真・女神転生 クロス   作:ダークボーイ

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PART27 RE NEWGAME

 

「目的地到着まで、二時間前後といった所か」

「もう少し近くに降りた方がいいんじゃ?」

「あんまり近いと、色々とマズいんでな」

「とりあえず、やばいエリア抜けるようには道選んだが………」

 

 両国へと向かう車内の中、急ごしらえでセッティングした受胎東京用カーナビの調子を見ていた八雲を、興味深そうに啓人と修二が覗き込む。

 

「それにしても、よくもこんな頑丈そうなバスがあったな。軍用の物か?」

「いや、頑丈っつうか………」

「まさか、こんなのに乗る日が来るなんて……」

 

 窓に張られた金網を見るゴウトに、順平とゆかりが沈痛な顔をする。

 

「これは護送車だ。犯罪者用の」

「なるほど、道理で陰気が少し漂っている」

 

 明彦の説明に、ライドウが納得する。

 珠閒瑠警察署から借りた、正真正銘の護送車の中で、皆が微妙に重い表情を浮かべていた。

 

「もっとも、あの街があんなになった後は色々と使うんで大分改造したらしいぞ。大勢乗れて、防御力も高い。文句無しだ」

「自分らが護送されてる気持ちになんなけりゃね………」

「言うなそれ!」

 

 八雲が納得するが、順平の余計な一言に修二が吼えるように反論した。

 

「護送されるならまだマシな世界だろ。オレの世界じゃ野垂れ死になんてよく見た」

「半分はそのまま亡者になって襲ってくるがな」

 

 得物やCOMPの手入れをしている小次郎とアレフの言葉に、更に重い空気が車内にわだかまる。

 

「私もあっちに乗せてもらえばよかったかな~」

「ホコリまみれになるって言われて断ったのは誰だったかしら?」

 

 二台に分乗した護送車の両脇を併走している、ダンテと美鶴のバイクの方を見るゆかりに、ヒロコが思わず苦笑する。

 

「じゃあ着く前におやつにしよう!」

「え?」

 

 嬉々として何か大きな袋を持ってきたネミッサが、それを車内の真ん中に置いて広げる。

 カチーヤが何かと思って覗き込むと、その中には大量のスナック菓子とジュースが入っていた。

 

「………ネミッサ、何を持ってきたかと思えば」

「はい八雲のもあるよ!」

 

 そう言いながら八雲へとチョコバーを投げたネミッサが、大袋の中身を漁り始める。

 

「腹ごしらえか、悪くない」

「長丁場になる可能性もあるだろう」

「お、カップ麺もあるじゃん!」

「お湯こっちね」

「待て、醤油味はオレの!」

「大学芋味? どういう事だ?」

「うお~、お菓子なんて食うのどれくらいぶりだ……」

 

 皆が思い思いに菓子を漁り始めるのを見ながら、八雲が手にしたチョコバーにかじりつこうとした時、ふとその手が止まる。

 

「ネミッサ、これどこから持ってきた?」

「全部八雲の部屋から」

「それはオレの買い置きだ! ちょっと待て!」

 

 八雲が振り返った時、すでに袋の中身は全て取り出され、開封もしくは手をつけた後だった。

 

「ああああああ………後で食おうと取って置いた限定品まで…………」

「それは済まん事をしたな」

「返すか?」

「いいよ、もう……」

 

 そう言いながら小次郎とライドウが食いかけのカップ麺とスナックを差し出すが、八雲は涙ながらに断る。

 

「あの、八雲さんこれまだ開けてませんから」

「それこそ食っておけ。お前を含め、術の執行者が一番重要だからな」

 

 カチーヤが手にしていたカロリーメイトを差し出すが、八雲は逆にそれを押し返す。

 

「再確認するが、今回の最大の目的は冥界の門の封印だ。術者の死守が最優先となる。最悪、手近の奴が抱えてでも逃げろ。戦力は大量にあるが、術式が使える人員は限られている」

「時間さえあれば封印プログラムが構築できるかもしれんが………」

「その間に亡者が溢れてくる。これ以上余計な敵は増やすべきではない」

「同感だ。倒すだけなら幾らでも出来るが、敵が多過ぎる」

「どこからどこまでが敵か分からないってのも大変だな………」

 

 八雲の説明に、小次郎、ライドウ、アレフがそれぞれ補足していく。

 最後に思わず啓人が呟いた言葉に、実戦経験の長い者達が互いの顔を見て少し考えた。

 

「一番分かりやすいのは、自分以外は全員敵という状況か?」

「うへ、それ最悪………ってオレも似たようなモンか」

「そうなりたくなければ、信頼と妄信を間違えない事だ」

「その通りだ」

 

 小次郎、修二、ライドウの意見に、八雲が笑いながら賛同する。

 ふとそこで、八雲はライドウの隣で騒いでいたはずのあかりがやけに静かな事に気付いた。

 

「あ、あと着くまで何分?」

「半分ってとこだが……そういや、酔い止めを用意してなかったな」

「召喚士殿、この先の道少し揺れます」

「元から道なんてねえよ」

 

 運転をしていたジャンヌ・ダルクと、余計な突込みを入れた修二の言葉に、あかりの顔がさらに青くなる。

 

「……う!」

『わあああぁぁ!!』

 

 

 

「お~、そろそろだな」

「そのようだ」

 

 それぞれのCOMPからアラート音が響き始めた所で、空になったスナック袋がゴミ箱代わりの弾丸ケースに投げ入れられる。

 

