真・女神転生 クロス   作:ダークボーイ

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PART26 NEW ACCOUNT

 

(……ぎ、しっかりして………!)

 

 体の重さと、薄れていく意識の間に、誰かの声が聞こえる。

 

(今、回復………から……)

「無理…しないセオリー……あなたも………」

 

 辛うじて口からかすれた声が漏れるが、相手は残った魔力を全て回復魔法に注ぎ込む。

 体が幾分軽くなった所で、限界が来た相手が形をなくし、管へと戻っていく。

 

(ここは、一体……ライど………輩……)

 

 かすむ視線の先に、何か人影のような物が見えた気がしたが、そのまま意識は闇へと沈んでいった………

 

 

 

「両国の門が開いただと!?」

「……この状況では守役もいないか」

 

 祐子からもたらされた情報に、ゴウトとライドウはもっとも過敏に反応する。

 

「だとしたら色々とまずいな………すぐに関係者を集めて対策会議だ」

「まったく次から次へと………」

 

 キョウジとレイホゥも表情を曇らせつつ、即座に各組織のリーダーに連絡を送る。

 

「で、ダンテとアレフは?」

「あのメイドさんに言われて、特殊洗浄室に叩き込んでおいたわ。すごい事になってたから」

「そりゃ、亡者しこたまやってくりゃな………」

 

 ヒロコが指差した先、サマナー達がたまに使うまっとうな洗い方では間に合わないような、危険な汚れを落とす際の専用室を遠目に見たキョウジが苦笑する。

 

「あまり悠長にしてはおれまい。あの二人が狩ってきた後とはいえ、またすぐに亡者が溢れてくるぞ」

「封印の方法を考えないと。小次郎達はまだ?」

「先程連絡が来ました。もう直戻られるそうです。それと、土産があるとか」

「何を拾ってきたんだか………」

 

 メアリからの報告に、レイホゥはぶつぶつと呟きながら、会議の準備をするべく会議室へと向かった。

 

 

30分後 業魔殿会議室

 

「それで、緊急の要件とは?」

 

 緊急の会議の報を受け集まった、それぞれのリーダー達の意見を率先するように、美鶴が口を開いた。

 

「まずはこれを」

 

 レイホゥが現像したばかりの何枚もの写真を列席者に配る。

 それを見た者達は、ある者は目を見開き、ある者は懐疑的な目をした。

 

「これはなんだ? 奇怪な者達が集団でいるが」

「両国付近の、今の様子です」

 

 ゲイルの質問に、祐子が答える。

 

「まるでゾンビ映画のようだが………」

「ようじゃなくて、ゾンビ映画その物さ。違うのは見る方じゃなくて、やる方って事だが」

 

 体から柑橘系と思われる石鹸の匂いに、微妙に何かすえた匂いが混ざって漂っているダンテの返答に、美鶴は懐疑的な顔をしていた。

 

「分からない連中に手っ取り早く言えば、直系約150mのあの世への直通通路って奴だ。ほっておけば色々と迷った連中が退去して押し寄せてくる」

「現状でこれ以上の不確定要素は危険だ。対処法は?」

「簡単だ、今出てきてる連中を駆逐した後、封印術式を行えばいい」

 

 キョウジのものすごくかいつまんだ説明に、ゲイルが納得したのか次の問題を取り上げるが、それをゴウトが手早く答える。

 

「封印と言うが、具体的にはどのような事を?」

「これ程巨大ならば、四柱封印の儀が必要だろう。ただし、これには術の執行者が四人必要となる」

 

 南条からの質問に、再びゴウトが答える。

 

「一人はライドウでいいが、あと三人用立てられるか?」

「それなら、私とカチーヤで二人ね」

「四柱封印なら私も知ってます」

 

 レイホゥと祐子が手を挙げ、都合四人の術者がそろった事にゴウトとライドウが頷いた。

 

「後は、周辺の亡者の駆逐及び術者の護衛の人員だ」

「これだけいれば困る事は無いだろうが」

「そういう訳にはいかなそうだ」

 

 ライドウとキョウジが作戦概要の討議に移ろうとした時、ようやく戻ってきた小次郎と修二が遅れて会議室に姿を現す。

 

「すんません、遅れました~」

「なんかあったか?」

「色々と……それは後にして」

 

 開いていた席に小次郎と修二が座った所で、会議は再開された。

 

「下の幾つかの集落を回ってきたが、この街の出現は予想以上に混乱をもたらしている」

「しかも間の悪い事に、どの勢力も守護呼ぶためにマガツヒ集めの真っ最中だったからな~。ここはすげえ宝の山に見えてるはず」

「近く、どの勢力かまでは分からないが、威力偵察強行の可能性が高い。街の防護を固めておく必要がある」

 

