真・女神転生 クロス   作:ダークボーイ

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PART17 THREAD CONCENTRATION(中編)

 

「はあぁぁ…!」

「ヴェルザンディ!」『終焉の蒼!』

 

 南条の剣がコピー喰奴を両断し、麻希のペルソナが放った火炎魔法が周辺にいるコピー喰奴達を焼き尽くす。

 

「Oh、Endlessですわ」

「キリキリ闘って終わりがないから、これがホントのキリが無いって奴?」

 

 次々とコピー喰奴を屠っていたエルミンOBペルソナ使い達の間にも、じょじょに疲労の色が浮かんできていた。

 

「尚也君!」

「どうする藤堂、このままではいずれこちらが押し負けてしまう……」

「けど、ここでオレ達が持ち応えないと、市街にこいつらの侵入を許してしまうからね………なんとしてでも頑張らないと」

 

 疲労のためか、皆ペルソナの発動よりも物理攻撃の回数が増える中、指揮を取っている尚也も現場の打開策を必死になって考えていた。

 

(一度門まで退くか? けど、もしその後相手の方が多勢になったら押し留められない………やはり突入班の結果を待つしか)

「おい、なんだありゃ!」

「大きい………」

 

 ブラウンと麻希の声に尚也が振り向いた先、そこには他の物を上回る巨体のコピー喰奴がこちらへと向かってくる所だった。

 

「く、あいつは強そうだな……」

「どう見てもBOSSクラスですわ」

「ガアァァッ!」

 

 奇怪な頭部と巨大なフックのような爪の生えた豪腕を持つ、インド神話で不死身の頭部を持つ悪鬼ラーフが咆哮と共にこちらへと向かってくるのに、皆が構える。

 

「先手必勝! ティール!」『ザンダイン!』

 

 ブラウンの放った衝撃魔法がラーフの頭部に直撃するかと思った瞬間、突然その頭部が分離し、四肢を広げてブラウンへと襲い掛かる。

 

「そんなんあり!?」

「フンッ!」

 

 捕縛される寸前、とっさにレイジがラーフ(頭)を殴り飛ばす。

 

「なんて非常識な野郎だ」

「だが、最初から二体だと思えば怖くない! アメン…」

「!? 危ない!」

 

 尚也が己のペルソナを呼び出そうとした時、その背後に奇妙なゆらぎが迫ってきている事に気付いた麻希が、とっさに尚也を突き飛ばす。

 

「くっ!」

「Maki!?」

「何が…」

 

 そこでようやく他のペルソナ使い達も周辺の喰奴達に紛れている気配に気付いた。

 

「気をつけろ! 見えないが、何かいる!」

「分かってる! でもなんだ!?」

「敵に決まってんだろ」

「まとまるんだ! 回りこまれたらやばい!」

 

 ラーフとあわせて、謎の敵にペルソナ使い達は尚也の指示で背中合わせに円陣を組む。

 

「園村、大丈夫か?」

「うん、なんとか。かすっただけ」

「Invisible Devilとは………」

 

 自分をかばって負傷した麻希を心配しつつも、尚也は周辺を警戒する。

 

「まずは透明悪魔をいぶり出すぞ」

「下手な鉄砲って奴?」

「そういう事、アメン・ラー!」『集雷撃!』

「ヤマオカ!」『マハコウハ!』

「ミカエル!」『デスバウンド!』

 

 尚也、南条、エリーの三人のペルソナが放った攻撃が周囲を取り囲みかけていたコピー喰奴を薙ぎ払うが、肝心の見えない敵への手応えは感じられない。

 

「外したか!」

「やべえ、ゴキブリよかすばっしっこいみてえだぜ!」

「! そこか!」

 

 わずかに見えたゆらぎに向けて、レイジが拳を繰り出す。

 鈍い手応えを感じた時、今まで見えなかった敵が姿を現す。

 

「フガアアァァ!」

「こいつは!」

 

 己の外皮を尾のようにして、完全な透明状態になっていた異形の悪魔、インド神話の異形の魔王 ラーヴァナがこちらへと向けて顔に唯一ある無数の牙の生えた口で咆哮を上げる。

 

「今の内に!」

 

 麻希の一言で我に帰ったペルソナ使い達がラーヴァナに攻撃を加えようとするが、そこにラーフの頭部と胴体に襲い掛かり、それを阻んできた。

 その間に、ラーヴァナは再度姿を消していく。

 

