真・女神転生 クロス   作:ダークボーイ

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PART34 OLD MEMBER

 

 生命の一切存在しない荒野を、三つの人影が走っていた。

 

「間違いねえのか!」

「私が間違えるわけが無い」

「まずい、むこうのテリトリーのエリアだ!」

 

 三つの人影、手にトマホークを持ったコート姿の剣呑な目つきをした少年が怒鳴るのを、白地のゴスロリルックというすごい格好をし、北欧神話のラグナロクにおいて神々をも飲み込んだとされる魔狼、万力属 フェンリルの背に乗った少女がペルソナを発動させて再度確かめる。

 そんな二人を引き連れた、長い白髪にロングコート姿の老人が、見た目に反した俊足で先を急ぐ。

 

「やはり何かが起きているセオリーだ………おちおちDYINGしてもいられん」

「ちがいねえ」

 

 独り言のつもりだったが、後ろの少年が賛同した事に老人は少しだけ振り返って苦笑。

 

「ハリーだ、ヤング達。ユー達の仲間のために」

 

 

 

「下がれ! 退路を確保しねえと!」

「んな事言ったって!」

「また新手だ!」

「ウソ!?」

 

 カロンとの契約により、冥界へと足を踏み入れた一行だったが、突如として襲ってきた悪魔の軍勢に徐々に追い込まれつつあった。

 

「前に来た時よりも派手だな」

「だが何かおかしい」

 

 キョウジとアレフが襲ってくる敵、そのほとんどが冥界らしく悪霊や幽鬼だったが、何か統率が取れてるような動きに首を傾げつつも、剣を振るっていた。

 

「ペルソナは温存しろ! この先何があるか分からん!」

「この先じゃなくて今起こってる! ゾンビの群れがいっぱい!」

「邪魔邪魔! もう蜂の巣にしちゃえ!」

「弾も温存しろ!」

 

 八雲がペルソナ使い達にどなりながらナイフを抜くが、順平は涙目になりながらペルソナを発動させ、ネミッサも無分別に弾丸をばら撒いていく。

 

「マハ・ブフーラ!」

 

 カチーヤの放った氷結魔法が周辺の敵をまとめて氷結させるが、即座に効果範囲を迂回するように新手が襲ってくる。

 

「やはりおかしい! こちらが突破しようとすると、陣形を変化させている!」

「やっぱりこいつら……!」

 

 仁也がデモニカのサーチで相手の動きをチェックして叫ぶ。

それを聞いた小次郎がある可能性を確信するが、押し寄せる敵に迎撃に専念せざるを得なくなる。

 

「気付いてる?」

「ええ、けど見つからない」

「何が!」

「サマナー、のセオリーですね」

 

 ヒロコ、咲、あかり、凪の四人が背中合わせになりながら、己の得物を手に呟く。

 

「この動き、間違いなく誰かが指揮している」

「つまり、これは全部誰かの仲魔。けれど、肝心の悪魔使いの姿がどこにもいない」

「趣味悪~い」

「一体どうコンダクトして………」

 

 四人の疑問(若干一名ずれているが)が解ける間も無く、集合した所を狙うように燃え上がる木製人形の中に無数の生贄を内包したケルトの拷問器具の姿をした悪霊 ウィッカーマンとヒルと人が融合したような醜悪な姿をしたインド神話の餓鬼の一種、幽鬼 ピシャーチャが襲い掛かってくる。

 

「呪殺に気を付けて!」「だから悪趣味だって!」

 

 咲が魔王 ベリアルの力を封じた火龍剣をウィッカーマンへと突き刺し、あかりが軽金属大剣で切り裂く。

 

「他の人も気付いてるわ」

「注意しながらサマナーをチェックというセオリーですね!」

 

 ヒロコの突き出した槍がピシャーチャの胴を貫き、凪の小太刀が首を切り裂いて止めを刺していく。

 それでもなお、敵影は更に迫ってきていた。

 

 

「ちっ、キリがねえな………」

「この動き方、タルタロスの時に似ている………」

「いや、あの時よりももっと厄介だと」

「シュバルツバースでは悪魔が罠を仕掛ける事はよくあったが、これは違うようだ」

 

