真・女神転生 クロス   作:ダークボーイ

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PART38 RECAPTURE OF THE INITIATIVE

 

「何だとっ!? それは本当か!」

 

 署長室から、廊下どころか署内全体に響き渡るような声が響き渡る。

 

「ああ、至急全員を帰還させてくれ。緊急対策会議を行う。救出部隊を編成しなくてはならない。早急にだ」

 

 矢継ぎ早に伝え、叩きつけるように克哉は電話を切った。

 ふとそこで、電話機の隣に前のめりに倒れているピクシーの存在に気付いた。

 

「ど、どうした? 大丈夫か?」

「み、耳が………」

「それはすまない………つい興奮してしまった」

 

 克哉の大声に目を回していたピクシーに、克哉が思わず頭を下げる。

 

「何があったの? すごい声だったけど………」

「………セラ君と園村君がヨスガとカルマ協会の手によって拉致されたらしい」

「ええ!? ゆうかい!? 待って、確か喰奴とかいう人達って………」

「ああ、セラ君の歌によって暴走を抑えている。だがそれが出来ない上に、現状ここには悪魔使いはレッド・スプライト号の人員を除けば、たまき君しかいない。暴走時に対処しきれるかどうか………」

「克哉、克哉、顔怖い………」

 

 どんどん顔つきが深刻になっていく克哉に、ピクシーが手と羽を振ってなごませようとする。

 

「冥界突入部隊の帰還は待っていられない。残った人員だけで何とかしなくては………まさか、ヨスガとカルマ協会が同盟を組むとは、な」

「よく分かんないけど、こっちにも色々な人達いるじゃん」

「そうだったな。園村君も一緒なら、早々簡単に手は出せないだろう………その間に手を打たなくては。シジマの動向も考慮しなければならないし。冥界突入班は早く戻ってこない物か………」

「さあ~? 向こうも似たような事になってたりして?」

 

 

 

同時刻 冥界

 

「この先か………」

「間違いないな、大きなエネルギー反応がある。ただエネミー反応も多数ある………ついでにレーダー波反応も」

「これ以上近づくのは無理か………」

 

 八雲が多機能双眼鏡で反応のある方向を注意深く観測する隣で、アンソニーがデモニカの各種センサーを使って感知出来る物をまとめていく。

 

「何かあるのは確かだが、バリバリに警戒してやがる。相当用心深い連中だな」

「このまま行ったら返り討ちだね。データ集められるだけ集めたら帰ろう」

「え~、カチコミかけるんじゃないの? ネミッサせっかく用意してきたのに」

「さすがに私達だけじゃ無理ですよ………」

 

 データをまとめる二人の背後、ブルージェットに残っていた重火器を持ち出してきていたネミッサが文句を言い、何故か一緒に担いできていたカチーヤがたしなめる。

 

「オレだってできればそうしたいが、退路の確保が出来るか分からん。山岸がいればこういう時楽なんだが」

「呼んできたら? まっすぐ降りてくればダイジョブだと思うし」

「さすがに無理ですって………」

「だがこのまま帰るのもシャクだな。ネミッサ、その長いの貸せ」

「どうするの?」

 

 八雲がネミッサから最新型のロケットランチャーを降ろさせると、地面に根本を埋め込むように固定して大体の目標とタイマーをセットしていく。

 

「この間から思ってたんだが、君は軍人でもないのに何でこういう事に詳しいんだ?」

「サマナーなんてやってると色々あってな。使える物は何でも使えるようなスキルが身についた。昔はアジトのトレーラーに爆弾しかけられたりもしたしな」

「あっはっは、あったね~。シックスが任せとけなんて言って、結局解体出来なくて捨てて逃げ出したっけ」

「サマナーになった時から、ハードだったんですね………」

「指名手配もされたぞ」「されたね~」

「………軍人よりも下手なテロリスト並だな」

「相手が人間か悪魔かの違いだけでやってる事は然程変わらん。それはあんた達も一緒だろ」

「まあ、言われてみれば………なんでか女悪魔が仲魔になってくれないだけで」

 

 そう言いながら、アンソニーは向こうを向いたまましゃがみこんでデモニカのコンソールをいじり始める。

 

「でも、結構仲魔増えてたじゃん」

「ああ増えたよ、増えてるよ………」

 

 いじけているアンソニーの手元、冥界に来てから急に増えた仲魔一覧を後ろから見たカチーヤの顔が僅かに引きつる。

 そこには、通常では仲魔に出来ないはずの悪霊や屍鬼の名前がずらりと並んでいた。

 

「勧誘もしてないのに、なんでか仲魔に入ってくるんだよな………いっぱいだから合体させないと………」

「ネクロマンサーの素質でもあるんだろう。結構レアな才能だぞ?」

「アンデッドばかりのパーティーなんていやだああぁぁぁぁ!!」

「あんまり騒ぐと見つかりますよ」

 

 絶叫するアンソニーをカチーヤがたしなめようとした時、突然デモニカとGUMPからアラート音が鳴り響いた。

 

「あ、見つかった?」

「うえ!?」

「違う、緊急帰還シグナルだ。何かあったのか?」

 

 GUMPの表示を確かめた八雲が、手早く作業を終わらせていく。

 

「急いで戻るぞ」

「え~、せっかくここまで来たのに~」

「ネミッサさんネミッサさん、あくまで偵察ですよ」

「仲魔も集まったけどね………」

 

 アンソニーの乾いた笑いを最後に、四人は慌ててブルージェット号へと戻っていく。

 それからしばらくして、ロケットランチャーの時限発射装置がカウントダウンを開始するが、終了する前にそれを止める手が有った。

 

