今回は崩壊する施設からの脱出パートです。
何か、気が付けば想像以上に長くなった。
更新遅い上にこんなとこに描写分けてるから話が進まないんだろうか私は。
では、どうぞ。
Side Out
石造建築物というのは、緻密な計算によって設置された大小様々な無数の柱で建物全体のバランスを均等に支えている。
しかし、一本の柱が崩れてもすぐに建物が崩れ出すわけではない。
一本の柱が折れても、建物の中心を支える大黒柱を始めとした他の柱が負担をある程度請け負うことで倒壊を防ぐことが出来るからだ。
ならばもし、一階分を支える柱を手当たり次第に、しかも同時に崩せばどうなるか?
答えは簡単……建物全体が上方から雪崩のように崩壊する。
* * * * * * * * * * * * *
目に映る光景が左右だけでなく上下にも激しく揺れ動き、頭上から夥しい量の土煙や岩の欠片が降り注ぐ地下通路。
もう間もなくどころか既に潰れ始めているそんな死地を、凄まじい速度で駆け抜ける3人の人影があった。
「ハァ……ハァ……クッソ、あの白髪野郎……! いつか絶対に〆る……!」
「口を開くより足を動かせ! もうかなり近付いてる!」
ぜぇぜぇと息を上げながら声を上げるレイジとリックの背後からは轟音を立てて崩れ去っていく地下道の岩石群。
言葉こそ発していないが先頭を駆けるレオも含めた3人は現在、文字通り死にモノ狂いの速度を維持したまま走り続けている。
人間が無酸素運動によって発揮される最大運動強度、つまりトップスピードは時間が経つごとに低下していく。
レオとレイジの生まれたエルデの世界のトップアスリートでも80メートルを過ぎた辺りからは確実に失速する。
だが、今の3人はフォースによる身体能力強化の恩恵を“長く、速く走る”ことだけに注いでいる。
それによって一時的に人間の生物構造を覆す脚力とスタミナを得ても……悲しきかな、それでもまだ地下通路の崩壊速度が僅かに速い。
振り向いて確認せずとも、鼓膜を常に叩くような轟音からもう崩壊の波がすぐ近くに迫っているのは3人共理解している。
『レオ、まだか……!』
大太刀の姿でレイジに背負われたユキヒメが焦るような声で問う。
それに対し、体中を降り注ぐ砂埃に汚したまま疾走するレオは目を鋭くして前方に続く長い暗闇を……その先に僅かに見える光を睨み付ける。
「風の流れが強くなってる……あと、少し……!」
灯りとなる光源が一切無い地下通路の中、レオは『心』によって研ぎ澄ませた感覚で出口から流れているであろう僅かな風を頼りに距離を測る。
感知した距離はおよそ400メートル。距離にして陸上競技に使われるスタジアム一周分だ。
普段の3人ならば難無く全力疾走で駆け抜けるだろうが、今のレオ達はその全力疾走を何と2分も続けている。
アルベリッヒとの戦闘による消耗も付け足し、強引に底上げされたスタミナも既に限界を超えている。
『3人共、頑張って! あと少しだから!』
『振り絞れ! 止まれば死ぬぞ!』
エアリィが泣きそうな声で、ユキヒメが喝を入れるような声で激励する。
しかし走る3人はもはやその声さえマトモに聞こえず、正直出口まで走り抜けるどころか今すぐでも気絶しそうだった。
だが、そんな結末をこの3人が許容出来るわけがない。
やらなければならないことが、心からやり遂げたいと願うことが有る。
その為に、こんな所で死ぬわけにはいかないという気力が干乾びそうな精神力を寸での所で支える。
咆哮さえ駆け抜ける為に使うエネルギーの無駄だと言うように、3人は黙って出口の光を目指して走り続ける。
そして、出口まであと20メートルの所で……
ドガアァァァァァン!!!!!