「全員準備はいいな? 特にそこの隅の」

 

 八雲がバスの隅、ひざを抱えて落ち込んでいるあかりに声をかけるが、そこからはすすり泣きだけが返ってくる。

 

「うう、かっこ悪いとこ見られた………」

「あんだけ吐いたら、あと出す物ないだろ。早く戦闘準備しろ」

「あの、 もうちょっと親切にした方が………」

「そんな余裕は無いな。アレの前だと」

 

 先程まであかりの背中をさすっていた啓人が意見するが、運転席の隣で双眼鏡を覗いていたアレフがそれを一言で切り捨てると、双眼鏡を背後へと突き出す。

 

「見てみろ、文字通りのこの世の物とは思えない光景が見れる」

「へ?」

 

 順平が興味半分で双眼鏡を受け取り、前方を覗く。

 そしてレンズに、こちらへと向けて迫ってくる亡者の姿が大写しになった。

 

「う、うわあぁぁ!!」

 

 思わず絶叫しながら、順平は双眼鏡を放り出す。

 

「何が見え…うわ………」

 

 何気なく啓人が双眼鏡を拾って覗き込んだ所で、そこに広がる光景に絶句する。

 

「ビビれるのは今の内だ。すくむようならバス残ってろ」

「い、いやいきなりだったんで…………」

「使い物になるのか?」

「なってもらわなきゃ今後に差し支えるだろ。吐くのは戦闘前に済ませとけよ」

 

 亡者との戦闘経験なぞ無い課外活動部メンバーに、悪魔使い達が厳しい視線を向ける。

 

「よし、それなら対ゾンビ用の秘密兵器を渡しておこう」

「え! あるのそんなの!?」

「何々!?」

 

 八雲の提案に嬉々として飛びついた順平とゆかりに、一つのアタッシュケースが突き出される。

 大急ぎでそれを開封した順平が、中身を見て凍りついた。

 

内容物

・ベレッタM92Fカスタム

・救急スプレー

・サバイバルナイフ

・星のマークのジャケット

・ベレー帽

 

「あの、これ………」

「今ならこの巨人斬りの備前長船(※使用後破損状態)もつけるぞ」

「何の意味があるのこれ………」

「分かった、じゃあ緊急回避アイテムを」

「う~ん……」

 

 唸りながらも、ダガーナイフやスタンガンを受け取った順平とゆかりに、啓人も念のためにアタッシュケースからサバイバルナイフを取り出しておく。

 

「ま、前面にはオレらが出るから、気軽に行け」

「そう言われても……」

「もうそろそろ降車ポイントです」

「おっと、じゃあ降りる準備だな。南と東の連中は向こうのバスに乗り換えろ」

 

 一度停車し、全員が己の得物を準備する所で、ダンテが搭乗口の隣に並んで手を振る。

 

「先に行ってるぜ」

「オレも!」

 

 修二がバスから飛び降りるようにダンテのバイクに乗ると、ダンテのバイクが加速して予定のポイントへと向かっていく。

 

「じゃあこちらも……」

「その前に、ちょっと掃除してからだな」

 

 そう言いながら、八雲はバスの後ろにあった謎の大荷物に歩み寄り、かかっていたカバーを外す。

 

「げ!」

「持ってきてたんだ………」

「やる時はEASYモードって決めてるんでな」

 

 用意しておいた物、M134ミニガン重機関銃を車体後部に設置されたガンポートから八雲は構えると、バスの向きを調整させる。

 同じようにもう一台のバスが反対方向に向かいながら、キョウジがM249ミニミ機関銃を構えているのが見える。

 

「火力頼みか、未来のデビルサマナーは」

「時代の流れって奴。それじゃあちょっと減らす!」

 

 ゴウトが呟く中、八雲がトリガーを引いた。

 すさまじい轟音と空薬莢がバスの内部に散らかされ、放たれた銃弾が亡者達を貫いていく。

 

「あちちち!」

「あんま近寄るな! 弾そんなに無いから、今の内に降りて準備しろ!」

「この作戦の後、弾薬の補充を考えておかないとな……」

「弾が切れたならば剣を使えばいい。こちらはいいから他に回せ」

 

 アレフとライドウがまだ完全に停車していないバスから平然と降りると、それぞれの剣を抜き放ち、仲魔召喚の準備をしながら亡者へと駆け出していく。

 

「ちょっとライドウ!?」

「ライドウ先輩はあまり前に出ないセオリー!」

「あの二人なら大丈夫。今の内に術の発動ポイントを抑えるわよ」

 

 慌ててあかりと凪が停車してから降りる中、落ち着いているヒロコが最後に降りると、再び車は走り出す。

 

「北ポイント、作戦開始。これより西に移る」

『了解、こっちは一度南回ってからにする』

 

 派手な銃声にかき消されながらも双方の状況を報告した八雲とキョウジが、現在位置と残弾数を確認しながら目的地へと急がせる。

 

「数は予想よりは少ないが、弾も少ねえ。あまり減らせんな」

「うえ!?」

「相手が這い出してくるよりも早く倒せばいいだけだ。問題ない」

「なるほど」

 

 未だにどこかビビっている順平に、小次郎はすでに準備を完全に整え、明彦もそれに習う。

 

「雑魚ばっかだとつまらなくない? カチーヤちゃん」

「え~と、状況が状況ですし………」

「ネミッサ、あまり妙な事を吹き込むな!」

 

