真・女神転生 クロス   作:ダークボーイ

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PART55 ATTACK ON GIGAS

 

 元ギガンティック号、現超力超人・改のブリッジの中央部、元からの物と後から設置された物と複数を多層に設置されたコンソールを前に、神取はどこか無感情に佇んでいた。

 

「大した物ね。これならそう簡単には攻めてこれないでしょう」

「いやはやすごいね~。まさかこんな物に乗れるとは夢にも思わなかったよ」

 

 神取の背後に、どこか冷たい口調の赤いデモニカをまとった少女と、スーツ姿のどこか軽薄そうな若い男が立つ。

 そちらを向いた神取は、口の端に乾いた笑みを浮かべる。

 

「短い間だったが、これの警護は感謝する。約束通り、この後は好きにするといい。この中から必要な物資はなんでも持っていって構わん」

「すでに必要な物はもらっている。ここにいればアイツら、いやあいつは来る。それまで待つ」

『その方がいい。外部に出るのは複数の危険が伴うようだ』

 

 赤いデモニカの少女はそう言いうと、デモニカのサポートAIらしき声がそれに賛同する。

 

「ボクはどうしようかな~? 外はおっかないけど、ここにいてもな~」

「またテレビの中にでも入っていたらどうだ? あの中なら少なくても外よりは安全だろう?」

「それも怪しくなってきたけどね。それにマヨナカテレビは雨が降ってる時しか入れないからね~」

 

 スーツの男が神取が操作していたコンソールに設置された画面に映る外の様子、降っていた雨が止み、周辺の惨状を露わにするのを見ながらボヤく。

 

「悪魔がそれぞれのイデオロギーで徒党組んでショバ争いか。案外やってる事は人間と変わらないね」

「三つの勢力を率いているのはそれぞれ人間らしいがな。もっとも、元人間と言った方がいい状態のもいるらしいが」

「それは一度見てみたい気もするけど、やめとくべきかな?」

「怖い物見たさなら止めておいた方がいい。お前も出来る方だろうが、悪魔と関わった者はマトモではいられない。私のようにな」

 

 赤いデモニカの少女はそれだけ言うと、ブリッジから去る。

 その背を見送ったスーツの男は、小さくため息を漏らす。

 

「職業柄、スレちゃった子は色々見たけど、あれはとびきりだね」

「彼女は滅亡しかけた世界から来たらしいからな。目的の一つは復讐、もう一つは世界の再生らしい」

「再生ね~。あのカグツチってのに行けば望みの世界が作れるらしいけど、君はどうするんだい?」

「どうにも。すでに私の仕事は済んだ。後は向かってくる者を迎え撃つだけだ」

「欲が無いね~。そうだ、ボクも一つ望みの世界ってのを目指してみようかな」

「カグツチに至る塔には、歴戦の悪魔使いが陣取っているぞ。そう簡単には行くかな?」

「ま、人間相手なら悪魔とやら相手にするよりは楽かな?」

 

 スーツの男もそう言いながら、ブリッジを去る。

 一人残された神取は、後付で設置したイスに深々と腰掛け、吐息を漏らす。

 

「一番恐ろしいのは、人間だ。LAWでもCHAOSでもな………」

 

 

 

「間違いは無いな?」

「ああ、しばらくカグツチの黒化は起きない。私が見た限りではな」

 

 一度珠閒瑠市に戻った小次郎は、アラヤ神社での瞑想に戻ったフトミミからの意見を聞き、将門公開放の手はずを整えていた。

 

「将門塚はタルタロス出現場所の目と鼻の先だから、キュヴィエ症候群の問題が無ければ支障はない。超力超神・改に見つからないようにする必要は有るが………」

「あの鋼の巨神がその気になればこの受胎東京のどこへでも攻撃出来るだろう。なぜかあの場からほとんど動かないのは、動く気が無いのでのないかと思うのだが」

「確かに。狙いは分からないが、放置も出来ない。味方で無い事だけは確かだからな」

「ぬ、待て。今何かが見えた………あの巨神を巡り、他の勢力も動き出すようだ。今、創世の一番の壁はアレだからな」

「文字通りの壁、だがな………」

 

 フトミミの予知に安堵と不安を双方感じつつ、小次郎は将門塚に向かうべく、その場を後にした。

 

 

 

「また、随分ケッタイなモン造ったモンやな~」

「出来れば内部構造を知りたい所だが」

 

 業魔殿の研究室で、Dr.スリルとヴィクトルが超力超神・改の画像を解析しながらあれこれ呟いていた。

 それを聞きながら、そこに訪れていた美鶴は少し考える。

 

