真・女神転生 クロス   作:ダークボーイ

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PART16 THREAD CONCENTRATION(前編)

 

 アレフとライドウ、二人の召喚した悪魔達が先陣を切ってシタデル内へと突撃を開始する。

 それを防がんとするのか、内部から次から次へと大量のコピー喰奴達が沸いてきた。

 

「随分といるな」

「問題はない」

 

 アレフとライドウが同時に剣を一閃、一撃でコピー喰奴は両断され、鮮血を吹き出しながら倒れたかと思うと、土くれのように崩れながら消えていく。

 

「こいつは……」

「シャドウと一緒だな」

「シャドウに喰奴のデータを上書きして似せてるだけのようね」

「依り代に降ろしたという訳か。時代が進んでもやってる事はあまり変わらんな」

 

 アレフの背後で槍を振るっているヒロコと、ライドウの頭上で宙を舞いながら周辺を警戒していたゴウトが次々と崩れて消えていくコピー喰奴達を気持ち悪く見ながら、先へと進む二人の跡を追う。

 

「く、喰ぅ~!」

「おおぉぉうお!」

 

 奇声を上げながら、コピー喰奴達が一斉にアレフとライドウへと襲い掛かる。

 

「道を開けろ」「なぎ払え」

『ハッ!』

 

 歩みを止めた二人が命令すると、背後から破壊神 スサノオと雷電属 トールが前へと出た。

 

『マハジオンガ!』

『マハ・ジオダイン!』

 

 同時に放たれた電撃魔法が、瞬く間に周辺を埋め尽くし、襲いかかろうとしていたコピー喰奴達を殲滅していく。

 

「いい仲魔を連れてるな」

「そちらもな」

 

 視界内に敵の姿が消えたかと思った所で、また更に新手が沸いてくる。

 

「行くぞ」

「なるべく派手にな」

 

 

 互いに軽く笑みを浮かべると、同時に剣が振られた。

 

 

「すっげぇえぜ、オイ……」

「確かに強烈だな」

「Oh,Greatですわ」

「任せててもいいんじゃない?」

「かもな」

 

 後ろにいたエミルン学園OBペルソナ使い達が、凄まじい戦闘力を見せて進む二人の悪魔使いに唖然としていた。

 

「そうでもないみたいだよ」

 

 ペルソナ使い、XX‐1部隊双方のリーダーを兼任する事になった尚也が、ペルソナが知らせる気配に身構えた。

 すると、どこかから文字通り沸くようにシャドウが出現してきた。

 

「これくらい、このブラウン様なら簡単に…」

「待て!」

 

 ペルソナを呼び出そうとしたブラウンを、南条が止める。

 

「Kei、どうかいたしまして?」

「ちょっと、見て!」

 

 同じく攻撃態勢を取ろうとしたエリーも思わず手を止めた時、麻希が異変に気付いた。

 出現したシャドウがふいに膨れるように盛り上がっていき、形も変わっていく。

 まるでフィギュアの彩色のように色もついていき、数秒の間にシャドウはコピー喰奴へと変貌し、程なくその口から唸り声が漏れ始める。

 

「なるほど、こうやって出来る訳か」

「感心してる場合じゃねえ!」

 

 悪魔へと変身しながら襲ってきたコピー喰奴を、レイジが拳の一撃で弾き飛ばす。

 

「ちょっと軽い気もするが、実体はちゃんとあるぜ………」

「それに、あれ確か一番最初にライドウが斬った奴じゃないっけ?」

「え?」

「データ確認! 間違いありません!」

「ちょ、他のも!?」

 

 尚也の言葉に、後ろで控えていたXX―1部隊、全六機が予想外の状況に各々の得物を構えた。

 

「無限、かどうかは分からないけど、これじゃキリがないね」

「どうする藤堂?」

「ペルソナ使いはここで再出現してくる連中の逐次殲滅。XX―1はその場を死守して。一体でも外に出したらヤバそうだから」

『了解!』

 

