「こちら冥界探索班、三途の川ベースキャンプどうぞ」
『こ………ベー………感度………』
「ダメだなこりゃ」
「アンテナが融解してたからね………せっかく苦労して設置したのに」
ブルージェット号の通信装置からほとんどノイズしか聞こえない状況に、キョウジと雅弘はため息を漏らす。
「もっとも、ここ毎吹っ飛ぶよりはマシだったかな? 秘密基地爆破されそうになったのはこれで二度目だけど」
「爆破オチはB級映画だけで結構だな。問題はこっちはオチで済まないって事だが」
キョウジは通信室からちらりと通路の方を見る。
ブルージェット号の内外で、皆が忙しく動き回っていた。
「使えそうな物かき集めろ! 武器、弾薬、医療品、何でもいい!」
「食料はこっちでチェックするわ。陰気を帯びていたら大変だから」
「あの、何するんすか?」
「お礼参りに決まってるだろ。つうか討って出る以外の手は無くなったしな」
ありったけの物資が集められ、それぞれがチェックし、配分し、装備されていく。
「ヤサがやられちまった以上、確かにカチコミしかねえよな………」
「向こうは準備万端で待ち受けてるだろう。こちらもそれなりの準備と覚悟を…」
準備をしていた真次郎と明彦だったが、そこで明彦が真次郎の脇腹が赤黒く染まっている事に気付く。
「シンジ、それ………」
「ん? ああ流れ弾でも当たってたか?」
真次郎が上着をめくると、そこには明確な弾痕とそこから流れたらしい黒ずんた血があった。
「大丈夫か!? 岳羽、すぐに回復を!」
「アキ落ち着けって。痛くもなんともねえんだよ。死んでるからな」
「だが………」
慌てる明彦を真次郎が平然と言い放つが、流れだした血が明らかに生者のそれと違う事、そして本当に痛がる素振りすら見えない事に、明彦は今更ながら愕然とする。
「それと、死者に回復魔法は逆効果よ」
「逆に体が崩壊しかねません」
「それではどうすれば………」
医療品をチェックしていたヒロコと咲の警告に、明彦は青い顔のまま呟く。
「そんな難しい事じゃない。カチーヤ、ちょっとこっち来い」
「あ、はい」「何々、何すんの?」
そばで聞いていた八雲がカチーヤを手招きし、カチーヤの隣でやたらと重火器ばかり集めていたネミッサも呼んでないのに寄ってくる。
「塞いでやれ、やり方は分かるな?」
「ええ、レイホゥさんから聞いた事はあります」「へ~、どうすんの?」
カチーヤが真次郎のそばに立つと、両手を傷口にかざす。
そこから淡い魔力の光が灯り、傷口へと照射されると、ゆっくりと傷口が塞がっていった。
「これは?」「回復魔法………とは少し違う?」
明彦だけでなく、何事かと近寄ってきた課外活動部メンバー達が、その光景を見守る中、傷口は完全に塞がった。
「生命力を活性化させる回復魔法じゃなく、魔力を直接注いで再生させてるんだ。死者が傷を治すには、魔力や生命力と言った生体エネルギーを与えるしかないからな。アンデッドが生者を襲う理由の半分くらいはそこにある」
「あと半分は?」
「怨念や憎悪って言われる逆恨みだ」
「そんなのは持ってねえぞ、多分」
「私は少しあるかも」
八雲の説明に啓人が首を傾げた所で、真次郎といつの間にかいたチドリがポツリと呟いて順平以外の課外活動部メンバーが僅かにチドリから距離を取る。
「冗談、一応」
「アンデッドジョークは笑えねえぞ。つうか今までどうやってたんだ?」
「ゲイリンさんがあれこれしたり、私のペルソナでどうにかしてた」
「自転車操業一歩手前じゃねえか………」
「あ、あまりやり過ぎない程度に」
「分かってます。与えすぎると、与えた人の方が陰気を吸収しかねないんでしたね」
「加減を間違えると、貴方の方がアンデッド化しかねないから」
咲とヒロコからの注意を聞きつつ、カチーヤは治療を終える。
「悪いな、助かった」
「いえ、元から私は魔力過多ですから、これくらいなんともありません」
「気をつけろよ。死人と不死身は同義じゃないからな」
「え、でもアンデットって不死身って意味じゃ?」
「いや、ゲイリンの爺さんから似たような事は言われたな。正直意味は分からねえが」
「詳しくはこれに聞いとけ。ある意味死神みてえな存在だから」
「八雲ひどい!」
「問題は、これからその死人連中相手にしなけりゃならんって事だ。いっそ核兵器でも撃ち込めれば手っ取り早いんだが」
「………あんた、こっちの迷惑考えてんのか?」
「それもそうか。死人って放射能症出るんだろうか?」
物騒な事を呟きながら、準備を進める八雲に、真次郎は思いっきり不審な視線を向けながら、明彦の肘で軽く突付いて耳打ちする。
「あの男、本当に信用できんのか? とてもゲイリンの爺さんと同じ組織の奴とは思えねえ………」
「時代が違うのもあるが、少し変わってるけど信用は出来る。もっとも他の葛葉の人達からも変わり者扱いされてるみたいだけどな。元ハッカー上がりって話だ」
「何か、オレが聞いてた葛葉と随分と状況が変わってるみてえだな………」
不信感が完全に拭えないまま、出撃準備は進められていた。
「場所は今までの偵察から大体の検討は付いている。問題は、少し距離があるって事だ」