「内部構造はうまくいけば山岸が解析出来るかもしれない。それよりも」

「アイギスの方は修理は済んでいる。予め予備部品を用意していたのをほとんど使ったが」

「今チェックして、微調整が必要やけどな。メイド姉妹ももう少しや。エリクシルで生体部分培養なんて、普通なら絶対せえへんで」

「それは良かったで」

 

 一足早く修理を終えたラビリスが、最終調整中の三人の姿を見て安堵する。

 

「だが問題は…」

「こいつやな」

 

 研究室の中央、追加で設置されたカプセル内に修理を終えたメティスがスリープ状態で格納されていた。

 

「予備部品は大量に有ったので、修理は問題では無かった」

「量産機のジャンクやけどな。けど、ソフトの方はこいつらがインストールしたデータと混ざって、よう分からん事になっとったで。正直、起動させたらどうなるかワイも責任持てんで」

「そうか………アイギスが彼女を連れて帰ると言い張っていたから連れては来たが」

「なんか型進む度に妙な事なってへんか?」

 

 ヴィクトルとDr.スリルからの説明に美鶴はうつむき、ラビリスは首を傾げる。

 

「大丈夫です………」

 

 そこで聞こえた声に皆がそちらを向くと、修理用カプセル内で薄目を開いているアイギスの姿が有った。

 

「アイギス、目が覚めていたのか」

「はい………まだ少し内部チェックにかかるであります」

「無理せん方いいで? あんたが一番重傷やったんやから」

「ラビリス姉さん………メティスには、私達の思いを伝えました。きっと、力になってくれます………」

「だといいんやけどな………」

「不破もあと数日で退院出来るらしい。もっともかなり怪しい治療を行ったとも聞いてるが………」

「技術だけで言えば、ウチが作られた研究所の方がまだ大人しかった気するで? もっとも同型同士壊し合いとかはさせへんだけマシやけど」

「幾月の奴もそないな事言っとったな。性能比較も大概にしとかんと。そもそもせっかく作ったモン壊される開発者の気持ち分かっとるんか!?」

 

 何か最後の方は私怨も混じってるような台詞を吐いているDr.スリルをさておき、美鶴はラビリスを伴ってその場を離れる。

 

「近い内に超力超神・改への反攻作戦が実行されるだろう。それまでに態勢を整えておかなければ」

「ここ来てずっとこんな感じなんか?」

「ああ、前回はさすがに少し危なかったが………」

「ウチみたいなジャンクになりかけのも直して使うわけやわな。そういや、岳羽博士にお礼言う暇も無かったわ………」

「こちらもだ。向こうは残った者達でなんとかするとは言っていたが………」

「大本は片付いた。あとはゲイリンがいれば問題無いだろう」

 

 通路を歩きながら話す二人の背後からかけられた声に二人が振り向くと、そこにライドウ+ゴウトと凪の姿が有った。

 

「師匠なら多少の事は問題ないプロセスです。そちらのお仲間も一緒のようですし」

「確かに、荒垣もいるしな。それよりも今、目前の問題が大事か」

「核弾頭とやらはこちらでどうにかする予定だが、必要な悪魔がいるが合体に足りない。少し下で契約してくる」

「私は先輩のお手伝いに」

「そちらも準備は入念にな」

 

 ゴウトから念を押されながら、二人はデビルサマナー達を見送る。

 

「カラスに犬に幽霊まで総動員や。そりゃロボでも使うわな………」

「他にも色々いるがな。結局、当初の目的だったタルタロス踏破に辿り着きそうだが」

「すごう回り道しとらへん?」

「言うな………」

 

 改めてラビリスに指摘され、どこか頭痛を感じつつも美鶴はタルタロスの前に打破しなくてはならない案件に力を注ぐ事にした。

 

 

 

『こちらアルジラ、目標に動き無し。まああんだけデカいと動かすだけで色々食いそうだけど』

『こちらシエロ。設置してた監視ユニットが掘り出されてる。さっき逃げてった連中だな~。どこの奴らだ?』

『こちらヒート。どこぞの偵察部隊と接触。食ってから合流する』

 

 超力超神・改の偵察のため、展開したエンブリオンの喰奴達は遠巻きから情報をなんとか収集しようとしていた。

 

「やはり、対象が大きすぎる上に対策も取られているな。この距離からでは詳細までは探れないか」

「不用意に近付くと攻撃されるのは確認した。やはり、アナライズ持ちに頼るしかないか………」

 

 ステルスギリーシートの下で姿を隠しつつ、ゲイルとロアルドが各所からの報告に顔をしかめていた。

 

「ジャンクヤードでもあそこまで巨大かつ強力な装備は無かった。対処は困難だ」

「巨大ロボと戦うなんてそりゃ滅多に無いだろうな。戦った奴いるらしいが………」

「対策が見つかるまで手は出すな。セラがいなければ、オレ達は全力を出せない」

 

