シャイニング・ブレイド 涙を忘れた鬼の剣士   作:月光花

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玄武Σ様、スペル様から感想をいただきました。ありがとうございます。

今回はレイジ達の方です。

では、どうぞ。


第35話 幽騎士の戦場

  Side Out

 

 レオが子供たちの救出に成功し、隠れ里に戻り始めた頃、避難民の救出に向かったレイジ達も同じく激戦を繰り広げていた。

 

解放戦線の主力部隊と戦っているのは、ドラゴニア帝国のケンタウロス部隊。

 

その場に彼等を率いるスレイプニルの姿は見えないが、黒の兜と甲冑、武器はランスと楯に統一されたケンタウロスの集団がおよそ30はいる。

 

森の中を重く鋭い足音を鳴らして駆けるケンタウロスの部隊に対して、避難民のエルフ達を背にして戦う戦線メンバーの戦況は……劣勢だった。

 

「やべっ! 一人抜けた! ……剛龍鬼、頼む!」

 

「任せろ!」

 

舌打ちしながら叫んだレイジの隣を一体のケンタウロスが通過し、その先に剛龍鬼の巨体が盾と斧を構えながら立ちはだかる。

 

『何をしている、レイジ! あっさりと敵を通すとは……!』

 

「んなこと言っても……!」

 

剛龍鬼にフォローを頼み、喝を入れてくるユキヒメと話すレイジの声には僅かながら疲労の色があった。

 

周りに目を向けてみると、同じように前衛で戦うリックは大剣を振るってケンタウロスを抑え、リンリンは背後からのチョークスリーパーで絞め落としている。

 

それを見たレイジは即座に駆け出し、リックと戦うケンタウロスの背後から疾走の勢いを付けて軽い跳躍。大太刀を右薙ぎに振り抜き、ケンタウロスの背中を深く斬り裂く。

 

「……何体仕留めた?」

 

「今ので4体目だな。ていうか……リック、気付いてるか?」

 

「とっくにな……奴等、こっちを消耗させようと手を抜いてやがる」

 

苛立ちを微塵も隠さず吐き捨てるリック。こちらも、レイジと同様に声の中には疲れの色がある。普段のように嫌味を返さないのもそれが理由だろう。

 

別にケンタウロスの部隊が高度な戦略や連携を駆使しているわけではない。むしろ、ケンタウロスの猛攻を食い止めているサクヤの戦略とレイジ達の連携こそ大したものだ。

 

レイジとリックの視線がそれぞれ別の敵を捉え、再び走り出す。

 

先に向かおうとするケンタウロスの進路上に割り込もうと両足で地面を蹴るが、その差は思うように縮まらない。

 

「くそっ!!」

 

現在、レイジ達が不利な状況へと追いやられている大きな理由はこれだ。

 

単純な話で、ケンタウロス達一体一体の速度と突破力が高過ぎるのである。だが、この展開は当たり前といえば当たり前なのだ。

 

考えてもみてほしい。身体能力を多少上げられるとはいえ、人間が馬に徒競走で勝てるだろうか?

 

答えは否だ。

 

人間と馬の脚力では、瞬間的な発揮力も最大馬力も次元が違う。無論、そこから発揮される速度や突撃力も同じくだ。

 

正面からマトモに激突すれば人間など軽々と吹き飛ばせる突進を止めるのも容易ではない。

 

しかも、トドメに地形が最悪だ。銀の森の中では比較的に木の数と密集が少なく、大した障害物の無い平地など、ケンタウロスには気兼ね無く全速力を出せる絶好の場所である。

 

容易には止められぬ突破力を前に攻め切れず、追い掛けようにも速度で圧倒的に劣る。

 

だが、劣っているからといってやめるわけにはいかないのだ。それを承知しているからこそ、前衛を務めるレイジとリックは体力の消耗を覚悟して走り続けている。

 

ちなみに、今のレイジは体力の消費と味方への誤射を考えてハイブレードモードを使わず、大太刀の姿をしたユキヒメを振るっている。

 

