真・女神転生 クロス   作:ダークボーイ

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PART18 THREAD CONCENTRATION(後編)

 

同時刻 シバルバー中枢部

 

「アポロ!」『ギガンフィスト!』

「やあっ! 終わりだっ!」

 

 達哉のペルソナから放たれた拳と、明彦のコンビネーションパンチが機械部隊の最後の一機を文字通り粉砕する。

 

「ふ……これで一段落か」

「余計な事考えてる暇もないわね~」

 

 克哉と舞耶が空になった銃のマガジンを交換しながら、周囲を見回した。

 

「まだこんな残ってるなんて聞いてないよ~」

「ちっ、目的地までもうちょいだってのによ」

「消耗戦は覚悟してたけど、これはさすがにね……」

 

 リサ、ミッシェル、淳が荒い息を吐きつつ、残ったチューインソウルを分け合って回復に勤める。

 

「回復アイテムも残り少ない……このままでは……」

「危険な事は考えるな。現実化するぞ」

 

 明彦が漏らしかけた所で、克哉の注意で慌てて口を塞ぐ。

 

「大丈夫~周りにはしばらくいないよ~」

 

 偵察に出ていたピクシーの報告に、皆がようやく緊張を解いた。

 

「やっとタネ切れみてえだな」

「前よりハード~」

「明らかに僕達の進入を妨害してきてるよね」

「つまり、この先に誰かに見に来られてはまずい物がある、という事だな」

「だが、何が?」

 

 達也の言葉に、全員が押し黙る。

 

「正直、想像もつかないな。特異点というだけではあるまい」

「幾つもの世界の人達が引き寄せられる何か、という事でしょうが」

「もしくは、それを人為的に起こせる何か、か」

「なあタっちゃん、出来んのかよそんな事? 一体今この街に何人、他の世界から来たって奴がいると思う?」

「確かに、前の騒ぎとは比べ物にならないね………こんな噂なんてカケラも無かったし」

「そんなのこの先に進めばわかるじゃん!」

「そうそう!」

「その通り♪ レッツラゴー♪」

 

 深刻な顔をする男性陣に、リサとピクシー、舞耶が胸を張って答える。

 

「確かに」

「けど、油断はできない」

 

 克哉が残弾を確かめ、明彦は拳を付き合わせる。

 

「行こう。もう直だ」

「おうよ!」

「早くこんな事態は終わらせないと……」

 

 達哉が先頭に立ち、ミッシェルと淳も続く。

 

「何かいるとしたら、そろそろ……!」

 

 不意に襲撃が収まった通路をペルソナ使い達が進んだ所で、急激的に強烈なペルソナ反応が起きる。

 

「これ!?」

「何者だ? 相当強力なペルソナ使いがこの先に居る!」

「……まさか?」

 

 他のペルソナ使いに比べ、感知能力がとぼしい明彦が何か覚えのある反応に眉を潜める。

 

「どこのどいつか知らねえが、このミッシェル様のシマででかい面して騒ぎ起こすたあな!」

「先手必勝! アチョォー!」

 

 扉の向こうに強力なペルソナ反応を感じつつ、リサがその扉を蹴破る。

 続けて中へと突撃した彼らの前に、巨大な謎の機械が出現する。

 

「おやおや、もう来ましたか」

「なんや、やっぱあないなガラクタじゃ足止めにならんで」

 

 その機械の周囲、オペレーターらしき人間達が慌てて逃げ出す中、二人の人物が突入してきたペルソナ使い達の方を見た。

 

「あいつらがペルソナ使いか!」

「バカな、なんでお前達《ストレガ》がここに!」

 

 皆が一斉に身構える中、明彦はその見覚えのある二人に愕然とした。

 

「なんで? あなたもこの世界にいるのだから、私達がいても不思議ではないでしょう?」

「そっちでここに来たのはあんさんだけのようやけどな」

 

 その二人、ストレガのタカヤとジンが明彦を見て意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「ストレガ、君の世界の破滅主義者達だったか………」

「ああ、まさかこいつらも来ていたとは………」

「正確には、来ていたのではなく、自ら来たのですがね」

「!?」

 

 タカヤの言葉に、全員が表情をこわばらせる。

 

「……つまり、君達はこの街に混乱を起こしている勢力に組している、と取っていいのだな?」

「ふふ、さすがはこの街の治安を司る警察署長さん……おっとこちらは警部補でしたか」

「ま、どっちでもええやないか」

 

