シャイニング・ブレイド 涙を忘れた鬼の剣士   作:月光花

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今回は拠点フェイズと装備確保です。

では、どうぞ。



第7話 その手に掴む二刀

  Side レオ

 

 「ハァ……ハァ……ハァ……」

 

僕は現在、アルゴ砦の街中を走っている。

 

朝のランニングは僕が小さい頃から続けてきた鍛錬であり日課だ。異世界でもそれは変わらず、朝早くから目が覚めたのは何よりの証拠だ。

 

朝日が昇り始めて少し明るくなり、色んな店から準備を始める為に人が出てくる。こんな早朝から走る人がいないのか、一瞬驚いた後に微笑を浮かべて挨拶してくれる。

 

軽く会釈して返しながら、もう20回目に近い坂道を登り始める。角度はそんなでもないけどコンクリートの地面なので、脚に働かせる力は自然と増してくる。

 

もう上着のTシャツはびっしり汗で濡れていて、両足も段々疲れてきた。顔面も汗がダラダラ流れてると思う。ペースも最初の時と比べて少し落ちている。

 

それでも、もう少しで到着するゴールまでペースを落とさないように気を入れ直し、額の汗を手で拭って地面を蹴る。

 

ちなみに、右腕の傷は朝起きたら完治しており、もう包帯は巻いていない。

 

このアルゴ砦の街は階層都市のように細かい坂が無数にあり、山のような形だ。つまり小さい上り坂と下り坂が無数に有り、ランニングコースとしてはかなりキツイ。

 

でも、景色そのものが新鮮だからか、向こう世界で街中を走っているよりも気持ちが良いし、とても楽しい。

 

それに鍛錬としても臨むところだ…………キツイけど。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……とう、ちゃくぅ~…………」

 

出発した宿屋の前まで到着し、僕は少し震える両膝に手を置いて息を整える。本当は軽く歩いて呼吸をした方が体に良いんだけど・・・・ダメ、膝が折れそう。

 

予想通りの疲れ具合だけど、坂の数が予想以上だった。街の地図を見て一番下から一番上までって感じのコースを通ったけど、登りだけでも全部で30は超えてたね。

 

「明日からはペース配分を考えなきゃね…………さて、次々っと……」

 

震えが引いてきた膝に力を入れ直し、今度は人がいない近くの草原に向かう。次は体術全般の鍛錬と筋トレだ。時間が余ったら暗器の練習もしようかな?

 

他の人が聞いたら正気を疑うかもとわかってるけど、僕の鍛錬メニューは毎日こんな感じだ。いつもは体術の変わりに木刀で鍛錬をしている。

 

んじゃあ、まずは体術をやって、それから蹴り技の練習をしよう。

 

 

 

 

 「ふぅ、終わったぁ…………水浴びでもしようかな」

 

「あら、朝早くから精が出るわね」

 

鍛錬の後のダウンを終えて宿屋に戻り、着替えを取りに部屋に来ると、換気の為に開けっ放しにしておいた窓際にリンリンが座っていた。

 

「ああ、おはようリンリン」

 

「おはよう。汗の量から見てかなり動いたみたいだけど、どれだけ鍛錬してたの?」

 

「う~ん、いつも通りの感覚だったから、多分2、3時間くらいかな」

 

「そ、そう……鍛錬自体は感心するけど、無茶はしないようにね」

 

リンリンは少し引き気味になりながら答えてるけど、まあ無理もないよね。

 

僕はボストンバッグの中から取り出したタオルで顔の汗を拭き、着替えを取り出してリンリンに水浴びに行って来ると言って部屋を出ようとする。

 

「あ、待ってレオ。昨日の件でサクヤから伝言なのだけど、今日の昼頃には準備できるそうよ。ちょうど集会があるから、その時に渡すって」

 

「昨日の件って……僕の服と武器のこと? 1日しか経ってないけど……もしかして、サクヤさん徹夜とかしちゃったの?」

 

昨日の集会が終わって宿屋へと向かう時、武器のことで悩んでいたら、レイジとリンリンの提案でサクヤさんに相談してみることになったのだ。

 

リンリンが言うには、サクヤさんは随分と特殊な錬金術を使えるらしいけど、オーダーメイドの武器だけでなく服まで注文に加わった時は、流石に申し訳無かった。

 