現在の解放戦線の陣形は速度・攻撃・防御のバランスが良いレイジ、リック、リンリンの3人を前衛に、後方と合わせて合計4つの防衛ラインを作っている。

 

第2の防衛ラインには、前衛を突破した敵に対して即座に足を止める、または叩くことを目的としてフェンリル、剛龍鬼、サクヤの3人。

 

そのすぐ後ろには第2防衛ラインを援護する遠・中距離攻撃を持つアルティナ、ケルベロス、ラナの3人がいる第3防衛ライン。

 

そこから少し後ろに離れた場所に広範囲攻撃を持つアイラ、エルミナ、龍那の3人が務める最終防衛ラインがあり、避難民の誘導を急ピッチで行っている。

 

この陣形は徹底的に防御力を優先した配置なので、今のところケンタウロスの部隊の中で第2・第3の防衛ラインを突破できた者はいない。

 

しかし、油断は出来ない。

 

まだ避難民の誘導は完了していない上に、レイジとリック(恐らくはリンリンも)が気付いていた通り、敵はまだ手を抜いている。スレイプニルがこの場にいないのが証拠だ。

 

狙いは恐らく、前衛を務める3人の体力を消耗させることだろう。

 

鍛えているとはいえ、レイジ達のスタミナも無限ではない。ましてや今はひたすら全力疾走を続けているのだ、消耗しないわけがない。

 

そして、前衛が瓦解すればケンタウロス達の攻撃を第2・第3防衛ラインだけで凌ぐことは難しい。まだ防衛ラインは残っているが、アイラ達はあくまで保険だ。

 

しかし、レイジ達が動き続けなければ結局は同じ結末だ。防衛ラインはケンタウロス達の攻撃に食い破られてしまう。

 

ところで少し話が変わるが、何故バランスに優れたサクヤが巨体の剛龍鬼やフェンリルと同じ第2防衛ラインを務めているのか。

 

その理由は、現在のサクヤの姿にある。

 

普段着ている漆黒色のドレスとは違い、翡翠色の鎧と所々にフリルが付いたドレスを一体化させたような……凛々しさと華やかさを両立させたような恰好をしている。

 

その右手には内側に銀のラインを走らせ、左右の刃を棘のように鋭くした翡翠色の 突撃槍(ランス)。左手には同色の(シールド)

 

ローゼリンデによく似た武装構成のこの姿こそ、ベイルグランから受け取った力、グリューネを纏ったサクヤの姿である。

 

「ハァッ!!」

 

真っ直ぐ突っ込んできたケンタウロスが気合の声と共に槍を突き出してきた。

 

しかし、サクヤはその場から動かず、ただ黙して構えた盾で槍を正面から受け止めた。

 

ケンタウロスの速度と体躯を生かした刺突だというのに、大きさに劣るサクヤの体は一歩も下がらず、地面を強く踏みしめている。

 

ケンタウロスは驚愕に目を見開くが、そこから立ち直るよりも早くサクヤの右腕が動く。

 

踏みしめた足が前へと進み、全身のバネを使って発揮された力がサクヤを1つの矢へと変え、突き出された突撃槍がケンタウロスの腹部の鎧を貫いた。

 

しかも、突撃槍の破壊力はそれだけで収まらず、貫いたケンタウロスの体を第一防衛ラインよりも前に吹き飛ばし、他のケンタウロスに激突させた。

 

鉄壁と呼ぶに相応しい防御力と重く鋭い槍の一撃。これこそがグリューネの戦法だ。

 

「さっすが~♪」

 

笑顔で感心の声を上げたリンリンが動きの止まったケンタウロスに距離を詰め、振り抜かれた拳が顎を打ち上げ、首の骨を破砕した。

 

しかし、サクヤの目から見てもその動きは少々キレが悪く、リンリンの顔にも隠し切れない疲労の気配があった。

 