『ッ……!』
今までのモノよりも一段と大きい轟音と衝撃波が3人の背中を強く叩く。
あまりにも最悪、あまりにも残酷なタイミングで発生した不幸を引き金に、運命は完全にレオ達に牙を剥いた。
直後、見えない栓を引き抜いたように一斉に崩壊した前後の通路が、3人を飲み込んだ。
* * * * * * * * * * * * *
その頃、解放戦線は拠点に待機していた戦力の大半を捕まっていた民間人の救助に回し、サクヤを始めとした実力が飛び抜けている幹部候補は民間人が通って来た地下通路へと向かっていた。
最初は地下の階で帝国軍を相手に持ち堪えているであろうレオ達と合流すべく、少数精鋭で地下通路を通るという作戦だった。
だが、先程偵察から戻った刃九朗から収容所が崩れ出したと聞き、サクヤ達は一刻も早く地下通路へと足を急いでいた。
一本歩を進める度に足が砂に沈んでいく感覚に僅かな苛立ちを抱きながら、サクヤ達は目的地のすぐ近くまで辿り着く。
目の前の砂山を超えた先、小さな岩山に巧妙に隠された地下通路の出口が有る。
しかしそこへ向かう途中、轟音が鳴り響くと共に足元から凄まじい振動が襲い掛かった。
その直後、前方の砂山の向こう……ちょうど、地下通路の入り口の辺りから天高く土煙が舞い上がった。
「まさか……!」
地面からの大きな振動、舞い上がった土煙……それらの情報から最悪の可能性を察したサクヤ達は、血の気がさっと引くのを感じながら慌てて走り出した。
そして、砂山を登り切った先に見えたのは……無残に崩れ去り、大量の砂と岩に飲み込まれた地下通路の入り口だった。
「そんな……!」
ショックを受けたエルミナが思わず声を上げ、アルティナと共に目の前の光景を認めないと言うように駆け出して崩れ去った入り口へと近付く。
他の者達は動かなかったが、反応は動いた2人と同じ。
絶望と呼ぶ感情が、全員の心を暗く沈めて支配していた。
しかし、その場の誰もが呆然と立ち尽くす中で……
ゴォン……
……ほんの僅かで小さいものだが、確かな“音”が聞こえた。
* * * * * * * * * * * * *
……時は僅かに遡る。
地下通路全体が一斉に崩壊し、あと少しで辿り着きそうだった出口も崩落に飲み込まれていく。
そして、3人の頭上からは無数の岩と大量の土砂が降り注いで襲い掛かる。
(ここまでかよ……!)
悔しさと絶望を感じ、レイジは歯を食いしばって天井を睨み付ける。
だが、天井から無数の岩が降り注ぐ寸前、3人の中で防御力が最も優れたリックが動いた。
「光よ! この手に集いて盾と成せ!!」
身体強化に回していたフォースを全て左手に持つ盾に集中させ、防御用の技であるガードアトラクタを発動。
碧色の盾が光り輝き、ソレを中心として巨大な光の障壁が展開される。その障壁を頭上から降り注ぐ岩に向け、リックは短く叫んだ。
「上は防ぐ!!」
その短い言葉の意味を理解し、レイジとレオは即座に頭上から降り注ぐ岩をリックに任せて意識の外に放り出す。
その切り替えの早さと信頼は、仲がすれ違いながらも何だかんだで共に戦ってきた絆の成せるものだった。
だが、頭上の岩を防ぐことが出来ても長くて5秒。もはや目指していた出口は砂と岩に塞がれていて進めない。
このままでは、結局生き埋めになってしまう。
残り4秒。
(まだだ……! 考えろ! 使えるモノを全部使って捻り出せ……!)
1秒毎に確実な死が迫る中、レオは加速する意識の中で思考をフル回転させる。
自分の力や技術は勿論のこと、仲間の力も全て使ってこの状況を切り抜ける方法を探す。
そして、ドン詰まりに思えた真っ暗な思考に……
ヒュー
……頬を撫でる小さな風が、答えを与えた。
残り3秒。
(風……!)
