真・女神転生 クロス   作:ダークボーイ

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PART46 RESCUE MISSION

 

「すまない、完全に裏をかかれた………」

「仕方あるまい、まさかそこまで緻密な作戦で、セラ君を狙ってくるとは」

「園村も一緒だ。早々簡単に手を出せるとは思えないが、逆に言えばそれがいつまで持つか、だ」

 

 戻ってすぐに警察署所長室に訪れた尚也の報告に、克哉と南城は沈痛な表情を浮かべていた。

 

「合理的な方法だ。セラをさらえば、最悪喰奴は自滅する」

「こちらもいつまで持つか、だな」

 

 ゲイルとロアルドが深刻な表情をしながら、業魔殿から支給されたマグネタイトバーをかじる。

 

「これである程度はごまかせるが、やはりセラの歌が無ければ暴走は時間の問題だろう」

「単体なら鎮める事は出来るらしいが、もし集団で起これば………」

 

 内外に多くの問題を抱えた克哉が、考えたくない事態に頭を抱えたくなるが、そこでレッド・スプライト号からの緊急直通通信が飛び込んでくる。

 

「何事だ!」

『喰奴の一体がこちらを襲撃! 武器庫を漁ってる! 赤い奴だ!』

「ヒートか」

「今こちらから人を回す! 不用意に手を出すな!」

『り、了解!』

「行こう」

 

 その場で唯一表情を変えていなかったサーフの一言に、喰奴達と尚也も急いでレッド・スプライト号に向かう。

 その場に残った南城と克哉は、どちらともなく重い溜息を吐き出す。

 

「どうやら、彼は救出部隊の編成が待てなかったようだな」

「全く、喰奴は大きな戦力なのは間違いないが、こうも問題を起こされては………」

「編成を急ごう、冥界に行った者達を待ってはいられない。一番厄介なのは、セラだけでなく、園村の利用価値を向こうが知ればとんでもないリスクと成り得る」

「カルマ協会のジェナ・エンジェル。悪魔化ウイルスを作り得る程の天才が、何を目的ととしているのか………」

 

 どう考えても危険な事しか考えられない状態に、克哉の焦燥は募るばかりだった………

 

 

 

「そこの喰奴! 不必要な立ち入りは禁止のはずだ!」

「ああ!?」

 

 レッド・スプライト号内部、武器・弾薬保管室の前で、力任せに扉を千切り開けたヒートに、デモニカをまとった機動班が銃口を向けるが、ヒートは怒声を撒き散らしながら、中からありったけの武装を掴み上げる。

 

「必要なら申請すればちゃんと渡す! 勝手な持ち出しは非常時以外オレ達でも禁止なんだぞ!」

「じゃあ今がその非常時だ!! 邪魔するなら食うぞ!!」

「ひっ………!」

 

 喰奴化したまま、咆哮のような声を上げるヒートに、機動班は思わず後ずさる。

 

「ど、どうする?」

「一応味方という事にはなってるが………」

「あの様子では本気で食われかねんぞ………」

「他の喰奴達はまだか!」

 

 手を出しかねる機動班だったが、どう見ても本気なヒートに、ただ震えて包囲するだけだった。

 

「止めろヒート」

「救出部隊はこれから選抜する! 無論君も入れる!」

「待ってられるか!! エンジェルの奴がセラに何しでかすか、考えてみやがれ!」

 

 そこにサーフと尚也が現れ、説得を試みるが、ヒートは聞こうともせず、人の姿に戻ると、背負えるだけの銃火器、弾薬を背負う。

 

「聞いて聞くような奴ではなさそうだ」

「最近、一際ひどくなった」

「仕方ない、力づくで…」

 

 一緒に来たロアルドとゲイルも説得は不可能と判断し、アートマやアルカナカードをかざそうとした時だった。

 ふとヒートの背後に人影が立った。

 

「あん?」

 

 気配に気付いたヒートが振り返ろうとした時、その首筋に注射針が突き立てられ、無造作に巨大な注射器の中身が注入されていく。

 

「てめえ、なに…しや………」

 

 激高しながら注射針を抜こうとしたヒートだったが、途中で力を失い、その場に倒れて昏倒した。

 

「暴れる患者にはこれに限る」

「あの、先生それ致死量の何倍………」

 

 ヒートを昏倒させた当人、レッド・スプライト号医療班のゾイが空になった注射器を手に一人頷くが、助手のメイビーがその薬品量の多さに顔色を変える。

 

