手元に戻し、間近で回転速度を上げていく40代目ライドウが、素直に感心の声を上げる。

 

「そちらもな。ライドウの名は時代を経ても廃れてないようだ」

 

 手元に魔力を収束させながら、キョウジ(故)が呟く。

 幾度となく繰り返される双方の攻撃だったが、実体を持たない者同士、そして双方の実力の拮抗により、互いに決め手を欠いていた。

 

「退く訳にいかず、攻めるに攻められず。四天王の肩書を持ったアストラル同士の戦いがここまで厄介とはな」

「違いない。適当な依り代もそばにないしな。互いに半端な物では収まりきらん」

 

 互いに攻撃を繰り返し、食らってもそもそも致命傷にならない戦いは、果てなく続くようにも見えた。

 だが果てなき戦いに、転機が訪れる。

 こちらへと向かってくる気配に、双方の攻撃が同時に止まる。

 

「何だこれは………」

「この気配は………」

 

 こちらへとまっすぐ向かってくる、ただただ凄まじい気配に、双方が絶句する。

 やがてその気配はこちらへと姿を見せる。

 

「お前か、リサに消えない傷を残したのは………」

 

 口調は努めて冷静に、だがその裏に凄まじいまでの怒気が籠もっている達哉が、40代目ライドウを見ながら呟く。

 

「この力、特異点か!」

「だが、ここまでは…」

 

 40代目ライドウは、それが前の襲撃を阻んだ者だと察するが、キョウジ(故)は達哉から普段とは比べ物にならない力が溢れている事に気付く。

 

「そっちは轟所長か。悪いがどいてくれ」

 

 淡々と告げる達哉に、普段なら悪態の一つも吐くキョウジ(故)が、黙ってその場を譲る。

 

「ふ、ふふ、なんと凄まじい………異なる世界の歪みの力を受ける特異点、ここまでとはな」

「能書きはどうでもいい」

 

 改めて対峙し、そのほとばしる程の力に40代目ライドウは表情すら見えぬアストラル体でほくそ笑むが、達也は冷静に相手を見据える。

 それに応じるようにペルソナ・アポロが達哉の背後に立ち、凄まじい熱気を立ち上らせる。

 

「そこまで神降ろしの力を引き出すか………その体、欲しい」

「奪える物なら奪ってみろ。神だろうが悪魔だろうが、もうオレの周りから何も奪わせない………!」

 

 そこで初めて、冷静さをかなぐり捨て、怒気を顕にした達哉の周囲を紅蓮の炎が覆う。

 

『警告! 警告! そんな物こっちにきたら装甲が持たない! つうか他所でやってくれ!』

 

 レッド・スプライト号ブリッジから、エネミーソナーが振り切れそうな警告音と共に悲鳴じみた警告がスピーカー越しに響いてくる。

 

(ふん、冷静な奴だと思っていたが、ここまで激情家だったとはな………これならばあるいは)

 

 キョウジ(故)も完全にキレている達哉から距離を取る。

 

「キョウジも退いたが、一人でやり合うつもりか」

「ああ。これ以上、オレの仲間にもこの街にも、手は出させない………! アポロ!」『ノヴァサイザー!』

 

 アポロから強烈な核熱魔法が放たれるが、40代目ライドウは素早く印を組み、障壁を張ってそれを防ぐ。

 

「こんな状態でもライドウを継いだ者、そう安々と倒せると思うな………」

「そんな事は関係ない」

 

 核熱魔法が途切れるより早く、光熱を突っ切って突き出された剣が40代目ライドウの障壁に突き刺さる。

 

(こいつ、自らの魔法に突っ込んできた? 幾ら神降ろしの加護にも限度があるぞ!?)

 

 我が身をかえりみない達哉の行動に、40代目ライドウが驚愕する中、剣の切っ先が障壁に食い込み始める。

 

「一体、どれだけの力を!」

 

 持たないと判断した40代目ライドウが印を片方外し、別の印を組むと傍らの刀を操作し、浮遊した白刃が大きく孤を描いて加速しながら達哉の背後から襲いかかる。

 達哉はアポロで急襲する白刃を防ごうとするが、魔力の籠もった白刃はペルソナにそのまま突き刺さった。

 だが直後、突き刺さったはずの白刃は融解して地面へと滴り落ちていく。

 

「貴様、どんな神を降ろしている!?」

「お前に関係有るのか」

 

 あまりに予想外の事態に40代目ライドウが障壁を解除して飛び退る。

 達哉は無造作にアポロで白刃の残骸を払い落とし、剣を構え直す。

 

(幾ら特異点とはいえ、この力は異常過ぎる! 一体この男に何が…)

「お前の事はこっちのライドウから聞いている。未来がいかに歪んだ世界だろうが、こちらに来て弱者を虐げる理由にはならない」

「貴様達は知らないのだ。強者が全てを支配し、支配から弾かれた者はただ弾圧されるだけの醜き世界を」

「知った事か………!」

 

 世界の有り様を問いかける40代目ライドウを、達哉は一言で切り捨てる。

 

「お前の世界がどんな世界だろうが、関係ない。オレはオレの過ちで生じたこの世界を守り抜く。ただそれだけだ」

 

 達哉の揺るぎない信念の籠もった瞳と、それに応じるように陽炎をまとい立つアポロの姿に、40代目ライドウは畏怖を感じずにいられなかった。

 

(何という男だ………待て、特異点のエネルギー、信念、世界、まさか!?)

