真・女神転生 クロス   作:ダークボーイ

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PART33 DIVE UNDERGROUND

 

「全滅……だと?」

 

 最初、克哉は自分の口から出た言葉の意味を理解しきれず、ただカラーサングラス越しの目を大きく見開くしかできなかった。

 

『現在、残存部隊が帰還の最中です。ただ、観測班の僅かな人数だけで、作戦の実行班の人間は全員が拡大したホールに飲み込まれたと…………』

 

 レッド・スプライト号の通信班クルーからの報告に、克哉はまだ現状を認識しきれずも、口から言葉を何とか紡ぐ。

 

「実行班との通信は?」

『現在試みてますが、現状では…………』

「なんでもいい、情報が届いたらこちらにも連絡を。それとしばらくこの情報は外部にもらさないように頼む」

『了解しました』

 

 通信が切れた所で、克哉はレッド・スプライト号から支給された通信機のレシーバーを置いた。

 

「ふぅ…………」

 

 事実を己の中で認識するべく、克哉はしばし無言で吐息を漏らすが、それも僅かな間で、すぐに携帯電話を取り出すと別の連絡を入れる。

 

「もしもし、克哉だがヴィクトル氏に至急重要な話が有るから、そちらに伺うと伝えてほしい。レイホゥ女史にもすぐ業魔殿に戻るように伝えてくれ。ああ、それでは」

 

 電話を切ると今度はこの間作成したばかりの、今市内に残っているペルソナ使いや喰奴達のシフト表を確認、目的の人物が署内にいる事を確認して席を立ち上がる。

 

「克哉~、どしたの?」

「少しな。ちょうどいい、サーフ君とゲイル君に急用があるから、玄関まで来る様に伝えてくれ」

 

 そこに克哉の指示で市内の定期巡回から戻ったピクシーが現れ、克哉は彼女に指示を伝えて玄関に向かおうとする。

 

「分かったけど、一体何があったの? すごい怖い顔してるよ?」

「む、そうか? それはいけないな」

 

 ピクシーに言われ、克哉は思わず壁にあった鏡を見つめる。

 そこには、確かに険しい顔の自分が映っていた。

 なんとか険しさだけでも消そうとするが、すぐに諦めてドアに手をかける。

 

「そうだ、これから時間があったら、巡回をしておいてくれ。報酬は割り増しにするから」

「あんまりもらっても食べきれないけど……本当に何があったの?」

「後で話す」

 

 それだけ言うと、克哉はドアから廊下へと出て行く。

 冥界の門に向かった者達、全員突如として拡大した冥界の門に飲み込まれ、全滅したらしいとの情報の詳細を確認するために。

 

 

 

 認識できるのは、闇。

 視界その物を覆う闇の中に、僅かに己が浮かんでいる。

 闇に落ちていく感触の中、八雲は僅かに働く自我で周囲を見回そうとするが、闇以外の物は認識できない。

 

(しくったな………何人逃げ出せた? 全滅の可能性もあるな………ま、サマナーなんてロクな死に方しねえと思ってたが、ここまで一方的だと化けて出そうだ………けど、化けて出た奴は色々倒したが、自分でやるにはどうすりゃいいんだ?)

 

 とりとめのない事を考えながら、闇に己を任せていく八雲の前に、一つの光が現れる。

 

「なるほど、あんたがお迎えか。レッドマン」

「否、そなたはまだ輪廻の道に入ってはおらん」

 

 光と共に八雲の前に現れた者、ネイティブ・アメリカンのシャーマン、レッドマンの言葉に、八雲は首を傾げた。

 

「死んでない? 確かに方法いかんじゃ生きたまま冥界にも行けるらしいが、そんな暇は無かったぜ?」

「あの場にいたのは、皆強いソウルを持つ者、そして我のような者達が加護を与えている」

「なるほど、そういやSTEVENだのイゴールだのが裏でなんかやってるって話だったな。けど、正直この先どうすりゃいいんだ?」

「冥府の入り口まで、我が皆を導こう。そこで待っている者がいる。そして、懐かしき者もな………」

「あの世にいってまでこき使われるのかよ」

 

 思わず苦笑した時、八雲の耳に歌声が響いてきた。

 

「これは、ネミッサか?」

「滅びの歌が冥府まで皆を導こうとしているのだ。これを辿れば、大丈夫だ。む………」

「どうした?」

「何者かが干渉してきている。悪しき力ではないようだが、何人かそちらにたどり着かぬかもしれぬ。だが、問題は無い。さあ、目を覚ますのだ。ソウルの真なる強さが、これより試される………」

「……おちおち死んでもいられねえか」

 

 

「くもさ………起きて………」

「や……いい加減………」

「つ………ん?」

 

 誰かに呼ばれる声に八雲が目を覚ます。

 目を開けて気付いたのは、こちらを覗き込むカチーヤの顔と、妙な冷たさだった。

 

「八雲さん! やっと起きた、遅いよ八雲」

「カチーヤ、ネミッサも一緒か。他の連中は?」

「それが……周り見て」

 

