シャイニング・ブレイド 涙を忘れた鬼の剣士   作:月光花

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第5話 初めての戦場

  Side レオ

 

 しばらく走って到着した場所は、所々に岩や坂が盛り出ていて、敵の迎撃に適した場所だった。だけど、その地形のせいで僕達も敵が見えない。

 

今のところ、僕の肉眼で確認出来る敵は正面の遠くにいる大型の蜘蛛と、蜂が3、4匹くらいだけど、たぶん奥の方にもいると思う。

 

にしても……覚悟してたけど、何処までこの世界の生態系は異常なの? 蜂の方は全長が一メートル近く有りそうだし、蜘蛛なんて下手したら太ももに届きそうなデカさだよ?

 

まあ、ゴブリンやケンタウロスなんて種族がいるくらいだし、このくらいは普通だってリンリンも言ってたけど、食物連鎖ってどうなってるの?

 

…………うん、やめよう。しばらく食事が喉を通らない気がする。

 

とりあえず、全体を見渡すことが出来ないので『心』を使って周辺の敵の気配を探ってみると、見えないだけで周りには随分と敵がいた。30はいるかも。

 

「……あれ? リックとアミルはどうしたんだ?」

 

「えっと……アミルさんが集まってる敵を見つけて……」

 

「そうしたら止まる間もなく一人で突っ込んでいったわ。大丈夫なの?」

 

「リックの腕ならそう簡単に不覚は取らんだろうが……流石にこの数のど真ん中となるとヤバイかもしれんな。しかし、これでは合流しようにも位置がわからん……」

 

答えるよりも先に意識を集中、『心』の感知範囲をさらに押し上げ、モンスターが密集している場所の中、そこからリックの気配を見つける。

 

でも、リックの近くにいるアミルの気配がハッキリと見えない。おかしい。街中では気配を覚えたし、確かにリックと一緒にいるはずなのに。

 

とりあえず、一緒にいるのは確かなようだから問題ないだろう。

 

そう思いながら周りを見て、『心』で感じ取った気配とその場所を照らし合わせた最短のルートを描き、可能だと判断する。

 

視線を向けた先には軽い坂道があり、坂の初め辺りに巨大蜘蛛、スパイダーと同じく巨大な蜂、スティンガーが一匹ずつ並び、壁のように立ち塞がっている。

 

「……あの坂道を抜ければ、先回りする形でリックと合流できる。アルティナ、エルミナ、援護頼めるかな?」

 

「もう、やっぱり1人で行くんじゃない……私はスティンガーをやるわ」

 

「わ、わかりました! では、私はスパイダーを……」

 

溜め息を吐いたアルティナが弓を構え、緊張した様子のエルミナが杖を構えて先端の赤い宝玉を輝かせる。それに反応したモンスターが何体かこちらに向かってくる。

 

「レイジとフェンリルさんは他の皆と一緒に逆方向から進んで。そっち方が少し敵が多いけど、上手くいけば挟撃出来る」

 

「わかった。お前も気を付けろよ」

 

「こっちは4人で充分だ。お前はリックを頼むぞ」

 

「了……解っ!!」

 

スタートダッシュのように地面を蹴り抜き、走り出す。

 

まだ僕自身もこの速度には慣れてないけど、こんな状況だ。理由は知らないが、上昇した身体能力を存分に当てにさせてもらう。

 

僕が走り出したのに続き、放たれたアルティナの矢が正確にスティンガーを撃ち抜き、エルミナの杖の宝玉が光ると共にスパイダーの全身を炎に包まれ、燃えていく。

 

意外なことに、エルミナが覚えている魔法は火と地の属性を中心とした攻撃魔法だけらしい。その破壊力は2、3秒で燃え尽きたスパイダーの体でよく分かる。

 

僕は青い光となって溶けていくモンスターの死体を軽く飛び越え、速度を殆ど殺さずにそのまま坂道を走っていく。この先にも何体か敵がいる。

 

さあて、頑張るとしますか。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

  Side Out

 

 「……副隊長! オレ達も行こう!」

 

「ああ。前衛はオレとお前、後衛はアルティナとエルミナで行くぞ。続け!」

 

両手の鉤爪を構えるフェンリルを先頭に、レイジ達も武器を構えて突撃する。

 

まずエルミナの火属性魔法、ブレイズがスパイダーとスティンガーの群れの中心で炸裂し、混乱して周りを飛び回るスティンガーをアルティナの矢が正確に撃ち落していく。

 

