シャイニング・ブレイド 涙を忘れた鬼の剣士   作:月光花

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玄武Σ様、スペル様から感想をいただきました。ありがとうございます。

シャイニングシリーズで新しいゲームが出るそうですね。今度は格ゲーだとか……体格差をもろともしないキャラしかいないから荒れそうですww

今回からメインストーリーに戻ります。と言っても、1話しか間挟んでませんけど。

では、どうぞ。



第32話 歴史に刻まれる『傷』

  Side Out

 

 夜中、エルフの隠れ里はすっかり静まり返っていた。

 

里の中の明かりは最低限の松明のみで、夜空から差す月の光がちょうど良い光源となっている。

 

そんな隠れ里の中の人気の無い場で、レオは1人で鍛錬に打ち込んでいた。

 

汚染されたエルフの騒動から一週間が経ち、折れた右腕は既に完治。普段通りに動かしても問題無いと判断された。

 

いくらアルティナと竜那の治癒術があるとはいえ、折れた腕が数日で治ったのだ。レオ本人としても、いい加減自分の肉体の治癒力が不思議に思えてくる。

 

だが、そんな疑問はひとまず置いておいて、レオは体の調子を確かめる為に鍛錬をすることにした。仕方ないとはいえ、怪我のせいで何日も小太刀を握っていないのだ。僅かでも感覚が狂っていたら困る。

 

そんなわけで、黒い無地のトレーニングウェアを着るレオは汗を流しながら二刀の小太刀を振るい続けている。

 

虚空を見る瞳の中に無数の仮想敵が描かれ、止まることなく振るわれる小太刀がひたすらにソレを斬り伏せていく。

 

麒麟の右袈裟で胴体を斬り裂き、龍麟の刺突で喉を貫き、返す刀で後ろの敵の手首を斬り落とし、両手から飛ばした7番鋼糸で離れた敵の首を刎ねる。

 

そこからさらに蹴りや飛針も加え、竜巻の如く近くの敵を倒していく。

 

「はぁ……はぁ……」

 

肩で息をしながら呼吸を整え、レオは両手の小太刀を鞘に仕舞って目を閉じる。

 

(小太刀の方はもう充分だ……次はフォースの方だな)

 

エルフ達との騒動から一週間、レオはフィジカルアップの他に、ベイルグランから貰った新たな力、シルヴァルスを使いこなす為の特訓をしていた。

 

今回レオにフォースの指導をしたのは、アイラの推薦によって選ばれたラナだった。

 

と言っても、得意とする武器が真逆なので、教わったのは基礎の部分のみ。使用者の創意工夫によってどこまでも力を引き上げられるのがレオとサクヤのフォースの特性だ。

 

(グラマコアにシルヴァルス、力を生かすも殺すも僕次第……その為にも、鍛錬を小太刀と御神流だけに絞ってたらダメだ)

 

両手を広げ、物を包み込むように重ねる。そこにレオのイメージと精霊の助力が重なり、不可視のフォースに確かな力の形を与え、集っていく。

 

だが……

 

「っ……!?」

 

突然自分に向けられた敵意を感じ取り、レオは気配を頼りにその方向へ振り向く。

 

同時に振り向き様に麒麟を右薙ぎに振るい、自分に迫る“攻撃”を迎え撃つ。

 

カァン! と金属を叩いた甲高い音が響き、音の正体が数秒後に地面に落ちる。チラリと視線を向けると、そこにあったのは1本の金属矢。だが、先端には鏃ではなく吸盤が付いている。

 

「ほう、可能な限り気配を殺して放ったのだが、まさか叩き落されるとはな……」

 

「深夜の挨拶にしては、少し物騒ではありませんか?」

 

感心するような声に呆れた声を返したレオの視線の先には、1人のエルフがいた。

 

左手に大きな弓を持つその人物は、現在フォンティーナのエルフを纏め上げるエルフの議長。レオは深く息を吐いて小太刀を納刀し、置いておいたタオルで流れ出る汗を拭く。

 

「すまなかった。あまりにも熱心だったのでな、レオ殿の実力を少し試したくなった」

 

「……次からは別の形で試していただけると嬉しいです」

 