 八雲が怒鳴った所で、乾いた音を立てて銃撃が止んだ。

 

「ちっ、切れた」

「ちょっ………」

「お前達はポイントだけ確保しておけばいい。後はこっちでやる」

「欲を言えば銃撃じゃなくて砲撃か爆撃援護が欲しいがな」

「予定ポイントそばです。停車します」

「いつでも回せるようにしとけ。行くぞ!」

 

 ジャンヌ・ダルクが停車させた所で、小次郎と八雲は飛び降りると同時に、それぞれのCOMPのエンターキーを叩いた。

 

「パスカル!」「ケルベロス!」『焼き払え!』

『ガアアアァァ!』

 

 それぞれが召喚した仲魔のケルベロス二体が、同時に業火を吐き出す。

 荒れ狂う業火がまだこちらに気付いていなかった亡者達を焼き尽くし、陽炎と共に異臭が一体に立ち込めるが、それらを超えて新たな亡者達が迫ってくる。

 

「あと50m押し込むぞ小次郎!」

「分かっている!」

 

 己の仲魔達に囲まれながら、二人の悪魔使いが剣と銃を抜いた。

 

 

 

 旋風のごとき勢いで横薙ぎに振るわれた大剣が、その軌道上にいた屍鬼達をまとめて両断する。

 

「うう……」「あ~……」

 

 更にそこへ呻きながら近寄ってくる屍鬼達には、マシンガンがごとき連続射撃がその頭を撃ち抜いていった。

 動く屍をただの屍へと強制的に戻しながらも、なお新たな動く屍が近寄ってくる。

 

「……つまらないな」

「……そりゃアンタならラ○ーンシティでも手ぶらで観光できそうだけど」

 

 ダンテの呟きに、修二は唖然としつつも押し寄せてくる屍鬼達を殴り飛ばす。

 

「殺気も闘気も無い連中じゃ、戦ってる気もしないぜ」

「瘴気は腐る程、って腐ってるか……」

 

 自分の手についた腐肉と腐汁に顔をしかめがながらも、修二は仲魔達と協力して屍鬼達を追い返していく。

 

「とりあえず手抜きでもいいから、やる事はやってくれ。あっちに任せる訳にはな~」

 

 修二が後ろの方を親指で指す。

 

「きゃ~きゃ~! 来るな~!!」

 

 前方から漏れてきた屍鬼 ゾンビ相手に、ゆかりが悲鳴を上げつつ、半狂乱になって矢を撃ちまくる。

 

「落ち着けゆかり!」

 

 その隣では、美鶴が冷静にレイピアでゾンビの頭部と喉を貫き、ペルソナを発動させて新たに近寄ってきた者を氷結させていた。

 

「前衛の二人に任せて、ゆかりは高尾先生のガードに専念しろ! 漏れてきたのは私が受け持つ!」

「お、お願いします………?」

 

 青ざめたゆかりの顔に、何かが飛んできてへばりつく。

 

「なにこれ?」

 

 何気なくそれを引き剥がし、それがダンテの斬撃の圧力で千切れ飛んできたゾンビの手(まだ少し動いている)だと気付くと、その場で白目を剥いて倒れこみ、祐子がかろうじて支える。

 

「大丈夫? あなたも無理はしないで!」

「ゆかりを頼みます!」

 

 祐子からの言葉に返答しつつも、美鶴も自分の顔が青ざめているのに薄々気付いていた。

 

(シャドウと悪魔、似て非なる物だと思っていたが、ここまで違うとは)

 

 相手を刺し、斬り裂く度に飛び散る腐汁と巻き散らかされる腐臭に、思わず氷結魔法でそれらを凍らせ、封じていく。

 

(戦闘力では劣ってはいないと思うが、我々にはタルタロス以外での戦闘経験がほとんど無い。これからの課題か)

 

 仲魔を従え、亡者達の群れへと平然と突っ込んでいく者達を遠目に見ながら、美鶴は剣を振るう。

 

「だから来るな~!! イシス!」『マハガルダイン!』

 

 目を覚ましたゆかりが繰り出した無駄に強力な疾風魔法が横を突き抜けていくのを感じながら、美鶴は己の責務をまっとうするために、召喚器を額に当てた。

 

 

「イシュキック!」『マグダイン!』

 

 あかりのペルソナが放った地変魔法が屍鬼達を土砂と共に吹き飛ばすが、食らったはずの屍鬼達がゆっくりとした動きで立ち上がる。

 

「あれ?」

「アギダイン!」

 

 そこへ凪の仲魔のハイピクシーが火炎魔法で止めを刺す。

 

「ゾンビは土気の悪魔。使うなら炎か浄化魔法がセオリーです」

「使えないからしかたないじゃん! おりゃー!」

 

 再び襲ってきた屍鬼達に挑んでいくあかりの背後で、凪が手にした小太刀で屍鬼の首筋を貫いていく。

 

「もういっちょうアギダい…」

 

 ハイピクシーが火炎魔法を放とうとするが、直前になって暴発、周囲に無駄に熱気を撒き散らす。

 

「んわ!?」

「きゃっ!」

「あちゃ~、失敗しちゃった……」

「まだ成功率は五割といったプロセスでしょうか」

「あてになんないなあ!」

 

「……何をしているんだ後ろの連中は」

「はしゃいでるのよ、いい男の前だから」

 

 戦闘中とは思えない姦しい声に、剣と槍を振るいながらアレフは首を傾げ、ヒロコは苦笑する。

 