その隙を付いてレイジとフェンリルが敵の群れに飛び込み、混乱した中で思うように動けない敵を確実に仕留めていく。もちろん、後ろのアルティナとエルミナには敵を寄せ付けない。

 

スパイダーが白い糸の塊を吐き出し、スティンガーが鋭い針を弾丸のように放つが、糸の塊はレイジの大太刀とフェンリルの鉤爪によって斬り裂かれ、飛んでくる針は避けられて同士討ちが起こる。

 

針を突き出して突進してくるスティンガーの攻撃を横に飛んで避けたレイジの右薙ぎが一閃。その体をすれ違い様に真っ二つに両断し、刃を返して放たれた左逆袈裟の斬撃で糸の塊を斬り裂く。

 

レイジの横をフェンリルが素早く通過し、攻撃した直後のスパイダーを両の鉤爪で串刺しにする。鉤爪はすぐに引き抜かれ、左右に振り抜かれてスティンガー2体を4つに分割する。

 

さらに麻痺毒が塗られた1本のダガーが投擲され、それが突き刺さったスパイダーは軽い悲鳴と共に痙攣を起こして動けなくなる。

 

そこへレイジが突撃し、側面から近付いたスティンガー達をアルティナが撃墜する。

 

スパイダーを大太刀の3連撃で仕留めたレイジは一先ず後退し、フェンリルと背中合わせになって防御を固め、集まりだしたモンスター達の攻撃を耐え凌ぐ。

 

2人は徐々に囲まれ始めるが、モンスターが密集した場所にエルミナのブレイズが炸裂し、包囲網に大きな穴が生まれる。それを待っていたレイジとフェンリルは並んで突撃し、再び敵を殲滅する。

 

即席のチームだというのに、その連携は敵の数をものすごい勢いで削っていった。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

  Side レオ

 

 坂道を登った先にはスティンガーが2体待ち受けていた。

 

2体から同時に放たれた針を横に転がって回避し、立ち上がると同時に両腕を振るって袖の中から3番鋼糸を射出。巻きつくと同時に腕を引き伸ばし、体を両断する。

 

再び走り出し、真っ二つになった2体のスティンガーの横を通り過ぎるた所で、坂の下にリックの姿を見つけた。やはり、その周りにアミルの姿は見えない。

 

リックはスティンガーとスパイダーに囲まれながらその手に持つ刀身が翡翠色の大剣を苦も無く振り回している。すごいな、レイジと同じ位の腕力かもしれない。

 

しかも、気のせいかな? リックの剣筋がレイジのそれにかなり似ている気がする。

 

唐竹に振り下ろされた斬撃がスティンガーを、続く右薙ぎの斬撃がスパイダーの飛ばした糸の塊を、振り向き様に返す刃で放たれた左薙ぎの斬撃がスパイダーの頭を刎ねる。

 

その動きは常に全方位に目を向けたもので、アレは僕の……御神流のものと少し似ているが、同時に明らかに違う。十数年間見てきた僕だから良く分かる。

 

確かにすごいが、あのままではダメだ。リックの噂が本当だとは思えないけど、アレではいつか自分だけでなく、本当に味方すら殺してしまう。

 

(急がないと……! どっちにしても、あの数を相手に孤立してたら危ない……!)

 

走る速度をさらに上げて、前方から迫ってきたスティンガーの突進に合わせて蹴りを放ち、直撃の瞬間に体を反転させて『猿(ましら)おとし』で地面に叩き付ける。

 

そこから左腕の7番鋼糸をスパイダーの1体に巻きつけ、跳ね上げるように全力で腕を振るい、その体を僕目掛けて引き寄せる。どうにも、上昇したのは膂力全般のようだ。

 

引き寄せたスパイダーを『徹』を込めた右足蹴りで頭蓋を砕き、右腕の袖から引き抜いて投擲した飛針を他のスパイダーの複眼に命中させる。

 

悲鳴を上げてバタバタと暴れるスパイダーの体をサッカーシュートのフォームでふっ飛ばす。随分キレイなフォームで決まったからか、スパイダーは岩に激突し、絶命する、

 

その死体を通り過ぎ、坂を何度か跳んで下りると、リックの近くに辿り着いた。見てみると、スパイダー2体と青色の巨大なサソリを相手にしている。

 

ひとまず飛針で援護しようと左の袖に手を伸ばすけど、背後からの気配を感じて即座にその場から飛び退き、立ち上がりながら背後を振り返る。

 