「貴様、すでにコトワリと守護を!?」

 

 導き出した答えに、40代目ライドウは驚愕する。

 

(まずい、完全に想定外だ! 依り代が無い今の状態で、勝機は無い! だが、こいつをここから離すわけにはいかない!)

 

 ある種最悪とも言える展開に、40代目ライドウは必死になって思考を巡らせる。

 

「コトワリ? オレはそんな物に興味は無い」

「だがその力、他に説明がつかん。お前が望む世界は何だ?」

「言ったはずだ。オレは己の罪を背負い、この世界を守ると」

「罪を背負し世界、すなわち《カルマ》! それがお前のコトワリか!」

「勝手に言っていろ。アポロ!」『ギガンフィスト!』

 

 灼熱の鉄拳が、40代目ライドウを襲う。

 とっさに防御しようとするが、渾身の力が込められた拳は防御を貫き、アストラル体ですらうがっていく。

 

「がっ!?」

「逃さない。お前は今、ここで確実に倒す」

「ふ、ふふ………それはこちらも同じだ。コトワリを持つイレギュラーを放置する訳にはいかない!」

 

 必勝の覚悟で迫る達哉に、40代目ライドウは距離を取りつつも素早く印を組み、詠唱を始める。

 

「あの術式、思念体を集める気か!」

 

 巻き込まれないように距離を取っていたキョウジ(故)が40代目ライドウの術式の招待に気付き、それを証明するように市街地各所にいた思念体が、一斉にこちらへと集ってくる。

 

「これは………!」

「この手は使いたくなかったがな。まあ勇も似たような事をやっていたが」

 

 ウンカのように集った思念体が、40代目ライドウへと吸い込まれていき、そのアストラル体が輝きを増していく。

 

「本来は死霊を調伏支配する術だ。それをアレンジしたか」

「あんたは大丈夫か」

「大丈夫、と言いたいが少しきついな。この場は任せる」

 

 キョウジ(故)が術に巻き込まれないように離れる中、数多の思念体を吸収した40代目ライドウは、輝く巨人がごとき姿となっていた。

 

「行くぞ特異点、いやカルマのコトワリを掲げる者よ」

「そんな物を掲げた覚えは無い」

 

 巨大化した相手に微塵も臆する事も無く、達哉は剣を振りかぶった。

 

 

 

「思念体が退いていく?」

 

 際限なく湧いてきていた思念体が急にいなくなり始めた事に、尚也は剣を下ろすが、すぐにその原因に気付く。

 

「これは、達哉君の方に集結してるのか」

 

 思念体が向かっていく先から感じる、強力なペルソナ反応に尚也は事態が更に危険な方に向かっているのを悟った時、支給されていたインカムがコール音を鳴らす。

 

『こちらレッド・スプライト号! ムスビのサブリーダーと思われる者が思念体を吸収して巨大化! 現在ペルソナ使い、周防 達哉氏と交戦状態に入る模様!』

『みんな聞こえてる!? すぐにこっちに来て!』

 

 通信班からの通信にマキの声も重なり、只ならない事態に尚也はそちらへと向かって駆け出す。

 程なくして別の区画で戦っていた仲間達と合流していく。

 

「聞いてたか!」

「ああ、どうやら奥の手を出してきたらしい」

 

 合流したマークに頷きながら、尚弥は用意してあった車の方に向かうが、乗り込む直前に何かが降ってくる。

 

「何だ!?」

「オマエラ、ツヨイナ………」

 

 そこに通常よりも更に巨大な外道 スペクターが立ちはだかっていた。

 

「イ、イカセン………ムスビノセカイノタメ………!」

「足止めかよ! 手こみやがって!」

「そうみたいだな。 アメン・ラー!」

 

 目前の障害を排除すべく、尚弥はアルカナカードをかざし、ペルソナを繰り出した。

 

 

 

『こちら杏奈、仮面党は市街地の混乱対処で手一杯!』

『こちらブラウン! こっちにもなんかでけえのが来た!』

「次の段階に来たか」

「みてえだな」

 

 珠閒瑠警察署前で指示を出しながら自らも前線で戦っている克哉と、隣で情報整理のはずがその暇すら無くなっているパオフゥが近寄ってくる大型の反応に顔をしかめる。

 

「どうすんの!? これじゃ達哉君とこ行けないわよ!?」

「どうやら、向こうはマガツヒの収集から障害の排除に目的を変更したようだ」

「しかも一番目付けられてんのお前の弟みてえだぞ」

「どうやらそのようだな」

 

 うららが喚く中、男二人は冷静さを保っていた。

 

