真・女神転生 クロス   作:ダークボーイ

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PART23 ACCOUNT BANISH(後編)

 

同時刻 ミフナシロ入り口前

 

「はあっ!!」

「こんにゃろ!」

「ふっ!」

 

 押し寄せてくる悪魔達相手に、すさまじいまでの大乱戦が繰り広げられていた。

 

「押せ!」

「いかに強くとも、ヨスガの者は恐れない!」

「皆殺しだぁ!」

 

 戦闘の余波で回線が寸断され、セラの歌も届かなくなったヨスガの悪魔達は、今までにもましてすさまじい勢いで雪崩れ込んでくる。

 

「あまり前に出るな! 孤立するぞ!」

「分かってます! タナトス!」『五月雨斬り!』

 

 最前線で悪魔達を次々と斬り捨てていく小次郎の背後で、啓人が剣とペルソナを交互に使いながら、小次郎のサポートに当たっていく。

 

「通行止めよ!」

「んなろ~!」

 

 前衛の攻撃を潜り抜けてくる悪魔達を、うららの拳と順平の大刀が阻む。

 

「装填急いで!」

「こっちも!」

「は、はい!」

 

 入り口のすぐ手前、閉ざされた扉を守るべく咲とゆかりが銃と弓矢の狙撃を行い続け、乾が装填作業と矢束の準備を交互に行っていた。

 

「タナト…う……」

 

 召喚器のトリガーを引こうとした所で、ペルソナの連続発動で力を使い果たした啓人の手から召喚機が滑り落ちる。

 

「下がれ!」

 

 啓人の体を小次郎が強引に突き飛ばし、その一瞬の隙にオニ達が一斉に小次郎に襲い掛かる。

 

「啓人!」

「小次郎!」

「行くわよ、『シャッフラー!』」

 

 二人が窮地に陥ったのを見たレイホウが、封印魔法を解き放つ。

 押し寄せてきた悪魔達だが、抵抗に失敗した者達が次々とカードに封印されていく。

 

「火を!」

「アオーン!」『マハラギダイン!』

 

 トドメとばかりにコロマルが己のペルソナで火炎魔法を放ち、封印カードが次々と燃え尽きていく。

 だが、それらが燃え尽きるよりも早く新手が押し寄せてきた。

 

「限界か……」

「だがまだ!」

「グオオオォォォ!!」

 

 そこへ奇声を上げながら、通路を埋め尽くす程の巨大な単眼の象の姿をした悪魔が姿を現す。

 

「ギリメカラか!」

「しかも喰奴、暴走してるようね!『サイオ!』」

『ジオンガ!』

 

 その魔物、スリランカの神話で魔王マーラの乗り物とされる邪鬼 ギリメカラが、完全に正気を逸している事と、物理反射を持っている事に気付いたレイホウと咲が、同時に攻撃魔法を放つ。

 だがそれらの直撃を受けながらも、確実にダメージを受けているはずのギリメカラは止まらずに突っ込んでくる。

 

「避けて!」

「うわわわわ!」

「わああ!」

 

 止まらないと判断して避ける咲の言葉に従って、同じように扉の左右に避けたゆかりと乾をかすめるようにしてギリメカラは扉に衝突、その勢いで扉は完全に破壊されてしまった。

 

「しまった……!」

「まずいわ、『メギド!』」

「全員ミフナシロ内部に撤退! 急いで!」

「やっべえ!」

「ケツまくって逃げるわよ!」

 

 小次郎が背後の開放された扉を見て奥歯をかみ締め、咲が急いで扉を破壊したギリメカラにとどめを叩き込む。

 即座に防衛線を破棄したレイホウの指示に、皆が大慌てでミフナシロの中へと飛び込んでいく。

 

「開いたぞ!」

「袋のネズミだ!」

 

 逃げる者達を追い、悪魔達が嬉々としてミフナシロへと飛び込んでいく。

 だが最後尾となった小次郎が、逃げながら入り口近くにあったロープを斬る。

 続けて入ってきた悪魔達は、頭上から降り注いできた尖らした鉄柱のトラップ洗礼をまともに受けて串刺しとなってその場を塞ぐ事になった。

 

「邪魔だあ!」

「入ってさえしまえば!」

 

 犠牲になった仲間を弾き、踏みつけ後続の悪魔達が雪崩れ込む。

 翼ある天使達はミフナシロ内部に広がる広大な空間に飛び上がって制空権を握ろうとするが、即座にその翼は何かに弾かれる。

 