 小次郎の口から出た情報に、会議室内が騒然となる。

 

「冥界の門封印と珠閒瑠市の防衛、その両方が必要という事か?」

「どちらかに優先度をつけるというのは?」

「いや、どちらも緊急を要するだろうね」

「部隊を二分するか?」

「それが妥当だろう」

「オレ達はどちらに回ればいい?」

「喰奴は亡者なんぞ食ったら腹壊すから防衛側だな。多少なりとてこの街の地理を覚えた者を防衛に回した方がいいだろう」

「だとしたら、大体決まりだな」

 

 キョウジが会議室のホワイトボードに《封印》、《防衛》と書いた下に大体のチーム分けを書いていく。

 

「封印はなるべく手早くやりてえから、実力者は封印チームに多目にするが、いいか?」

「問題ない。我々警察や仮面党、自警団などにも警戒態勢に当たらせよう」

「珠閒瑠のペルソナ使い達に、喰奴の面々も混ざれば、しばらくしのぐ位は出来るだろう」

「じゃあそっちは克哉と、轟所長に一任するって事で」

「ああ、それが妥当だろう」

 

 克哉と南条の提言で、防衛の概要がだいたいまとまり、残った面々が封印班へと割り振られる。

 

「問題はこっちだな。部隊を四つに分けて、最悪戦闘しながら封印作業になる」

「封印作業に入れば、術者は完全に無防備だからな。護衛と攻撃、双方が必要となるな……さてどう分けるべきか」

 

 キョウジとゴウトがホワイトボードとにらめっこした所で、ふと修二が手を叩いた。

 

「そうだ、人員が増やせっかも」

「何?」

 

 

 

「これが、お土産?」

「そ」

 

 業魔殿の一室で、ベッドに寝かされている人物に、呼ばれてきたレイホゥとキョウジが視線を向ける。

 寝かされているのは、白い肌に肩口よりもやや伸びた黒髪をロールした少女で、傍らのテーブルには彼女の荷物と思われる物が幾つかおいてあった。

 

「この街が転移してくると同時に、空から落ちてきたらしい」

「たまたまそばにいたマネカタ達が見つけたらしくて、そのまま匿ってたんだそうだが……」

「ずっとこのままか」

 

 ライドウが彼女が着ていたと思われるジャケットを手に取るが、それにはいくつもの傷が刻まれていた。

 

「なんでも、見つけたマネカタ達の話だと、光が見えた後に見つけたとか。確かに体に傷は無いみたいなんだよ」

「直に確かめた訳じゃないわよね?」

 

 レイホゥに睨まれ、修二が慌てて首を高速で左右に振った。

 

「なによりこれだ」

 

 小次郎が彼女の荷物の一つ、ライドウが使っている物と同型の管を手に取る。

 しかも、その管にはしっかりと葛葉の印が刻まれていた。

 

「葛葉の者、しかもサマナーか………」

「装備が大分時代がかってるから、多分ライドウと同じ頃の人だと思うけど………でもどっかで見た事あるのよね~?」

 

 レイホゥが首を傾げながら少女の顔を覗き込む。

 ふとそこで、少女が小さく呻いた。

 

「あ……」

「う~ん………」

 

 少し呻いた少女が、ゆっくりと目を開く。

 その時になって、彼女が碧眼である事に皆が気付いた。

 

「ここは……」

「気がついた? どこって言われてもちょっと説明に困るけど、一応安全な所よ」

 

 レイホゥが穏やかに話しかけた所で、少女の視線が室内にいる人達に向けられ、やがてある一点で止まった。

 

「ライドウ先輩? それではここは帝都というケースですか?」

 

 英語交じりの少女の言葉に、ライドウが肩に止まるゴウトと視線を交差させる。

 

「ライドウを知っているのか?」

「? まさか、ゴウト童子のセオリーですか? なぜカラスに?」

 

 全員の視線がライドウに集まるが、ライドウは小首を傾げる。

 

「一つ聞く。君がいたのは、何時だ?」

「大正二十年ですが? 一体先程からどういうクエスチョンなのですか?」

 

 少女が半身を起こしながら首を傾げる。

 

「何て言ったらいいのか………とりあえず、それ見てくれる?」

「カレンダー?」

 

 レイホゥが壁にかかっているカレンダーを指差し、それをよく見た少女の目が大きく見開かれる。

 

