シャイニング・ブレイド 涙を忘れた鬼の剣士   作:月光花

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スペル様、トリック様に感想をいただきました。ありがとうございます。

今回は偵察の帰りと次の戦闘前までになります。

では、どうぞ。


第50話 開戦前の静寂

  Side Out

 

 石窟街ローランの解放戦線が集まる集会場。

 

そこでは巨大な机の上に帝国が占領した軍港と周辺の地形を細かく書き写した地図が広げられており、地図を囲むように解放戦線のトップであるサクヤとフェンリルに加えてディランと刃九朗が話し合っている。

 

つい先程帰還した刃九朗が偵察で集めた情報を報告し、周辺の地形情報や敵の戦力などが詳しく分かったおかげでようやく軍港を奪還する作戦が考えられるようになったのだ。

 

加えて、刃九朗のすぐ後に帰還したディランも今回の作戦で帝国から奪取する予定の軍船に目星を付けてきたと報告した。

 

これで、作戦を開始するのに必要な大まかな条件は揃った。

 

「それで、お眼鏡に叶う船は見付かったの? ディラン」

 

「おうよ。長い船旅にも激しい海戦にも文句無しで耐えられる逸品を見付けたぜ。数日張ってた感じだと軍港からは出ねぇヤツみたいなんで、作戦決行時に問題無く狙える」

 

サクヤの問いに対してディランは満足そうに胸を張り、近い内に奪い取る船のことを考えて楽しみだと言うようにニヤリと笑う。

 

「それは良かったわ。けど、逃げられないようにするために船の奪取と軍港の制圧は同時にやらなければならないから、船の方の指揮はアナタに任せるわ」

 

その笑みを見て心配は無用だと感じたサクヤは微笑を返す。

 

情報交換が一段落し、ひとまずはこの作戦会議で話し合うべき内容が終了する。

 

そんな空気の切り替わりを察し、微笑みを浮かべていたサクヤは表情を一瞬にして引き締めて素早くディランに距離を詰めた。

 

身長差を埋める為に背伸びまでしたサクヤは静かな声でディランに耳打ちする。

 

「それで……一体アレはどういうことなの?」

 

「あぁ~……何て言うか、ちょっとした誤解が思わぬ方向に捻じれまくった結果だな」

 

問い詰めるサクヤに対して、上手く説明出来る言葉が浮かばないのかディランも目を逸らしながら言葉を濁す。

 

そんな2人の視線を追うように、フェンリルと刃九朗も黙って会議室の一角を見る。

 

そこに見えるのは……

 

「本当に……本当に申し訳ありませんでしたぁ……!」

 

「あ、あの!えっと……私も勘違いで斬り掛かってしまったし、お互いに怪我も無いのでどうかお気になさらず。どうか頭を上げてください……」

 

……メイド服を着た狐耳の獣人、ローナに対して平身低頭の綺麗な土下座をしながら謝罪するレオの姿が有った。

 

口に出す謝罪の言葉からはこれでもかと言わんばかりの罪悪感が滲み出ており、地面に擦り付けんばかりに下げられた顔を持ち上げたら血涙を流していそうだ。

 

お互いに相手を敵の偵察か斥候だと勘違いして本気の殺し合いにまで発展した。

 

全力を発揮する前にディランが止めたので怪我も無く、事情を聞いた第3者から見れば怪我が無くて良かったねで済むかもしれないが、当事者の様子は見ての通りメンタルが重傷である。

 

ローナの方はレオを責めるつもりは無いのだが、全身で謝罪の意を示すレオに圧倒されてオロオロと手を彷徨わせて戸惑っている。

 

ローランに戻る前にディランからもあんまり気にすんなよと笑顔で肩を叩きながら言われたのだが、レオの性格では簡単に割り切れず今の土下座に繋がっている。

 

「……でも、どうするの? いつまでもあのままにはしておけないし、関わってない私が何か言っても効果薄いわよ」

 

「だな……しょうがねぇ。おいレオ! そこまでローナに斬り掛かったこと気にしてんなら、次の作戦で船の制圧手伝え。それでチャラってことでお前も納得しとけ」

 

「………………はい。分かりました」

 

このままでは埒が明かないと判断し、溜め息を吐きながらディランは妥協案を出す。

 

それを聞いて頭を下げたまま長い沈黙を挟み、どうにか自分で折り合いを付けたレオはようやく重い頭を持ち上げて頷いた。

 

この件についてはここまでだとディランにバッサリと断言され、肩を落としてまだ僅かに気落ちしているレオと一転してニコニコと明るい笑顔になったローナはそのまま集会場から退出した。

 

サクヤはそんなレオの後ろ姿に奇妙な新鮮さを感じたが、今は作戦会議に集中することにした。

 

「……さて、それじゃあコッチの話を再開しましょうか。まずディラン、軍船を制圧するあなたの方は何人の編成にするつもりなの? というか、そもそもどうやって制圧するの」

 

