今回は予告どおりレオの無双です。
では、どうぞ。
Side レオ
前後左右、あらゆる方向からオーク達の声が聞こえる。当然、接近する足音も。
その中心にいる僕は一歩も動かず、鞘に納めたままの刀を左手に持ち、その柄に右手を添えている。
一つ言っておくのだけど、これは決して油断しているわけじゃない。
ただ単に、二刀小太刀を使っている時とは違って、動き回る必要が無いだけだ。
「ガアァァ!!!」
右から振り下ろされた剣を半歩引いて回避し、握り締めた右拳をアッパーカットの軌道で振り抜いて首を打ち上げ、オークを5メートル近くぶっ飛ばす。
そして反対の左側に視線を向けながら右薙ぎに抜刀し、振り下ろされた剣を弾く。それに続けて鞘を振るって足を払うと、オークの体が空中で縦にクルリと回転する。
そこへ刀身を返して刀を左に振るい、空中で逆さまになったオークの肉体を腹部の中心から真っ二つに斬り裂く。
噴き出した血飛沫の奥から別のオークが斬り掛かって来るが、右へと斬り上げた斬撃で剣を握るオークの腕を肘から斬り落とし、続く右袈裟で肩口から胴体を両断する。
2つに分かれた死体が地面に落ちるより先に背後へ振り向き、左手に逆手に握られた鞘が先程と同じようにオークの足を払い、空中で縦回転する。
そして、下から真上に振り上げられた斬撃がオークの体を縦に両断し、絶命する。
瞬く間に仲間が血祭りに上げられるオーク達。くるりと手元で回転させた刀を納刀して視線を移すと、恐怖を隠し切れていないのかジリジリと後退している。
この時点で仕留めたオークは9体。まだ半分近く敵が残っているが、本音を言えば僕にとって周りのオーク達は脅威にならない。
シルヴァルスに強く宿る属性は『風』。
それによって僕は風を操るだけでなく、風を通して『心』の能力を発展させ、自分の感覚範囲と精度を高めることが出来るようになった。
その成果の一部が今までの攻防だ。その場から移動することなく、襲い掛かるオーク達の攻撃を捌いては絶命させた。
全てにおいて、今の僕は視野と感覚が広なっている。例え背後から攻撃されても、その動きは手に取るように感知して対処できる。
しかも、このシルヴァルスは他の状態よりも速度に特化した高速移動型。適当に放った攻撃では掠らせることも出来はしない。
余談だが、隠れ里からこの場所まで短時間で辿り着けたのはシルヴァルスの加速力で森を半ば突っ切れたことが大きい。
次に攻撃力だが、これは文句無しに強力だ。というか、強過ぎるくらいだ。
右手に握られたエメラルド色の刀身の刀、シナツヒコは何の力を加えずとも、日本刀の形状に恥じぬ切れ味を誇る。『斬』と合わせて振るえば、鋼だって斬れるかもしれない。
だがフォースを……風の力を加えれば、その切れ味は別次元へと昇華する。
フォースを込めることでシナツヒコの刃は風を纏い、表面に極小規模の竜巻を発生させ、真空の刀身を作り上げるのだ。
その状態から放たれる斬撃の前では、並みの武具や障害物など紙切れにも等しい。
これほど強力なシルヴァルスの力ならば、目の前のオークがどれだけ取るに足らない存在かは一目瞭然だ。
しかし、ゆっくりはしていられない。この場にいるのは僕だけではないのだから。
「行くよ」
一言呟き、動揺するオーク達へ正面から突っ込む。
駆ける肉体の速度は普段よりも遥かに速い。だが、研ぎ澄まされた視野と感覚はそのズレを完璧に調整し、戦闘に支障を出さない。
先頭のオークへ抜刀と共に左袈裟に踏み込み、続く右袈裟の斬撃。そして一瞬だけ力を溜め、地を蹴ると共に刀を右薙ぎに振るう。