やはり、このままでは避難民の誘導を終えるよりも先に前衛が崩壊する。そうなれば、第2・第3防衛ラインだけ敵を食い止めなければいけない。

 

(レオがいてくれれば……)

 

それは、弱音になってしまうのだろう。

 

今この場にいない青年のことを考えながら、サクヤは己の思考を恥じる。

 

彼がこの場にいないのは、自分達と同じくエルフを守る為。必ず守り通すという誓いを彼も貫いているのだ。責められる理由などありはしない。

 

だが同時に、サクヤにとってレオの実力はそれだけ頼りになるものなのだ。

 

大きな負傷が無ければ欠かさず行っているランニングのおかげか、レオの走る速度と持久力は戦線の中でも頭一つ飛び抜けている。

 

彼ならば、恐らくケンタウロスの走るコースを先読みして回り込み、上手いこと仕留めるだろう。

 

前に一度、レオに自分の実力についての評価を尋ねてみたのだが、結果は……

 

・基本的に火力が低く、決め手に欠ける

 

・速度と手数の多さ、気配探知が長所なのだが、負傷率が比較的高い。

 

・フォースの技量がまだ未熟の為、全体的に器用貧乏。

 

……等々、ネガティブで低い評価しか返ってこなかった。

 

だが、サクヤはその評価を贔屓など無しに間違いだと思っている。

 

確かに二刀小太刀という武器を扱うレオの火力は高いとはいえない。しかし、対人戦においてのレオはそんな欠点をねじ伏せる程の速さと鋭さを持っている。

 

エドラスに滞在する中で何度か模擬戦の手合せもしたが、正直度肝を抜かれた。

 

レオの戦い方はとにかく止まらず、守らず……全てにおいて速く、鋭かった。

 

決して防御を捨てたわけではなく、絶えぬ連撃によって敵の反撃を許さず、守りを砕き、追い詰め、その命を絶つ。

 

自覚があるのかは分からないが、ルーンベールでの戦いを終えてからレオの実力は確実に上がっている。

 

そして、それを知っているからこそ、この場にレオがいないのが悔やまれる。

 

 

そんな時、戦況に大きな変化が起こった。

 

 

前衛の第一防衛ラインと戦うケンタウロス達が一斉に動きを止め、後退を始めたのだ。

 

突然の行動に、レイジ、リック、リンリンの3人は肩で息をしながら顔を合わせ、軽く首を傾げながら警戒を強める。

 

それは戦線の全員も同じくだ。普通、この状況で後退する理由は無いはず。

 

だが、その理由はすぐに分かった。

 

ケンタウロス達が左右に道を空けたその先から、他の者とは違った威圧感を感じさせる重い足音が聞こえてくる。

 

現れた人物の姿を見て戦線メンバーの全員が身構えるが、その中でも少し、反応が異なる者達がいた。それは、現れた人物と浅からぬ因縁を持つ者達だ。

 

エルミナは少し怯えながらも強い意志を宿した瞳で杖を握り、アルティナは怒りを宿した鋭い眼光で弓矢を構える。

 

そして、レイジは額の汗を拭って大太刀を握り締め、峰で肩を叩きながら口元に好戦的な笑みを浮かべて口を開いた。

 

「よぉ、久しぶりじゃねぇの。スレイプニル」

 

「貴様か、霊刀使い。あの男……イブキは何処だ?」

 

「別件で忙しくてな。此処にはいねぇよ」

 

漆黒の鎧と髑髏のような兜を被ったケンタウロス、スレイプニルは以前と変わらぬ姿と武装でレイジ達から少し離れた場所に立つ。

 

後ろにいる十数体のケンタウロス達はスレイプニルの指示を待っているのか、一歩も動かない。第2防衛ラインのサクヤ達も、武器を構えるだけで動こうとはしない。

 

「シルディアに続いてルーンベールを取り戻し、今度はフォンティーナのエルフ共を助けに来たか。大陸中を走り回ってご苦労なことだな」

 