 包囲してのヒット&アウェイを繰り返すアンデッド達を、八雲、明彦、啓人、仁也が迎撃しながら疑問を深めていく。

 

「指揮官がいるのは間違いない動きだ。けどどこにいる? デモニカには我々と悪魔以外の反応は無い」

「こっちも同じだな。もうちょっと探索用ソフトを仕込んでくるべきだったか」

「山岸がいれば何か………」

「取り合えず後に!」

 

 デモニカのサーチ結果とGUMPの探索ソフトの結果に差異が無い事に仁也と八雲が顔をしかめ、明彦が普段風花のナビに慣れていた事を悔やむ中、啓人が前へと出て剣を振るう。

 

「問題はあっちか」

 

 八雲はちらりと横で何故か必要以上に幽鬼や悪霊にまとわりつかれている二人を見る。

 

「来るな! 来んじゃねえ!」

「なんでこんなに!」

 

 大剣を振るう順平と、スナイパーライフルで速射するアンソニーが二人とも涙目になりながら奮戦している。

 それでもなお集まってくるアンデッドの群れを、八雲と仁也の仲魔が外側から倒していっていた。

 

「あそこでもう少し受け持ってもらえりゃ、突破口がなんとか………」

「あれ以上は流石に危険だ」

「でもなんであの二人に?」

「……あいつら、死に掛けた事ないか?」

「あ」

 

 八雲の提案に仁也が苦言を呈する中、明彦の疑問に八雲が別の疑問を被せ、啓人がふとある事を思い出す。

 

「一度冥界に入りかけた人間は、僅かだが陰気を帯びる。それが悪霊の類を呼びやすくなるとかレイホゥさんに聞いた事があったが」

「アンソニーはシュバルバースに来た時からだったが」

「じゃあ元からそういうのに好かれやすいんだな」

「うわあ………」

「ちょうどいい、あいつら囮にして突破口を開くか?」

「さすがにそれはまずいと思いますが………」

「ぎゃああ、また来た~」

「リロードの間だけでも待ってくれ!」

 

 ぼそりと危険な事を提案する八雲に明彦がさすがに否定、当の二人は泣き喚きながらも必死に応戦し、しきれない物は周囲にいる仲魔達が屠っていく。

 

「キョウジさん! このままじゃジリ貧だ!」

「分かってる! けどこいつら包囲を自在に変形させてる!」

「どうする? オレ達で逆方向で突撃すれば………」

「いや、逆に薄くなった所を突かれる危険がある。せめて外からできれば………」

 

 八雲が叫ぶのをキョウジが叫び返し、小次郎とアレフがどうにか脱出策を模索するが、一体一体はそれほど驚異ではないが、隙のない布陣に焦りを感じ始めていた。

 

「悔しいが、パーフェクトな布陣だ。だがどやって?」

「美鶴先輩! 後ろ!」

 

 風花ほどではないが、自らのペルソナのアナライズで布陣を確認した美鶴が、隙が一切無い事に歯噛みした時、ゆかりがこちらを見て叫ぶ。

 振り返ってレイピアを振るおうとした美鶴だったが、一足早く純白のトマホークが飛びかかろうとしていた仮面をつけた子鬼のような姿をしたスリランカの悪鬼、幽鬼 ヤカーを縦に両断した。

 

「危ない所でした」

「助かった、そちらは大丈夫か?」

「なぜかこちらにはあまり来ません」

「なんでだろ?」

「私達が人間ではないからではないでしょうか」

 

 一撃でヤカーを両断したメアリに美鶴が礼を言いながら様子を尋ねるが、両手のマシンガンを単射モードで斉射しているアイギスとESガンを半ば乱射しているアリサが首を傾げる中、メアリがジャッジメント・トマホークを構え直しながらある可能性を口にする。

 

「私達に生体反応が無いから、認識されにくいという訳ですね」

「けど、包囲から出ようとするとすぐに襲ってくるし」

「使役されてる悪魔の動きとしては普通です。ただし……」

「指揮官がいなくてはこのような動きは不可能であります。指揮系統さえ認識できれば………」

 