XX―1が各機戦闘体勢を取る中、ペルソナ使い達は全員一斉にアルカナカードを取り出す。 

 

「じゃあ行こうか。アメン・ラー!」「ティール!」「ヤマオカ!」「ミカエル!」「ヴェルザンディ!」「モト!」

 

 アルカナカードが光の粒子となって霧散し、ペルソナ使い達の体を包むとそこから更なる光の粒子を導き出し、それがペルソナとして具現化していく。

 尚也からアメン・ラーが、ブラウンから北欧神話の隻手の神が、南条から悪魔から女性をかばって死んだ南条家の老執事が、エリーから聖母マリアに受胎告知したとされる四大天使の中で唯一の女性の天使が、マキから北欧神話の運命を司る三女神の現在を司る女神が、レイジからバビロニア神話の死の神が具現化し、一斉に攻撃を放つ。

 

「ヘへっ、藤堂と一緒に闘うのは高校ん時以来か。昔を思い出すね~」

「まったくだ」

「こっちじゃたまにやってるんだけどね」

「それってこっち側も向こう側もあまり変わらないって事かな?」

「Oh、Parallel Worldなんて案外そんな物かもしれませんわ」

「次来やがったぞ!」

「伏せて! 援護、一斉射!」

 

 尚也が叫びながらしゃがみ、他のペルソナ使い達も続いた所で、背後に控えていたXX―1の火器が一斉に火を噴いた。

 

「止め! 今の内に!」

「おうよ!」

 

 銃撃で弱ったコピー喰奴に、ペルソナ使い達が一斉に攻撃を加え、倒していく。

 

「……こちら側に藤堂が居てくれたら、もうちょっとマシになっていたかもしれんな」

「ん?」

「いや独り言だ。まだまだ来るぞ!」

 

 尚也に見えない位置で小さく笑みを浮かべつつ、押し寄せてくるコピー喰奴に向けて南条はペルソナを発動させた。

 

 

 

「派手にやっているな」

「というか派手過ぎない?」

 

 正門前から響いてくる戦闘音や爆発音に混じり、攻撃魔法の光だの銃火だの咆哮や奇怪なわめき声のような物までが響いてくる。

 それらを聞きつつ、侵入班のゲイル、アルジラ、ヒートにたまきを加えた四人が、かつで侵入に使ったのと同じ場所から、用意しておいたアンカーロープを使って壁をよじ登っていた。

 

「陽動が派手な程、こちらの作戦の成功率も上がる」

「先陣の二人、殲滅してもいいだろうとか吹いてやがったがな」

「そう上手くいくとは思えないわね」

「上手くいったらこっちも楽なんだけどね~」

 

 登り終えた四人が素早くシタデル内部に潜入すると、あたりを用心深く観察する。

 

「ジャンクヤードのシタデルと内部構造も一致するようだ」

「けど、中を有象無象がひしめいてやがるぜ……」

「うわ、シャドウだらけ……」

 

 覗いた先に、無数のシャドウが蠢いているのに四人は顔をしかめる。

 

「どうするのゲイル? これじゃあ最上階までこっそり行くって訳に行かないわよ?」

「だが、他にルートはない」

「構いやしねえ、全部食ってやればいい」

「……この間から思ってるんだけど、あなた達お腹壊さないの?」

「たまに」

「あ、やっぱ……食べ過ぎも困るけど、空腹で暴走もしないでね。所長から渡された精製マグネタイトそんなにないんだから………」

 

 呟きつつ、たまきがGUMPを展開させる。

 

「この状況じゃ、表と同じ手しかないわね」

「いたし方あるまい」

「最初っからそうすりゃいいんだよ」

「じゃあ行きましょうか!」

 

 三人の喰奴が同時にアートマを発動させ、その姿が悪魔の物へと変身する。

 

「こっちも行くわよ、Tamakiガールズ!」

 