「大陸のあちこちを見境無く攻め落としたお前らには負けるよ。つか、将軍自ら避難民を襲い来るとか、お前それでも騎士かよ」

 

「たわけが。一度朽ち果てたこの身に騎士道なぞ重みにしかならぬ。とうに捨てたわ」

 

レイジとスレイプニルは向き合いながら互いに嫌味をぶつけて微笑を浮かべるが、その目はまったく笑っていない。すぐにでも斬り掛かりそうだ。

 

しかし、実際の現状は戦線側にとってかなり悪い。

 

前衛を務める3人はスタミナをかなり消耗している上に、エルフの避難民の誘導がまだ終わっていない。

 

戦闘が再び開始されれば、ケンタウロス達はもう手を抜かないだろう。それに加えてスルトと同格の強さを持つスレイプニルまで加わるとなれば、戦線側も防衛の余裕など無い。

 

間違い無くルーンベール王城の時のような大乱戦となる。そうなれば、エルフの避難民は無防備となり、恰好の的だ。

 

もしそれで避難民を死なせてしまえば、帝国に勝っても意味がない。

 

だが、その予想はスレイプニルの言動によって思わぬ形で覆された。

 

「貴様等は命令有るまで動くな。これより手を出した者は処刑する」

 

右手に愛用のランスを持ったスレイプニルは背後の部下達に殺気を浴びせながら命じ、たった一人でレイジ達の前に立つ。

 

どうやら、一人でレイジ達と戦うつもりのようだ。

 

「……何のつもりだ?」

 

「これで貴公等も気兼ねなく戦えるであろう。貴公等が何を守ろうと自由だが、くだらん雑念に囚われて戦いに集中出来んのは私の望むところではない」

 

睨みながら問うレイジに答えたスレイプニルの声に嘘の気配は無かった。

 

形こそ違えど、スレイプニルもまたスルトと同じように満足のいく戦いを望んでいるのだ。

 

不満はある。

 

だが、レイジ達にとってこの展開はありがたいのもまた事実だった。

 

戦線メンバーは心中の不満を飲み込み、気を引き締めて武器を構える。

 

前に進み出たのは、レイジ、リック、リンリン、フェンリル、アルティナの5人のみ。

 

全員で戦えば良いのでは、とも思うが、ケンタウロス達を牽制し、それを即座に抑える為に防衛ラインを完全に崩すわけにはいかないのだ。

 

それを見たスレイプニルはふん、と軽く鼻を鳴らし、後ろ足で地面を何度か削り、重心を僅かに沈めて加速の為に力を溜める。

 

「それで良い……あの スルト(狂犬)を打ち破った力、存分に見せてみよ!!」

 

4本の足が地面を蹴ったことで生まれる爆発的な加速と共に、スレイプニルは突撃する。同時にレイジ、リック、リンリン、フェンリル、アルティナが迎え撃ち、戦闘が再び開始された。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 「はっ……!」

 

「ふっ……!」

 

突き出されたスレイプニルの槍を最初に迎撃したのは、レイジの振るう大太刀。

 

しかし、武器の押し合いのような状況にはならず、大太刀に槍の矛先を逸らされたスレイプニルはそのままレイジの隣を通り過ぎる。

 

だが、その先に待ち構えていたのは左右から襲い掛かるリックの大剣とリンリンの飛び蹴り。炎を纏う大剣はスレイプニルの腹部を、風切りの音を鳴らす脚は首を狙う。

 

スレイプニルは槍を倒して大剣を防ぎ、左手の手甲でリンリンの蹴りを受け止める。

 

「ぬぅんっ!!」

 

しかも、受け止めたリンリンの足をそのまま掴み、今まさに攻撃を仕掛けようとしていたフェンリル目掛けて投げ付けた。

 

「むっ……!」

 

当然無視するわけにもいかず、フェンリルは足を止めてリンリンを受け止める。

 

その隙を逃さず接近したスレイプニルの槍が紫電を纏い、デッドランサーの刺突が2人を貫かんと風を突っ切って迫る。

 