「喰奴の頑強さから逆算した量だ、死にはしないだろう」

「確かにバイタルは安定してる………」

 

 断言するゾイに、機動班もさすがにドン引きしながらデモニカのセンサーでヒートの状態を確認、喰奴のタフネスと平然と致死量オーバーを注射したゾイに畏怖を覚えた。

 

「すまない、迷惑を掛けた」

「まあ、あんなか弱そうな子さらわれたら、何が何でも助けたいって気持ちは分からなくもないが………」

「ちょっと極端すぎるけどな」

 

 サーフが珍しく積極的に頭を下げる中、数人がかりでヒートを外へと運び出す。

 

「ついでだ。そいつが持ちだしたブツ、そのまま持って行って構わんぜよ」

「…いいのか」

「セラって子の歌が無いと、お前ら暴走して共食いするって聞いてるぜよ。巻き込まれたらかなわん」

「確かに一理あるけどね」

「了解した」

 

 資材班のアーヴィンの言葉に、サーフは再度頭を下げ、尚也と共にヒートが持ちだそうとした銃火器を集め始める。

 

「これ、全部一人で使う気だったのかな?」

「ヒートは重火器の名手だ」

「本気で一人で戦争する気だったのか?」

「かもな………」

 

 手伝ってくれた機動班の班員達も呆れる程の量と種類に、ヒートの焦りが感じ取れるようだった。

 

「アーサーが今救出ミッションをシュミレーションしているらしい。だが相手はかなりの武闘派って話じゃないか」

「ヨスガだろ? オレ偵察部隊と交戦した事あるけど、エンジェルとオーガで構成されたやべえ連中だったぜ」

「下にいる連中でヤバくない連中ってほとんどいないような………」

 

 機動班のかわす会話に、尚也が改めて現状の危険度を認識する。

 

「マキ………無事でいてくれ………」

 

 手にした銃の重みを感じながら、尚也は仲間の無事を祈るしかなかった。

 

 

 

「このっ!」

 

 千晶の異形の腕が、目の前の壁を一撃で破砕する。

 

「やれやれ、やっとか………」

 

 隣にいたエンジェルが吐息をもらしながら、目の前に有るまるで童話に出てくるようなお菓子の家へと近づき、その扉を開ける。

 

「くっ………」

「ゴメンお姉ちゃん………」「もうこれ以上は………」

 

 お菓子の家の中、明らかに疲弊してる麻希のそばで、彼女の切り札であるペルソナ・マイとアキが限界に達して消えていく。

 それと同時に、お菓子の家もその周囲を取り囲んでいたダンジョンも消えていき、麻希とその背後にいたセラだけが残った。

 

「まさか、己のイドを具現化させてダンジョン化させるとはな。セラ以外にこんな事が出来る者がいようとは………」

「手間掛けさせてくれたわね」

 

 千晶が前へと出ると、麻希はとっさに拳銃を抜くが、トリガーが引かれると同時に千晶の異形の腕が銃弾ごと拳銃を弾き飛ばす。

 

「あっ!」

「マキ!」

 

 続けて異形の腕が麻希の喉笛を掴み、その体を持ち上げる。

 

「さあて、どうしてくれようか………」

「マキを離して!」

「そうだな、彼女は貴重なデバイスだ。壊されてはかなわん」

「ちっ!」

 

 セラが千晶にすがりつこうとするが、エンジェルの言葉に千晶は舌打ちしつつ、無造作に麻希を手放す。

 

「あう………」

「マキ! マキ!」

 

 身体共に限界に達したのか、その場で力なく座り込む麻希にセラは慌ててゆすり起こそうとするが、限界に達していたのかマキはほとんど意識を失っていた。

 

「安心しろ、殺しはしない。これだけの力を持っているなら、カグツチへのアクセスにも耐えられるだろう」

「太陽にやった時は、この子以外は全員発狂死したんでしょう? 本当に大丈夫なの?」

「機械的補助でやるつもりだったが、都合よくバイアスに使えそうな奴が付いてきた。失神しているなら尚の事好都合だ」

「やめてエンジェル……やめて母さん!」

 

 泣き叫ぶセラに、エンジェルは用意しておいた薬品スプレーを噴射させ、それを吸ったセラもその場で昏倒する。

 

「今、その子貴方の事、とんでもない呼び方したような気がしたけど?」

「事実だ。セラフィータは両性具有の私の精子と卵子を結合させて生まれた、私の娘だ」

「娘を道具として使うか、使える物は何でも使う主義ってわけ………」

「そちらの教義からズレているかもしれないが、これが私のやり方だ」

「いいえ、気に入ったわ」

 