「ふっ、味な真似をするようになった物だ。それでこそ潰しがいがある………」

 

 呟きながら、カウントダウンを止めた人物はかけていたサングラスを指先で戻す。

 その手には、メリケンサックの形をした風変わりなCOMPが嵌められていた。

 

 

 

「誘拐!?」

「間違いない。今向こうから届いた情報だ」

「何々?」

「セラちゃんが誘拐されたって!」

「待て。彼女がいなくなったら、喰奴の連中は暴走するんじゃないのか?」

「いや、向こうにはレイホゥもたまきも残ってる。しばらくはなんとかするだろう。園村も一緒に攫われたらしいが、むしろ手が出しにくくなるだろうし」

 

 突如もたらされたセラと麻希誘拐の報は、ブルージェット号にいた者達に衝撃となって知れ渡った。

 

「そのセラって奴、さらわれたらそんなにやばいのか?」

「ヤバいも激ヤバ。喰奴って人達、セラちゃんの歌が無いと暴走して共食い始めようとするんだもん。私だって危うく食べられそうになったし」

 

 深刻な顔をしている面々に真次郎が首を傾げ、そこへ実際に暴走を目の当たりにした事があるゆかりが説明する。

 

「共食いって、何でそんな人達と組んでるの?」

「いや人手不足っちゅうか、戦力はすげぇんだよ、戦力は」

インパーフェクト(不完全)な法神変化か。それは暴走してしかるセオリーだ」

 

 チドリの当然とも言える疑問に純平が若干渋い顔をするが、ゲイリンは逆に納得した顔をしていた。

 

「問題は、誘拐したのはヨスガとカルマ協会の連合らしい。すぐに救出部隊を編成するらしいが、手が足りるかどうか」

「ならば、何人か戻るか?」

 

 キョウジの言いたいとする事を、小次郎が即答する。

 

「元々こんな大人数で来る予定じゃなかったからな」

「しかしそれだと別件の問題がある」

 

 キョウジが顔をしかめるが、そこでアレフが別問題を定義し、懐からカロンに渡されたコインを取り出す。

 それは本来の鈍色の輝きを失い始め、黒ずんできていた。

 

「個人差はあるかもしれんが、もうここに要られる時間は半分を切ったと見るべきだろう」

「だな。よりにもよって実力が上の連中程、早く黒くなってやがるし」

「実力ではなく、一度来た事があるかどうかだろう」

 

 皆がそれぞれコインを取り出し、明らかに黒ずみが進んでいる小次郎やキョウジが表情を険しくする。

 

「ユー達の協力のお陰で、敵の本拠地らしい場所は特定目前のセオリーだ。体制を整え、一気に勝負に出るプロセスを提案するが」

 

 ゲイリンの提案に、ある者は考え込み、ある者は互いの顔を見合わせる。

 

「自分もその作戦に賛同する。戦術的にも、不安定な戦線をそのままにして戦力を分断させるよりは、一気に攻勢に出るべきだ」

「自衛官とは思えない意見だな。だが私もその案には賛成だ」

 

 仁也も賛成意見を述べ、美鶴も賛成の旨を述べる。

 

「けど、大丈夫なのか? 敵のヤサは分かっても、どんな連中かはまだ分かんねえんだろ?」

「その件なんだが、実は心当たりが…」

 

 真次郎が当然とも言える疑問を口にし、雅弘が頭をかきながらある可能性を口にしようとした時だった。

 突如として、艦内にけたたましい警報が鳴り響く。

 

「あの、これは…」

「敵襲、だろうね。これ鳴るのは初めてだけど」

「総員迎撃準備!!」

 

 啓人の間抜けな質問に雅弘が答え、仁也の号令を合図に戦闘可能な者達が一斉に得物を手に外へと飛び出していく。

 一人取り残された雅弘は、そのままラボへと向う。

 

「とうとうここがバレたか………」

「そうみたいです」

 

 ラボの中、何か作業をしていた詠一郎に雅弘は背中から話しかけるが、詠一郎は振り向きもせずに作業を続行していた。

 

「いつかは来るだろうとは思っていたけど、予想よりは早かったかな」

「まあ、皆が手伝ってくれた分、こっちもあれこれ早くなりましたけどね」

「我々はもうここの住人だから、ある程度諦めもつくが、娘達はそういうわけにはいかない。なんとしても無事に帰さないと………」

 

 思念体のおぼろな顔でも分かるほど真剣な顔をして詠一郎は、そばにある装置のスイッチを入れつつ、キーボードのエンターキーを押した。

 

「彼女は、動きそうですか?」

「なんとしても起動させてみせる。きっと、娘の力になってくれるはずだ」

 

 そう言う詠一郎の視線の先、ラボの奥にあった何かの装置が動き出し、カバーが開放されていく。

 そこには、淡い水色の髪をした人影が眠るカプセルが有った………

 

 

 

「トリスメギストス!」『利剣乱舞!』

「メーディア」『マハラギダイン!』

 

 たまたま真っ先に飛び出す事になった順平とチドリが、先制攻撃とばかりにペルソナを発動、二体のペルソナが斬撃と業火を撒き散らし、押し寄せてきた黒衣の機械少女、メティスを数体弾き飛ばす。

 だがそれを押しのけるように、新たなメティス達が押し寄せてきた。

 

「またこいつらかよ!」

「こんなにいたの………知らなかった」

「こっちは襲われるの三度目だ!」

 

 順平とチドリは互いに背中合わせになりながら、メティスの軍勢へと向かってペルソナを発動させ続ける。

 

「よう、見せつけてるじゃねえかよ!」

「何がだ!」

 