だが、突き出した槍の矛先は側面から飛んできたアルティナの矢によって大きく逸らされ、スレイプニルの槍は地面に突き刺さって爆発を起こした。

 

フェンリルとリンリンは咄嗟に爆風を利用してその場から離れる。スレイプニルはそれを気配で察していたが、追撃を仕掛けようとはしなかった。

 

(あの一瞬で我が槍の矛先を捉えて射抜くとはな……)

 

下手をすれば味方に当たる可能性もあったというに、アルティナは見事にやって見せた。

 

決して侮っていたわけではないが、スレイプニルにとってはその技量を見るだけでレイジ達がどれだけ成長したのか充分に理解出来た。

 

だとすれば、今この場にいないあの青年はどれだけ成長しているのか……考えるだけでもスレイプニルは心の底から高揚感を覚えた。

 

「零式刀技……響!!」

 

土煙が立ち込める中で聞こえた声に反応し、スレイプニルの思考が我に返る。

 

その直後に上半身を屈ませると、一瞬の凄まじい突風と共に土煙が一筋の線を描くように断ち切られた。見ると、その直線状にあった一本の大樹が横一文字に綺麗に割れている。

 

振り向く先にいたのは、肩で息をしながらもスレイプニルを睨み付けて大太刀を振り抜いているレイジ。どうやら、風で作った斬撃を飛ばしたようだ。

 

その大火力を封じようとスレイプニルは即座に走り出し、槍の矛先をレイジに向けて黒い光を放つ棘、デッドリードライブをひたすら連射して動きを止める。

 

「フレイム!!」

 

しかし、リックの詠唱に続いて放たれた一筋の光が地面に着弾して大爆発を起こし、足が止まったスレイプニルを狙って煙の中を突っ切ってリックとレイジが斬り込む。

 

「なるほど……」

 

それに対してスレイプニルは一人で小さく呟き、弾かれたように右手に握る槍を振るう。

 

右薙ぎに振るわれた槍はレイジの大太刀に受け止められるが、瞬きを上回る速さで槍を引き戻し、別方向から迫るリックに連続で刺突を放つ。

 

「っ……!」

 

鍛え抜かれた動体視力と直感に従って振るわれたリックの大剣が心臓に迫る刺突を横へと受け流し、喉元と左腹部を狙った刺突を避ける。

 

だが、スレイプニルの持つ槍は刺突の速度と貫通力を両立させたランスとスピアの中間のようなもの。故に、突きの連射速度と狙いは速く鋭い。

 

3、5、9と、次々に刺突を放つ赤色の魔槍がリックとレイジの領域を侵食していく。

 

2対1の状況だというのに、絶え間無く襲い掛かる連撃にリックとレイジは一方的に防御を強いられ、回を重ねる度にそれを崩されていく。

 

元々大剣や大太刀などの武器は取り回しの悪さから防御には向かないが、それを差し置いてもスレイプニルの槍撃を捌き切れない。

 

以前、レオは点で放たれる槍の軌跡をショートソードの線の軌跡で捌いて見せた。あれは腕の動きや足捌きを見ての攻撃の予測が重要であり、多大な集中力を必要とする。

 

しかし、今のレイジとリックは精神的にも肉体的にも消耗している。そのせいで防御の反応速度も本来より鈍く、動きのキレも悪い。

 

故に……

 

「ぐっ……!」

 

「がっ……!」

 

防御をすり抜けたスレイプニルの槍がリックの右腕とレイジの脇腹を掠め、苦悶の声が漏れた。そして、その致命的な隙をスレイプニルは見逃さない。

 

ブン、という音を鳴らし、美しい孤を描きながら横薙ぎのフルスイングが放たれる。

 

「くそっ……!」

 

脇腹の痛みを堪えながら、前に進み出たレイジが咄嗟に大太刀を割り込ませ、槍を防ぐ。しかし、槍の破壊力受け止めきれず、リックと共に横へと吹き飛ばされた。

 