 千晶は腕同様異形と化している口元を歪める笑みを浮かべ、麻希とセラを両方まとめて片手で掴み上げる。

 

「機材の準備はそろそろ整っているはずだ」

「ちょうどいい時間つぶしだったわね」

「多少部下が減ったがな」

 

 ダンジョンが消えた後、そこかしこにヨスガの天使やカルマ協会の戦闘員の屍が転がっているのを気にも止めず、二人はカグツチへのアクセス装置の設置してある部屋と向かう。

 

「上手く行けば、守護など無くても創世は可能だろう」

「それはいいわね。もっともそこまで上手く行くとは思ってないけど。あなたはどんな世界を望むのかしら」

「全ての者に力とチャンスを与える世界、それが私の望みだ。最後に力のある者が残る、ヨスガのコトワリと言えなくもない」

「ますます気に入ったわ。私達で力が全ての世界を創世するのもいいわね」

「その時は、互いにどちらがボスかで殺しあうかもしれないぞ?」

「それはとてもとても楽しみね………」

 

 笑みを更に深い物にし、千晶は含み笑いをじめ、それはやがて哄笑へと変わっていく。

 連られるようにエンジェルも笑い声を上げ、二人の笑いがマントラ軍本営に響いてくる様を、双方の部下達が何故か寒気を感じながら聞いていた。

 

 

 

「やはり、マントラ軍本営にいると考えるのが妥当でしょう」

「問題は、まんま要塞って事ね………」

 

 珠閒瑠警察署の一室で、祐子とレイホゥがヨスガの本拠地であるマントラ軍本営の略図を広げながら、救出作戦に頭を悩ませていた。

 

「今戻った」

「ゲイルさん、ヒートさんは?」

「薬で眠っている。数時間以内には起きるだろう」

「喰奴が昏倒って、相当盛ったんじゃない?」

「致死量の数倍程だそうだ」

 

 茶化したつもりのレイホゥだったが、真顔のゲイルの答えに、祐子共々顔色を変える。

 

「救出作戦の件だが、レッド・スプライト号から出せる人員は前回より少なくなりそうだ」

「でしょうね、あんだけ派手にやったばかりだし………アンタ達は大丈夫?」

「問題ない」

 

 そこにサーフも顔を出し、略図へと視線を移す。

 

「それが二人のいる場所か」

「ヨスガが何かをするとしたら、ここでしか考えられないわ」

「問題は、どこにいるかね………」

「内部の詳細を知っているのは、入った事のある英草君だけね」

「しばらくは戻ってこれそうないし、私達でどうにかするしかないわ。他の勢力の動向も気になるし、街の防備も固めないと」

「あの………」

 

 どうするべきか皆が頭を悩ませる中、控えめにドアがノックされ、風花が姿を見せる。

 

「あら風花ちゃん、もうちょっと休んでていいわよ?」

「いえ、セラさんや麻希さんの事もありますし、ナビゲーターの私が休むわけにもいけません。それに、近くまで行けば私のペルソナで二人の位置が分かると思います。上手く行けばエスケープロードで…」

「そろそろ、向こうには風花ちゃんの能力はバレてる頃よ。その隙は無いと思うわ」

「そうですか………」

「お~い、会議の準備出来たから業魔殿に集合だって~」

 

 そこへ克哉の使い魔であるピクシーがやってきて伝言を伝えるが、そこでレイホゥが首を傾げる。

 

「あれ、レッド・スプライト号でやるんじゃなかったっけ?」

「あの赤いのが暴れて変更だって~」

「早い所救出部隊を送らないと、また暴れかねないわね………」

「頼りにはなるんだけど、ちょっと思い込みが激しい人なのね」

「そういうレベルじゃないと思うんですけど………」

 

 前に見た喰奴の暴走を思い出し、風花は悪寒を感じずには居られなかったが、とにかく一刻も早くセラと麻希を救出するべく、業魔殿へと向かった。

 

 

 

「状況は一刻を争う」

 

 会議の開始と同時に、克哉が発した一言に異論を唱える者は誰一人としていなかった。

 

「セラを殺すのではなく、拉致したという事は何らかの利用目的があっての事と推察するのが妥当だ。それがなんであれ、糸を引いているのがあのジェナ・エンジェルなら準備に時間は然程必要とはしないはず」