「ライドウ! そろそろ下がれ!」

「もう少し減らしておきたい所だが……」

「こっちでやるわ。術式に専念して」

 

 正面にいた屍鬼達を横薙ぎ一閃でまとめて薙ぎ払い、ライドウが下がった所でアレフと仲魔達がその穴を塞ぐ。

 

「……気付いてるか?」

「ああ、何かおかしい」

 

 すれ違い様、二人の悪魔使いが互いに感じていた違和感を確認するが、それを明確には口には出さずに、それぞれの仕事へと取り掛かった。

 

 

「タナトス!」『メギドラ!』

 

 啓人のペルソナの放った万能魔法が屍鬼達を吹き飛ばすが、その背後から新たな敵が湧いてくる。

 

「あんまり飛ばすなよ! 浄化か火炎を使え! シュウ!」

『却火召喚!』

 

 キョウジが啓人に注意しながらも、仲魔のエジプト神話の大気の神とされる魔王 シュウが強烈な火炎魔法で屍鬼達を軒並み焼き尽くす。

 

「すご………」

「こんくらいにしとくか」

 

 凄まじい威力に啓人が絶句する中、キョウジはマグネタイト節約のためにGUMPを操作して仲魔を数体帰還させる。

 

「後は地道にやるぞ」

「は、はい!」

 

 七枝刀を抜いたキョウジの隣で、啓人も剣を構える。

 

「にしても、やけに少なえな………」

「そうなんですか?」

 

 押し寄せる屍鬼を一刀の元に斬り捨てながら、キョウジが首を傾げる。

 

「最悪、術者の一時撤退も考えてたんだが、問題無さそうだ。別の問題が起きそうだが………」

 

 自分達の後ろで、アイギスとコロマルに両サイドを守らせながら封印術式の準備を始めたレイホゥに目配せすると、キョウジは剣を振るいながら呟く。

 

「念のため、力を温存しておけ。お前の腕なら出来るだろ?」

「腕以前にそろそろ色々と……」

 

 剣で斬る度に飛び散る異臭漂う血や腐汁に啓人の顔が青くなるが、キョウジは構わず剣を振るい続ける。

 

「できれば気のせいであってほしいが………」

 

 

「汚物は消毒だぁ~♪」

 

 奇声と共にばら撒かれた銃弾が、群がる屍鬼を薙ぎ倒し、それと戦っていた八雲と小次郎のそばをかすめていく。

 

「止めぃネミッサ!」

「え~、援護してあげてるんじゃない」

「諸共殺す気じゃないのか?」

 

 嬉々としてアールズロックを連射しまくるネミッサに、八雲と小次郎が思わずその場に伏せて弾幕をかわす。

 

「あれお前のパートナーだろ。どうにかしてくれ……」

「元というか旧だがな。どうにかできるなら今こんなヤクザな商売してねえよ………」

 

 背後から巻き添えの弾丸を食らった二人の仲魔が帰還しかけるのを見ながら、八雲がネミッサに恨みがましい視線を向ける。

 そこでようやく乾いた音を立てて銃撃が止んだ。

 

「八雲、弾~」

「余分な弾なんてあるか! もうそこで大人しくしてろ!」

「え~? ネミッサつまんな~い」

「後は八雲さん達に任せましょう」

「そうそう」

「ポイント確保がオレ達の仕事のはずだ」

 

 カチーヤがたしなめつつ、ネミッサが順平と明彦に左右を抑えられて引きずられていく。

 

「まったく、前より過激になってやがる……」

「今の状況では、その方がいいかもしれん」

 

 起き上がり様、二人の悪魔使いが同時に剣を抜き放つと、ぼやきながら手近にいた屍鬼を両断する。

 

「お前たちはポイントを確保して動くな!」

「あとはこちらでやる!」

 

 GUMPとアームターミナルをかざし、戦闘用ソフトを組み替えると、同時にエンターキーが押された。

 

「一気に行くぞ!」

「残った連中を駆逐する!」

『オオ!』

 

 仲魔達が一斉に吼え、屍鬼の群れへと向かっていく。

 二匹のケルベロスが同時に業火を吐き出し、屍鬼を焼き払うと、そこからカーリーとヴィシュヌが六刀とチャクラムを手に残った屍鬼達へと襲い掛かる。

 

「ネミッサが馬鹿やったお陰で、大分減りはしたな」

「ああ、減り過ぎている」

 

 互いの仲魔達とフォーメーションを組みながら、八雲と小次郎は思っている事を目配せして確認しながら、戦い続ける。

 

(このまま封印がすみゃいいんだが………)

 

 何か嫌な予感を感じつつ、八雲は銃口を残った屍鬼へと向けた。

 

 

「予想よりも早く終わりそう……」

「そうですか、それはよかった」

 

 上空をホバリングしている珠閒瑠警察のヘリの中で、咲が呟いた言葉にパイロットが胸を撫で下ろす。

 

「あの………ホントに大丈夫でしょうか? 私さっきからこの状態で………」

「もう少し減るまで、その状態の方でいなさい。感知能力が高い人が、こんな所で能力使ったら発狂の可能性もありえるし」

「そ、そうなんですか?」

 

 ヘリ内部に簡易的ながら設置された魔法陣の結界の中、風花が心配そうに窓の外を見ているが、咲が制止する。

 