 二人の元に戻ってきたサーフが、淡々と指示を出して二人は頷く。

 

「言って悪いが、セラは復帰可能なのか?」

「不明だ。元々弱っていた体に、前回の実験のダメージが大きい。何かさせておかないと、ヒートがいつ勝手に報復に行くかも分からない程にな」

「………セラが復帰出来なければ、最悪の事態も想定する必要がある」

 

 ルアルドとゲイルが考え込む中、サーフが最大の懸念事項を呟く。

 

「考えたくは無いが、考えないとな」

「今こうしている中、誰が飢えで暴走を始めてもおかしくはない。幸か不幸か、ここでは飢えを満たせる物は多く有るが」

「それも対処療法に過ぎない。やはりセラの歌が無ければ………」

 

 三人が考え込む中、通信機がコール音が響く。

 

「こちらエンブリオン。状況に変化か?」

『こちらレッド・スプライトのゾイだ。セラが目を覚ました』

 

 ロアルドが通信を取った所で、聞こえてきたゾイからの言葉に、三人共敏感に反応する。

 

「状態は?」

『一応安定している。だが、間違っても戦場には出せない。恐らく、二度とな』

 

 ゾイが断言するのを、ロアルドとゲイル、普段無表情なサーフですら険しい顔をせざるを得なかった。

 

『そちらの状況も理解している。で、その件でセラが話があるそうだ。手短に頼む』

「分かった」

 

 回線を変える僅かな電子音の後、セラの普段よりも小さな声が聞こえ、ロアルドは音量を最大にする。

 

『みんな………大丈夫?』

「問題ない、エンブリオンは全員無事だ。今偵察任務中だ」

 

 ロアルドからゲイルに変わり、か細いセラの声に返答する。

 

『ごめん………そっちに行きたいけど………先生がダメって………』

「無理はしなくていい。こちらは何とかしている」

『その事……何だけど………アイデアが有るの………』

「アイデア?」

 

 

 

「は? 本気か?」

 

 タルタロス内でのネットワーク構築と超力超神・改の対策を並行して進めていた八雲が、届いた通信に顔をしかめる。

 

「どうかしたんですか?」

「エンブリオンから、ネミッサを貸してくれだとさ」

 

 手伝いをしていたカチーヤが、八雲の様子に声を掛けてくるが、八雲は顔をしかめたままだった。

 

「セラが?………ああ。確かにアサクサだとそんな事が有ったが………うまくいく保証は無いぞ?………分かった、一段落したらそちらに行く」

 

 通信を切っても、変わらない八雲のしかめっ面にカチーヤは不安げに聞いてきた。

 

「セラちゃん、どうかしたんですか?」

「目は覚ましたらしいが、完全にドクターストップ状態らしい。で、当人からの提案で、ネミッサをバイパスして自分の歌を届けられないかだとさ」

「あ………そういえばアサクサで………」

「だが問題は、セラの今の状態だ。安定はしているがかなりひどいようだし、その状態であの歌が歌え、なおかつネミッサがそれをバイパス出来るかだ。そういや、そのネミッサは?」

「ダンテさんと上階の探索に。ついでに屋上まで行ってみるかとか行ってましたけど………」

「行けそうではあるが、念の為呼び戻すぞ。上がどうなってるか…」

「八雲ただいま~。これお土産~」

 

 呼び戻すより早く、当のネミッサが戻ってき、妙な短冊飾りのような物がいっぱい付いた古びた帽子を手渡してくる。

 

「………行ったのか、あそこに」

「何か見覚えある所だったね。ボロボロだったけど。何でかそこから上に登る所見つからないから、帰ってきた」

「オレらはそこまでしか行けなかったが、お前でもそこから上に行けなかったのか?」

「うん、それにお腹空いたからそろそろご飯の時間だと思って」

「そうですね、準備してきましょう」

 

 カチーヤが場を離れるのを見送りながら、八雲はネミッサに向き直る。

 

「エンブリオンから要請が来た。ネミッサ、お前にセラのバイパス役を頼みたいらしい」

「セラちゃんの? 起きたの?」

「一応な。だが動かせる状態じゃないらしい。でだ、ネミッサ、アサクサでセラの歌をバイパスした時の事覚えてるか」

「有ったっけ、そんな事?」

 

 確認しようとした八雲だったが、当のネミッサの返答に思わず頭が下がる。

 

「やっぱ、無意識か………多分お前はセラのテクノシャーマンの能力とどこか似たような所が有るんだろう。それが干渉したんだと思うが、それを人為的に起こせるかどうか………」

