シャイニング・ブレイド 涙を忘れた鬼の剣士   作:月光花

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あけおめ!!(今更)

スペル様、ダークガタック様、康伸様から感想をいただきました。ありがとうございます。

またすごい間が空いてしまって申し訳ありません。

では、どうぞ。


第42話 勝利の中に漂う疑問

  Side Out

 

 エレンシアを囲む四方の内1つの北門。

 

その場における戦闘は、もはや誰もが予想もしない形で終局へと近付いていた。

 

戦闘の黒煙を所々から漂わせる橋の上で、開戦時にこの場でバリケードを築いていた帝国の防衛部隊は現在一箇所に集まって防御を固めていた。

 

戦力で圧倒的に有利のはずだった帝国が防戦一方になっている中、そこへ北と南の2方向から幾多の攻撃が降り注ぐ。

 

北側からはエルミナ、アイラ、サクヤ、竜那の魔法が爆撃のように降り注ぎ、南側からはエレンシアの()()から現れたエルフ達の弓矢が雨のように降り注ぐ。

 

弓矢だけならばともかく、ただの盾では魔法の直撃を凌ぐことは出来ない。それにより防御は食い破られ、レイジとリックを先頭にした前衛部隊がすかさず斬り込む。

 

当然、帝国側も帝国しようと剣や槍を構えた兵士が迎え撃つが、全ての防衛拠点を壊滅させた解放戦線の指揮は既に留まることを知らずに高まり続けている。

 

一番槍を務めるレイジ達はもちろんのこと、その後に続く兵達も力強い声を上げながら帝国の兵力を飲み込んでいく。

 

逆に、他全ての拠点を奪われ、虎の子のケンタウロス部隊までも敗れ去った帝国の指揮は完全に消沈し、圧倒されている。

 

もはや帝国側の敗北は時間の問題。

 

後方で杖を構えながら、ケルベロスを傍に控えさせたサクヤは心の中でひとまずの現状に安堵の息を吐く。

 

しかし決して気を緩めず、再びセルリアンの力を通して魔法の用意をしながらサクヤは前線メンバーを後退させるタイミングを逃さんと目を光らせる。

 

その時……

 

 

ドオオォォォォォン!!!!!

 

 

……戦場に立つ者全ての視線を集める程の轟音が響いた。

 

ほぼ反射的に音が聞こえた方向を見ると、エレンシアの市街の奥と思われる場所から大きな土煙が立ち上っていた。

 

ソレを見た者の中で、あの土煙が何なのか瞬時に理解したのは、レイジだった。

 

「っと……!」

 

練り上げたフォースを左手に集め、地面を強く叩くと同時に不得意ながらも『プラズマ』の魔法を前方目掛けてぶっ放す。

 

数体のオークと兵士が雷撃に焼かれ、その戦場にいる全員がハッとなって再び自分の倒すべき敵に目を向ける。

 

その中、レイジ、リック、リンリンは前方から斬り掛かって来た敵を殴り、蹴り飛ばし、投げ飛ばすなりしてあしらい、後ろへと下がる。

 

「副隊長! 剛龍鬼! 悪いけど少し頼む!」

 

「任せろ!!」

 

後退しながら叫ぶような声で伝令を行い、レイジ達3人は後衛のサクヤの元まで走り寄った。

 

逃がさんと帝国の兵士が追おうとするが、すかさず放たれたアルティナとラナの弓が正確に眉間を貫き命を絶たれる。

 

突然前衛を離れて自分の元へやって来た3人を見て、サクヤは少々驚きながらもケルベロスを引き連れて近くへと走り寄る。

 

「サクヤさん、行ってください! さっきのデカい土煙、きっとレオとスレイプニルの戦闘です」

 

「此処の敵の掃討はもう時間の問題です。師匠はアイツの方を頼みます」

 

「アタシ達も行きたい所だけど、情けないことに体力がヤバいのよ。サクヤは今回後衛に努めたし、まだ動けるでしょ?」

 

リンリンはバツが悪そうな弱々しい笑みを浮かべながらそう言うが、サクヤは3人を情けないなどとは微塵も思わなかった。

 

南門での戦闘に始まり東門、そして此処北門へと続く連戦だ。常に最前線で戦い続けるレイジ達の消耗と負担は相当なものである。

 

今も戦っているフェンリルや剛龍鬼も、同じように消耗しているはずだ。

 