 たまきがGUMPのエンターキーを叩くと、二股の尾を持つ猫人の姿をした魔獣 ネコマタ、インド神話の主神シヴァの后とされる女神 パールヴァディ、ギリシャ神話の黒い衣をまとった夜の女神とされる夜魔 ニュクス、インド神話の女神 カーリーの次女とされる四腕の鬼女 ダーキニーが次々と召喚されていく。

 

「突破しつつ、最上階を目指す」

「道覚えてるの?」

「無論だ」

「オレは忘れたぜ」

「半分くらいなら………」

 

 ゲイルが両足の刃で次々とシャドウを突き刺しつつ先陣を切り、その両脇でヒートの爪とアルジラの触手がシャドウをなぎ払う。

 

「のけてくれるだけでいいわ! 後はこっちで受け持つから! フォーメーションはマーチ! スピード重視で!」

『おお!』

 

 たまきの号令と共に、仲魔達が元気に答える。

 喰奴達の攻撃を喰らって弾き飛ばされたシャドウに、追い討ちの攻撃が加えられていく。

 

『マハブフダイン!』

『マハラギオン!』

『マハムド!』

 

 パールヴァディーの火炎魔法とダーキニーの氷結魔法が吹き荒れ、それをこらえたシャドウにニュクスの呪殺魔法が炸裂する。

 

「はっ!」

「フアアァァ!」

 

 それでもなお襲い掛かろうとしてきたシャドウには、たまきの雷神剣とネコマタの爪が迎え撃ち、一同は最上階へと向けて突き進む。

 

「……おかしい」

 

 突き進みながらも、襲い掛かってきたシャドウを旋風魔法で弾き飛ばしたゲイルが呟いた。

 

「歯ごたえが無さ過ぎる」

「そう?」

「知るか、マズいのは確かだが」

「外で戦ったシャドウはもっと強い奴もいたわね」

 

 ゲイルの言葉に、たまきも同意する。

 

「警備のためかとも思ったが、違うようだ」

「ただ中に放してるって気もするわ。侵入者に対処って訳でもないようだし」

「つまり?」

「恐らくは、外に出した分の余りね」

「まだ喰奴になる前という事か。だがこれだけの数は……」

「量産されてもやっかいね」

「じゃあ、全部潰せばいいだけだろうが!『マハラギダイン!』」

 

 ヒートの火炎魔法が周囲をなぎ払い、焼け焦げたシャドウ達が崩れながら消滅するが、その背後から新たなシャドウが沸いてくる。

 

「これじゃキリがないわね……」

「発生源がどこかにあるはずよ、それを見つけ出せば………」

「それはどんな物だ?」

「多分祭壇か召喚装置よ。基本は悪魔召喚と同じだと思うわ」

「それをぶっ壊せばいいのか」

「でもどこにあるのよ」

「簡単だ、これが沸いてくる元を辿ればいい」

「一気に行くわよ!」

『Lティタノマキア!』

 

 発動したリンケージが、シタデルその物を砕きそうな地鳴りと共に強烈な地変魔法となって周囲のシャドウを押しつぶしていく。

 

「これはすごい……」

「相変わらず威力は桁違いね………」

「下手な悪魔よかすげえ……」

「フミャアアァ……」

 

 たまきの仲魔達もあっけに取られるが、それも僅かの間で即座にリンケージで空いた隙間へと突撃していく。

 

「下手したら、地下の本体の方にあったりして……」

「そちらは別働隊に任せるしかないか……」

 

 

 

 遠くからの振動が微かに響いてくる中、淡い光を放つ不思議な地下洞穴内部を流れる地下水脈を下る、二台のエンジンゴムボート(警察署備品)の姿があった。

 

「やはり、これは上の戦闘の振動か?」

「あ、まただよ」

「結構深いんですけど、ここ………」

「あれだけの面子での戦いだからな。何がしかの影響が出ているのか」

 

