シャイニング・ブレイド 涙を忘れた鬼の剣士   作:月光花

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今回は戦闘後の話し合いです。

では、どうぞ。



第6話 再会と会合

  Side Out

 

 「レオよ、少し顔色が悪いが大丈夫か? まだ休んでいた方がよいのではないか?」

 

「さっきオレもそう言ったんだけどな……傷の治療もしたし、毒も抜けたから平気だって言うんだよ」

 

「本当に大丈夫だよ。ちょっと体がダルイだけだから、それに話し合いだけなんだし、座ってれば何の問題も無いよ」

 

戦闘が終わり、アルゴ砦へと帰還したレオ達は、酒場に集まった。

 

帰還してすぐにちゃんとした治療を受けたレオの右腕には白い包帯が巻かれており、少し血が抜けたからか、それとも毒のせいか、その表情は何処かくたびれている。

 

だが、先程酒場のマスターに“あ、すいません。ジョッキビール下さい”と普通に酒を頼んでアルティナに怒られていたので、大丈夫なのは本当のようだ。

 

ちなみに、レオの制服は血を吸って汚れてしまったので現在は洗濯中である。よって、今のレオの上半身は半袖の黒いTシャツが一枚だ。

 

「皆、お疲れさま。どうやらさっきのは、敵の偵察隊だったみたいね」

 

そこへ、奥の方から1人の女性が柔らかい微笑を浮かべながらやって来た。

 

身長は160程度で、目と髪の色は共に黒。解けば腰まで届きそうな長い髪をリボンで結び、ポニーテールにしている。

 

服装は黒を基調とした独特のデザインのドレスで、その身から発する神秘的な雰囲気と大人びた美貌によって、違和感無くそれを着こなしている。

 

「ん?……あ、あれぇっ!? サクヤさん!?」

 

「おや、隊長。おかえりでしたか」

 

「隊長? もしかして……サクヤさんがこの戦線の隊長!?」

 

驚きの声を上げてレイジが立ち上がり、フェンリルがその女性、サクヤと当たり前のように会話する。しかも敬語で。それによってレイジはさらに混乱し、首を傾げている。

 

「レイジ、あの人と知り合いなの?」

 

「え? いやいや、お前も知ってるだろ。剣道部の顧問の人だよ」

 

「ごめん、僕部活やってなかったから……あ、でも、噂は聞いたことあるかも。剣道部にものスゴイ美人の顧問がいるって。僕会ったことなかったけど」

 

自分が部活など入った日には他の部員全員が幽霊部員になってしまうと簡単に予測出来たレオは、基本的に放課後は即帰宅して鍛錬、あるいは街での娯楽を楽しんでいた。

 

だが、そんなレオからしてみれば、何故剣道部の顧問の人が異世界で戦線のリーダーを務めているのか、という疑問しか出て来ない。

 

「一応、あっちの世界でオレに剣を教えてくれた人だから……言ってみれば、オレの師匠ってことになるのかもな」

 

「なんだかハッキリしないわね」

 

「えっと……つまり、どういうことなんでしょう?」

 

首を傾げながらのレイジの発言にアルティナの呆れた様子の言葉とエルミナの疑問の声が返されるが、レイジ本人も状況を理解できず、回答に困っている。

 

「オレだってどういうことか説明してほしいよ。それに一番の疑問は、なんでサクヤさんがこっちにいるのかってことなんだけど?」

 

剣道部の顧問と異世界の戦線リーダー、どちらも副業でやるには片方が少し釣り合わない職場関係だ。気にするなと言われても不可能だろう。

 

だが、問われたサクヤは微笑を浮かべて柔らかく答える。

 

「ふふっ、まあ、そのうちわかるわよ。それとリンリン、レイジをここまできちんと案内してくれたみたいね。長い道のり、ご苦労様」

 

「いいえ。これぐらいなんでもないわ。それはそうと、久しぶりの再会だし、知らない人にも丁度良いわね。場を借りてちゃんとご挨拶させてもらおうかしら」

 