 表情、というよりも顔つきその物がころころ変わり、文字通り一緒になっているカチーヤとネミッサを確認した所で、八雲は周囲を見回し、冷たさの原因に気付いた。

 

「こいつは………」

 

 そこは、夕闇のような暗さの空と、草一つ無い荒野が地平線にまで繋がった場所で、そこに異様な物が立っている。

 それは氷で出来た巨木のような物で、よく見ると氷の枝の先に、一緒に冥界の門に飲み込まれた仲間達が果実よろしくぶら下がってており、八雲もその内の一つとなっていた。

 

「これ、お前達が?」

「よく覚えてないんですけど………飲み込まれた瞬間やばいって思ってカチーヤちゃんに入って、それは私も覚えてるんですけど。誰かに何か言われて、なにかした気はするんだけど……気付いたらこんな状態だったんです」

「………ネミッサ、分かりにくいからカチーヤから出てくれ」

「OK~」

 

 同じ口から交互に出る説明に、ある程度は慣れてはいるが、やはりややこしい事に変わりないので、八雲の指示でカチーヤの体からネミッサが抜け出す。

 そんな会話をしている間、身動き出来る者は氷から脱出して他の者の脱出を手助けし始める。

 

「お~い、全員無事か~?」

「無事じゃないんすけど………」

「じっとしていてくれ。今下ろす」

 

 一番手近の枝に、何故か足が氷の枝に絡まる状態で逆さ吊りになっている順平を、仁也がデモニカの付属ツールで救出を試みている。

 

「何がどうなったか分からないけど、よく助かったな………」

「心臓動いているか確認をしておけ。死んだ事に気付いてないだけの可能性もある」

「ええ!?」

 

 先に下りていた啓人の呟きに、小次郎が物騒な事を言って周囲のペルソナ使い達が慌てて自分の胸に手を当てる。

 

「大変だ! 心臓動いてない奴いるぞ!」

「誰が!」

「生憎と、アイギスの循環器系は有機系でないであります」

「私もです」「私も~」

「……あなた達、少し落ち着きなさい」

 

 アンソニーがデモニカで周囲の心音チェックに引っかからない者を見つけ、明彦が慌ててそちらを見、そこにいる三人の人工メイドを確認、ヒロコにたしなめられる。

 

「全員点呼取れ~。いない奴いるか~?」

「デモニカの反応は人数分ある」

「特別課外活動部、あの場にいた全員を確認した」

「仲魔もちゃんとCOMPにいる」

 

 キョウジの確認に、機動班の一人と美鶴が答え、アレフは仲魔の確認も取った。

 

「た、大変のセオリーです! 先輩がいません!」

「ライドウがどこにもいないよ!」

「ダンテの旦那も見当たらないな………」

「……その二人なら間違って地獄のど真ん中落ちても問題なさそうだが」

 

 慌てふためく凪とあかり、そしてなんでか首の後ろの角が氷の枝に絡まり、首吊りまがい状態の修二が見当たらない人物を特定。

 もっともこの場にいるメンバーで間違いなくトップクラスの二人だけに、キョウジは左程心配もせずに現状の確認に入る。

 

「ねえねえ、なんか向こうに川が見えるんだけど~」

「冥界の川、別名三途の川と呼ばれる物でしょう」

「へえ~あれが………ってええ!?」

 

 ゆかりが向こう側に見える物を指差した所、咲が同じ方向を見て説明、ゆかりが思わずっ素っ頓狂な声を上げる。

 

「にしても、厄介な事になったな………」

「全員突入はさすがに想定していなかった。今装備を確認している」

「お~い、向こうでAPCがエンコしてるから誰か手伝ってくれ~」

「行くぞ野郎共~」

 

 キョウジが腕組みして唸る中、仁也が機動班全員の現状をチェックさせ、アンソニーが動かなくなったAPCを移動させる人員を呼び、八雲が先に立ってそちらの方へと向かう。

 よく見れば荒野のあちこちにAPCが擱座(かくざ)しており、一番遠い所にはローターのひん曲がったヘリも後方に傾いたまま不時着していた。

 

「あ~、こりゃ周防に怒られるな……」

「パイロットは無事だったが………」

「ああ、アレは無視していいから」

「アレ?」

「ぎゃああああ!」

 

 珠閒瑠警察から借りたヘリが明らかに飛べそうにない状況に八雲が顔を曇らせ、ダメージを確認していた機動班の一人が何か口ごもるのを、キョウジが遮る。

 美鶴が首をかしげた所で、APCの回収に行った者達の所で絶叫が上がる。

 

「どうした伊織!」

「し、死体が! 轟所長がものすごくぐろい状態に!」

「いや、しかしこれは何かおかしい……」

 

 腰が抜けたのか、這うような体勢でこちらに逃げてくる順平だったが、明彦はヘリの影になっていた轟所長だった物体から、血がほとんど流れていない事に気付く。

 

