シャイニング・ブレイド 涙を忘れた鬼の剣士   作:月光花

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スペル様、53M先様、うぉどむ様、エクシア00様から感想をいただきました。ありがとうございます。

遅くなって申し訳ありません。

今回はベイルグラン戦の後です。

では、どうぞ。


第30話 銀の森の妖精姫

  Side Out

 

 「<ふぅ~……やれやれ、まさか尾の岩を砕かれるとは。長生きはしてみるものじゃの~>」

 

尾の弱点を攻撃され地面に倒れ付したベイルグランが感心の声を上げながら起き上がった。

 

体を支える4本の足を重たそうに動かし、頭を左右に軽く揺らして意識を整えた後にレイジ達に目を向けた。

 

「<見事じゃ……お主達は間違い無く光の加護を受けし者よ。お主達なら、[シャイニング・ブレイド]の力を託せる>」

 

満足そうに頷くベイルグランの言葉を聞き、レイジ達は喜びの笑みを浮かべると共に安堵の息を吐く。

 

ベイルグランもそれを微笑ましそうに見ていたが、ふと何かに気付いたように動きを止め、レイジ達に尋ねる。

 

「<そういえば……おてんば姫じゃが、空中からの着地はどうするつもりなんじゃ?>」

 

その問いは、ある意味当然のものだろう。

 

だが、ベイルグランとの戦いに集中していたレイジ達がそのことを考えていたかと言うと……

 

「「「…………あ」」」

 

……まったくもって考えていないのだった。

 

「ちょっとぉぉ!! 誰か何とかしてぇ~!!!」

 

聞こえてきた声に目を向けると、案の定そこには空中を落下しながら慌てているラナの姿があった。

 

エルミナが急いでアースの魔法を発動させようとするが、ほんの数瞬間に合わない。

 

だが、それを見越していたのか、エルミナの魔法行使よりも先にレオが走り出していた。とはいえ、それでもかなりギリギリだ。

 

「ふっ……!」

 

速度を緩ませず、レオはスライディングで地面を滑ってラナと地面の間に自分の体をねじ込んだ。その際、左手を伸ばしてラナの両足を受け止めるのも忘れない。

 

どうにか間に合ったようで、落下の衝撃は全てレオの胸部に拡散し、ラナの体には傷1つ無い。

 

「げほっ! ……ギリギリセーフ、ですかね……」

 

「あ、ありがとう、レオ。助かったわぁ~」

 

地面にへたりと座り込み、ラナは軽く咳き込みながら呼吸を整えるレオに感謝した。

 

何としてもベイルグランに勝たねばと木の上から跳んだのは良かったが、この状況を改めて見ると流石のラナも反省する。

 

「レオ、大丈夫? 立てそう?」

 

「ええ、この程度ならまだ余裕です」

 

大丈夫そうな声で返すレオだが、立ち上がるその顔にはダラダラと脂汗が流れていて少し様子がおかしい。

 

もしかして、自分を受け止める時に何処かを痛めたのだろうか? という思考がラナの頭を横切り、不安になる。

 

「<ガハハ! 少年よ、背中を預ける仲間を相手に無理をするのは良くないぞ>」

 

そこへ、笑い声を上げたベイルグランが声を掛けた。

 

その言葉に対し、レオ以外の全員がどういうことだとベイルグランに視線で問う。

 

「<フォースの恩恵を受けた身とはいえ、目でまともに捉えるのも難しい速度でワシの尾を正面から叩いたのじゃぞ? 恐らくその右腕、折れておるの>」

 

その言葉を聞き、今度は全員の視線がレオに向けられた。対するレオは、右腕を抑えながら気まずそうに視線を逸らす。

 

自然とその場に沈黙が落ちてしまったが、近くにいたラナは無言でレオの顔を見詰めて……

 

「……ていやっ」

 

……可愛らしい掛け声と共にレオの右腕にグーパンチを叩き込んだ。

 

「ぎゃあああああ!!!! ……ちょっ!何で骨折れた腕殴るんですかアンタはァァァ!!!!」

 

完全に予想外の攻撃を受け、当然レオは悲鳴を上げる。

 

戦闘中なら歯を食いしばって耐えるだろうが、これは不意打ちにもほどがある。

 

「うん、やっぱり折れてるわね……あうっ!」

 

「さっきベイルグランがそう言ったでしょう! ……まったくもう……!」

 

悲鳴を上げたレオの姿を見て強く頷いたラナの後頭部にアルティナの平手が炸裂、急いでレオの右腕の治療に移った。

 