ヒントを得るのとほぼ同時に答えを叩き出し、弾かれたように振り向いてレイジに声を飛ばす。
「レイジ!! 合図したら出口に全開の『風』!!」
理由どころか指示の詳細さえ半分も満たされていない言葉。
もはや指示と呼べるかさえ怪しいものだ。
残り2秒。
「ユキヒメッ!!」
だが、レイジは一切の間を置かず、返答の時間さえ惜しいと言うようにハイブレードモードを展開してフォースを練り上げる。
残り1秒。
指示を飛ばしたレオもレイジに背を向け、自身の姿をシルヴァルスに変えて自身の両手に凄まじい密度の風を収束させる。
残り……0秒。
「ッ! 限界、だ……!」
『リック!!』
絞り出すような呟きとエアリィの声が引き金となり、降り注ぐ岩がついに光の盾を砕く。
「レイジッ!!」
「零式刀技……風雪崩(かぜなだれ)!!」
呼ばれた名前を合図に、レイジは右手の大太刀を前方……砂に埋もれた出口の方向に向けて突き出す。
次の瞬間、大太刀の刀身に圧縮された膨大な風が一気に解放された。
解き放たれた風は一瞬で竜巻と呼べるほどの暴風となり、凄まじい破壊力を撒き散らして前方に降り積もった砂や岩を粉砕して吹き飛ばす。
その威力によって崩壊に飲み込まれた出口が再び現れ、僅かな光が差し込む。
しかし、降り積もった膨大な岩や砂によってレイジの放った竜巻は瞬く間に威力を殺され、風の勢いも弱くなっていく。
だが、それで充分。
元よりレイジ1人の力でこの状況を突破出来るとは誰も考えていない。
レオがレイジの大火力によって作りたかったのは“道”なのだから。
「掴まって!!」
レオの声に反応し、レイジとリックは即座に手を伸ばして彼のロングコートを強く握る。
直後、出口とは正反対の方向に突き出されたレオの両手……その手の中に収束されていた風が解放され、地下通路の中に爆風が吹き荒れた。
風によって発揮される破壊力ではレイジに劣るが、風属性のフォースに特化した形態であるシルヴァルスによって集めた風の量はレオが勝っている。
レオは集めた風を全て破壊力としてではなく推進力として利用し、ジェット噴射のような勢いで急加速する。
その加速力は鍛え抜かれた体格の良い男性3人の重さを物ともせず、滑空するように地下通路を突っ切る。
だが、それだけの風を噴射し続ける以上、当然ながらレオの両手は凄まじい反動に襲われる。
両腕に骨が軋むような痛みが走り続けるが、レオは歯を食いしばって耐える。
さらに吹き荒れる風によって宙に舞った大量の砂が加速する全身を襲い、僅かでも呼吸する度に口や鼻の中に砂が含まれ、目も開けていられなくなる。
だが、それでもレオは微塵も両手を通した風の制御を乱さず、レイジ達はしがみ付く力を緩めない。
地獄のような状態が数秒間続き、3人が本当に限界を迎えそうなる。
そして、ボフッ! と何かを突き破るような音と衝撃を感じた瞬間、3人は朧げな意識の中で僅かに開いた視界に雲一つ無い青空を見た。
* * * * * * * * * * * * *
そして、時は現在に遡る。
ゴォン……
錯覚かと疑うレベルのその音を聴き取れたのはこのメンバーの中でも特に優れた聴覚を持つフェンリルとリンリンの2人のみ。
しかし、その音が聞こえた瞬間……2人の第六感、獣の本能とでも呼べるようなモノが理屈の一切を無視して警告を告げた。
「「離れろ(て)ッ!!」」
全く同時に口に出された鋭く大きな声に反応し、アルティナは咄嗟に隣に立つエルミナの体を抱きしめるように抱えて横へと飛び退く。
直後、砂に埋もれて塞がれていた地下通路の入り口が、“内側から”爆発を起こして吹き飛んだ。
ボオォォォォン!!!!!!!!
大気が爆ぜると共に鼓膜を直接叩くような音が鳴り響き、大量の砂塵が宙を舞う。
飛び散る砂塵に目を細めながら爆発の発生源に目を向けると、爆発の正体は炎などではなく、凄まじい勢いで吹き荒れる風だった。
暴風がまるで水平方向に飛ぶ竜巻のように吹き荒れ、地下通路の入り口を飲み込んでいた大量の砂を外へと吹き飛ばしたのだ。
しかし、いったい何故こんなものが地下通路の中から放たれてきたのか。
『おわぁアァアアアァ!!!!!』
そんな時、吹き荒れる風の中から悲鳴と共に大きな影が凄まじい速度で外へと飛び出した。
影の正体はそのまま砂地を滑空し、進行方向にあった砂山に勢い良く突っ込んだ。
そんな突然の事態に理解が追い付かず、誰もが呆然となって砂山を見詰める。
しかし数秒後、何かが内側で暴れるように砂山が崩れ出し、その中から大量の砂と埃にまみれた3人の人影が這い出るように現れた。