「これは!」

「ここにまでか!」

 

 広大な空間をさえぎるように、注連飾りの付いたワイヤが縦横に張り巡らされていた。

 小型結界の役割を果たすワイヤーに、翼ある者達は翼を邪魔され、思うように飛び立つ事が出来なかった。

 

「こざかしい!」

「こんな物…」

 

 即座にワイヤーを切断しようと天使達が得物を振り上げるが、その背を刃が貫く。

 

「ここは飛行禁止だぜ、天使さん達よ」

「……」

 

 ワイヤーを足場代わりにして跳び上がったダンテとサーフが、驚異的な身体能力で身動きが取れない天使達を次々と屠っていく。

 

「やっぱすげえな~……」

「見とれてる暇はねえぜ! 戦えるなら手貸しな!」

 

 レベルの違う戦闘を見とれていた順平に、内部でトラップの準備をしていたパオフゥが指弾を連射しながら怒鳴る。

 

「一人では戦うな! 必ず組んで戦え!」

「あなたも無理はするな! ここは私達が引き受ける!」

 

 連戦の疲労が顔に出始めている小次郎に、美鶴がレイピアを手に己が前へと出る。

 

「誰かチューインソウルを!」

「これが最後です!」

「オレももうねえ!」

「こっちもよ!」

「なんとしてもこの階で阻まねば!」

 

 全員が限界を感じつつ、各々の力を最大限にまで発揮して激戦を繰り広げていく。

 それでもなお、ヨスガの軍勢はその数を一向に減らさない。

 

「んあ……まずい………」

「ゆかり! もう退け!」

 

 力を使い果たしたゆかりがひざをつき、美鶴がそれを守るようにして剣を振るう。

 

「ペルソナ使えない奴はただの一般人だぜ! こっちへ!」

「エスコートするぜシスター!」

 

 地下へと続く扉前で手招きするマークの元へ、シエロがゆかりをかついで低空飛行で撤退させていく。

 

「啓人、あとどんくらい粘れる?」

「もう、限界ギリギリ………」

「オレも……じゃあ逃げ出す前に!『トリスメギストス!』」『デスバウンド!』

『インフィニティ・ヴォイド!』

 

 順平と啓人が最後の力を振り絞り、順平のペルソナが跳ね回るようにして周囲を攻撃し、啓人がもっとも強力なミックスレイドで呼び出した漆黒のホールから噴き出した闇が周囲を飲み込んでいく。

 

「へへ、これで……」

「順平! う……」

「無理のしすぎだ」

 

 倒れそうになる二人をロアルドが受け止め、己の体を楯代わりに守りながら二人を地下へと通じる階段へと運んでいく。

 

「キャウン!」

「コロマル!」

「コロマルさんも天田さんも限界です! ここは私が!」

 

 悪魔の攻撃を食らって吹き飛ぶコロマルを、乾が慌てて拾う。

 そこを守るようにアイギスが立ちはだかった。

 

「でもアイギス!」

「美鶴さん! オルギアの発動許可を!」

「ここでオーバーヒートしたらお前は集中攻撃を受ける! Noだ!」

「ご安心ください」

「オルギアモードも改良しておいたから」

 

 そこにメアリとアリサがアイギスのそばに駆け寄り、メイド姿の三人が居並ぶ。

 

「改良型オルギアの発動には、指揮権を持つ人物二名以上の賛同が必要です」

「二名? それは……くっ!」

 

 更なる相手の増援に、美鶴が手にしたレイピアが半ばから砕け折れる。

 

「Shit……私とした事が」

「あなた達は退きなさい! もうここも限界…」

 

 レイホウが三節棍を振るいながら叫んだそばに、傷ついたサーフが倒れこんでくる。

 

「彼まで……分かった、だが無理はするな!」

「撤退までの時間を稼いで!」

「了解しました」

「Mリンクシステム、コンバート」

「マグネダイトリアクター、フル出力!」

「パピヨンハート、リミッター解除!」

『オルギア発動!』

 

 美鶴とレイホウから許可が下りると、三人の口から同時にアルギアの発動が告げられる。

 

「何……!」

「まさか……」

 

 三人の動きが、同時に加速する。

 ヴィクトルの手により、更なる出力上昇最適化改造を行われたアイギスと、本人達の希望により同等のシステムが組み込まれたメアリとアリサが、体外に放出される余剰エネルギーの残滓を散らしながら、悪魔達へと迫る。