 上からたまに僅かだが土砂が降ってくる事に、後発のボートを駆る克哉警部補と彼についているピクシーが心配そうに上を見る。先発のボートでガイド役を買って出た黒須 淳がそれとなく否定するが、先発のボートを駆るペルソナ使いの達哉が同じように上を心配しつつ、ボートを疾走させる。

 かつて同じ経路で侵入した四人のペルソナ使いに、克哉警部補、舞耶、明彦の計七人(+ピクシー)のペルソナ使いは完全な別働隊として、地下のシバルバー中枢部へと向かっていた。

 

「にしても、またここに来る羽目になるなんてよ………」

「そだね……前は舞耶ねえと五人だったっけ」

「ん? ちょっと待った!」

 

 ミッシェルとリサが感傷に浸りかけた時、明彦が鋭い声で静止をかける。

 

「どうした!」

「前に……何か見える」

「そう?」

「そう言えば何か………」

 

 速度を極端に落とした二台のボートがゆっくりと進み、淳と舞耶が川の中を覗き込む。

 そこで、ようやく何かスイカくらいの丸い物が川の中に浮かんでいるのに気付いた。

 

「あれ、これなんだろ?」

「ちょ、向こうにもあっぞ!」

「ほ、本当だ!」

「むこうまでびっしりだよ~」

「これは、まさか………」

 

 飛んで様子を見てきたピクシーの報告に、嫌な予感を感じた明彦の喉が鳴り、同じ結論に達した克哉が懐から銃を抜いた。

 

「少しバックさせておいた方がいい。君も後ろへ」

「分かった」

「え、なんで~?」

 

 怪訝に感じながらもピクシーが克哉の背後に回りこみ、ボートを反転させて少し距離を取った所で、克哉が水中に浮かぶ謎の球体に向けて発砲、直後球体は爆発して水柱を立てた。

 

「きゃ~!」

「激氣! 何これ!」

「まさかこれ………」

「やはり、機雷だ!」

「機雷って、好き嫌いのじゃなくて、あの機雷!?」

「そんな、前来た時はこんなのは………」

「どうやら読まれてたようだな………」

 

 皆が呆然とする中、克哉は他にも無数にある機雷の姿を確認して奥歯を噛み締める。

 

「これ全部!? 向こうにまでいっぱいあったよ!」

「ど、どうする情人!?」

「機雷って、どう処理すればいいんだっけ………」

「確か、一個ずつ爆破してくのよ。父さんがそう言ってたような」

「でも舞耶ねえ、この数だぜ?」

「しかも水中だ。一個ずつ狙うには、弾丸が足りないし、ペルソナだと水が邪魔になる。他にルートは?」

「無い」

「なら、やるしかないか……」

 

 周防兄弟が立ち上がってアルカナカードをかざそうとした所で、明彦がそれを制す。

 

「待ってください。オレに考えがあります」

「本当か真田君」

「ようは、水中の機雷を爆発させればいいなら………」

 

 そう言いながら明彦は周辺の壁を見回し、頑丈そうな事を確認すると召喚器を抜いた。

 

「一気に爆破します。ガードを」

「え?」

「あんた何を……」

「スカンダ!」『テトラカーン!』

 

 皆が困惑する中、克哉がいち早くヒンドゥの戦争の神カルティケーヤの別名、仏教では韋駄天とされるペルソナを召喚し、物理防御壁を形成させる。

 

「行くぞ、カエサル!」『マハジオンガ!』

 

 召喚器のトリガーを引いた明彦は、カエサルの放つ電撃魔法を直接水面から水中へと叩き込み、そこから一気に前方の機雷群へと炸裂させる。

 水を媒介として電撃魔法を食らった機雷は次々と爆発し、やがて誘爆を伴って盛大に爆風が辺りを吹き抜ける。

 

「ひゃああ………」

「ふえ~……」

「やるなあ………」

「すげえじゃんあんた」

 