汗を拭きながら議長を見るレオの目には明らかな不満が漂っているが、議長は微笑を浮かべて懐から1本の水筒を手渡した。恐らく、差し入れだろう。

 

案外抜け目無いなと思いながら、レオは受け取った水筒の蓋を開けて中の水を飲む。

 

「それで、一体どうしたんですか? まさか コレ(水筒)を渡すためだけに来たわけではないでしょう」

 

それぐらい親しみやすい性格してるなら、僕達はエルフとの関係に頭を痛めたりしない。

 

「この前、エルフの子供達に色んな遊びを教えてくれただろう。レオ殿のおかげで、最近は不安そうにしていた子供達にも笑顔が戻ってきたのだ。その礼を言いに来た」

 

議長の意外な言葉に、レオは感心と驚きを感じた。

 

てっきり、我等が同胞の子供達に俗世の遊びなど教えないでくれ、と文句を言われるのかと思っていたのだが、礼を言われるとは思わなかった。

 

しかも、今度機会があれば私にも教えてくれ、などとも言われた。レオはつい、目の前で話してるのが本当にあの議長なのか疑ってしまった。

 

「つかぬことを訊くが、レオ殿はエルデの貴族の生まれなのか? 議会の時や普段の振る舞いも、他の者とは何処か違って見えるのだが……」

 

「名家なのは否定しませんけど、貴族ではありませんよ。普段の振る舞いとかは、幼少の頃から散々叩き込まれましたから」

 

伊吹の家でレオが受けた稽古や習い事の数は、そりゃあたくさんある。

 

食事の食べ方やお茶の淹れ方、言葉遣いにお辞儀と、仕舞いには歩き方や座り方まで1から鍛え直された。今じゃ無意識の中に染み込んでいる。

 

「僕からも1つ訊きたいんですけど……エルフの人達って、昔に他種族との間で大きないざこざでもあったんですか?」

 

急に話題を変えるようなレオの質問に議長は僅かに驚くが、すぐにそれを収める。その目を見る限り、続けてくれ、という言葉を感じた。

 

「違和感は前から感じてたんですよ。だけど、この前の闇に汚染されたエルフと子供達を見て確信しました。エルフの人達が僕等に向けてくる視線は“嫌悪”じゃなくて“恐怖”なんだって」

 

恐怖と嫌悪。

 

言葉としての意味は大きく違えど、この2つは互いの本質がよく似ている。

 

怖いと感じるモノを嫌い、嫌いだと感じるモノを恐怖する。

 

だから、他人の視線を読み取ることが得意なレオでも気付くことは出来たが、感じる違和感の正体が分からなかった。

 

恐らく、レオにぶどう酒をくれたエルフはこの里の中でもごく稀な部類なのだ。

 

「良ければ話してくれませんか。昔この地で、何があったのか」

 

向けられる感情が恐怖であるのなら、今のままではダメだ。もっと理解しなくてはいけない。エルフとの間に生まれた亀裂の正体を。

 

その問いを聞き、議長は小さく息を吐いて草原に座った。その行動に倣い、レオもその隣に腰を下ろした。いざ座ってみると、森の中に吹く夜風が涼しく心地良い。

 

「……数年前、このヴァレリアの地で大きな戦乱があったのはご存知か?」

 

沈黙を破った議長の問いに対し、レオは驚きを感じながら首を振った。

 

たった数年前に大きな戦争があったなどという話は、戦線の誰からも聞いたことがない。

 

「そうか、アイラ姫やラナもそこまでは話していないか……無理もあるまい……」

 

「あの2人は、もしかしてその戦乱に……?」

 

「うむ、あの2人だけでなく、巫女殿も大きく関わっている。かつてあの3人は、戦乱を終息へと導いた伝説の遊撃傭兵騎士団、ヴァイスリッターのメンバーだった」

 

それを聞いて、レオは内心でなるほどと頷く。

 

異国の王族同士であるアイラとラナならともかく、エトワール神殿の巫女である竜那もその知り合いだというのは前から少し疑問に思っていたのだ。

 

「その傭兵団はどうなったんですか……?」

 

