真・女神転生 クロス   作:ダークボーイ

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PART45 RUN DESPAIR(後編)

 

「さて、どうやらアンコールが希望らしいな」

「ダンテ、さん………」

「寝てな。ここから先はR22指定だ。学生は入場禁止だぜ」

「あ、あれを止めるの!?」

 

 不敵に笑うダンテの背後で、ケルベロスの背から降ろされた啓人とアイギスを守りながら、ゆかりが高速でこちらに向かってくるライトニング号を驚愕の表情で見つめる。

 

「そうするしかなさそうだからな。それとも、アレに乗って帰るか?」

「絶対イヤ!」

 

 ゆかりが即答しながら召喚器を準備するが、自分程度では何も出来ない事も分かりきっていた。

 

「ちょっとばかりカーテンコールに答えてくるから、そいつらよろしくな」

「何するつもりなん?」

「どちらにしろ、今の私達では手助けする事も出来ません」

「それはそうだけど………」

 

 完全沈黙しているオリジナルメティスを背負っているラビリスと、肩を貸し合っているメアリとアリサがダンテを不安そうに見送るが、ダンテは平然とライトニング号へと向かっていく。

 

「ケルベロス、アグニ&ルドラ、ネヴァン」

 

 ダンテが呼ぶと、前に出たケルベロスに並ぶようにトランクケースから炎と風の双刀と雷の鎌が飛び出し、頭部の無い双子の巨人と電撃とコウモリをまとう女悪魔へと変じる。

 

「何用かダンテ」「我らをこの姿で呼ぶとは」

「慰めてほしいのかしら?」

「いいから前を見な」

 

 口々に騒ぐ悪魔達に一括しながら、ダンテはこちらに向かってくるライトニング号を指差す

 

「あれを止めなきゃならないんでな。まあ止めさえすれば好きにしていい」

「壊してもいい、というか壊さなければならないように聞こえたが」

「なかなか歯ごたえがありそうだ」「周囲も気にしなくていいのだな」

「面白そうじゃない」

 

 ダンテの指示を好き勝手に解釈する悪魔達だったが、そこで強風に乗ってきた他の悪魔使い達もその場に降り立つ。

 

「すまない、ここまでヤング達を運ぶのが今の私で精一杯のセオリーだ」

「いや、助かった」

「後はこちらでどうにかする」

 

 小次郎とアレフが降り立つと同時にCOMPを操作し始める。

 

「すげえ悪魔、あれ武器にしてたのかよ………」

「後だ、構えろ」

 

 修二が唖然とする中、ライドウが管を構えて詠唱を開始する。

 

「泣こうが喚こうが、これが最後になりそうだな」

「ならなかったら別の意味で最後かと」

 

 キョウジと八雲が、顔を引き締めながらGUMPのトリガーを引く。

 

「ライトニング号の速度、現在約時速85km、接触まで残る120秒」

 

 仁也がデモニカのセンサーからデータを読み上げ、全員に緊張が走る。

 

「残ったマグネタイトを全消費させて召喚させる、か」

「やった事は無いな」

「召喚術の中でも禁忌に近い。下手すれば仲魔を完全に使い捨てにするからな。初代キョウジが使っていた方法だ」

「あの、オレ召喚プログラムなんて無いんだけど」

「精神を研ぎ澄まし、己の生体マグネタイトを高めて一気に注ぎ込め、調整に失敗したら命まで削りかねないがな」

「どうせここでしくったらロクな事にならんからな。多少寿命削れるくらいは我慢しろ」

「寿命で死ねると思ってる奴は今ここに誰もいないだろ」

「ああ」

「え~と」「最前線の軍人のようだ………」

 

 悪魔使い達のとんでもない発現に修二や仁也はドン引きするが、すでにライトニング号は目前まで迫っていた。

 