「なんだ、生きてたか」

「あ、キョウジさん………アレ?」

 

 啓人もさすがに顔色を変えていたが、そこで向こうにいるはずのキョウジが姿を見せた事に首を傾げる。

 

「死んだ奴はいるか?」

「いえ、今の所……そこの人以外は……」

「そいつはいい。しばらく使って限度が来てたからな。代わりが欲しい所だったんだが……」

「え?」

「ここにいる連中で現地調達は勘弁してくださいよ」

 

 何か奇妙な事を言うキョウジに啓人が首をかしげた所で、背後からもキョウジの声が響いてくる。

 

「え? え?」

「キョウジさんが二人いる!?」

 

 ヘリの陰にいた髪をおろし、妙に鋭い視線をしたキョウジと、先程まで向こうにいて状況確認を行っていたリーゼントのキョウジ、二人のキョウジの姿に周りの人間は目を白黒させていた。

 

「あ~、ちとややこしいが、あっちが本当のキョウジさんで、こっちがキョウジ2号さん。なんでも呪殺される寸前に体放棄して一時的にこっちのキョウジさんに譲ったら戻れなくなって、それ以来死体に取り付いて活動してるんだそうだ」

「エイリアンか、そいつ?」

「いや、ゴーストだろ。相当たちの悪い………」

 

 八雲の説明に、機動班のクルー達も遠巻きにして二人のキョウジを見ていた。

 

「何やってんの! 早くこっち来な!」

「今行く。そうそう、全員念のためにあっちのキョウジさんに背中見せるな。次を欲しがってる」

 

 喰奴状態で自前の触手でAPCを引っ張っているアルジラにどやされ、八雲が慌てて向かいながらも言った言葉に、聞いた全員が無言で首を縦に振る。

 

「エンジンくらい掛からないか?」

「チェックが先だ。どんなダメージを受けてるか分からん。人は無事で、こっちの方が痛んでるってのが分からん状態だが………」

「どっちにしろ運ぶしかないか。行くぞ~」

 

 何故かひどく損傷しているAPCをなんとか集結させ、ダメージチェックが行われていく。

 

「まず通信機器が最優先だ。地上との連絡が取りたい」

「デモニカの方は完全にレッド・スプライト号とのリンクが切れてるしな」

「下手にそこいら歩くな。周囲を警戒しとけ」

「言われなくても!」

「ゾンビとかそこいらに溢れてるかと思ってたんですけど、案外静かですね………」

「ネミッサが安全な所に誘導してくれたようだ。自前の装備も全部チェックしとけよ」

「各自、召喚器が使用可能か確認」

「風花、心配してるだろうな………」

「問題は、これからどうするかだ」

 

 仁也の一言に、全員の動きが止まる。

 

「さすがにこの状況は想定してなかったからな」

「氷川の野郎、まさかこんな手を打ってやがったとは……今度見かけたらあのM字後頭部まで剃り込んでやる………」

「カルマ協会も組んでたようね。もっともジェナ・エンジェルは完全に捨て駒として送り込んできたようだけど」

「効果は十二分だろ。これで向こうに残った戦力は半分になっちまった」

 

 キョウジが考え込む中、修二とアルジラが悪態をつき、八雲はため息を漏らす。

 

「向こうにもまだ熟練の使い手は残っている。すぐに街の防護を固めるはずだ」

「レッド・スプライト号もいるしな。そう簡単に攻めてはこないと思うぜ」

「やはり問題はこちらがどう動くかか……」

 

 アレフがあちらに残っている面々の事を思い出し、アンソニーもレッド・スプライト号クルーの事を思い出す。

 そこで小次郎が今この場にいる面々を見て考え込む。

 

「我々はこの冥界とやらの情報を持っていない。どのように活動できるのだ?」

「強い心身を持っていれば、活動の自由はある程度保障できるわ」

「ここはまだ人界側の方だからな。あの川そのまま渡るとやばいが」

 

 美鶴の質問に、ヒロコとキョウジが答える。

 

「その点ならオレに考えがある。顔見知りがいるからな」

「ああ、そう言えば」

 

 キョウジ(故)の提案に、キョウジが何かを思い出したのか手を叩く。

 

「通信機は何とか無事だが、電波が拾えない………出力が足りないようだ」

「エンジンは部品寄せ合わせればなんとかなるか? しばらく時間をくれ」

「こんなんであの世に乗り込んだら、閻魔様に怒られるんじゃ?」

 

 APCの状態を確認するクルー達の言葉に、啓人が少し首を傾げる。

 

「部隊を分けよう。ここに移動困難な物資などを残し、ベースキャンプを設営。残存部隊を編成して本隊との通信及び協力を試み、探索部隊は渡河してこのセクターの現状を確認する」

「ま、それが妥当だろうな。どう分けるかだが」

 

 仁也の提案をキョウジが了承、二人で部隊の人員分けを思案する。

 