「話通りなら、ここを仕切ってるのは40代目ライドウとかいう奴。前はヨスガと組んでたらしいが、ムスビに乗り換えたらしいぜ」

「ライドウ君のずっと後輩か………一度大正時代にこちらのライドウ君と派手にやりあって撃退したらしいが」

「達哉君そんなのと大丈夫!? って心配してる暇は無さそうね………」

 

 聞けば聞く程に尋常ではない相手にうららは心配するが、こちらに迫ってくる大型の思念体の方に意識を向ける事にする。

 

「達哉なら、しばらくは持たせるだろう。他で合流してくれる事を願うだけだ」

「他力本願、って言うにはちょっと修羅場が過ぎるな。来るぞ!」

 

 向かってくる大型思念体に向かい、克哉とパオフゥは同時にアルカナカードをかざした。

 

 

 

「ここは私がなんとかするから、達哉君の方に!」

「頼んます!」

「無茶は禁物よ!」

 

 たまきが仲魔と共に向かってくる大型思念体を迎え撃つ後ろで、ミッシェルと舞耶が声をかけながら先を急ぐ。

 

「情人、何かすごい事になってる!」

「ペルソナ使いでなくても分かるね、アレは………」

 

 急ぐリサと淳の視線の先、ときたま虚空に吹き上げる炎が達哉の奮戦を物語っていた。

 

「急ぐわよ! これじゃあどっちが勝っても、街が火の海になるわ!」

「待ってて情人!」

「どっちかつうと、オレら止める方じゃね?」

「そんな気がしてきたよ………」

 

 血気逸る女性陣に、男性陣は異様なまでに高まっている達哉のペルソナ反応にむしろ冷静になっていた。

 

「なんかすでに熱くなってきてね?」

「下手したらこちらも巻き添え食うかもしれない。耐火系のペルソナを用意した方がよさそうだ」

「ああ、そうだな」

 

 ミッシェルと淳がまだ姿が見えないのに漂ってくる熱気にアルカナカードを探る中、かけられた声に足が止まる。

 

「誰、って轟所長だった人」

「気をつけろ、この状態のオレでもそばに近寄れない。どいつか体を提供してくれるなら別だが」

「それはちょっと………」

「あと気になる事が有る」

 

 先に言った女性陣を気にしつつも、ミッシェルと淳はキョウジ(故)の言葉に耳を傾ける。

 

「あっちのライドウは、周防弟がコトワリと守護を持っていると言っていた」

「はあ? 達っちゃんがコトワリ?」

「どういう事ですか?」

「コトワリというのが創世の指針となるべきルールだとしたら、それに近い何かをあいつは持っている。そしてそれと特異点の力が結びつき、ペルソナが守護となる神格クラスの力を発揮してるのだろう」

「何かって………何だ?」

「分からない。だが言える事は一つ、放ってはおけない」

「どうせなら、そのままお前達で創世してみるかい?」

「達っちゃんがそんなの望む訳ねえだろ」

 

 キョウジ(故)の物騒な冗談をあっさり切ると、二人は達哉の元へと急ぐ。

 残されたキョウジ(故)は吹き上げる豪華を見つめていた。

 

「あの力、欲しくないと言えばウソだが、創世なんてとてもオレの手に負えんな。どちらが勝っても、この世界の勢力図が変わるな………」

 

 

 

「達哉君!」「情人!」

 

 駆けつけた二人に、達哉は視線も向けずに相手へと対峙したままだった。

 

「気をつけろ、こいつは厄介だ」

 

無数の思念体を取り込み、光の巨人と化した40代目ライドウの姿にさすがに舞耶もリサも仰天する。

 

「仲間が来たか。だがさしたる問題ではない」

「激氣! 言ってくれるわね!」

「リサちゃん、足元!」

 

 40代目ライドウが増援にさしたる驚異も感じて無さそうな事にリサが激高して近寄ろうとするが、舞耶に言われて足元を見ると、達哉を中心として地面が赤熱化している事に気付く。

 

「こ、これ情人が!?」

「そこから前に出るな。サポートだけ頼む」

「了解よ達哉君。今に永吉君と淳君も来るわ」

 

 思わずたじろぐリサに達哉が後方支援を促し、舞耶はうなずきつつも二丁拳銃を構える。

 

「来るなら来い。辿り着いた創世へのチャンス、完全に差別なき世界のための礎になってもらおう」

「他者に犠牲を強いようとする者が、何を言っている」

 

 互いに揺らがぬ信念を持つ者同士が、珠閒瑠の命運を掛け、激突した。

 

 

 

「今、上は一体どうなってる?」

「かなり派手にやってるようだ。戦闘報告が鳴り止まん」

「だとしたら、しばらくここで待つべきか」

 

 予定のポイントまで到着した核弾頭回収班が、迎えが来れそうにない状況に大人しく待機する事を決める。

 

「確かにこれは派手だな。この感覚、周防 達哉か。何かに目覚めたか?」

「かもな。これほどの力なら、街は任せても大丈夫かもしれん」

「ライドウ先輩こそ、あまり無理はしないでください」

 