「西暦……2004年!?」

「本物よ。今私達がいるこの業魔殿は2004年から来たの」

「業魔殿!? しかし、私が知ってる業魔殿とは……」

「それだけじゃねえ。他にもあちこちの時代、というか世界から色んな連中が来てる。オレやレイホゥは21世紀の葛葉の人間だがな」

「……とても信じられないセオリーです。本当ですか、ライドウ先輩」

「……それなんだが、オレは君と面識が無い。つまり、君のいた世界とオレのいた世界は違うようだ」

「!? そんな………」

 

 少女が愕然とした所で、ライドウがしばし考え、口を開いた。

 

「だが、そんな事は現状では些細な事だ。君がサマナーである以上、現状の解決のためにその力を貸して欲しい」

「……! ライドウ先輩がそう言うのなら、私は協力を惜しまないセオリーです」

 

 そう言ってにこやかに微笑む少女に、他のレイホゥとキョウジが互いに何かを小さく呟く。

 

「えと、それじゃああなたの名前と正確な役職を教えてくれる」

「はい。私は凪、葛葉 ゲイリンの弟子として修行中の身です」

「ゲイリン? そうかお主ゲイリンの教えを受けた者か」

「ええ……ただ師匠は亡くなりましたが」

「結核でか?」

「はい………」

「そこは同じか」

「そちらでも……あ!」

 

 ゴウトが納得した所で、少女―凪が何かに気付いて懐をまさぐる。

 

「こいつか?」

「それです!」

 

 小次郎が管を差し出した所で、凪が慌ててそれを受け取り、その一本を取り出し、召喚の呪文を唱える。

 

「何を……」

 

 ゴウトが声をかけた所で、管が開放されてその中にいた仲魔が姿を現す。

 

「ふぅ……あ、凪大丈夫!?」

「ええ、なんとか無事のセオリーです」

 

 現れたのは、ミニスカート型に改良された着物をまとった妖精、技芸属 ピクシーだった。

 

「よかった~。凪ボロボロだったから、慌てて回復かけたんだよ~」

「ありがとう、あなたのおかげです」

「マネカタ達が見た光ってのはこいつか」

 

 修二が興味深そうにピクシーを見てると、ピクシーも修二の姿をまじまじと見る。

 

「誰この変な悪魔?」

「へ………」

 

 修二が一撃で顔を引きつらせた所で、ピクシーは周囲を見回す。

 

「……変な格好した人ばかりだよね。ここどこ?」

「なんと説明していいカテゴリーなのか……」

「ライドウもいるし。どういう事?」

「多分、お前達と似たような状況の連中が集まってんだと思うぜ。お前達はどうやってここに来た?」

 

 キョウジの問いに、ピクシーと凪がなぜここに来たかを思い出していく。

 

「私は、セルフ修行のために葛葉修験闘座に篭っていたのです」

「そしたらいきなり光って、そこから見た事もない悪魔がいっぱい出てきて……」

「ええ、仮面をつけたアンノウン悪魔でした」

「仮面、シャドウか!」

「シャドウ? ともあれ、そのアンノウン悪魔達と私は戦ったのですが……」

「凪と私で頑張って、ようやく最後の一体を倒したと思ったらまた光って、気付いたら凪ぼろぼろのまま、荒野だか砂漠だか分かんない所で、慌ててありったけの魔力で回復魔法かけたんだけど、力使い果たしちゃって管に戻ってたの」

「……やっぱどいつも似たようなモンだな」

「そうだな」

 

 凪の話を聞き終えたキョウジの呟きに、小次郎も賛同する。

 

「シャドウと一人で戦えるなら、戦力としては十分でしょう。ちょうど人手も欲しかったしね」

「それは一体どういうセオリーで?」

「後で話す。今はもう少し休んでいろ。体力の回復が最優先だ」

「ライドウ先輩がそう言うのでしたら…………」

「ねえ凪! 向こうにすごい街が見える! ここって亜米利加!?」

「お主も管に戻っていろ。後で色々と奇妙な物を見る事になるからな。すまんが、誰かついててやれ。我らはこれから封印の準備に取り掛からねばならん」

「確か、たまきがそろそろ戻ってくるはずだから、頼んでおきましょ。状況説明も一緒に」

 

 ゴウトからの頼みを承諾したレイホゥが、懐から携帯電話を取り出す。

 

「? それはどういうアイテムですか?」

「電話よ、持ち運びできるね。街中での通信体勢がなんとか整った所だから、あとであなたにも貸してあげるわ」

 

 首を傾げる凪の前で、レイホゥは微笑しつつコールボタンを押した。

 

 

 

「入るぞ~」

 

 会議の内容を知らせるべく、キョウジが電算室の中に足を一歩踏み入れると、途端に複数の刺激臭が鼻に飛び込んできた。

 