「まずは通信と機材管理のメンバーをこちらに残す」

「当初から突入予定の連中はそのままだな。二人ばかり足りないが」

「冥界なんてモロX指定だから、未成年はここに残したらどうです?」

「そうなの?」

「さあ………」

 

 八雲の提案にゆかりがこっそりカチーヤに聞くが、カチーヤも返答に困って言葉を濁す。

 

「私のペルソナは山岸ほどではないが、探索能力がある。探索部隊に協力したいのだが」

「冥界はそんな生易しい所じゃない。環境も出てくる悪魔も段違いだ」

「しかし……」

「あの、先輩先輩」「あんなお化けいっぱい出るようなとこはちょっと………」

 

 協力を申し出る美鶴を、アレフが諭し、その背後で順平とゆかりが全力でそれを指示する。

 

「探索なら専用アプリがデモニカにインストールされている。レッド・スプライト号とのリンクは切れたが、相互バックアップならまだ可能だ」

「じゃあ、探索班は当初のメンバーにそっちから何人か選抜して……」

『それはどうかな』

 

 仁也とキョウジで人員の選抜に入ろうとした時、突然どこかから声が響いてくる。

 

「何だ!?」

「悪魔か!」

「待ちな。顔見知りが向こうから来たようだ」

 

 何人かがとっさに得物を構えるが、それをキョウジ(故)が制止する。

 彼らの視線の先、冥界の川に光が生じたかと思うと、そこから光がこちらへとぐんぐん近付き、やがて彼らの元へと降り立つ。

 それは、大きな蓮華の花に乗った白装束の痩せた男だった。

 

「な、なんだこいつは?」

「悪魔か!?」

「だから顔見知りだと言っただろうが。なあカロン」

「……久しいな、葛葉キョウジの魂よ。そして皆よ。私はカロン、三途の川の渡し守」

「なるほど、こいつが………」

 

 突如として現れた三途の川の渡し守、カロンに皆が驚き、何人かが納得する。

 

「……死せる定めにあらず、現身を持った者達が大挙してこの川辺に訪れるとは異な事なり」

「いや、本当はもっと少人数で来る予定だったんだがな………」

 

 キョウジが苦笑しつつ頬をかく中、キョウジ(故)はカロンを見据える。

 

「カロン、最近冥界でおかしな事が起きてないか?」

「……確かに起きている。冥界が妙に騒がしく、私の船頭無くして冥界から人界へ渡る者もいるようだ」

「ゴスロリロボ娘が大量に来なかったか?」

「……それは見ておらん。だが、冥界から直接人界へ渡らせているのやもしれん」

「あれが大量に川渡ってきたらあんたでも逃げ出しそうだしな……」

 

 二人のキョウジの交互の質問にカロンは答える。

 そこでしばし考えたキョウジ(故)がおもむろに口を開く。

 

「カロン、取引だ。冥界で起きている事件の解決にこちらの手を貸す。その代わり、そいつらに生きたまま冥界に行く許可をよこせ」

「……相変わらず無茶を言う、葛葉キョウジの魂よ。だが、その必要はある」

「それじゃあ」

「……いいだろう。これを」

 

 カロンが手を前へと差し出すと、そこから光がこぼれ、それが無数に分かれてその場にいた全員(故人除く)の元へと落ちる。

 

「おっと」

「これは………」

「コイン?」

 

 零れ落ちた光を受け取った者達の手の中で、光は無地のコインへと姿を変える。

 

「……それが許可証だ。それを持っている限り、生者でも冥界での行動が許可される」

「逆渡し賃か………」

「ねえねえ、ネミッサの色違うよ?」

 

 八雲がそのコインを胸ポケットに仕舞おうとした所で、ネミッサが騒ぐ。

 確かに、他の者達が鈍い銅の色を放ってるのに対し、ネミッサのは淡く光る銀色をしていた。

 

「……滅びの歌か、変わった者がいるようだ。そなたのは特別だ。本来ならばいらぬはずだが、何故か現身を持っているためだ」

「へ~」

「ついでにあっちに突っ返してくるか?」

「八雲ひど~い!」

「ダメですよ八雲さん! 人手不足なんですから!」

「……それに、時間に限りがある。その許可証は時間が経つ内に黒く変ずる。それが漆黒になる前に、事を済ませるのだ」

「放射能のパッチフィルムのような物か」

「なら見えるようにしておいた方がいいか?」

「むしろ、落とさないようにしまっておいた方がいいわ」

「なあに、落としたら川向こうに引っ越すだけだ」

 

 仁也がじっとコインを見つめ、明彦が何か吊るす物はないかとポケットをまさぐった所で、咲と八雲の指摘に皆は慌てて内ポケットなどに厳重にしまい込んだ。

 

「未成年だけでも戻せないか? 正直、団体ツアーで行くとこじゃないだろうし」

「……いや、冥府の異常は進行しているようだ。彼らの力も必要になるだろう。ここならば私の管轄、残す者は最低限でいい」

「そこまでか………」

 