 その脇を修二が悪態をつきながら通り過ぎ、腰に手をやって構えると、そこに光の粒子で形成された剣が現れる。

 

「死亡遊戯!」

 

 光の剣から放たれた衝撃波がメティス達を吹き飛ばすが、ダメージを食らう直前でメティス達は自らのペルソナで防御してダメージを軽減させていく。

 

「たたみかけろ皆!」

『おおっ!』

 

 二度の戦いでそんな事は承知だった修二は仲魔を一気に召喚、クィーンメイブ、サティ、スパルナ、セイテンタイセイ、クーフーリンが体勢を崩したメティスへと襲いかかっていく。

 

「周辺が完全に包囲されてる!」

「無理に防ごうと思うな! 複数で組んで、数を減らす事を優先させろ!」

 

 仁也がブルージェット号のシステムとリンクさせて表示されていく敵影に声を荒らげ、小次郎が叫びながらも率先してメティス達へと剣を手に突貫していく。

 

「ここに入る前と同じだ! 実力者が前に、後方でそれをサポートしろ!」

「いいフォーメーションのセオリーだ。ならばそうするプロセスだ」

 

 アレフも叫びながら剣を振るう中、ゲイリンもそれに続いてメティス達と相対する。

 

『皆聞こえてるか? ブルージェット号のシステムで出来るだけサポートしてみる。現状だと確認出来るメティスの数は32体だ』

「前よりは少ないか」

「あん時大分減らしたはずじゃ…」

 

 通信機から響いてきた雅弘からの報告にキョウジが呟き、啓人は召喚器片手に前の戦いでどれだけ倒したか思い出そうとしたが、目の前にまで迫るメティスの姿にそれを中断させる。

 

「メアリさん、何かおかしいのであります」

「何がでしょうか?」

「オリジナルの反応がありません。今侵攻してきているのは量産型のみです」

「それって、どういう事?」

「何らかの戦術的意図の可能性が…」

 

 アイギス、メアリ、アリサの三人の人工メイドが組んで得物を振るう中、アイギスはある違和感を感知するが、目前に迫ったメティスの体がオルギアモード発動の光を帯び始めたのに気付き、現状戦闘に処理を優先させる。

 

「オルギア発動」「発動」「発動」

「マジかよ!?」「総員防御!」

 

 メティス達が一斉にオルギアモードを発動、そのあまりの数に真次郎も思わず顔色が変わり、キョウジは全員に叫びながらも自らは迫り来るメティス達の矢面へと立つ。

 

「弾幕形成! 弾種爆裂!」

「え~と、これか!」

 

 仁也が叫びながら銃のマガジンを交換、ゆかりも慌ててブルージェット号の中から見つけたエクスプローションアロー(矢じりに爆弾を装備した対装甲目標用矢)を弓につがえ、高速で迫るメティス達へと向かって一斉に弾幕を放つ。

 

「まずい………」

 

 すれ違い様に横薙ぎの一撃でメティスの一体を胴体から両断させた小次郎が、前の戦いとは似て非なる状況に焦りを感じ始める。

 

(前は押し戻す戦いだった。だが今は逆にこちらが押し込まれている。ここで対処出来る間はいいが、突破されたら………)

 

 自分を含めて数人の実力者は互角に戦えるが、メティス達は被害を物ともせず、オルギアのスピードを武器に一気にブルージェット号とその周囲にいる者達まで攻め寄せようとしている。

 

「下がれ! 戦線を後退させるんだ!」

「ダメダ、早スギル!」

 

 小次郎は仲魔に後退を指示するが、ケルベロスが背後から駆け寄ってメティス一体をかろうじて抑えこむが、他のメティス達は一気に抜けていく。

 

「こちらもオルギア発動を!」

「やむをえまい、発動を許可する!」

「無理はするな!」

 

 美鶴とキョウジの二人の許可を得た三人は、一度引いて背中合わせになると、同時にシステムを起動させた。

 

「Mリンクシステム、コンバート」

「マグネダイトリアクター、フル出力!」

「パピヨンハート、リミッター解除!」

『オルギア発動!』

 

 三人が余剰エネルギーを光の残滓として軌跡を描きつつ、同じオルギオモードを発動させているメティス達へと対峙していく。

 

「あれがオルギアモードか。データは見てたが………」

「短時間でエネルギーを使い果たし、オーバーヒートを起こす。その間に態勢を立て直さねばならない」

「前に出ている者達を援護射撃! 足止めに専念!」

 

 仁也が驚異的な戦闘力のオルギアモード同士の戦いに目を見張るが、美鶴の説明に即座に機動班に指示を出した。

 

「チドリ下がれ! 正面から当たったらヤベえ!」

「分かってる。この子達、嫌い。メーディア」『マハラギダイン!』

 

 ある意味メティスと対照的な格好をしたチドリが、順平の背後に回りながらもペルソナで順平をサポートする。

 相次ぐ攻撃の前に、メティス達は次々と倒れていくが、無造作にそれを踏み越え、オルギアモードのメティス達が押し寄せる。

 

「いかん…!」

 

 一体のメティスのトマホークを受け流したゲイリンがそのまま返しの一太刀を浴びせた隙に、別のメティスが一気に跳躍していく。

 

「来たよ!」「そう何度もやられるセオリーではありません!」

 

 ちょうどそのメティスの正面にいたあかりと凪が得物を構えるが、突然飛来した何かがメティスの胴体を両断しながら突き抜ける。

 それが一振りの巨大な大剣だと認識したゲイリンが、その大剣が弧を描いて戻っていく先を見つめ、そこにいる人影を確認して目を見開く。

 

「おお、あれはまさか………」

 