「さあ、派手なライブにしようぜ!!」

「ヴィシュヌ!」「スサノオ!」「セイテンタイセイ!」「トール!」「シヴァ!」「カーリー!」「オメテオトル!」

 

 ダンテの繰り出す悪魔達に続けて、笛を持った光明神が、剣を持った破壊神が、雲に乗った猿神が、戦鎚を持った雷神が、蒼き四本腕の破壊神が、六本腕の怒れる地母神が、二面性の創造神が、ありったけのマグネタイトで限界までの体躯と魔力を持って一斉にライトニング号へと襲いかかる。

 手始めに巨大な氷柱と炎風が両側からライトニング号に直撃し、そこに電撃がほとばしる。

 正面から魔力の塊と大斬撃が襲い、如意棒と戦鎚が上空から振り下ろされる。

 断罪の閃光と六剣の斬撃が叩きこまれ、火炎魔法と氷結魔法が立て続けに打ち込まれる。

 怒涛の連続攻撃に、ライトニング号の艦体が大きく跳ね上がり、装甲がひしゃげていく。

 

「もっとだ! ありったけのマグネタイトを注ぎ込むんだ!」

「分かって、くっ……」

 

 小次郎が叫ぶ中、ダメージが多かった八雲が思わず片膝を付く。

 

「八雲!」

「まだ、なんとか………」

 

 最早保有マグネタイトだけでは足りず、誰もが己の生体マグネタイトまで使用する中、ライトニング号は最早すぐ目の前まで迫ってきていた。

 

「ライブはまだまだこれからだぜ! ヒィハァ~!!」

 

 とうとうダンテまで魔人化し、ライトニング号へと突っ込んでいく。

 

「たたみ掛けるぞ!」

「ああ!」

 

 小次郎とアレフを先導とし、他の悪魔使い達も残った力を振り絞って仲魔を繰り出す。

 

「ハッハ~!」

 

 哄笑と共に、魔人化したダンテが双銃から電撃を連射し、それに続くように氷結、炎風、電撃が荒れ狂う。

 

「ヴィシュヌ! 左タイヤを狙え!」「スサノオは右だ!」

 

 光明神と破壊神が左右のタイヤを続けて破壊し、ライトニング号の動きが大きく乱れる。

 

「セイテンタイセイ! こじ開けろ!」「トール、流し込め!」

 

 猿神がひしゃげた装甲の穴をこじ開け、そこに雷神が電撃魔法を叩き込む。

 

「シヴァ、抑えろ!」「カーリー、やっちまえ!」「オメテオトル、連撃を!」

 

 ダメージに動きが鈍ったライトニング号に破壊神がありったけの魔力の塊を正面から叩き込み、地母神の六刀がひしゃげた装甲を切り刻み、創造神が火炎と氷結を撃ち込んでいく。

 

「そろそろ、フィナーレと行こうか!」

 

 魔人化ダンテが大きく宙へと飛び上がり、上段に構えたリベリオンにありったけの魔力を注ぎこむ。

 

「Blast off!」

 

 魔神の力を込めた大斬撃に、三体の大悪魔も続き、悪魔使い達の仲魔もありったけの力をこめた攻撃を繰り出す。

 リベリオンの一撃がライトニング号のボディに食い込み、切り裂いていく。

 そこに氷柱が、炎風が、電撃が潜り込み、装甲が砕け、ひしゃげ、そしてそこへ仲魔達の攻撃が容赦なく叩き込まれる。

 

「これで、ラスト!」

 

 八雲が叫ぶ中、仲魔達の一斉攻撃にとうとうライトニング号は砕かれた装甲を撒き散らしながら横転、壮絶な火柱を上げて完全に沈黙した。

 

「やった………か?」

「ライトニング号のエネルギー数値は低下している………無力化に成功したようだ」

「だああぁぁ! 二度とやらねえぞ………」

 

 キョウジの呟きに、仁也がデモニカのセンサーで確認、それを聞いた修二はうめき声を上げながらその場に腰を下ろす。

 悪魔使い達の誰もが己の生体マグネタイトまで使い、疲労困憊で膝をついていく。

 