 爆風が物理防御壁が弾かれていく中、舞耶とリサが思わず声を漏らし、やがて双方が完全に晴れると機雷が一掃されているのに淳とミッシェルが感嘆の声を上げる。

 

「なるほど、電撃でまとめて爆破させたのか………」

「能力の可能性を把握する、小岩さんから教えてもらいました」

「……あいつは君の世界で何をやっていたんだか」

「急ごう、こんなのがあったという事は、この先で何かをしている」

 

 克哉と明彦が笑みをこぼす中、達哉の言葉に全員が我に返る。

 

「そ、そうだよな」

「急ごう情人!」

「ともかく、レッツラゴー!」

「あ、確かこの先……」

 

 淳の静止も聞かずボートが進んだ先に、突如として滝が現れる。

 

「な、滝だと!?」

「ヤベ、忘れてた……」

「ちょっと情人ストップ!」

「時間が無い。このまま突っ込む」

「ええ!? 達哉君本気!?」

「ええい、仕方ない! 全員ペルソナを発動させておくんだ!」

「……意外と過激だな」

 

 ためらいなく滝へと突っ込んでいく達哉に、皆が慌てつつもアルカナカードと召喚器を取り出す。

 

「アポロ!」「アルテミス!」「ヴィーナス!」「ハーデス!」「クロノス!」「ヒューペリオン!」「カエサル!」

 

 滝を落下する直前、全員が己のペルソナを召喚する。

 達哉がアポロを、舞耶がギリシア神話で月を司る純潔な狩猟の女神 アルテミスを、リサが欲望をかきたてるという役目を与えられているとされるローマの恋の女神 ヴィーナスを、ミッシェルがギリシア神話の冥界タルタロスの王 ハーデスを、淳がギリシア神話でゼウスの父にして時の神、ローマ神話ではサトゥルヌスと呼ばれるクロノスを、克哉がヒューペリオンを、明彦がカエサルを呼び出し、それらでガード体勢を取ったまま轟音と共に皆が滝壷へと落ちていった。

 

「みんな生きてる~?」

 

 飛んで難を逃れたピクシーが、滝壷から這い上がったペルソナ使い達に声を掛けていく。

 

「ああ、大丈夫だ……」

「オレ達ゃ二回目だし」

「でもやっぱこれってさ」

「誰かが思い出したからか?」

「………ごめん」

『お前か~!!』

「……オレも前に同じ事をやった」

「そういえばそうだったな」

 

 頭を下げる淳に、リサとミッシェルが怒鳴り返す。

 達哉がその様子を横目で見ながら、眼前にある、端すら分からない巨大なUFOのような建造物を見据えた。

 

「これが………」

「そうだ、シバルバーの中枢だ」

「気を付けた方がいい。ここでは噂どころか思考すらすぐに具現化する。しかも無意識の内にだ。不用意に罠なぞ考えるとえらい目にあう」

「じゃあさ、じゃあさ、ケーキいっぱいとか……」

「いざ自分の思うようにしようと思ってもダメなのよね~」

「え~」

 

 淡い期待を浮かべたピクシーが、舞耶の言葉に不平を漏らす。

 

「なるべく余計な事は考えないように、だ」

「……難しいな」

「だよな~」

「考えるなって言われると余計にね~」

 

 克哉の宣言に明彦は顔をしかめ、経験者達が苦笑する。

 

「行こう。一刻も早く全てを解き明かさないと」

「ええ」

 

 達哉が先頭に立ち、全員が顔を真剣な物へと変えてシバルバー内部へと侵入する。

 だがそこで、ラストバタリオンの機械部隊が一斉に彼らの前へと立ちはだかった。

 

「オイオイ、誰だよこんなベタな展開……ミッシェル様じゃないぜ」

「オレも違う」

「私も」

「私も違うわよ」

「僕も………」

「ここにこいつらがいるという事を知ってる人間じゃないとすると」

「どうやら、待ち伏せか」

 