 ジンが片手で手榴弾をもて遊びながら、全員を順繰りに見ていく。

 

「また、随分ぎょうさんペルソナ使いがいるもんやな。こっちでもこんだけいれば、わいらも苦労せんかったろに」

「どんな目にあったかなんて知らないけど、できればそっちのトラブルをこっちに持ち込んでほしくないんだけど?」

 

 舞耶が口調だけはにこやかに言いながら、アルカナカードをそっと取り出す。

 

「ここにいる者達には、大量破壊、無差別殺人、その他多くの疑いがある。大人しくしてもらおうか」

「こんな所で、法律談義でもないでしょう? ねえ!」

 

 そう言いながら、タカヤが突然苦悶するように倒れこむ。

 するとその背後から、禍々しいオーラをまとったタカヤのペルソナ、ギリシア神話の眠りを司る神 ヒュプノスが出現する。

 

「こいつは!」

「なんて凶悪そうなペルソナだ……」

「お似合いよ! じゃあこっちも…」

「リサ!」

 

 こちらもペルソナを召喚しようとしたリサを、いきなり達哉が押し倒す。

 

「情人!?」

「気をつけろ! 包囲されてる!」

 

 達也の背中から、わずかに血が流れている事にようやく自分をかばったのだという事にリサが気付き、克哉は叫びながら何も無い場所へと発砲。

 そこで、何も無いはずの空間で銃弾が跳ね返される音が響く。

 するとそこから、突然機動兵器が姿を現した。

 

「光学迷彩仕様、X―3か!」

「おい、バレてるで」

「やれやれ、せっかく無駄な話で時間を稼いだというのに」

 

 こちらのペルソナで気を引いておきながら、X―3で襲おうとしていたストレガの二人が嘆息する中、周囲の複数のX―3が姿を現していく。

 

「こいつがあるという事は、神取もここにいるのか?」

「あのおっさんなら、もういないで」

「彼は優秀だけに、忙しいようでしてね」

「! まだ他に何かをしようとしている!?」

「後だ、まずはこいつらを倒す」

「達也君、その前に回復しないと!」

「そうはさせへんで! モロス!」『デッドエンド!』

 

 ジンが召喚器を素早く抜くと、己のペルソナ、ギリシア神話の人間の死を定義する神 モロスを召喚してX―3の攻撃で負傷している達哉を狙う。

 

「させるかよ! ハーデス!」『ザンダイン!』

 

 それを防ぐべく、ミッシェルが己のペルソナ、ギリシア神話の冥界タルタロスの王ハーデスを召喚し、衝撃魔法でモロスの攻撃を受け止める。

 

「やりますね、ならば」

「お前の相手はオレだ! カエサル!」『ジオダイン!』

 

 タカヤがペルソナを繰り出す前に、明彦が電撃魔法を叩き込む。

 

「ふふ、相変わらずなかなか……」

「真田君と三科君はしばらく持ち応えるんだ! 僕達はX―3を破壊する!」

「そうだね、クロノス!」『クロスフォーチューン!』

「よくも情人を! ヴィーナス!」『フォーミーラバー!』

「こっちもやるわよ! アルテミス!」『クレセントミラー!』

 

 淳、リサ、舞耶が立て続けに己のペルソナを召喚し、ギリシア神話で時を司る神 クロノスが巨大な風の刃を、ヴィーナスが無数の炸裂する泡を、アルテミスが冷たい月の輝きでX―3を攻撃していく。

 

「動くな!」

「ハッ…!」

 

 ペルソナの攻撃で破損した装甲の隙間に、克哉が銃弾を撃ち込み、達哉が剣を突き刺す。

 

「まとめていくよ~! メギドラオン!」

 

 とどめとばかりにピクシーが強烈な万能魔法を叩き込み、次々とX―3を破壊していく。

 

「ちっ、こいつら結構やりよるで……」

「こっちのペルソナ使い舐めるんじゃねえぜ! ホオォォォウッ!」

 

 ミッシェルがギターケース型マシンガンを乱射する中、ジンはアタッシュケースをかざして銃弾を防ぐ。

 

「お前達の目的はなんだ! ここで何をしていた!」

「目的? 滅びをもたらす事に決まってるじゃないですか?」

 

 タカヤがM500を連射するのをかわしながら、明彦はなんとか詰め寄ろうとする。

 