「うわ………」

 

 データ整理にこの部屋が使われて左程経っていないはずなのに、室内には無数のレポートと吸殻や空のカップ、各種ジャンクフードの殻などといった物が散乱し、立ち込める紫煙と複数の嗜好飲料の香りが充満していた。

 

「なんだぁ、また新データか……」

「そぞろ勘弁して………」

 

 それらの中央、複数台のPCを駆使していたパオフゥと八雲が、虚ろな目でキョウジの方を見つめていた。

 

「いやちょっと、急ぎの仕事が出来たんでな。それを知らせに」

「ああ、これか………」

 

 八雲が手近のディスプレイに、両国の門の映像を映し出す。

 

「そいつを塞ぐのに、人手が必要だからな。八雲に一斑指揮してもらおうかと」

「オレに?」

 

 冷め切った紅茶(※何か得体の知れないドリンク等入り)を八雲がすすりつつ、先程入力したばかりの作戦概要を続けてディスプレイに表示させた。

 

「課外活動部の連中にも参加してもらう予定だからな。お前はあいつらに信頼されてるし」

「信頼って言えんのかな~?」

「ガキに頼られるのは余程の善人か、筋金入りの悪人かの証拠だぜ」

「………後者かな」

 

 パオフゥが意地悪く笑うのに、八雲も乾いた笑いを返す。

 

「大体入力は終わったぜ。オレは作戦開始までにこれを使えるようにしとく」

「お、早かったな」

「ダブってるデータ見直して削除したからな。もっともお陰でそこの二人は潰れたが」

 

 八雲が指差した先を見たキョウジが、レポートの山に埋もれるように崩れ落ちてる舞耶とうららを発見する。

 

「うう、編集長締め切りもうちょっと待って……」

「あっちがこっちと同じでこっちが似てるけど違くて………」

「大丈夫かあれ………」

「大丈夫だろ、二人とも見た目よかタフだからな」

「頭の方は知らんが」

 

 無責任な事を言いながらキーボードを叩き続ける二人に、キョウジは呆れてため息をもらす。

 

「とにかく、詳しいチーム分けは後で教えるから、ミーティングだけでもしといてくれよ」

「了解、ちと休んでから……」

 

八雲はうなずいた後に、キーボードを横にのけると、そのままデスクに突っ伏して寝息を立て始める。

 

「相変わらず神経の太ぇ野郎だぜ」

「細かったらこの商売、やってけないからな」

「だろうな………」

 

 

 

4時間後 業魔殿の一室

 

「つう訳で全員集まったな?」

『………』

 

 課外活動部の全員が、寝癖のついた髪に全身からタバコやコーヒーやらのにおいを漂わせている八雲に絶句していた。

 

「あの、その前に何やってたんすか?」

「データ整理だよ、無駄に多くてな」

 

 順平の問いに、あくびをかみ殺しながら答える八雲だったが、あまりの荒み具合に全員引いていた。

 

「で、話くらいは聞いてるか?」

「簡単な説明はしているが、何分こちらの管轄からは少し外れている。詳細説明は小岩氏からと葛葉氏から言われているのだが………」

「やっぱ丸投げかよ」

 

 美鶴の話に小さく舌打ちしつつ、八雲は持参した荷物を手近のテーブルの上に置いた。

 それは大量のDVDやゲームソフトで、共通事項は全てゾンビ物だという事だった。

 

「とりあえず参考資料だ」

「……え~と」

「お前らの仕事は、押し寄せてくる亡者の大群を切ったり燃やしたり浄化したりして封印術式の展開を可能にする事だ。詳しくはリビ○グ・オブ・○ッドを見とけ」

「やっぱこれ、本物?」

 

 ゆかりが資料の両国近辺の写真を指差す。

 

「正確には、冥界の亡者は肉体持ってると言っても不安定な魂の依り代にしか過ぎん。破壊してしまえば拠り所を失って霧散するか、冥界に逆戻りするだけだ」

「でも、人間、なんですよね………」

「元はな」

 

 乾の質問にあっさりと答えた八雲に、その場に思い沈黙が訪れる。

 

「数が少なければ成仏させてやる事も可能かもしれんが、この数じゃそれも無理だ。余計な事を考えてる暇があったら、こっちに祟らんように追い返すしかない」

「もしその中に、顔見知りがいたら?」

 

 明彦の問いに、皆が一斉に息を呑む音が響く。

 それを感じた八雲は、しばし考えてから口を開いた。

 