でも、サクヤさんは何か良い案を思い付いたらしく、笑顔で承諾。僕に合うサイズと武器の詳しい形状を聞いただけで、後は任せてくれと言った。

 

あの時はお礼を言ったけど、もし徹夜で作業に取り掛かったりなどされたら僕が申し訳なさ過ぎる。女性にとって徹夜は美容にも健康にも良くないんだから。

 

「ふふっ、いえ、本当に短時間で出来上がったのよ。すぐ傍にちょうど良い材料があったみたいでね。時間が掛かるのは武器の方らしいわ」

 

僕の心配したことをわかったみたいで、リンリンは微笑しながら答える。

 

徹夜してないなら良いけど、服のデザインとかどんなのだろう? 別に贅沢も文句も言うつもりはないけど、ちょっと気になる。

 

まあ、昼の集会で分かるんだし、その時までのお楽しみということにしておこう。

 

とりあえず、僕はリンリンにお礼を言って水浴びに向かうことにした。

 

 

 

 

「おはよう、遅かったなレオ」

 

「おはよう、レイジ、ユキヒメさん」

 

水浴びを終えて着替えた僕は食堂の一階に向かい、食事が用意されたテーブルに座る。

 

いつも鍛錬でアレだけ動くので、僕は朝食はかなり食べる方である。なので、盛られている量もかなりのものであり、周りの皆も少し驚いている。

 

「にしても、何で遅れたんだ? アルティナの家でも一番に起きてたのに」

 

「今日も早くに起きたんだけどね。街を走って鍛錬してたらかなり汗を掻いちゃって、水浴びに行って、着替えたんだよ」

 

「街中を走っていた? では、レオは銀の森でも早く起きて走っていたのか?」

 

「いや、あの日はシルディアに向かう前だったし、あんな深い森を1人で走れないよ」

 

話しながらだというのに、僕はかなりのハイペースで皿の上の朝食を消化していく。もちろん、ちゃんと噛んでるよ?

 

量はかなり多いけど、空腹を抜きにしても僕の食べるスピードは速い。でも、すぐに腹ペコになるというわけではなく、我慢も効く。本当、便利な体になったものだ。

 

「昼に集会があるらしいけど、それまで2人はどうするの?」

 

「オレはユキヒメの指導の元で鍛錬だな……新しいメニューが出来たんだと」

 

「うむ。未熟者のお前を一刻も早く、先代のように立派に鍛え上げなければな」

 

「……先代って、確かユキヒメさんの前の使い手だっけ?」

 

何度か2人の会話で同じ単語を聞いてリンリンに教えてもらったんだけど、ユキヒメさんが言う先代って人は、レイジと同じく『霊刀・雪姫』を扱うことの出来た人らしい。

 

聞けば聞くほどスゴイ人で、ユキヒメさん曰く、『今現在、この世界が存在していられるのは先代のおかげと言っても過言ではない」だそうだ。

 

リンリンもそれは事実だと言っていたけど、スケールデカ過ぎて飲み込めないって。

 

「そっか。昼まで疲れが残らないようにね。頑張って」

 

「おう! でも、もっと強くならなきゃいけないからな」

 

「心配無用だ。その辺に抜かりは無い。レオも、体を壊さぬようにな」

 

最後にレイジとハイタッチを交わし、朝食を食べ終えた僕は酒場を後にした。

 

さてと、昼までまだ時間があるし、ランニングで走った街でも歩いてみようかな?

 

 

 

 

 「うわぁ~…………露店も出てると賑わいが随分違うな~」

 

街に出てみると、ランニングの時と違って街道には無数の露店が開かれていた。食べ物のお店やアクセサリーショップも見える。

 

歩いて周りに感心していると、人ごみの中に見覚えのある銀髪と後ろ姿を見つけた。キョロキョロと周りを見る様子は、何だか僕よりも楽しんでるように見えて、とても可愛らしい。

 

「アルティナ、何してるの?」

 

「れ、レオっ!? べ、別に何でもないわよ!」

 

普通に歩いてきた僕にも気付かなかったらしく、アルティナは慌てて反応する。だけど、そう答えながらアルティナの視線がチラチラと移動しているのに気付いた。

 

その方向に視線を向けてみると、鉄板で何かを焼いている露店があった。匂いからして、鶏肉を焼いているみたいだ。串に刺しているから焼き鳥みたいなものかな?