「こうやって見てると、ゾンビ映画みたいですね………」

「エイガ? ああ、娯楽作品の事ね。私のいた世界だと、これに近いのは日常茶飯事でした………」

「……僕らってまだいい方だったんです、ね!?」

 

 突然窓の外に、下から上がってきたらしい複数の顔の集合体のような姿をした邪悪な意識の集合体、幽鬼 コロンゾンに乾は思わず仰天する。

 だが咲は即座にレールガンの銃口を向けると、一発でコロンゾンを撃退した。

 

「実体の無い物も含まれてますね。気をつけて」

「り、了解! カーラ・ネミ!」『ハマオン!』

 

 反対側から近寄ってきた成仏できなかった死者達の魂とされる外道 モウリョウに浄化魔法を繰り出し、消滅させる。

 

「ま、また来ます!」

「目をつけられたようね。でも弱い者達ばかりだから、落ち着いて対処すれば大丈夫」

「は、はい!」

「オイら達もやるホ!」「ヒ~ホ~!」

 

 召喚機を構える乾の両脇に、風花の護衛のデビルバスターバスターズの二匹も並ぶ。

 

「こっちでも行きます!」「行くぜ!」

 

 ヘリの周囲にいた飛行能力を持つ仲魔達が、こちらに向かってくる怨霊達へと向かっていく。

 

「おかしい………予定だともっとかかるはず……」

 

 風花は持参していたノートPCに表示される戦況展開が速過ぎる事に、疑念を抱き始めていた。

 

 

「ラスト!」

 

 八雲のモスバーグショットガンから放たれたコロナシェルが、最後の一体の頭を吹き飛ばす。

 

「そっちの準備は!?」

「出来てます!」

「他も終わったようだな」

 

 カチーヤが予定ポイントについているのを確かめた所で、他のポイントも戦闘が終了しているのを確認した八雲は、小次郎と共に周囲の警戒にあたった。

 

「西ポイント、準備完了!」

『北、準備完了』

『東もいいぞ』

『南、とっくの昔に終わってる』

『咲、風花と一緒に周辺状況確認してくれ。安全が確保されたら始めるぞ』

『周辺、敵影ありません……その穴からすごく嫌な感じはしますけど』

『瘴気に当てられてんだ。無理なら結界の中に入ってろ』

 

 キョウジの指示ですぐさまペルソナを発動させ、周囲をアナライズした風花の報告を聞いた術者達が精神を研ぎ澄ます。

 

『では、始めるぞ』

 

 ゴウトの声と同時に、術者四人が一斉に拍手を打つ。

 

『タカアマハラニカムヅマリマス』

『スメラガムツカムロギカムロミノミコトモチテ』

『ヤホヨロヅノガミタチヲカムツドヘフタツタビヘタマヒ』

『カムハカリニハカリタマヒテ』

 

 ライドウの詠唱を始めとして、時計回りにレイホゥ、祐子、カチーヤの順に詠唱が続いていく。

 

(このまま何も、とは誰も思っちゃいないか)

 

 浪々と詠唱が続く中、各ポイントについている悪魔使い達が誰一人として緊張を解いていないらしい事を遠目に確認した八雲も、自分の銃に残弾を装填していく。

 

「あの、なんか殺気立ってないっすか?」

「手前も立てとけ。この状況で立て損って事はねえだろ」

「つまり、何か起きるかもしれないという事ですね」

「うえ!?」

 

 周りの様子がおかしい事をたずねた順平に、八雲が返した言葉を読んだ明彦も、拳を構えたまま周囲を警戒する。

 

(やるなら今、だがどこから?)

『穴の中から、こちらに何かが向かってきます!』

 

 全員の疑念を肯定するかのように、風花の声が通信に響いた。

 

『術式は続けろ! こちらで対処する! 数とランクは!』

『数は一つ、え、でもそんな………?』

 

 キョウジの指示に、風花が答えようとした所で狼狽した声が皆に届く。

 

「何が来る!? はっきり言え山岸!」

『は、はい! それが、アイギスと同タイプの反応です! 来ます!』

『!!??』

 

 全く予想外の風花の報告に、皆が当惑した瞬間、それは出現した。

 冥府へと通じる巨大な穴の中から、突如として黒い小さな影が飛び出す。

 

『何だあれは!?』

 

 誰かが叫ぶ中、影は一気に上空から詠唱を続ける祐子へと襲い掛かる。

 

「させるかぁ!」

 

 その前に修二が立ちはだかり、影が振り下ろそうとしていた巨大なトマホークを両手で押さえ込んだ。

 動きが止まった所で、皆の視線がそれに集中する。

 

「ば、馬鹿な………」

「ウソ!?」

 

 間近でそれを見た美鶴とゆかりが絶句する。

 襲ってきたのは、黒いドレスのような衣装をまとい、蝶を模したような仮面をつけた少女だった。

 だがその手には身の丈ほどはあろうかという巨大なトマホークが握られ、それを持つ腕の関節には明らかな機械が覗いていた。

 

「こいつ、マジでロボットかよ!」

「ありえない! アイギスの同型は全機破壊された!」

「じゃあこいつは…!」

 

 そこで、謎のロボット少女のトマホークが人修羅の腕力を超えて、じわじわと押し込まれ始める。

 

「な……オレがこんなロボ娘に力負け…」

 

 愕然とする事実の前に、修二が驚愕した時、突然ロボット少女が横へと飛び退り、先程まで彼女がいた地点に大剣が振り下ろされる。

 

「なかなかカンがいいな、お嬢ちゃん」

「わり、助かったぜ……」

 

