シャイニング・ブレイド 涙を忘れた鬼の剣士   作:月光花

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スペル様から感想をいただきました。ありがとうございます。

昔やってたPSO2に復帰したらこのザマだよ。申し訳ない。

これでもちゃんと完結は目指してますので、出来ればお付き合いください。

では、どうぞ。


第49話 達人の侍女

  Side Out

 

 ヴァレリア大陸ベスティア地方の西部に存在する港は、国土の大半が砂漠に覆われたヴェスティアにとって貿易の要と言っても過言ではない場所だ。

 

近くには数少ない森林地帯が広がっており、気温もかなり落ち着いている。

 

港から伸びる街道は各所に伸びており、迅速に各都市へ荷物を運べる仕組みとなっている。

 

だが、今では帝国によって占拠され、ベスティアに駐在するアルベリッヒ軍の補給線として稼働している。

 

元々軍港と貿易の両方を賄っていた拠点なだけあって、付近の海上には物資を載せた船以外にも多数の軍船が浮かんでいる。

 

それらを統率する砦にも多くの兵士の姿が有り、防衛から物資の運搬まで様々な役割を担った者達が忙しなく動いている。

 

「……やっぱり砦としても作られてるから防衛戦力もかなり多いな。海の方はずらりと並んだ大砲が狙ってるし、陸の方は天然の岩を加工した高くて堅い城門。守りを固められたら正攻法じゃ崩せないなコレ」

 

そんな砦の様子をレオは少し離れた木々の中から望遠鏡を片手に眺めていた。

 

太陽光が望遠鏡に反射して見張りに気付かれないよう注意を払いながら、レオは観察した敵の配置や細かな防衛戦力を手元の紙に次々と書き込む。

 

これが今回の敵情視察におけるレオの役割である。

 

気配の察知と遮断、隠密行動を得意とするレオの能力はこういう仕事にかなり向いているため、刃九朗と共に次に攻める港の帝国戦力を下見しているのだ。

 

出来るだけ多くの情報を探り、全て書き留めてからもう一度脳内の情報と比較して欠けている部分が無いかを確認する。

 

「……うん、記入ミスは無し。にしても、帝国はどうやってこれだけ堅牢な砦を落としたんだ? ひたすら物量で押し潰したとか?」

 

「最初はそうして三日三晩攻め続けて兵の気力を削り取り、アルベリッヒが指揮を取った途端にアッサリと陥落したそうだ。恐ろしいことだが、全て奴の計画通りだったのだろう」

 

独り言のように呟かれたレオの疑問に、何処からともなく言葉が返って来る。

 

その声の主の気配を事前に察知していたレオは特に驚かず、手元の道具を素早く片付けながら背後を振り返る。

 

「刃九朗さん、そっちも終わりですか?」

 

「うむ、周辺の地形や街道の下見は全て終わった。これで必要な情報は全て手に入ったことだし、引き上げるとしよう」

 

白と黒の両翼を畳みながら佇む獣人、刃九朗はレオから偵察情報を書き留めた紙を受け取り、一緒に木々の間を駆け抜けてローランへと向かう。

 

街道のような整備された道ではなく森の中をそのまま突っ切る移動法なので、地形と方角を正しく記憶して間違えなければかなりのショートカットになる。

 

刃九朗は元々習得していた技術だが、レオがこの移動法を体得出来たのはフォンティーナに住むエルフ達から体に負担を掛けない森の歩き方を教えてもらったおかげだ。

 

その移動中、木々を抜けて港から少し離れた街道に出た所で刃九朗が何かを思い出したように立ち止まった。

 

「どうしたんですか?」

 

「いや、そういえばディランとイサリも近くに来ているのを思い出してな。軍議を行ってから既に2日。そろそろ物色も終えている頃だろう」

 

そう言って刃九朗の視線の先に視線を向けると、その先には軍港の海に近い森の一角が有る。

 

恐らくあの辺にいる、ということなのだろうとレオは理解し、現在の場所から向かう為の道を頭の中に描く。

 

「それなら僕が直接行って進捗を確認してきますよ。刃九朗さんは先に戻ってください。その情報が無いと、サクヤさんが作戦を考えられませんから」

 

「……承知した。お主には苦労を掛けるが、よろしく頼む」

 

少々申し訳なさそうに小さく頭を下げ、刃九朗は地を蹴って再び森の中を駆け抜けていった。

 

「……僕も行くか」

 

その背中を見送り、すぐさまレオも同じように地を蹴って目的地へと向かった。

 