右腕の袖をゆっくりと捲くってみると、確かに手首と肘の真ん中辺りが青紫色に腫れ上がっている。

 

外傷はともかく、骨折まですぐに治せるわけではないが、無いよりはマシだ。実際、レオの脂汗が徐々に引いていく。

 

その時、別の気配が近付いてくるのを感じ取り、若干涙目のレオの視線がそちらに向く。

 

「あら、急いで来たつもりだったのだけど、もう済んだみたいね」

 

そこには、サクヤを先頭にやって来た解放戦線のメンバーがいた。見ると、傍に男のエルフがいる。恐らく彼に案内を頼んだのだろう。

 

「<どうやら、話を聞くべき者達は揃ったようじゃの>」

 

その場に集った者達を見渡し、ベイルグランの声が全員の視線を集めた。あれだけ凄まじい力を持っているのに、今はまったくと言って良いほど危険を感じないのだから不思議だ。普段の性格が心優しいおかげなのだろうか。

 

 

 

「<では、約束通り精霊王の卵を託そう。ちょっと、こちらに来ておくれ>」

 

「こちらって…、そこは、霊樹の下?」

 

身を翻し、重い足音を鳴らしながらベイルグランが向かったのは湖の中心に聳え立つ巨木、霊樹の元だった。

 

「……え!? ここに、精霊王の卵があるの!? 私、今まで何度もここに来てたのに……!」

 

アルティナの驚きはもっともだ。まさか捜し求めていた物が、自分が一番訪れてきた場所にあったのだから。

 

「<うむ。知っておるよ、森の守り人殿。お前さんの友達とも、短い間に随分と仲良くなれたわい>」

 

ベイルグランがそう言うと、霊樹から一つの小さな物体が飛んできた。だが、良く見るとそれは……

 

「フフゥー、フゥフフゥー!」

 

「ケフィア! あはははっ! ありがとう、ずっと待ってくれてたのね」

 

アルティナに優しく抱き締められて嬉しそうな声を上げるそれは、前に銀の森を出るレオ達を見送ってくれた精霊、ケフィアだった。

 

ケフィアは一度アルティナから離れ、今度はエルミナの傍で嬉しそうに声を上げた。

 

「あなた……私の事も覚えてくれてたの? うれしい……」

 

微笑むエルミナに撫でられ、ケフィアが最後に向かったのはレオの頭の上だった。相変わらず、大きさに合わず凄まじく軽く。

 

「<その子も、ワシと一緒に、卵を守ってくれておったのじゃよ。この木の精霊王の卵をな>」

 

ベイルグランの眼前に緑色の光が集まり、そこに現れたのは1つの緑色の卵。エールブランの時と同じく、次世代の精霊王だ。

 

「<さぁ、受け取るがいい。妖精の姫よ>」

 

「姉さん、卵を……」

 

「え? 違うわよ。卵を受け取るのは、アタシじゃないわ。あんたよ。アルティナ」

 

「……へ?」

 

声を上げて呆然とするアルティナ。

 

何せラナの言葉は、今まで考えていたことを根底から覆すほどに予想外のものだったのだから。

 

「さぁ、精霊王の卵を取って。それからあの歌を歌うの……覚えてる? ずっと前に、母さんから歌ってくれた歌」

 

「……じゃあ、母さんのあの歌が……わかった。私、歌ってみる……」

 

記憶を遡ったアルティナはすぐに心当たりを見つけ、意を決したように顔を上げた。

 

それを察してか、レオもアルティナの顔を見て一度頷き、背中を押した。

 

「それじゃあ……始めます」

 

 

 

 

        *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 

 

 

 

 森の中に、アルティナの歌声が反響した。

 

エルミナの時と同じく、その歌を物理的に遮る障害は存在せず、歌声は聴く者の心の中へ直接響いてくる。

 

そして、歌声が響くに続き、空を覆っていた雲の間から漏れた柱のような光が輝きを放った。

 

その光はたちまち銀の森全体を明るく照らし、光を浴びた精霊王の卵に亀裂が走った。

 

ユキヒメの刀身にも以前とは違う刻印が浮かび上がるが、以前のように慌てることはない。これは、本来あるべき姿に戻る為の儀式なのだから。

 

今この瞬間、アルティナの奏でる歌声は精霊王を目覚めさせると共に、解放戦線の目標達成を示す祝福の歌でもあった。

 

 

 

 

        *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 

 

 

 