「そうなのかな~?」

「なんだったら、オレがあいつら暴走したら取り押さえてやるぞ」

「絶対たたっ斬るだろ、あんた………それとも蜂の巣か?」

 

 そこに口を突っ込んできたダンテに、八雲は胡乱な視線を向ける。

 

「片付けても片付けても厄介事が湧いてきやがる………とにかくはまずあのデカブツどうにかして、ここを登る算段つけて………」

 

 ブツブツと呟きながら、八雲はキーボードのエンターキーを叩く。

 

「ネットワーク構築はこれでOK。あとは各自にパス渡してセキュリティ掛けて…」

「ご苦労さま」

『それくらいはこちらでしておくわ』

 

 聞こえてきた声に八雲が振り向き、そこにイザボーと彼女のガントレットからバロウズが声を掛けてくる。

 

「これで向こうともガントレットで話が出来るんですのね」

「ああ、何か知らんがやたらと高性能だからな、そいつ」

『それはどうも』

「外のデカブツ倒したら、他の勢力が一気にここになだれ込みかねん。防衛線構築するにも、まずは情報網だからな」

「前例でも有りまして?」

「アサクサでヨスガと一度派手にやらかした。下手したらその三倍来るだろうが」

「あれは苦労しましたよね………結局はアサクサ放棄して撤退しましたけど」

「マネカタ全員サーバーマシンに入れるの苦労したっけ~」

「そんな事が有りましたの………」

「結構楽しかったぜ?」

「そりゃあんただけだ」

 

 八雲の説明にカチーヤやダンテがアレコレ付け加える中、イザボーはただ深刻な顔で話を聞いていた。

 

「デカブツの相手にはそちらの手も借りるかもしれんが、残った連中には防衛戦の用意をさせておいた方がいいだろう。最悪、放棄して非戦闘員をシバルバーに撤退させるが」

「どちらにしろ、現状の解決にはこの塔を明け渡すわけにはいかないのでしょう?」

「そう言っちまえばそれまでなんだがな………ここの専門家達はデカブツ相手のメンバーに組み込まれてるから、先に攻略する事も難しい」

「それで、その超力超神・改の攻略作戦の日程は何時ですの?」

「まだ準備が出来きってない。今頃小次郎達が将門公の開放に向かってるはずだが………」

 

 

 

同時刻 坂東宮

 

「ぐふっ!」

 

 凄まじい電撃魔法が修二を襲う。

 

「人修羅!」

「大丈夫だ………」

 

 仲魔のクィーンメイブが思わず駆け寄るが、修二は自力でなんとか立ち上がる。

 

「ほう、なかなかやるな」

 

 彼に電撃を放ってきた者、この坂東宮の南方を守る四天王が一人、鬼神 ゾウチョウテンが笑みを浮かべながら構える。

 

「さすがにやんごとなき方ってのに、アポ無しじゃ難しいか………」

「左様。そなたたちが社を目指すのならば、我が試練を乗り越えよ!」

 

 そういうゾウチョウテンの目が異様な眼光を発したのを見た修二は思わず身構える。

 

「来るぞ!」

「ハアアァァ!」

 

 ゾウチョウテンの口から、裂帛の気合が放たれ、修二が仲魔達に警戒を促す中、ゾウチョウテンが手にした五鈷杵を振り回してくる。

 

「このっ!」

 

 修二は両手でその一撃を受け止めようとするが、気合とともに増強されたゾウチョウテンの力を受け止めきれず、弾き飛ばされる。

 

「やれ!」

 

 己自身が弾き飛ばされながらも、修二の号令に仲魔達が襲いかかる。

 スパルナとクー・フーリンが衝撃魔法を同時に叩き込み、ゾウチョウテンの動きが止まった所に間髪いれず鉤爪と槍が叩き込まれる。

 

「そのまま動きを止めろ!」

 

 クィーンメイブに回復魔法をかけられながらも、修二は両手に魔力を収束させる。

 

「死亡遊戯!」

 

 収束した魔力を剣へと変え、修二の必殺の一撃がゾウチョウテンを大きく斬り裂く。

 

「見事………通られよ」

 

 どこか笑みを浮かべながら、ゾウチョウテンの姿が消えていく。

 それを見届けた修二は、思わずその場に座り込んだ。

 

「しんど………他の連中はどうなった?」

「今こちらに向かっています」

 

 槍を手にしたまま、クー・フーリンが目をこらして他の四天王の相手をしていた者達を確認する。

 

「そちらも終わったか」

「少し手こずったか?」

「さすがは東京の守護神の宮だ」

 

 こちらに来た小次郎、アレフ、フリンが涼しい顔をしているのに、修二の頬が少しひきつる。

 