 

「……欲しいの?」

 

「ち、違うわよっ! 別に、おいしそうだけどお金がなきゃ何も出来ないから不便だな、なんて思ってないんだから!」

 

つまり、食べたいんだけど今はお金を持ってないと。

 

確かアルティナは銀の森を出る時にそれなりの金額を持ち出してたけど、どうにも、人間とエルフでは買物の時の感覚が少し違うみたいだ。

 

僕は苦笑しながら鶏肉を2つ頼み、お金を取り出して両手で受け取る。昨日の戦闘で活躍したからという理由で、ある程度のお金は貰っている。

 

「はい、どうぞ。熱いから気を付けてね」

 

「あ、ありがとう。でも………」

 

「治癒術のお礼だよ。昨日も傷を治してもらったからね」

 

そう言うとアルティナはむぅ、と唸り、渋々という感じで鶏肉を受け取った。そのまま人ごみの中を抜けて、壁に背中を預ける体勢になる。

 

そして2人で同時に鶏肉を食べると、アルティナが笑顔でおいしいと呟いた。確かにうまい。でも、アルティナはすぐに顔を引き締めて鶏肉を食べる。やばい、見てて面白い。

 

「……ねえ、レオって、いつもあんな風に怪我するの?」

 

黙々と食べていると、アルティナが少し顔を俯かせてそんなことを尋ねてきた。身長差で横顔もよく見えないけど、声に少し悲しみの色がある。

 

「いつもってことはないよ。あっちの世界はそんなに危険じゃないし……でも、何度か鍛練で怪我して傷を作ったことはあるかな」

 

鍛練と言ってもただ体を鍛えるだけではないので、怪我をすることはもちろんあった。今でも体のあちこちに傷跡が残っている。

 

姉さんが死んでからも鍛練を厳しくしたので、当然怪我も増えた。だけど、僕の体が頑丈になったおかげで、傷跡が残ることは少なくなっていった。

 

「そう、なんだ……じゃあ、レオはこの世界に来て、後悔してないの? 何度も危ない目にあって、怪我もして」

 

「後悔、か…………多分、無いと思う。むしろ嬉しいかも」

 

「どうして? もしかしたら、死んじゃうかもしれないのに」

 

「死ぬつもりは微塵も無いよ……でも向こうじゃ、僕の世界は灰色だから」

 

最後の言葉を呟いた瞬間、自分の発言に気付いて慌てて口を閉じる。

 

おそるおそる隣に視線を移すと、ちゃんと聞えてたみたいで、アルティナが不思議そうな目で僕を見上げていた。あっちゃ~、何やってんだ僕は。

 

どうにかして誤魔化そうと考えていたのだが、彷徨わせた視線がある光景を映し、僕の意識と首は自然とそちらに向いた。そして、最後の鶏肉を食べてすぐに歩き出す。

 

「アルティナ、ちょっと待ってて」

 

「え? ちょ、どうしたの?」

 

アルティナの質問に対し、僕は無言で進行方向に指を差す。

 

その先には、3人くらいの男が集まっており、その真ん中には小柄な金髪。間違いなく、アレはエルミナだ。だけど、どうにも楽しそうに話してるようは見えない。

 

「行ってくるね」

 

そう断って、僕は今度こそ歩き出した。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

  Side Out

 

 歩いてくレオの背中を見送りながら、アルティナは先程の彼の呟きを思い出した。

 

『向こうじゃ、僕の世界は灰色だから』

 

アレはどういう意味なのだろう。

 

本人が気付いていたかは知らないが、アルティナは確かに、その言葉を呟いた時のレオの目の中に、少しだけ寂しいという思いを感じた。

 

ひどく気になるが、それをズカズカ訊くほどアルティナは無神経ではない。

 

そして、気が付けばレオとエルミナがこちらに歩いて来ていた。後ろに3人の男達がいないのを見ると、どうやらレオが叩きのめしたわけではないらしい。

 

どうやって追い払ったのかを訊いてみると…………

 

「エルミナが解放戦線の隊長と副隊長に期待されてる人だって言ったら、慌てたように必死に謝って逃げていったよ」

 

と返ってきた。

 

言っていることは事実だが、本当の意味で見逃されたのが自分達だということに逃げた男達は気付いているのだろうか。

 

「でも、大丈夫だった? エルミナ、男性恐怖症でしょ?」

 

「は、はい。少し怖かったけど、もう大丈夫です…………」

 