ソレを見て、エルミナは笑顔を浮かべながら涙を溜めて走り出し、他の者達も後に続く。
「レイジさん! リックさん! レオさん!」
嬉しそうな声と泣きそうな声がごちゃ混ぜになったような声でエルミナが砂山からゾンビのような動きで出てきた3人の名前を呼ぶ。
だが、何故かレイジ達は他の者達が傍に来ても返事をせず、必死な様子で腕を振っている。
その謎の行動に全員が首を傾げるが、またしても聴覚に優れた2人が僅かな“声”を拾った。
「ぃ……づぅ……」
普通の人が聞けば本当にゾンビにでもなったのではないかと疑うような呻き声だったが、フェンリルとリンリンの2人はその声から直感で言葉を捻り出した。
((まさか……))
ある予想が脳内に浮かんだ2人は無言で顔を合わせて小さく頷き、懐から水筒を取り出して3人の前に差し出した。
すると、ゾンビのような呻き声を上げていたレイジとリックが目を光らせ、ひったくるように差し出された水筒を手に取って口に含んだ。
その光景を見て隣に立つサクヤもレイジ達が欲していたモノを理解し、慌てて自分の水筒をレオに差し出した。
次の瞬間、レオも他の2人と同じように水筒を手に取って口に含む。
その様子から他の者達は余程喉が渇いていたのかと考えた。
だが、実際の答えは違った。
必死に水を要求した筈の3人は、殆ど同時に口に含んだ水を勢い良く足元の地面に吐き出した。
不可解さと驚愕で多くの者が目を見開くが、近くで水筒を差し出したサクヤ達は気付いた。
レイジ達が吐き出した水の中に、大量の砂が含まれていたことに。
「ゲホッ! ゲホッ! ……ハァ、ハァ……!」
「ハァ……! 冗談、抜きで……! 死ぬ、寸前……だったぜ……!」
「流砂でも、ないのに……ゲホッ! 砂で、窒息死とかゲホッ! ゲホッ! 笑え、ないよ……!」
激しい咳き込みと呼吸を行い、ぺっぺっとまだ口の中に残る砂を吐き出しながら3人はそれぞれ凄まじい疲労感を漂わせる声で呟く。
人間の姿に戻ったエアリィとユキヒメ、駆け寄って来たエルミナが咳き込む3人の背中を摩る姿を見て、他の者達も先程のレイジ達の様子を理解した。
つまり先程の3人は喉を塞ぎそうになるほどの砂を口の中に含んでしまったせいで喋るどころから呼吸すら困難な状態だったのだ。
吐き出そうにも喉の奥に張り付いた砂は空気だけではどうにもならず、水を口に含んで漱ぎ、外に流したというわけだ。
「でも、本当に良かった……崩れた入り口を見た時は、崩落に巻き込まれてもうダメかと思ったわ」
「いやぁ……実際、崩落に飲み込まれたし、もうダメだとも思ったんですけど……」
「リックが命を繋いでくれたおかげで、3人全員の力を合わせてどうにか助かりました」
そう言ってレイジとレオが視線を向けると、まだ呼吸が落ち着いていないリックは何も言わずに視線を逸らした。
相変わらず素直じゃないなぁ、と内心で呟きながらレイジとレオは苦笑する。
そんな時、後ろの方から1人の兵士がサクヤ達の間を通って前へと進み、レイジ達の正面……いや、正確にはリックの前に立ち止まった。
突然の行動に全員の視線がその男へと集まり、やがて重く口を開いた。
「リック……俺は、いや俺達は、言わなきゃならないことがある」
男は兜を脱ぎ去り、申し訳なさそうな顔でリックに深く頭を下げる。
俺“達”というのは、恐らく後ろに控えている他の兵士達のことを含めて言っているのだろう。恐らく、この男はその代表として発言しているのだ。
その突然の行動にリックは目を見開き、レイジ達も少なからず驚くが誰も口を挟まない。
「俺は今まで、ずっと噂を鵜呑みにしてきた。あんたが何度も戦場で仲間を見殺しにして1人で生き残ってきたと信じていたんだ」
それは、レイジ達が解放戦線に加わった時から口に出されていた『死神』の噂。
何が原因で生まれたのかは分からないが、その噂は確かに有った。
ここ最近はレイジを始めとした飛び抜けた実力者と行動を共にしていて目立つことは無かったが、その噂によってリックと周りの者達には誤魔化せない壁が作られていた。
「だが、今回のことでハッキリ分かった。本当のあんたはそんなことをするような奴じゃない。むしろその真逆なんだって。そうじゃなきゃ、助けた人達の為にここまで必死になるわけないからな」
「?……つまり、何が言いたいんだ?」
「ハァ……レイジ並に鈍いなお前は。つまり、この男はもう噂になんぞ惑わされずにお前を信用すると言っているのだ」
首を傾げるリックの姿に、溜め息を吐いたユキヒメが呆れながらフォローを入れる。
それによってようやく男の言いたいことを理解したリックは少なからず驚いて目の前の男を見る。