 回収用の特別車両内で、ゴウトが状況を探る中、秘術の影響でまだ疲弊しているライドウを凪が心配そうに見守る。

 

「ありったけの回復剤を使ったからな。本来ならここまでの多重使用は避けるべきだが………」

「休んでもいられない。これを完全に封印したら、再度戻らなくては」

「小突くな! 一応遮蔽はしてるが………」

 

 ゴウトも心配するが、ライドウは足元の核弾頭入の遮蔽ケースを叩きながら呟くのを機動班が慌てる。

 

「バレてないよな? 今こいつの存在を他の勢力に知られるわけにはいかない」

「創世も何も消し飛んじまうような代物、使う奴がいるとは思わんが………」

「うまくいかなくなってヤケになる奴は出るかもしれん。信管は抜いてあるが、念には念だ」

「これはそこまで危険な代物か………」

 

 ゴウトが遮蔽ケースを覗き込もうとした時だった。

 ゴウトとライドウが同時に何かに反応して身構え、遅れて凪も構える。

 僅かに遅れて、回収班のデモニカのエネミーソナーが警報を鳴らす。

 

「勘付かれたか!」

「どこの連中だ! こいつの使い方知らない連中ならなんとか…」

「いや、それはどうかな」

 

 デモニカを戦闘態勢にしながら叫ぶ者達を差し置き、ゴウトは特別車両の小さな窓から外を覗き込む。

 こちらに向かってきているのが車両、おそらく受胎東京内にあった物のレストア品を運転している白装束の者達だという事に皆も気付いていく。

 

「まずい、カルマ協会か!」

「絶対渡すな! あいつらならこいつの起爆方法を知ってる可能性が高い!」

「今の状態で喰奴相手は少しきついか………」

 

 デモニカをまとった者達が手にした銃のセーフティーを外す中、ライドウは腰のコルトライトニングの残弾を確かめる。

 

「ライドウ先輩は休んでてください!」

「お前もだ。負荷の大半以上をライドウが引き受けたとはいえ、無理が出来る状態ではあるまい」

「無理をする必要がありそうだがな」

 

 凪が自らも銃を抜くのをゴウトが止めようとするが、ライドウは窓から見える相手の装備に表情を険しくする。

 

「おい、RPG持ってるぞ!」

「まずい、撃たせるな!」

「あの携帯砲か」

 

 こちらに向かってライフルを構えるカルマ協会員の中に、RPGランチャーを持っているのに気付いた者達が慌ててサイドドアやリアドアを少し開けて壮絶な銃撃戦が始まる。

 

「遮蔽も兼ねた増加装甲だ! ライフル弾位ならAPでも通らない!」

「RPGも一発くらいなら…」

 

 特別車両の防御力に頼む中、カルマ協会員達が一発のみならず、複数のRPGを構えた事に皆が絶句する。

 

「やばい!」

「RPGを潰せ! こっちにも無いか!?」

「ライフルグレネードどこだ!?」

「開けろ」

 

 そこへライドウがリアドアを開放させると静止する暇も無く外へと飛び出す。

 そのままこちらを狙ってくる銃弾を地面を転がって避けつつ、片膝をつきながらコルトライトニングを抜き放ち、速射。

 放たれた銃弾は今にも発射されんとしたRPGの弾頭に次々命中し、射手ごと爆破する。

 

「すげえ………」

「剣だけじゃなく銃もあの腕前かよ………」

 

 自分達の方が重装備のはずのデモニカ姿の者達がライドウの凄まじい射撃技能に絶句するが、カルマ協会員はライフルを投げ捨てるとアートマを光らせ、一斉に喰奴へと変身していく。

 

「来るぞ! 悪魔出せる奴は出せ!」

「エンジン落とすな! いつでも撤退の準備を!」

「下がっていろ」

 

 悪魔召喚プログラムを起動させる者達をさておき、ライドウは前へと出るとありったけの管を取り出す。

 

「余裕が無い。すぐに終わらせる」

 

 疲弊を隠せない中、短期決戦で済ませるべく、ライドウは仲魔を一斉に召喚した。

 

 

 

「ライフル用の弾丸はどこだ!?」

「回復アイテムを確認しろ!」

「敵は今どこまで来てる!?」

 

 タルタロスの作戦本部と化した人外ハンター商会で、ハンター達が大急ぎで防衛戦の準備を進めていく。

 

「まずいな、そろそろ一階は突破されそうだ」

「あんだけ固めといたのに!?」

 

 八雲が一階に残したカメラからの状況を確認しながら呟くのを聞いた悠が仰天する。

 

「人海戦術、いや悪魔海戦術と言うべきか? 数で押されたらひとたまりもないだろう」

「取り敢えず喰奴の人達が迎撃に向かっている。そちらは任せよう」

 

 切迫している状況だが、冷静さを保っている美鶴と明彦が装備を再点検しつつ、登頂に備えていた。

 

「私とフリンも出ます。他のハンターの方々はここで機動防御を」

「学生共はオレと一緒に一気に上行くぞ」

 