 

「そこです!」

 

 エネルギー付随の帯を引きながら放たれたアイギスの弾丸が悪魔を貫通していく。

 

「参ります」

 

 メアリの振り回す魔界公爵が一人、バールのソウルを封じた大鎌《デューク・サイズ》が悪魔達をまとめて斬り捨てていく。

 

「行くよ!!」

 

 純粋な精霊力その物を撃ち出すアリサのES(エレメント・ソウル)ガンから放たれる炎や氷の弾丸が悪魔達を屠っていく。

 

「これはエクセレントな……」

「今の内に負傷者は退きなさい! あの三人が持たせている間に!」

 

 メイド姿の三人が高速戦闘を繰り広げている間に、力を使い果たしたペルソナ使いや負傷者が階下へと撤退していく。

 

「ここも時間の問題か……」

「下の方はまだ途中みたいね。もうちょっとだけ持たせないと」

 

 全身を返り血にまみらせ、荒い呼吸をしているロアルドに、こちらも呼吸が荒くなってきているレイホウが苦笑を返す。

 

「しかし、オルギアは長時間持たない。オーバーヒートを起こしたらそこで終わってしまう……」

 

 背に仕込んでいた予備の剣を抜いた美鶴が心配する中、最前線で大鎌を振るっていたメアリがいきなりひざから崩れ、オーバーヒートを起こしたらしい足からマグネタイトが噴き出す。

 

「姉さん!」

「メアリさん!」

「……右脚部、過負荷により機能低下。オルギアモード停止後、冷却モードに移行します」

 

 それに気付いた他の二人が慌てて駆け寄る中、メアリが完全にひざを付いて行動不能に陥る。

 

「アリサさん! 戦闘用機体でない貴方ももう直限界です!」

「アイギスだって、破損フレーム換装で純耐久力は落ちてるよ!」

 

 メアリを守りながらも、二人は互いに限界が近い事を告げつつ己の銃口を押し寄せる悪魔達に向ける。

 

「一体動けねえみてえだぞ!」

「人形風情がよくもいいようにしてくれましたね!」

「壊せぇ!」

「掃射!」

「弾幕を!」

 

 アイギスとアリサの放つ弾幕が押し寄せる悪魔達をかろうじて防ぐが、それでもじわじわと押され始める。

 そして唐突に、乾いた音を立ててアイギスの銃撃が止まる。

 

「……弾切れであります。予備弾丸も使い果たしました」

「じゃあこっちでなんとか!」

 

 アリサが残ったエネルギーを弾丸に込めようととした時、ふとその視界が霞む。

 

「あれ?」

「アリサ!」

 

 当人は気付いていなかったが、アリサの首筋からマグネタイトの霧が噴き出し、完全にハングアップしてその場に両膝をついた。

 

「アリサのソウルでは、まだオルギアに耐え切れなかったようです……」

「ならば、最後の手です! 行きます! アテナ!」

 

 メイド姉妹が両方戦闘不能を陥ったのを見たアイギスが、オルギアの全エネルギーを注ぎ込み、己のペルソナを発動させる。

 

「待てアイギス! それは…」

「これが私の切り札!」『ゴッデス オブ ザ ビクトリー!(勝利の女神)

 

 アイギスのペルソナ、アテナが己の前に無数の戦鉾を生み出していく。

 眩い光に満ちた戦鉾が、アテナの周囲を旋回していき、それらと共にアテナが突撃していく。

 

「ぎゃああぁぁ!」

「ぐあああぁぁ!」

 

 軌道上にある物全てを貫き、押し通し、そして砕いていく。

 多数の悪魔を葬った所で、アテナが掻き消え、同時にオーバーヒートを起こしたアイギスがその場に擱座する。

 

「今だ!」

「壊すのです!」

 

 アイギスも動けなくなったのを好機と見た悪魔達が、崩れていく仲間の屍を踏み越えて押し寄せようとする。

 だがそこへ、回転しながら飛来した大剣が先陣を薙ぎ払ってその勢いを止めた。

 

「これは!」

「貴様かデビルハンター!」

「悪いが、ヒロイン達の出番は終わりみたいだぜ。代わりにオレのステージを見てもらおうか」

 

 弧を描いて帰ってきた己の愛剣を受け止めてダンテが、オーバーヒート状態の三人の前に立つ。

 