3連続で打ち込んだオークの体を斬り裂くと共に、地面を滑るように右へ移動しながら隣に立つ別のオークを斬る。
移動先で待ち受けていた別のオークが斧を振り上げるが、僕は即座に振り返ると共に左薙ぎでオークの両腕を斬り飛ばし、右薙ぎで腹を裂く。
そして腰の後ろで刀を鞘に納め、真上へと跳躍。オークの背後へ回り込むように跳び、落下と共に抜き放った刀を唐竹に振り下ろす。
背後で十字に分割されたオークが崩れ落ちるが、僕の足が止まった瞬間を狙って脳天目掛けて剣が振り下ろされる。
僕はそれを左手に持つ鞘で受け止め、右手に持つ刀を逆手に持ち替えて“後ろへ”突き出す。放たれた刺突は背後から近付いてきたオークの心臓を貫き、その動きを止める。
そして、剣を受け止めている左手の鞘を跳ね上げるように強く振り抜き、同時に左足でオークの足を蹴り飛ばす。すると、オークは軽々と宙を舞う。
即座に刀を鞘に納めて腰に差し、右足を軸にして左足で円を描くように体を回転。再び地面を踏み抜くと共に放った右薙ぎの居合いが突風を生み出しながらオークの体を真っ二つにした。
(あと5体……)
風を通して敵の位置と数を確認し、僕は後ろへ回し蹴りを放つ。
その蹴りは背後から飛び掛ってきたオークの顎を打ち抜き、突撃の勢いを完全に殺した。そして、抜刀した刀が下から上へと振り抜かれ、オークの体は股間から頭部まで両断された。
クルクルと刀を回転させ、眼前でゆっくりと納刀する。
(残り4……倒すこと自体は問題無い。問題が有るとすれば、僕の方か……)
内心で呟き、鞘を握る左手にフォースの風が集まる。
右手を柄に添え、抜刀術の構えを取る。前方に立つ4体のオークとの距離はおよそ5、6メートル。普通なら鞘に納めた刀を構える距離ではない。
だが、問題無い。この程度の距離なら……
「射程範囲内だよ」
抜き打ちの瞬間すら見せない速度で抜刀し、振り抜かれると共に鞘の内部に集束した風が刹那の暴風となって解き放たれる。
風が森の木々とオーク達を通過し、僕は振り抜いた刀を普段と変わりない速度で再び鞘に納める。そして、刀身が鞘に納まる寸前……
「無影斬花」
……呟き、カチン! と鍔元が音を鳴らした。
次の瞬間、無数の弧を描くようなカマイタチの刃が爆散し、空間を無秩序に蹂躙した。
その殺戮空間は数秒で霧散するが、中心にいたオーク達は言うまでもなく全滅している。
空間を埋め尽くす真空の刃を全方位から浴びたオーク達の死体はバラバラの肉塊状態。某殺人鬼の17分割なんて余裕でぶっちぎってる。
正直に言おう、やりすぎた。
「これで全部か……ケフィアには子供達と一緒に隠れるように言ったけど……」
地面に転がったオークの肉塊をなるべく見ないようにして身を翻し、あらかじめケフィアと決めておいた合流地点へと歩を進める。
だけど、一歩踏み出した途端に全身が激しい脱力感に襲われ、体がグラリと傾く。
「っと……!」
慌てて木を支えにしようと手を伸ばすけど空を切り、僕は地面に仰向けで倒れてしまう。
それと一緒に体が光に包まれ、シルヴァルスの姿が強制的に解除される。普段通りの黒いロングコートを身に纏い、空中に漂う緑のカードを手に取った。
「……オーク20体相手にコレなら充分だろうけど。まだ長期戦には使えないか」
超高速移動、『心』の感知能力を発展させた空間把握力と反応速度、真空を帯びた刀身とあらゆる体勢から放てる神速の居合い、風属性のフォースによる広範囲攻撃。