「どうやら、待てないオーディエンスがステージに押し寄せてるみたいだぜ」

「ならば、舞台から下ろすまでだ」

 

 飛来した大剣を受け取った人物、ダンテがそう言いながら笑みを浮かべ、隣にいたライドウが愛刀陰陽葛葉と妖銃コルト・ライトニングを抜き放つ。

 二人に気付いたメティス数体が、危険因子と判断したのか、踵を返すと猛スピードで迫ってくる。

 

「おっと、オーディエンスに気付かれたようだ」

「迎え撃つ」

 

 ライドウが曰く付きのコルト・ライトニングをメティスの一体へと向けて三連射。

 妖気を帯びて放たれた弾丸はメティスの体に食い込み、片腕を吹き飛ばし、腹部と胸部に大穴を開ける。

 拳銃弾とは思えない破壊力に、さすがのライドウもかすかに口元を引き締める。

 

「伝説よりも遥かに陰気を浴びてるのではないか、この拳銃は………」

 

 上空から飛来したゴウトがそう呟きながらライドウの肩に止まる。

 ライドウは即座に別のメティスへと狙いをつけようとするが、それをダンテが制止。

 

「少しはこっちにも回してくれよ」

「それを使う気か」

「久しぶりに使う物には、慣らしが必要だろ?」

 

 そう言いながら笑みを浮かべたダンテは、担いでいた大きなトランクケースを地面へと下ろすと、まるで待ち構えていたかのようにトランクが勝手に開く。

 同時に、中からライドウのコルト・ライトニング以上とも思える妖気が吹き出した。

 

「………すさまじいな」

「こいつらも久しぶりで興奮してるようだ。ケルベロス!」

 

 ゴウトですらもたじろぐような妖気に、ダンテは片手を伸ばしてそこに収められている物の名を呼ぶ。

 するとトランクケースの中から、1つの輪に3つの棍が連なった、風変わりなヌンチャクが飛び出し、ダンテの手に収まる。

 

「Let‘s PARTY!」

 

 嬉々としてダンテが叫びながら、向かってくるメティスの一体に文字通り飛び掛かる。

 

「ペルソナ発動」

 

 自分が狙われていると認識したメティスがペルソナを呼び出し、ダンテを迎撃しようとするが、振るわれたヌンチャクの一撃がペルソナを弾き飛ばす。

 

「………は?」「何アレ?」

 

 ペルソナに感知能力を持つ美鶴とチドリが、ペルソナが物理攻撃で弾き飛ばされるという予想外の事態に、思わず動きが止まる。

 ペルソナが弾き飛ばされたメティスはそれを気にしないのか、続けてトマホークを振りかざすが、ひるがえったヌンチャクが今度はトマホークを、続けてメティスの右腕を弾き飛ばす。

 

「フウウゥ!」

 

 気声と共に、ダンテはヌンチャク・ケルベロスの中央の輪に腕を通して高速旋回。

 旋回した棍がメティスの体をめった打ちにし、原型を留めるかどうかのスクラップとなって地面へと放り出した。

 

「あれは、魔晶武器か!」「しかも大悪魔クラス」「それを、幾つ持ってきた?」

 

 キョウジ、小次郎、アレフのトップクラスの悪魔使い達ですら驚愕するレベルの力を秘めた武器を平然と使いこなすダンテは、無造作にヌンチャクを放り投げる。

 ヌンチャクは狙いすましたかのようにトンラクケースへと収まる。

 

「ネヴァン!」

 

 今度はそこから妙に尖った形状をした、奇妙なギターが飛び出す。

 よく見ればそのギターは弦の代わりに小さな稲妻が走っており、それを手にしたダンテは思いっきりかき鳴らす。

 

「イヤッハー!」

「攻撃最優先目標変更」「変更」「変更」

 

 雷のギターを手に更に楽しげに気声を上げるダンテを最危険要素と判断したのか、残ったメティス達の半数が一斉にダンテへと向かってくる。

 

「おい、やばいぞ!」「いや、彼なら問題ないセオリーだ」

 

 オルギアモードを発動させたままのメティスの大群がダンテ一人に向かっていくのを見た真次郎が、救援に向かおうかとするがゲイリンは首を横に振る。

 迫り来るメティス達を前に、ダンテはまだギターをかき鳴らし続けていたいが、突然ギターを反転させてネックを持ったかと思うと、ボディから湾曲した刃が飛び出す。

 

「ハッハー!」

 

 そのままギターは変型の鎌となり、ダンテがそれを振るうと斬撃と共に稲妻が周囲にほとばしる。

 稲妻の直撃を食らったメティス数体が動きが止まった瞬間、鎌の斬撃が容赦なくその体を貫く。

 ダンテは鎌を振り回すついでに再度かき鳴らし、他のメティス達に稲妻と斬撃の連撃を次々とお見舞いしていく。

 

「なあ、もうあいつ一人でいいんじゃね?」

「そんな気がしてきた………」

「彼一人に任せるわけにもいかない。残ったのをこちらで…」

「反対側、新手が来た。彼女達じゃない」

 

 啓人と純平がダンテのすさまじいとしか言い様のない戦闘に唖然としているが、明彦が残ったメティスへと拳を構えた時、チドリがとんでもない事を言い出す。

 

『確かに何か来てる! 数は13!』

「後方、反応あり! だがこの反応は、まさか!?」

 

 雅弘の渓谷に続き、仁也もデモニカのセンサーでそれに気付いて振り向くが、それがデモニカに登録されているデータである事に驚愕。

 最初に届いたのはフルオートの銃撃音、そして向こう側から、複数の悪魔を伴った一団が姿を表す。

 悪魔を引き連れているのは、シュバルツバース調査隊の使用している物とよく似た、だが漆黒のデモニカスーツをまとった者達だった。

 