「他の世界まで滅ぼすというのか!? いや、それとも…」

「ヒュプノス!」『ブフダイン!』

「ぐはあっ!」

 

 隙を突かれ、カエサルの弱点である氷結魔法をまともに食らって明彦がその場にダウンする。

 

「ふふ、一人はつらいですね」

「それはどうかな?」

 

 ダウンしている内にとどめを刺そうとするタカヤの手に、一輪の花が突き刺さる。

 

「くっ!」

「忘れてないかな? こっちもいるって!」

 

 明彦を守ろうと、淳が次々と花を投じる。

 

「これしきの事! ヒュプノス!」『アギダイン!』

 

 ヒュプノスの放った火炎魔法が投じられた花を焼き尽くしていく。

 だが火炎が尽きた時、そこからこちらに向かってくるシューズの裏がタカヤの視界に飛び込んできた。

 

「ハイッ!」

「おごっ!」

 

 リサの飛び蹴りをまともに食らい、タカヤが弾き飛ばされる。

 

「この変態! そんな貧相なセミヌード誰も見たくないっての!」

「このアマ!」

 

 ジンが手榴弾のピンを引き抜き、リサへと向けて放り投げてくる。

 

「うわぁ!」「ちょっ!」

「アルテミス!」『ダイアモンドダスト!』

 

 皆が慌てて逃げ出す中、舞耶がペルソナで極寒の吹雪を繰り出し、爆発前に手榴弾を完全に氷結させる。

 

「ふう、どうにも手加減して戦うというのは難しいですね」

「手加減だぁ?」

「激氣! ふざけてるの!?」

「確かに、どこかおかしいが……」

 

 タカヤの言動に皆が憤る中、交戦経験のある明彦がストレガの妙な闘い方に違和感を覚えていた。

 

「手加減……そうか! 全員、あの装置を破壊するんだ! あれは恐らく巨大な転移装置だ!」

 

 ストレガの目的が、背後にある謎の機械の護衛だと察した克哉が叫び、全員が狙いを機械へと向けようとする。

 

「しゃあない、使うか」

 

 それを見たジンが、アタッシュケースのグリップにあるボタンを押すと、突然グリップのそばからミニキーボードが飛び出し、ジンがそれをタイプしていく。

 

「これで、よしと」

 

 最後にエンターキーを叩くと、アタッシュケースの一部が開き、そこからレーザーのような物が照射され、虚空に何かを描いていく。

 

「あれは……!」

「悪魔召喚プログラムか!?」

「いいえ、少し違いますね」

 

 その光景が見覚えの有るサマナー達の悪魔召喚そっくりなのに全員が身構えるが、出現したそれは似て非なる物だった。

 

「おい、あれって……!」

「ば、馬鹿な!?」

「見ての通りや。確かにこれは便利やな」

 

 アタッシュケースに仕込まれていたCOMPから召喚されたのは、仮面を持った異形、紛れも無いシャドウだった。

 

「そなら、行ったれ!」

 

 ジンの号令と同時に、召喚された複数の中型シャドウが、一斉にペルソナ使い達へと襲い掛かる。

 

「シャドウの操作だと!? そんな技術は桐条ですら開発できなかったはずだ!」

 

 襲ってきたシャドウにパンチを叩き込みながら、信じられない状況に明彦が叫ぶ。

 

「シャドウ召喚プログラムか……」

「シャドウが悪魔と似た性質を持っているなら、考えられるな」

 

 周防兄弟が背中合わせになりつつ、予想外の状況に対しても怯まず己のペルソナで応戦していく。

 

「ちょっと相手が変わっただけよ! やる事変わんないから、目いっぱいチョメチョメするわよみんな!」

「そだね舞耶姉!」

「レッツ・エブリバデ!」

<big>『ダイダルウェイブ!』</big>

 

 舞耶の声に我に返ったリサとミッシェルが三人がかりで合体魔法を繰り出し、強烈な水撃魔法が津波となって周囲を薙ぎ払っていく。

 

「一体、どうなっているんだ? もう、前の時の比じゃない……背後にいるのは、あいつじゃないのか?」

 

 かつての争乱の大元となった淳が、それすら上回る事態の悪化に、戸惑いを覚えながらも、ダメージを受けたシャドウに止めを刺していく。

 

「ストックはまだまだあるで」

「もう直こちらの準備も終わるので、そちらで待っていてもらいましょうか? 大いなる滅びのために」

「大いなる滅び!? 何を狙っている!」

「させるか!」

 