弾丸や攻撃アイテムをありったけ補充、ついでにカロリーバーやゼリードリンクをしこたま補給した八雲が、GUMPを探索モードにして準備を完了させる。

 

「外であんだけ暴れたのに、タフっすね………」

「お前らもペルソナ使いなんてやってたら直にこうなる」

「そうなんですか?」

「いや、珠閒瑠のペルソナ使い見てると、どうにもそうみたい………」

 

 体力には自信がある完二ですら感心する中、八雲は淡々と告げ、雪子が首を傾げるがゆかりが耳打ちする。

 

「上の大量発生源は倒した。けど元からのシャドゥはまだ残ってる」

「ワープポイントは使えるからある程度はショートカット出来ますけど、やはり戦闘は避けられないでしょう」

 

 チドリと風花がタルタロス内の反応を調べながら、ルートを確認していく。

 

「普段なら戦闘は避けたい所だが、今回はタイムアタックだ。ここを落とされる前に上に向かう」

「最上階まで行ってカグツチを開放出来りゃ、何とかなるかもしれないけど、誰かコトワリ持ってる?」

 

 八雲に続けて、修二が最終目標を定めるがそこで肝心な事を呟く。

 

「はっきり言っちまえば、そんなの無い方がマシじゃないのか? どのコトワリもロクな事にならなさそうだ」

「いや、それはそうだろうけど………」

「後、悩んでる暇は無さそうだ」

 

 八雲の視線が一階エントランスを写す映像に向けられる。

 そこは入り口を突破したヨスガの軍勢が設置されたトラップにかかった仲間の屍を踏み越え、上階へと押し寄せようとする所だった。

 

「山岸は一緒に来てこちらのサポート、久慈川は残ってここのサポート。やばくなったら順次珠閒瑠に撤退しとけ」

「了解です」「了解、みんな無茶しないでね」

「学生連中も上がやばくなったらここに戻して撤退させろ。上がどうなってるか想像も出来ん」

「まずは上に続くルートを見つけないとダメですけど………」

「う~ん、どこか有ったかな~?」

 

 パラダイムXと融合して完全に行き止まりとなっている階の事を思い出し、カチーヤとネミッサは唸るがそれらしい物は思いつかない。

 

「どちらにしろ、あそこにはまた行かなきゃならねえだろうとは思ってたからな。オレが行けば何か分かるかもしれん」

「出来ればお早めにお願いいたしますわ。階下もどこまで持つか分かりませんから」

 

 イザボーはそう言いながら、階下を映し出す映像を確認する。

 そこでは、なだれ込んできたヨスガの軍勢を迎え撃つ二人の姿が有った。

 

 

 

「登れ登れ!」

「邪魔者を潰し、カグツチへと到達するのだ!」

 

 咆哮を上げながら、ヨスガの軍勢が階段を駆け上がっていく。

 

「なんだこの奇妙な作りの塔は!?」

「構うな! ガンガン行け!」

「そうだな、ガンガン行くのはいいな」

「こちらが、か?」

 

 タルタロスの奇妙な構造に首を傾げながらも登るヨスガの軍勢の前に、準備万端のダンテとフリンが立ちふさがる。

 

「貴様、ハンター・ダンテ!」

「トール様の敵だ!」

「そこの長髪の男も只者じゃないぞ!」

「構うか、マガツヒを絞り出せ!」

 

 一斉に襲いかかってくるヨスガの軍勢に、ダンテはエボリー&アイボリーを抜き、フリンは刀を構える。

 

「Let‘s PARTY!」

「来い」

 

 二つの銃口から銃弾が吐き出され、白刃が押し寄せる軍勢へと向かって振り抜かれた。

 

 

 

「始まったな。こちらも行くか」

「あの二人ならしばらく持ちこたえられるだろう」

「こっちも急ごう!」

 

 八雲が階下で戦闘が始まったのを確認、啓人と悠も先頭に立って上階を目指す。

 

「これだけの人数でタルタロス登頂は初めてだな」

「初期の実験で影時間に対応出来る孤児達を集めた事は有った。私もその一人」

「どんだけやばい事してたのそっち………」

 

 美鶴が大挙するペルソナ使い達を見る中、チドリが呟いた事に千枝が顔色を変える。

 

「シャドウが出てきた!」

「戦闘は速攻で片付けろ」

「了解!」

「トリスメギストス!」『利剣乱舞!』

「ジライヤ!」『マハガルーラ!』

 

 順平と陽介が八雲の指示に従い、向かってくるシャドウを速攻で片付ける。

 

「ワンワン!」「そっちからも来たクマ!」

「すぐそこに階段! 戦闘よりも登頂を先に!」

 

 コロマルとクマが反対側から来たシャドウを警戒するが、風花のアナライズに従って全員が足を早めて突破に専念する。

 

「後ろからも来たっす!」

「ホントに発生源潰したのか!? 先に行け、死亡遊戯!」

 

 殿の方の完二が背後からの敵影に身構えるが、修二が先を促し、振り返って魔力の光刃で迫ってきたシャドウを薙ぎ払うと戦果も確認せずに階段へと駆け出す。

 