「おっと、フィーバーしすぎたかい?」

「タフだな、あんた………」

 

 元の姿に戻ったダンテが、魔具に戻った悪魔達を再度スーツケースに戻しながら声をかけてくるのを、キョウジは呆れた顔で見返す。

 

「カロンのコインを確認しておけ。冥界でこれだけの生体マグネタイトの消費は危険だ」

「なんか、かなり黒くなってんだけど………」

「まだ大丈夫だが、早く戻った方がいいな」

「あの状況では、内部の残党も全滅したか」

 

 小次郎が率先してコインを確かめる中、大分色が変わったコインに修二は顔を引きつらせ、アレフも自らのコインを、ライドウは炎上しているライトニング号を確かめる。

 

「その前に………」

 

 仁也はそう言いながら、ある一点を見つめる。

 地に倒れ伏した少女を取り囲む、人垣の方を………

 

 

 

「チドリ、しっかりしろチドリ!」

「順平、だから大丈夫。私はもう死んでる」

「そういう事じゃなくて!」

 

 胴体に巨大な弾痕が穿たれ、口元から黒ずんた血を垂れ流しているチドリに、順平は必死に呼びかける。

 

「こいつはひでえ………」

「誰か治療を!」

「確か、魔力を注ぎ込んで直すと………」

「見せて!」

「これは………」

 

 特別課外活動部メンバーも顔色を失う中、咲とヒロコが治療を行おうと状態を見るが、二人共に絶句する。

 

「早くしてくれ! このままじゃチドリが!」

「だからもう…死んで…」

 

 順平が狼狽する中、チドリは苦笑しようとするが、その口から喋る度に黒ずんだ血が滲みだす。

 生身の人間なら致命傷どころか即死してもおかしくない重傷に、咲とヒロコは黙って首を横に振った。

 

「残念だけど、傷が深すぎるわ………」

「恐らく、魔力を与えても………」

「どういう事だよ! チドリは、どうなるんだよ!」

「………肉体の限界に達した屍者の体は崩壊を始め、よくてゾンビ、それ以上ならモウリョウと化すわ」

「そうなったら、恐らく自我も記憶も保てない。最悪の場合、存在すら保てなくなって………」

「待て、そうだとしたら…」

「消滅する、と?」

 

 明彦と美鶴が導き出した答えに、ヒロコは小さく頷く。

 

「消…滅? チドリが消えるって?」

「大…丈夫。死人が………ちゃんと死ぬ………だけ………」

 

 順平が愕然とする中、チドリは微笑を浮かべて順平へと手を伸ばそうとするが、途中でその手が力を失って地面に落ちる。

 

「ゴメン………もう力が…入らない………」

「しっかりしろ! 消滅なんてさせるか!」

「おい! なんとかならないのか!」

「ここまで損傷が激しいと、後は…」

 

 目を閉じようとするチドリを順平は必死になって声をかけ、真次郎は思わず咲の胸ぐらを掴み上げるが、咲は静かに視線を逸らす。

 

「させる、かよ! トリスメギストス!」

 

 順平は召喚器を引き抜き、己の額に向けてトリガーを引く。

 

「何を…」

「オレは一度死にかけたのをチドリに助けらた! その時チドリのペルソナの力が一部オレのペルソナに入ってる! だったら同じ事が出来るはずだ!」

「止めなさい! そんな事したら!」

「チドリィィ!!」

 

 ヒロコが止めるのも聞かず、順平は召喚器を連射。

 残った力全てでペルソナを発動させ、チドリに力を注ぎ込んでいく。

 

「聞いてたはずよ! 死者に力を与え過ぎたら、貴方も死ぬのよ!」

「構わねえ! チドリが消えるよりはマシだ!」

「それは一人ならの話だろ!」

「出来るかどうか………!」

 