言うとリンリンはテーブルから飛び降り、すぐにその体が光で包まれた。光はすぐに収まるが、その場所には1人の少女が立っていた。

 

黒髪に金色の瞳をしており、フェンリルのとは違うが、何処か中国風の服を着ている。そして頭部には猫耳が出ており、尻尾は先端だけ毛の色が白い。

 

つまり、これは獣人形態のリンリンだった。

 

「え? えええええ~っ!? な、なんだこりゃぁっ!?」

 

「にゃはははは! サックヤぁ~! ただいまぁ~!」

 

一瞬呆然としたレイジが盛大に驚きの声を上げる中、獣人の姿となったリンリンは陽気に笑いながらサクヤ目掛けて跳躍し、抱き付いた。

 

「あぁん、もう! やっぱりこれなの? こら、リンリン! 抱き着かないの! くすぐったいじゃないの」

 

「いいじゃん、いいじゃん、久しぶりに会ったんだから。これぐらいサービスしてよ。にゃははは!」

 

その様子はクールという言葉が似合う感じの猫の姿とは大きく違い、何処までも無邪気に笑う、天真爛漫という感じになっている。もはやギャップが効くレベルではない。

 

「り、リンリンが……獣人に………!?」

 

「何よ。リンリンがどうかしたの?」

 

「い、いや、喋る猫なのは知ってたんだけど、まさか獣人の姿に変身できるなんて……今まで全然知らなかったぞ!?」

 

呆然としているレイジの様子にサクヤは不思議そうな表情をするが、レイジは動揺を残ししながらリンリンに問いを飛ばす。

 

クラントールから一緒にいたが、レイジもその姿を見るのは初めてだったらしい。

 

「別に隠してたわけじゃないんだけどね。戦う時ぐらいしかこっちの姿には変身しないからさ、今までは見る機会が無かったってことね」

 

「そう言う問題か?」

 

「そういうもんよ、あんまり深く考えないことね。無駄に疲れるだけよ?」

 

「あぁ……そーすか」

 

返答の度に脱力し、仕舞いにはレイジは物凄く疲れた様子で肩を落とす。

 

その様子を見てアルティナやエルミナも質問する気が無くなったらしく、それ以上リンリンに対して質問が飛んでくることはなかった。

 

「まったく……レイジの奴、1人で慌てて騒ぎおって……ん? お、おい、レオ! 大丈夫か、顔色が真っ青だぞ!?」

 

テーブルに座って話を聞いていたユキヒメが溜め息を漏らすが、今までずっと黙っていたレオの方に目を向けると、ユキヒメは慌てた様子で肩を揺らして話し掛ける。

 

今のレオの顔は明らかに青褪めており、汗をびっしりと掻いている。視線もハッキリと定まっておらず、どう見ても異常だった。

 

ユキヒメの慌てる声に反応したのか、レイジ達の視線もそちらに向き、全員がレオの顔色の悪さに目を丸くした。

 

すぐにアルティナが立ち上がって駆け寄ろうとするが、それよりも早く青褪めた顔のレオが立ち上がり、フラフラした足取りで歩き出す。

 

レオはリンリンとサクヤの前で足を止め、顔を俯かせたまま数秒間沈黙する。

 

だが、やがてその口から呟きが零れる。

 

「も…………」

 

『も…………?』

 

全員が見詰める中、レオが流れるような動作で動く。

 

床に膝を突き、床に手をつき、重力に逆らうことなく腕を曲げていく。そのまま頭をこすりつけるかのように、眼下へと落とす。

 

「申し訳ありませんでしたあぁぁぁ!!!!」

 

その声は酒場内に反響し、言葉通りに謝罪の意を込めた必死さが伝わる。

 

その平身低頭の構えは、エンディアスに生きる者達も名を知っているものだった。

 

すなわち……土下座……『DO・GE・ZA』である。

 

「……レオ、何で土下座なんてしてるんだ?」

 

「何言ってるのさレイジ。知らないとはいえ、僕リンリンの頭とか背中とか顎撫でたんだよ? 毛並みをブラッシングで整えたんだよ? 肩に乗ってるとき偶に軽く頬ずりしたんだよ? 女性の体にベタベタ触ったんだよ? セクハラ通り越して強姦一歩手前だよ? もう死ぬしかさせてください」