「今も世界中を旅しながら闇の勢力と戦い続けているらしい。だが、アイラ姫は王位を継承者であり、ラナにいたってはあの放浪癖だ。今は離れているのだろう」

 

何故かレオはその傭兵団のことが気になったが、議長の返答は曖昧なものだった。世界中を旅しているのなら、そう簡単には会えそうもない。

 

やがて、話を戻そうか、と言った議長が話題を元に戻す。

 

「戦乱の口火を切ったのは、かつてのルーンベール……いや、当時はルーンガイストと国名を変えていたか……その国の皇帝、ガラハッド殿だった」

 

「ルーンベールの皇帝? もしかして、その人って……」

 

「アイラ姫の弟君にあたるお方だ。戦乱にて亡くなったと聞いている」

 

アイラに弟がいた、という事実にレオは少し驚くが、死んだ身内のことを進んで離す人などいないだろう。レオとて、それは同じだ。

 

「ルーンガイストは闇の力と共に軍隊を率いてシルディアに宣戦布告した。だが、その戦火はやがて、我々エルフにも及んだ」

 

そこまで言って言葉を切った議長の顔には、明らかな恐怖と怒りがあった。

 

レオは何も言わず、僅かに顔を青ざめさせた議長の言葉を待つ。

 

「両国の間で中立を保とうとした我々を、ルーンガイストは問答無用で蹂躙した。闇の魔法で森を焼き、捕らえた同胞を洗脳してダークエルフへと変えた」

 

それは、外道と呼ぶにも生温い所業。

 

味方にならなかったから、自分達にとって都合の良い存在ではないからという理由だけで、理不尽な仕打ちを叩き付けられた。それが、エルフ達の抱える傷。

 

直接問うようなことはしないが、恐らく議長もその場にいたのだろう。その身から発せられる恐怖は、体験した者にしか発せられないものだ。

 

「レオ殿の言う通りだ。我等は、人間が恐ろしい。たった1人の、ガラハッド殿の欲望によって瞬く間に戦争が拡大し、種族を問わずに数え切れぬ命が失われた。またあのような地獄が引き起こされるのではないかと思うと、恐ろしくて仕方ないのだ」

 

「……だから、自分達に迫る脅威は自分達だけで解決すべきだと?」

 

「全ての人間が同じだとは言うまい。だが、同じ“人間”であるのも、また事実。我等は、人間の善意よりも悪意を知り過ぎた。だからこそ、規律と伝統を信じるのだ」

 

そう言って議長は立ち上がり、黙って来た道を戻っていった。

 

だが、レオはその背中に掛ける言葉が少しだけ見付かった。

 

「でも……その戦争で大事な物を失ったのは、どうしようもないくらいに悲しい傷を背負ったのは、皆同じですよ」

 

それを聞いた議長は僅かに肩を震わせたが、すぐにまた歩き出す。

 

その背中を見送り、レオは水筒の中の水を一気に飲み干して息を吐く。その溜め息の中には、明らかに疲れの気配があった。

 

(どんな世界でも、結局一番悪いのは人間か……実際にあんな話聞かされた後じゃ、笑えないよな。しかも、発端の1人がアイラさんの弟なんて……)

 

話を聞いたことを後悔はしていないが、実際の内容はレオに予想以上の驚きを与えた。

 

エルデの小説やゲームでも、多くの種族が暮らす世界で戦争を起こすのは人間、というのが定番だった。だが、間近に戦争を経験してみれば、コレは大きなショックを受ける。

 

(だけど……それでも、このままじゃダメだ。過去に縋り付いてるだけじゃ、何も変わらない。それで不幸が無くても、幸せだって1つも無い)

 

だがそれでも、レオは己の考えを改めなかった。

 

意地などではない。ここで諦めたら、本当にエルフ達との関係を変えられない。確かな根拠を持たずとも、そう思えたのだ。

 

(僕に何が出来るのかなんて、ハッキリとは分からない。でも、今はやれることをやろう……)

 

心の中で再度決意を固めたレオは星空を見上げ、静かな足取りで宿へと戻る。

 

だがこの時、レオの心は本人が思うよりも動揺していたのだろう。

 