 アルティナの歌声と共に、変化は静かにやって来た。

 

木々の間からそよ風が吹き、地面に座るレオの前髪が僅かに揺れる。

 

すぐ通り過ぎてしまうのに、何処か優しさを感じさせてくれる。まるで、アルティナの心を現しているようだ。

 

「アルティナ、とっても良かったわよ! 立派な妹を持って、姉さん幸せよ」

 

「姉さん……精霊王が、私の腕で……」

 

大いに喜びながら褒めるラナに対し、アルティナは未だに戸惑いが消えていない。

 

「そう! あんたは歌姫≪ローレライ≫! [シャイニング・ブレイド]の封印を解くために歌うのが、あんたの役目よ」

 

「姉さんは、それを知ってたの? それを知ってて、卵を取りに来たの? ……もしかして、私のために……?」

 

問いかけたアルティナの言葉に、ラナさんは照れたように視線を逸らし、頬を掻く。

 

どうやら、他人に素直じゃないのは妹に限った話じゃないらしい。

 

「ま、まぁね……アタシに出来るのはこれくらいだし、いつも好き勝手やって苦労かけてるんだから、少しはね……」

 

「あ……」

 

その言葉を聞き、アルティナの頬を一筋の涙が流れた。

 

ラナが突然森に帰ってきたのも、命がけでベイルグランに挑んでいったのも……本当は全て、妹の……アルティナの為だったのだ。

 

やがて、理解と共に決壊したダムのように涙が溢れ、アルティナの肩が僅かに震える。

 

「姉さんはっ……! どうして……! どうしていつもそうなの!?」

 

振り返ると共に、アルティナは今まで溜め込んでいた感情を爆発させたように叫んだ。

 

急に声を荒げたアルティナを見てラナや他の者達はきょとんとしているが、レオだけは何処か安心したような顔で見ている。

 

「なんでもかんでも自分で勝手に考えて! 勝手に決めて、勝手に動いて! 私の気持ちなんか確かめようともしない……!!」

 

叫びながら詰め寄るアルティナの勢いに圧倒され、流石のラナも徐々に交代していく。

 

「確かめもしないのに……どうして私の事をそんなにわかってるの!? どうして私の為にそこまでしてくれるのよ! そんな事するから、どうやっても嫌いになれないんじゃないの!! 姉さんの事……全然嫌いになれないんじゃないの! バカ……バカバカバカ! 姉さんのバカァ!!」

 

やがてアルティナはラナを叩き始めたが、それはポカポカと擬音が付きそうなくらいに穏やかで、見ている第3者には仲の良い姉妹喧嘩にすら見えた。アルティナにとっては、願いや好意を伝えるのと同じく、この行為も甘えているのと同じなのだろう。

 

「ちょっと、アルティナっ……落ち着いて。痛い、痛いってば……」

 

対するラナも、不満ぶつけられているを側だというのに、何処か嬉しそうな、笑っているような声で答える。

 

もう、この2人の間にギスギスしたような空気は無くなっていた。

 

「バカーーーーーッ!!

 

しばらくの間、その場にはアルティナの溜まりに溜まった感情の声が木霊したのだった。

 

 

 

 

        *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 

 

 

 

 「……落ち着いた?」

 

「えぇ、流石にもう落ち着いたわ。ごめんなさい、姉さん」

 

ラナの声に答えたアルティナの目は真っ赤に晴れ上がっていたが、その顔は何処かスッキリしたように晴れていた。

 

「色々あったけど、姉さんと仲直り出来たわけだ。良かったな、アルティナ」

 

気持ちの落ち着きを察し、レイジは嬉しそうな笑みを浮かべた。

 

「うん……どうもありがとう。皆のおかげよ」

 

その時、場の空気がピシリと固まった。

 

正確には、アルティナの発言を聞いた全員が驚きで身を固めた。

 

「……『ありがとう』?」

 

「「……『皆のおかげ』?」」

 

何処か不審そうな声でレイジが首を傾げ、傍に立つエルミナとユキヒメが続いて復唱する。

 

「……なによ。どうしたの?」

 

「……いや、今までアルティナからそんな言葉を聞いたことなかったから。ちょっと驚いてな」

 

「ちょっと!? あなたたち! 私の事をなんだと思ってるのよ!」

 

「ご、ごめんなさいっ!」

 

思わず怒りの声を上げたアルティナにエルミナは慌てて謝罪する。

 

しかし、怒るアルティナの様子は以前のように刺々しいものではなく、以前よりも穏やかに思えた。

 