 

「いや、お前が何言ってんだ!? 最後明らかに日本語崩れてるぞ! 待て! とりあえず右手に持つナイフを放せ! そして深呼吸しろ! 頼むから落ち着けー!!」

 

青褪めた顔でナイフを振り上げるレオの体をレイジが羽交い絞めにして必死に抑え、続いてフェンリルやアルティナやエルミナもレオを抑える。

 

流石にコレは無視出来ないと思ったのか、リックとアミルも加わっている。

 

それから、レオが落ち着きを取り戻したのは数分後の話だった。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

  Side レオ

 

 「…………ごめんなさい。少し取り乱しました」

 

「いや、少しってレベルじゃねぇだろ……いきなり自分目掛けてナイフ振り上げるもんだからマジで焦ったぜ……しかも背が高くて力も強ぇし、抑えんのも一苦労だ」

 

数分後、どうにか落ち着いて正気を取り戻した僕は、現在レイジ達に深く頭を下げている。先程と同じ土下座だが、込める謝罪の意はさらに重い。

 

とりあえず、撫でたことに関してリンリン本人は全く不快に思っておらず、笑顔で許してくれたのだが、最後に“むしろ気持ち良かったよ!”と笑顔で言ったのは色んな意味で誤解を招きそうだった。

 

そして、今はこうして取り乱したことについて謝罪したというわけだ。

 

それと、レイジに言われて気付いたけど、どうやら僕の身長はいつの間にか結構伸びたらしい。最近の身体測定では172くらいだったのだが、今では175を超えて180に届く数歩手前のようだ。

 

「それでサクヤ? 次の仕事は?」

 

「ふふっ、今度は思いっ切り体を動かす仕事よ。解放戦線に加わって戦いの方を手助けしてくれるかしら?」

 

「本当!? やった! まっかせて! 今までサクヤの指示通り戦いは出来るだけ控えてたから体がなまっちゃいそうだったよ~」

 

ピョンと軽く飛んだリンリンは笑顔で軽いシャドーボクシングを始める。その拳速は笑顔に反して鋭く、小さな風切り音まで聞こえる。

 

どうやら、獣人姿のリンリンは拳や蹴りで戦うスタイルのようだ。

 

「あなたの腕には期待しているわね。でも、今は急ぎの仕事もないし……普段はいつもの姿で楽にしていていいわよ」

 

サクヤさんがそう言うとリンリンは再び光に包まれ、小さい黒猫の姿へ戻った。そのままリンリンはテーブルの上に跳び、続いて僕の左肩に乗る。

 

「……では、お言葉に甘えてそうさせてもらうわ……うん。やっぱり、こっちの姿の方が楽ね。この場所も、あまり揺れないから落ち着くし」

 

「あはは……ありがとう、リンリン」

 

苦笑しながらお礼を言って頭を撫でていると、サクヤさんが少し不思議そうな表情をしながらこちらに歩いてきた。

 

「随分と懐いたのね、リンリン。あ、初めまして、確かあなたの名前は……」

 

「レオです。こっち風に名乗るなら、レオ・イブキ」

 

「リンリンから話は聞いてるわ……つい最近、こっちの世界に来たって……あら? あなた、その目……もしかして……」

 

握手をして話していると、サクヤさんは僕の顔を、正確には数日前に赤色に変わった僕の目を見て一瞬呆然として、真剣そうな表情になった。

 

すると、サクヤさんは突然僕の頭に手を回し、そのまま僕の顔を抱き寄せるように自分の眼前に引き寄せた。身長は僕の方が上なので、自然と前傾姿勢になってしまう。

 

「あ……あの……えっと……サクヤ、さん?」

 

状況がまったく理解出来ない僕はなんとか声を出すけど、サクヤさんは何も答えず、多分だけど僕の赤い目をじっと見詰めている。周りの皆も驚きで何も言えないようだ。

 