「確認したが、この人数が使えそうな乗機の類は今のブルージェット号には残されていない」
「まあ、どう見てもスクラップ半歩手前だからな~」
「だが、歩いていくのはファントムの罠に嵌るセオリーが有り得る」
「騎乗可能な仲魔はいないわけではないが、さすがにこの人数はな」
「かといって、向こうはかなりの悪魔使いと、何よりあのメティスの大群がいる。こちらも多数で当たる必要があるだろう」
「山岸がいてくれたらなんとかなったのだがな………」
ブルージェット号の一室、かろうじて使える会議室に雅弘を中心に、仁也、キョウジ、ゲイリン、小次郎、アレフ、美鶴が作戦会議を行っていた。
「そう言えば、アサクサで使った手は使えないのか?」
「ネミッサに頼んでPCの中か? 検討はしてみたが、撤退戦ならともかく、戦闘展開は難しいし、そもそもそれだけの容量を持つHDが確保できねえ」
「ああ、あれか………アンテナがやられてなければ、無線転送も考えられたが………」
「何を言っているのかよく分からないケースだが、もっと他の手を考慮するセオリーだ」
「だが、移動手段を確保できない事には、急襲作戦は展開できない」
「しかし、だとしたら何を…」
決定的な意見が出ない中、突然外の方から妙な音が響き始める。
「何の音かな? 建築工事でもしてるような………」
「いや、何か物騒な破砕音も混じってるぞ」
「敵襲、ではないようなセオリーだが」
「ちょっと見てくる」
小次郎が何事かと早足で外へと飛び出す。
「そこもうちょっと大きめに」
「ハアッ!」
「こんなモンかな?」
「そっち持ってくれ~」
そこには、何か図面のような物を手にしたアンソニーの指示で、ダンテがブルージェット号の装甲を切り取り、それをデモニカの付属ツールやペルソナで加工している面々の姿が有った。
「………何をしてるんだ?」
「あ、イヤどうせこれもう使い物にならないなら、ちょっと廃品利用を」
「それは………」
図面を覗きこんだ小次郎は、そこに描かれている物と、加工されていく途中を見て驚く。
「そうか、ソリか………」
「あっちのゴスロリの嬢ちゃんの発案で、乗り物が無いなら作ればいいって。引けそうな仲魔なら確かに何体かいるし。オレ、昔ある作戦で似たような事やった事あったんで、それ参考にして。雪山で部隊まるごと遭難しかけた時だったな………」
「随分と豪快な事やってんな」
「許可は取ってあるのか?」
「そもそもここの責任者は誰だ?」
「まあ、使い物にならなくなった部分削るくらいならなんとか………」
艦外に出てきた者達も予想外の光景に半ば呆れ、最後に出てきた雅弘もいささか苦い顔をする。
「ルートのチェックが必要だ。それにこのまま乗り付けるのはデンジャーのセオリーだ」
「いや、こちらの予想が正しければ、どの時点で降車しても気付かれる可能性が高い。ここは機動性を重視するべきだ」
「無人偵察機なんて使ってる連中だからな~、他に何を持ち出してくるのか検討もつかないな」
ゲイリンと仁也が考えこむ中、雅弘は運び込まれていた機体の事を思い出し、頭をかきむしる。
「デモニカスーツを持ち出してる時点で、こちらとは装備が雲泥の差だ」
「質では負ける気は無いが」
「………いや、ファントムはそんな生易しい相手じゃない。あれは様子見の偵察部隊程度と考えた方がいい」
「それは承知のセオリーだ。ファントムとは幾度か刃を交えている」
「………一体どれだけ歴史のあるテロ組織なんだ」
「葛葉でも正式な発足は把握してない。日本にちょっかい出すようになったのは大正時代かららしいが、中世にはすでにヨーロッパで暗躍してたらしい情報も有ったな」
「そのデータは私も亜米利加で聞いた。サーチしたが、詳しい事は分からずじまいだった」
予想以上に厄介そうな相手に、仁也や作業をしていた者達が思わず顔を見合わせる。
「もっとも、こっちの支部は出来てまもないみてえだ。オレの知ってるファントムは、もっと裏から着実に段階を踏んでくる。こんな半端な威力偵察は絶対しない」
「確かに焦っているケースにも思える。人間界からの増援なぞ想定してないパターンかもしれん」
「そうだな、だが目的が分からん。戦力だけは大量に揃えてやがるが」
「かなり大規模な計画だ。それに値するだけの目的が有るはずだ」
「ああいう連中が考えてる事なんて、世界滅亡に決まってやがるだろ」
葛葉の四人が考えこむ中、ダンテの一言に全員が思わずそちらの方を見た。
「あいつら、とうとう最終目的に入りやがったのか? だが、何を使って?」
「今までのパターンだと、虚神や大霊クラスを召喚もしくは利用して何かやらかすはずだが、ゴスロリロボ量産してるだけだし………」
「何らかの尖兵だと考えられる。幾ら死人でも人手が足りなければ、何かで補わなくてはならない」
「ならば、ファントムのターゲットはそちらにある何かのセオリーか。何か、極めて強い力を持った存在を召喚するケースか?」
「ちょっと待った」
更にあれこれ話し合う四人に、修二が手を突き出して話を遮る。
「よく分かんねえけど、要はそのファントム何とかって、滅亡か何か企んでるって事なんだよな?」