 咲が説得しようとするが、順平は構わず続け、それどころか明彦と美鶴も加わろうとする。

 だがそこへ、一発の銃声が轟いた。

 

「え………」

「何を!?」

「それ以上はストップのセオリーだ」

 

 突然の事に咲とヒロコが驚いて振り向くと、そこには拳銃を手に、こちらへと歩いてくるゲイリンの姿が有った。

 

「そこから先はタブーのエリアだ」

「葛葉の召喚士として、看過する事は出来ない」

 

 ゲイリンのみならず、ライドウも愛刀を抜き放つ。

 

「仲間を、見殺しにしろというのか………?」

「場合によっては、死者が二人になる」

「だが!」

「ユー達は魔術に詳しくないケースだが、彼がやろうとしている事は…」

「知ってるさ、禁忌魔術の一つだからな」

 

 双方が睨み合う中、八雲が口を挟みつつ、ペルソナ使い達の前に立つと、ゲイリンと対峙しながら銃を抜く。

 

「悪いが、オレはこいつらの監督役でな。葛葉四天王二人相手じゃ勝ち目は無さそうだが、そっちが終わるまでは粘らせてもらおうかな?」

「貴様、それでも葛葉か?」

 

 ハスターの風に耐えられそうにないので一度離れていたゴウトが、ライドウの肩に降り立ちながら八雲に鋭く問いかけるが、八雲はそれを苦笑で返した。

 

「オレは外様のスカウト組、しかもハッカー上がりなんでね。葛葉の正規修行なんて受けてないし、法を犯すなんて昔からやってる」

 

 吐露しながら、八雲はペルソナ使い達に目配せし、意図を察したペルソナ使い達は慌ててチドリの治療に戻る。

 そんな中、一人だけそれに加われない、死者である真次郎も八雲の隣に立つ。

 

「悪いな爺さん、アンタにはさんざん世話になったが、恩を仇で返す事になりそうだ………」

「ユー………」

「ならば、好きにしろ」

 

 言うや否や、突然ライドウは八雲と真次郎へと向けて斬りかかってくるが、もう一つの影が前へと飛び出してそれを受け止める。

 

「これは?」

 

 レーザーコーティングされたアンブレラが、ライドウの白刃を弾き返す。

 見た事もない未来武器にライドウが僅かに驚くが、それをかざした者、凪が口を引き締めながら、構えを崩さない。

 

「凪、何をしているセオリーだ?」

「申し訳ありません。師匠、先輩。けど、私も仲間は見捨てたくないセオリーです!」

 

 他の二人に比べ、余程の覚悟か顔色を青くしながら、凪は僅かに震える手でチドリを護るように立ちはだかる。

 

「おい、慣れない事は止めとけ。特にお前みたいな生真面目な奴は」

「そうだな」

「ですが!」

「安心しな、オレは上司に怒られるなんて日常茶飯事だからな、なあキョウジさん」

「オレじゃなくてレイホゥに、だろ」

 

 凪を押しのけるようにして八雲と真次郎が前へと出るが、そこにキョウジも現れ、両者の中間に陣取ると、突然地面に腰を下ろす。

 

「やらせてやったらどうだ? 失敗しそうならオレが責任を取る」

「キョウジ、何を言っているのか分かっているのか」

「だから責任取るって言ってるだろうが。ようやくあっちが片付いたってのに、ここで余計な揉め事起こしてどうするよ」

「だが………」

「オレもキョウジに賛成だ」

「うまくいく保証は無い。危険なら力づくで止める」

「………状況がよく分からないのだが」

 

 傍観していた小次郎とアレフも同意、魔術に詳しくない仁也だけが首を傾げていた。

 

「えと、これって………」

「ちょっとどいて!」

 

 訳が分からず混乱するあかりを退けるようにして、駆け寄ってきたゆかりが己のペルソナを発動させて順平達に協力する。

 