「部隊を分けて遅滞戦闘を行っては?」

「その手も有るが、ワープポイントを基点防御で後退出来る階下と違って、こちらだと分断される可能性が有る」

「攻めと守りの特性差ですね」

 

 アイギスの提案に美鶴は首を振り、直斗も頷く。

 

『こちらエンブリオン、敵は15階まで到達、防衛戦に入る』

「マグネタイトバーにも限りが有るし、最悪ネミッサを戻してセラの歌を中継させる。無茶はするな」

 

 ゲイルからの通信に、予想よりも階下の進軍が早い事に八雲は返信しながら舌打ちする。

 

「あの二人ならもうちょっと持たせてくれるかと思ったが、やっぱり相手が多過ぎか」

「いえ、先陣はだいぶ減らしてくれたみたいです。作戦通り、今喰奴の人達と交代しました」

 

 八雲のボヤキに、風花がりせからの情報を中継して戦況を確認する。

 

「目的の階はすぐそこです。後方からシャドウ反応多数!」

「上は位相空間なのか、シャドウは追ってこないようだ! 急げ!」

 

 風花のナビに八雲が檄を飛ばし、全員が目的の階へと飛び込むように上がっていく。

 

「うわ、なんだこれ!?」

「マヨナカテレビみたい………」

「相変わらずひでえ所」

「シャドウの反応無し、やっぱり追ってこれないみたい」

「なんとか一安心ですね」

 

 そこに広がる、タルタロスとはまた違う廃墟と化したパラダイムXの光景にペルソナ使い達はある者は唖然とし、ある者は顔をしかめる。

 

「なんかすげえ所だな。まあ受胎東京も似たようなモンだけど、なんかこう………」

「元は全てバーチャルだからな。仮初の街が仮初の廃墟になっただけの話だ」

 

 修二もどこか雰囲気の違う廃墟のパラダイムXを見回し、八雲は改めてここで起きた事を思い出していた。

 

「それで、どこに階段があるんだろう?」

「やっぱりそれらしい反応はありませんね………」

「手分けして探そう」

 

 啓人が周りを見回し、風花もアナライズするがそれらしい反応は見当たらず、悠も仲間達と周辺の捜索に入る。

 

「あんま悠長にもやってられんが、心当たりか………」

「ネミッサこの間探したけど、見当たらなかったけど?」

「隠し部屋とか隠し階段とか、何か封印された所とか………」

 

 ノイズ混じりのボロけた服とマネキンの並ぶブティックを見ながら、八雲とネミッサは記憶を掘り起こし、カチーヤも何かないかと探す。

 

「こっちに銭湯みたいな部屋あるぞ?」

「そっちは夕焼けだ………」

「なんなのこれ?」

 

 連なった部屋のコロコロ変わる風景に、特別課外活動部は首を傾げる。

 

「うわ、建物の中に森があるぞ!?」

「動物園、かな?」

「ペットショップって書いてありますね」

 

 特別捜査隊がうっそうとした木が生えている店内を呆れた顔で探索する。

 

「何か、廃墟になったにしても空っぽな所も有るな」

「プレオープン状態で、正式サービス前に潰れた企画だからな。まあ潰したのはオレ達スプーキーズだが」

 

 修二が空き家になっているブースを覗き込み、八雲の説明に微妙な表情をする。

 

「やはり見つからないな………まさか完全に断絶してるのか?」

「クマでも見つけられないクマ………」

「けど、タルタロス自体はずっと上空まで伸びてましたよね?」

「ワンワン」

 

 自らもアナライズで探す美鶴が最悪の自体を懸念し、クマも同様の可能性を示唆するが、乾とコロマルは否定的だった。

 

「何かこう、思いつかないか? MMOとかでこういう時何がどうするか?」

「つってもな………」

「オレゲームやらないんで」

「オレもだ」

「何か条件満たすとか、キーアイテム探すとか?」

「まさか、課金ガチャ?」

 

 

 男子が集まって知恵を絞るが、解決策は出て来ない。

 

「八雲さん、何でもいいです。ここから別の場所に移動するイベントのような物はありませんでしたか?」

「移動か………まさかここから中央管理にハッキングとかいう…」

 

 直斗の問いかけに八雲が過去をあれこれほじくり返すが、そこでふとある事を思い出す。

 

「別の所に移動、か」

 

 八雲は小さく呟くと、ある建物へと向かっていく。

 

「あれ、八雲この先って………」

「ダメモトだ」

「何があるんですか?」

 

 ネミッサとカチーヤも続く中、八雲のその場所、VR映画館へと足を踏み入れる。

 

「何か思い出したんですか?」

「ああ、ある事をな」

 

 座席も崩れ、スクリーンも破けかかっているVR映画館の中に直斗も入ってくると、周囲を見回す。

 

「まさか映画の中なんて事は…」

「一応そういうのもあったが、多分違うな」

 

 八雲はVR映画館にセットされている映写機へと近寄ると、そのスイッチを押す。

 動くとは思えなかったジャンク状態の映写機が突如として動き出し、スクリーンに何かが映し出される。

 