「まさか、ジャック隊!?」

「あいつらも冥界に来てたのか!」

「だがあいつらはゼレーニンの歌で戦闘不能になってたはずだぞ!」

「命の感じがしない。あの人達も私と同じ、生きてない人間」

 

 機動班のメンバー達が困惑する中、チドリの言葉が更なる困惑をもたらす。

 

「確認は後回しだ、迎撃態勢を…」

 

 仁也が我を取り戻してブラックデモニカの一団に銃口を向けた時、どこからか飛来したロケット弾がブラックデモニカの一団の中央へと着弾、爆風に巻き込まれたブラックデモニカが数人宙を舞う。

 

「さって、どういう状況だこれは?」

「敵襲以外なんだと思うんだよ」

「それは間違いないが………」

 

 偵察から急遽戻ってきた八雲が、使い捨て型のロケットランチャーを放り投げながら、黒衣だらけの集団に襲われている状況に首を傾げ、アンソニーはスナイパーライフルを構えて狙いをつける。

 

「くそ、ジャック隊まで来てやがるとは!」

「知り合い?」

「オレ達が血路を開いたシュバルツバースに、金儲けのためだけに来た連中だ! あの世にまで来やがるとは!」

「お金目的のデビルサマナーって、たまにいますけど………」

「なあ、あの世に金は持っていけないって言うよな?」

「それもそだよね?」

 

 悪態をつきながら狙撃態勢に入るアンソニーに、カチーヤも頷きながら突撃の準備をするが、八雲は少し俯きながら考え、ネミッサも首を傾げる。

 

「知るか! オレが援護するから、中に入られる前にどうにか…」

「来たよ!」

 

 狙いを定めようとしたアンソニーを狙って、ドクロのような姿をした怪鳥、スリランカの伝承に伝わる鷲の魔物、凶鳥 グルルが襲い掛かってくる。

 

「この!」

「ギャアアアァ!」

 

 ネミッサがアールズロックを乱射してグルルを蜂の巣にして落とすが、そこに続けて老人の顔と毒の尾を持つ獅子、妖獣 マンティコアと無数の顔が浮かんだ醜悪な肉塊、新約聖書に記された悪霊の群れ、悪霊 レギオンが襲いかかる。

 

「くそ!」

「散れ!」

 

 アンソニーが悪態をつきながら狙撃態勢を崩して予備のハンドガンを抜き、八雲はマンティコアとレギオンが同時に放ってきた電撃魔法をかわしながら、ある疑問を感じていた。

 

(飛行系悪魔で足を止めて、速度や範囲攻撃に優れた悪魔を送ってきた? ヤケに悪魔を使い慣れている………)

「このっ!」

 

 お返しとばかりにカチーヤが愛槍、空碧双月を繰り出しレギオンを貫くが、貫かれたレギオンの体が突如として膨らむ。

 

「危ないカチーヤちゃん! マハ・ブフーラ!」

 

 とっさにネミッサが氷結魔法を放ち、直後に自爆したレギオンの爆風をかろうじて抑えこむ。

 

「すいませんネミッサさん」

「後々、本命来てる!」

 

 思わずカチーヤが頭を下げるが、ネミッサの指摘通り、ブラックデモニカの悪魔使い達が数名、散発的な銃撃をしながらこちらへと向かってきていた。

 

「ジャンヌ、サポートを! オベロン、消してやれ!」

「心得ました召喚士殿! ラクカジャ!」

「いくぞい、破魔の雷光!」

 

 こちらも仲魔を召喚した八雲の指示で、ジャンヌ・ダルクが防護魔法を使い、オベロンが破魔の光をブラックデモニカへと浴びせるが、周辺の仲魔が数体浄化されるが、ブラックデモニカをまとった者達はわずかにたじろぐが、再度こちらへと向かってくる。

 

「ぬう、効かぬのか?」

「あのデモニカ、オレらのよか高性能なんだよ! 下手な属性攻撃は遮断しちまう!」

「金儲けのためには金を惜しまないか、一番厄介な話だ。けど………」

 

 相手の動きに更に違和感を感じた八雲は、確証を得るべく、モスバーグショットガンのセーフティを外す。

 

「直接ブチ込むしかないな。オレが行くから、サポート頼む」

「OK、ネミッサは後ろから撃ちまくればいいのね」

「誤射に気を付けてくださいね」

「ケルベロス続け!」

「ガァオオオ!」

 

 さらりと物騒な事を言うネミッサを無視して、咆哮を上げるケルベロスを伴って八雲はブラックデモニカの一団へと突撃する。

 

「そぉれ!」「マハ・ブフーラ!」

 

 後方からネミッサの銃撃とカチーヤの魔法が援護する中、八雲はモスバーグを連射しながらブラックデモニカの一団との距離を詰めていく。

 

「こいつ、出来るぞ!」

「構うか、殺せ!」

 

 ブラックデモニカをまとった者達が攻撃に構わず突っ込んでくる八雲に慌てるが、攻撃を八雲に集中させようとした所で、手前の一人がアンソニーの狙撃を食らって体勢を崩し、八雲が駄目押しにコロナシェルを連続で叩きこんで、頭部から上を完全に吹き飛ばす。

 

「貴様……!」

「死人でも退魔弾で頭を飛ばせば動けねえだろ」

 

 明らかに死人相手の戦いも慣れている八雲に、ブラックデモニカをまとった者達の狼狽が目に見えて伝わってくる。

 

「殺れ! こいつは危険だ!」

「そっちの方がだろ」

 