そんな彼等が進んで自分に役目を託したのならば、サクヤの心に迷いの時間は一切無かった。

 

一瞬体が光包まれ、セルリアンからノワールへと姿を変えたサクヤは城門へと足を進めた。

 

「都市の内部へ向かうわ! ケルベロスは護衛を、アルティナは道案内をお願い。アイラは此処で戦線の、ラナはエルフ達の指揮を執って!」

 

短く鋭い声で出された指示に各員は頷き、サクヤ達はエレンシアの内部へと真っ直ぐ走り出す。

 

その背中を心配そうに見送る者はその場におらず、仲間は確かな信頼を胸に自分のやるべきことを、目の前の敵へと足を踏み出した。

 

終戦は……確実に近づいていた。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

  Side レオ

 

 背後からドサッ!! と倒れ込んだ大きな音が聞こえ、振り返る。

 

その直後、凄まじい轟音と共に吹き荒れる暴風が僕の体を叩き、コートの丈や髪を激しく揺らした。

 

見ると、さっきまで僕が立っていた場所の奥にあったレンガ造りの大型の建物がモノの見事に崩壊して瓦礫の山と化していた。

 

恐らく、先程スレイプニルが僕に飛ばしてきた岩塊が直撃したせいだろう。吹き荒れた風は数秒で収まるが、土煙は未だ高く上っている。

 

そして改めて視線を落とし、血の海に倒れ伏したスレイプニルを見る。

 

僕の攻撃によってボロボロとなった黒塗りの鎧の殆どを真っ赤に染め上げながらも、右手に持つランスは変わらず握り締めている。

 

ほんの僅かに上下する体と、小さく聞こえる呼吸音からまだ生きていることは分かる。素人が見ても明らかに虫の息だ。

 

放っておけば間違い無く死ぬ。

 

それが分かっているはずのに、僕はスレイプニルの前まで歩を進める。両手に握る小太刀をそのままに、普段通りの歩幅で歩く。

 

そして、スレイプニルの目の前で立ち止まり、黙ってその様子を見下ろす。

 

 

その瞬間……倒れ伏していたスレイプニルの体が弾かれたように動き出した。

 

 

「ア゙ア゙ア゙゙ア゙ア゙ア゙゙ア゙!!!!!!」

 

上半身だけを起こし、マトモな声にすらなっていない咆哮を上げながら右手に持つランスを僕の顔面目掛けて突き出してくる。

 

「っ……!!」

 

両手は持ち上げず、一拍手で力を溜めた両足で地面を左へ蹴る。顔のすぐ横を赤黒い色をしたランスが通過し、短い風が頬を揺らした。

 

そして、両足で一瞬だけ地面を踏み締め、左足で放った上段蹴りがスレイプニルの右の首筋を正確に蹴り抜いた。

 

「そんな気はしてたよ」

 

蹴りを打ち込んだ場所とタイミング、そしてボロボロの体のせいもあって衝撃を受け止めることも流すことも出来ず、スレイプニルは再び血の海に倒れ込む。

 

僕は右手に握るランスを遠くへ蹴り飛ばし、麒麟の矛先を眼前に突き付ける。吐血と共に咳き込みながら僕を睨み付ける視線は兜越しでも全く衰えていない。

 

「あなたの現状に同情はしない。あなたの命を奪うのに躊躇いもない。あなた達はそれだけのことをした」

 

それだけ言って麒麟を振り上げる。

 

謝罪が欲しいわけじゃない。懺悔の言葉が欲しいわけじゃない。この男を僕以上に憎んでいる存在など、僕が会った者達の中ですら無数にいる。

 

生きている人も、死んでいる人も含めてその人達の為に僕がしてあげられることは、これぐらいだろう。

 

「地獄に落ちろ」

 

兜ごと頭部を両断しようと、麒麟を勢い良く振り下ろす。

 

 

「それは困るな。幾ら幽騎士でも、もう一度死なれては流石に助からん」

 

 

その声は、言葉の通り真後ろから聞こえた。

 

突然の声に驚愕を隠せず、麒麟を振り降ろそうとした僕の体は凍り付いたように動きを止めてしまった。

 

声を聞くと同時に、不可視の威圧感が僕の全身を締め上げている。

 

いつの間に背後を取られた? いや、そもそもどうしてこんな至近距離で、しかも声を聞くまで全く気配を感じられなかった。

 