「正確には、人類のソウルを狩り集める事らしい。お陰で色々やらかす度にこっちは大忙しだ」
「でも、受胎東京には浮かんでる珠閒瑠市くらいにしか人間いないよな?」
「………ソウルってのが魂とかエネルギーってんなら、アマラ回廊に腐る程いる」
「あっ!?」
「マガツヒか、確かにアレならば………」
「それに、神様っぽいのならどまんなかに浮いてる。世界を好きなように出来るって話のが………」
「カグツチ! そうか、そういやアレは創世とやらの力秘めてるって………」
「それは本当のセオリーか! ならばそれこそがファントムの狙いだ!」
「あの、それってつまり?」
よく状況が飲み込めない啓人に、八雲は少し考えてから口を開く。
「メティスはただの威力偵察だ。さっきのサマナー連中もな。本命は控えている本隊、目標は受胎東京への侵攻とカグツチの奪取。そして自分らの都合の良い世界の創世。悪魔主義者の理想の世界なんて考えたくもねえな」
「どんなコトワリにすんだろ………」
八雲の説明に、修二は心底嫌そうな顔をし、他の者達も考えたくもないのか俯いたり、顔をしかめたりしていた。
「こっちがイヤで出ていきてえ、って奴はほっときたい所だが、そっちに迷惑かけるってのは洒落になんねえな」
「どうあがいても死人は死人、大人しく死んでればいい。私はそうしたい」
「チドリ………」
真次郎とチドリの意見に、順平が何かを言おうとするが、チドリの冷め切った目に口を噤む。
「冥界のトラブルは冥界でカタを付けたいセオリーだが、こちらの手が足らなすぎる。諸君らの力を借りねばならんセオリーだ」
「こちらにまで被害は及んでいる。気にするな」
「あんな悪趣味なロボットに大挙して押し寄せられたらな」
「どんな奴が造ったんだ?」
ゲイリンが顔を険しくするが、ライドウと小次郎が顔を見合わせ、アレフがふと首を傾げた。
「心当たりはある。だが量産となると別の話になるな」
美鶴も首を傾げるが、幾ら悩んでも答えは出そうになかった。
「ま、行ってみりゃ分かるだろ」
「しかし、移動手段はいいとしても、恐らく向こうはジャック隊の母艦をベースに使っている可能性が極めて高い。こんな物で行けば格好の攻撃目標になるが」
「だからいいんだよ」
仁也がデモニカから幾つかのデータを検索する中、八雲が意味深な事を言いながら笑みを浮かべる。
「そうだ、こっちは準備出来たよ」
「OKリーダー、じゃあデモニカ連中全員集まってくれ。COMP持ってるのも」
「一体何を………」
「今からあるソフトを入れるから、並列作動させてくれ。こいつが作戦のカギになる」
「これは………」
「これでしばらくは大丈夫だ。けれど、ここじゃ本格的修理は不可能だから、そのつもりで」
「了解であります。忙しい中ありがとうございました」
「簡易メンテナンスくらいは自分達で行います」
「ちょっと派手なピクニックになりそうだし」
ブルージェット号のラボでメンテナンスをしてくれた詠一郎にアイギス、メアリ、アリサが順に礼を述べる。
「三人とも終わった~? そろそろ出発するって」
「全システム異常無し、今行くであります」
そこへゆかりが三人を呼びに来、アイギスが自らにシステムチェックを走らせてから外へと向う。
「あ、ゆかり」
「何、お父さん?」
「気をつけて行ってくるんだよ、相手は相当危険な連中だそうじゃないか」
「………八雲さんからも言われたの、生きてる時から人の命なんてなんとも思わない連中だから、まともに相手しないで慣れてる連中に任せておけって」
「慣れてる、ね。確かにゲイリンさんとかに任せておいた方がいい。死んでるとはいえ、相手は元人間相手なんだから………そうだこれを持って行くといい」
そう言いながら、詠一郎は娘に何かスイッチのついた装置を渡す。
「何これ?」
「緊急用のマーカー装置だ。間に合うかどうか分からないけど、ゆかり達の力になる物を用意してる。ピンチになったら、押してみてくれ」
「間に合うかどうか、ってのがね………でもありがと。できれば使うようなピンチがこないといいんだけど」
「それが一番なんだけど、何が起こるか分からない。お守りだとでも思ってくれればいい」
「それじゃ、行ってくるね」
「気をつけて行ってくるんだよ」
娘を見送った詠一郎は、ラボの機材で動かせる物を次々起動させていく。
「みんな出発しました」
「それじゃあ、留守番は留守番に出来る事をしようか」
皆を見送った後、ラボに顔を出した雅弘と共に、二人はある物の起動準備に入る。
「システム系はこちらでチェックします」
「君の腕は信用してるよ、問題は再起動出来る程のエネルギーが足りるかどうか………」
「使わない物は全部切ってこちらに回します。戦力は少しでも多い方がいい。特にあいつらが相手の場合は………」
非戦闘員故に残った二人の男が、今自分達に出来る事をするため、自分達の持つ技術を余すこと無く振るい始めた。
「彼ら、失敗したようだね」
「コレやからサマナーなんぞアテにならんのや」
「運悪くというか、彼らの手の内を知っているのがあちらにいたらしい。これこそ腐れ縁って奴かな?」