 アイギスが周辺の戦闘状況から指揮系統を算出しようとするが、まるで無駄の無い布陣に指揮系統の順位すら見つからない。

 

「何かを見落としているのでしょうか………」

「分かりません。今の私達に出来るのは、少しでも敵の数を減らす事です」

「姉さん、そうは言っても……あれ?」

 

 アリサは自分のエネミーソナーに新たな反応を感知、データバンクから該当データをサーチするが、複数ある反応の中から一つだけ該当する悪魔データが有ったが、他は該当データが見つけられない。

 

「お兄ちゃん! 10時の方向から何か来る! 悪魔を連れてる反応が三つ! アンデッドなのは間違いないけど、かなり強い反応が出てる!」

「何だと!」

「こいつらの召喚主か!?」

「だったら話が早いのだが……」

 

 アリサのいきなりの情報に、八雲とキョウジが過敏に反応し、仁也がマガジン交換しながら呟く。

 

「勘弁してくれ! こっちはもう手一杯だ!」

「そっちでどうにかして!」

 

 召喚器を額に当てながら喚く順平と、涙声になりながらもスナイパーライフルから小型チェーンソーに持ち替えたアンソニーが必死になって応戦する中、他の皆も戦闘を続行しながらも新たな反応に注意を向け始めていた。

 

「どうする?」

「敵が決着をつけに来たならば、好都合だ。こちらも一気に反撃に移れる」

「そうだな。敵影が見えたら、一気に行こう」

 

 小次郎とアレフが頷くと、互いにホルスターに手を伸ばす。

 

「待て! この反応、覚えが……」

 

 だがそこで、用心して再度ペルソナでアナライズした美鶴が、近付いてくる反応に似ている者を思い出す。

 

「これは、まさか………」

「うわああぁ!」

 

 その反応に美鶴が驚いた時、順平の悲鳴が響き渡る。

 全員がそちらを振り向くと、疲労の不意を突かれたのか、ヒンドゥ神話にて象の頭を持つとされる強力な餓鬼の一種、幽鬼 ヴェータラに襲われている順平の姿があった。

 

「くそ、離れろ!」

「こいつ!」

 

 隣にいたアンソニーが助けに入ろうとするが、即座に両者の間に他の悪魔が入り込んでくる。

 

「ジャンヌ、ケルベロス! 救助を!」

「ケルプ、ハヌマーン、救援態勢!」

「心得ました!」「ガルルル!」

「了解した」「了解、サージェント」

 

 八雲と仁也が仲魔達に指示を出すが、それを阻むかのように悪魔達が壁を形成していく。

 

「どきなさい!」「ガアアァ!」

「マハンマオン!」「オオオォォ!」

 

 ジャンヌ・ダルクが剣を振るい、ケルベロスが業火を吐き、ケルプが破魔魔法を放ち、ハヌマーンが殴りかかる。

 仲魔達の攻撃に敵はその数を減らしていくが、即座に新手が壁を形成する。

 

(疲弊させてからの各個撃破、これが狙いか!)

「いけない! このままでは他にも…」

 

 敵の狙いを八雲が悟り、仁也が周囲を確認すると、皆が敵の包囲に孤立し、疲弊し始めていた。

 

「あっ!」

 

 あかりの手から大剣が零れ落ち、思わず拾おうとした所へ悪魔が殺到してくる。

 

「伏せてなさい!」「マハジオンガ!」

 

 気付いてないあかりの背後からヒロコが槍を振るい、咲が電撃魔法で蹴散らす。

 

「ケアレスネスを即座についてくるセオリー!」

「凪、こっちも来たよ!」

 

 少しの油断でも容赦なく攻撃を集中してくる事に気付いた凪が焦る中、仲魔のハイピクシーが新たな敵を指差す。

 

「全員固まれ! 一気に脱出しねえと、やばい!」

「そうは言っても!」

「相手は巧みにこちらを拡散してきます!」

 

 キョウジが危険を察して集合をかけるが、ゆかりは次々とくる敵に矢を射続けながら怒鳴り、アイギスが増援しようとする前にも悪魔が立ちはだかる。

 