「ビンゴか」

「見つかりました! 皆さんこちらに!」

「何だ何だ」

「うわ、汚~い」

「何が始まるんだ?」

 

 皆も一斉にVR映画館に入ってくる中、スクリーンにある映像が映し出される。

 

『さて、これから体験するは己を過信し、その結果多くを失った哀れな男の物語………』

 

 ノイズまじりの機械音声のようなナレーションが響き、やがてそれは始まった。

 モノクロ調の画面に、GUMPとそれを手にする何者かが現れ、そして開かれたGUMPから光球が飛び出す。

 飛び出した光球は室内を飛び回り、そこにいた女性へと飛び込む。

 そして女性の雰囲気が変わり、見覚えのある人物へと変貌する。

 

「あれって………」

「ネミッサさん、だよな?」

「じゃああのGUMP手にしてるのって………」

 

 皆が呟く中、光景は切り替わり悪魔と戦う誰かの後ろ姿となる。

 敵のダークサマナーの襲撃、策略により消されたID、仲間内の疑心暗鬼、目まぐるしく光景は変わっていく。

 そしてそれはある光景を映し出す。

 

「え………」

「あの人、冥界で会った………」

 

 血まみれになった男と、それに向けて硝煙を漂わせる銃を手にした者、それにかすれた絶叫が重なっていく。

 そして再度光景は変わり、変貌したマニトゥと決戦、そしてマニトゥに滅びをもたらすために自ら滅ぶネミッサの姿が映し出されていく。

 

『かくして、この男は信頼する仲間もかたわらの女も守れず、みじめに生き抜いていった………今もなお』

 

 映像が終わり、ナレーションが締める。

 その場にいる誰もが、視線を一人へと集中させた。

 

「あの、今のって………」

「ひょっとして………」

「ああ、オレだ」

 

 それがビジョンクエスト、ある人物の過去の追体験だと知っている八雲が、自分に突き刺さる視線に苦笑する。

 

「な、なんでこんな物が………」

「なるほど、オレが一番最初にここの特異点となった理由がこれか」

「ど、どういう事?」

「このパラダイムXといい、ネミッサがここに封じられたいた事といい、これを起こした奴はオレの過去の残滓とタルタロスを結びつけてここを変質させた。目的までは分からないが」

「それで肝心の上階への…」

 

 皆が壮絶な八雲の過去に唖然とする中、啓人が恐る恐る聞こうとした時、スクリーンが変質する。

 スクリーンに再度何かが映し出されかと思うと、そこに穴のような物が生じ、そして上階への階段となった。

 

「こんな所に………」

「わかんねえわけだ………」

「さて、人の恥部の鑑賞会も終わった事だし、先に進むか」

「恥部って………」

「八雲………」

 

 平然と先に進もうとする八雲に、カチーヤが何か声をかけようとするが口ごもり、普段無駄にうるさいネミッサですら言葉が出てこなかった。

 

「待ってください! 何か反応が…」

「シャドウか!?」

「いえ、これは…人間!?」

 

 風花の突然の反応に皆が色めき立つが、続く言葉に更に反応する。

 

「どこだ?」

「この先の広場から、こっちに向かって…」

 

 言葉の途中で啓人と悠が飛び出し、皆もそれに続く。

 

「あっちか!」

「誰か…え?」

 

 こっちに向かって、よろけながら来る人影に皆が目を凝らす中、それが見覚えのある人物である事に悠が気付く。

 

「足立さん!?」

「あ、鳴上君! ど、どうしてここに!?」

 

 息を荒げてきたスーツ姿の若い男が、同じように見覚えのある人物に気付いて駆け寄ってくる。

 

「知り合い?」

「下宿先の叔父さんの家の同僚の刑事さんです! なんでここに!?」

「わ、分からないよ………気付いたらここにいて、変な化け物に…来たぁ!」

 

 怯える足立だったが、そこへどこからともなく思念体を引き連れた勇が姿を表す。

 

「勇! どうしてここに!」

「さてね、だがちょうどいいな。どうやらカグツチに至る道はお前達が見つけてくれたようだしな」

 

 修二が驚く中、勇はある程度の距離を持って対峙する。

 

「ひぃ!」

「足立さん、下がってて!」

「ちょうどいい、ここでお前らからマガツヒを絞って守護を呼ぶか?」

「そんな事させるか!」

 

 ペルソナ使い達が中心となって足立を背後にかくまい、皆が一斉に臨戦態勢を取る。

 彼らの背後に立った足立が、他に見えない位置で笑みを浮かべながら、懐の銃を掴んだ時だった。

 一発の銃声が皆の背後から響き渡る。

 全員が驚いて振り向くと、そこにソーコムピストルを構える八雲の姿と、倒れる足立の姿が有った。

 

「や、八雲さん!?」

「何を!?」

 

 何が起きたか、困惑する皆を前に八雲は平然とそちらへと歩み寄る。

 