 周囲を取り囲む機械部隊達に向け、各々が得物やアルカナカードや召喚器を構える。

 

「強行突破するぞ! ヒューペリオン!」『トリプルダウン!』

 

 克哉が皮切りとなって、ヒューペリオンの手から素早い3連射の光る弾丸が放たれる。

 

「アポロ!」『ギガンフィスト!』

「アルテミス!」『クレセントミラー!』

 

 そこに続けてアポロの拳と、アルテミスの放った月光が包囲に風穴をこじ開ける。

 

「足を止めます! クロノス!」『マハガルダイン!』

「カエサル!」『マハジオンガ!』

 

 淳のクロノスと明彦のカエサルがそれぞれ疾風魔法と電撃魔法で機械部隊を吹き飛ばし、感電させる。

 

「まともに相手するな! 先へ進む事が最優先だ!」

「OK! 道を開けなベイビー!」

「ホオォーッ!」

 

 ミッシェルが通路を塞いでいた機械部隊をギターケース型マシンガンで薙ぎ払い、それでもなお動いて銃弾を放ってきた物にはリサが素早いカンフーの連撃をお見舞いする。

 

「道が開けた!」

「ケツまくってとっとと行くわよ!」

「OK舞耶! 駄目押しにメギドラオン!」

 

 相手が怯んだ隙を見計らい、全員が一斉に先へと進む。

 ついでにピクシーが凝縮された魔力の大爆発を叩き込み、相手がほぼ動けない状態になったのを尻目に皆が走り出す。

 

「にしてもよ、まだここで動いてんのがありやがるなんてよ………」

「だよね~」

「気付いてなかったか? 幾つかに真新しい整備か改造の痕跡があった」

「ああ」

「本当かい達哉!?」

「でも誰が!?」

 

 周防兄弟が走りながら、似たような物と《こちら側》で闘った時の事を思い出す。

 

「一人だけ、あんな物をいじれる人間を知っている」

「間違いないだろう」

「! 神取 鷹久!」

 

 舞耶も思い出したのか、思わずその人物の名を叫ぶ。

 

「待て、思ったら現実化するんじゃなかったのか?」

「多分、その必要も無い。確実と断言できる」

「最近、残党が暴れるだけだったラストバタリオンが急に活性化しだした理由もな」

「そんなにすごい人なんですか? その神取って人」

 

 明彦の問いに自信を持って答える周防兄弟に、淳が別の疑問をぶつける。

 

「正真正銘の天才だ。藤堂君達がペルソナ使いとして覚醒してセベク・スキャンダルを引き起こした人物。ライドウ君の世界だけでなく、この世界にも来てたのか………」

「ちょ~と待った。じゃあ上の騒ぎも………」

「直接かどうかはともかく、関与してる可能性は大だ! これで容疑者は固まった! 任意で引っ張る!」

「そんな余裕があれば、だ」

「また来たよ!」

「余計な事を考えている余裕もないようだな!」

「いいような、悪いような………」

 

 再度現れた機械部隊に突っ込んでいく明彦の言葉に、微妙な顔をしつつ淳はアルカナカードをかざした。

 

 

 

同時刻 シタデル 中層階

 

 鈍い音を立てて、陰陽葛葉が壁に食い込む。

 

「くっ!」

「ライドウ! 後ろだ!」

 

 らしくない失態の隙に、背後に新たな敵影が迫る事をゴウトが叫ぶとライドウは瞬時にホルスターからコルト・ライトニングを抜いて速射。

 38LC弾が襲い掛かろうとしたコピー喰奴の顔面に全弾叩き込まれ、体勢が崩れた所で壁から引き抜かれた白刃が一刀の元に斬り捨てた。

 

「おかしいな……」

「確かに」

 

 数多のコピー喰奴を倒し、息が上がり始めているライドウとアレフが、背中合わせになりながら周辺をなおも取り囲む無数の敵を見る。

 