「園村が一緒というのは、半分行幸で半分不運、と言った所だろう。園村が時間を稼いではくれるだろうが、彼女まで向こうの手に落ちれば、事態は更に悪化する可能性もある」

 

 ゲイルと南条の冷静な分析に、誰もが表情を険しくする。

 

「ヨスガはこの受胎東京でも有数の過激派よ。戦力も半端ではないわ」

「それが本拠地に立て篭もりしてる訳ね………」

 

 祐子の説明に、レイホゥは思わず嘆息する。

 

「今シエロと機動班からなる偵察部隊がイケブクロに向かっている。詳細が直に入るはずだ」

「問題は、どうやって突入するか、か」

 

 ロアルドの解説に尚也はその後に事について考える。

 

「ヨスガはこの間のシジマへの威力偵察を観察していただろう。上空からの突入は確実に警戒されている」

「アマラ転輪鼓の転移もそうね」

「ではどうする? どこか他に進入路は?」

 

 ゲイルと祐子の指摘に、南条は打開策を考慮するが、現状のデータでは明確な侵入方法は思いつかない。

 

「あの………」

 

 そこで風花がおずおずと手を挙げる。

 

「山岸君、何かいい手でも?」

「多分、何ですけど、前に私のペルソナの有効範囲より遠距離から、カチーヤさんや高尾先生と感覚を共有させてエスケープロードをした事が有るんです。セラちゃんや麻希さんは、もっと強い感覚を持ってるみたいなので、ひょっとしたら、共有化出来たら相互に転移出来るんじゃないかと………」

「それ本当!?」

「確信はちょっと………」

 

 驚いて席を立つレイホゥに、風花はビクつきながら自信なさげに応える。

 

「待ってくれ、それならまず二人をこちら側に転移させればいいのではないか?」

「実は、私のエスケープロードって状況如何では効果が発動しないんです。お二人が拘束とかされていたら、出来るかどうか………」

「確実にされてるわね、下手したら封印状態よ」

「橘さんにはかつてのマントラ軍の長だった牛頭天王の力が宿ってるわ。そういう対処も知っているかも」

 

 克哉の疑問に風花がうなだれる中、さらにレイホゥと祐子が追い打ちを掛ける。

 

「敵はこちらの外部からの侵入にはかなりの警戒をしていると推察出来る。だが、内部に直接突入出来るのなら、警戒網を無視する事すら可能だろう」

「だが成功確率は? 有効距離は? 未確定要素が多過ぎる」

「それ以上に時間が無い。セラがいなければ、我々喰奴がどれくらい理性を保てるかは自信が無いからな」

 

 ゲイル、南条、ロアルドの三人が素早く問題点を指摘、成功率をそれぞれが脳内で計算していく。

 

「あまり悩んでもいれない、ってのも問題ね。ヒートが目覚ます前に作戦立てておかないと、また暴れるかもしれないし」

「それどころか、単身突撃しそうよ、アレは………」

 

 レイホゥと祐子も悩む中、室内に電子音が響く。

 

「シエロからか」

『ブラザー、こちらシエロ! 敵のアジトはすげえ数の天使が取り囲んでる! しかもなんか高いビルの上にアンテナみたいなのが設置されてるぜ! こっちはカルマ協会の兵隊が警備しながら準備進めて…うわっ! 撃ってきやがった!』

「アンテナ、だと?」

「まさか………」

 

 シエロからの通信に克哉は眉を潜めるが、ロアルドはある可能性に辿り着く。

 

「そうか、分かった! マントラ協会はヨスガと協力して、セラを本来の目的のために使う気だ!」

「本来の目的って、確か………」

「カグツチに交神しようというの!?」

 

 レイホゥがセラの能力の事を思い出すが、祐子はその危険性に誰よりも早く気付いた。

 

「カグツチは創世のための母体よ! そんなのと交神したら、何が起きるか分からないわ! そもそも、セラちゃんも持たないかもしれない!」

「セラが虚弱なのも、幾度も神にアクセスしたためと聞いている。最悪、使い捨てる可能性も有り得る」

 

 ゲイルの導き出した恐ろしい演算結果に、誰もが生唾を飲み込む。

 

「文字通り一刻の余裕も無い。現存戦力の許す総員を持って、早急に園村とセラを奪還する必要がある」

「だが相手は屈指の武闘派だ、今の戦力で突破出来るのか?」

 

 深刻な顔の尚也に、克哉もまた深刻な顔で考えこむ。

 