「ワイはまだ腐っとらんで!」
「そうだったね。それにこちらにも腐れ縁はありそうだし」
二人の男が話し合う中、周辺に置いてある無数の機械が駆動音を響かせ、そして一つの作業が終わった事を知らせるアラームが鳴り響く。
「おっと、ちょうどいいタイミングだね」
「ふふ、今回は更に腕によりをかけといたで」
笑みを浮かべる男達の前で、一つのポッドのハッチが開き、そこから小さな人影が起き上がる。
「メティス、システムオールグリーン。最高性能発揮可能。オーダーを」
「直に押し寄せてくる敵を殲滅しろ、徹底的に」
「了解」
復唱すると同時に、周囲にあった無数のポッドも次々と開き、そこから次々と量産型メティス達が起き上がる。
「さて、彼らはどう攻めてくるかな」
「どうでもいいワ。ワイらのメティスが迎え撃つ。徹底的にな」
無数のメティス達が起動状態になっていく中、二人の男の笑い声が室内に木霊した。
「複数の反応あり、11時方向。悪魔と人間、いや何か違うのも混ざって………」
最新鋭の機器が並ぶブリッジ内、オペレーター席に座っていた男が、少し首をかしげながら報告する。
それを聞いたサングラスを掛けた男が、表示される反応を確認して呟く。
「あちらにもロボットが何体か混ざっているらしい、それだろう。それで、まさか馬鹿正直に正面突破か?」
「いやそれが………」
望遠カメラと高性能集音マイクが迫ってくる一団の情報をブリッジ内に送ってくる。
しかし、一番最初に響いたのは、甲高いまでのエレキギターの音色だった。
「………何だこれは」
「さあ………」
全く予想外の襲撃に、ブリッジ内の男達は絶句するしかなかった。
「ヒャッハ~~!!」
「行け行け~!」
三氷棍から元の三つ首の巨犬の姿となったケルベロスが引くソリの上、ダンテがエレキギターのネヴァンを激しくかき鳴らし続ける。
隣ではキョウジがショクインに引かせたソリの上でそれを煽りながら、有り合わせの材料で作った葛葉の紋章(手書き)入りの旗を振りかざしていた。
「なんかこれ、恥ずかしいような………」
「言わないで………」
「もっとちゃんと持て! 目立つようにな!」
彼らの後ろに続き、特別課外活動部のイニシャルであるS.E.E.Sのロゴが入ったノボリを悪魔使い達の仲魔が引くソリの上で掲げている啓人とゆかりが赤面するが、手綱を握っている美鶴が檄を飛ばしてくる。
「見えた! あれがそうか!」
「でか………」
明彦が見えてきたファントムソサエティが本拠地として使っていると思われる施設を指差す。
順平も思わず絶句する中、その施設、レッド・スプライト号とほぼ同一の外見の巨大な装甲車、調査用のレッド・スプライト号のデータを元に、完全戦闘用として設計・建造されたライトニング号がその姿を表していた。
「アレを相手にするわけか」
「冗談じゃねえぞ、オイ!」
「は、面白そうじゃねえか!」
陸上戦艦としか言い様のない姿に、課外活動部の顔が青くなるが、ダンテだけは楽しそうにネヴァンをかき鳴らし続ける。
「ちょ、なんか上の大砲動いてない?」
「うわああ、こっち向いてきた!」
「レーザー感知、照準されたであります!」
「回避!!」
アイギスの一言に、全員が一斉に左右へと分かれ、直後にライトニング号の砲撃が先ほどまで彼らがいた位置にクレーターを穿つ。
「どわああぁぁ! 撃ってきたぁ!」
「予想してた事だ! 騒ぐな!」
「次、来ます!」
「カエサル!」『ジオダイン!』
「カストール!」『ゴッドハンド!』
飛んできた砲弾を明彦と真次郎のペルソナが放った攻撃で迎撃、爆風が吹き付ける中、ソリはライトニング号へと向かっていく。
「なるべく派手に行け! 派手にな!」
キョウジも叫ぶ中、GUMPを取り出して他の仲魔達を召喚していく。
「さて、持てばいいんだが………」
「敵群、尚も接近!」
「あまりにも露骨過ぎる示威行為だな」
ライトニング号からの攻撃をかわしつつ、接近してくる者達の姿に、サングラスを掛けた男が舌打ちする。
「全周囲をスキャンしろ。別働隊がいるはずだ。光学観測も並列、手空きの奴に外を見張らせろ」
「了解、メティスを使用しますか?」
「発見してからでいい。あいつら、自分達で造った癖に平然と使い捨てしやがる。これ以上資材を食われたらかなわん」
「全くデ~ス。リサイクル精神がナイとはなげかわしい物デ~ス」
サングラスを掛けた男の背後に、英語なまりの言葉使いをする、神父服姿の男が現れる。
「向こうカラ来てくれたナラ、むしろ好都合デショウ。まとめて殺シテおく事にシマ~ス」
「だが、向こうには葛葉のサマナーに、あのハンター・ダンテがいるとの情報も来ています」
「フム、クズノハにデビルメイクライ・ダンテ………確かに一筋ロープではいきまセンね。場合によってハ、私と彼女で相手しましょう」
「大丈夫なのですか? 彼女は…」
「クズノハと聞けば、喜んで協力してくれるデショウ」
「それもそうか」
二人の男は、そこで互いを見て歪ませるような笑みを浮かべた。
「派手にやってるな………」
「本当に大丈夫なのか?」