「ちっ! 早く出てこないと出番なくなるぜ!」

「こちらで出させるしかあるまい、だが!」

 

 狙いをラーフへと定めた南条が剣を構えた時、ラーフの頭部と胴体が再び一つになる。

 

『ドラゴンクエイク!』

「がぁっ!」「うをー!」「ぐっ!」「うっ…!」「くっ!」「エウッ…!」

 

 強力な地変魔法を食らった皆がよろめき、そこに透明なラーヴァナが襲い掛かってくる。

 

「きゃあぁ!」

「園村!」

「そこか!」

 

 ペルソナの知らせる感覚を頼りに、尚也は大体の見当で剣を振るって見えないラーヴァナを麻希から弾き飛ばす。

 

『メギドラ!』

「ちっ!」

 

 ダメージで再度姿を現したラーヴァナだったが、そこで万能魔法を放ちその隙に再度姿を消していく。

 

「厄介だな………どうする藤堂?」

「仕方ない……機動班、応答せよ。エネミーソナーが一番良好な一機をこちらに増援要請!」

 

 南条と背中合わせになりつつ、苦戦を悟った尚也がXX―1のセンサーに頼ろうと通信を入れる。

 だが、その返答は意外な物だった。

 

『………藤堂班長、無理のようです』

「!? まさかそっちにも!」

 

 達哉からの返答が何を意味するのか、それを悟った尚也は、自分達の読みの甘さを感じていた。

 

 

 

「アイヤー! 何あれ!?」

「で、でけえ………」

「なにビビってやがる!」

 

 正門死守を厳命されていたXX―1部隊の前に、巨大な三つ首の魔犬、ケルベロスが姿を現す。

 同型の悪魔ならサマナー達の仲魔として見た事はあったが、眼前に現れたそれは、遥かに大きな巨体と凶悪な姿をしていた。

 

「副班長………」

「藤堂班長も苦戦してるらしい。ここはなんとしても守る」

 

 先頭に立った達哉の《Rot》機が、手にしたヒートブレードをケルベロスへと向ける。

 切っ先を向けられたケルベロスの三つの口から唸り声が漏れる中、他の機体も己の得物を構えた。

 

「全機であいつを素早く撃破、後に何機か藤堂班長の応援に向かう」

『了解!』

「ミッシェルと俊樹は左右を固めて援護、淳は中央を封鎖、残るは突撃する」

「OK情人! ハイヤー!」

「おおおぉぉ!」

 

 リサの《rosa》機と陽介の《schwarz》機が同時にケルベロスへと襲い掛かる。

《rosa》機の繰り出された文字通りの鉄拳がケルベロスの右の首を打ち据え、《schwarz》機の突き出されたインパクトランスが突き刺さると同時に先端部がパイルバンク(杭打ち)される。

 

「ハッ…!」

 

 中央の首へと向けて《Rot》機がヒートブレードを振り下ろそうとするが、いきなりその刀身がケルベロスの中央の口によって噛みつかれ止められる。

 挙句、そのまま《Rot》機ごと振り回され、振り飛ばされた。

 

「情人!」

「達哉! この野郎が!」

「撃つんだ!」

 

 そこへミッシェルの《blau》機がM134ミニガンを、俊樹の《weis》機がパウザP50アンチマテリアルライフルを、淳の《Grun》機がニードルガン・ローズトゥーンを斉射、ばら撒かれた銃弾とニードルがケルベロスの全身に突き刺さり、弾痕を穿ち、ニードル内部のエネルギーが炸裂して血肉が飛び散る。

 

「へっ、おととい来やがれ!」

「待ってください! エネミーソナーはまだ高反応です!」

「! 離れて!」

 

 淳の警告に《rosa》機と《schwarz》機が離れた瞬間、ケルベロスの三つの首が同時に掲げられた。

 

『ピュリプレゲトン!』

 

 直後、凄まじい業火のリンケージ魔法が放たれ、XX―1を飲み込んでいく。

 

「救命呀~」「ホオォォ…」「うわあ!」「くっ!」「この…」

 

 その威力にXX―1各機の装甲が焼け、センサーが過負荷に耐え切れず幾つか弾け飛んでいく。

 

「み、皆さん無事ですか……」

「う~ん」

「へへ、この程度でこのミッシェル様が……」

「この野郎が!」

「まずい、ダメージが………」

 