でなければ、近くの木の陰から姿を現したラナとサクヤの気配に終始気付かないはずがないのだから。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

  Side レオ

 

 「そう……昨日の夜にそんなことが……」

 

「正直、エルフ達の多種族不信を甘く見てたかもね。まさか過去の……ほんの数年前に起こった大きな戦争が原因だとは思わなかった」

 

「それは驚きだけど……レオ、大丈夫? 重くない?」

 

「ん? ああ、平気だよエアリィ……伊達に毎日体鍛えちゃいないからね。このくらいなら問題無し」

 

翌朝、僕は肩に猫姿のリンリンを乗せながらエアリィと一緒に物資を運んでいた。その最中、昨日議長から聞いた話を説明している。

 

僕は2つ重ねた重さ20キロに届く木箱を抱えて溜め息を吐き、肩に乗るリンリンが話を聞きながら考え込み、隣を歩くエアリィが軽い木箱を抱えて心配そうに僕を見ている。それが今の状況だ。

 

女の子に重い物を持たせるなど言語道断なので、重い木箱を僕が運び、軽い方の木箱をエアリィに運んでもらってる。

 

まあ、今言ったとおり僕にとってはそんなに苦ではない。むしろ、議長に聞いた話の方が心の負担になっている気がする。

 

「どうしたもんかなぁ~……」

 

「気にするな、というのも無理だろうけど、今は考え過ぎない方がいいわ。1日2日でどうこう出来る問題ではないのだから」

 

「うん。それに、今はフォンティーナにいるドラゴニア帝国を何とかしないと……私達が頑張れば、エルフの皆も考えを変えてくれるかもしれないし」

 

抱えてきた木箱を倉庫に積みながら愚痴のような声を漏らすと、リンリンとエアリィがフォローをくれた。

 

確かに、フォンティーナにいる帝国をどうにかしない限りは関係改善どころの話ではない。力を合わせて戦うことが出来ればベストなのだけど、今は無理だろう。

 

幸い、エルフ達は物資や情報のやり取りは不備なく行ってくれているし、戦線のメンバーと揉め事も起こっていない。

 

ただし、戦闘に関しては最悪としか言い様がない。連携の“れ”の字どころではなく、協力の“き”の字も存在しないらしい。几帳面なアルティナが疲れた顔でそう報告してきたのだから間違いではないのだろう。

 

何でも前線に出たレイジやリックの話だと、エルフ達が独断専攻したせいで奇襲が失敗したり、戦っている自分達を囮まがいにして仕掛けた罠に巻き込みそうになったりしたとか。

 

アレ? これすでに揉め事だらけ?

 

こうして考え直すと、僕達って何しに来たんだっけ? 精霊王の解放とドラゴニア帝国の撃退に来た筈が、何でエルフを第3勢力にした乱戦みたいになってるんだろう。

 

偵察隊を発見して叩くだけの今だからこの程度で済んでいるが、このままの状態で帝国との戦闘が本格化すれば間違いなく洒落にならない被害が出る。

 

タダでさえ帝国に戦力の差で大きく負けているのに、戦闘中に背中を撃たれないか気を配らなきゃいけないとか、何の冗談だろうコレ。

 

ラナさんとアルティナを通して、戦闘の際には別行動を取らせた方が戦略的には良いんじゃないだろうか。サクヤさんも現状では同じ意見らしいが。

 

「まあ、エルフの皆もそこまで露骨な嫌がらせはしてこないだろうし、陰口を言われても今は我慢して揉め事を起こさないように……」

 

「見ろ、人間2人と猫がいるぞ」

 

「いや、アレはケット・シーだ。姿をコロコロと変えて心を惑わす姑息な精霊よ」

 

「聞いた話では、女の方は半分霊体の身だそうだ。恐ろしい生の執着だな」

 

「男の方はラナ王女やアルティナ王女と親しい仲らしいが……お2人の目も他種族に触れて曇られたものだな。あんな薄気味悪い外見の男に何故……」

 

僕が言葉を言い掛ける途中で、すぐ傍を4人のエルフが通り過ぎた。

 

どうにも今の4人は僕達に聞こえないと思っているようだが、此処にいる3人はけっこう耳が良い方なので、バッチリ聞こえている。

 