「順平! 貸しにしとくからね!」

「分かってるよ………く、う………」

 

 一番力を注いでいる順平の顔色が段々悪くなっていき、デモニカでモニターしていた仁也が一番に気付く。

 

「止めさせるんだ! ライフモニターがイエロー、いやレッドに!」

「だから言ったセオリーだ! すぐに…」

「ええい、ごめんライドウ! イシュキック!」『メディアラハン!』

 

 ゲイリンが力づくで止めようとする前に、あかりがやけくそ気味にペルソナ発動、残った力全てで課外活動部に回復魔法を掛ける。

 

「少し持ち直した、が…」

「チド…リ………」

 

 順平の手から召喚器が滑り落ち、そのままチドリへと覆い被さるようにその体が崩れ落ちる。

 

「伊織!」

「順平!」

「く…」

 

 仲介する順平が倒れた事で、他のペルソナ使い達も発動を中断、慌てて順平の状態を確かめる。

 

「大丈夫だ、弱いがバイタルは安定してる」

「よ、良かった~」

 

 ゆかりが胸を撫で下ろすが、そこで順平の胸元のポケットからカロンのコインが滑り落ち、それがほとんど真っ黒になっている事に再度顔色を変える。

 

「ちょ、これマズいんじゃない!?」

「オレ達のも大分黒くなってるが、ここまでは…」

 

 明彦も自分のコインを確かめ、確かに黒ずんできているが、明らかに順平のは度を超えていた。

 

「………すぐに現世に戻るセオリーだ。もう彼はここにはいられないケース」

「そう言えば、彼女は…」

 

 ゲイリンが諦めた顔で銃をホルスターに仕舞う。

 美鶴がチドリの状態を確かめようとした所で、別の異変に気付いた。

 

「これは………」

 

 極限まで疲弊し、どこか遠くから聞こえてくるように会話を聞いていた順平だったが、その耳にある音が聞こえてきた。

 

「ん?」

 

 図らずもチドリに覆い被さるようにしていた彼の耳に、再度その音が響く。

 小さいが、確かな鼓動の音が。

 

「チドリ?」

「………順平?」

 

 なんとか身を起こした順平もチドリの異変に気付く。

 ありったけの魔力を注ぎこむ事で傷口はふさがっていたが、それだけでなく、チドリの顔色が死者のそれでなく、僅かに血の気を帯びてきている事に。

 

「これは………彼女にも生命反応が!」

「何!?」

「え? え? どういう事?」

 

 仁也もそれに気付き、ペルソナ使い達は混乱するが、悪魔使い達はある者は嘆息し、ある者は苦笑する。

 

「やあれやれ、やっちまったな」

「どうやら、そのようだ」

 

 キョウジが大声でぼやき、ゴウトもそれに続く。

 

「私………」

 

 他でもない、チドリ自身が徐々に血色を帯びていく自分の手を、信じられない顔で見つめる。

 

「………それこそが禁忌魔術が一つ、《死者蘇生》だ」

「運が良かったな。普通はそこまでうまくいかないぞ」

 

 何が起きたのかをライドウが告げ、八雲も苦笑しながら銃を仕舞う。

 

「死者、蘇生?」

「じゃあこの子、本当に生き返っちゃったの!?」

 

 美鶴も唖然とする中、ゆかりは慌ててチドリの手を取り、それがちゃんと脈打っている事を確かめる。

 

「彼女のペルソナの一部が、彼の中にあったからこそ、成功したケースです。普通は不完全なアンデッドになる事が多いセオリーなのですが………」

「チドリ、良かった、良かった………」

 

 凪が補足説明するが、順平はロクに聞きもせずにチドリを抱き締める。

 

「い、痛い順平」

「あ、悪い………」

「それじゃあとっとと帰るんだな。あまりここにいると、また死んじまうぜ」

 

 二人に背を向けながら、真次郎はそれだけ告げる。

 