 俊樹の呼びかけに皆が答えるが、さすがにダメージは軽くない。

 そこへ、ケルベロスの三つの口がそれぞれ別々の機体へと襲い掛かってきた。

 

「…遅いっ!」

「ギャオオオォォ!」

 

 一番最初に振り飛ばされたお陰で、リンケージを食らってはいたがダメージが軽かった《Rot》機が寸前で飛び掛りながらケルベロスの胴体をヒートブレードで斬り裂いた。

 

「みんな、まだやれるな」

『オォ!』

「行くぞ!」

 

 体勢を立て直しつつ、XX―1部隊は再度ケルベロスへと挑んでいった。

 

 

 

「……音が変わったな」

「……そうね」

 

 最上階まで続くエレベーターの中で、ふと呟いたゲイルの指摘に、最後尾にいたたまきも耳を澄ませる。

 

「苦戦してるみたい。大きな破壊音みたいなのが連続してる」

「ちっ、何を繰り出して来やがった?」

 

 アルジラも耳を澄まし、エレベーターの駆動音以外の音を聞き取る。

 ヒートが唸るように言い放ち、そのまま先へと進む。

 

「最上階まであとどれくらい?」

「後少しだ。これを降りればすぐ最上階につく」

「そう……さっきから反応しっぱなしなのよね………」

 

 たまきが自分のGUMPのエネミーソナーがレッドゲージを示したままの状態を確認、その頬に冷たい汗が一筋流れていた。

 

「前に来た時はスカ掴まされたがな」

「大丈夫よ、とんでもない大物がいるのは間違いないわ………」

 

 GUMPを操作してソフトを幾つか切り替えてボス戦に備えるたまきが、あまりにうるさく警告を訴えるエネミーソナーを一時的にカットする。

 

「ひょっとして、ミック・ザ・ニック?」

「ジャンクヤードでもいなかった男が、ここにいるとは思えん」

「けど、どう見てもここにいる連中はマトモじゃないぜ。もっともあのミートボールなら遠慮なく食ってやるがな」

 

 低く笑うヒートにたまきはため息をもらしつつ、残った精製マグネタイトを確認する。

 

「あと少し、あんた達は大丈夫?」

「問題ない」

「ええ、大丈夫よ」

「マズイ奴でも、腹は膨れるからな」

「それならいいんだけど………」

 

 なにか、たまきは嫌な予感を感じながらも、エレベーターの停止と同時に、一時帰還させていた仲魔達を再度呼び出す。

 ドアが開いていく中、呼び出されてすぐネコマタとダーキニーが飛び出し、周囲をうかがう。

 

「大丈夫ニャ」

「不気味なくらい静まり返ってるよ………」

「そう、さて鬼が出るか蛇が出るか……ってもう出てるか」

「行くぞ」

 

 そう言いながらヒートが猛然と走り出すと、通路の先の扉を豪腕で粉砕、その先へと飛び込んだ。

 

「な、に?」

 

 続けて飛び込んだゲイルとアルジラも、そこにいたこちらに背を向けている人影を見て絶句する。

 

「うそ……」

「やはり、か」

 

 その人物、ウェーブのかかった黒の長髪で白いタイトコート姿の女性がゆっくりと振り返ると、クールその物といった顔に僅かに笑みが浮かぶ。

 

「よく来たな、煉獄の喰奴達」

「ジェナ・エンジェル………」

「お知りあいかしら?」

「カルマ協会の技術主任、オレ達を喰奴にした張本人だ」

 

 ゲイルの説明を聞きつつ、たまきは剣を構え仲魔達がフォーメーションを展開していく。

 

「なるほど、それがデビルサマナーという者か。悪魔召喚プログラムを持って悪魔と契約し、使役する。興味深いな」

「てめえ、なんでここにいる!」

「この世界に飛ばされてきた、というにはおかしいな。あまりにお前とその部下達は組織的に行動している。こちらはなんとか体制を整えるのがやっとだと言うのに」

「ひょっとして、セラの居場所を知ってる!?」

 

 喰奴達の三者三様の質問に、エンジェルは微笑を浮かべたまま聞き終えると、顎に手を当てて少し考える。

 

「正直、予想外だった。異なる世界の者達が、こうも簡単に力を結集させて立ち向かってくるとは」

「異なる世界の者達、つまり他にも幾つもの世界があるという事を認識しているのだな?」

「そうだ、面白いと思わないか? 神の暴走に頼らなくても、世界を滅亡させた世界、カオスに満ちた世界、様々な世界がある。人とはなんと愚かで、そしてたくましい。いかな絶望的な世界でも、人は生き抜こうとあがく。今のお前達のようにな」