「ぎゃああ! 噛み付くな! キモい! ひいぃ!」

「伊織! まずい!」

 

 ヴェーダラの牙が順平の首筋に突き刺さろうとするのに、八雲が助けるべく銃口を向けるが、それすら新たな敵影によって阻まれる。

 

「うわああぁ!」

「メーディア」『マリンカリン!』

 

 牙が突き立てられる直前、何者かの発動したペルソナが、一斉に敵悪魔達の挙動をおかしくする。

 

「! 離れろ! トリスメギストス!」『ギガンフィスト!』

 

 相手の動きが鈍った隙を逃さず、順平はヴェーダラの腹を蹴り上げながら召喚器を抜いてペルソナを発動、ヴェーダラを弾き飛ばしてからくも窮地を脱する。

 改めて順平が周囲を見渡すと、悪魔達の混乱はかなりの範囲で広がっていた。

 

「デモニカのサーチにエラーが!!?」

「こっちのエネミーソナーもだ!」

「誘惑、いやジャミングか!」

 

 COMPを使う者達にも異常が出る中、キョウジがその強力なジャミングをかけたペルソナの使い手を見る。

 悪魔達の包囲の向こう、そこに白いゴスロリドレスをまとった、赤毛の風変わりな少女がいた。

 

「まさかと思ったが……」

「美鶴先輩、今の内に!」

 

 先ほど感じた気配の正体に美鶴が思わず呟く中、ゆかりがこの時とばかりに包囲からの脱出を試みる。

 だがそこには、足並みが乱れたとはいえ、まだ多くの悪魔達がいた。

 

「残弾を持って掃討、後に脱出を…」

 

 アイギスが両手のマシンガンの銃口を向けて邪魔な悪魔達を掃討しようとするが、そこに突然悪魔達の背後から疾風のように一つの影が飛び込んでくる。

 

「動かないセオリーだ。過って斬りかねないのでな」

 

 その人影、白髪を伸ばし、ロングコート姿の老人が熟練を重ねた流麗な剣さばきで次々と悪魔を屠っていく。

 混乱している悪魔の死角に瞬時にして潜り込み、相手が気付いた時、もしくは気付く前に鋭い一刀で斬り捨てる。

 最短距離を行く歩法と一切の無駄の無い攻撃、誰の目から見ても相当な達人である事が見て取れた。

 

「師匠!?」

「サプライズは後回しだ、凪」

 

 その人影を見た凪が驚くが、かけられた言葉に慌てて小太刀を手に包囲からの脱出を試みる。

 

「今の内だ、急げ!」

「言われなくても!」「こっちだ!」

 

 キョウジの号令に、危うい所を抜け出した順平とアンソニーが一緒になって包囲からの脱出を試みる。

 

「ここは一気に…」

「カストール!」『デスバウンド!』

 

 修二が一気に包囲の外縁を破ろうと魔力を拳に込めた所で、突然包囲が外側から吹き飛ばされる。

 

「おら急げ!」

「シンジ!? シンジなのか!」

 

 吹き飛ばされた包囲の向こう側、斧を手にしたコートにニット帽の若者の姿に、明彦が驚く。

 

「驚くのは後にしろアキ!」

「どうやら、本物の荒垣のようだな……」

「じゃあ向こうは!」

 

 そこにいたのが、かつての仲間で戦死したはずの荒垣 真次郎だと確認した美鶴が僅かに苦笑、それを聞いた順平がこちらへと向かってくる少女の姿に、大きく顔をほころばせる。

 

「久しぶり、順平」

「チドリ、本物のチドリか!?」

「本物の定義がどこかによるけど」

「オラ急げ! 今の内だ!」

 

 順平がその少女、チドリを見て思わず動きが止まるが、真次郎に促されて慌てて包囲を抜け出す。

 

「総員急げ!」

「最後っ屁の一発も…」

 

 キョウジの先導で他の者達も相手の動きが鈍っている間に包囲を抜け出し、八雲を初めとした何人かが駄賃とばかりに攻撃アイテムや攻撃魔法を繰り出そうとする。

 取り出したホーリースタングレネードのピンを抜こうとした八雲だったが、ふとそこで上空に僅かな乱れを見つける。

 