聞こえてくる砲声や反撃らしい魔法の衝撃音に、反対側から回りこんでいたデモニカをまとった者達中心の急襲部隊は顔を見合わせる。
「私のペルソナのジャミングも限界がある。あまり離れないで」
「そろそろ、第二班と第三班も動く時間だ」
チドリが先導する中、仁也が時間を確認、皆が何気なく上を見ると、遠くから近づいて来る影があった。
「3時方向、飛行悪魔複数接近! 別働隊の模様!」
「他にもいるはずだ、探せ」
「8時方向、大型悪魔反応複数!」
「それらは全部囮だ。本命は他に居る」
「しかし、このままでは敵の有効攻撃距離に!」
「警戒中の者から報告! 6時方向から接近中の一団あり! デモニカにもこちらのセンサーにも反応有りません!」
「ふん、あの三人、やけに神出鬼没だと思っていたが、そういう能力か。そいつらを優先的に潰せ、何かと厄介だ。探索に出ている連中を急行、メティスも一部向かわせろ」
「接近している他の連中はどうします?」
「メティスが出た後、プラズマ装甲を展開。向こうが散開してるなら、各個撃破にちょうどいい」
「それナラ、私も出るとしまショウ。あのバリアだけでハ、足止めとしては不完全デスし」
「それでは頼みますよ、シド神父」
「ライトニング号のエネルギー数値が急上昇してるぞ!」
「このエネルギーパターン、プラズマ装甲を展開する気か」
「周辺にいた連中が一斉にこっちに向かってくるぞ!」
「あの趣味の悪いロボットも出てくる」
「予想通りだが、ここまで集中攻撃とはな………総員迎撃態勢!」
デモニカのセンサーとチドリのペルソナからの反応に、仁也は悪魔召喚プログラムを起動させ、銃の安全装置を外す。
「遅滞戦闘に入る。デモニカの処理容量は空けておけ」
「どこまで保たせられるかだな、ってゴスロリ来た!!」
「攻撃開始!」
アンソニーの悲鳴と仁也の号令を合図に、無数の銃撃と仲魔達の魔法攻撃が一斉に炸裂した。
「始まったな」
「おい、デカいのバリア張りやがった!」
仲魔のガルーダによって上空から迫っていた小次郎が状況を確認する中、同じく仲魔のスパルナに吊るされる形の修二がライトニング号の方を見て叫ぶ。
「そちらは後回しだ。上空から援護するぞ」
「空中戦なんて初めてだ………」
「オレもだよ」
乗騎としている仲魔に、更に飛行可能なケルプとセイテンタイセイを加え、二人は上空から援護へと向う。
こちらに気付いたダークサマナー達が空を指差し、それに応じたのかメティスの数体がトマホークを投じてくる。
「おわぁ!」
「距離を保て! 飛び道具で攻撃し続けるんだ!」
「シューティングは苦手なんだよ!」
飛来したトマホークを刀や拳で弾きつつ、銃撃や魔弾、攻撃魔法で援護攻撃を開始する。
「人修羅、オレは行くぞ!」
「ヒット&アウェイだぞ、覚えてるだろうな?」
「おうよ!」
「小次郎様、我々は」
「近づき過ぎるな、いいな?」
用心して作戦内容を口にしないで仲魔に指示を出しつつ、二人は援護攻撃を続ける。
「そろそろか………」
マガジンを交換しながら、小次郎は出てきた敵戦力がコチラに集中している事を確認、COMPにインストールされていたソフトを起動状態にする。
「さて、ばれる前にどこまで行ける?」
更に注意を引くべく、小次郎は上空から刀を手に舞い降り、敵へと相対。
「うまくいけばいいんだが………」
同じように降り立った修二が、拳を構えながら呟く。
「無理はするな」
「言われなくても!」
声をかけると同時に、二人は敵へと向けて駆け出していた。
「………妙だ」
「ええ、敵戦力は二分され、片方はこちらの戦力と交戦、もう片方はライトニング号へ攻撃を繰り返してます」
「向こうにもデモニカが有ったという事は、こちらの事も知っているはず。なぜ無意味な攻撃をさせる?」
ライトニング号のブリッジで、ダークサマナーとメティス達が奮戦している画像と、プラズマ装甲に無駄な攻撃を続けている画像という両極端な図に、ブリッジ内の誰もが疑問を感じ始めていた。
「シド神父、敵の一団と接敵! あの白髪の老人と古臭い学生です!」
「彼なら問題無いだろうが………一体何が目的だ?」
サングラスの男が疑問を口にした時、表示されている画像にノイズが走る。
「ん? 今のは…」
直後、ブリッジ内に甲高い警報が鳴り響いた。
「何事だ!」
「クラッキングです! 何者かの電子攻撃を受けています!」
「防壁を展開させろ!」
「今やっていますが、まだシステムの調整が不完全で…! まずい突破される!」
予想だにしていなかった冥界での電子攻撃に、ブリッジ内は先程とは打って変わって騒然となった。
「この手口、奴か………!」
「おわっと!」
一番派手に動き回っているダンテのソリの背後、外からは見えないように偽装された部分で、八雲が持ち出してきていたありったけのPCを用い、すさまじい早さでキーボードをタイピングしていた。
「やっぱりか。あいつら、船乗っ取ったはいいが、管理プログラム止めてやがる。通信プロトコルはほぼレッドスプライトと同一だが、管理プログラムがなけりゃ、こっちの物だ」
どんな操縦をしているのか、ダンテの駆るソリが無茶苦茶に動きまくる中、八雲は他のCOMPやデモニカと並列化させ、電子攻撃を続けていた。