「御託はいい。セラはどこにいる?」

「さてな。生憎とこちらでもセラの居場所は掴んでいない」

「そうか、じゃあ…!」

 

 襲い掛かろうとしたヒートを、ゲイルが刃の伸びた足で静止した。

 

「なぜ止める! こいつは…」

「こちら、と言ったな? つまり動いているのはカルマ協会だけじゃない。そしてエンジェル、お前が今どのような立場にいるかまでは分からないが、複数の世界の実情を知る事ができる立場にいる。これらから推測できるのは、かなり大規模な組織が、複数の世界に干渉しているという事だ。しかも、危険な活動でな」

「さすがジャンクヤード一の演算能力を持つアスラAI、見事な推理だ」

「そして今お前がここで立ちはだかる理由、それは戦力の分散と、停滞が目的ではないのか?」

「! 時間稼ぎ!?」

 

 たまきが驚いて叫ぶ中、エンジェルは顔の笑みをさらに深い物にした。

 それを肯定と取った皆が、一斉に戦闘体勢を取る。

 

「どうやら、言葉で稼げる時間は終わったか」

「そうだ、次は手前を食ってやる!」

「気をつけろ、こいつの強さは半端ではない!」

「分かってる! フルサポート!」

「分かりました、『タルカジャ!』」

 

 たまきの指示でパールヴァティが攻撃力増加の魔法を唱える中、ヒートのかざした爪とたまきの剣が左右から同時にエンジェルへと振り下ろされる。

 だがそれが当たる前に、エンジェルの胸にあったアートマが輝き、その姿が白面の半身で黒と白に分かれた半陰陽の創造と破壊、生と死を象徴する四腕の魔神 ハリ・ハラへと変身し、片腕ずつで両者の攻撃を止める。

 

「ちっ……」

「くぅ…」

「ここまで来たのだ、その程度ではあるまい」

「ヒヤハァ!」

「フミャアアァ!」

 

 エンジェルの言葉が終わるかどうかの所で、その背後からダーキニーの四剣とネコマタの飛び蹴りが襲い掛かってくるが、残った二腕が伸びて二体を薙ぎ払う。

 

「くぅ!」

「フニャン!」

「このお!」

 

 仲魔が弾き飛ばされたのを見たたまきが、片手で剣を構えたままジャケットの下からステアーTMPサブマシンガンを抜くと、エンジェルへと極至近距離で引き金を引いた。

 

「ぐっ……」

 

 弾着と同時にSHOCK状態を引き起こすコロナシェルのフルオートの前に、エンジェルがたじろいた隙にたまきは一度距離を取る。

 

「ガアァ!」

 

 だがヒートは逆にもう片方の爪を下から突き上げ、エンジェルの胴体に食い込ませる。

 

「! 下がれヒート!」

『渇きの波動』

 

 エンジェルがその攻撃にまったく怯んでない事に気付いたゲイルが叫ぶが、僅かに遅くエンジェルの繰り出した攻撃をまともに食らってしまう。

 

「今のは!?」

「人為的に《飢え》を起こす攻撃だ! 離れろ!」

「どこに?」

「ウウ、ガアアアァァ!!」

 

 エンジェルがほくそ笑む中、ヒートの口から凄まじい咆哮が放たれる。

 

「セラの力無しでは、その状態は止められまい」

「なんて事………」

 

 皆がたじろぐ中、ヒートがこちらを向くと手近にいたたまきの仲魔に襲い掛かってくる。

 

「フミャ!」

「ヒッ!」

「来るなら来い!」

「召喚士殿!」

「まずい!」

 

 仲魔達が襲われる寸前、たまきが素早くGUMPを帰還操作、仲魔達が光の粒子となってGUMPへと吸い込まれていく。

 

「なるほどな。だがいいのか?」

 

 エンジェルの言葉の意味は、即座に知れる事となった。

 襲い掛かろうとした獲物が消えたヒートは、次にたまきへと狙いを定める。

 

「止めてヒート!」

「止めるんだヒート!」

 