「「…………」」

 

何故かエアリィとリンリンがおそるおそると僕の方を見て顔を青くする。

 

アレ? どうしたの2人とも。まあ、いいや。とりあえず今僕がやらなきゃいけないことは、あの4人のエルフを……

 

「○シテヤル」

 

「レオっ! お願いだから落ち着いてっ!? まずはその小太刀に添えた手を引っ込めて瞳のハイライトを元に戻して!? いつもの優しいレオに戻ってー!!」

 

「我慢するように言った人が真っ先に限界を超えてどうするのよ」

 

小太刀を抜きながら歩き出す僕をエアリィが背中に抱きつくように止め、呆れた溜め息と共に放たれたリンリンの猫パンチが僕を正気に戻した。

 

それにより僕は落ち着きを取り戻し、エアリィは安心した顔で離れる。先程まで背中越しに何かとても柔らかい感触があったけど、考えないようにしよう。うん。

 

というか、あのエルフ達。僕も悪いかもしれないけど、アレは無いでしょ。

 

僕だけが馬鹿にされるなら構わない。学年で1年間孤立させられた経験のおかげで、何時間と絶えず罵倒されようが何とも思わない。

 

だけど、僕を通してラナさんとアルティナを悪く言うのは筋違いも良い所だろう。ケット・シーのリンリンだってあんな風に言われる筋合いは無いし、エアリィとアミルにいたっては自分から望んで今の姿になったわけではない。

 

「こんな調子で、僕達帝国に勝てるのかな……」

 

「そう言いたくなる気持ちは分かるけど、やるしかないわ」

 

「あはは……あれ? 何だろう?」

 

壁に手を付いて暗い影を落とす僕にリンリンが励ましの言葉をくれる。エアリィは苦笑いしながらそれを見ていたのだけど、何かを見つけたらしく、何処かへ走り出した。

 

僕もリンリンを肩に乗せて追いかけると、エアリィは森に続く一本道の前で拾った何かを手にして首を傾げていた。

 

「エアリィ、どうしたの?」

 

「コレが落ちてたんだけど……」

 

広げたエアリィの手の平にあるのは、1つに束ねられたトランプだった。確かに、何でこんなところにトランプが落ちているのか不思議だけど、僕はそれ以上に気になることがある。

 

「これ……間違いない。僕がエルフの子供にあげた物だ」

 

絵柄もエルデ独特のデザインだし、細かい傷の場所も全て同じだ。

 

つまり、あの時のエルフの子供が此処にいたということだ。しかも、場所からして僕達の眼前にある一本道を通っていったのだろう。

 

足元の地面をよく見てみると、小さな足跡が幾つかある。見たところ子供だけのようだが、少なくとも2、3人は一緒にいる。

 

(何だ……? 落ちてるトランプを見つけただけなのに、何でこんなに嫌な予感がする)

 

内心舌打ちしながら即座に周辺の気配を探り、近くにいた1人の男性エルフにあの道のことを聞いてみる。すると、男性のエルフは懐かしい物を見たかのように話し始めた。

 

「あの道は街道や首都の近くまで出られる近道として使われていたんだ。だが、首都は帝国に奪われてしまったし、街道も帝国の連中が通ることがある。それで、危険だからと議長が通行禁止を言い渡したんだ。もう半年以上は使われていないな」

 

確かに、言われて見ると道に殆ど手入れされた跡が無い。というか、エルフの子供達はそんな危ない道を通っていったってこと?

 

振り返ってリンリンとエアリィに顔を合わせると、2人とも深刻な顔をしている。

 

「だが、あの道がどうしたんだ? あそこは帝国にも絶対に見付かっていないし、見張りの心配などは不要だぞ」

 

「落ち着いて聞いてください。あの道を数人のエルフの子供達が通ったみたいなんです。足跡の形から見て、それほど時間は経ってません」

 

そう言うと、目の前のエルフの顔が一瞬で青ざめ、目を泳がせた。

 

掟と伝統を何より大事にするエルフなのだから仕方ないと思う。でも残念ながら、今は動揺が納まるのを待っている時間は無い。

 