(こいつら人間じゃねえ………)

 

 内心ぼやきながらも、修二も立ち上がり、坂東宮の中心部を見る。

 

「あそこにいるのか?」

「そのようだな」

「マトモな状態だといいが。こちらだと五体バラバラで封印されてたぞ」

「こちらだと東京を守る天蓋になって、頭部だけ復活していた」

「………不安にさせないでくれ」

 

 アレフやフリンの方の将門公の現状に、修二は思わず肩を落とす。

 

「少なくてもその心配は無さそうだ」

 

 小次郎が坂東宮の中心、そこから感じる神性の威圧感に、四人の顔が引き締まる。

 

「ここはお前の世界だ。お前が代表して開けるといい」

「大丈夫かな………」

 

 小次郎に促され、修二は中心部の扉を開く。

 そして、そこにいる平安貴族のような姿をした後光を放つ存在、東京を守る守護神、平 将門と対峙した。

 

「四天王を打ち破り、よくここまで来た」

「まあ、分担したけど………」

 

 いきなり将門公に話しかけられ、いささか当惑して修二は答える。

 

「それで、その………」

「今、帝都は我の力で抑えられる限度を超えている。かろうじて崩壊は防いでいるが、それもどこまで持つか………」

「その件でお力を借りたいのです」

 

 言い淀む修二に代わって、小次郎が将門公に願い出る。

 

「分かっておる。鋼の巨神の事であろう。よもや、あのような物まで帝都に現れようとは………」

「今、対抗作戦を合同で立てている最中です。そのため、短い時間でいいのでアレを足止め出来れば………」

「いいだろう。まずは人修羅と呼ばれる者よ」

「オレ?」

「これを」

 

 将門公は頷きながら、一つのマガタマを修二へと渡す。

 

「我の力を持ったマガタマだ。そなたの力になるだろう」

「ど、どうも」

「他の者達は剣を前に」

 

 将門公に言われ、小次郎、アレフ、フリンは自分達の剣を抜いて将門公へと向けると、将門公はそれに順に手をかざし、刀身が僅かに燐光を帯びていく。

 

「我が力を振り分けておいた。その三振の剣とそのマガタマで鋼の巨神の四方を囲め。僅かな間なら、我が力で抑え込めよう」

「ご助力、ありがとうございます」

 

 小次郎に習い、他の者達も将門公に頭を下げる。

 

「それと、ここまでたどり着いたそなたらに話しておきたい事が」

「へ?」

 

 いきなりの話に、修二が思わず間抜けな声を上げるが、他の三人は視線を鋭くしていた。

 

「そもそも、東京受胎の前から、我を危険視した者によってここは封印されていた。だが、異なる世界の者達が現れ始めた頃から、なにか声が聞こえるのだ」

「声、とは?」

「分からぬ。だがそれは、我を誘惑する。かつての大怨霊の頃を思い出せ、と。危険を感じた我は、四天王にここの護りを固めさせた。それでもなお、どこかから声は聞こえる気がするのだ」

「これほどの護りで?」

 

 将門公の話に、小次郎とアレフがここまでの坂東宮の固い守護を思い出す。

 

「将門公に干渉するとなると、相当な力を持った存在か………」

「此度の件、あまりに異様過ぎる。何者かが裏で糸を引いているのやもしれぬ。しかも、数多の世界で」

「そこまで出来る奴がいるのか?」

「かなりの上位神、もしくは魔神………」

「だが、あまりに影響が大き過ぎる。心当たりが全く無いわけでは無いが、さすがに………」

 

 将門公からの警告に、小次郎、アレフ、フリンが色々と考え込む中、修二はついていけずに黙り込む。

 

「よく分かんねえけど、これだけやらかしてるなら、そろそろその黒幕ってのが出てくるんじゃね?」

 

 修二の何気ない一言に、全員の視線が集中して思わず当人はたじろぐ。

 

「一理ある」

「現状では、まずあの超力超神・改の対処が優先だ」

「それが片付けば、次はタルタロスが主戦場になる。準備を進めておかなくては」

 

 即座に議論を切り上げた三人は一様にうなずくと、将門公に向き直って拝礼する。

 

「ご助力感謝します」

 

 代表するように小次郎が礼を述べ、慌てて修二も同じように頭を下げる。

 

「それでは、我々はこれで」

「そなたらの武運長久を祈ろう」

 

 その場を去ろうとする四人だったが、そこで将門公が修二を見る。

 

「待たれよ、人修羅と呼ばれし者よ」

「はい?」

 

 呼び止められた修二が振り返り、他の三人も足を止める。

 