 ダンテが振り下ろした大剣を持ち上げながら、ロボット少女へと向き直る。

 仮面の下の表情は分からないが、ロボット少女はトマホークを構えたままだった。

 

「お前は何者だ!」

 

 美鶴の問いに、ロボット少女は彼女の方を向くと、自動的には仮面が上へと跳ね上がる。

 その下には、アイギスによく似た静かそうな少女の顔があった。

 

「私はメティス。対デビルバスター用人型殲滅兵器」

「対デビルバスター用……」

「殲滅兵器!?」

 

 黒いロボット少女、メティスの口から告げられた言葉に、全員が驚愕する。

 

「面白い事を言うな、お嬢ちゃん。その殲滅兵器とやらの力は、どれくらいだろうな!」

 

 ダンテが不敵な笑みを浮かべ、メティスへと切りかかる。

 振り下ろされた大剣を、メティスはトマホークで受け止める。

 動きが止まったかと思った瞬間、即座に大剣は引かれて横薙ぎとして襲い掛かるが、トマホークの柄がそれを受け止める。

 

『術式一時停止! 総員術者を最大防衛!』

『桐条と岳羽はすぐに先生と逃げ出せるようにしとけ!』

「……多分大丈夫だとは思うが」

 

 キョウジと八雲の指示が飛ぶ中、修二はダンテとメティスの戦いを見ながら、祐子の前で仲魔と防衛線を構築しておく。

 

「プシュケイ発動」『ギガンフィスト!』

「ペルソナまで使えるのか!?」

 

 メティスがギリシア神話の恋愛を司る神エロスの妻で信じる事を司る女神 プシュケイを呼び出した事に、美鶴は更なる驚愕を感じていた。

 繰り出された拳を、ダンテは吹き飛ばされそうになりながらも受け止める。

 

「それで全力なら、ダンスの相手を間違えたな!」

 

 ダンテは力任せにプシュケイを弾き飛ばすと、全力の斬撃をメティスへと叩き込む。

 メティスは下がりながらそれを受けようとするが、大剣が振り下ろされた後、半ばから切断されたトマホークの刃部分が、宙を待って地面へと突き刺さった。

 

「さて、どうする?」

 

 切っ先をメティスへと突きつけたダンテだったが、相手の表情が全く変わっていない事に少しだけ疑問を感じていた。

 

『そのままにしてくれ! 聞きたい事がある! 誰か捕縛を…』

 

 キョウジが指示を出している途中で、メティスが柄だけとなったトマホークを、無言で頭上へと突き出す。

 

「何の真似だ、それは…」

『穴から同一、いえ近似エネルギー反応が接近! 数は3、6、まだ増えます!』

『なんだと!?』

 

 風花の絶叫のような報告を示すかのように、穴から幾つもの影が飛び出してくる。

 飛び出した影は、それぞれ東西南北のポイントへと降り立つ。

 一番最初に現れたメティスと全く同じ姿のしたメティス達が、手にトマホークを持ち、蝶の仮面をつけたまま対峙する。

 

「何の冗談だこれは………!」

「量産!? ありえない!!」

「ひのふの、12、いや最初のを混ぜれば13か……」

「量産型って、もっと後から出てくるのがセオリーだよ!?」

「残念ながら、ジョークのセオリーではないようです……」

 

 それぞれのポイントに三体ずつ、計13体のメティスの姿に、全員が驚愕しながらも、応戦体制を取る。

 

『待ってください! 最初のメティスのエネルギー上昇! まさか、これはオルギアモード!?』

 

 風花が叫ぶ中、最初のメティスの姿が燐光を帯びていく。

 

「オルギア、発動」「発動」「発動」「発動」

 

 それを皮切りに、全てのメティス達が燐光を放ち始める。

 

『ぜ、全機オルギア発動してます! 皆さん逃げてください!!!』

 

 風花の絶叫としか言いようが無い声が響く中、メティス達が一斉に動いた。

一番手前にいた者に、メティスが瞬時に詰め寄るとトマホークを振り下ろす。

 

「ち!」

「く!」

「う!」

「ちっ!」

 

 キョウジ、アレフ、小次郎、ダンテがそれぞれ攻撃を受け止めるが、オルギアモードのオーバーブーストパワーが、それぞれの剣を押し込んでいく。

 

「ペルソナ発動」「発動」「発動」「発動」

 

 その隙に近寄った別のメティスが、それぞれペルソナを発動。

 最初のメティスと比べるといささか不鮮明ながら、プシュケイがつばぜり合いの最中のデビルバスターへと襲い掛かる。

 

「この!」

「させない!」

「くっ!」

「この野郎!」

 

 それぞれを啓人、ヒロコ、八雲、修二が防ぐが、その隙に残った一体のメティスが術者の方へと向かう。

 

「目を閉じろ!!」

 

 八雲が叫び、カチーヤの方へと向かっていたメティスへと向かって予め用意しておいたホーリー・スタングンレネードを投げる。

 カチーヤの周囲にいた者達が慌てて目を塞ぐ中、眩いばかりの閃光が炸裂し、メティスの動きが鈍る。

 

「使い方を思い出せ!」

 

 八雲が叫び、全員がそれを何に使うべきだったかを思い出す。

 

「えい!」「おりゃ!」「て~い!」

 

 次々とピンが抜かれたホーリー・スタングレネードが投じられる中、投じた者達が術者を連れて一斉に逃げ出す。

 