 タカヤの不吉な言葉を聞き逃さなかった克哉と明彦が、なんとしても機械を破壊するべく突撃するが、そこへ戦車型の大型シャドウが行く手を遮る。

 

「このタイプまで呼び出せるだと!?」

「前に巨人を呼び出してたサマナーもいた! 不思議ではない! ヒューペリオン!」『Crime And Punishment!(罪と罰)

 

 力を惜しまず、克哉はペルソナの全力攻撃を戦車型シャドウに叩き込む。

 ヒューペリオンの放った無数の光の弾丸が、戦車型シャドウの装甲を穿ち、砲塔を吹き飛ばし、仮面を砕いていく。

 

「今だ!」

「ああ、カエサル!」『カイザー・フィスト!』

「させませんよ、ヒュプノス」『アビス・ナイトメア!』

 

 残骸となって消滅していく戦車型シャドウを飛び越え、明彦がありったけの力をペルソナに込め、雷光を帯びた拳を機械へと叩き込もうとした瞬間、その前に立ちはだかったタカヤとそのペルソナが、漆黒の霧のような物を繰り出してくる。

 

「これ……はっ! ぐはぁっ!」

 

 霧に正面から飛び込む形となった明彦は、直後に複数のステータス異常を引き起こされ、その場で昏倒する。

 

「あなたの戦い方ならよく知ってますからね。こう来ると思ってましたよ」

「真田君!」

「野郎、あんな手隠してやがった!」

「こっちにもあるで。モロス!」『ノティス・ライフ!』

 

 続けてジンの召喚したモロスが、旋回しながら無数の炎の矢を生み出し、それを一斉に放ってきた。

 

「ぐっ…!」「きゃあっ!」「おわぁっ!」「うっ…」「ちょっ…」「ああっ!」

 

 召喚していたシャドウすら巻き込んで周辺全てに降り注ぐ炎の矢に、全員が避ける事も出来ずに直撃し、その場に倒れていく。

 

「ま、ざっとこんなモンやろ」

「案外あっけない物…」

「メディアラハン!」

 

 ストレガが油断した隙に、上空へと舞い上がって攻撃を逃れていたピクシーが皆に回復魔法を掛ける。

 

「なっ! イカサマやないか!」

「ふ、まさかあんな小妖精がこんな力を持ってるとは。どうやら先に片付けた方がいいみたいですね」

「ひっ!」

 

 タカヤがそう言いながらM500をピクシーへと向けるが、横から飛来した銃弾がM500を弾き飛ばした。

 

「残念♪」

「こっちのペルソナ使いを舐めないでもらえる? そう簡単にくたばらないわよ! ヴィーナス!」『ファーミーラバー!』

「ミッシェル様の機動性を甘く見るなよ! ハーデス!」『血のハネムーン!』

 

 M500を狙い撃った舞耶がウインクする両隣で、リサとミッシェルのペルソナが放った不思議な泡と、襲いくる骸骨の花嫁がストレガを狙う。

 

「これ、しき……!」

「くううぅ!」

 

 ストレガの二人も己のペルソナでその攻撃を防ごうとするが、力が拮抗し、やがて弾き飛ばされる。

 

「何が目的かまでは分からないけど、これは破壊させてもらうよ」

「そうですか……だが時間切れです」

「なに!?」

 

 ストレガが倒れてる隙に機械を破壊しようとした淳と達哉の前で、突如として機械が発光を始める。

 光はどんどん強くなっていき、仕舞いには機械その物が光の塊のような状態にまで輝き始める。

 

「これは、跳躍の前兆!?」

「一体何を、うっ!?」

 

 そこでいきなり達哉が崩れ落ち、その場に片膝をつく。

 

「え……なに……これ……」

「なんじゃ……おい……」

「う……これは……記憶が……」

「違う……これは僕じゃなく……彼か……」

 

 それに続くように、リサ、ミッシェル、淳、克哉もその場に崩れ落ちていく。

 

「どうしたのみんな!?」

「克哉が、変だよ!?」

「お前達、一体何をしでかした!」

 

 なぜか全く影響のない舞耶、ピクシー、明彦の眼前で、崩れ落ちた四人の姿が不自然にぶれ、それに違う格好をした彼らの姿がだぶっていく。

 

「ふふ、これは以外ですね」

「話には聞いてたんやけどな。同一存在が同じ世界に並列存在する事は極めて不安定やて」

「だが今まではなんともなかったはずだぞ!」

 