そこには、リックが戦っていたのと同じ青色の甲殻を持つ1メートル半を超す巨大な大サソリがいた。しかも、こっちは二匹。

 

僕がさっきまでいた場所にはサソリの尾の先端にある毒針が突き刺さっている。致死毒ではないだろうけど、針のデカさが異常なので当たったらかなり痛そうだ。

 

それと毒針もだけど、両腕にある触肢もデカイので、気を付けないと。

 

「これは……下手に暗器を使わない方が良いかな?」

 

今の位置関係は、正面と右側にサソリのモンスター、スコーピオンがそれぞれ1体。左側では3体のモンスターと交戦するリック。

 

敵を引き連れて援護に向かうよりも、先にこっちを片付けた方が良さそうだ。

 

息を吐いて軽く肩の力を抜き、腰を少し落として、両手で拳を作って構える。

 

左足はそのままで右足を前に出し、右拳を少し下がり気味に、脇を閉めた左腕の拳を緩めて顔の左側近くに設置する。僕自身で思い付いた独特の構えだ。

 

右側のスコーピオンが突き出してきた毒針を右側へのステップで回避し、すかさず側面へと回り込む。もちろん、もう1体が攻撃出来ないよう右側へ。

 

捕まれば胴体を真っ二つにされかねない触肢が突き出されるけど、僕は触肢の外側を右脚で蹴り飛ばして軌道を大きく逸らす。

 

即座に右脚を引き戻し、がら空きのスコーピオンの甲殻に左正拳突き、右のブロー、左脚での回し蹴りを叩き込む。最後の蹴りは『徹』を込めたので、少なからずダメージは与えたはず。

 

吹き飛んだスコーピオンは何とか立ち上がろうとするけど、さっきの打撃が効いたみたいで思うように動けない。

 

右腕から3番鋼糸を放ってスコーピオンの尾に巻きつけ、もう1体を警戒しながら腕に力を込める。サソリの尾は節に分かれて曲げられるから、斬るのは難しくないはず。

 

だけど、その時偶然、僕の視界にリックの真後ろで尾を引き絞り毒針を突き出そうとしているスコーピオンが映った。見た所、リックはまだ気付いてない。

 

「くっ…………!」

 

考える間もなく、僕は左腕を振るって7番鋼糸を飛ばし、腕を引いてリックの真後ろにいたスコーピオンの尾を締め上げる。

 

その時、3番鋼糸を通して右腕が強く引っ張られた。そっちを見ると、さっき吹き飛ばしたスコーピオンがもがくように尾を振り回している。

 

3番鋼糸は高摩擦を発揮する為に極細なので、決して頑丈ではない。右足に踏ん張りを効かせ、右腕を引き抜いて一瞬で尾を両断する。

 

だけど、左腕を動かせず、右腕を引き戻した瞬間の隙を狙ったように、残っていたもう1体のスコーピオンが背後で毒針を振り上げていた。

 

迎撃の手段が無い僕は無理矢理にでも体を動かし、その瞬間に発揮出来る限りの力で右足で地面を横に蹴った。でも、それでは避け切ることは出来ない。

 

避け切れなかった毒針は僕の右腕を制服ごと少し深く斬り裂き、僕の体ではなく地面に突き刺さることになった。

 

「ぐっ――っ―――!」

 

右腕から鮮血が飛び散り、痛みが走るが、それを気にしてられる状況じゃない。

 

すぐにその場から後ろに飛び退いて両腕の触肢から逃れるが、さっそく毒が体に回り始めたらしく、僅かに視界がぐらつき、体内で痛みが走る。

 

(くっそ~……! 1本でも剣があれば…………!)

 

どうしようかと考えながら、揺れる視界の中でスコーピオンを睨み付ける。飛針で目を潰し、その隙に『徹』の打撃で頭蓋を砕く。それで仕留めよう。

 

だけどその時、ある違和感に気が付いた。さっき7番鋼糸を飛ばして引っ張った左腕がやけに軽くなっている。試しに巻き戻してみると、鋼糸はホルスターに収納された。

 

それが意味するのはつまり……

 

「うおぉぉぉ! 輝炎斬!!」

 

気合の叫びと共にスコーピオンの横合いから突っ込んできたリックの大剣が振るわれ、3連撃が叩き込まれると共に爆炎が起こり、吹っ飛んだスコーピオンは数秒後に燃え尽きた。

 