「さすがはリーダーが造ったソフトだ、すいすい行ける。未来のハイテク兵器ってのは、逆に融通が効かないしな」
レッドスプライト号にハッキングしてアーサーに返り討ちにあった時の事を思い出しつつ、八雲は電子攻撃の合間を縫ってプロテクトを次々突破していく。
「……まずいな、管理プログラム無しでも、パワーが違う。持ち直されるのが先か、オレがお宝にたどり着くのが先か………」
持てる限りの機体で並列攻撃してはいるが、徐々に押されつつある事を確認した八雲はキーボードをタイプする手を限界まで早くしていく。
『こちら只野、デモニカに負荷が増えてきた。これ以上キャパは回せない!』
『COMPが熱くなってきた! 悪いが断線する!』
『まだか!? このままじゃ召喚プログラムにまで影響するぞ!』
「くそ、もう少し………!」
各所からCOMPの限界を知らせる通信に八雲は舌打ちしつつ、必死になってあるシステムを探し続けていた。
「なんとか押し返せてます。これならもう少しでなんとか………! 同時ハッキングされてます!」
「やはりな。問題は、どこからかだが………」
サングラスの男は、ハッキングまでは予想していたらしいが、そこである事を考える。
「この艦のシステムは完全にスタンドアローンだ。ハッキングまでするとなると、何かのデバイスが必要になる。向こうから何かを持ってきていたか、あるいは………そうか、アレがあったか。プラズマ障壁解除、対空火器を動かせ」
「え? でも先程まで上空にいた連中は降下してますが………」
「全員囮だ、本命は………」
「やるな」
「そちらもな」
ヒノカグツチとグルカナイフの双方がぶつかり合い、すさまじい火花が周辺に飛び散る中、アレフとユダがお互いに笑みを浮かべ、互いに刃を弾いて離れる。
「ユダさん! バリアが解けました!」
「システムを突破されたか、それとも何か考えが?」
そばにいた別のダークサマナーの叫びに、ユダが僅かに顔を曇らせる。
だがその直後、ライトニング号の各所から伸びる半透明の光線にそれを見た者達の動きが止まった。
「アレフ! あれは!」「対空レーザー砲か!」
ヒロコとアレフ、双方がその光線の正体に気付いて叫ぶ。
対空レーザー砲は一見デタラメに宙を薙いでいったが、その内の一線が何かに命中。
黒煙を上げながら、それは徐々に正体を表しつつ、地表へと落下していった。
「ナイトメアユニット、そうか修復していたのか。ふふ、この攻撃全てがアレの存在を隠すための囮、なかなか手の込んだ作戦だな」
ユダが墜落したのが前に撃墜された遠隔召喚ユニットだと気付き、それこそが電子攻撃の要だと見抜いて苦笑する。
「確かに囮なのは間違いないが、あくまでライトニング号のシステムへの攻撃だけがアレの狙いだ。敵の方は好きに倒していいと言われている」
「そうですか、できればいいですねぇ!」
呪詛を吐くように言い放ちながら、ユダを中心としたダークサマナーとメティス達が襲いかかる。
「来い」「ええ」
それにそれぞれ一言だけ返すと、アレフとヒロコが構え、仲魔達が咆哮を上げる。
まだ作戦が途中である事に、ユダ達は気付いていなかった。
「ちっ………」
画面に表示される、〈DISCONNECTION〉の警告に、八雲は舌打ちしながら、無茶をした高速タイプの反動で血が滲んだ指先に医療テープを巻き付けていく。
「こうも早くばれるとはな………だが、間に合った」
画面に並ぶウィンドゥに〈UPLOAD END〉の表示が浮かんでいる事に八雲はほくそ笑む。
そしてその隣にある小さなウィンドゥに浮かんだ、〈TROY START〉の表示を確認すると、僅かに顔が引き締まる。
「こっちまで上手くいくとはな。駄目元の作戦だったが…こちらクラウド、祈祷はもういい、幽霊は化けて出た。祈祷で熱くなりすぎてないかチェックを…」
クラッキングソフトの終了と作戦成功の暗号を発する八雲のすぐ脇を、飛来したトマホークが回転しながら突き刺さる。
「おい、飛んできたぞ!」
「わりぃわりぃ、ちょっと弾きそこねた」
「これだから無駄に強い奴は………そろそろ出るか」
悪気の無いダンテの声に、八雲はぼやきながらコードを引き抜き、GUMPをホルスターから抜きながらダンテの背後から外へと姿を表す。
「さて、行くぞお前ら」
次の段階に移るべく、八雲はGUMPのトリガーを引いた。
「電子攻撃及びハッキングの中断を確認!」
「すぐにチェックしろ、何かを仕掛けられたかもしれ…」
サングラスの男の言葉も終わらぬ内に、突然ライトニング号のブリッジの大型ディスプレイに幽霊を思わせるスプーキーズのロゴが映し出され、それが意地悪く笑ったかと思うと、ブリッジ内の全ての画面がスプーキーズロゴで塗り潰されていく。
「くそ、ウイルスか!」
「落ち着け! あんな短時間にしかも電子攻撃しながらのウイルスだ、大した影響は無い! すぐに処理しろ!」
慌てふためく者達を叱咤しながら、サングラスの男は違和感を感じていた。
(たったこれだけのためにあんな大規模な囮を? いや、それは考えられない。だとしたら………まさか!)