 問い質す明彦に、ストレガが意味深な笑みを浮かべる。

 

「そや、今まではな」

「耐えられないのですよ、同一存在が同時に跳躍する事にね」

「……! まさか、この街ごとどこか別の世界に行こうっての!?」

「ええ~!!」

「そう、さてどんな世界に辿り着くか。そしてそこでどんな困難が待ち受けるか。楽しみではありませんか?」

「させるか! カエサル…」

 

 召喚器のトリガーを引いた明彦だったが、己の中から召喚されるはずのペルソナが、なぜか完全に召喚できずに不規則に明彦とだぶっていく。

 

「な……これは………」

「同一存在と行ったでしょう? ペルソナもまた貴方の一部、今呼ぶのは危険だと思いますよ」

「貴方達、そのデータをどこから? いえ、想像はつくわね」

「あんたらが探してる神取とかいうおっさんがシミュレーションした結果や。つまりこうなった以上、お互いなんもでけへんちゅう事や」

「こっちがあるわよ!」

「私も!」

 

 二丁拳銃の銃口がストレガに向けられ、ピクシーの手の先で魔力が凝縮していく。

 

「いいんですか? 今ここで暴れたら彼らにどんな影響があるか分かりませんよ?」

「う……」

「あわわわ!?」

「もっとも、もう出てるかも知れませんね」

 

 

 

「く……」

「なによ……これ……」

「なんだってんだ………」

「い、一体………」

「しっかりしてください!」

「どうなってやがるんだ!? こいつらのライフデータが踊ってやがるぞ!」

 

 壮絶な死闘の末、かろうじてケルベロスを倒したXX―1部隊だったが、直後に《weis》機と《schwarz》機を除く全機、正確にはその搭乗者が謎の体調不良を起こして完全に操縦不能に陥っていた。

 

「ちょっと待って下さい! それだけじゃなく、レーダー、センサーが全ておかしくなってます!」

「おい、これって前跳んだ時と同じじゃねえのか!?」

「でもあの時は……」

 

《weis》機の俊樹が前の状況を思い出しながら空を見た時、そこに異変が起きている事に気付いた。

 

「空が!」

「雷!? いや何が起きてる!」

 

 この街周辺を覆っていた空間が次々と色合いを変え、各所で奇妙な発光が相次いでいる状況に、《schwarz》機の陽介も愕然としていた。

 

「班長! 藤堂班長! 緊急事態です!」

「聞こえてる!」

 

 俊樹が尚也に連絡を入れようとした所で、全身ボロボロになったエルミンOBペルソナ使い達がシタデル内から慌てて飛び出してくる。

 

「なんじゃあこりゃあああぁぁ!?」

「No! What‘s happen!?」

「おい、何が起きようとしてやがるんだ!」

「分からん……これは一体……」

 

 突然の異変に、ペルソナ使い達も驚愕に包まれる中、麻希がXX―1の異変に気付く。

 

「! ちょっとどうしたの他の人達!?」

「分からねえ! 急に苦しみだして……」

「これは………まるで……」

「存在が、相反してる!? このままじゃ…どっちか、それとも両方が!」

「消える………」

「なっ……」

「本当かそれ!?」

 

 麻希と尚也が導き出した答えに、全員が愕然とする。

 

「でも、どうして急に……」

「前に資料で読んだ事がある。本来は異世界の同一存在は同世界に長時間存在すると、ある種の特異点となって世界に変質を与える可能性がある。だから、ここの達哉君は影響を最小限に抑えるためにこちら側の達哉君に憑依して行動してた事があるそうだけど………」

「本当か藤堂! だとしたら、今起きているのは逆ではないのか!?」

「World change in quality!?」

「一体何がどうなるってんだよ!?」

「それよりも、こっちを先にどうにかしねえと!」

 

 ハッチを強引に開けたレイジが、そこに搭乗していた向こう側の姿と、こちら側のペルソナ使いの姿とが交互にダブって見えている状態に表情を引きつらせる。

 

「手は……ある」

「しゃべるな達哉!」

「ど、どうすれば……」

「前と……逆だが……同じ手で……」

 

 陽介と俊樹が、どちら側か分からない状態にまでなっている達也の言わんとする事に気付く。

 

「ペルソナの要領で、この体に憑依するんですか!?」

「他に……方法は………ない……」

「やってみる……情人……」

「ミッシェル様が……一人で二倍だ………」

「けど達哉……この状態では……」

 