僕の『心』は距離が近ければそれだけ精度が上がる。例え隠形の達人でも、この距離まで近付いて何の違和感も感じさせないなんてありえない。

 

「誰、だ……?」

 

「口が利けるのは評価するが…… 退()け、小僧」

 

直後、殴り飛ばされたような衝撃と共に、僕の体は瓦礫の山へと吹き飛ばされた。

 

しかも、ただ吹き飛ばされただけでなく、不可視の圧力が僕の体を瓦礫に力尽くでめり込ませるように抑え付けている。

 

背中から伝わる衝撃に呼吸が圧迫され、痛みが視界を揺らした。

 

「がっ……ぁ……!」

 

全身に襲い掛かる圧力に抗いながらどうにか首を持ち上げ、吹き飛んできた方向に視界を向ける。

 

そこには、長身の男性が1人立っていた。

 

この場において違和感しか感じない中世の貴族のような菫色の紳士服を着こなし、腰まで届く白髪の髪を靡かせている。

 

僅かに見えた瞳の色は赤。しかし、右目の方は幅広の一枚布を当てた大きめの眼帯によって覆われている。

 

白髪の男が僕の方に向けていた右腕を軽く横に振るうと僕の全身を押し潰そうとしていた圧力が消失し、思い出したように呼吸が元に戻る。

 

「ごほっ! ……ごほっ……!」

 

咳き込みながら不足していた酸素を補給しようと体内の心拍が急加速する。

 

そのせいで体に上手く力が入らず、壁に大の字を描くようにめり込んだ状態で僅かに持ち上げていた首が力無く沈む。

 

(やばいっ……意識が……!)

 

先程の衝撃と呼吸の異常によって視界が薄れ、意識が落ちそうになる。

 

それはダメだと必死に抗おうとするが、瞼は徐々に重くなっていった。

 

その中で……

 

『しっかりなさい。眠るにはまだ早いわよ』

 

……頭の中に、そんな声が聞こえたような気がした。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

  Side Out

 

 抵抗の気配が無くなったレオの姿を見て、白髪の男は興味を失くしたように視線をスレイプニルに向ける。

 

「スレイプニル将軍……ダークドラゴン様の命により、フォンティーナからの撤退の支援に参りました。戦況は決しております、どうかご決断を」

 

「伯、爵……貴様ぁ……!」

 

胸元に手を添えて一礼して報告する白髪の男、伯爵をスレイプニルは怨敵を見るような目で睨み付ける。

 

それは、この勝負の決着を邪魔されたことに対してか、盟主たるダークドラゴンの命令に逆らえぬことに対してか、殺気を孕んだ怒りが滲み出る。

 

しかし、やがてスレイプニルは握り締めた拳を地面に叩き付け、絞り出すような声で重く呟く。

 

「撤退する……!」

 

「御意」

 

伯爵と呼ばれた男が一礼して手を軽く振るうと、スレイプニルの足元に魔法陣が出現し、淡い光を放ち始める。

 

すると、スレイプニルの体は徐々に魔法陣に沈み込み、数秒でその場から姿が消える。魔法使いの中でもかなり高位の魔法として知られる転移魔法だ。

 

転移の完了を確認し、伯爵もそれに続こうと歩を進める。

 

しかし、魔法陣に入る寸前に伯爵の耳が短い風切り音を捉え、足が止まる。

 

すると、伯爵の眼前を白塗りの小太刀が凄まじい速度で通過した。もしあと一歩足を踏み出していれば、あの小太刀が伯爵の顔面を貫いていただろう。

 

狙いを外した小太刀は柄尻に巻き付けられた鋼糸によって引き寄せられ、ソレを打ち出した射手の元へと飛んでいく。

 

伯爵が視線を向けると、そこには肩で息をしながら右手に握る小太刀を突き出すレオの姿があった。伯爵が知る由は無いが、レオはあの位置から放った射抜・穿を放って伯爵を狙ったのだ。

 

しかし、先程のダメージが残っているせいなのかフラフラのレオの姿を見て、伯爵はフン、と短く鼻で笑う。

 

「まだ動けたか……生憎と貴様に興味は……むっ?」

 

伯爵は再び魔法陣に歩を進めようとするが、その寸前で視界に入っていたレオの姿に気になるモノが見えた。

 