 アルジラとゲイルが左右からヒートを抑えようとするが、飢えで暴走したヒートの膂力をまったく抑えきれず弾き飛ばされる。

 だがたまきはなぜか落ち着き、GUMPを仕舞うと懐から米軍正式採用拳銃でもあるベレッタM92Fを取り出し、冷静に構える。

 ヒートの双頭の口の一つがたまきに噛み付こうとした瞬間、その口へと向けて銃弾が放たれる。

 そしてヒートの牙が食い込む瞬間、その動きが止まったかと思うとヒートの姿が悪魔から人へと戻っていく。

 

「……ほう、なにをした?」

「精製マグネタイト弾、悪いけど悪魔の相手なら慣れてんのよね……」

 

 かろうじて同士討ちは避けられたが、膝をついて荒い息をしているヒートを背後にかばいつつ、喰奴暴走時用の虎の子を使った事をおくびにも出さずにたまきは再度GUMPを取り出す。

 

「こいつの弱点は?」

「無い」

「それじゃあ、力押ししかないわね……」

 

 ゲイルからの無情な助言を聞きつつ仲魔達を再召喚したたまきの前で、突如としてエンジェルの顔が穏やかな白面から憤怒の黒面へと変わる。

 

「危ない!」

『バーイラヴァ!』

 

 それが攻撃態勢への移行だと知っていたアルジラが思わず叫ぶ中、エンジェルは四腕から鋭利な爪を突き出し、たまきへと襲い掛かる。

 

「!」

「召喚士殿!」

 

 とっさにパールヴァティがたまきをかばい、その体が無数に突き出された爪によって貫かれ、とうとう限界を迎えてその体が光の粒子となってGUMPへと戻っていく。

 

「ほう、悪魔が人間をかばうとはな」

「パールヴァティ……あとで必ず蘇生させるから……アタック!」

 

 僅かに歯噛みしたたまきが、即座に号令を出すと同時に、仲魔達が一斉にエンジェルへと襲い掛かる。

 

「フミャアァ!」

「ハアッー!」

「フウゥゥ!」

 

 ネコマタが爪を繰り出し、ダーキニーが四刀を振り下ろし、ニュクスの口から猛烈な吹雪が吐き出される。

 

「くっ!」

「そこよ!」

 

 猛烈な猛攻の前にエンジェルが怯んだ隙を狙い、たまきが剣を突き立てようとするが、体を覆う吹雪の中から伸びた手が突き立てられる前に刃を掴んで止めた。

 

「うっ……!」

『マハザンダイン!』

「キャアァ!」

「ミャァー!」

「このう!」

「ああぁ!」

 

 極至近距離からエンジェルが放った衝撃魔法が、たまきと仲魔達を一撃で吹き飛ばす。

 だが、弾き飛ばされダメージを追いつつも、たまきの顔には小さく笑みが浮かんでいた。

 直後、エンジェルの体にようやく行動できるまでに回復したヒートがグレネード弾をぶちこみ、爆炎がエンジェルの体を揺らす。

 

「この程度なら…」

 

 喰奴の体の頑強さで直撃を耐え抜いたエンジェルの腕に、突如として伸びてきたアルジラの触手が絡みつく。

 

「今よ!」

「了解した」

 

 更にアルジラの背を蹴って宙へと舞い上がったゲイルが、体を旋回させながら両足の刃での連続攻撃をエンジェルに次々と食らわせていく。

 

「がっ……はっ」

 

 立て続けの攻撃に、エンジェルもさすがにダメージを食らい、片膝をつく。

 

「効いてる!」

「今の内に!」

「待て」

 

 たまきとアルジラが追撃をかけようとするのを、ゲイルが止める。

 

「エンジェル、お前はこの世界で何をしようとしている? 元の世界への回帰にしては、あまりに大掛かり過ぎる。一体何をするつもりなのだ?」

「ふ、ふふ……それを知ってどうするつもりだ? この世界がどうなろうと、それがお前達に関係ある事ではない」

「大有りよ! ここは私達の世界なんだから!」

 

 詰め寄ろうとするたまきを制し、ゲイルが変身を解いて思考する。

 

「この世界が、と言ったな? この世界といっても、あるのはこの街だけだ。変革を起こすにはあまりに小さすぎる」

「悪かったわね」

「それで何かを起こすとしたら……! まさか、エンジェルお前達の目的は!」

「知りたければ、本気でかかってこい! 煉獄の申し子達よ」

「じゃあ、遠慮なく力ずくで!」

 

 体勢を立て直したエンジェルに、皆が再度挑んでいく。

 