 八雲の提案にカロンは首を横に降り、予想以上の状況になってるらしい事にキョウジも顔を曇らせる。

 

「質問のケースです!」「ライドウがいないんだけど知らない!?」

「……ここにそなた達が来る直前、何らかの外部の力が働いたようだ。だが、一時的な物だろう。戻り次第、後を追わせよう」

 

 凪とあかりの質問に、カロンは少し虚空に視線を向ける。

 その返答に二人は少し胸を撫で下ろした。

 

「つまり、ここはあなたの保護管理下として最低限の人員でベースキャンプを設置、残った全員で川の向こうのセクターを探索、一連の異常及び襲撃の要因を調査、解決した後、帰還スキップを用意してもらえる。ただし制限時間内で、という事になるのだろうか?」

「……そのようになる」

 

仁也がまとめた状況説明に、カロンが首を縦に振る。

 

「地獄への往復切符、ただし安全は保障しかねます、って事か。進むも地獄、退くも地獄ってのはまさにこの事」

「亡者となって落とされたわけではない。そこまで悲観する事は無いだろう。ただし、安全は確かに保障されないが」

 

 八雲がコインを指で弾きつつボヤくが、アレフは真顔で反論しながらCOMPの状態をチェックする。

 

「悪いがオレはここまでだ。向こうに行ったら戻れなくなるからな」

「……本来戻るべきは向こう岸のはずだ」

「あ、成仏する気なんて皆無だから言うだけ無駄無駄」

「……すげえ会話だな」

「……うん」

 

 キョウジ(故)がベースキャンプの残留を宣言するのを、カロンとキョウジがうろんな視線を送り、その様子を順平と啓人が遠巻きに見つめていた。

 

「アルジラ、お前はここに残って警戒しといた方がいいだろ。喰奴が冥界行ってどんな影響あるか分からん」

「そうするわ。ゲイルと連絡も取りたいし」

「ついでにあっちの警戒も頼む」

 

 八雲が当人に見られないようにキョウジ(故)を指差しながら、アルジラに耳打ちする。

 

「負傷もしくはデモニカに不備がある者はここでベースキャンプ設置及び警戒を」

「なんとかこいつを動かせるようにしたいが………」

「残弾を再配分しよう。まだ余裕あるな?」

「携行食料は大丈夫のようだ、探索班にも分配を」

「こういう時に限って問題無しなんだよな………」

 

 レッド・スプライト号クルー達は手際よくベースキャンプの設置と探索準備に取り掛かり、アンソニーが誰も聞かれないようにボヤきながら銃のサイティングチェックを進める。

 

「亡者なんて精神体と似たようなモンだろ? それじゃあ受胎トウキョウとあんまり変わらないって事で」

「確かにその通りだ。全員、準備できたか?」

「あ、オレちょっと部屋のガス栓が気になるんで……」

「私も部屋の水道が………」

「残るのは構わんが、そっちのキョウジさんに背中見せるなよ? 若い肉体の方が使い勝手いいらしいからな」

 

 やる気満々の修二と装備の点検を終えた小次郎の言葉に、順平とゆかりがこそこそとベースキャンプに残ろうとするが、八雲の一言と、何故かこっちを妙に鋭い視線で見つめているキョウジ(故)を前に、またこそこそとこちらに戻ってくる。

 

「……それでは、いいか」

「OK、ちゃんと渡してくれよ」

 

 カロンからの最終確認にキョウジが了承すると、何人かの唾を飲み込む音が響く。

 

「何を見ても驚くな、それが鉄則だ」

「まあ無理だろうけどな」

「……それでは行くぞ」

 

 経験者のアレフとキョウジが注意する中、カロンが手をかざすと、光がそこからこぼれて地面に広がり、準備を終えた者達の真下で大きな光の渦のような物になったかと思うと、そこから巨大な蓮華の花となる。

 

「おわ……」

「なんとFantasticな………」

「……では頼むぞ」

 

 巨大な蓮華の花に乗った形となった者達が驚く中、蓮華の花は滑るように動き出し、そのまま三途の川を渡っていく。

 

「渡し賃貰ってここ渡った奴は初めてかもな」

「追加で貰った分払う羽目にならないといいんですけどね」

「戻れなくなる心配の方が先だろう」

「文字通り孤立無援になる」

「正真正銘の無縁仏って奴か」

「あの、できればもうちょっと明るい話題を……」

 

 キョウジ、八雲、小次郎、アレフ、修二の開き直った発言に、啓人が顔色を青くする。

 

「ひょっとしたら、懐かしい奴に会える可能性もある」

「はあ」

 

 アレフが思い出した事を聞いた啓人が生返事を返すが、そこで八雲が視線を上に向けて少し考え込む。

 

「出来れば会いたくない奴の方が多いな、ちゃんと地獄に行ってればいいんだが」

「どういう人生歩んでんすか?」

「サマナーなんてそんなモンだぜ」

「そうなの?」

「まだ答えるには未熟なセオリーです………」

「戦死したクルーがいる事も有りえるのか?」

「さあ?」

「向こう岸が見えてきました!」

「さあて、何が出るかな? ネミッサ楽しみ♪」

 