「通信とセキュリティはどうなっている!」
「通信は落ちてます! セキュリティは今復帰を…」
「すぐに内部を精査しろ! 艦内に侵入されたかもしれん!」
「まさか、そのために!?」
慌ててシステムを復旧させようとする中、ブリッジの扉が開き、そこから黒尽くめの人影が入ってきた。
「なんだメティスか………誰か呼んだか、それともあのマッドが何か用か?」
それがマスクを付けたメティスだと思った者達が作業を再開させるが、その人影は無言でブリッジ内へと進んでいく。
「……! 待て、そいつはメティスじゃない!」
入ってきた時から何か違和感を感じていたサングラスの男が、ふと響いた足音がやけに軽い事、そしてその人影がパンプスを履いている事に気づき、懐のホルスターへと手を伸ばす。
それよりも早く、人影は身をひるがえし、ひるがえったスカートから複数の手榴弾が飛び出してくる。
「な………」「伏せろ!」
全く予想外の事態に何人かが凍りつき、反応出来た者はイスやコンソールの影に転がり込む。
「くっ!」
サングラスの男もコンソールの影に飛び込み、手榴弾は床でバウンドした後、炸裂した。
無数の爆炎が吹き荒れ、撒き散らされたベアリングと爆風にコンソールが耐え切れず砕け散り、避けきれなかった者達の悲鳴が爆音にかき消される。
「やられた………!」
サングラスの男が歯ぎしりしつつ、爆炎が収まると即座にコンソールの影から飛び出す。
「被害は!」
「負傷者数名! くそ偽人形か!」
「ああ!?」
影から這い出してきた者達が、ブリッジの状況を見て愕然とする。
爆風で気付かなかったが、手榴弾が投じられた後、1テンポ遅れて投じられたマハジオストーンが発動し、コンソールの大部分が電撃を食らって使い物にならなくなっていた。
「狙いはこっちか………」
「どこ行きやがった!」「探せ!」
無事だった者や軽症だった者が殺気立ってブリッジから飛び出していき、サングラスの男は周囲を見回し、すぐに飛び出して行かなかった者に負傷者の治療を命じてからブリッジを出て行く。
「やはり、この手で片をつけるしかないか………」
サングラスの男は呟きながら、風変わりなメリケンサック風のCOMPを起動させる。
「あの時付けられなかった決着、付けられそうだな」
敵の策に嵌ったにも関わらず、サングラスの男の顔には、どこか楽しげな笑みが浮かんでいた。
「こちらM1、作戦成功。現在脱出中です」
ライトニング号の通路にパンプスの足音を響かせつつ、メティスの変装をした者が出口へと向う。
「どこだ!」「あっちか!」
後ろから物騒な怒声と銃声が混じり始めた所で、変装は邪魔と判断して破壊したメティスから拝借した衣装と仮面を脱ぎ捨てる。
普段どおりのメイド姿となった変装メティスことメアリが、更にスカートの裾から残った手榴弾を落としつつ、出口へと急いだ。
「姉さん! 医療室は破壊出来た!」「こちらは不完全です! ラボを完全破壊は出来ませんでした!」
別れた通路から、同じようにメティスの変装を解きながらアリサとアイギスが現れ、それぞれの戦果を報告する。
「元々、全部うまくいくはずはないと八雲様は言っておりました」
「敵本部の機能不全が目的であります。その点では成功と言えるレベルでしょう。ただ…」
「どけえ!」
ラボで見た物をアイギスが口にしようとした所で、聞こえてきた声に思わず三人は後ろを振り向く。
そこには、装甲目標用の携行ミサイルを構えたダークサマナーの姿が有った。
「やばっ!?」「ここでは回避は出来ません」「アレの破壊力なら、まとめて吹っ飛ぶであります!」
出口までもう少しという所で、明らかに艦への被害すら考えていない重火器に三人が必死になって走るが、そこで出口の方から声が聞こえてきた。
「伏せて!」
三人がその場に倒れるように伏せるのと、後方でミサイルのトリガーが引かれるのは同時だった。
『アブソリュートゼロ・クリスタリゼーション!』
携行ミサイルが噴煙を上げて飛ぶよりも早く、凄まじい凍気が通路を突き抜けていく。
「ひっ…」「な…」
予想外の攻撃にダークサマナー達の悲鳴はかき消され、発射されたミサイルも目標に届く事無く、凍りついて通路へと落下、更にそのまま氷の中へと埋もれていく。
「助かりました」「そ、そうかな?」「行動に支障はありません」
髪だのメイド服だのが多少凍りついている中、三人は何とか立ち上がって外へと飛び出す。
「三人とも大丈夫ですか!? とっととトンズラするわよ!」
出口で待っていたカチーヤ(inネミッサ)が手招きする中、全員がライトニング号から離れていく。
「もう一発行くよカチーヤちゃん! はいネミッサさん! 『アブソリュートゼロ!』」
駄目押しにもう一発氷結魔法をぶち込み、出口からほぼ出られない程に氷結させた所でネミッサはカチーヤの体から抜け出し、三人の後を追うようにその場から離れていく。