「多過ぎる………」

「無限召喚にしても、これだけの急ピッチで出来るはずがない」

「異界の門でも開いたか?」

「だとしたら、今頃この街全てに異形が跋扈しておるわ」

 

 ゴウトも異常を感じつつ、周囲を見回す。

 すでに二人の仲魔も負傷とマグネタイト不足で数体を残すのみで、サポートに回っているヒロコは肩で大きく息をしている状況だった。

 

「どう見ても、すでにこの要塞から溢れる程の数を倒しているはず」

「……陽動のはずが、嵌められたか?」

「この大群の方が陽動か。可能性はあるな」

「そんな!?」

 

 ライドウの言葉に、アレフは顔をしかめ、ヒロコに至っては露骨に顔を青くした。

 

「これは計算外だぞ。我らは完全に孤立した」

「だが、退く事が出来ぬなら、例え敵が幾万いようと、進むのみ」

「奇遇だな。オレも同じ意見だ。一気に行くぞ!」

「ええ!」

 

 ライドウとアレフが、後ろに目もくれず突撃しながら階段を一気に駆け上がっていく。

 

『メギド!』

『アギダイン!』

『ムドオン!』

 

 後ろについたヒロコの魔法に続け、ライドウの率いるムスッペル、アレフの率いるカーリーがそれぞれ背後に魔法を放ち、二人の跡を追う。

 並み居る敵を蹴散らし進む一行の前に、一つの扉が現れる。

 

「……ライドウ」

「分かっている」

「いるな、大物が……」

 

 COMPのエネミーソナーが警告表示を出すのを見ながら、アレフはライドウと視線を合わせ、互いに無言で頷くと一気にその扉を突き破って室内へと飛び込んだ。

 

「う、ううぁああ………」

「こいつか!」

「だが………」

 

 そこにいたのは、赤と緑の交互の色合いの表皮と、頭部から同じ模様の触手を生やした一体の喰奴だった。

 だがその顔は定まった方向を見ておらず、口からはよだれが垂れ落ちている。

 

「正気を失っているのか?」

「だとしたらまずい。喰奴の暴走は半端ではない。実際…」

 

 その様子を怪訝な表情でアレフが見る中、ヒートの暴走を目の当たりにした事のあるライドウが、油断なく刀を構えようとした時だった。

 

「ウアアアァァァ!」

 

 その喰奴、バラモン教の聖典『リグ・ヴェーダ』においてもっとも美しいと表され、輝くという意味を持ちアウローラ(オーロラ)の語源になったともされる暁の女神ウシャスが咆哮を上げる。

 それに呼ばれたのか、額に螺旋状の角を持つ白馬、純潔を守る乙女にしか心を開かないとされるユニコーンがその場に出現した。

 

「! 行け!」

「オアアァァ!」

 

 危険を感じたアレフが、仲魔に攻撃命令を下し、アナンタがウシャスへと襲い掛かろうとする。

 

『セラフィック・ロア!』

 

 ユニコーンのいななきと共に、ウシャスの頭上に光輪が現れ、光が周囲を突き抜ける。

 

「ガアァ!」

「これって!」

「オオォォ……」

「ウワアアァ!」

 

 室内に入ると同時にそれを食らった二体も含め、仲魔達がその光の前に大ダメージを食らい、体勢を崩して膝をつく。

 

「破魔魔法か! しかもかなり強烈だぞ!」

「ヒロコ!」

「分かってる!」

 

 ゴウトが放たれたリンケージの予想以上の威力に舌を巻く中、アレフの指示でヒロコが仲魔達の回復に当たる。

 

「だが!」

 

 人間には効果のないリンケージと見たライドウが、瞬時にウシャスの横手に回りこみ、飛び上がりなら白刃を振り下ろそうとした。

 だがその鍔元に素早く触手が絡まり、次の瞬間には予想外の力でライドウが振り回され、壁へと叩きつけらる。

 

「ライドウ!」

「……強い」

「他とは桁違いって訳か」

 