「一つ教えておこう。お前達がシタデルに施した包囲には穴がある」

「は? 何言って……」

「! 上空警戒か!」

「今頃、外はどうなっているかな?」

 

 

 

同時刻 シタデル周辺部

 

 シタデルの中から激しく響いてくる戦闘の音に、包囲警戒に当たっていた警察、仮面党員、及び市民有志による自警団などと言った面々がそのあまりの激しさに頬や背中に冷たい汗が伝うのを誰も彼もが感じていた。

 

「あかりも行く~!」

「ダメだ!」

「大人しくおし!」

 

 そんな中、シタデルの中へ入ろうとするあかりを杏奈とゆきのが二人がかりで抑え込んでいた。

 

「なんでダメなの!? みんな頑張ってるののに! 仮面党幹部として、あかりも…」

「本当にそう思ってる?」

 

 暴れるあかりの前に、超太めの人のよさそうなスーツ姿の男性、元エミルン学園OBのトロこと横内 健太がそう言って立ちはだかる。

 

「君だって気付いてるはずだよ。僕や君のペルソナじゃ、彼らの足手まといにしかならないって」

「う………」

「僕も一応ペルソナ使いって事でここにいるけど、戦闘なんて全然ダメだしね。そんな僕らに出来る事は、彼らの成功を祈りながら邪魔にならないように、邪魔をさせないようにする事。それが大事なんだ」

「でも………」

「闘うだけがペルソナの使い方じゃないよ。ボクのはセールスにしか使えないけど、君のなら戦えない人達を守る事も出来る。だから、出来る事を精一杯するのがここにいるみんなの仕事さ」

「……うん」

 

 トロの説得に、うなだれながらも納得したあかりが暴れるのを止める。

 その様子を不思議そうに見ていたゆきのが思わず苦笑を漏らした。

 

「何?」

「いやさ、あんたも立派になったんだな~、って。体格以外に」

「黛だって、ペルソナ使えなくなっても頑張ってるじゃないか。それに比べたら…」

「何だあれは!」

 

 誰かの叫びに、全員が一斉にそちらを見た。

 続けて、叫び声を上げた警官が指差す方向、シタデルの高い外壁を飛び越え、こちらに向かってくる影の存在に気付く。

 

「ちっ、一匹漏れてきやがったかい!」

「撃て、撃て!」

 

 現場指揮官の声と同時に、警官達が一斉に銃を抜いてその影へと向かって銃弾を放つ。

 だがその影、巨大なコウモリの姿をしたマヤ神話の地下界・シバルバに住むとされる邪悪な人食いコウモリ カマソッソは銃弾を物ともせず急降下すると、その翼を振るって猛烈な疾風を巻き起こす。

 

「うわあぁ!」

「ひいぃぃ!」

「ひるむな! 攻撃だ!」

 

 その疾風の前に警官や仮面党員が吹き飛ばされていく中、杏奈は仮面党員に攻撃を支持しながら、自ら果敢に先頭に立つ。

 

「アエーシェマ!」『アクアダイン!』

「パリカー!」『マハガル!』

 

 杏奈とあかりのペルソナがそれぞれ水撃魔法と疾風魔法を放つが、カマソッソはそれを食らっても平然としている。

 

「魔法が効きにくいのか!」

「なら直接攻撃だよ!」

 

 ゆきのの手から複数のチャクラムが投じられる。

 投じられたチャクラムはカマソッソの体に突き刺さるが、さしたるダメージも与えられてはいないようだった。

 

「なんてタフな奴だい!」

「これが喰奴か………こんな物が市街に行ったら!」

 

 警官や仮面党員が矢継ぎ早に攻撃を加える中、カマソッソはその巨大な翼で己を覆い、その翼が障壁となって攻撃を弾いていく。

 

「こいつ~!」

「一か八か、龍亀(ロングイ)!」『フェルマフェロモン!』

 

 トロが己のペルソナ、中国神話で亀が龍に変ずる半ば、風水で金運をもたらすとされる神獣で魅了効果を持つ吐息を放つが、全くもって効果は無かった。

 

「シャアアァァ!」

 

 翼を広げて防御を解いたカマソッソが、その場を縦横に飛び交い、その軌道上にいた者達を翼で次々と弾き飛ばしていく。

 

「わああぁぁ!」

「キャアァ!」

「退避するんだ! ここは私達で…」

 

 混乱しそうになる者達を杏奈が誘導しようとするが、そちらに目をつけたのかカマソッソがまっすぐ向かってくる。

 