『リック、大丈夫!』

 

『レイジ、しっかりしろ! お前が倒れれば、防衛ラインはすぐさまスレイプニルに食い破られるぞ!』

 

地面を転がる2人のパートナーが声を掛けるが、傷口から襲い掛かる痛みに反応して今ままでの度重なる全力疾走の疲労が体に重くのしかかる。

 

武器を杖にして立つ2人を見ながら、スレイプニルは何処かつまらなそうに息を吐く。

 

「すでに体力が尽きかけているか……人の身とはまったく……」

 

不便なものだと言いながら周りを見渡し、スレイプニルはトドメを差そうと槍の矛先をレイジとリックに向ける。

 

それを見たアルティナが即座に矢を放つが、スレイプニルは左手を振るって手甲で矢を叩き落とした。

 

フェンリルとリンリン、後ろに控えていたサクヤ達もスレイプニルの攻撃を阻止しようと動き出すが、僅かで確実に遅い。

 

「満足には程遠いが、この結果も戦場の真実よ…………死ね」

 

赤色の槍が光を纏い、デッドリードライブの照準がレイジとリックを捉える。

 

しかし、その瞬間……スレイプニルの直感がこの場に見えない危機を察知した。

 

直感に従って弾かれたように振り向いた先には密集した木々しか見えない。しかし、スレイプニルの目はその先で僅かに光る何かを捉えた。

 

次の瞬間、その光の正体はスレイプニルが目を凝らすよりも先に、凄まじい速度で飛んで来た。

 

「ぬっ……!!」

 

避けられない。

 

瞬時に理解したスレイプニルは咄嗟に槍を振るってソレを弾く。

 

僅かにスレイプニルの視界を横切った飛来物の正体は、矛先から柄尻まで雪のような白色をした一振りの小太刀だった。

 

(これは……っ!)

 

その情報から一つの結論が導き出されるが、右手に握る槍から生じた違和感がスレイプニルの思考を現実に引き戻す。

 

見ると、弾いた小太刀の柄尻から延びる鋼のワイヤーがグルグルと槍に巻き付いている。地面に刺さった小太刀が固定用の杭となり、槍が思うように動かせない。

 

それと同時に疾走する黒い影がスレイプニルの正面に出現し、地面に小規模の爆発を起こすような加速力で迫る。

 

「チィ……!」

 

貫くような殺気を前に、スレイプニルは左手の手甲を防御に構え、発揮出来る限りの力を込めて迎え撃つ。

 

それが出来たのは、スレイプニルがかつてこの技を 見たことがある(・・・・・・・)からだ。

 

直後、ガァァン!! と大きな金属音がその場に響き、スレイプニルの足元に少量の血が垂れる。

 

その上では、スレイプニルの左手に黒い小太刀の刀身が突き刺さり、力比べをするように震えながら拮抗している。

 

「……やはり貴様か。発せられるそ闘気、見違えたぞイブキよ」

 

「それはどうも。しかし……あの狂犬ほど不快ではありませんが、ドス黒い覇気は変わってませんね、スレイプニル」

 

片方は何処か嬉しそうに、片方は口惜しさを噛み締めるように睨み合う。

 

今この時、漆黒の幽騎士と見習いの名を返上した御神の剣士が、戦場での再会を果たした。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

シャイニングシリーズの新作がPS3で出ると、つい最近知りました。なんでも、今度の主人公はドラゴンだとか……すんごい楽しみです。

今回は殆どケンタウロス達の優勢でした。前から思っていたんですが、ゲームでケンタウロスの長所らしきものが何も無かったので。

不憫すぎだろケンタウロスよ。

と言っても、その長所も、人間が速さと体力の比べ合いで馬に勝てるわけがないという、当たり前のものしか思いつかなかったんですがね。

今回でスレイプニルも登場し、ひとまずレオと戦場で再会です。

勝負の行方はまだ不明ということで……

では、また次回……

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