「他の連中の動きも活発になってるようだし、あかりがいない以上、仮面党からは人員は出せない」

「街の警備を薄くする訳にもいかないし、主力の半分以上が冥界に落ちたのは全く予想外だったしね………でも、やるしかないわね」

「ええ、これ以上事態の深刻化は避け…」

 

 それまで黙っていた杏奈が険しい顔で市街警備重視を宣言し、レイホゥと祐子も表情が険しくなっていたが、そこで突然祐子の体がケイレンを始める。

 

「! これって…」

 

 何人かは突然の事に驚くが、見た事のあった者達は次に何が起きるかを予想し、目を見開く。

 ケイレンが止まった次には、祐子の顔が塗料をぶちまけたかのような異形の物へと変貌していた。

 

「汝ら、道に迷いし愚か者達よ! 変革の時は近付かん! 恐るる事なかれ! 無謀こそが有望と成り得ん!」

 

 祐子の物とは違う、重い声が室内に響き渡り、再度祐子の体がケイレンしたかと思うと、元通りの顔に戻る。

 

「今のは………」

「彼女に付いてる神様のお告げらしいわよ。よく分からないのが難点だけど」

「やってみろ、という事か?」

「多分………」

 

 突然の事に皆が首を傾げる中、神託の意味を大体理解して誰もが顔を見合わせる。

 

「正直、作戦を立てている時間的余裕も無いだろう」

「先の作戦でのダメージも抜けていない、だがジェナ・エンジェルの目的の阻止は必須だ」

「成功率は低いが、彼女の作戦に賭けるしかないか?」

 

 南条、ゲイル、ロアルドが早急に作戦を立案しようとするが、足りない物が多すぎた。

 

『不確定要素多数、ミッションとしては不許可と判断』

「だが、やるしかない」

 

 アーサーですら否定する中、克哉の顔には決意が宿っていた。

 

「すまない、遅れた」

 

 そこに、瞑想中で出席していなかったフトミミが姿を表す。

 

「状況は知っている、そしてある物が見えた」

「それは?」

「雨の中、霧に煙る中に立つ複数の人影が見えた。彼らこそが鍵となるだろう」

「どういう事でしょう?」

「さあ、けれど彼の予言は絶対よ」

 

 こちらもまたよく意味が分からないフトミミの予言に、風花が首を傾げるが祐子はアラディアの神託と合わせ、作戦の成功を密かに確信していた。

 

「動かせる人員を選抜、山岸君を護衛してぎりぎりまでマントラ軍本営まで近づき、二人を転移・脱出させる」

「もしそれが不可能なら山岸君の能力で転移出来るだけの人員を、本営内部に突入させ救出を行う」

「神託と予言で作戦決まってるな………」

 

 克哉と南条が手早く作戦を決めていき、尚也は少し不安な顔をしながら概要を見直す。

 

『現状では成功確率不明、護衛任務まではミッションとして提案可能』

「それで構わない。突入になったらこちらで先陣を切る」

 

 さすがに肯定出来ないアーサーが妥協案として機動班による護衛ミッションを提示し、ゲイルが頷いて詳細を詰める。

 

「準備でき次第、即出撃ね」

「カグツチに交神したら何が起きるか、私にも分からないわ。最悪、この受胎東京自体が崩壊するかも………」

「ジェナ・エンジェルならそれでも実行するだろう。どこか破滅願望のある女だ」

「そんなのに巻き込まないでほしいわ。何より二人の身の安全が第一目標ね」

「二人共貴重なバイアスだ、すぐに危害は加えないだろう」

 

 ロアルドのむしろ安心出来ない保証に、誰もが表情を険しくしていた。

 

「街の警戒レベルはこのまま維持、他の勢力が動かんとも限らない」

「正直、私とあかり以外に仮面党に実力者はいないしね。それしか出来ないってのはあるわ」

「やれやれ、人手はそれなりにあっても、敵がそれ以上いたら無意味ね………冥界に行った面子はいつ帰ってくるのやら」

「なんか、党員だけは更に増えてくし………」

「ウチの署にも入信したという署員がいたな………」

 

 克哉と杏奈、レイホゥが疲労感を感じつつも席を立ち上がり、他の者達も準備に入るべくその場を立ち上がる。

 

「山岸さん、私もサポートするわ。それとマネカタの中にマントラ軍本営にいた人がいるかもしれないから、なんとか内部構造から二人がいそうな場所が特定出来るかも」

「もし突入になったら、マップも必要ですし、分かる所だけでも作っておかないと………」

「ヨスガの主力は天使タイプだ、屋外戦は不利だな………」

「上から行く手は不可能か。地上からしかないかな?」

「ありったけのアイテムを用意する必要があるな、在庫はどれくらい残っている?」

 