 怒鳴るブラックデモニカをまとった相手に、八雲はモスバーグの銃口を向けて引き金を引いた所で、乾いた音だけが響く。

 弾切れを好機と見た相手が腰から軍用ナイフを抜き、八雲も同じくHVナイフを抜いた。

 2つの刃がぶつかる硬質な音が響くが、ブラックデモニカの増強された力に、八雲が押されていく。

 

「ちっ………」「ふふ………」

 

 つばぜり合いの状態で押されていく八雲が舌打ちし、相手がくぐもった笑い声を漏らすが、そこで突然八雲がナイフから手を離して倒れこむ。

 

「!?」

「ケルベロス!」

「ガアァァア!」

 

 軍用ナイフが服をかすめていく中、八雲が叫び、八雲の背後に重なっていたケルベロスが八雲が倒れた直後に、業火を吐き出す。

 

「うわああああぁぁ!」

 

 正面からもろに業火を浴びた相手が悲鳴を上げるが、ブラックデモニカはその業火に一定の耐性を見せる。

 

「頑丈過ぎる、ぜ!」

 

 相手が業火に気を取られた隙に八雲はモスバーグをリロード、倒れたままの姿勢でコロナシェルを連続で叩き込み、相手は業火に包まれて、体の各所がえぐれた状態で地面へと倒れこんだ。

 

「何者だこいつ!」

「どきなさい。私がやります」

 

 他のブラックデモニカをまとった者達が狼狽を始める中、その内の一人が前へと進み出る。

 声から若い男と思われるその一人は、腰から半ばからくの字に曲がった風変わりなナイフ、通称グルカナイフと呼ばれる物を取り出し、構える。

 

(こいつ、出来る………けど、どこかで?)

 

 その男の雰囲気と構えに何処か覚えがある八雲は警戒しながら、こちらもナイフを構える。

 男は一気に踏み込み、グルカナイフを横薙ぎに振るい、八雲はそれをHVナイフで受け止める。

 だが双方の刃が接触した瞬間、接触面からすさまじい火花が飛び散った。

 

「ちっ、ヒートナイフか!」

「ほう、なかなか」

 

 相手の得物がただのナイフでないと悟った八雲に、男は感心したような声を上げるが、即座に空いていた手が大型のリボルバー拳銃を引き抜く。

 八雲はとっさに刃を弾いて身をひるがえし、大型リボルバーから発射された弾丸は八雲の衣服をかすめただけだったが、かすめた箇所が僅かに石化する。

 

「魔法弾か、随分といい装備使ってやがるな」

「ふふ、技術の進化とは素晴らしい物です」

「つまり、それはたまたま手に入れたって事か」

「………行きなさい」

 

 八雲のカマかけに、男は仲魔に突撃を指示。

 それに応じて、雷雲に乗ったインド神話の暴風神ルドラの息子とされる妖魔 マルト、両手を前に付きだした朝鮮由来の妖怪である妖鬼 トケビが襲い掛かってくる。

 

(あの戦い方の癖、そしてこの仲魔、こいつまさか!)

「ケルベロス! カーリー!」

「ガアアァ!」「シャアアァア!」

 

 ある確信を得つつ、八雲は自らの仲魔を呼び、ケルベロスはマルトが繰り出す雷撃をかわしつつ業火を吐き出し、カーリーはトケビ相手に六刀を振りかざす。

 

「いい仲魔を連れているな」

「そいつはどうも」

 

 八雲はそう言いながら、こっそりとモスバーグにある弾丸を込め、相手に気付かれないように装弾。

 そして、無造作にHVナイフを男へと向かって投げる。

 

「何を?」

「おりゃあ!」

 

 わずかに首を傾げてそれをかわした男だったが、さらに八雲はモスバーグをまるで棍棒のように振りかぶって男へとむかって叩きつけてくる。

 

「そんな物」

 

 男はヒートグルカナイフで振り下ろされた銃身を受け止め、あまつさえ両断する。

 だが、両断された銃身が舞う中、八雲は唯一薬室内に残っていた弾丸を極至近距離で発砲。

 放たれた弾丸は、男の頭部に直撃するが、その弾丸、非殺傷用粘着弾がブラックデモニカーのバイザーを完全に覆い尽くす。

 

「これは一体!? 何のつもりだ!」

「さあてね」

 

 とぼける八雲に、男は思わずバイザーをオープンにする。

 その下から出てきた顔に、八雲の目が鋭くなった。

 

「やっぱりお前か、ユダ」

 

 バイザーの下に現れた顔、中東系のターバンを巻いた男の顔に、八雲はその男の名を呼ぶ。

 

「なるほど、私の顔を確かめるために………だが、貴方と面識はありませんが」

「だろうな、オレがサマナーになった頃、あんたは死んでたし。他の連中も知った顔がいそうだな、ファントムソサエティ!」

 

 確信を持って、八雲はかつてはスプーキーズとして、葛葉の一員となっても今だ敵対する事がある組織の名を叫んだ。

 その声に、ブラックデモニカの一団の動きが僅かに止まるが、やがて何人かが含み笑いを始める。

 

「ふふふ」「ははは、どうやら隠しておく必要は無さそうだ」

「マジ物の亡霊になってやがるとはな………」

 

 何人かがバイザーを上げ、見覚え、というか倒した覚えのある顔もある事に八雲は舌打ちする。

 

「なるほど、道理で」

 

 キョウジも納得する中、一人意外な顔をしていた者がいた。

 

「ファントムソサエティ!? こやつらが!」

「知ってるのか?」

「アメリカでのセルフ修行の時に何度か敵対した! 未来になっても活動していたとは」

「あんた、確かキョウジや八雲とは100年位時代ずれてたはずじゃ………」

 