「そなたの体は完全に悪魔と化しているが、魂は人のままだ。何か心に異常を感じた事は?」

「う~ん、今の所は。ダチは二人ともおかしくなっちまったが」

「だとしたら、妙だ。それ程振れやすい魂を持つ者には干渉してきていない事になる」

「つまり、その何者かは確実に堕ちやすい者のみに干渉している?」

「もしくはすでに堕ちている者、だ」

「………帰ったら皆に伝えておこう。ひょっとしたら他にも敵対していた者が出てきかねんと」

 

 将門公からの警告を胸に、四人は坂東宮を後にした。

 

 

 

『それでは、超力超神・改攻略ミッションの確認作業に入ります』

 

 レッド・スプライト号の一室で、各チームの代表者が集まり、アーサーの議事の元に作戦の最終確認を行っていた。

 

『まず第一段階、当艦の電子装備及びジャミング能力のペルソナによる電子攻撃を実行。これの目的は超力超神・改の兵装の使用不可にする事です』

「まず注意すべきはあの火力だ。あんな物をまともに食らったらひとたまりもない」

 

 確認をしながら、克哉が頷く。

 その点に関して、誰も異論は唱えない。

 

『第二段階、東京の守護神と称される存在、平 将門の力を持って超力超神・改の動きを封じ、その間に兵装及びプラズマシールド発生装置を破壊、使用不能にします』

「将門公の力を持ってしても、どの程度動きが封じれるかは不明だ。極めて迅速に行う必要が有る」

「兵装破壊はこちらに任せてもらおう。慣れている」

 

 小次郎の補足説明に、ゲイルが更に補足していく。

 

『第三段階、山岸 風花、久慈川 りせ両名の協力の元、核弾頭の位置を確定。葛葉の秘術によってそれを奪取の後、解体・無力化します』

「責任重大だな」

「いきなりドカンって事ないですよね?」

 

 美鶴が頷く中、悠は頬を引きつらせる。

 

「核弾頭ともなると、そう簡単には爆発しないように何重にも安全装置がついている」

「ならば、取り出してしまえばこちらの物か」

 

 仁也がアーサーから提示された核弾頭のデータを確認し、ライドウが詳細までは分からなくても、概要は理解する。

 

『第四段階、ここまでの作戦で無力化した超力超神・改内部に突入、製作者と思われる神取 鷹久を確保もしくは打破します』

「それが一番の難題だな」

「内部にどんな仕掛けがあるかも分からないし、神取自身も相当な実力者だ」

「精鋭部隊を複数箇所から同時侵入させる。ライトニング号の見取り図はあるが、どこまで原型が残っているかがカギか」

「もうすでに残ってないような?」

「だが、変形時の形状変化データから、推測は可能だ」

「他の勢力が介入してくる可能性も有るわ」

 

 色々な意見が飛び交う中、ミッションの詳細確認は遅くまで続いた。

 

 

 

「つまり、オレらはりせちーと風花ちゃんが核弾頭探り当てる間、護衛するのが担当って訳か」

「後は荒事慣れしてる連中に任そう。さすがに巨大ロボと戦った事はねえ………」

 

 業魔殿の秘密武器庫で、陽介と順平が得物の確認をしながら呟く。

 

「核弾頭の解体はレッド・スプライト号の人達がやってくれるそうだ」

「そもそも、さすがに核弾頭の解体は知りませんね………」

 

 明彦が色々なナックルを試す中、直斗がずらりと並ぶ銃火器に頬を引きつらせながら考え込む。

 

「放射能とか大丈夫だよね………?」

「多分………」

「あ、これ一応全員分だってもらったんだけど」

 

 ゆかりと雪子が渋い顔をする中、千恵がネガフィルムから作ったパッチをテーブルの上に広げる。

 

「何スかこれ?」

「放射線は感光しますから、これを胸に付けておいて黒くなったら危険の証拠です」

「へ~、そうなんだ」

 

 完二が首を傾げるのに風花が説明し、りせもパッチを手に取ると胸へとつける。

 

「あの世でも似たようなの付けてたな………」

「あの時は危険だったぞ、順平」

「何か危険な事を言ってる気がするクマ………」

 

 順平と明彦の会話に、クマが深く突っ込んではいけない気がしつつ、自分の手には嵌まるクローを探していた。

 

「りせさんや風花さんの事を向こうが知っているかどうかがカギですね」

「ワンワン!」

 

 槍の具合を振って確かめる乾の足元で、やる気満々のコロマルも鳴き声を挙げる。

 

「大丈夫、私のペルソナで二人の存在はなるべく隠す」

「干渉しないかが問題ですね」

「この後確かめておこう」

 

 チドリが胸を張るが、風花とりせは念を入れて準備を進めていく。

 