「上手くいった上手くいった♪ これであいつらしばらく出てこれ…」
ネミッサが歓声を上げていた時、突然背後から凄まじい轟音が鳴り響く。
足を止めたネミッサとカチーヤが振り向くと、そこには内部から力任せに破壊されたと思われる、凍りついたままひしゃげた開閉ゲートの姿があった。
「うえ!?」
「こ、これは………」
「ネズミかと思ったら、子猫が何匹も潜り込んでたようね」
ひしゃげたゲートをくぐり、一人の女性が姿を表す。
肩口まで伸ばした黒髪に、藍色のレディーススーツ、そして腰に複数の管を吊るした女は、刺青の入った手で持っていた管の一つを腰のスリングへと戻す。
「それに随分と変わった術を使うようね。神降ろしの変型かしら?」
「ネミッサさん」「分かってる。こいつ、強い」
女の質問に答えず、カチーヤとネミッサは同時に自分の得物の穂先を女へと向ける。
そこで女の目が、カチーヤの構えた空碧相月に刻まれた葛葉の紋章を捉えた。
「そう、貴方達葛葉なのね。レイホゥのお仲間かしら?」
「レイホゥさんは、私の師匠です!」
思わず答えてしまったカチーヤに、女の目は鋭さを増していく。
「あいつの弟子なの、それは残念ね」
呟くなり、女は両手で管を掴んで構える。
「それだけで、貴方を殺す理由が出来たわ」
「な、何かすんごい怒ってんだけど………」
「…! 先程の威力、管に刺青、ひょっとしてフリー・ダークサマナーの…」
「レイホゥから聞いてたようね。私の名はナオミ、レイホゥに師を殺された女よ」
「ネミッサ様! カチーヤ様!」
「さっきの何!?」
「とてつもない反応でした! 注意です!」
女、ナオミが名乗った所で異常を感知したメアリ達が戻ってくる。
それでもなお、ナオミの目はカチーヤだけを見つめていた。
「そうね、死んでもアイツを殺す事だけしか考えてなかったけれど、私が師を殺されたように、アイツの弟子を殺すってのもいいわね………」
その目に狂気を湛えながら、ナオミは管を発動させる。
「来るよ皆!」
ネミッサの号令を合図に、全員が一斉に防御体勢を取った。
「なんだありゃ!」
ライトニング号のそばで生じた大きな爆発に、大刀を振り回していた順平が思わず声を上げる。
「ペルソナ? いや、少し違うようだが、凄まじいパワーだ」
「おい、全員無事か!」
美鶴がアナライズする中、八雲が通信用インカムに向かって叫んだ。
『八雲さん、なんとか大丈夫です………敵にダークサマナーのナオミがいます!』
「な、あいつがか! オレか、誰か強いのがが行くまで無茶するな! そいつの術は半端じゃなく強力だ!」
『ンなもん見りゃ分かるって…』
ネミッサの怒声が、響いてきた爆音でかき消される。
「くそ、オレはあっちに向う! ここは頼む!」
「その方がいいだろ、こっちは急に暇になってきたし」
八雲が仕掛けたウイルスが作用したのか、ライトニング号は沈黙し、メティス達も目に見えて動きが鈍くなってきており、ダンテは急につまらなそうにして周囲を見回していた。
「油断するな! ウイルスがいつまで持つか分からんし、マニュアル操作の可能性も…」
走りながら叫ぶ八雲の言葉を肯定するように、ライトニング号からの攻撃が再開される。
「おっと、もう第二ラウンドか」
「もう囮の必要もねえ、一気に行くぞ!」
「オレ達も!」
ダンテを先頭に、キョウジや課外活動部のペルソナ使い達も一斉に攻勢へと移ろうとする。
だがそれを阻むように、機能不全を起こしていたメティス達が次々と再起動を開始、こちらへと向かってきていた。
「おい、もう動き出してるぜ!?」
「足止めにもなってないじゃん!」
予想以上にメティスの復帰が早い事にペルソナ使い達の足が止まり、迎撃体勢を取ろうとした時だった。
「んん?」
矢をつがえていたゆかりが、こちらに歩きながらメティス達に何か指示を出している人影に気付く。
目をこらした所で、それが見覚えある人物である事に気づき、愕然とする。
「ちょ、美鶴先輩! あそこ、あそこに!」
「ああ、気付いている………さすが冥界、と言うべきか………」
慌てるゆかりをなだめながら、美鶴は手にしたレイピアを我知らずに強く握り締める。
動き出したメティスの軍勢は、その人物に従属するように付き従い、やがてその姿が誰の目にもはっきりと見える位置にまで来ると、足を止める。
「貴方は………!」
「やあ久しぶりだね」
その人物、メガネをかけた中年男性の姿に啓人は半ば予想していたとはいえ、絶句した。
かつては月光館学園理事長にして特別課外活動部顧問、ペルソナとシャドウの研究家、そして自らの手で滅びを招こうとして美鶴の父親と相打ちになって死んだ男、幾月 修司は己が贄に捧げようとした者達の前に、笑みを浮かべて対峙した………
冥府の底から、次々とかつて敗れたはずの影達が立ちはだかる。
相対する糸達との戦いの行方は、果たして………