 不安や焦燥、そして僅かな期待を載せ、彼らは岸へと降り立った………

 

 

 

「……ん?」

 

 物音を聞いた気がして、ダンテは目を開ける。

 そして、現状を確認しようとした所で、小さく首を傾げた。

 

「よお、久しぶり」

 

 聞き覚えのある声にダンテがそちらを向くと、そこに派手な格好をした恰幅のいい中年男性がグラスを片手に笑みを浮かべていた。

 

「エンツォ? ここは……」

「見ての通り、The Gates of Hellさ」

 

 その派手な男、馴染みの情報屋、エンツォ・フェリーニョの言葉どおり、そこは覚えのあるバーのカウンターで、顔なじみの筋肉質の強面マスターがこちらに背中を向けて何かを作っていた。

 

「取り合えず、いつものでいいか?」

「ああ、でもオレはさっきまで……」

 

 どうにも状況が飲み込めないダンテの前に、マスターがストロベリーサンデーを差し出す。

 それに手を伸ばした所で、ふとダンテはカウンターが僅かに歪んだのが見えた。

 

「そっちのマントの坊やの術のお陰で、一時的にあんたをこっちに呼べた」

「東洋のしかも古い術式だったから、同調に苦労したがな」

 

 エンツォとマスターの言葉に、一応事情が飲み込めたダンテが飾られていた大粒のイチゴを咀嚼する。

 エンツォの指差した方向、カウンターの端に座っていたライドウは、静かにソーダ水を嚥下していた。

 

「まったく、無茶をする物だ。この転移、左程持たんぞ」

「こちらの用件済ますくらいには大丈夫だ」

 

 ライドウの肩にいたゴウトが呆れる中、エンツォが苦笑しながらグラスを開け、すぐに次を注文する。

 

「トウキョウ受胎か。一部のガイア教徒が唱えていた理論だが、実践する奴がいるとはな」

「……どこでそれを知った?」

「企業秘密って奴だ」

 

 エンツォの告げる言葉に、ライドウが僅かに腰の刀に手を伸ばし、ゴウトがそちらを睨む。

 

「……魔界が相当騒がしい。天界でもアクションを起こそうとしてるらしいが、複数世界が関わってるせいか、手を出しあぐねている」

「……なるほど、この店はそういうのが専門か」

 

 マスターが呟いた言葉に、ゴウトは納得したらしく、ライドウも刀から手を離す。

 

「そういう訳で、これはオレからの依頼だ。このままトウキョウ受胎が完成すれば、とんでもない事になる。それをどうにかしてくれ。これが前金だ」

 

 そう言いながら、エンツォは足元に置いておいた、やけに大きくごついトランクケースをカウンターへと持ち上げる。

 それを見たライドウが目つきを鋭くし、ダンテがアイスを舐めながら笑みを浮かべる。

 

「質草を返してくれるって訳かい? しかも全部」

「命あっての物種って奴だ。ちゃんと手入れはしておいた」

「前の仕事が半分流れちまったような状況だからな。新しい仕事を入れるのもいいさ」

 

 ストリベリーサンデーを平らげたダンテが、やたらと楽しげな顔をしながら、トランクケースを受け取る。

 

「あんたにはこれを」

 

 マスターがライドウの前にガンケースを置く。

 ライドウがそれを開いてみると、そこには彼が使っているのと同じコルト・ライトニング、ただし異様なまでの妖気をまとったそれが収まっていた。

 

「ビリー・ザ・キッド当人が使っていた、いわく付きの代物だ。あんたなら使えるだろう」

「……受け取っておこう」

 

 しばし迷ったライドウが、妖気漂うコルト・ライトニングをガンケースごと受け取る。

 そこでバーその物がゆっくりと歪み始めた。

 

「おっと、時間切れみたいだな」

「で、肝心の依頼料を聞いてないぜ?」

「後で払うさ、こちら側が消えてなくならなかったらな」

「高くつくぜ」

「すでに付いてるさ、じゃあ頑張ってくれ」

 

 エンツォがグラスを掲げてエールを送った所で、バーその物が大きく歪み、やがて消える。

 

「とんだ道草を食ったな、皆に追いつくぞ」

「分かっている」

「派手な地獄旅行になりそうだぜ」

 

 周囲全てが闇と変貌する中、二人と一羽はまた闇の中、下へと向かっていった………

 

 

 

「全員集まったか」

『そのようです。会議を始めます』

 

 レッド・スプライト号の会議室で、緊急招集された会議に、主だったメンバーが集まっていた。

 

『まずは冥界の門封印ミッションについて、第三勢力の介入による失敗を皆さんに報告いたします』

 

 アーサーの報告に、その場にいた者達がざわつき始める。

 