 やらなければいけない事を1つずつ潰していきながら、誰もが救出作戦の発動を急いで進めていく。

 

「………セラ、今行く」

「少しだけ待っててくれ、麻希………」

 

 サーフと尚也はそれぞれ決意を込めて、準備へととりかかっていた………

 

 

 

「システム、機動確認」

「バイアス接続、リンク開始」

「目標に向けてアンテナを微調整」

 

 カルマ協会の科学者達が、黙々と準備を進めていく中、その中央、巨大な装置のベッドに固定されたセラと、急遽増設されたイスに固定された麻希の姿があった。

 

「主任、見てくださいこれ………セラ程ではないにしても、この女性の脳内キャパシティは相当な物のようです」

「本当にいい拾い物をしたな。これなら予想以上に高度なアクセスが出来そうだ」

「前は失敗しまくったとか言ってなかったかしら?」

 

 エンジェルも画面に表示される数値にほくそ笑むが、背後の千晶が異形の顔をしかめる。

 

「世界中からテレパスを集めたのだが、どれもすぐに発狂して使い物にならなかった。だがこれはそれ以上の数値を示している」

「拾い物の人柱か………上手くいけばいいのだけど」

「前の轍は踏まん。外部から調整する方法を教えてくれた者がいてな。もっとも彼女を一番最初に利用した男だそうだが」

「妙なコネ持ってるのね。まあヨスガとして労せず創世出来れば、それでいいわ。多少貴方好みにしても、ヨスガのコトワリに基づいていれば文句も言わない」

「君と私は、根幹的に力ある者が統べるという概念だけは一致している。違いは元から持っているか、これから与えるかだがな」

「別に構わないわ。私もそうだったから………」

 

 そう言いながら、千晶は己の異形の腕を見つめる。

 

「準備完了しました、主任」

「始めよう。二人を半覚醒、焦点をカグツチに合わせ、0.01%から徐々に上げていけ」

「はい」

 

 エンジェルの指示で機械が操作されると、薬品の注入と軽度の電気刺激が施され、意識を失っていたセラと麻希が僅かに意識を取り戻す。

 

「う………」

「あ………」

「アクセス開始」

 

 二人の半覚醒を確認すると、機械が幾つもの手順を踏み、そして本来の機能を作動し始める。

 

「あ、あああああぁぁ!」

「あ、あああ、あああああ!」

 

 最初に、麻希の口から絶叫が漏れ、続けてセラの口からも絶叫が飛び出す。

 

「数値は?」

「0.01、まだ予備段階です」

「数値上昇をもう少し早くしろ。バイアスがどこまで持つかは不明だからな」

「それが、バイアスを通じてのセラへの数値がかなり減少しています。恐らくは彼女自身が抵抗をしているのかと………」

「ほう、これも予想外だな。まだ抵抗する力が残っているのか」

 

 そう言いながら、エンジェルが絶叫を続ける麻希を見る。

 絶叫を上げながらも、その目にははっきりとした意思が見受けられた。

 

「ふ、ふふ、そうかセラへの影響を自分で少しでも減らす気か。面白いぞ、非常に面白い」

「もう少し傷めつけるべきだったかしらね」

「千晶様! 敵襲です!」

 

 そこにヨスガの悪魔が室内へと慌てて飛び込んでき、エンジェルと千晶が気分を害されたのか顔をしかめる。

 

「奪還に来たか、こちらも予想以上に早いな。防衛線を敷いて近づけるな」

「潰せ、こちらは大事な所だ」

「了解!」「分かりました!」

 

 カルマ協会の兵士とヨスガの悪魔が同時に部屋を飛び出し行き、実験は続けられる。

 

(みんなが、来てくれた………もう少し、もう少しだけ持って………)

 

 自分の中に流れ込んでくる膨大な情報に飲み込まれそうになりながらも、麻希は必死になって抵抗していた。

 

(せめて、彼女だけでも………!)