「これで……助けられるのは……二度目、ですね……」

「喋るなよ、ハッスルし過ぎだ。あとはこっちの出番だ」

「パオ、そっち持って!」

「ち、見た目よか重えな……」

「女の子にそんな事言わない!」

 

 ダンテが守る背後で、うららとパオフゥが動けない三人の内、メアリとアリサを一人ずつ背負ってアイギスの手足を持って急いで退避させる。

 

「トール様を倒した男だ! 気をつけろ!」

「だが、いかな手を使おうとトール様からのダメージは完全に癒えてはおるまい……」

「恐るるに足りません!」

 

 ダンテを脅威に足り得ない、と判断したドミニオンが宙から襲い掛かる。

 それに対し、ダンテの顔に不敵な笑みが浮かんだ。

 ダンテは右手に大剣を持ったまま、左手をコートの後ろへと回す。

 そしてそのまま引き抜いた手には、GD FIM92対空ミサイル、通称スティンガーが握られていた。

 

「な…」

 

 驚愕するドミニオンへとめがけて、容赦なくトリガーが引かれ噴煙を上げて戦闘ヘリをも一撃で破壊する地対空ミサイルが放たれる。

 絶叫も掻き消える爆音が響き渡り、ドミニオンだった物の焦げた破片が虚空から下にいる悪魔達の頭上に散っていく。

 

「まだあんな物隠し持ってやがったのか!」

「どうせそんなに撃てん! 一気に行くぞ!」

 

 ダンテがいきなり抜いた重火器に悪魔達は一時たじろぐが、再度襲いかかろうとする。

 するとダンテは単発のスティンガーを投げ捨て、再度コートの後ろに手を入れると、今度はそこからMM1グレネードランチャーを取り出す。

 

「おわぁ!」

「怯む…」

 

 巨大なリボルバー状の形体にグレネード弾を満載した軍用の重火器が立て続けにグレネード弾を乱射し、瞬く間に周辺が火の海と化す。

 

「……昔映画であったわね、こんなシーン」

「州知事の出てる奴か」

「すさまじいな……」

 

 階下に続く階段前で、ダンテ一人で悪魔達の進軍を押しとどめている様を見たうらら、パオフゥ、美鶴が唖然とする。

 

「剣や拳銃だけでなく、重火器の扱いも一流とはパーフェクトな人だ」

「というかどこに入れてんのアレ?」

「考えねえ方いいぜ」

 

 再度地対空ミサイルが放たれ、壮絶な爆風が吹き抜ける。

 

「もうペルソナをほとんど呼べないオレらがいても足でまどいだ、退くぜ!」

「確かに、な」

 

 三人のペルソナ使いが、いまだ動けないメイド三人をそれぞれ背負って撤退していく。

 それを後ろ目に確認したダンテが、今度はHK MP5Kサブマシンガンを二丁拳銃で弾幕を張り巡らせる。

 

「うひゃ~、相変わらず派手だね」

「おうマークか。そっちはどうだ」

「そっち程じゃねえさ。ダウンタウンの時も思ったけど、うらやましいくらいアメリカンな戦い方するな~」

 

 アメリカのある事件で顔みしりだったマークがダンテのサポートに入って、弾幕をかいくぐって来たヤクシニーの脳天にトマホークを叩き込む。

 

「こっちの戦闘不能になっちまった奴が3割超えてるってさ。オレもあとどれくらい持たせられるか……」

「こいつらのリーダーに派手にぶち込んだって話だが、その割には嫌になるほど押し寄せてきやがる」

「いやあ、あんたに限ってはやり過ぎるなって言われてたし……」

 

 次のフェイズへの移行タイミングを計る二人だったが、そこで乾いた音を立ててMP5Kの残弾が尽きる。

 

「切れたぞ!」

「押しつつめ!」

「潰すのだ!!」

 

 弾幕が切れ、ダンテが次の得物を取り出す前にと悪魔達が一斉に突撃してくる。

 だが、その突撃は横合いから殴りこんできた三つの影に阻止された。

 

「ぎあああぁ!」

「く、こいつらか!」

「オレ達を無視するなんて冷たいぜブラザー!」

「挟撃する!」

「フアァァアア!!」

 

 三人の喰奴が、狭い通路を縦横に動きながらヒット&アウェイを繰り返す。

 周辺に鮮血が舞い、肉片が飛び散って戦列が乱れるが、それも次々と押し寄せる新手によって塞がれていく。

 