移動中も敵地から離れているとはいえ油断せず、感覚を研ぎ澄ませながら移動している。

 

 

そのおかげなのか、違和感を感じたレオの行動は迷い無く素早いモノだった。

 

 

「……ッ」

 

森を駆け抜ける速度をそのままに、突然進行方向を変更して目的地から遠ざかり始めたのだ。

 

勿論、レオが目指す方角を間違えていたわけではない。ただ目的が変わっただけだ。

 

その目的とは、自分を狙っている存在をディラン達のいる場所から引き離すことである。

 

姿も気配も殆ど感知出来ない。感じられたのは自分に向けられる僅かな視線だけ。

 

だが、帝国の拠点からも離れたこんな場所でソレを感じた。少なくとも味方が見せるアクションではない。それだけで判断材料としては充分だ。

 

(……隠形が僅かに乱れた。さっきは視線だけで何も聞こえなかったけど、今は少しだけ足音が聞こえる。こりゃ慌てて追い掛けてるな)

 

突然の方向転換に流石に慌てたのか、レオは反響する足音の方向と距離から追跡者が自分を追い掛けていることを確信する。

 

狙っていた相手が尾行に気付いて逃亡を始めたのだから当然の反応ではあるが、一応はレオの思惑通りである。

 

確信を得たレオはそのまま森を駆け抜け、木々が密集していない開けた場所で立ち止まる。

 

(聞こえた足音は1人だけ。だけど、振り切るつもりで走ったのに此処まで追い付いてきた。このまま拠点に戻って情報を持って帰らせるわけにはいかない)

 

故にこの場で仕留める。

 

静かに決意して腰の二刀小太刀を抜き放ち、レオは今も近い木々の中から自分を狙っている敵を研ぎ澄まされた感覚の中で見据える。

 

大きな音を立てて動く存在も無く、森の中には静かに流れる風の音だけが残る。

 

だが、それも数秒だけ。

 

耳に聞こえる音の変化は無いが、正面の木々の中から凄まじい速度で射ち出された何かがレオの眉間に目掛けて迫る。

 

数にして3つ。攻撃を感知したレオは即座にその場から飛び退いて回避する。

 

しかし、回避しようと体を動かした瞬間、全方位をカバーするレオの気配探知が背後から迫る気配と殺気を捉えた。

 

初撃を囮にして背後から本命の攻撃を叩き込む。

 

特に珍しくもない手垢の付いた戦法だが、達人が使用すればソレはまさしく必殺の技へと昇華する。

 

既にレオの両足から腰までは初撃を回避しようと動き出しており、背後から迫る敵の攻撃はその瞬間を寸分違わず狙ってきた。

 

振り向いてから攻撃を防ごうとすれば間に合わない。

 

ならばと、レオは自分に向けられた殺気を辿って敵の攻撃箇所を絞り込み、両手に握る小太刀の刀身を背中で交差させて盾にする。

 

直後、二刀小太刀の刀身を伝って両腕と背中に鋭い衝撃が走る。

 

それは防御に成功したということだが、敵はそのままレオの防御を崩そうとはせずに武器を横へと振り抜いた。

 

同じくレオも手応えの軽さからさらなる追撃が来ると予測し、背後を振り返ることなく動き出す。

 

全身の力を抜いて背中から走る衝撃に逆らわず、体を前へ倒す。

 

そうすることで飛び退こうとしていた両足の力を強引に打ち消し、態勢を崩しながらも右足を地面に付ける。

 

その瞬間、レオは自身の頭の中に撃鉄を下ろす。

 

 

『御神流奥義之歩法・神速』

 

 

視界に映る世界が色を失い、動きを止めた。

 

その中ですぐさまレオは地面に足を着けた右足に力を込め、全身のバネを最大限に生かして再び跳躍する。

 

普通ならば体が少々浮く程度の力しか発揮出来ないだろうが、『神速』によって肉体のリミッターを一時的に外したレオの身体能力はその常識を覆す。

 

ボォン! と音を鳴らし、小規模の土煙を炸裂させたレオの跳躍はなんとその体を1メートル近く真上へ持ち上げた。

 

レオは跳躍と共に体を回転させ、共に振るわれた二刀小太刀が風車のような回転切りを放つ。

 

その斬撃はレオの背後から迫っていた襲撃者の斬撃を弾き返し、甲高い金属音を響かせる。

 

「なっ……!」

 

予想もしなかったレオの反撃に、襲撃者が短く驚愕の声を漏らす。

 