「数値を上げろ」

 

 麻希の努力をあざ笑うように、エンジェルの冷酷な指示が下されていた。

 

 

 

「攻撃開始! 陣形を崩すな!」

「少しでも前へと進むんだ!」

 

 デモニカ姿の機動班と元エルミンOB及び珠閒瑠ペルソナ使い達が陣を組み、中央に風花と祐子を護るようにして少しでもマントラ軍本営へと近づこうとしていた。

 

「どう!?」

「ま、まだ二人を見つけられません!」

「まずいわ、ひょっとしたら結界か何かを用意されたのかもしれないわ」

 

 サポート兼護衛のレイホゥが問うが、風花は必死になってペルソナでセラと麻希を探すが、どうしても位置は特定出来ない。

 

「上からも来てます!」

「お任せブラザー!」

 

 護衛役の乾が上空を指差し、そこへシエロが素早く飛来して電撃魔法で迎撃していく。

 

「遊撃は喰奴に任せるんだ! こちらは前進と迎撃のみに集中!」

「なんか、前の連中よか殺気立ってんだけど!」

「NO Problem! Makiをなんとしても取り返してみせますわ!」

 

 南条が指示を出す中、ペルソナ使い達は押し寄せるヨスガ・カルマ協会連合軍を必死になって押し返していた。

 

「アウチッ!」

「栄吉君!?」

「だ、大丈夫だ舞耶姉………ビルから狙撃してくる連中もいやがる!」

 

 飛来した弾丸が肩をかすめたミッシェルがうずくまるが、心配する舞耶に笑みを見せながら即座に立ち上がる。

 

「山岸の周りを固めろ、ペルソナで防げば致命傷にはならない」

「そういうのはこっちでやるから!」

 

 さらりととんでもない事を言う達也に、機動班の班員達が慌ててデモニカで壁を作る。

 

「力任せかと思ったが、予想以上に隙が無いな」

「元マントラ軍の悪魔達はともかく、後からヨスガに集った天使達はかなり統制が取れてるわ」

 

 南条が相手の防衛線の厚さに顔をしかめ、祐子も同様に表情を暗くする。

 

「それだけじゃない、カルマ協会の兵も的確に配置されている。何が何でも通さない気だ」

「アサクサでは、ヨスガだけでもあんなに苦戦したのに………」

 

 ピンポイントで狙撃や妨害をしてくるカルマ協会の兵士達に尚也と風花は打開策を考慮するが、そこで通信が入る。

 

『こちらパオフゥ。ダメだ、建物その物が完全にジャミングされてやがる。中の様子はさっぱりだ』

『しかもあちこちに警備が、見つかった! んぎゃあ~! 撃ってきた!!』

 

 情報班と共に別行動をしていたパオフゥとうららから、芳しくない報告と共に悲鳴と銃声が響いてくる。

 

「やはり、どうにか彼女の感知範囲まで進めるしかないか………」

「でもナオ、この状況でかよ?」

 

 こちらも防衛線をしくのがやっとの状況で、尚也がどうにか状況を好転させられないか思案するが、ブラウンが青い顔で前方を指差す。

 

「ガアアァァ!」

「シャアアァァ!」

 

 彼らの視線の前では、喰奴達が文字通り暴れ回っていた。

 致死量の倍の鎮静剤を打たれたはずのヒートが先陣を切り、半人半悪魔の姿となって、爪の斬撃と銃火を縦横にばら撒いていく。

 その両脇を完全に変身したサーフとロアルドが刃の攻撃を繰り出しつつ、ヒートの攻撃に巻き込まれない距離を保っていた。

 

「ヒート、限界を見極めろ。セラがいない状態で暴走したら極めて危険だ」

「構わねえ! セラを救うのが先だ!」

 

 一歩下がった所でゲイルが疾風魔法を繰り出しながら警告を送るが、ヒートは無視して更に暴れまくる。

 

「あれ、本当に暴走してないのか?」

「見極めが難しいな」

「前は半分暴走しながらも戦ってたしね………」

「もしもの時は鎮静用のマグネタイト弾を撃ち込むか、私か高尾先生が神鎮めの儀を行なえばいいけど、前者は一時しのぎ、後者は術式終了まで抑えてなければいけないし」

「この状況でそれは…」

「がはっ!」

 

 そこで、周囲の敵に気を取られた隙を突いて対悪魔弾の狙撃を喰らったヒートが地面に膝をつく。

 

「やべえ!」

「オレが行く! 援護を!」

「私も…」

「来ルナ………ただ弾ガ貫けタだけダ………」

 

 とっさに尚也とエリーが飛び出そうとするが、ヒートは弾痕から鮮血を流しながらも、立ち上がって戦闘を続ける。

 