「今は時間が無いので率直に言います。あなたは議長にこのことをすぐ伝えてください。エアリィ、リンリン、2人もすぐにこのことをサクヤさんとフェンリルさんに伝えて」

 

「あなたはどうするの? レオ」

 

「僕は先にあの道を辿って子供達を捜す。なるべく戦闘は避けるけど、もし子供達が帝国の連中に見付かってたら子供達が逃げるまでの時間を稼ぐ」

 

「で、でも……! レオ1人じゃ……!」

 

「大丈夫、ベイルグランから貰ったコレを使えば、少し敵の数が多くても充分に戦える」

 

心配そうなエアリィに答えながら取り出したのは、シルヴァルスのカード。フォースの特訓と一緒に確かめたコレの力なら、時間稼ぎくらいはやれるはずだ。

 

まあ、ちょっと問題もあるんだけど。

 

「レオ、本当に大丈夫なの? その力は……」

 

リンリンはその場に居合わせたのでこの力の問題点も知っている。だけど、この中で一番足が速いのは僕だし、今はこの力が必要だ。僕は力強く頷き、身を翻す。

 

「ま、待て! エルフの道案内無しでどうやって子供達を追うつもりだ? それに先程言ったように、あの道には通行禁止の令が出ている。まずは議長に通行の許可を取らねば……」

 

だが、慌てたように口を開いた男性エルフの言葉に、僕達は言葉を失った。

 

この状況で通行許可? 本気で言っているのか? このエルフは。掟を遵守するにしても、限度があるだろう。そんなことしてたら、子供達は最悪帝国の連中に殺される。

 

「道案内については心配ありませんよ……ケフィアー!!」

 

少し大きめの声で名前を呼ぶと、空の彼方から凄まじい速度でケフィアが「フゥフフゥー!」と声を上げて降りてきた。

 

何でか知らないが、ケフィアはずいぶんと僕に懐いているらしく、ケフィアが聞こえる範囲にいれば、こうして名前を呼ぶと飛んできてくれる。

 

アルティナやラナさんも、今までケフィアのこういう行動は見たこと無いそうだ。

 

「悪いんだけど、あの道の案内をお願い」

 

「フフゥー!」

 

「せ、精霊が名前を呼ばれただけで自らやって来るとは……!」

 

任せろ、と言うようなケフィアを頭の上に乗せ、驚くエルフに顔を向ける。

 

「申し訳ありませんが、許可を取っている時間はありません。このことについて何か抗議が有れば、子供達を連れ戻した後に聞きます」

 

ここは従うわけにはいかない。それは絶対に間違ってる。

 

(もう、ルーンベールの時みたいなのはごめんだ……!)

 

リンリンとエアリィに顔を合わせて頷き、僕は走り出した。エルフがまだ僕を引き止めようとしていたけど、これ以上は待てない。

 

戦闘での余力を考えつつ、現状で出せる限りのハイペースで森を走る。

 

どのくらい距離があるのかは分からないが、今は少しでも急がなきゃ。

 

(間に合ってくれ……!)

 

歯を噛み締めて強く願い、僕はそのまま森を突っ走った。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

ブレイクブレイドがアニメ化で放送されるそうですが、シャイニング・ブレイドの登場キャラを中の人繋ぎで置き換えたら凄まじい勢いでストーリーが浮かびました。

レイジはフォースが使えないけど、誰も扱えない霊刀・雪姫を握った時だけハンパない規模のフォースを使える。

リックは隣国の軍に所属していて、幼馴染3人を武器に敵国内で絶賛無双中。

レオは異世界から迷い込み、成り行きでレイジ達の国に参戦。色んな武器やフォースを扱い、敵部隊に単独で喧嘩を売れる怪物レベルの強さに変貌する。

うん。レオの中の人決めてないけど、設定の方が馬鹿みたいに懲りそうだww

次回はちょっとしたレオの無双、それとエルフ達との和解に深く入っていきます。ロリコン騎士との対面まで行けるかは、微妙ですね。

私の書いた和解の場面の話が皆さんの期待に応えられるか不安ですが、まあ思った通りに書いていきます。批判受けてもそれも1つの評価ですし。

では、また次回。

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