「亡者から何を見ても聞いても、無視しろ。それがこの業界の鉄則だ」

「しかし!」

「化けて出そうな知り合いでもいるのか? もっとも冥界で亡者やってる連中ってのは、大抵生前ろくでもない人生でろくでもない最後迎えた連中が大半だ。そんな奴がいるならともかく、そうでなければ気にするな」

「………分かりました」

 

 一応納得したらしい明彦に、他の者達もなんとか同調の意を示す。

 それを一通り見た後、八雲は再度口を開いた。

 

「ま、どうしてもいやなら無理強いはしない。特に天田、この作戦はどう考えてもR15指定だからな。残ってもいいぞ」

「や、やります!」

「そっか、まあお前はハマ系が使えるから、こういう作戦向きではあるな」

「あの、オレらは?」

 

 順平が手を上げると、八雲は簡易的な作戦地図を広げた。

 

「作戦は、冥界の門を中心に東西南北四つのポイントに部隊を展開。周辺の亡者を駆逐、または牽制し、それぞれのポイントで封印術式の発動から完了まで術者を護衛する事になる。詳しい編成はまだだが、おそらくお前らには何班かに分かれて遊撃、護衛をやってもらうだろう」

「あの、私は………」

「山岸は上空にて待機、作戦状況に支障を来たす可能性がある状態が発生したら、すぐに知らせてもらう」

「戦闘に関しての注意点は?」

「不破、お前はペルソナが変えられるならハマかアギ系の使えるペルソナを用意しておけ。それ以外は、点で狙うなら頭部、それ以外は面による攻撃で相手を近づけさせるな。ゾンビ物のセオリー通りに」

「あの、やっぱ噛まれて自分もゾンビになんて事は……」

「ん? 安心しろ、そう簡単にはならん。ましてや、お前らはペルソナの加護があるから、滅多な事じゃ転化しない」

『ほ~………』

 

 皆が一斉に胸を撫で下ろした所で、八雲は言葉を続けた。

 

「それにこんだけの数だ。転化する前に骨も残さず食い尽くされる」

『……え?』

「一応実力者をそれぞれのポイントに配置するそうだから、そいつらの援護に徹してフォーメーションを死守して必要以上に前に出るな。でなければ仲間入りか腹の中かの二者択一だな」

 

 再びその場を重い空気が支配するが、八雲は構わず続ける。

 

「一体一体はそんな強くない。落ち着いて戦えば大丈夫だ。自信を微妙に持っとけ」

「微妙ってのはな~………」

 

 啓人が顔を少ししかめた所で、部屋のドアがノックされる。

 

「どうぞ」

「あ、いたいた」

「アリサか、何か用か?」

「パパから伝言、アイギスは作戦の開始までに直せそうだって。姉さんはもうちょっとかかりそうだけど」

「本当!? よかった~」

「アイギス最近無茶し過ぎだからね~」

「しばらくオルギアは使わせない方がいいな」

「幾ら修理できると言っても、オーバーワークは危険だ」

 

 啓人とゆかりが胸を撫で下ろす中、美鶴と明彦はやや真剣な顔で論議する。

 

「じゃああいつも作戦参加って事でいいな?」

「大丈夫らしいよ、私はまだ微調整が済んでなくて……」

「元から戦闘用じゃないんだから無茶するな。戦闘用だから無茶していいって訳でもないがな」

 

 八雲が苦言を呈した所で、大きくあくびをする。

 

「とにかく、資料に目通しとけ。オレは最終ミーティングまで寝る」

「了~解。って、これバ○オの初期型!?」

「何この死者の盆踊りって……」

「本当に参考になるのかこれ?」

「あ、下にちゃんとレポートありますよ」

「……頼りにはなるんだが、どうにもよく分からない人だな」

「葛葉の他の人達もそう言ってたな……」

 

 資料を回し読みしながら(若干数名嬉々としてゲーム機を起動させた者あり)、特別課外活動部の者達は、部屋から出て行った八雲の方を首を傾げながら見つめていた。

 

 

 

翌日 早朝 業魔殿 食堂

 

「全員そろっているな?」

「ゴ~」「グ~」「スピ~」「ZZZ」

 

 克哉の号令に、寝息やいびきで答えた者達の脳天に容赦なく鉄拳やコーヒー(無論ホット)が浴びせられる。

 

「おぐ!」「んげ!?」「ぎやあああぁぁ!」「ZZZ」

 

 苦悶や悲鳴が響く中(未だ寝息を立てるネミッサ除く)、無視して会議は始められた。

 

「それじゃあ、まずは新入りの挨拶から」

「はい」

 

 キョウジに促され、ライドウの隣の席に座っていた凪が立ち上がる。

 