「まずいな、喰奴達が押され始めてる………」

「突入作戦に切り替えるべきか?」

「だが、あのビルまで距離もあれば、敵もすげえいるぜ?」

「But、あそこにはMakiが…」

『おい、上見ろ!』

 

 作戦変更を皆が迷っていた時、突然パオフゥの声が通信から響き、皆が一斉に上を見る。

 

「おい、ありゃなんだ!?」

「ビルのマシンからビームみたいの出てやがる!」

「いかん、始まった! もう時間が無い!」

「作戦変更! オレ達も突撃する!」

 

 ビルの装置からカグツチに光線のような物が伸びている事に誰もが驚く中、それが何かを知っていたゲイルの言葉に、ペルソナ使い達が一斉に得物とアルカナカードを手に飛び出していく。

 

「わ、私はどうすれば!?」

「最悪のケースを想定しておきなさい。皆で一斉に逃げる準備をね」

「コトワリも守護も無しにカグツチに接触するなんて、無茶よ! そんな事すれば…」

 

 慌てる風花にレイホゥが勤めて冷静に話しかける中、祐子はある可能性を口にしかけて胸中に留める。

 

(アラディアの神よ! 無謀こそ有望とは、一体何を示しているのですか………)

 

 彼女の祈りの答えは、予想外の所からもたらされる事を知る者はいなかった。

 

 

 

「数値順調に上昇、すごいデータ量です………」

「解析途中ですが、こちらの神とは大分情報の質が違うようです」

「元から存在する者と、これから作ろうとする者、違くて当然だ」

「ふ、ふふ、つまりはこれが創世の秘密って事ね………」

 

 強引にセラとカグツチをアクセスさせ、もたらせれていくデータにエンジェルと千晶はほくそ笑む。

 

「数値を更に上げろ」

「これ以上はセラにもバイアスの女性にも限界が…」

「構わん、創世の仕組みさえ分かればいい」

「り、了解」

「貴方、なかなかヨスガ向きね」

 

 とんでもない指示を出すエンジェルに千晶は歪んだ笑みを更に浮かべた。

 だがそこで、突然危機がアラームを鳴らす。

 

「どうした?」

「わ、分かりません! 突然データにノイズが!」

「これは、次元歪曲発生!?」

「どこからだ、カグツチか?」

「いや、これは………」

 

 

(く、ああ………なんとか………セラちゃんだけでも………)

 

 自分の中に流れ込んでくる大量の情報に流されそうになりながらも、麻希は必死になってセラへの負担を減らそうとしていた。

 

(あ、あああ………)

 

 麻希の感覚に、同じく大量の情報に奔流されているセラの気配が伝わっていた。

 

(どうにか………しないと………どうすれば………)

 

 自我を保てるかどうかの瀬戸際に、麻希は何か出来ないかと必死に考える。

 その時、流れてくる情報とは別の何かが混じっている事に気付く。

 

(これは………何?)

(マキ………あれを………)

 

 こちらも瀬戸際のセラだったが、その何かに一縷の望みの望みを託し、二人でそれに手を伸ばす。

 

(分かる………これは………違う世界の………)

 

 

「ノイズ、さらに拡大!」

「主任! 緊急停止の許可を!」

「このままでは、何かが来る!」

「構わん、それが役に立てばよし、でなければ排除する」

「余裕ね、この機械壊れたりしな…」

「ダメだ! 安全装置が発動します!」

「うわあ!」

 

 機械を操作していた研究員達が悲鳴を上げる中、突然状況を表示していたディスプレイがすさまじいノイズを発生させる。

 次の瞬間、ディスプレイはノイズから閃光へと表示を変え、周囲をまばゆく染め上げる。

 

「これは…」

「ちょっと…」

 

 思わず目を手で隠したエンジェルと千晶だったが、その閃光の中から何かが出てくるのが見えた。

 

「うわあ!」

「どひゃあ!」

「ちょっと!?」

「きゃあっ!」

「おわあ!」

「ふぎゃ!」

「きゃああ!」

「何だ!?」

 

 何か間抜けな悲鳴と共に、誰かが突如として現れる。

 それは、ディスプレイの中から飛び出したとしか言いようがなかった。

 閃光が消え、そこに先程までいなかったはずの者達が露わになる。

 

「こ、ここは…」

 

 それは、メガネをかけ制服姿の七人の少年少女と、一体のきぐるみのような者達だった………

 

 

 闇に囚われし者達を、必死に救わんと糸は伸ばされる。

 そこへ新たに現れし糸と紡がれる物語は、果たして………

 


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