「やばいぜ兄貴………うっ!?」

 

 ワイヤーの隙間をなんとかかいくぐりながら空中戦や急降下攻撃を繰り広げていたシエロが、いきなり動きを止めて後方へと不時着する。

 

「どした!」

「は、腹が………痛え」

「……は?」

「食い過ぎだな」

 

 シエロの容態を心配したマークだったが、シエロの口から漏れた言葉に目を丸くし、ダンテがボソリと呟く。

 

「あっちの二人はさっきから攻撃しかしてないが、お前はちょくちょく食ってたからな」

「いや………その………」

「胃腸薬でも飲んでろ!」

「そ、そうだディスエイク!」

 

 シエロがどこからか回復アイテムを取り出すが、そこに上空からアークエンジェルが襲い掛かってくる。

 

「危ねえ! スサノオ!」『不滅の黒!』

「があああぁ………」

 

 とっさにマークがシエロをかばい、降魔魔法でアークエンジェルを返り討ちにする。

 

「やっべ、今ので品切れだ………」

「あっ~!!」

 

 もうペルソナを呼び出す力も無いマークの背後で、シエロがなぜか悲痛な叫びを上げる。

 かばってくれたはずみに、シエロの手から回復アイテムが零れ落ちてどこかへと落ちていっていた。

 

「……え~と」

「下がってな」

「でも兄貴を置いて…はう!?」

「頼れる連中がまだ残ってんだ。あとは任せたぜ!」

 

 腹を押さえているシエロを担ぎ、マークが慌てて退いていく。

 

「さて、あと何人残ってる?」

 

 自分の疲弊もピークに達しつつあるのをダンテは感じながら、大剣を抜こうとした時だった。

 どこからか打ち上げられた信号弾が、ミフナシロ内部で軽い音を立てて破裂する。

 

「撤退だ!」

「急いで!」

 

 それが最終フェイズ移行の合図だという事を悟った皆が一斉に撤退を開始する。

 だが階下まであと一歩という所で、ダンテとサーフが同時に振り返った。

 

「やっぱそうするか」

「ああ」

 

 ダンテが笑みを浮かべ、サーフが短く答える。

 そしてダンテは残った魔力を振り絞り、その姿を魔人へと変える。

 

「待て!」

「まさか!」

 

 それを見た悪魔達が動きを止めようとするが、後ろからの圧力で止まる事は不可能だった。

 

「チップだ。とっときな!」

「カアアァァ!」

 

 魔人ダンテの異形の銃から雷がほとばしり、サーフの口から猛烈な吹雪が吐き出される。

 雷を吹雪は押し寄せる悪魔達を飲み込み、それが晴れる頃にはすでにそこには誰もいなかった。

 

「おのれどこまでも!」

「最早逃げ場は無い!」

「この奥にコトワリのためのマガツヒがあるはずだ!」

 

 扉を突き破り、狭い通路を半ば落ちるようにしてヨスガの軍勢はミフナシロの下へ下へと進軍していく。

途中にあったトラップも容赦ない犠牲の末に突破し、とうとう最下層の手前にまで迫ってきていた。

 

「今だ!」

 

 号令と共に、無数の白刃が襲い掛かる。

 待ち伏せに気付かなかった悪魔達がその餌食となる中、撤退したと思っていた者達が、手に手に得物を持って待ち構えていた。

 

「貴様らっ!」

「ここが正真正銘、最後の防衛線って訳だ。付き合ってもらうぜ!」

 

 八雲が手に雷神剣を持ち、悪魔達へと向ける。

 それに応じるように、全員が何か覚悟を決めた目で戦闘態勢を取っていく。

 

「最早あいつらは瀕死だ!」

「何も恐れる事は無い!」

 

 互いに最後にすべく、アサクサ最後の乱戦が開始された。

 

「はっ!」

「この野郎!」

 

 小次郎と八雲が先鋒となり、互いに返り血にまみれている剣を必死になって振るう。

 

「いやぁっ!」

「行くぜっ!」

 

 啓人と順平が背中合わせになりながら、なんとか押し寄せてくる悪魔達をとどめようとする。

 

「来いよ!」

「………」

 