「あれは……」

「ようし、もうありったけぶち込んで…」

「待てネミッサ、誰かノーマルスタングレネード持ってる奴!」

「ここに信号用の発光弾があるが」

「そいつでいい、それを真上に撃て!」

「何を?」

 

 仁也が取り出した取り付け型の発光弾を見た八雲が上を指差しながら叫び、仁也が疑問に思いながらもそれを発射する。

 

「下を見るか目を塞げ!」

「下?」

 

 八雲の指示に半数の者が下に視線を向け、半数が目をつぶりながら走り続ける。

 直後に炸裂した発光弾が、周囲を明るく照らし出し、そして数人がそれによって照らし出された影が一つだけ多い事に気付いた。

 

「そこか!」

 

 八雲、仁也、小次郎、ゲイリンが同時に拳銃を引き抜き、何も存在しないはずの場所、八雲が気付いた上空の不自然な歪みに向かって弾丸を解き放った。

 放たれた弾丸は、そこにあった何かに命中し、不自然にそこだけ色が乱れ、何かが落下してくる。

 それに続いて、周辺にいた悪霊や幽鬼達が消え失せた。

 

「………え?」

「どうなってんだ?」

「分からない………」

 

 数秒の間を持ってゆかりが漏らした疑問符に、何が何だか理解出来ない者達が周囲を見回し、敵の姿が完全に消えた事に首を傾げる。

 

「これは………無人偵察機?」

「いや、多分もっと厄介な代物だ」

 

 そんな中、仁也はその落ちてきた物、円盤状の奇妙な機械を観察し、八雲は素早くGUMPからコードを伸ばしてそれに接続、内部をチェックしていく。

 

「やばい、自壊プログラムが走ってる!」

「今こちらでもやってる!」

 

 同じくデモニカからコードを接続した仁也も内部のデータをチェックしていくが、端からそのデータが消去されていった。

 

「もうちょい、くそ!」

「ダメだ、完全にロストした………」

 

 詳細データを得る前に、その謎の機械のデータは消失、八雲が悪態をついて地面を殴りつける。

 

「ミステリアスな物だな。何か分かるのかね?」

「データをチェックしないと何とも………ところであんた誰だ?」

「私の師匠、十七代目・葛葉 ゲイリンです」

 

 背後に来ていた白髪の老人に僅かに視線を向けた八雲の問いに、凪が替わりに答える。

 

「あんたが………オレは小岩 八雲。あんたのずっと後輩にあたる、葛葉の使いッ走りだ」

「これに気付いた手並み、とてもそうは思えないセオリーだが」

「偶然って奴ですよ、ゲイリン殿」

「ホントよく気付いたな………これ、ステルス塗装に光学迷彩まで施されてるぜ?」

「それだけじゃない、表面に隠行の術符パターンが転写されてる。どこのどいつだこんな物作ったの……おっと、オレは葛葉 キョウジ、五代目」

「キョウジだと? 代替わりする間に何かあったプロセスか?」

「………色々あってね」

 

 アンソニーとキョウジもその謎の物体を興味深く眺めていた所で、ふとそこで場違いな電子音が鳴り響いた。

 

「おっと、オレか」

 

 全員の視線が音源の方を見ると、そこで真次郎が懐から携帯電話を取り出し、着信ボタンを押す。

 

「あんたか、こっちは片付いた。よく分からねえが、敵はいなくなった。………分かった、そっちに連れてく」

 

 報告を終えた所で、自分に集中している視線に真次郎は気付いた。

 

「シンジ、色々聞きたいが、取り合えずここは携帯通じるのか?」

「んなわけねえだろ。こいつは特製だ。全員連れて来いってリーダーからのお達しだ」

「リーダー、彼じゃないのか?」

 

 キョウジがゲイリンを指差すが、そこでゲイリンは首を横に振る。

 

「自分は戦歴を買われ、ヤングを指導しているプロセスだ。リーダーは別にいるセオリーだ」

「葛葉四天王を従えるって、どういう奴だ………」

「変な人、それは確か」

「ま、オレらも実を言うと、まともに動けるというか、頭がはっきりしたのはここ最近の事なんでな。リーダーはそんなオレらを手早くまとめて、ここで起こってる妙な事に対処しようとしてる」