 驚いているゲイリンに小次郎が問いただすが、返答にアレフは半ば呆れた声を上げた。

 

「へ~、まさかここでファントムが出てくるなんてね~ネミッサ、お礼参りって奴やってみたかったの」

「向こうの人達もう死んでますけど………」

 

 ネミッサが嬉々としてアールズロックに弾丸を装填し、カチーヤがなにか違うような、と思いつつも八雲に続こうと空碧双月を構える。

 

「課外活動部! こいつら全員ストレガと思え! 実際はもっとやばい!」

「全員!?」

「マジ!?」

「あれ、黒いと更にださい」

 

 八雲が叫び、ペルソナ使い達が全員驚く(※元ストレガのチドリだけ別意見)中、八雲はある違和感に気付いた。

 

(戦力が少な過ぎる、狙いは奇襲じゃなく………!)

 

 八雲の脳裏に、かつてのファントムソサエティとの戦いが思い浮かび、そしてある事を思い出す。

 

「全員、周辺範囲攻撃! リーダー、全サンサーをフルアナライズ! 何か仕掛けられたかもしれねえ!」

「こいつら陽動か!」

「なるほどな」

 

 キョウジも八雲の言わんとする所を察し、同様にライドウも一気に全身しながらありったけの管を取り出す。

 

「タナトス!」『メギドラ!』「イシス!」『マハガルーラ!』

「燻り出せ!」「ガアアァァ!」

「薙ぎ払え」「マハザンマ!」「ムドオン!」

 

 状況がイマイチ飲み込めたかどうかは不明だが、ペルソナ使い達も広範囲攻撃を周辺に無差別に撃ち、悪魔使い達も仲魔に一斉攻撃を支持する。

 

「え? え?」

「何か潜んでいるセオリーです! 私達も…」

「分かったよ凪! ア~ギ~ダ~」

 

 状況が全く理解できないあかりが困惑する中、凪も仲魔のハイピクシーと警戒態勢を取る。

 

「イ~、うひゃあ!」

「うわわ!」

「オウ、失敗のセオリーです………」

 

 だがハイピクシーの火炎魔法が暴発、周辺を黒煙だけが一斉に漂い、あかりと凪が咳き込む。

 しかし、凪の視界が漂う黒煙が不自然に何か人の形のような物を形造っている事に気付いた。

 

「そこです!」

 

 凪が小太刀を振るって見えない人影に斬りかかるが、その人影の場所から金属音が響き渡る。

 

「見つけた~!!」

 

 あかりも軽金属大剣を人影の場所へと横薙ぎに振るうが、人影は大きく飛び退り、そこで明滅するようにしてブラックデモニカが浮かび上がる。

 

「ふふふ、まさかそんな貧相な悪魔に燻り出されるとはね」

 

 突如として現れたブラックデモニカ、声から女性と思われる者は、全身についた煤を手で払い、更にバイザーを上げる。

 その下からは、伸ばした前髪で片目を隠し、冷徹な笑みを浮かべた若い女性の顔が現れた。

 

『マヨーネか! まさか…』

 

 設置していたカメラから、その相手がかつてスプーキーズのアジトに直接攻めてきた事もあるダークサマナーだと知った雅弘が声を上げる。

 

「光学迷彩! 本当にあったの!?」

「何をしていたプロセスですか!」

 

 あかりはマンガでしか見た事のない装備に驚き、凪は小太刀を構えたままマヨーネを鋭く見つめる。

 

「かわいいお嬢さん方だ事。けれど、私の用はもう終わりましわ」

「終わった?」

『あかり君、凪君! そこからこっちを見てくれ! ひょっとしたら…』

 

 雅弘がある懸念を言おうとする中、銃撃音が響き、駆け寄ってきた咲とヒロコがレールガンと槍を手にあかりと凪の代わりにマヨーネと対峙する。

 

「ここは私達が受け持つわ」

「すぐにブルージェット号へ」

「わ、分かった!」

「何かされたケースです!」

「私も行く~!」

 

 あかりと凪、それにハイピクシーが慌ててブルージェット号へと戻る中、マヨーネは新たに来た二人が並々ならぬ相手だと悟っていた。

 

「あら、あなた方はあちらの小娘とは大分違うようね」

「あなた方が何者か、雰囲気だけで分かります」

「そして、そういう者と戦った事は一度二度じゃないの」

 

 マヨーネは顔に笑みを浮かべると、手にした傘とも棍棒とも見えるような、奇妙な武器を一振りする。

 するとその先端から、一気に煙幕が吹き出した。

 

「マハ・ジオ!」

「メギド!」「マハ・ジオンガ!」

 

 更に煙幕の向こうからの魔法攻撃に、こちらも魔法攻撃で対抗するが、煙幕が晴れた後には、すでにマヨーネは逃走に移っていた。

 

「待ちなさい!」

 

 咲が後を追おうとするが、戦場のあちこちでブラックデモニカや残ったメティス達も次々と煙幕を炊き始める。

 

「カーテンコールには早いぜ!」

 

 ダンテがメティス達の逃走を阻もうとするが、何体かはダンテの攻撃を食らうが、犠牲を物ともせずにメティス達は撤退していく。

 

「あの~~………?」

「…逃げちまった、な」

「私も何かされてないか探す」

 

 啓人と順平も唖然とする中、チドリがブルージェット号に向けてアナライズを開始。

 

「オルギアモード解除、各部冷却開始」

「関節部及びマグネタイト循環系に若干のダメージ、許容範囲内です」

「ゴメンお兄ちゃん、しばらく動けない………」

「いいから休んでろ」

 