「勿論、俺だけじゃない。他の奴等も同じようにあんたへの誤解を改めようと思ってる。だけど、一度噂を信じて疑ったのは事実だ。だから、こうして詫びを入れに来たんだ」
男がそこまで言うと、後ろに控えていた他の者達も揃って兜を脱ぎ去り、リックに頭を下げた。
そこには、紛れも無いリックに対する謝罪の意思が感じられた。
「今まですまなかった。どうか、許してくれ」
「……ああ」
突然自分に向けられた謝罪に対してどう反応したら良いのか戸惑うが、短く返答を呟いたリックの顔には確かな笑顔が浮かんでいた。
* * * * * * * * * * * * *
その後、体力の消耗が激しい3人の状態を考慮して、解放戦線はひとまずローランではなく近くに設置した拠点に戻ることとなった。
他の者に肩を貸してもらいながらもどうにか拠点に着いた3人組は充分な水分補給と水浴びを済ませ、今は日差しの入らない涼しい洞窟内で死んだように眠っている。
「あの様子だと、しばらくは起きそうにないわね」
「無理もないでしょう。ユキヒメ達から聞いただけでも、一歩間違えば死んでいたような状況ばかりでしたから」
巣窟内で爆睡する3人を見ながら、サクヤとフェンリルは微笑を浮かべる。
そのまま2人は作戦を話し合った大きめのテントに向かい、先に到着して待っていた刃九朗を交えて話し合いを始めた。
「今回の戦闘で、結果的に民間人の救出と帝国の施設を破壊することが出来ました。しかし、アルベリッヒと交戦したレオが言うには、まだ他にも重要な拠点がある可能性が有ると」
「躊躇い無くあの施設を捨てた以上、あり得る話ね。良くも悪くもベスティアは広いから、誰の目にも触れない場所に帝国が施設を建てていても不思議じゃないわ」
「然り。そして、この資料を見る限り恐らくその予想は当たっている」
サクヤの言葉に賛同した刃九朗が視線を落とし、机の上に広げられた何枚かの資料を見る。
これは、施設を襲撃した際に刃九朗が押収してきた帝国の資料だった。
書かれているのは施設全体の見取り図や施設内に設置されていた『特殊な装置』の使用法。
そして、その装置によって作られた何らかのエネルギーを転送して一箇所に集積するように書き記された命令書があった。
施設が瓦礫の山となってしまったので『特殊な装置』とやらを調べることは出来ないが、エネルギーを転送した先がまだ何処かに有る筈なのだ。
アルベリッヒが躊躇無く施設を破壊したことと、術者1人が転移魔法で移動可能な距離を考えてもその転送先はほぼ間違い無くベスティア領内にある。
「砂漠の中を闇雲に探しても埒が明きません。まずは帝国の戦力が集中している場所を割り出して、その後に今回と同じように陽動と偵察を行いましょう」
「そうね。けど、攫われた民間人の件はどうにか解決出来たし、精霊王のことについても考えないといけないわね」
「火山島か。確かに、生存者の救出に成功した以上、何時までも帝国に海路を抑えられているのは無視出来ぬ問題だな」
刃九朗が指を差した地図の一点に記されているのは、解放戦線がベスティア領での最重要拠点にしているローランから最も近い帝国の軍港である。
だが、以前言ったように港というのは国交においては貿易の要であり、軍においては物資補給の要。当然守りも固い。
戦力を裂いて制圧出来る場所ではないので、未発見の施設か港のどちらかに力を集中すべきか考える必要がある。
「……この件についてはローランに戻ってから考えましょう。戦力の調査もせずに迂闊な判断は出来ないわ」
サクヤの提案にフェンリルと刃九朗も頷き、ひとまず会議は終了となった。
そして、テントの中に1人残ったサクヤは押収した資料の1つ……その中に書かれているサインを睨んでいた。
そこには、アルベリッヒとは異なる名前が記載されている。
「フォンティーナでのレオの報告を聞いて分かってはいたけど、今回の一件にはやっぱりあなたが絡んでいるのね……伯爵」
噛み締めるようにその名を呟き、サクヤは鋭い視線で虚空を睨み付けた。
ご覧いただきありがとうございます。
というわけで、どうにか3人は施設から脱出成功しました。
まあ、本当に建物崩れ出したらこんな上手く(?)はいかないでしょうね。
ちなみに、リックの防御技については原作の技を完全にオリジナル強化したものですのでご了承ください。
それと、原作ではこの施設はぺしゃんこになっていないので、オリジナルで別の本丸拠点が有ることにしました。
ひとまず、次に攻略するのは軍港か拠点か、ローランに帰還してから決めます。まあ、原作通りの流れにするんですが。
では、また次回。