 ダンテとサーフがその驚異的な身体能力を活かして相手を霍乱していく。

 だが、それでも数を頼りにしてくるヨスガの軍勢の前に、劣勢は明らかだった。

 しかし血気に流行るヨスガの悪魔達は、最後の戦いを挑んできているはずが相手の数が少ない事、そして最下層に避難したはずのマネカタ達の姿が一切見えない事に気付いてもいなかった。

 

「がっは……!」

「啓人! うわっ!」

 

 啓人と順平が数に負けて倒れる。

 トドメを刺さんと悪魔達が襲い掛かるが、その姿が寸前でエスケープロードによって消える。

 

「グガアァ!」

「ちぃ……」

 

 一角が崩れ、サーフとダンテに敵が押し寄せる。

 互いに負傷しながらも奮戦していたが、やがて壁際に追い込まれ、それでもなお二人は戦い続ける。

 

「く………」

「くそ………」

 

 小次郎が敵と己の血に濡れた剣でなんとか立ち尽くし、八雲の手から剣が零れ落ちて地に膝を突いた。

 だがそこで、ふいに悪魔の攻撃が止む。

 そして、悪魔達の群れが割れると、そこから千晶が姿を現した。

 

「ち、ボス自ら出てきやがったか………」

「今までよく持ちこたえたわね、悪魔使い。褒美に、この私自らの手で葬ってその命とマガツヒをいただくとするわ」

「そうかい」

 

 八雲が気付かれないように小さく舌打しながら、ポケットから何かを取り出す。

 

「これ、何か分かるか?」

「……スイッチ? はっ!?」

 

 八雲が取り出したボタンスイッチを見た千晶が、まさかと思って周囲を見回す。

 そして、壁の各所に張り付いている爆弾の存在にようやく気付いた。

 

「貴様ぁ!」

「醜い死に方だの拷問だのは全員嫌だとさ。じゃあな」

 

 千晶が襲いかかろうとする直前、八雲がスイッチを押し込む。

 即座に壁の各所、どころかミフナシロ全域に配置された爆弾が次々と爆発していき、ミフナシロが鳴動しながら崩壊を始める。

 

「ぎゃあぁぁぁ」

「逃げろ! 生き埋めにされるぞ!」

「貴様らぁぁぁ!!!」

「一緒に逝くか?」

 

 降り注ぐ岩塊に押しつぶされ、ヨスガの悪魔達が逃げ惑う。

 

「千晶様! ここは退避を…うわあ!」

「ぐぐぐぐ………」

 

 夜叉がごとき形相をしながら、千晶がその場に残った者達を睨みつけ、大慌てで逃げ出す。

 崩壊は続き、ミフナシロから逃げ出す悪魔達は次々と押しつぶされ、生き埋めになっていく。

 

「そ、外だ!」

「早くしろぉ!」

 

 前にいる者達を押しのけ、または押しつぶして悪魔達が次々と這い出していく。

 

「かはぁ!」

「千晶様!」

 

 巨大な岩が入り口を塞ぐ寸前、千晶はかろうじて外へと逃げ出す。

 それでもなお続く崩壊に混じり、地下から膨大なマガツヒが吹き上げ、散っていく。

 

「あああああぁぁぁ!」

「マガツヒが!」

「ヨスガの世界を開くはずのマガツヒが!」

 

 マネカタ達が集めたマガツヒが散っていく様に、ヨスガの者達全員が悲鳴を上げ、悲哀と憤怒の声を上げていく。

 

「………!」

 

 無言で千晶はそばの壁を殴りつけ、たまたまその場にいた悪魔数体ごと壁が粉砕する。

 

「まさか、自爆するとは………」

「もっと早く皆殺しにしておけば………」

 

 憤怒と怨嗟を撒き散らす千晶だったが、そこで何か違和感を感じる。

 

「……千晶様、指示を」

「……………帰るわ。他のマガツヒを探さないと」

 

 感じた違和感が何か分からぬまま、ヨスガの軍勢は進軍の時とは正反対の、気の抜けた様子で撤退していく。

 その様を隠れて見張っていたキョウジが、やがてヨスガが完全に撤退した事を確認すると通信機を取り出す。

 

「こちらハードボイルド、客は帰った。店じまいは万全か?」

『こちらタオレディ、棚卸は終わった。品物は全部収納済み』

「了解、帰宅する」

 

 帰ってきた返信に、笑みを浮かべたキョウジは口笛なぞ吹きながら、アマラ転輪鼓のある部屋へと向かった。

 

 

 