 オルギアを解除した三人がその場で膝をついたり座り込むのを横目で見ながら、八雲は猛烈に嫌な予感を感じながら、ブルージェット号へと急ぐ。

 

「えらく中途半端なカチコミだな」

「確かに何かされたと考えるべきだろう。オレ達も何か探そう」

 

 真次郎と明彦も嫌な予感を感じて慌てて戻る中、数人が同時にある物に気付いた。

 

「右側面下の方、何かある」

「見つけたプロセスです! でも、何かナンバーが刻まれてるのですが………」

「………あの、これひょっとして、時限爆弾?」

 

 凪が首を傾げる中、マンガやアニメでよくあるカウントダウンが刻まれる機械に何か繋がっている物体に、あかりが顔色を青くしながら呟く。

 

「爆弾だと!?」

「誰か爆発物詳しい奴!」

「どいてくれ!」

 

 全員が一斉に色めき立つ中、機動班の一人が慌てて駆け寄り、時限爆弾をチェックしていく。

 

「C20セムテック型だと………まずいぞ!これだけでも、今のブルージェットが軒並み吹っ飛ぶ!」

「あの女、またやりやがった!」

「か、解除できるんだよね?」

「時間が無い! 解除も対爆処理も無理だ!」

『え~~!!』

 

 数人の口から、同時に声が上がる。

 

「リーダー! すぐに退避だ!」

『ダメだ、ここの設備を失ったら、君達が戦えなくなる!』

「そうだ、凍らせちゃえば………」

「いや、しっかり耐冷処置が施されてる! あいつらどこからこんな代物!」

「全員逃げろ! 全力で…」

「ようは、吹っ飛ぶ前に吹っ飛ばせばいいんだろ?」

 

 全員が慌てる中、ダンテは慌てずに爆弾の前へと歩み寄り、持ってきたトランクケースを足元に置いた。

 

「アグニ、ルドラ」

『はっ!』

 

 ダンテの声と同時に、柄頭に顔の付いた双剣が声を上げながら飛び出し、ダンテの両手に収まる。

 

「吹っ飛ばすぜ」

『心得ました!』

「あとしゃべるな」

 

 炎と風、それぞれを帯びた双剣をダンテは柄頭を合わせ、双刃剣と化すとそれを振り回し始める。

 旋回する双刃剣は炎と風を帯びてどんどん速度と温度を増していく。

 

「伏せろ!」

 

 八雲は違う意味で危険だと悟り、叫びながら自ら地面に倒れ、慌てて他の者達もそれに続く。

 その間に、双刃剣を振り回すダンテは、まるで炎の竜巻のように周囲と炎と風が覆っていく。

 

「悪いが、誰か剥がしといてくれ」

「分かった」

 

 ライドウが一歩前に出ると、陰陽葛葉を一閃。

 そして一気に後ろへと飛び退りながら管を抜き、火炎吸収属性を持つムスッペルを呼び出してガードさせる。

 装甲板に張り付いていた時限爆弾がゆっくりと剥がれ落ちようとした時、ダンテは一気に炎の竜巻を解き放った。

 

「あちちちち!」

「ぎゃああ、角が焼ける!」

 

 間近にいた順平と修二が悲鳴を上げる中、炎の竜巻は時限爆弾を飲み込み、冥界の空へと登っていく。

 やがて、大音響と共に空に巨大な爆発が鳴り響いた。

 

「きゃあぁぁ!」

「間一髪………」

 

 女性陣が何人か悲鳴を上げる中、八雲はほっと胸を撫で下ろす。

 

「全員無事か!」

「点呼!」

「全員のライフシグナルを確認であります」

「助かった………」

 

 キョウジと仁也が皆の無事を確認する中、アイギスが素早く状況を確認、啓人は立とうとしたが思わずその場に座り込んだ。

 

「ユーが来てくれて助かったプロセスだ、スパーダ」

 

 ゲイリンがそう言いながらダンテに近寄り、間近で顔を見て怪訝そうな顔をする。

 

「む、ユーはスパーダではない? 何者のセオリーだ?」

「………オレの名はダンテ。スパーダの息子だ」

「ソン? スパーダの? なるほど、道理で見間違えるセオリーだ」

 

 ゲイリンの言葉に、今度はダンテが怪訝そうな顔をする。

 

「あんた、父に会った事があるのか?」

「アメリカで何度かな。そうか、息子か………」

『………みんな、助かった所悪いんだが、さっきの一撃でブルージェット号にかなりダメージが入った』

「これではな」

 

 恐る恐るといった雅弘からの声に、小次郎は先程まで爆弾があった場所、正確にはそこからまっすぐ、炎の竜巻によってえぐれ、融解した装甲を見て呆れ果てる。

 

「相変わらず非常識な奴だ………」

「あんたが言うと重みが違うよな………」

 

 余熱漂う破壊痕を見た修二がダンテの方を横目で睨み、順平もそれに賛同する。

 

「今回はなんとかなったが、もうここにはいられないだろう」

「そうだな、どうやらやるしか無さそうだ」

 

 仁也とキョウジがお互い頷き合い、それの意味に気付いた者達も頷く。

 

「あの、何を?」

「さっきネミッサが言ってたろ、お礼参りだ」

 

 ポカンとする啓人の肩を叩きながら、八雲は準備をするべく、ブルージェット号へと向う。

 

(ファントムソサエティが冥界でまで動いてるとは………だとしたら、あの男も?)

 

 一番の不安事項を胸にしまいつつ、八雲は気付かれないように拳を握りしめた………

 

 

 

 闇の底で蠢いていた影が、とうとうその姿をさらけ出す。

 立ち向かいし糸達の末は、果たして………

 

 


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