「あぁ、それか。船の方はオレとイサリ、レオの3人で充分だ」

 

当然のように返された人数と編成にディラン以外の全員が一瞬固まるが、何か理由が有ってのことだろうと考えて無言で続きを促す。

 

「この数日間イサリと交代でずっと見張ってたんだが、どうにもあの船は海側の防衛に使われてるみたいでな。今じゃ攻めて来る敵もいないから人間の兵士は多くて5人か6人、他は見張りのモンスター数体だ。その程度なら3人で足りるだろ」

 

「……そういうことね。でも本当に良いの? せめてもう1人、刃九朗やローナを連れて行った方が……」

 

「心配ねぇさ。それに、刃九朗は砦の構造を調べてたんだからアンタの方に必要だろ。ローナも戦い方はソッチは向きだしな」

 

ディランの言葉を信用し、サクヤはそれ以上食い下がることはしなかった。

 

制圧方法についても既に考えているらしく、軍船の制圧についてはディランに全て一任されることになった。

 

なので、次に話し合うべきは砦方面の攻略となる。

 

こちらには解放戦線のほぼ全戦力が投入されることになるが、だからと言って馬鹿正直に正面から攻めるわけにはいかない。

 

「さて、それじゃあコッチの作戦を考えましょうか。刃九朗、詳しい情報をお願い」

 

「承知」

 

改めて机の上に広げられた地図を見詰め直し、サクヤ達は話し合いを再開した。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  * 

 

 

 

 

 集会場を出たレオとローナはすぐに別れず、近くの酒場で席を共にして話し合っていた。

 

気分が沈みかけていたレオは気持ちを切り替えとリラックスの為に大ジョッキに入ったビールを注文し、その見かけによらない酒豪っぷりに少々驚いたローナは果実水をチビチビと飲んでいる。

 

「んっ……んっ……ふぅ、ベスティアの酒も結構イケるな」

 

「レオさん、お酒強いんですね~。何だか意外です。あ、そうだ! 改めまして、私……ローナ・ムラサメと申します。初対面では色々有りましたけど、どうぞよろしくお願いします!」

 

そう言ってローナは握手の手を差し伸べてながら満面の笑みを浮かべる。

 

ローナの言葉や表情には一切の悪意も感じられず、もはや謝罪を口にするのは逆に失礼だなと理解したレオは握手に応じながら自己紹介する。

 

「レオ・イブキです。よろしくお願いします、ローナさん」

 

「ハイッ! 私と同じ位の歳でアレ程の剣技を振るうお方と一緒に戦えるなんて、とても心強いです! 今度機会が有れば、軽い手合せでも……」

 

ブンブンと尻尾を振りながら目を輝かせるローナに少々気押されながらレオは苦笑する。

 

その会話をきっかけにして2人は様々な話題で言葉を交わした。

 

好きな食べ物や嫌いなモノ等から始まり、これまでの解放戦線の戦いで有ったことや船旅で体験したことなどを話し合っているといつの間にかそれなりの時間が経過していた。

 

「アハハ……すっかり話し込んじゃいましたね」

 

「ですね……今日はもう休んで良いって言われましたから、宿に戻りましょうか」

 

日がすっかり傾いてきたことに気付いた2人は席を立ち、酒場を出て宿屋へと歩を進めた。

 

ローランは石窟の中に造られた街のため全体面積にあまり余裕は無く、人の歩く街道も荷車が行き交い出来る程度しかない。

 

だが、砂漠という過酷な環境で生きているおかげか街で暮らす人々の活気は凄まじく、色々な露店が香りを漂わせて街道を歩く人々の気分を高揚させている。

 

結果、街道は賑わう人々で溢れ返ることになのだが、初日で慣れたレオは人混みの中をスルスルと苦も無く進んでいく。

 

隣を歩くローナも同じように人混みの隙間を縫って進もうとする。

 

しかし……

 

「きゃッ……!」

 

……予想とは裏腹にローナは短い悲鳴と共にバランスを崩し、前のめりに倒れた。

 

「おっと……!」

 

その光景に一瞬驚きながらもレオは即座に動き出し、倒れるよりも先に広げた右手を割り込ませてローナを受け止める。

 

レオは怪我無く済んで安堵の息を吐き、受け止めたローナの体をゆっくりと押して立たせる。

 

「怪我は有りませんか?」

 

「は、はい~……ご迷惑をおかけしました。恥ずかしながら私、どうにもドジな所が有ってよく転んでしまうんです。刃物に触れている戦闘やお料理の時は平気なんですけど……」

 

申し訳無さそうに話すローナの言葉に、レオは少々面食らってしまう。

 

森の中で戦った時にアレほど凄まじい太刀筋をしていたローナが普段は何も無いところで転んでしまうドジッ子というのは、対峙したレオにとってはギャップが激しいというレベルではない。

 

コレもはや別人では? と一瞬考えてしまう程だったが、何とか復帰したレオは言葉を絞り出す。

 

「それは、また……けど、今回は間に合って良かったです」

 