「報告によれば、第三勢力の正体は、この受胎トウキョウ内の三大勢力の一つシジマであり、そのリーダー氷川が中心となって妨害活動をしたらしい事が確認されている。

のみならず、カルマ協会と呼ばれる喰奴達を作り出した組織もシジマに協力、それが今回の失敗に繋がったようだ。

またこれは完全に確認が取れて訳ではないが、双方からこの街にスパイが送り込まれていた可能性が高く、そこから作戦が漏洩したらしい」

『そしてこれが、現在の両国です』

 

 克哉の報告の後、会議室の大型ディスプレイにある画像が映し出される。

 それは、どこまで続くかすら分からないほど深く、そしてどこまでも巨大な穴その物だった。

 克哉の報告と、拡大した冥界の門の画像に、その場がにわかに騒がしくなる。

 

『第三勢力の妨害活動により、冥界の門は突如巨大化、ミッション遂行に当たっていたメンバーは、拡張に巻き込まれて穴に落下した物と思われます』

「生存の可能性は?」

 

 無言で報告を聞いていたゲイルの問いに、克哉は視線をレイホゥへと向ける。

 

「……普通の人間ならば、冥界の門に飲み込まれれば生存は不可能に近いわ。ただし今回は悪魔使いやペルソナ使いと言った、特殊な能力を持った人達、それに轟所長がなんらかの手段を用いて冥界に行く方法を策定してたらしいから、生存の可能性は十分にあるわ」

「本当ですか!?」

 

 それまで会議室の隅でうつむいたままだった風花が、レイホゥの言葉に思わずイスから立ち上がる。

 

「特にペルソナ使いは、自分で自分を守護してるような物だから、多分大丈夫」

「オレもそう思う。ただ、問題はどうやって戻ってくるかだな」

 

 ペルソナ使い代表として出席してた尚也がレイホゥの意見を肯定しつつ、更なる問題に首を傾げる。

 

「救助隊は出せないのか?」

「それよりもまず生存確認を」

「連絡はつかないのか?」

「市民には内密にしておくべきだろう」

「ここの防衛構想を練り直した方もいいわね」

「下の情勢変化の情報収集も必要だぜ」

「あ、あの!」

 

 喧々諤々の協議が行われる中、風花が珍しく声を上げる。

 

「ど、どうすればリーダー達の生存確認と救出が出来るんですか? 私のペルソナでも感知できなくて………」

『それはそうだろう。あれは異界に続くゲートだ。飲み込まれれば、次元階層で断絶されるのと同じくなる』

 

 業魔殿から通信参加していたヴィクトルの説明に、その場にいた者達の半数が首を傾げる。

 

『なるほど、異なるセクターにジャンプするのと等しいと考慮すればよろしいのですね』

『そうなる。通常の方法では通信も行えない』

『重力子通信機は破壊され、修復も不可能です』

『こちらでエーテル反応通信装置を試作中だ。まもなく完成する。だが、能力的に中継機が必要だろう』

 

 アーサーとヴィクトルの専門用語の連発する会話に理解しきれない者達が更に首を傾げるが、風花は熱心にそれを聴いていた。

 

『UAV(※無人偵察機)を中継機として使用する事を進言します。ただし問題が』

「何かね?」

『無人偵察機の投入はシュバルツバース探索でも行われてました。ただし、その全てが悪魔によって破壊、そのために我々はシュバルツバースの有人探索に踏み切らねばなりませんでした』

「UAVって、確かあのグライダーみたいのだよね?」

「そんな物が飛んでいたら、ここではイヤでも目立つわ」

「なんとか目立たなくできないんですか?」

 

 尚也と祐子が顔を見合わせる中、風花が問いかける。

 

「それなら、表面に隠行の呪を書き込めば効果あると思うわ」

「確かに。書くなら手伝えます」

「問題は防護能力だ。その無人機の攻撃力は?」

「少しはある事はあるが、そもそも悪魔用に作られておらんぜよ?」

「ならば、シエロを随伴させるか?」

「逆に人目つうか悪魔目引くんじゃねえのか?」

「無人機に随行できて目立たない、なおかつ戦闘力を兼ね備えた存在か………あ」

 

 ある事を思いついた克哉が思わず手を叩く。

 会議は、それから程なくして終了した。

 

 

2時間後 レッドスプライト号ラボ

 

「ようし、回線チェックぜよ」

「動力はまだね」

「ちょっとそこまだ書いてない!」

「乾いてないので触らないでください」

「う~ん」

 

 資材班クルー達がUAVに業魔殿から運びこまれたエーテル反応通信機をセットする傍ら、レイホゥと祐子が機体表面に悪魔に感知されにくくするための呪文を書き込んでいく。

 

「日本のホラーに、こんなのがあった気がするぜよ」

「耳なし芳一でしょ? まあ似たような物ね」

「こんなの運用したなんて本部に報告したら、信じてもらえないでしょうね………」

 

 極めてオカルティックな状態になっているUAVに、資材班クルー達は苦笑いしつつ、作業を進めていく。

 