その事実が分かったのは昨日の酒場だったが、その時は偶然肩がぶつかった男性に対してエルミナが盛大な拒絶反応を起こした。悲鳴を上げたわけではなく、青褪めた顔で後ずさり、アルティナの背後に隠れたのだ。

 

ならば、かなりの頻度で近くにいるレオやレイジはどうなるんだろう? と思ったが、本人曰く「外見も態度も怖くないから何とか大丈夫」らしい。

 

その時、フェンリルが複雑そうな顔をしていたが、その様子を察したレオは何も言わなかった。

 

「……そろそろ時間かな。僕はもう酒場に行くけど、2人はどうする?」

 

「私も行くわ。元々特別な用事があったわけでもないし」

 

「わ、私も行きます。1人でいると、怖いので……」

 

意見が一致し、3人は並んで歩き出す。

 

中心にレオ、右にエルミナ、左にアルティナという両手に花なのだが、レオ本人は何かあった場合すぐに2人を助けられるようにこの位置にしたのだ。

 

優しいのか、それとも鈍いのか、よく分からない気遣いだった。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 「あら、3人とも早いわね」

 

酒場に到着した3人を出迎えたのは、椅子に座っていたサクヤだった。

 

集会を開いた張本人だからか、それとも隊長だからか、どちらにせよ一番最初に来ているのはレオ達にとっては充分に驚きだった。

 

しかし、そんな驚きを他所にして、サクヤは思い出したように手を叩き、何処か嬉しそうにレオに近寄ってきた。その様子は、何かを自慢したがる子供のように見える。

 

「レオ、リンリンから聞いていると思うけど……あなたの服、もう出来てるわよ。奥の部屋に置いてあるから、着替えてらっしゃい。きっと似合うわ」

 

「は、はい……わかりました」

 

上機嫌なサクヤの笑顔に押され、レオは若干戸惑いながら奥の部屋に入っていった。

 

その後、しばらくして酒場には人が集まり、集会が開始された。

 

 

 

 

 「急に集まってもらってごめんなさい。今日は、ちょっと興味深い情報を仕入れてきたの。白竜教団の巫女のことよ」

 

「白竜教団って確か、前にヴァレリアが闇の勢力の侵攻を受けた時、皆の中心になって戦ったっていうやつですよね? そこの巫女さんがどうしたんですか?」

 

前にリンリンとユキヒメに聞いたことを思い出し、レイジが訊ねる。

 

「その巫女が守護するエトワール神殿は帝国の攻撃で破壊されたらしいのだけど……その巫女は護衛の竜人と一緒に脱出して、今はこの砦から少し離れた別殿で独自に抵抗を続けているらしいの」

 

「では、これからその巫女と竜人に協力を頼むのですか?」

 

フェンリルの言葉にサクヤは頷くが、その表情はすぐに曇る。

 

「もちろん、そのつもりよ。でも、神殿周辺の敵も活発で容易には近付けないの」

 

「では、どうすれば? 放っておけば、その別殿もいずれ帝国に……」

 

皆の思いを代表するようにエルミナがおそるおそる問う。

 

だが、サクヤはリーダー、指揮官はこの程度で動揺などしない。

 

「しばらくは神殿方面に偵察隊を出すわ。敵の様子もわからない今の状況じゃあ、それしか手は無いし。敵に隙を作って神殿と接触を図ることにする」

 

情報とは、大規模戦闘において個人の力よりも重要な要素である。

 

敵はどれだけいるのか、敵はどこに配置されているのか、敵はどんな奴がいるのか、これらを戦う前に理解しておけば、戦略を練るのが苦手な人間でも、圧倒的な戦力差、あるいは一騎当千の戦力でも現れなければ、恐らく負けはしない。

 

つまり、情報を知る勢力はそれだけ強く、情報を知られた勢力はそれだけ弱くなるのだ。

 

「それで、今から偵察隊の第一陣を出してみようと思うの。神殿に通じる街道の様子が知りたいし、出来る限り敵を減らしておきたいの」

 

街道とは、敵味方問わずに一番通行に使われる道であり、敵と一番遭遇しやすい場所でもある。そこの敵を先に排除するのは、戦略面で常識だ。

 

「リック、その仕事を頼んでいいかしら。少数精鋭だから2、3人が限界だけど、連れて行くメンバーはあなたに一任するわ」

 

「わかりました。ですが、メンバーは俺1人だけ構いません。わざわざ死神と一緒に行きたいヤツなんかいないでしょうから」

 