これだけの力を発揮し、一見無敵にさえ思えてしまうシルヴァルスだが、この力には大きな弱点が存在する。
実はこの力、制御が難しい上に、燃費が劣悪を通り越して最悪のレベルなのだ。
まだまだ改善・改良の余地は有るのだが、現状はこの通り。一度の戦闘で倒れるほど体力と精神力を消耗してしまう。
ラナさん曰く、風の精霊というのは他の精霊に比べて我が強く、安定化させるのが難しいそうだ。グラマコアが操る冷気と違い、風はありとあらゆる場所に存在するから扱う力の規模が違うとか。
ラナさんやアルティナのように思い通りに力を発揮するには、経験を重ねて風の精霊と理解を深めるのが一番の近道とのこと。
だが、決して悲観的な事実だけではない。使いこなすことが出来れば大きな力になるのだ。
「やれやれ……最近は努力する項目に事欠かないな……」
苦笑を浮かべながら立ち上がり、崩れそうになる膝に力を入れて走り出す。
数分もしない内に合流地点に到着すると、そこでは座り込んで震えながら涙を流すエルフの子供達をケフィアが必死に宥めていた。
やって来た僕の姿を見て、ケフィアは嬉しそうに飛んできて頭の上に乗る。感謝の意を込めて頭を撫で、僕は子供達の前に片膝を付いて視線を合わせる。
「おにいちゃん……」
「待たせてごめんね。外にいたオーク達はもういないよ」
そう言って懐からトランプを取り出し、子供に渡す。すると、子供達は心底安心したようで、肩から目に見えて力が抜けた。
「さぁ、帰ろう。隠れ里の皆が心配してるよ」
「でも……きっと、皆怒ってる……お爺様の言いつけを破ったから……」
エルフの女の子が顔を伏せ、弱々しく呟く。
その反応は当然で仕方ないと思うのだけど、お爺様の言いつけって……もしかしてこの子、あの議長の孫?
「そっか……実はね、僕も議長の許可を取らずに森に入っちゃったんだ。戻ったら僕も怒られちゃう。でも一人だと怖くてさ、僕と一緒に謝ってくれない?」
伏せられた頭にポンと手を乗せ、口調を和らげて言葉を掛ける。
僕自身にも経験は有るのでよく分かる。
こういう時の子供は、同じ境遇の存在に一緒にいてほしいと願う。一緒に怒られる人がいるという事実は、不安を大きく和らげてくれるものだ。
「……うん」
やがて、エルフの女の子は小さく頷き、他の子供達と一緒にゆっくり立ち上がる。
頭の上に乗るケフィアを見上げて案内をお願いすると、任せろと言うように声を上げてケフィアはふわふわと飛行する。
その後を追って子供達が歩き出し、僕が最後尾を歩く。もちろん、敵が近付いてきた時のことを考えて周囲に気を配ることも忘れない。
「フゥ……? フゥ!フフゥー!」
だが、突然ケフィアが何かに気付いたように声を上げた。
しかし、残念ながら僕にはケフィアの口にする言語は理解出来ない。視線を下げて子供達に助けを求めると、一人の子供が翻訳を務めてくれた。
「えっと……隠れ里に来るはずだった人達が帝国に襲われて、おにいちゃんの仲間が助けに向かったって……」
「帝国が……?」
どうやら、里に戻ってもすぐには休めないみたいだ。
心の中で小さく溜め息を吐き、僕は空に広がる青空を見上げた。
ご覧いただきありがとうございます。
普段より少し短いかもしれませんが、次回の為に一旦此処で切ります。
レオの手にする力は、どれもこれも一朝一夕で使いこなせないじゃじゃ馬ばかりです。それでも、努力家のレオは血反吐を吐きながら頑張ります。
ですが、やっぱり最強の状態は小太刀二刀のつもりです。
次回はレイジ達の方です。
では、また次回。