「チェン、そっちは出来たかぜよ?」

「はい、大丈夫です」

 

 UAVの中央部、ボディがくりぬかれ、なぜかそこに小さなコクピットが作られていた。

 

「サイズはこれでいいんですよね?」

「本人に聞いてみるしかないわね。準備できてる~?」

「は~い♪」

 

 レイホゥの呼びかけに、小さな声と共に、克哉の仲魔であるピクシーが、なぜかパイロットスーツにヘルメットまで持参で飛んできた。

 

「じゃ、ここに乗ってみて」

「こう?」

「どう?」

「うん、大丈夫♪」

「……UAVにコクピット造ったのはこれが多分最初で最後ぜよ」

 

 デモニカのバイザーでピクシーの姿と声を確認しながら、ピクシー用に造られたコクピットの調整をしている助手の姿を、少しこまった顔で見ていた資材班のリーダーだったが、手元のコンソールにチェック結果が出てそちらを確認していく。

 

「克哉さんから聞いてると思うけど、あくまで自衛用に乗るから、こっちから攻撃したらダメ。危なくなったらすぐに逃げなさい」

「は~い」

「これが終わったら私も観測チームに加わるから、場所覚えて置くように」

「は~い」

 

 呪文をもう少しで書き終えようとしているレイホゥと祐子の説明に、ピクシーは楽しげな声で答える。

 

「それじゃあ通信チェック。マイクがそこね。非常事態にはこっちの赤いボタン押して緊急連絡、操縦はあくまで観測チームでやるから、危ない事しないでね?」

「うんうん分かった!」

「……ホントにあんな小さいので大丈夫ぜよ?」

「ああ見えても、ヴィクトル博士の作った強化悪魔だから、かなり強いの」

「報酬がケーキ一週間食べ放題って話だけど………」

「まあ、他に手が無いってのも事実ぜよ……」

 

 複雑な表情でUAVの最終確認をする資材班リーダーだったが、そこでラボの扉がノックされる。

 

「高尾先生、準備は終わりました?」

「もう少しよ、そちらは?」

「こちらはもういつでも降りれるそうです」

 

 ラボのドアを開け、観測チームの一員として随伴する事になった風花が祐子を呼びに来る。

 

「……皆さん、無事だといいですね」

「きっと大丈夫よ。あなたも含め、あなたの仲間はみんな、悪魔の跋扈するトウキョウを平然と歩いてたでしょ?」

「私はゆかりちゃんとサーフさんに守られてましたし………」

「ま、キョウジや轟所長も一緒だから、最悪の事態は免れてるでしょ。轟所長は帰ってこれないかもしれないけど」

「確かに……よくこの世にのこ……って………」

 

 最後の一文字を書き終えようとした祐子の手が突然震え出し、のみならず全身が立ったままケイレンを始めて、その手から筆が滑り落ちる。

 

「何ぜよ!?」

「何かの発作!?」

「いえ、これは………」

 

 突然の事に驚く資材班クルー達に、レイホゥはそれが前にも見た物だと気付く。

 そして不意にケイレンが治まったかと思うと、祐子が不自然に首を傾げたまま振り向く。

 その顔面は蛍光塗料でもぶちまけたかのような奇怪な物で覆われていた。

 

『同胞を探せし迷い子達よ! 汝らが同胞は冥府が奥に進みし! 待つは果て無き闇なり! 飢えし者、汝らにその牙伸ばさん! 災いはこれからなり! 恐れ目を背けるも、勇猛に立ち向かうも自由なり! 我もまた、行くは女と共に。自らを由とせよ。これ、我の真なり』

 

 野太い男とも甲高い女とも聞こえるような声が、心に直接響くようにラボに響き渡り、再度祐子の体がケイレンしたかと思うと、彼女の顔が元に戻る。

 

「今のは一体………」

「《神託》よ。彼女に降りている神、アラディアのね」

「ええ、どうやら皆無事のようね」

 

 呆然としている資材班クルーに説明する中、風花の顔が明るくなる。

 

「リーダーもゆかりちゃんも、皆生きてるんですね!?」

「あの、あんな変な神様がアテになるんですか?」

「アラディアの神は私にとって絶対、虚偽は言わないわ」

「……まあ、こっちにも悪魔だの天使だのになっちまった奴もいるし、変な神様憑いてる人もいるかもしれんぜよ」

 

 無理やり納得した資材班がUAVのチェックを終える。

 

「それじゃあ行きましょう。皆を助けに」

「はい!」

 

 祐子の言葉に、風花は元気良く返答した。

 

 

 

「本当か?」

「うん、私のペルソナが教えてくれた」

「だがまずいな、奴らのテリトリーに突っ込むぞ」

「救援が必要なセオリーか」

「じゃあ頼めるかな、顔見知りのようだし」

「心得た」

 

 

 

 闇の底へと落ちた糸、それを救おうとする糸、そして闇の底で待つ糸。

 幾つもの糸が紡ぎし物は、果たして………

 


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