「凪と言います。葛葉四天王が一人、十七代目・葛葉ゲイリンの愛弟子で、十八代目ゲイリンを襲名するべく、修行のエブリディです。よろしくお願いするセオリーです」

「へえ、十八代目・葛葉ゲイリン………」

「………十八代目ゲイリン!?」

 

 そこで、現代葛葉のメンバー達が一斉にざわめき始める。

 

「ねえ、確か十八代目ゲイリンって………」

「《女王蜂》って呼ばれた、葛葉歴代最強の女性サマナーですよね……」

「そう、そしてマダムのお祖母さんに当たる人……今思い出した。彼女、マダムの若い頃の写真にそっくりなのよ」

「マジすか?」

「でも、大戦中にアメリカでフィラデルフィア事件の陣頭指揮に立って亡くなられたとか………」

「? 何かクエスチョンでも?」

『いえ、何でもありません』

 

 首を傾げる凪に、現代葛葉のメンバー達が一斉に即答する。

 

「さて、それじゃあ話は聞いていると思うが」

 

 克哉はそう言いながら、大型ディスプレイに現在の受胎東京の様子を表示させる。

 

「今、この世界は一時的な混乱から、次の行動に移りつつある。両国に巨大な冥界の門が開き、コトワリを持って行動する各勢力がこの街に狙いをつけ始めた」

「我々がまずしなければならないのは、不安定なマイナス要素の排除、そして拠点の防衛だ」

 

 ゲイルが両国の門の画像と、珠閒瑠市の画像をそれぞれ指差して断言する。

 

「我々はチームを二分し、このマイナス要素の排除を急務とし、その間にこの街を絶対防衛する」

「両国の門からは未だ亡者が続々と迷いだしてきてやがるからな。実力者の大半はこっちに来てもらう。チーム分けをこれから言うぞ~」

 

 キョウジが数枚のレポート用紙を手に立つと、皆が緊張してそちらに注目する。

 

「まずは門の封印にあたる術者、これは東西南北にそれぞれ配置する。北に葛葉ライドウ、南に高尾 祐子、東にレイ・レイホゥ、西にカチーヤ・音葉だ。そして各自に亡者の相手及び術者の護衛を付ける。北、遊撃はアレフとヒロコ、護衛は凪と星 あかり」

「イシュキックだ!」

 

 強引にライドウの護衛を買ってでたあかりが怒鳴る中、キョウジは無視して配属を発表していく。

 

「次、南遊撃はダンテと英草 修二、護衛は岳羽 ゆかりと桐条 美鶴」

「ダンテ一人いりゃオレいらなくね?」

「ゆかりと一緒か」

「次、東遊撃はオレと不破 啓人、護衛はアイギスとコロマル」

「ワンワン!」

「はい……って遊撃? でもアイギスがまだ……」

「今最終調整ですぐ来るとさ。あと西遊撃は相馬 小次郎と小岩 八雲、護衛はネミッサと伊織 順平、真田 明彦」

「あの、なぜここだけ三人なんですか?」

「簡単だ、すぐに職場放棄しそうな奴がいるからだ」

「八雲ひどい!」

「あの、そこまでは……」

 

 ネミッサを指差しながら断言する八雲に、ネミッサは膨れてカチーヤは苦笑する。

 

「それに、万が一カチーヤの魔力が暴走した時、ネミッサが憑依すれば一時的に制御できる。もっともその時は巻き込まれないようにしろよ」

「……う~ん」

 

 順平が顔をゆがめて唸るが、八雲は構わずこちらの頬をつねってくるネミッサの手を引き剥がすのに苦心していた。

 

「上空にヘリを回すから、山岸 風花はそこで全体のサポート、天田 乾、八神 咲はその護衛につけ。飛行系の仲魔も数体回す」

「はい」「分かりました」

「残ったメンバーは、そのまま街の警戒・防衛任務についてもらう。各チームのリーダーを残し、任務詳細確定まで所定の位置に。各リーダーは会議室に移動してくれ」

「封印班はまだ残ってろ~。とりあえずさっき発表したチームに分かれて座れ」

 

 克哉の指示でペルソナ使いや喰奴達がバラバラと散っていく中、封印班が各々席を移動していく。

 

「さて、それでは封印術式について説明する」

 

 ゴウトがライドウの肩から飛び上がり、大型ディスプレイをクチバシで指す。

 

「発動には、四人の術者による連続しての詠唱が必要だ。最初に北から始まり、そのまま時計周りに東、南、西へと移っていく。発動から完全に封印が完了するまで、約30分と言った所だ」