「杏奈!」

「杏奈お姉ちゃん!」

「くうっ!」

 

 突風を伴って繰り出された翼の一撃を、杏奈はペルソナを使ってかろうじて防ぐが、衝撃までは抑えきれずその体が吹き飛ばされる。

 

「スコルピオン様!」

「スコルピオン様をお守りするんだ!」

 

 大慌てで仮面党員が杏奈の周囲を取り囲もうとするが、カマソッソの足が手近の党員の一人を掴み上げる。

 

「う、この化け物ぉ!」

 

 党員がとっさに、マジックカードを突き出そうとするが、カマソッソは無造作にその党員に腕に食らいつく。

 

「ぎゃあああぁぁ!!」

「こいつ!」

 

 とっさにゆきのがありったけのチャクラムをカマソッソの顔面に投じ、それに怯んだカマソッソが党員を取り落とす。

 

「ひ、ヒイイィィ!」

「忘れたのか、こいつらは人を食う! 負傷者を連れて下がれ!」

「しかしレイディ!」

 

 悲鳴と絶叫が飛び交う中、杏奈がなんとしても被害を最小限に食い止めるべく思案を巡らせた所で、カマソッソの目が周囲の獲物を見定めている事に気付く。

 そして、その目がその場にいる者達の中で、もっとも若い者を見つけ出す。

 

「逃げろあかり!!」

「あっ………」

「させないよ!」

「ロングイ!」『アギ!』

 

 口からよだれを垂れ流しながらあかりへと食いつこうとするカマソッソに、ゆきのがその前に立ちはだかり、トロがなけなしの火炎魔法を繰り出す。

 火炎魔法はさしたるダメージも与えられず、接近したカマソッソは無造作にゆきのを弾き飛ばす。

 

「うぅーっ!」

「ゆきのお姉ちゃん!」

「い、イシュキック様が!」

「撃て! 撃て!」

 

 仮面党員や警官達の攻撃を物ともせず、カマソッソが血混じりのよだれがしたたる口を大きく開く。

 

「ああ……」

「あ、あかりー!」

「くくく、食う………」

 

 恐怖で座り込んだあかりを、カマソッソが食らおうと迫る。

 

(お前は十分に強い)

 

 ふとそこで、あかりの脳内にライドウに助けられた時の事が思い浮かぶ。

 すぐ間近までカマソッソが迫った所で、あかりは立ち上がって毅然と構える。

 

「負けない……あかりは、イシュキックは、強いんだあああぁぁーー!!」

 

 今しもあかりの体にカマソッソが食いつこうとした瞬間、あかりの体から無数の光の粒子が噴き出す。

 

「潜在覚醒!?」

「いや、これは……」

 

 光の粒子の中で、あかりのペルソナの形が変わっていく事と、その意味にゆきのと杏奈は同時に気付いた。

 

「第二覚醒!」

「あかり……あなた………」

「え、これって………」

 

 事態がよく飲み込めないあかりが思わず振り向くと、そこに己の新しいペルソナがいる事にようやく気付いた。

 

『我はイシュキック、奔放なる者にして純潔の母なり……汝、我と同じ名を名乗りし現身(うつしみ)よ。共に大地を友愛なる恵みで満たそうぞ!』

 

 マヤ神話の女神の一柱、「小さな血」を意味する大地からとうもろこしを作り出した下界の王女のペルソナを覚醒させたあかりが、ようやく事態を理解し笑みを浮かべてカマソッソの方を睨み付ける。

 危険を察したのか、カマソッソはとっさに翼で全身を覆い隠して防御体勢を取った。

 

「また……!」

「大丈夫! イシュキック!」『豊穣の祈り!』

「ギヒャアァ!」

 

 イシュキックの放った独自の地変魔法がカマソッソを周辺の地面ごと吹き上げ、同時に大地から吹き上げたエネルギーが周辺の者達を癒していく。

 

「こりゃすごい………」

「驚いたね、まったく……」

「見たか! これが真・イシュキックの力だよ!」

 

 トロとゆきのが唖然とする中、あかりが俄然張り切りだす。

 

「! 陣形を立て直せ! あかりを中心に体勢を立て直す!」

『ヤイル・カメーン!』

「いくよ、真・チョメチョメタ~イム!」

 

 新たな力を得たあかりを筆頭に、皆が一丸となってカマソッソへと向かっていった。

 


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