レオ本人が気付いているかどうか知らないが、伯爵を睨み付けるレオの深い赤色の瞳が僅かに、怪しい気配を感じさせながら光を強めていたのだ。

 

ソレをみた伯爵は数秒だけ考え込むような仕草を見せ、面白そうなものを見付けたような微笑を浮かべてレオを見た。

 

「よかよう……少し遊んでやる」

 

その言葉を合図に、レオと伯爵の2人は同時に走り出す。

 

一直線に敵の元へと走り、先に仕掛けたのはレオだった。胸元を斬り裂こうと右手に握られた麒麟が袈裟斬りに振り下ろされる。

 

それを目で捉えた伯爵は斬撃の軌道上に自分の左腕を割り込ませる。武器を取り出すことも避けることもしない行動にレオは少なからず驚くが、その時には麒麟の刀身は伯爵の左腕と衝突していた。

 

もはや体に染み付いた『斬』の型で振り下ろされたレオの斬撃は、直撃すれば骨を通り越して腕を斬り落とすことさえ出来る。

 

だが、伯爵の左腕と衝突した麒麟の刀身からは、固い金属のような物を叩いた手応えが伝わって来る。

 

(籠手……? いや、これは……!)

 

頭の中に閃いた選択肢の中から答えを模索していると、伯爵はそのまま左腕を横に振り抜き、レオを後方へと押し返す。

 

そして、押し返されて態勢を崩したレオへと踏み込んだ伯爵は拳を握り、右腕を後ろへと引き絞る。しかし、今の位置は明らかに拳打の届く間合いではない。

 

「ちっ……!」

 

その行動を見て何かを察したレオが舌打ちするのとほぼ同時に、伯爵の突き出した右腕から弾き出されたように剣の刀身が飛び出した。

 

基本的なロングソードと変わらない長さと太さを持つ剣がレオの胸元を貫こうと迫るが、真下から振り上げた龍鱗によって矛先を弾かれ、狙いが大きく逸れる。

 

「ほう……」

 

少し驚いたように伯爵が感心の声を上げる。

 

(やっぱり、刺突剣……)

 

今まで目にしたことの無い類の武器であることにレオは心の中で伯爵に対する警戒心のギアをさらに引き上げていく。

 

互いに初撃が空振りに終わるが、レオはその体勢から両足で地面を強く蹴り、孤を描くような蹴りで低空のサマーソルトを放つ。

 

伯爵は地面を後ろに蹴ってバックステップで蹴りを避けるが、すぐに両方の拳を握り締めて再び踏み込む。

 

それに対し、レオは両手の小太刀を鞘に納めて麒麟の柄に手を添えて抜刀の構えを取る。それを見た伯爵も、力を溜めるように右腕を引き絞る。

 

「ブラッディ……スティンガー!」

 

 

『御神流奥義之壱・虎切』

 

 

遠間からの抜刀の一撃と槍を突き出したように放たれた鋭い刺突が激突し、両者の右腕は互いに後ろへと弾かれる。

 

しかし、伯爵は後ろへ弾かれた力に逆らわずに右腕と同時に左腕を振り回し、両手で円を描くように2刀の回転斬りを放つ。

 

レオは両手の小太刀を眼前で交差させ、回転斬りを防ぎながら連続のバックステップで距離を取ろうとする。

 

その中で、レオの目は回転を止めずに斬撃を放ち続ける伯爵の剣を目で捉え、三撃目を受け止めた時点で斬撃のタイミングを見切る。

 

(ここだ……!)

 

迫る刃に龍鱗をぶつけ、その刀身の峰にすかさず麒麟を叩き付ける。

 

 

『小太刀二刀流・陰陽交叉』

 

 

「ぬぅ……!」

 

ガアァン!! と大きな金属音と共に伯爵の右腕が刺突剣と共に後方へ弾かれる。突然の反撃に体勢が崩れるが、追撃を予想した伯爵は迎撃しようと左腕の刺突剣を突き出す。

 

しかし、刺突剣の矛先がレオの額を貫く寸前……

 

 

『御神流奥義之歩法・神速』

 

 

……レオの視界に映る世界が、動きを止めた。

 

その中を動くレオは全身に重い空気を纏いながら刺突剣を避ける。その時、レオはふと自分の体に違和感を感じた。

 

(体が……いつもより軽い)