「あれ使う時は逃げる時って言ってたスよね!?」

「間違いない!」

「でも、八雲さんが!」

 

 小柄なカチーヤの両脇を抱えて一目散に逃げ出した順平と明彦だったが、カチーヤの一言に思わず後ろを振り返る。

 

「気にするな! ジャンヌ車を!」

「分かりました召喚士殿!」

 

 逃げろと言ってた当人にも関わらず、八雲は残ってメティス達と死闘を繰り広げており、その背後に小次郎と二人の仲魔達も戦闘を続行していた。

 

「逃げるのではなかったのか?」

「術者を逃がすのが最優先だ! 誰か一人欠けても、再封印が出来なくなる!」

 

 振り回される三つのトマホークと三つのペルソナに翻弄されながらも、二人のデビルバスターと仲魔達は必死になって戦っていた。

 

 

「行けライドウ!」

「しかし……」

「ロボット相手ならなれてるから!」

「こっちだよライドウ!」

「先輩早く!」

 

 残って戦おうとしていたライドウを、アレフとヒロコが半ば追い出すように避難させる。

 

「なんて高性能なの……」

 

 トマホークの一撃で切断された槍を手放しつつ、ヒロコが銃を抜く。

 

「お前も退け。ここはオレ一人で十分だ」

「もう少し時間を稼いだら、そうするわね」

 

 避難のために猛スピードでこちらに向かってくる護送車の影が大きくなるまで、二人はその場を動かない事を決めていた。

 

 

「速い! 狙いが………」

 

 上空からなんとか小次郎を援護しようとレールガンを構える咲だったが、オルギアモードの高速に狙いが定まらない状態だった。

 

「オルギアモードは、一定時間が過ぎればオーバーヒートします! それまで持てば……」

「この状況じゃ、その時間が…」

 

 オーバーヒートまで持ちそうにない状況を悟っている咲がトリガーを引こうとした瞬間、ヘリを振動が襲う。

 

「何!?」

「うわあ!」

「ヒホ~!」

 

 振り返った先の目に、ヘリの壁を割って先端を潜り込ませているトマホークの姿が飛び込んでくる。

 

「下から投げてきたホ!」

「ま、また来ます!」

「くっ!」

「カーラ・ネミ!」

 

 狙いを援護から防御に変えた咲の放った高速弾がこちらに向かってきていたトマホークを弾き飛ばし、乾のペルソナが別のトマホークを叩き落す。

 

「このままじゃまずいホ!」

「しかもなんかバチバチ言ってるホ!」

「今ので電子系が一部やられた! 後退する!」

「でも!」

「燃料系か、こちらがやられたら一環の終わりだ!」

「……後退して」

 

 パイロットの悲鳴のような声に、咲は唇を噛み締めながらも、撤退を決意した。

 

 

「キョウジさん!」

「いいから行け!」

 

 啓人が呼びかける中、キョウジはケツを蹴飛ばすように啓人を追い払いつつ、メティス三体と戦っていた。

 

「こちらもオルギアを…」

「ダメだ! レイホゥを逃がす事だけ考えろ!」

 

 アイギスが戻ろうとするのを怒鳴りつけるが、一瞬の隙にキョウジの手から七枝刀が弾き飛ばされる。

 

「しまった……」

「せぇい!」

 

 そこへ襲い掛かろうとしたメティスに、レイホゥが全力で投じた三節棍が絡みつき、空振りに終わらせる。

 

「それ特注だから、あとで弁償させるから無理しちゃダメよ!」

「分かったよ!」

 

 レイホゥが作ってくれた隙に七枝刀を拾ったキョウジが、苦笑しつつも構えた。

 

「啓人さんはレイホゥさんを護衛してください! 私なら援護しながらの遅滞戦闘も可能です!」

 

 アイギスが両手のマシンガンを構え、啓人からの返答も聞かずに一斉掃射を始める。

 だがメティス達は掃射を食らう前にトマホークを旋回させ、銃弾を弾いていく。

 

(掃射範囲も掃射パターンも読まれてる!?)

 

 銃撃が効かなくても、時間稼ぎにはなると思ったアイギスが、指の銃身が焼け付かんばかりに全弾を撃ち続ける。

 そこで、唐突に彼女のシステムに同調通信が飛び込んできた。

 

『邪魔をしないで下さい、姉さん』

『姉!? あなたは一体……』

 

 同調通信の主、一番最初に出てきてダンテと戦闘を行っているメティスにアイギスも同調通信を返す。

 それに気を取られた隙に、眼前のメティスの一体がアイギスに向かってトマホークを振り下ろそうとしていた。

 

「あ……」

「タナトス!」『五月雨斬り!』

 

 寸での所で啓人のペルソナが襲い掛かろうとしていたメティスを弾き飛ばす。

 

「馬鹿野郎! ぼうっとしてるくらいならとっとと下がれ! ここはオレ一人でいいと言ったはずだ」

「でも…」

「アイギス早く!」

「ワンワン!」

 

 キョウジに怒鳴られ、啓人に強引に引っ張られ、遠くからコロマルからも吼えられる中、アイギスはメティス達から目が離せなかった。

 

(私の……妹?)