サクヤの頼みにリックはすぐに頷くが、周りを拒絶するオーラ全開の発言と雰囲気に、サクヤの表情は暗くなった。

 

その時、微妙な空気に支配された酒場の中で、レイジが1人立ち上がった。

 

「ちょっと待った、勝手に決めるなよ。オレも一緒に行くぜ」

 

「なに? お前が?……断る。役立たずがついて来ても迷惑なだけだ」

 

「おいおい。迷惑かどうかは行ってみなきゃわかんないだろ。それに、もし本当に迷惑で邪魔になるなら、オレのことは遠慮なく見捨てればいい……それでいいだろ?」

 

会話が進むごとに互いの口調が強くなり、後半は半分睨み合いになるが、先に諦めたのはリックの方だった。

 

「……勝手にしろ。くたばろうが面倒は見ない」

 

「オレだって見てもらおうとは思ってない」

 

そう言って二人は顔を逸らし、レイジは座り、リックは壁に背中を預ける。

 

再び空気が重くなり、ここで話し合いは終了かのように思われた。

 

しかし…………

 

「あっと、すいません。僕も立候補していいですか? 今レイジが言ったのと同じく、邪魔になるなら見捨てても構わないので……」

 

新しく聞こえてきた声に反応して全員がそちらを向くと、そこにいたのはレオだ。

 

しかし、開いた扉から顔だけを出しているという状態で、非常におかしい。

 

「…………レオ、何やってんだ?」

 

「いや、変なのは理解してるけどね。今の自分の格好がちょっと恥ずかしくて……」

 

「ああ、着替え終わったのね。何を恥ずかしがってるのよ……さあ、皆にも見せてあげなさい。大丈夫、似合ってるわ」

 

「いや、そういう問題じゃなくて……うおっ! 見かけによらず力強っ!?」

 

抵抗も虚しく、サクヤに腕を引かれたレオは扉から引っ張り出される。

 

下には黒いズボンを穿いて、上は対極の白いYシャツ。その上には漆黒のロングコートを着ているのだが、上から下まで所々に赤色のラインが走っており、手首や足首の部分だけは白色で、腰ベルトが装着されている。

 

ちなみに、コートの中のYシャツには飛針・鋼糸を収納する専用の改造ホルスターが装備されており、両手には指だしグローブ、両足には鉄板を仕込んだブーツだ。

 

上から下まで全て真っ黒というわけでなく、所々に白色を混ぜたデザインはサクヤのドレスと何処か似ている。ロングコートを着ているというのに、周りの人にはそれを含めて1つのスーツのように思えた。

 

しかも、ロングコートと同じ漆黒の髪と赤い瞳のおかげで、充分に似合っている。

 

エルミナは手を合わせて、うわ~、と感心しているのだが、レオ本人は格好そのものが恥ずかしいようで、少しだけ顔が赤い。

 

「はい。こっちも出来てるわよ」

 

サクヤが正方形の箱を1つ差し出してくる。

 

レオは両手に持って深く一礼し、蓋を開けてその中身を見る。

 

そこにあったのは、2本の小太刀。刀身の反りや長さなども全て小太刀そのものだ。

 

一刀は鍔、柄が共に黒い小太刀、名前は“麒麟”

 

もう一刀は刀身が雪のように白く、銀色の鍔に白い柄の小太刀、名前は“龍鱗”

 

麒麟は夢の人の姉が持っていた小太刀、龍麟はその姉の夫が扱っていた小太刀の名前だ。本当なら龍麟は二本一組の名前だが、一本だけで貸してもらうらしい。

 

レオは二刀を鞘に納めて腰に差し、膝を折り、サクヤさんに深く頭を下げた。

 

サクヤさんは何も言わず、レオの肩に手を置いて微笑み、頑張って、とだけ言った。

 

レオもそれに無言で頷いて立ち上がり、ユキヒメを傍に連れたレイジ、同じくエアリィを連れたリックの2組と一緒に歩き出し、酒場を後にした。

 

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

主人公、今回でやっと自分の武器と装備を確保しました。これから本領発揮です。

それと、今回主人公が手にした小太刀、麒麟と龍麟ですが……龍麟の色とかは分かるんですが、麒麟がさっぱり分かんないですよね。

もし詳しい形状とか特徴、色などがわかりましたら教えていただけると嬉しいです。

では、また次回。


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