「………うまくいったな」

「考えてもいないだろう、マネカタがアサクサを放棄するという事は………」

 

 秋葉原、業魔殿そばのアマラ転輪鼓に修二とフトミミの姿があった。

 のみならず、生き埋めになったと思われた全員がその場に平然と存在していた。

 

「発想の逆転という奴だな。必死に守っているフリをして、その実放棄のための撤退戦」

「マガツヒとやらが無くては、向こうも攻める理由はなくなる。クレバーではあるな」

 

 ロアルドと美鶴が感心する中、この作戦を提案した八雲は地面に大の字になって転がっていた。

 

「さすがに最後にあのボス女が出張ってくるのは計算外だったけどな………疲れたぜもう………」

『八雲さん八雲~』

 

 疲労困憊で広がっている八雲に声がかけられる。

 アマラ転輪鼓のそばに、巨大なサーバーマシンが置かれ、それに接続された大型ディスプレイにカチーヤと憑依してペルソナだか背後霊だかのようになっているネミッサが表示される。

 

『もうパンパンだよ~こっちもういっぱいなんですけど………ちょっとデリートしていい? それはまずいですよ! でもこれじゃパンクしちゃうよ~』

「もう少し持たせろ。状況が落ち着くまで」

 

 半身を起こした八雲が、奇妙な状態になっているカチーヤとネミッサの背後、すし詰め状態になっているマネカタ達を見た。

 

「確かにこれなら、あの人数でも逃げ出せるわな」

「なんかあっつくなってきてない?」

「急いで増設しましたから、ハングアップしないといいんですけど………」

 

 ミフナシロの最奥に、アマラ転輪鼓やターミナルを持ち込み、撤退したマネカタ達を順次転移、そしてそれが一定数になった所でネミッサの力でサーバーマシン内に退避させるというイカサマに、パオフゥやうらら、風花もすっかり感心していた。

 

「くっそ、ひでえ目にあったぜ……」

「うう、タルタロスよかきつい………」

「疲れました……」

「クゥ~ン………」

 

 課外活動部メンバー達もすっかり疲れ果て、地面に座り込んでいる。

 

「問題は、いつまで騙せるかか?」

「千晶にバレないようにするってのが難しいだろな~。これなら最初からマガツヒ捨てりゃよかったんっじゃないのか?」

「最初にそれやったら、逆上した連中が何をやらかすか分からん。こちらはあくまで負け戦になったフリにしておかないとな」

 

 ボロボロの状態で剣の点検をしている小次郎に、こちらも完全にへばっている修二が首を捻る。

 

「あのメイド三人は?」

「すでに業魔殿に運んだわ。修理にしばらくかかりそうね………」

「頑張ってましたしね……」

「誰も彼も無理しすぎね。高尾先生とセラちゃんも倒れちゃったし」

 

 まだ余裕のありそうに見えるダンテに、信じられないような視線を向けるレイホウと咲が一番疲弊している者達を心配する。

 

「ま、作戦終了って事で」

「一寝入りしたいぜ、モーテルある?」

 

 ディスエイクをかじってるシエロの隣で、あくびをしているマークがぼやく。

 

「全員そろってるか?」

「一応」

 

 アマラ転輪鼓が光り、キョウジが戻ってきた所で全員の無事が確認された。

 

「で、キョウジさんこれどこに出せば?」

「う~ん、ほとぼりが冷めるまでこのままにしとくってのは?」

『え~!? あの、そこまで持つかどうか……やっぱちょっと減らそう。ダメですよ!』

「……八雲、この一人会話どうにかならねえ?」

「いや、昔もそうでしたから。こっちもどうにかしないとな………」

 

 キョウジと八雲が悩む中、ふとフトミミが指を額に当てて精神を集中させる。

 

「済まないが、皆をしばらくそのままにしておいてくれ。やっかいな来客だ」

「客? 誰だ?」

「それは………」

 

 そこでサーバーマシンのディスプレイにウインドゥが浮かび、そこにヴィクトルの顔が表示される。

 

『今、こちらに来客が来た。君達との会談を申し出ている』

「どこの誰だよ、まったくこの状況で………」

『氷川、と名乗っている』

「な………」

 

 この世界の元凶となった男の名に、全員が絶句した………

 

 

 

 押し寄せる困難をからくも切り抜けた者達に、新たなる困難が押し寄せる。

 寄り添い、力を合わせる糸達の行く先は、果たして……

 


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