僕の目の前にはサクヤさんの顔があり、これほど近くで見ると、改めて本当に美人だと思える。でも、近過ぎる。どっちかの顔がもう少し前に進めば鼻先がぶつかりそうだ。

 

顔が少し赤くなり、熱くなっているのは仕方ないと思う。こんな状況、誰だって無表情でいられるわけがない。

 

僕としても女性の顔をまじまじと見詰める度胸は無いのだが、不思議と僕の視線はサクヤさんの黒い瞳から逸らすことが出来なかった。

 

だが、1、2分ほど経ったくらいで固定されていた視線が動けるようになり、サクヤさんも僅かに僕から顔を離す。だが、頭に回された手はそのまま。

 

「……やっぱり、気のせいかしら……?」

 

「サクヤ。考え事の途中に悪いのだけど、そろそろ放してあげたら? 彼、さっきから目のやり場に困って視線が左右に泳ぎ回ってるわよ」

 

「え?」

 

リンリンの言う通り、視線が動くようになったんだけど、正面に見えるサクヤさんの顔の他にも、ドレスで胸の谷間が大胆に露出されているので、本当に困っている。

 

「ご、ごめんなさい! 私ったら、突然変なことしちゃって………」

 

「い、いえ、お気になさらず……」

 

恐らくまだ赤い顔を引き攣らせながら何とか答える。

 

サクヤさんは今になって自分のしたことを理解したように頬を染め、少し恥ずかしそうにしている。もしかして、今の無意識にやってたの?

 

「あ、そうだ。リック! ちょっとこっちに来て! 大事な話があるの!」

 

「……なんです?」

 

先程から壁に背中を預けて話を聞いていたリックがこちらに顔を出し、サクヤさんは少し待ってて、と言い残して部屋を出て、1分も経たずに戻ってくる。

 

「長いこと待たせてごめんなさい。ようやく見つけられたわ。この子を……」

 

悲しい表情をしたサクヤさんが扉を開けると、そこには修道服を着た女の子が一人。

 

長い髪は透き通るようにサラサラの金髪で、瞳は深い碧眼。纏う雰囲気はおっとりとおとなしさを混ぜたような感じだ。

 

一見、清楚なシスターその物に見えたのだが、着ている修道服のスカートが異常なまでに短くて驚いた。ミニスカシスターって実在したんだ。

 

何を信仰しているのかは知らないけど、あの格好は色んな意味で大丈夫なのかな? 礼節的な意味でも、周りの人の視線的な意味でも。

 

「っ!?……エアリィ……!」

 

「エアリィ!」

 

「リック……アミル……! よかった……また会えた……!」

 

「アミルと同じようにして連れて来たわ。彼女と同じで、それしか助ける方法がなかったとはいえ、ごめんなさいね……」

 

「いえ、いいんです。また会えただけでも。だからサクヤさん、ありがとう!」

 

エアリィと呼んだ少女の姿に驚きながらも、リックとアミルは安心するように、嬉しそうに、その子へ駆け寄る。エアリィも笑顔だが、若干涙声だ。

 

ただ、悲しそうに、辛そうに話すサクヤさんの様子とその発言に色々と少し引っ掛かったけど……コレについて触れてはいけないと思う。少なくても良い話では無いと思う。

 

「そう言ってくれると、私としても助かるわ……それじゃあ、今日の話し合いはここまでにしましょう。新入りの皆は疲れてるだろうから、ゆっくり休んで。リンリン、案内をお願いできる?」

 

「ええ、わかったわ。宿屋に連れて行く」

 

「それじゃあ、サクヤさん。お疲れ様です!」

 

「ええ、お疲れ様」

 

レイジの言葉に答えたのを最後に、僕達はリンリンの案内を先頭にして宿屋へと向かい始めた。やはり全員、少しは疲れていたようで、その間はろくな会話も無かった。

 

こうして、僕達のヴァレリア解放戦線での1日目は、幕を閉じた。

 

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

主人公、実は本人も知らない内に犯罪者になりかけていましたwww

次の戦闘はもう少し先かもしれません。拠点フェイズというやつです。

では、また次回。





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