 存在が更に不安定になってきているのか、姿もぼやけているように見えてきた四人を前にして、麻希は意を決して懐から一つのコンパクトを取り出す。

 

「園村、それは!」

「No、あの二人を呼び出すのはDangerですわ!」

「けど、この人達を助けるにはこれしかないの! ノモラカタノママー!」

 

 尚也とエリーの静止を振り切り、風変わりな呪文を麻希は唱える。

 すると、コンパクトが光の粒子となって砕け散り、麻希の中からあるペルソナを呼び出した。

 

「お姉ちゃん呼んだ?」

「何か用?」

 

 白黒、対照的な色のワンピースをまとった、幼い少女が二人、麻希の中から姿を現す。

 麻希の良心の具現化である《まい》と悪心の具現化である《あき》がそれぞれ語りかけてくる。

 

「この人達を助けたいの! 憑依を助けてやって! あなた達なら出来るでしょ?」

「うん分かった」

「……分かった」

 

 まいが快く、あきが不機嫌に麻希の頼みに応じると、二人が同時に手にしていたクマのぬいぐるみを上へと投げる。

 二つのぬいぐるみがぶつかるかと思った時に、それぞれが背中合わせになるような位置で虚空に浮かび、そのままゆっくりと回り始める。

 

『ノモラカタノママー!』

 

 そして二人同時に呪文を唱えると、ぬいぐるみから光が溢れ、二つの姿が交互にだぶっていた四人の姿が徐々に安定化していく。

 

「すげえじゃん……」

「だが大丈夫なのか? あの二人はペルソナに近いが、園村の精神の分裂体その物のはずだ」

「分からない……けどこのままだと周防君達消えちゃうかもしれないから、こうするしか……」

 

 通常のペルソナよりも遥かに力を使うのか、目に見えて疲弊していく麻希を皆が心配する中、ふとレイジがある事に気付いた。

 

「おい、こいつらがこうなっているって事は、もう一人いるんじゃないのか!?」

『! 周防署長!』

「……多分、そちらはNo Problemですわ。あの人がいる事ですし」

「……だといいけどね」

 

 それが誰の事か分かった尚也が、その事を憂慮しつつ、今だ異常が進行していく状況とこれから何をすべきかを考えていた。

 

 

 

「く……う………」

「署長!」

「しっかりしてください!」

「静かにしてな」

 

 多数の警官に囲まれる中、自ら陣頭指揮に出ていたはずが、いきなり苦しみ始めた挙句に姿がぶれていく異常事態の周防署長を警官達が心配そうに見つめる。

 それを一瞥で黙らせた轟所長が、二つの姿が重なる周防 克哉の肩に手を乗せる。

 

「乗っ取るなら力任せでいいが、そうもいかんだろう。余計な事を考えるな。ゆっくりと意識を同調させていけ。まあダメならこの体はオレがもらうが」

「ふっ……そういう……訳にもいかないだろう………」

「そうだな。どうやらもっと厄介な事になりそうだ」

「総員に、通達……特一級非常事態………全区域の警戒に当たれ……」

『了解!』

「だから考えるな」

「そうもいかん……これが仕事だ……」

 

 克哉の指示を受けて即座に動き出す警官達を横目で見つつ、轟所長は胡乱な視線でまだ安定化しない克哉に力を送り続けた。

 

 

 

「始まったか」

「何をしでかしたの!?」

 

 外から響いてくる異常な音に、エンジェルに剣を突きつけたままのたまきが問い質す。

 

「実験だ、ちょっとしたな」

「なるほど、それの邪魔をさせないために戦力を分散させるような状況を作り出したか」

「でも、一体何をする気!?」

 

 冷静に状況を判断するゲイルに、アルジラもエンジェルに問い質した。

 

「構わねえ、こいつを食うだけだ!」

「いいのか? 今変身したら今度こそ完全に暴走するかもしれんぞ」

 

 アートマをかざして変身しようとするヒートに、エンジェルが釘を刺すがヒートは躊躇なく変身していく。

 

「そろそろ、こちらも引き上げるとするか」

「逃がさないわよ! みんな!」

『おー!』

 

 たまきの声と同時に、たまきを含めて仲魔達が一斉にエンジェルへと襲い掛かる。

 そこでエンジェルは手を合わせると、その周囲に不可思議な色で包まれた多面体を生み出す。

 