追撃が完全に途切れ、今度こそ両足で地面に着地したレオはようやく襲撃者の姿を見た。

 

そして、レオの目に映った襲撃者の姿は……

 

「…………メイド?」

 

……レオが半ば呆然としながら呟いた通り、丈の長いフリルの黒いスカートに純白のエプロンを着こなすその服装は、どう見てもメイド服である。

 

別にメイド服が珍しいわけではない。

 

この世界でもメイドはいるし、ルーンベールの王城でも多くのメイドが働いていた。

 

問題は、何故こんな殺し合いの場でメイド服を着ているのかということである。

 

少々の戸惑いを引き摺りながら襲撃者の姿を下から上へと見渡すと、右手には隙を見せない構え共に逆手に忍者刀が、左手には指の間に挟むように折り畳み式の仕込みナイフが握られている。

 

その武器を見て、レオは即座に囮に使われた初撃が左手のナイフの投擲、背中を狙った斬撃が右手の忍者刀によるものだと理解した。

 

最後に視線が凛と引き締められた襲撃者の顔に行き着き、レオと襲撃者の視線が交差する。

 

(……美人だ)

 

ニコリと笑顔を浮かべればとても可愛らしいであろう襲撃者の容姿を見たレオは、心中で素直に呟いた。

 

僅かにウェーブのかかった腰に届くほど長い髪は栗色で、眼前の敵を見詰める瞳は緑色。

 

頭頂部に付けられた白いカチューシャの後ろには髪の毛と同じ栗色の毛並みをした獣耳が真上にピンと立っている。

 

さらに腰からは豊かな毛並みを備えた一本の尻尾が伸びており、リンリンと同じ獣人であることが分かる。

 

今まで戦ってきた帝国の幹部が碌でもない人物ばかりだったせいか、レオは目の前で敵対している女性に大きな違和感を感じる。

 

だが、既に刃を交えて敵対している以上、レオの剣が鈍ることはない。

 

否、女性だからと斬るのを迷えば、今度こそ死ぬという確信がレオにはあった。

 

結果的に防ぐことは出来たが、先程の攻防はレオも危うく命を落とすところだった。この女性が相当な実力者であるのは明白である。

 

そんな相手に、手を抜くことなど出来る筈も無い。

 

両者の腕がゆっくりと持ち上がり、構えを組んだ体に力が巡る。

 

「「……参る(ります)」」

 

呟きを合図に、体に巡らせた力が爆発的な活力となって2人の体を動かす。

 

ほぼ一瞬でトップスピードに達した急加速からの斬撃は空間に二条の銀閃を描き、衝突による衝撃と金属音を響かせた。

 

互いに相手の首を跳ね飛ばそうと放った薙ぎと袈裟が打ち合い、腕から走る反動によって2人の距離が僅かに開く。

 

しかし、間髪入れずに女性の姿がその場から掻き消える。

 

単純な速度だけでなく、恐らくは視線と気配を誘導して消えたように誤認させる技。しかし、レオの眼と感覚は惑わされることなく女性の姿を捉えている。

 

額を穿つような女性の刺突を体の捻りと共に龍鱗で受け流し、右手の麒麟が頸動脈を狙って右袈裟に振り下ろされる。

 

しかし、女性はその斬撃を左へのスウェーで回避。避けられたと理解したレオは即座に刃を横に倒して右薙ぎに振るうが、伏せるように体を沈められて空を斬る。

 

ならばと龍鱗を左袈裟に振るおうとするが、女性は体を沈めたままメイド服を翻しながら体を回転させ……

 

「はあっ!」

 

……右脚で回し蹴りを放ってレオの左手の甲を弾いた。

 

その衝撃によってレオの体が数歩下がり、畳み掛けるように踏み込んだ女性が脳天目掛けて唐竹の斬撃を放つ。

 

「ちぃっ!」

 

しかし、即座に姿勢を整えたレオは麒麟で斬撃を受け止め、腹部を狙って龍鱗を真上に斬り上げた。

 

女性は龍鱗の刃を左手のナイフで受け止め、押し合いでは不利になると考えて即座に飛び退く。

 

一拍の間を置いて睨み合い、2人の姿がほぼ同時に掻き消えて斬撃がぶつかり合う。

 

刃を返した女性の突きをレオは上半身を後ろに仰け反って回避し、その体勢から体を右へと回転させて地を滑るように横薙ぎの蹴りを放つ。

 