「それとアキ、妙な事考えるなよ。チドリと伊織のペルソナが共鳴したから出来たって今言ってたろ?」

「いや、その…」

「それに、こっちのごたごたが完全に片付いたかも分からねえしな。後はオレとゲイリンの爺さんで片付けとくからよ」

 

 それだけ言うと、真次郎は手にした斧で仲間達を追い立てるように払う。

 

「荒垣………」

「荒垣先輩………」

「辛気くせえのは無しだ。山岸と天田とコロマルによろしく言っててくれ」

 

 何か言おうとする美鶴とゆかりを遮り、真次郎が背を向けて手を振った所で、懐の携帯が鳴る。

 

「おう、あんたか。ああ、こっちは今終わったぜ。そうか………分かった」

 

 短く会話した所で、真次郎は八雲へと携帯を放る。

 

「アンタに変わってくれだそうだ」

「リーダーが?」

 

 八雲はまだ痛む左手で受け止められず、取り落としそうになったのをキョウジが拾ってやる。

 

「すんません。ああリーダー」

『うまくいったかい?』

「何とか。リーダーの組んでくれたプログラムのお陰で」

『それは良かった、被害者は出てないかい?』

「…出てないというか、マイナスというか」

『マイナス?』

「詳しくは…」

 

 そこまで話した所で、ふと八雲は何か淡い光が自分を覆っているのに気付く。

 

「おっと、どうやらそろそろ時間切れみたいだ」

 

 その光の元が、カロンのコインから発せられる物だと気付いた八雲が苦笑。

 

「リーダー、どうやらこの世に戻されるみたいで」

『あ、そう? じゃあ岳羽君に変わって』

「岳羽!」

「え?」

 

 いきなり呼ばれたゆかりが振り向く中、携帯が投げ渡される。

 

「えと…」

『やあゆかり、無事かい?』

「お父さん! えと、あの…」

 

 何かを言おうとするゆかりだったが、光は段々強くなり、徐々に己の体が透けてきている事にゆかりは慌てる。

 

「あ、ちょっと待って! まだ色々…」

『無事ならいいさ。元気でな』

「お父さん、その、ありがとう!」

 

 それを告げた後、ゆかりの手から携帯が滑り落ちる。

 

「師匠、その…」

「己の判断を迷ってはいけないセオリーだ」

「ゲイリン、世話になった」

「凪を頼む、ライドウ」

「カロン! ちとばかり増えてるが一緒にな!」

「あの、彼女も一緒に!」

「もが~!」

「こいつも。ちゃんと捕虜扱いしてやるから」

「行こう、チドリ」

「うん、順平」

 

 やがて光は更に強くなっていき、まばゆいばかりとなった直後、突然消える。

 後には、激戦のなごりと死人だけが残されていた。

 

「行ったか」

「そのセオリーだ。元々ここは生者のいるべき場所ではない」

「ちがいねえ」

 

 そう言いながら真次郎は笑ってゲイリンと死闘の跡と仲間達との消えた場所を見つめていた。

 

「チドリの奴は、大丈夫なのか?」

「極めてレアなケースだ。それに何かあってもライドウもキョウジもいる。何とかなるセオリーだ」

「そうか、じゃあオレらも戻るとすっか」

「そうだな、そうするセオリーだ」

 

 二人の男は、静かに戦場を後にした………

 

 

 

「おや?」

「これは…」

 

 三途の川に造られたベースキャンプで、目の前に光が現れた事に残っていた者達は警戒するが、程なくして光の中から冥界に向かった者達の姿が現れ、胸を撫で下ろす。

 

「お帰り~、全員無事?」

「ちとばかり増えてるぜ」

「増えた?」

 

 スナイパーライフルを担いだまま声を掛けてきたアルジラに、ダンテは含みのある笑みをしながら、背後を指差す。

 