 接近戦は不利と感じたアレフが、腰のホルスターから大型のリボルバーにも見える特殊エネルギー銃、ブラスターガンを抜くとウシャスへと向けてトリガーを引いた。

 弾丸を媒介として放たれたエネルギーが次々とウシャスへと炸裂し、その体が大きく揺らぐ。

 

「ユニコーンから潰すぞ」

「そうすればリンケージは発動しない」

 

 相手が体勢を整える前に、ライドウとアレフが狙いをユニコーンへ変え剣を振りかざし、銃口を向けた時だった。

 

「フウウゥウゥ!」

 

 突然ウシャスがその場で旋回を始め、それにあわせて頭部の触手が高速で振り回され、その軌道上の物を薙ぎ払っていく。

 

「くっ!」

「がっ!」

「ああっ!」

 

 とっさに防御体勢を取ったライドウとアレフだったが、回復に気を取られていたヒロコは振り回される触手をまともに食らい、弾き飛ばされる。

 

「ヒロコ!」

「大丈夫だ。傷は浅い。それよりも油断できぬ相手だぞ!」

 

 ヒロコの間近へと近寄ったゴウトが彼女の状態を確認しつつ、二人へと向かって叫ぶ。

 

「ウアアアァァ!」

 

 ウシャスの再度の咆哮に、新たにユニコーンが一体姿を現す。

 

「厄介だな。あのリンケージを食らえば仲魔は役に立たなくなる」

「だが奴の触手は厄介だ………オレが隙を作る」

 

 そういうや否や、ライドウがウシャスへと向けて白刃を手に突撃する。

 

「ムスッペル!」

「おうよライドウちゃん!」

 

 かろうじて回復していたムスッペルが、凄まじいまでの猛火を敵へと向けて解き放つ。

 

「アァ……」

「今だ!」

「シャアァァ!」

 

 ウシャスが猛火を浴びてたじろぐ中、まともに食らった二体のユニコーンにアナンタの顎とアレフの剣が突き立てられ、限界に達したユニコーンはその場で崩れながら消えていく。

 

「ウア…」

「暇は与えん」

 

 ユニコーンを呼ぶ隙を与えまいと、ライドウの剣が下段から跳ね上がってウシャスの首を狙うが、即座にウシャスの触手が迎撃してくる。

 

「……やはりな」

 

 ライドウは即座に持ち手を返し、絡もうとする触手を弾き返す。

 続けて迫る触手を逆に刃で巻き込むようににして下へと受け流し、その場で大きく旋回しながら横薙ぎで胴体を狙うが、ウシャスの腕が逆にライドウの胴を貫こうと繰り出される。

 だが次の瞬間、飛来した槍がウシャスの胴を貫いた。

 

「私もいるわよ……」

 

 ヒロコからの予想外の攻撃に動きが鈍った瞬間、ライドウの刃がウシャスの胴へと深く食い込んだ。

 

「ガアアアァァ!!」

 

 絶叫を上げながら、ウシャスの触手がライドウの首から頭を完全に包み込むように巻きつく。

 そのまますさまじい力でライドウの頭を締め上げようとするが、力が加わろうとした時、ウシャスの頭部を別の刃が貫いた。

 

「ガァ……」

「残念だったな」

 

 アレフが冷徹に言い放つ中、突き刺さったヒノカグツチの力でウシャスの頭部が石化していき、そして粉々に砕け散る。

 やがてその体も他のコピー喰奴同様、崩れながら消えていった。

 

「大丈夫か?」

「ああ」

 

 消えていく触手を振り払いながら、ライドウが愛刀を一振りして血を払う。

 

「……一つ気になる事がある」

「なんだゴウト」

「もし、これと同レベルの敵が、無数とまではいかなくとも、多数存在したら?」

「……まさか!?」

 

 ゴウトの予感が正しい事を、今別の場所で戦っている者達がその身を持って証明していた………

 


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