「大変な事になってたみたいだね」

「啓人!」

「不破さん!」

 

 そこへ、ようやく退院してきた啓人が姿を表し、課外活動部の仲間達が驚く。

 

「不破、怪我はもう大丈夫なのか?」

「ええ、なんとか。まだ体がギクシャクしますけど」

「よかった~。あのダンテって人、いきなりお腹の傷焼いたりして本当に大丈夫かと心配してたんだ~」

 

 明彦の確認に苦笑いする啓人に、ゆかりが胸を撫で下ろす。

 

「大丈夫、あの世に片足突っ込んだだけだから」

「………なんで彼女がここに?」

「お前がくたばってる間ちょっとな」

 

 余計な事を言うチドリに、啓人がそちらを指さしながら順平に確認するが、順平は照れ笑いするだけだった。

 

「それがそっちの切込み隊長って奴?」

「あ、話は聞いてる。新しいペルソナ使いの人達?」

「自称特別調査隊の切り込み隊長、花村 陽介。よろしく」

「特別課外活動部戦闘リーダーの不破 啓人、こちらこそよろしく」

 

 陽介が会議中の悠に代わって挨拶しつつ差し出した手を、啓人が握り返す。

 

「後はアイギスさんが復帰すれば」

「あ、そろそろ調整終わってると思います。啓人君の事心配してたから、顔見せてきた方が」

「そうだね、そうするよ」

 

 乾の声に風花が思い出した事をアドバイスすると、啓人はひとまずそちらに向かってみる事にする。

 ほどなくヴィクトルの研究室へと入ると、そこにはどこか不安げな顔のアイギスとその横に立つラビリス、調整台の上に寝たまま未だ目覚めないメティスの姿が有った。

 

「啓人さん! もう大丈夫なのですか!?」

「ごめん、心配かけた」

 

 啓人の姿を確認したアイギスが驚く中、啓人は頭をかきながらそれに応える。

 

「エラい負傷やったけど、よういいんか?」

「何とか」

「気ぃつけい。ヴィクトルとゾイとかいう先生が妙な治療してたかもしれへんで」

 

 ラビリスも声をかけてくる中、メティスの状態を確認していたDr.スリルが余計な事を言ってラビリスに睨まれる。

 

「それで、その子は………」

「まだ覚醒せんな。ワイもヴィクトルも色々やったが、原因が分からへん」

「また敵対せえへんとも限らへんな」

 

 スリープ状態から反応の無いメティスに、室内には重い空気が立ち込める。

 

「啓人さん、私は間違っていたのでしょうか? 私の妹を助けたいと思ってした事だったのに………」

「そんな事は無いさ。あれだけ頑張ったんだ。きっと力を貸してくれるよ」

「ですが………」

 

 不安げなアイギスの肩に、啓人が手を載せた瞬間だった。

 

「あん?」

「あれ?」

 

 突然計器類が反応し、メティスの目がいきなり見開かれる。

 その目がアイギスと啓人へと向けられた瞬間、その体が跳ね起き、そのままの勢いで鉄拳が治ったばかりの啓人の腹へと叩き込まれる。

 

「おぐっ!?」

「メティス!?」

「あかんか!」

 

 アイギスが驚き、ラビリスが臨戦態勢を取ろうとするが、そこで更なる行動をメティスが取った。

 

「姉さんに汚い手で触るな!」

「………はい?」

「は?」

 

 啓人へと叫びながら、アイギスを自分へと引き寄せたメティスに、アイギス当人もラビリスも呆気に取られる。

 

「汚いって………」

「幾月博士から聞いているぞ! お前は仲間の女子をひっきりなしに部屋に引き入れているらしいな!」

「それはその、タルタロス探索とかペルソナの相談で………」

「そう言って姉さんも毒牙にかけるつもりだろう! そうはさせるか!」

「あの、メティス?」

「大丈夫姉さん、私がいる限り、あの男には絶対手を出させないから」

 

 悶絶している啓人に向かって騒ぎ立てるメティスに、アイギスも困惑していた。

 

「どないなっとります?」

「知らん。けど完全に覚醒して問題無く動いとるの」

 

 確認を取るラビリスに、Dr.スリルは計器類をチェックして結果だけを報告する。

 

「よかったやないか。仲間にはなってくれそうやで」

「これは、その………」

「私の仲間はアイギス姉さんだ」

「ウチは?」

「一応その次辺り」

「一応………」

「あの、メティス。それでは一緒に戦ってくれるのですか?」

「もちろん、姉さんのためだったら」

 

 かつての無感情の機械とはまるで真逆、しかもかなり重度にシスコンを拗らせている事に、アイギスとラビリスは困惑しつつも、取り敢えずメティスを仲間に出来た事に納得する。