「おい! そのゴスロリ持ってきたのか!?」

「中身は上書きしました」

「多分大丈夫や」

「………ロボ娘が一人増えてるような」

「もが~!」

「そのブラックデモニカ、まさかジャック隊!?」

「中身は違う、向こうで見つけた捕虜だ」

「何かと知ってそうだからな、戻ったら拷…尋問する」

「あと、その変わった衣装の子は?」

「順平の彼女」

「あの世で一体何があった………」

 

 留守居をしていた者達と戻ってきた者達の間であれこれ会話がかわされる中、空間がゆらめき、カロンが姿を表す。

 

「無事に終わったようだな」

「ま、死人は出てないしな」

「生者は出たが、戻せなんて言わねえよな?」

「そちらは別に問題ない。冥界は死者の場所だ。行く気の無い死者もいるようだが」

「ちっ、一つくらい新しい体が空くかと思ったが………」

 

 舌打ちしているキョウジ(故)に全員が距離を取りつつ、カロンが帰ってきた者達を見回し、チドリと順平に目を留める。

 

「む、これは………」

「なんだよ」

 

 じっとこちらを見ているカロンからチドリをかばうように順平は立ちふさがるが、カロンは何をするでもなく、二人を見定める。

 

「なぜそうなったのかは分からないが、君達は魂の半分近くを共有している。それは君達がペルソナと呼ぶ力にも及んでいる。これ以降、戦う時は離れないようにするといい」

「へ?」

「…分かってる」

 

 突然の事に順平が間の抜けた声を上げるが、チドリは小さく頷いた。

 

「何しやがった? 魂の共有化なんて滅多に起こる事じゃない」

「死人返し。危うくライドウとゲイリンにこっちが殺されそうになったが」

「そうしてくれれば、次が決まったんだがな」

 

 キョウジ(故)に八雲が説明すると、何か危険な相槌に八雲の頬が引きつる。

 

「それじゃあ、とっとと戻った方いいわよ。あっちも大変な事になってるみたいだし」

「セラと園村がさらわれたとは聞いたが、続報は?」

「混乱状態でよく分からない。向こうも大分もめているらしい………」

「オイオイ、こっちは負傷者も多いぞ。オレとか」

「早く戻って八雲さんの腕治療しないと!」

「一難去ってまた一難とはこの事か………」

「幾つ難が続いているのかすでに分からないのだが………」

「いつもの事だ」

「違いねえ」

 

 皆が現状を再確認する中、美鶴が思わず呟いた事に小次郎とキョウジが賛同してその場にいた何割かの者達は思わず引いてしまう。

 

「それじゃカロン」

「分かっている、皆を現世へと戻そう。出来ればこちらはしばらく平穏である事を願うが」

「すぐこっちに来るかもしれんから、そん時は頼む」

「八雲さん!」

「あははは、そん時はリーダーにまた会えるね」

 

 笑えない冗談をかわす中、皆の足元に再度巨大な蓮の花が現れ、ゆっくりと上昇していく。

 

「行きと違って、帰りはのんびりしたモンだな」

「出来ればあんな目に会うのが二度とゴメンこうむりたいが」

 

 ダンテがおどけて言う中、負傷者の処置を進める仁也は、冥界に落とされた時の事を思い出して身震いする。

 

「大元は潰した、大穴も直に塞がってくるだろう」

「あちらの状況が安定したら、再度四柱封印の儀を執り行うとしよう」

「安定すればの話だけどよ」

 

 今後について話し合うライドウとゴウトに、キョウジは向こうがどうなっているかを思案する。

 

「ま、退屈はしなくて済みそうだ」

「退屈してえよ、こっちは………」

 

 誰もが疲労困憊してる中、ダンテが楽しげに言うのを八雲はぼやき返す。

 彼らが戻った先には、予想外の状況が待ち受けていた………

 

 冥府の底から帰った糸達は、傷ついた体に鞭打ちながらも仲間の元へと戻る。

 その先に待ち構えるのは、果たして………

 


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