「いけない!」

「伏せろ!」

「くそ!」

「!?」

『三界輪廻!』

 

 喰奴達の言葉に、攻撃をしかけようとしていたたまきと仲魔達も一斉に伏せる。

 そこでエンジェルが生み出した多面体、魔力の結集体プルパがエンジェルを頂点とした三角形を描き出し、同時に光の三角形が虚空に幾つも浮かび上がったかと思うとすさまじいまでの魔力の爆発が周囲を覆い尽くしていく。

 

「こんな所で!」

 

 すさまじい威力の特殊リンケージに、耐え切れなかった仲魔数体がGUMPへと戻っていくのを感じながら、たまきはなんとか地に伏せて止むのを待った。

 やがて魔力の爆発が収まり、皆が顔を上げると四方の壁はきれいに吹き飛び、エンジェルの姿はどこにも見えなくなっていた。

 

「逃げたか……」

「ちょっと待って! 何この空!?」

「え……」

 

 その時になって、ようやく外の様子を知った全員が驚愕する。

 

「何が起きようとしてやがる………」

「無事か」

「一体何が…」

 

 そこへ、ライドウにゴウト、アレフにヒロコが室内だった場所へと入り込み、彼らもまた外の状況を知った。

 

「いかん! これは跳躍の前兆だ!」

「つまり、この街ごと……」

「どこかに飛ばすつもりだ!」

 

 ゴウトの指摘に、全てを理解したゲイルの冷静な顔に、さすがに焦りが浮かぶ。

 

「間に合うか……」

 

 ライドウがその場に結跏趺坐(けっかふざ)し、生霊送りの秘術を行おうとした時、眩い閃光がシバルバー全てを貫いた。

 

「ダメだ、跳ぶぞ!」

 

 あまりの眩しさに、その光の下にいる全ての者が目を閉じる中、ゴウトの声だけが全てを告げていた。

 そして閃光が消え、皆がゆっくりと目を開いていく。

 

「………あれ?」

 

 誰が漏らしたのか、思わず素っ頓狂な声が響いた。

 そこには、先程まで死闘を繰り広げていたはずのシタデルもコピー喰奴やシャドウの姿もどこにも無く、元通りの公園の中にシタデルと更に地下に突入した全てのメンバーがそろっていた。

 

「全員無事か?」

「無事、と言うべきか……」

「な、なんか変な感じ……」

「おお、なるほど。そっちだとそうだったのか……」

「あ、なんとか大丈夫です。足りなく見えますが」

 

 尚也が声を掛ける中、憑依が成功したらしい達哉、リサ、ミッシェル、淳が苦笑している。

 

「せ、成功したみたい……」

「園村!」

「いかん、誰か回復を!」

「だ、大丈夫。ちょっと疲れただけ……」

 

 麻希が崩れ落ちそうになるのを尚也がとっさに支え、南条の声に皆が手持ちの回復アイテムを探る。

 

「! 克哉さんがいないわよ!?」

「大丈夫……多分向こうだ。僅かだけど兄さんのペルソナ反応がある」

「そりゃ、所長がいたしね。ここだけの話、実は周防署長の体狙ってたっぽいし」

 

 舞耶が慌てるのを達哉が諌める中、たまきが苦笑しながらGUMPを操作、探査用ソフトを起動させていく。

 

「これは一体……」

「跳躍の余波でコピー体が消失したのだろう。他にも何か影響が出ているかもしれん」

「ま、全員無事ならいいという事にしておきましょ」

 

 アレフが不思議そうに周囲を見回し、一人納得しているゲイルと面子が欠けてない事を確認したヒロコが胸を撫で下ろす。

 

「でも、どこに飛ばされたんだろうか?」

「ポジティブシンキング♪ どこでも何とかなるわ」

「う~ん………あれ?」

 

 不安げな明彦と楽観的な舞耶にピクシーが首を傾げた所で、ふとピクシーの視線が上を向く。

 

「み、みんな上見て上!」

「上?」

「何か……」

 

 ピクシーの慌てぶりに、全員が視線を真上へと向け、そして同時にそれに気付いた。

 

「え……」

「何だあれは!?」

「ここは、どこなんだ!!」

 

 叫んだのは誰だったのか、そんな事はどうでもいいくらい、それは異常な光景だった………

 

 

 激しい戦いを経てなお、糸の先に更なる苦難が待ち受ける。

 その先にある物は、果たして………

 


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