 

 八雲が首を傾げるのに、チドリと真次郎が説明するが、疑問は更に深まっただけだった。

 

「あ~、つまりあの世でも妙な事起きてて、なんでか色々な死人が集まってなんとかしようとしてるって事?」

「その通りのプロセスだ。見る限り、現世も似たような状況と推測するセオリーだが?」

「説明は後回しだ。まずはどこかへ移動して、これを詳しく調査するべきだ」

 

 修二がなんとか状況を脳内でまとめた所で、ゲイリンが頷き、仁也が謎の落下物を破片までまとめ始める。

 

「けっこうデカイな。誰かこれ運べそうな仲魔いるか?」

「さすがにそれは考えてなかったな~」

「精密機器だけに、不用意な運び方はまずいか」

「確かに」

「あ、じゃあオレがセイテンタイセイに運ばせるって事で」

 

 キョウジを筆頭に悪魔使い達が手持ちの仲魔を確認、最終的に修二が召喚したセイテンタイセイの雲に謎の機械は乗せられた。

 

「それじゃ、案内するぜ。オレ達のアジトにな」

「ゾンビとかいたりしない?」

「大丈夫、ゾンビしかいないから」

「………え?」

「一応師匠も他の二人も死人のプロセスなので………」

「ええ!?」

「気付いてなかったのか? ペルソナ使いの割には鈍いな」

「そもそもここは冥界、あの世よ?」

 

 真次郎を先頭に皆が歩き出した所で、あかりの何気ない問いにチドリ、凪、美鶴、ヒロコが突っ込みを入れまくる。

 騒ぎ始めた女性陣を横に、明彦が歩調を速めて真次郎の隣に並んだ。

 

「またこうやってお前と一緒に戦える日が来るとはな………」

「……オレも思ってなかった。あの後、そっちはどうなった?」

「タルタロスの最上階目前って所で、なんでかこんな所にいる」

「そうか。まあオレもくたばったはずが、なんでかこんな事になってるしな」

「短い間だが、またよろしく頼む」

「長かったら問題だぜ」

 

 たわいの無い話をしながら、意外な形で会う事になった親友に、明彦は軽く握った拳を差し出し、真次郎もそれに自らの拳を軽く突合せた。

 

「………戦友って奴か?」

「あの二人に、桐条先輩を加えた三人が特別課外活動部の初期メンバーって聞いてる」

「なるほどな」

 

 その様子を後ろから見ていた修二の問いに、啓人が応え、修二の視線がそのまま背後へと回る。

 

「で、あっちのすごい趣味の子もあんたらの元仲間か?」

「あ~、なんと言うか………」

「元ストレガのメンバーで、順平の元カノ……かな?」

「おい、ストレガってお前らの敵………って、ちょっと待て! 最後なんつった!」

 

 言葉を濁す啓人に変わってゆかりが教えてやると、修二は元ストレガよりも元カノの方に過敏に反応する。

 

「そう言っていいのかな、一応?」

「あれ見る限り、元ってのも違うか………故カノ?」

「ほほう………」

 

 啓人とゆかりが自分達の後ろ、ゲイリンの仲魔のフェンリルの背に乗り、隣を歩いている順平と楽しげに談笑しているチドリの姿に説明に困る中、修二がさび付いたカラクリ人形のような動きで首をそちらに向けて二人を凝視する。

 

「……裏切り者が」

「は?」

「いやこっちの話」

 

 首を元に戻し、何かぶつぶつと呟いている修二に啓人とゆかりはこれ以上突っ込まないように口を紡ぐ。

 ちなみに更に後方では、アンソニーが何故か銃の手入れを歩きながら始めていた。

 

「……また話がややこしくなりそうだ」

「今更何人か増えた所で変わんないじゃん」

「そういう意味じゃないと思いますけど………」

 

 八雲が重いため息を吐き出すが、ネミッサは楽しげに笑い、カチーヤは少し困った顔をする。

 やがて一行の前に、大きな影が見え始める。

 その輪郭がはっきりとしてくると、何人かがそちらの方向へと駆け出し、そして足を止めた。

 