『心』で周りに敵の気配が無いのを確認し、僕はその場に片膝を付く。

 

傷や毒の痛みもあるけど、暗器と素手だけでアレだけの数を相手にしたからか、少し疲れた。本領発揮は小太刀二刀なんだけど、無手の実力が随分上達した気がする。

 

「おい! 大丈夫か!?」

 

慌てた様子でリックが駆け寄ってきた。でも、左手で抑えた右腕の傷からボタボタと零れる血を見て、とても辛い表情になった。援護に来たのに、僕がそんな顔をさせたことが情けない。

 

すると、横から伸びて来た手が僕の腕の傷の近くに優しく触れた。見ると、伸びてきた手はアミルのものだった。

 

いつからそこにいたのか、まったく気が付かなかった。近付いてくる気配も無かったのに。

 

「ひどい傷……はやく手当しないと…………!」

 

本気で心配するその声で我に返る。見た目ほど深い傷じゃないけど、出血だけでも止めないと。

 

「アミル、血が付くから触っちゃダメだ……2人共、止血するから少し手伝って。リックはその辺の木の枝を30センチ位にへし折って持ってきて。アミルは上着を巻くから手を貸して」

 

言うと2人は頷いて動き出し、リックは近くの木に向かって走り、アミルは僕の制服を脱ぐ手伝いをしてくれた。不謹慎だけど、この2人と話せる機会が出来てよかった。

 

僕は脱いだ制服を右腕の傷から3センチ位離れた場所に両腕の袖部分を巻きつけ、アミルの手伝いを受けて固く結ぶ。でも、これだけじゃ血は止まらない。

 

リックが持ってきてくれた棒を結び目の間に差し込んでもう一度きつく結び、リックに棒の両端を握って、そのまま何度も回してもらう。

 

「これでいいのか?」

 

「うん。ありがとう、リック。でも、血が完全に止まるまで回してくれていいよ」

 

「でも……これ以上やったら血の流れが止まっちゃうよ……?」

 

「あくまで最終手段だからね。でも、レイジ達が来るまで出血が止まればいい。僕自身も傷の直りが早いから、大丈夫だよ」

 

止血帯を完成させ、2人の手を借りて棒を固定したまま息を吐く。自分でやろうとしたんだけど、毒が回ってるんだからダメ、と言う理由で却下された。

 

これは、またアルティナに怒られるかもなぁ~……体の中の毒も消してもらわないと。

 

「ごめんね、リック……援護に来たつもりが、逆に助けてもらっちゃって。これじゃあ、本当に役立たずだ」

 

「……いや、お前があの敵を止めていなければ、多分俺は今頃、お前以上の傷を負っていた」

 

「わたしからも、ありがとう。リックを助けてくれて」

 

謝るつもりが逆にお礼を言われて、何だか照れる。

 

でも、リックにあんな辛い顔をさせてしまったのは、僕自身がどうしても許せなかった。

 

リックは僕の止血をアミルに任せて立ち上がり、他の連中を呼んでくる、と言って走り出した。改めて耳を済ませると、戦闘が終了したのか、周りが静かになっている。

 

でも、気のせいか、立ち去る時にリックが“すまない”と呟いた気がした。

 

そして、近くにいたのかレイジ達がアルティナを先頭にこちらにやって来るのが見えた。言うまでもなく、アルティナの表情は不機嫌……というか、怒りの色がある。

 

もういいよ、と言ってアミルの手を解き、木の棒をゆっくり逆に回して止血帯を解いていく。一気に解いたらまた傷から血が溢れる危険があるのだ。

 

そしてアミルに制服の結び目を解いてもらい、しゃがみ込んだアルティナに傷を見せて治癒術をかけてもらう。怒鳴り声が無いのは、赤黒く染まった右腕のせいだろう。

 

治癒術のおかげで出血が止まり、僕はまた制服を巻いて包帯代わりにしたのだが、アミルが毒も受けていると申告したら、アルティナは“早く言いなさい!”と怒鳴って再び術を掛けてくれた。

 

でも、その表情は怒りや苛立ちでなく、悲しみや心配のものだった。

 

僕はアルティナだけに聞こえる声で、ごめんね、と呟き、黙って治療を受けた。

 

まもなく、治療を終えた僕はレイジに肩を貸してもらいながら砦に帰還した。

 

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

主人公は相変わらず自分の得意な武器を持ってません。

ですが、体術はあくまでサブなんでもう少しで二刀小太刀になります。

では、また次回。

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