それが足を刈り取って転倒させるものだと理解した女性は軽い跳躍で蹴りを回避。落下の力を加えて忍者刀を振り降ろすが、左手のナイフも含めてレオの二刀に受け止められた。

 

「「……ッ!」」

 

両者は無言で両腕を左右に広げ、強引に膠着状態を解く。

 

そこから2人は鏡合わせのように右手の刀を突き出し、すれ違った刺突が互いの首筋を僅かに掠めた。

 

冷たい汗が背筋に流れるのを感じながらも、2人は表情を一切乱さず戦闘を続ける。

 

仕切り直しと言うように女性が飛び退いて距離を取り、追撃しようとレオが距離を詰める。

 

しかし、それを許さんと言うように女性はロングスカートを靡かせ、左手で太もものベルトに差し込まれている仕込みナイフを2本引き抜いた。

 

既に持っていた1本と合わせて合計3本のナイフを指の間に挟むように持ち、手首のスナップを効かせて投擲される。

 

レオはその場に足を止め、頭部を狙って放たれた3本のナイフに対して袖のホルスターから引き抜いた飛針を投げて撃ち落とす。

 

2人の間で小刻みな金属音が鳴り響き、地面には放たれた暗器が静かに突き刺さる。

 

((手強い……!))

 

一撃でも攻撃が決まれば勝敗の天秤は確実に傾く。

 

それが分かっているからか、攻撃が決まらない苛立ちと拮抗する相手の実力から来る緊迫感を感じながら2人の心中は次の戦術を練り上げていく。

 

レオと女性の取る選択はほぼ確実に短期決戦に絞られる。思考するのは、どうすれば相手に攻撃を命中させられるか、その方法だ。

 

現実で経過した時間はほんの数秒。

 

その間に考え出された無数の戦術の中から1つが弾き出され、両者の体が動き出す。

 

女性は何処に収納していたのか身の丈に迫る程の巨大な手裏剣を取り出り出し、レオは踏み込みと共に小太刀を鞘に納めて集中力を極限まで研ぎ澄ませる。

 

両者ともそこまでの敵の行動は目に捉えて認識しているが、動きを止めるようなことはしない。

 

元より敵が攻撃してくるのは当然のこと。ならば、それより早く敵を斬り伏せるのみ。

 

2人は全く同じ必殺の意思を宿し、ついに互いの攻撃が放たれる。

 

だが、その寸前に……

 

 

「そこまでだ!!!!」

 

 

……獣の咆哮を思わせる程の声が鳴り響き、2人の動きを強制的に止めた。

 

それにより投げる寸前だった巨大な手裏剣は足元の地面に刺さり、『神速』に入ろうとしていたレオの体は前のめりに大きく倒れる。

 

予想外の不意打ちによって攻撃の出鼻を完全に挫かれ、呼吸が乱れて今までの疲労感が一気に2人の体を襲う。

 

2人は肩で息をしながらどうにか視線を動かし、声の聞こえてきた方向を見る。

 

そこには……

 

「良い勝負だったんで見物してたが、それ以上マジになったら流石にシャレになんねぇぞ」

 

……腕を組みながら呆れたような目でレオ達を見るディランの姿があった。

 

その後ろにはイサリも立っており、普段と同じようにぼんやりとした目で空を見上げている。

 

「んで? 合流が遅いんで見に来たわけだが、何でお前らは味方同士でガチの勝負してんだ? ローナ、それにレオも」

 

「…………へ?」

 

溜め息と共に普段通りの口調で放たれたディランの問い。

 

その中にあった無視出来ない単語に反応し、ローナと呼ばれた女性は小さく呟いて呆然となる。レオも言葉こそ発していないが、殆ど似たような状態だ。

 

続いてディランの言葉と現状を照らし合わせたことで2人の頭の中にまったく同じ可能性が浮かび上がり、青褪めた顔でダラダラと汗を流しながらお互いの顔を見る。

 

((もしかしてこの人……敵じゃない?))

 

その行動がとどめとなり、浮かび上がった可能性は瞬時に確信へと変わった。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

ブレードアークスに登場していたので、思い切って今作にローナを参戦させました。

今回は勘違いの末に戦闘になってしまいましたが、別にレオとローナがアホなわけではありません。

レオの場合は凄まじい練度の隠形で自分を見張っている存在、ローナの場合は自分の主人がいる場所に気配を隠しながら近付いていく存在。

普通に考えれば自然と敵と認識しても仕方がありません。

というかよく考えたら、何で味方同士の勘違いで起きた戦闘にこんな文字数使ってんだ私は。

では、また次回。

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