「何って、見れば分かるだろ」

「なんで足立さんを!? その人は…」

「お前達こそよく考えろ。この状況でカタギがこの場に現れる訳ないだろ」

 

 歩み寄りながら、足立のそばを通り過ぎざまにもう一発八雲は銃弾を撃ち込む。

 最早誰もが絶句し、硬直する中で八雲は足を止める。

 

「だからあんたもやられた振りは終いにしな。通常弾で死ねるような奴じゃないだろ」

「く、くくく………」

 

 声をかけられ、撃たれたはずの足立から不気味な笑みが漏れる。

 

「足立、さん?」

「覚えとけ、ある程度の実力者になれば力を隠す事も容易だ」

 

 悠がもはや思考が停止する中、八雲の説明を受けながら足立がゆっくりとした動作で起き上がり、そしてその体から一気に力が吹き出す。

 

「この反応、ペルソナ使いです!」

「そんな、足立さんがペルソナ使い!?」

「ウソだろ!?」

 

 風花がそこでようやく気付く程、完璧に気配を消していた足立だったが、最早その力はアナライズ能力が無くとも感じられる程に強大で、邪悪だった。

 

「それとお前らの世界で起きたマヨナカテレビを利用した殺人事件。警戒していた被害者が次々殺された理由、白鐘は気付いてたんだろ」

「それは…」

 

 いきなり話を振られ、直斗は目を伏せる。

 

「狙われている相手が警戒を緩めるとしたら、信頼している人物か信頼出来る職業。共通点の無い人間同士が信頼する職業と言えば」

「警察官」

「は?」

「待って待って、何を…」

「そいつがお前らが追ってた連続殺人犯。違うか、刑事さんよ」

「ふふふ、あっはっはっは!! 驚いた! 噂の探偵王子以上の名探偵がいるとはな!」

「悪いが、少し違う。職業で色眼鏡使う事なんざとっくの昔に止めただけだ」

 

 響く足立の哄笑が、八雲の推理が当たっている事を其の場に知らしめていた。

 

「おい速攻でバレてるじゃねえか、刑事さんよ」

「! 勇とグルか!」

「いやあ、これは予想外でね。子供なら騙せると思ってたけど、疑り深い大人が混じってたとはね」

 

 二人が繋がっていた事、つまりは罠にはめられかけていた事に修二が気付き、二人を交互に睨みつける。

 

「まあいい。こちらも予想外だったからな」

「何がだ!」

「気付いていなかった? これだよ」

 

 勇が修二に嘲笑を向けながら、指を鳴らす。

 すると、パラダイムXの町並みのあちこちが崩れ、大量のマガツヒが湧き出してくる。

 

「な…」

「これって!?」

「何が有ったか知らねえが、ここはマガツヒの宝庫だ。こんだけあれば、守護が呼べる」

「それはよかったねえ。けど、そのためには邪魔な連中がいるかな」

「そうだな、マガツヒの足しになってもらうか?」

 

 邪悪な笑みを浮かべる二人の男に、全員が一斉に構える。

 

「足立さん、騙してたんですか。オレも、堂島さんも、奈々子ちゃんまでも!」

「みんなが必至になって探してる相手が、すぐ隣にいるのに気付かない様はなかなか滑稽だったよ。特に君達はね」

 

 足立に向かって剣を構える悠の手に、必要以上に力が籠もる。

 

「下がってろ。ああいう汚い大人は、同類の汚い人間が相手するモンだ。さっき見たような、な」

 

 必要以上に力がこもっている悠を押しのけ、八雲がGUMPを抜く。

 

「さて、そう上手くいくかな」

 

 足立がそう言いながら、指を一つ鳴らす。

 

「気付いてるかな? ここもマヨナカテレビの影響を受け始めている事に」

「どういう意味だ?」

「ほら、その意味が来るぞ」

 

 足立が意味深に言っている内に、どこかから霧が立ち込め、その霧の中から何かがこちらに向かってくる。

 それが人影である事に皆が気付き、そしてその姿が顕になってくると最大の驚愕が襲った。

 

「え…」

「ウソ…」

「ほう………」

 

 その現れた相手は、他でもない八雲そっくりの姿をしていた。

 

「この反応、それはシャドウです!」

「やばい、八雲さんのシャドウ!?」

「気をつけろ! そいつは他でもない、あんた自身だ!」

 

 特別調査隊が口々に叫ぶ中、当の八雲はそれほど気にした風もなく、己のシャドウと対峙する。

 

「さあやろうか、デビルサマナーさんよ」

「ああ、そうするか」

 

 二人の八雲が双方構える。

 

「八雲!」「八雲さん!」

「お前らは向こうのサポートに入れ。人同士の殺し合いは初めてだろうからな」

 

 ネミッサとカチーヤのサポートを断り、二人の八雲が同時に動く。

 それを合図とし、皆が一斉に動き出した………

 

 

 せめぎ合い、混沌と化す受胎東京。

 過去の罪が紡ぎ出す道標に手を伸ばす糸達の前に立ちはだかる影。

 その邂逅の先にあるのは、はたして………

 


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