「あう~……き、気を付けます……」

 

獣耳と尻尾をしょんぼりと垂れ下げるながら答えるローナにレオは苦笑し、2人は再び並んで歩き出す。

 

その際、レオが僅かに後ろの位置を歩いていたが、ソレが自分が転んだ際にすぐ腕などを掴んで支える為なのだと気付き、ローナは嬉しそうに尻尾を揺らした。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 

 

 

 

  Side レオ

 

 ローナさんと一緒に宿に戻り、水浴びと夜の鍛錬を終えて眠りについた翌日、昼頃に集会場へ集まるようにとサクヤさんからの号令が有った。

 

僕は集合の30分前になったことを確認し、壁に掛けてあったロングコートに袖を通して戦闘に使用する装備一式を装着する。

 

暗器を仕込んだホルスターを腕に取り付け、鞘に納められた黒と白の二刀小太刀をロングコートのベルトに差して固定する。

 

忘れ物が無いことを確認し、僕は宿を出て真っ直ぐに集会場へ向かった。

 

中に入ると、集会場の中にいたのはサクヤさんとフェンリルさんの2人だけ。他のメンバーも遅くとも後10分もすれば全員揃うだろう。

 

「おはようございます。サクヤさん、フェンリルさん」

 

「おはよう、レオ。今日は違う場所で戦うことになるけど、よろしくね」

 

「おはよう。他の皆もすぐに来ると思うが、ディランとイサリが先に到着したらお前は2人と一緒にすぐ出発してくれ」

 

フェンリルさんの言葉に頷いて壁際の椅子に腰を下ろす。

 

それからすぐに刃九朗さん、アルティナ、龍那さんと剛龍鬼の順に集会場へ次々とメンバーが集まり、その後にイサリさん、ローナさんを連れたディランさんが到着した。

 

ディランさんとローナさんは普段と何も変わり無い。だが、集会場に入ってきたイサリさんの背中には普段は無い大きな布の包みが背負われていた。

 

布でグルグル巻きにされていて詳しい形状は全く分からないが、恐らく直径2メートル以上は有るだろう。

 

アレがイサリさんの武器なのかは分からないが、この場に持ってきているということは作戦に必要なものなのだろう。

 

アルティナや剛龍鬼と軽い挨拶を交わした僕はディランさん達の姿を見付けて2人の元へと向かった。

 

近付く僕の姿を見付けたディランさんはニヤリと笑いながらその大きな手で僕の肩をバンバンと叩いた。

 

「よう、レオ! 今日はよろしく頼むぜ! オレもイサリもそろそろ海の上が恋しいんでな!」

 

「よろしく……頼む」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

挨拶を終えたディランさんはそのままサクヤさんの元へと歩き、短い会話を終えてすぐに戻って来た。

 

どうやら、フェンリルさんの言っていた通り本当にすぐ出発するらしい。

 

「んじゃ行くぜ! アークバッカニアの新しい船を頂きにな!」

 

そう言って笑いながら集会場を出るディランさんに続いて、ぼんやりと天井を見詰めていたイサリさんも歩き出し、僕もその後に続く。

 

だが集会場を出る寸前、出口の近くに立っていたローナさんが僕にぺこりと頭を下げた。

 

「レオさん、どうかお気を付けて。船長達のことをよろしくお願いします」

 

「任されました。ローナさんの方も、どうかお気を付けて」

 

そう言って集会場を出て、僕達3人はディランさんを先頭にしてローランを後にした。

 

港への移動ルートは偵察の時と同じく街道沿いに近くの森を抜けて近付くというもので、僕達は夕方前には港へと到着した。

 

砦の攻略に当たる戦力も既にローランを出発して此処に向かっていることだろう。

 

「それでディランさん、具体的な作戦は有るんですか? サクヤさん達からは、打ち合わせはしてあるからディランに訊いてくれって言われたんですが……」

 

「おう、ちゃんと段取りは決めてあるぜ。と言っても、そこまで細かいモンじゃねぇが」

 

そう言って、ディランさんは視線を僅かに持ち上げてゆっくりと沈んでいく夕日を見詰めながらニヤリと口元に笑みを浮かべた。

 

「まずは夜になってからだ……オレ達の成功と同時に派手な狼煙を上げてサクヤ達が動き出すことになってる。準備はしとけよ、イサリ」

 

ディランさんが視線を向けると、近くの木に背中を預けて座り込んでいたイサリさんは背中に背負っていた包みをドスンと目の前に置いた。

 

「任せておけ……派手な花火を上げてやる」

 

普段と変わりない口調だったが、そう答えたイサリさんの瞳の中には今までに無い強い意志が宿っていた。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

情報収集を終えて、今は夜襲前の待機時間です。

もはや行動が盗賊のソレに近くなってきていますが、もはや誰も気にしていません。

盗むなら夜が良い。破壊活動もセットなら尚更。

みたいな心境です。

次の話は港の攻略になると思います。

では、また次回。

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