「最悪の場合、その30分を全員で術者の護衛に勤める事になる。まあ相手は命に飢えて押し寄せてくるだけだから、押し負けなければ大丈夫だろ」

「そんな簡単に………」

 

 キョウジのあっさりとした説明に啓人は呆れるが、なぜか悪魔使い達は納得して頷いていた。

 

「お待たせ~。ご注文の品用意できたよ~」

 

 そこにアリサが大きなワゴンを押して姿を現す。

 ワゴンの上には料理や菓子ではなく、色々な装備品が乗っていた。

 

「通信用インカムだ、全員装備しろ」

「これは何に使う物だ?」

「通信機……っつてもあんたの時代には無いか」

「こうするの」

 

 ライドウや凪が首を傾げるのを、キョウジがどう説明するか迷うが、あかりがライドウの耳にかけてあげた。

 

「手っ取り早く言えば離れた相手と話が出来る機械だよ。かき集めたモンだから、それ程交信距離は長くないが」

「あ、オレらは自前のあるから」

「通信帯を合わせておけ」

 

 八雲の指摘で、特別課外活動部の者達が通信機の周波数調整をしていく。

 

「それとこれだ」

 

 八雲が何か円筒形の先端にピンが突いた物を無造作にテーブルに並べていく。

 何気なくそれを見た者達の顔が引きつった。

 

「こ、これって……」

「手榴弾!?」

「安心しろ、非殺傷のフラッシュグレネードだ。ただし中身に護摩木の灰と聖別済み硫化銀を混ぜた特性のホーリー・スタングレネード。浄化系弱いペルソナおろしてる奴は気つけろ」

 

 そう言いながらも、八雲は次々とホーリー・スタングレネードを皆に分配していく。

 

「使い方は上のピンを抜いて、トリガーが外れれば五秒で破裂する。結構眩しいから直視すんなよ」

 

 説明しながら、八雲は手に持っていたそれのピンを引っこ抜き、無造作に背後へと放り投げる。

 

「え?」

「目塞いどけ」

 

 あまりの無造作さに啓人の口から声が漏れるが、その時すでに聡い者達は両目を覆っていた。

 直後、眩い閃光が食堂内に吹き荒れる。

 

「ウギャ~!」

 

 通路からシエロと思わしき悲鳴が少し響いてくるが、すぐに閃光は晴れていった。

 

「とまあ大体こんな感じだ」

「ちょっと八雲!」

「実演する馬鹿がいるか!」

「いや、念のためどういのか見せておいた方がいいんじゃないかな~、と」

「この人、頭おかしいんじゃない!?」

「まともなハッカーなんているわけないだろ」

 

 レイホゥとキョウジに怒鳴られ、あかりから思いっきり不審の目で睨まれるが、八雲は平然と頬をかいている。

 

「キュ~ン」

「コロちゃん大丈夫?」

 

 いつの間にか、八雲の着てたジャケットに包まれていたコロマルが閃光が晴れた所でひょっこり顔を出す。

 

「だ、誰だよ今妙なの使ったの………」

「見ての通り、威力は左程無いが効果範囲は結構ある。この犬コロのようにハマ系統に弱い奴のそばで使う時は気をつけてな」

 

 通路からはいずってきたシエロが、目を回してその場に倒れこむ。

 後には乾いた沈黙だけが残った。

 

「とにかく、どうしても手に負えないような状況になったら、これを使ってすぐに逃げろ」

「まず逃げる算段か?」

「あんたみたいに無駄に強ければ、あの大穴にダイブしても平気だろうが、こっちは一応一般人なんだよ」

「冥界なんて行く物じゃねえぞ」

「ああ」

「行った事あんの!?」

 

 八雲の説明にダンテが笑う中、キョウジとアレフの呟きに順平がぎょっとする。

 

「つまり、作戦が困難になった時は撤退していいという訳ですか?」

「こんな所で無駄に命散らす必要はないだろ。轟所長に新しい体提供したいならともかく」

「あ~、そういや所長妙なリスト作ってたわね」

「真田と不破の名前、結構上の方に書いてあったな」

「……まずはあの男を門に叩き落すべきか?」

「這い出してきたからここに居んだ、厄介な事に………」

「まともな奴いないな、ホント………」

「違いねえ」

 

 一番変わっているであろう修二とダンテが苦笑した所で、キョウジが咳払い一つして脱線しすぎた話を元に戻す。

 

「とにかく、全員装備を準備して一時間以内に出発する。今下に車降ろしてるから、全員それに乗れ。周防が警察のヘリを回してくれるが、そんなに乗れないからな」

「予備武器と回復薬を忘れるな。最悪、個々で対応する事になる」

「ゾンビ物のパターンだと、その時点で死亡フラグだな」

「八雲一言多いわよ」

「本当にこいつ葛葉の一員か?」

 