「おい、これって………」

「ブルージェット号だ。シュバルツバースにあったはずの物が、なぜここに?」

 

 それはレッドスプライト号の同型の観測艦ブルージェット号、ただし悪魔の襲撃により大破したままの姿で、冥界に鎮座していた。

 

「そういう名前らしいな。あんたらの世界の物だったのか? ここが一応オレ達のアジトだ」

「こんなデカブツがよく冥界にまで飛ばされたな………」

「すごいボロ~い」

「お化けとか出そう」

「役に立つのか、これ?」

「だがなぜここに………?」

 

 皆が口々に好き勝手な事を言いながら、ブルージェット号の残骸を利用したアジトへと近寄っていく。

 

「システムはリーダーが復帰してくれた。最低限だけど」

 

 チドリが懐からリモコンのような物を取り出して操作すると閉鎖されていた後部ハッチが開いていく。

 

「………中にいた者達は?」

「………ちゃんと弔ったプロセスだ。死人が死人を弔うのも奇妙なセオリーだがな」

 

 仁也の問いかけに、ゲイリンが答えながら視線で示した先には無数の墓標が並んでいた。

 その数の多さにゆかりとあかりの顔が青くなっていく。

 

「こちらでは悪魔の襲撃が相次いで弔える状態じゃなかったからな………」

「感謝するぜ。後で仲間にも伝えておこう」

 

 仁也とアンソニーが墓標の前で黙祷を捧げていると、他の者達も静かにそれに続く。

 

「じゃあ何人かリーダーの所に来てくれ。リーダーの部屋狭いから代表の奴数人だけな」

「そうか、じゃあそれぞれのリーダーだけこっちに」

「他は一休みさせてもらうか」

「休めるかな~?」

「大丈夫、一応掃除はしておいた」

「ユーのあれは掃除ではなくブロウと言うのだ」

「つまり、ペルソナで吹き飛ばしてるのね………」

 

 皆がゾロゾロとブルージェット号に乗り込んでいく中、再度真次郎の携帯電話が鳴った。

 

「ああ、今着いた………は? 分かった。小岩 八雲ってのは誰だ?」

「オレだが………」

「あんたと相方の人も来てくれとさ」

「は?」

 

 通話を切った真次郎は首を傾げながら八雲を呼び止め、八雲も首を傾げてネミッサとカチーヤを見る。

 

「オレ達を知ってる奴か?」

「さあ?」

「会ってみれば分かると思いますけど」

「そうだな」

 

 首を傾げながら、八雲はキョウジや美鶴、仁也と共に内部を案内される。

 

「中身も相等ひどいな、こりゃ………」

「よくこれでシステムが生きている物だ」

「こちらだと使用不能と判断したんだが………」

「残った配線繋いで、ありあわせのバッテリーを繋げてるだけだってよ。まあこの体だと多少環境悪くても気にならないからな」

「便利なんだか不便なんだか」

 

 やや傾いている通路を抜け、比較的まともな状態のドアが開かれる。

 中にはかき集めたらしい無数のモニターやPCが繋がれ、どれもが起動して艦外周辺の様子、集められたらしい地理データや悪魔データが解析されていた。

 それらの中央、回転イスに座ったままそれらを操作していた人影があった。

 その人影、そして咥えているタバコに八雲は一瞬動きが止まる。

 

「やあ、よく来たね」

 

 イスが回転し、そこに座っていた男の姿が露になる。

 それは、まだ若い温厚そうな男だった。

 

「僕の名は桜井 雅宏。HNではスプーキーって名乗っている」

「り、リーダー!?」「ウソ………」

 

 その男の顔を見て八雲とネミッサは完全に硬直する。

 間違いなくそれは、かつてスプーキーズを結成して天海市の闇と対峙し、そして悪魔に憑依されて八雲達の手によって倒さざるをえなかった、スプーキーズのリーダーその人だった………

 

 

 深く暗い闇の底で、途切れたはずの糸達がまた集い始める。

 それらが紡ぐ物は、果たして………

 


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