 

重い空気が纏わり付いて全身の動きが鈍い『神速』の中、何故か今のレオの体は普段よりも速く動くことが出来た。

 

そして、『神速』の中で動きが軽くなることは、通常の時間の中で動く速度がさらに向上するということである。

 

刺突剣を掻い潜り、両手の小太刀を納刀しながらレオは伯爵の懐に入り込む。

 

 

『御神流奥義之陸・薙旋』

 

 

納刀から間髪入れずに放たれた4連の斬撃が伯爵の体を斬り裂き、2人の体がすれ違ったところで『神速』が終わり、世界が色を取り戻す。

 

『薙旋』の斬撃は確かに伯爵の体を斬り裂いた。

 

しかし……

 

(手応えが浅い……いや、硬い!)

 

「中々だな。だが、ここまでだ」

 

必殺を狙っての奥義が直撃したはずだというのに、背後から聞こえた声の主はまるで意に返していないようだった。

 

そして、慌てるように振り向いたレオの目が見たのは、自分の首元を掴もうとすぐ近くへ迫る伯爵の右腕だった。

 

「ぐっ……!」

 

首を鷲掴みにしたまま、伯爵はレオの体を軽々と持ち上げる。

 

そして呼吸が徐々に圧迫される中、レオは自分の喉元を掴む伯爵の右手に微かな違和感を感じた。それは、人が生きる上で絶対的に必要なモノの欠落。

 

(なんだ、この人……! ()()()()……?)

 

「その眼……やはり、断片的だが眷属を取り込んだか」

 

一人で納得するような伯爵の呟きを無視して、レオは自分の首を掴んだ手を斬り落とそうと右手に持つ麒麟を振り上げる。

 

しかし、それを振り下ろすよりも先に……

 

ドスッ!!

 

……腹部を何かが貫いたような衝撃が襲った。

 

視線を落とすと、貫手の形を作った伯爵の左手がレオの腹部に深々と突き刺さっていた。しかし、先程の衝撃を感じただけで痛みは全く無かった。

 

だが、体の中に手を突っ込まれているという事実が本能的な恐怖と嫌悪感を感じさせ、レオの肉体は意思に反して思うように動かない。

 

そして、レオは気付かないが、彼の赤色の両目は何故か僅かに点滅している。

 

「ほう……単純だが頑丈な封印だな。しかし、僅かだが既に綻びがある」

 

言うと、伯爵は左手を引き抜き、レオの体を放り投げる。

 

まだ上手く動かない体をどうにか動かして手が突き刺さった場所を触ってみると、体はおろか衣服にさえ傷が付いていなかった。

 

「ただの撤退支援のつもりが、面白いものが見れたな」

 

伯爵の足元に先程と同じ転移魔法陣が現れ、体が沈み込んでいく。

 

そして、伯爵は何処か不気味さを感じるような笑みを浮かべてレオを指差す。

 

「予言してやろう、小僧……お前は、()()()()()()。その時お前がどんな絶望の表情を浮かべるのか、楽しみにしているぞ」

 

そんな捨て台詞を残し、伯爵の姿は魔法陣の中へと消えていった。

 

その場に残されたレオは、両手の小太刀を納刀してすぐ未だ上手く動かない体から完全に力を抜き、地面に大の字で倒れる。

 

目を閉じて感覚を研ぎ澄ませ、『心』で周囲の音を聴く。遠く、かなり遠くの方から風に乗って勝鬨を上げる声が聴こえた。

 

十中八九、解放戦線のものだろう。

 

だが、現在の心境が色々と最悪なレオは懐から取り出したタバコに火を点け、溜め息と一緒に紫煙を吐き出した。

 

「……クソ、好き勝手言いやがって」

 

基本的に礼儀正しいレオの口から珍しく零れた罵倒の声は、風の音に包まれて誰の耳にも届くことは無かった。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

決着が着くと思ったら色んな意味でとんでもない乱入者が現れました。

というわけで、原作通りスレイプニルは生きてます。

ただし、レオが厄介な人物にロックオンされました。(レオ逃げて、超逃げて)。

それとオリジナルということで、伯爵との戦闘を少し挟みました。

ブレードアークスであんだけ暴れて最終的にリアル世紀末作りやがったんだから、直接戦闘は出来ないなんて言わせない。

次回は戦いの後になります。

では、また次回。

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