 ゴウトにまでうろんな目で見られた所で、キョウジの懐から携帯電話の着信音が鳴り響く。

 

「はいキョウジ……ああ、そうか。今行く」

「どこでも電話が出来るとは便利なセオリーですね」

「まあ状況にもよるけど」

「この街では通じるが、下では電波が届かない。仕様改良したのを全員に配布する予定だそうだが」

 

 凪が不思議そうに携帯電話で会話するキョウジを見ていた所で、ゆかりと美鶴が世代の違いを感じつつ、説明してやる。

 

「すまんが、準備の都合があるから各チーム毎に適当に打ち合わせと準備しとけ」

 

 電話を切ったキョウジが、打ち合わせの途中で慌しくその場を去っていく。

 

「全く……じゃあそれぞれ能力と武装、得手不得手の確認ね」

「それでは、私は皆さんの武器を聖別しておきましょう」

「手伝うわ」

「聖別ってなんだ?」

「拝んで清める事だ、アンデッド相手なら少しはマシになる」

 

 レイホゥの指示でそれぞれが集まって話会う中、咲とヒロコが皆の武器を集め始める。

 

「あの、召喚器もやった方いいかな?」

「オレの拳とマガタマは?」

「やめておけ、妙な影響が出る」

「中に突っ込んで締めた方が早いんじゃないか? なんならオレ一人で行ってくるが」

「帰って来れなかったらどうすんだ……」

「え~と、十字架とかって効果あるかな~?」

「期待しない方がいいわよ」

「時間から考えれば、マグネタイト足りるか?」

「増設バッテリーあるぞ、使うか?」

「準備済んだら外に向かえ回すからね~」

 

 思い思いの準備を済ませ、封印班のメンバー達がばらばらと業魔殿の外に出て行く。

 そこには、業魔殿に用意されていた小型ヘリと、珠閒瑠警察署のヘリがスタンバイされていた。

 

「おう来たか、そんな乗れないから順番だぞ」

「大きな竹とんぼに籠がついてるが、これで飛べるのか?」

「一応な」

「ファンタスティックなセオリーです………」

「ヘリになんて乗るの初めてだオレ!」

「オレもだよ!」

「こっちを先に頼む」

 

 皆が興奮する中、弾薬や封印の祭具などが次々と下に降ろされていく。

 

「この飛行船でまっすぐ行ったらいいんじゃ?」

「この状況で業魔殿動かしたら、マガツヒ求めてる連中に余計な刺激を与えかねん。冥界の門の封印に成功した後で、こっちが落とされてたら洒落にもならんからな」

 

 ヘリの順番待ちをしている啓人の隣で、八雲がGUMPの確認をしながら、空の向こうに見える大地にため息をもらす。

 

「すいません、遅れたであります」

「アイギス! 大丈夫!?」

「オールグリーン、問題ないであります!」

「よかった~」

 

 何故かまたメイド服姿のアイギスが姿を現し、課外活動部のメンバー達が胸を撫で下ろす。

 だが、その隣にフトミミの姿がある事に八雲は微かに不安を感じ取っていた。

 

「出発する前に、伝えておきたい事がある」

「死相が見えたとか言うのなら聞かせんなよ」

「黒き乙女に気をつけよ。その者、破壊の燐光を伴って、汝らの前に現れるだろう」

「黒き乙女?」

「このメイドルックの事?」

「それともアレか?」

 

 フトミミの言葉に、その場にいた者達はメイド服のアイギスや業魔殿のヘリを操縦しているアリサ、更にその隣で箱乗りを試みているネミッサや必死になってそれをやめさせようとしているカチーヤを指差す。

 

「断片的な先見では、これが限度だ。だが、心得ておいてくれ。そしてそれは、彼女と深い関わりを持つ者だろう」

「私と、関わりを………」

 

 フトミミの言葉に、アイギスは己のメモリに該当データが無いかを、深くサーチしていった。

 

 

 

「おやおや、何か始まりそうだね」

「か~、またデビルサマナーかいな!」

「ペルソナ使いに、他にも色々いるようだ。だが、関係ないね。彼女の前では」

「ほな、始めるで。マジックサーキット、コンタクト。PHリアクター、出力上昇!」

「対DB用人型殲滅兵器、《Metis》起動」

 

 暗闇の中で、蝶を模したような仮面が淡い光を放った………

 

 

 災厄を封じんと動く糸達に、新たな闇が動き始める。

 その闇から現れし者は、果たして………

 


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