流れ出た涙は、本当の意味でアルティナを変えたようだ。

 

 

 

 

        *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 

 

 

 

  Side レオ

 

 レイジ達と言い争っているアルティナの姿を離れた場所から見ながら、僕は内心で安堵の息を吐いた。

 

(良かった……アルティナとラナさんのすれ違いが消えて)

 

もう元に戻れない、戻したくても戻せない、そんなことにならなくて本当に良かったと、心からそう思える。

 

「……アルティナは、お姉さんのおかげでいろいろ吹っ切れたみたいね。レオ、腕は大丈夫?」

 

「正直痛いですけど、アルティナの治癒術のおかげでいくらかマシになりました」

 

気が付くと、すぐ隣にサクヤさんが立っていた。

 

そして、僕とサクヤさんに気付いたラナさんもこちらに近付いてくる。

 

「はぁ~い、久しぶりねサクヤ。来てくれて嬉しいわ」

 

「色々と心配だったからね。でも、杞憂に終わったみたいで何よりだわ。……それで、アナタはこれからどうするの?」

 

「あたし?……そうね、やっぱりあんたたちと一緒に戦う事にするわ。いいわよね?」

 

「もちろん大歓迎よ。フォンティーナを取り戻すには、アナタの力が必要だもの」

 

笑顔で話す2人の様子を見ながら、僕は頭の上に乗っているケフィアを撫でている。

 

撫でるたびに嬉しそうな声を上げてくれるケフィアの反応を楽しんでいると、僕達の背後からドスン! という音と小規模の揺れが発生した。揃って振り返ると、そこにはベイルグランの顔。

 

これだけの巨体、戦闘中ならもっと早く気付けたのに、何故か今のような状況だとこのドラゴンは気配や足音すら静かになる。ある意味、敵意や気配を敏感に感じ取れる僕にとって一番敵に回したくないタイプだ。

 

 

「<話は決したようじゃの。では勇敢な戦士たちに、ワシからも力を授けよう。森を守る、土と風の力じゃ。受けとれい」

 

そう言ったベイルグランの眼前に光が集まり、僕とサクヤさんの手の平に緑色のカードが現れる。

 

「<阻みて守る大地の盾、グリューネと阻まれぬ疾風の太刀、シルヴァルス。どちらも2つの力を備えておるが、グリューネは土を、シルヴァルスは風の力を強く宿しておる。お主達なら、必ずや使いこなせるはずじゃ>」

 

確かにベイルグランの言うとおり、僕のカード、シルヴァルスは僅かに風を、サクヤさんのグリューネは土の結晶を漂わせている。

 

やれやれ、まだどんな武器が出てくるのか分からないけど、また誰かにフォースの指導を頼まないと。

 

「助かるわ。ありがとう、ベイルグラン」

 

「腕折っても頑張った甲斐がありましたよ、ホントに。ありがとうございます」

 

微笑むサクヤさんと一緒に苦笑いを浮かべてベイルグランにお礼を言う。

 

続いて、僕の頭の上に乗っているケフィアと遊んでいるラナさんに言葉を掛けた。

 

「それでラナさん、これからどうするんですか? 此処での指揮はエルフのアナタが取るべきだと思いますけど……」

 

「そうね~。これでもフォンティーナの王族だし、故郷を取り戻す戦いなら、尚更ね。やらなきゃいけないことは色々あるけど、まずは帝国の連中を残さず追い出す。

我が物顔で森を駆け回って、アタシ達の故郷や仲間を奪った報い……必ず受けさせてやるわ」

 

「私も賛成よ、姉さん」

 

聞こえて声に振り向くと、そこにはアルティナを先頭にして皆が立っていた。

 

異論を唱える者なんて1人もいない。ルーンベールの時と同じく、僕達は奪われたものを取り戻しにいくんだ。

 

「今度はこっちが奴等を狩る番よ。私達姉妹が帰ってきたからには、もう好き勝手にはさせないわ!」

 

「当然! 誰に喧嘩を売ったのか、帝国の連中に思い知らせてやるわ!」

 

力強く頷き合うアルティナとラナさん。

 

その絆を祝福するように、暗雲を切り裂いた太陽が2人を照らしていた。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

やっとベイルグラン戦終わりました。

そしてアルティナのフォースソング解禁! やった~!

レオも腕を折った甲斐が有ったってもんです。

次は3馬鹿の方なんですが、その間に何かの話を挟むか考え中です。1、2話くらいの。

では、また次回。


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