 

 遠ざかっていく中、アイギスの機械仕掛けの瞳は、黒い乙女達へと向けられたままだった。

 

 

「ダンテ!」

「なかなかやるな……」

 

 最初の一体も加え、四体がかりでダンテを囲むメティス達に、ダンテも苦戦を強いられていた。

 オルギアモードで加算されたパワーとスピードに、完全なコンビネーションで繰り出される攻撃の前にダンテは中々反撃に移れないでいた。

 

「ちょっとお痛が過ぎるぜ!」

 

 同時に振り下ろされた二つのトマホークを、大剣で力任せに弾いたダンテが後ろに飛び退りつつ、白と黒の二丁拳銃を抜いた。

 すさまじいまでの連射で二つの銃口から無数の銃弾が放たれ、四体のメティスを狙う。

 

「防御」

 

 トマホークを眼前に構え、ペルソナも併用して四体のメティスは銃弾を防ぐが、ダンテの連射は止まらない。

 鳴り響く銃声の中、とうとう最初に現れたメティスに限界が訪れ、オーバーヒートを起こしてその場に擱座(かくざ)した。

 

「まず一つ!」

 

 その隙を逃さず、ダンテが全力でダッシュしながら、大上段から大剣を振り下ろす。

 しかし、振り下ろされた刃はオーバーヒーとして動けないはずのメティスから出現したペルソナによって受け止められる。

 

「ちっ!」

「メインシステム、オーバーヒート。オートディフェンスシステム発動。システムをメインからサブへと移行、リブートまで30秒」

「随分と気の利くお嬢さんだ!」

 

 背後を素早く他の三体のメティスに囲まれたダンテが、振り向き様に大剣を投じる。

 弧を描いて飛ぶ大剣が、旋風を伴ってメティス達を弾き飛ばそうとするが、メティス達は再度防御体勢を取って堪える。

 

「そこまでだ!」

 

 戻ってきた大剣を受け止めたダンテの腕を、とつぜん修二の仲間のセイテンタイセイが掴んで宙へと舞い上がる。

 

「おい、まだこれからがお楽しみだ」

「あんたならそうだろうが、他の連中も逃げ出してる! 最悪囲まれっぞ!」

 

 修二が追ってこようとするメティス達に魔弾を放って牽制しながらも怒鳴る。

 その言葉通り、他のポイントで戦っていた者達も、術者達が安全圏に立ち去ったと見るや逃亡にかかっていた。

 

「作戦は失敗か」

「あんなん出てくるなんて想像できるか!」

 

 ダンテのバイクに飛び乗った所で修二は仲魔を全て帰還させ、二人を乗せたバイクは急加速でその場を後にする。

 ある一定距離を離れた所で、メティス達の追撃は唐突に停止した。

 

「止まったか」

「全員無事か!?」

「一応……」

 

 キョウジがその目が昼夜を司るとされる中国神話の龍神 ショクインの背に乗りながら確認すると、それぞれのケルベロスにまたがった八雲と小次郎が全弾打ちつくした拳銃をホルスターに仕舞いながら答える。

 

「全員被害を報告!」

『負傷者が数名出ているけど、大丈夫。早くこっちに!』

 

 追撃が無い事を確認した護送車が速度を落とす中、用心してボンネットの上にいたヒロコとアレフが手を振っていた。

 

『こちら咲、ヘリの方はなんとか戻るまでなら持つそうです』

『あのメティス達は全員穴の周辺から動いてません。完全に占拠されました……』

「まさか、冥界からあのような物が出てこようとは……」

 

 上空から様子を伺っていたゴウトもボンネットの上に降り立ち、殿を勤めた者達もバスに乗り込んで皆がようやく一息を入れた。

 

「それにしても、アイギスの同タイプなんて……」

「私自身、信じられません。しかし、明らかに私のパピヨンハートが同調反応を示していました」

 

 首を傾げる啓人の隣で、アイギスが自分の胸、その中にある動力炉の反応を思い出して表情を暗くする。

 

「でも、こんだけいんなら、戦ってもなんとかなったんじゃ?」

「恐らくな」

「だが確実に何人か死んでいた」

 

 順平の意見に、愛刀の状態を確かめるライドウとアレフが容赦ない言葉で断言する。

 

「スペックはアイギスよか上かもしれんな、ありゃ」

「対処法を考える必要があるな」

「それ以前の問題です!」

「動かないで!」

 

 傷だらけの八雲と小次郎にそれぞれのパートナーが回復魔法をかける中、全員がそれぞれ思案を巡らす。

 

「言える事は二つ。所属不明の強敵が現れた。そして全員生き残った」

「ならば、次の手は打てる」

 

 ゴウトとライドウの言葉に、全員が頷く。

 

「逃げはしたが、負けたわけじゃない。なら、戦えるだろ」

「もちろんです!」

 

 八雲の皮肉がかった物言いに、啓人が俄然として立ち上がる。

 

「じゃあ、まずは失敗報告を周防に入れておくか……」

 

 護送車の無線に八雲が手を伸ばそうとした所で、突然無線機からけたたましい音が鳴り響く。

 

『こちら周防! 珠閒瑠町にムスビの軍勢が来襲、目下交戦中! 現在戦況はややこちらが有利だが、フトミミが何かが来ると告げている! そちらの作戦終了次第、至急帰還を!』

「ムスビ!? 勇の奴!」

「飛ばせジャンヌ!」

「はっ!」

 

 突然の知らせに、護送車はその速度を増していく。

 急ぐ彼らの前に、更なる驚愕の展開が待ち受けていた………

 

 

 

 冥府の闇から現われし黒き乙女達に、糸達は退却を余儀なくされる。

 彼らの前に訪れる新たなる者は、果たして………

 


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