 

「あの、それでは私はメティスが無事再起動出来た事を皆さんに知らせてきます」

「私は姉さんさえいれば…」

「一緒に行きよし。次の作戦、猫だろうとシスコンだろうと必要やから。こっちはウチが運んどきやす」

 

 まだ悶絶している啓人に肩を貸しながら、ラビリスは先に部屋を出、アイギスもメティスを伴ってそれぞれ別方向へと向かっていく。

 

「………ホンマに役に立つんやろか?」

 

 部屋に残ったDr.スリルが、メティスのデータを見直しながら、一番の懸念事項を呟いていた。

 なお、退院後すぐ医療室に戻ってきた啓人は、ゾイから怒鳴られたが負傷はアザだけで済み、アイギスと一緒に歩くメティスの姿に機動班を含む一部の者達(特にアンソニー)に恐怖と混乱をばら撒いた。

 

 

 

「どうやら、上の街の方が騒がしいですね」

「近い内に何かやらかすんやろな」

 

 受胎東京の廃墟となったビルの影に、タカヤとジンがシバルバーの方を見上げながら呟く。

 

「アレへの対処法でも思いついたのでしょうか」

「あないな巨大ロボ、どう倒すんやろな?」

「さて、どうでしょうか………」

 

 ジンの疑問に、タカヤが苦笑する。

 

「けど、今はあのロボがいるために、誰もカグツチに手を出せない状況に有ります」

「あのおっさん、あんな奥の手有るなんて言っとらんかったが、お陰で誰もコトワリの開放が出来ん」

「今、壊されると困りますね………」

「じゃあ、あっちにつくんか?」

「そこが悩みどころです。彼の目的がどこにあるのか、それが分からなければ下手な助力は逆効果になるかもしれません」

「得体がしれん言うんは確かやけどな。あれだけの物出してきておきながら、何もせん方が気になるわ」

「もしくは、もう目的を達しているか………」

「どちらにしろ、こちらのやる事は変わらんしな」

「ええ、人間の世界を取り戻させない事。ストレガの目的が叶ったこの世界、壊させはしません………」

 

 

 

「必要物資の準備及び配備、間もなく完了です」

「術式準備及び必要悪魔、完了している」

『ミッション詳細配布完了。24時間以内に発動可能』

 

 レッド・スプライト号のブリッジで各所からの報告を聞きながら、克哉、キョウジ、アーサーの三人がミッションの最終調整を行っていた。

 

「やはり、問題は喰奴達の安定化か………」

「あれだけのデカブツとやり合うには、あいつらの協力は不可欠だ。だが、戦わせればそれほど、暴走の危険性は高くなるだろうな」

「一体ずつなら術者による術式で安定化させられるし、業魔殿からのマグネタイト供給も有るが、戦闘中にはどちらも確実に出来るとは言えない」

『不確定要素が排除されない限り、当ミッションの発動許可は出せません』

「暴走したら、まとめて倒しても構わないとかヤバい事言ってるしな………セラの容態は?」

『医療班チーフのゾイから、医療室からの出入りすら禁止されたままです。意識ははっきりしていますが、身体能力がかなり弱まっています』

「ネミッサ君をバイパスにするとかいう話はどうなっている?」

『アサクサでのデータを見る限り、理論上は可能。しかしゾイは難色を示しています』

「あくまで最後の手か………」

「手なら、他にも有ります」

 

 そこで聞こえてきた声に克哉とキョウジが振り向くと、セラ同様医療室に入院中だった麻希の姿が有った。

 

「園村君、もう大丈夫なのか?」

「ええ、何とか。ゾイ先生にはまだ艦内からの外出は禁止されてますが」

「つまり君も出撃禁止か。それで、手ってのは?」

「前の実験で、私はセラとのバイアスに使われたので、少しならあの子とリンク出来ます。もしもの時は、私がセラちゃんの歌を中継して、それをネミッサさんに届けられると思います」

「本当か? 正直、君のダメージも小さくはないと思うのだが………」

「セラちゃんに比べればだいぶ軽いです。ゾイ先生や黎子先生も付いてくれますし」

「分かった。だが無理はすんなよ」

 

 決意の固い麻希に、キョウジは彼女の提案を受け入れる事にする。

 

「………アーサー、ミッションの発動可能時間は24時間後だったな?」

『はい。超力超神・改対策ミッション、発動を許可していいとみなします』

「ああ、各所に通達してくれ」

『了解』

 

 文字通り、最大の敵相手の戦いへのカウントダウンが始まった………

 

 

 眠れる力を呼び起こし、そそり立つ壁へと向かって糸達は向かっていく。

 その果てに待つのは、果たして………

 


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