シャイニング・ブレイド 涙を忘れた鬼の剣士   作:月光花

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つっちーのこ様、スペル様、通りすがり様、玄武Σ様、Life様から感想をいただきました。ありがとうございます。

今回はベイルグラン戦です。

では、どうぞ。


第29話 森の祖父

 Side Out

 

 「<そぉら! まずはこれじゃ!!>」

 

何処か楽しそうな声を上げ、咆哮を上げたベイルグランの左足が地面を踏み抜く。

 

すると、レオ達が固まっている足元が鳴動し、地面がボコボコと形を変える。

 

すぐさま全員がその場から飛び退くと、次の瞬間に地面から岩の棘が飛び出した。

 

だが、その程度の現象で怯むような者はこの場にいない。むしろ、攻撃を放った瞬間を逃がさんとレイジとレオが真っ直ぐ接近する。

 

グラマコアの姿をしたままのレオはミズハノメを肩に担ぐように構え、レイジの手に握られたユキヒメは刀身が展開してハイブレードモードに姿を変える。

 

その接近を許さんと2人の目前に岩の棘が何度も飛び出すが、エールブランの射出される氷柱に比べれば遅い。故に、この2人を止めるには及ばない。

 

「ふっ……!」

 

「はっ……!」

 

ミズハノメとハイブレードモードに姿を変えたユキヒメがベイルグランの左右の足に叩き込まれる。

 

ガァン! と盛大な反響音が響き、ユキヒメの刀身から放たれた衝撃波が全方位に風を撒き散らす。

 

その中で、表情を歪ませたのは……攻撃を直撃させたはずのレイジとレオだった。

 

(ぐっ……!)

 

(外見から想像は出来たけど……硬い……!)

 

「<ふむ、悪くない。しかし……まだ甘い!>」

 

ベイルグランの声に反応し、レイジとレオは手首に走る痺れと痛みに内心舌打ちしながら連続でバックステップ。先程まで自分達が立っていた場所から飛び出した岩の棘から逃れ、同じ場所に留まらないようベイルグランを囲む形で周囲を走る。

 

ちらりと棍棒と大太刀が直撃した場所を一瞥すると、そこには小さな皹が入っているだけ。やはり、単純な頑丈さだけならベイルグランはエールブランのそれを大きく上回っている。情けない話だが、アレを相手にするには直接の斬撃は不向きなようだ。

 

だが、ベイルグランと戦っているのはレイジとレオの2人だけではない。

 

「悪いけど、アタシ達もいるのよ!」

 

「どれだけ体が硬くても、弓使いには弓使いのやり方があるわ!」

 

「魔法使いも同じく、です!」

 

エルミナの杖から放たれた3つの炎弾がベイルグランの頭上から降り注ぎ、爆発を起こして巨体の動きをその場に縫い付ける。

 

そこへアルティナのアーシーズショットが放たれ、レオが付けた足首の皹をドリルのような削岩音を響かせて削り取る。反対側のレイジが付けた皹の部分にはラナのバインドショットが直撃し、削り取ることこそ出来ないが激しい放電を起こしてベイルグランの動きを鈍らせる。

 

その隙を逃さんと、ミズハノメをクルクルと回転させながらレオが肉薄し、ベイルグランの首を打ち上げるように顎下から遠心力を加えて叩く。

 

「<ぐおっ……!>」

 

ベイルグランが苦悶の声を上げる。

 

レオの打撃が起こす衝撃は皮膚に届いてはいない。しかし、生物ならば頭蓋が存在し、その中に脳がある。生物ならば脳はもちろん、内臓を硬化させることなど出来はしない。ベイルグランはミズハノメの打撃に脳を揺らされ、軽い脳震盪に襲われたのだ。

 

さらに、反対方面から大太刀を構えたレイジが接近し、レオが打ち上げた方とは反対側の顎を狙って大太刀を右薙ぎに打ち込む。

 

「<なんの……これしき……っ!>」

 

しかし、それを許さんとベイルグランは頭部を振り子のように左右へ小さく揺らし、レイジ目掛けて勢いを乗せた頭突きを放つ。

 

避けようとすれば逆に直撃の危険が増すと考え、レイジはそのまま真っ直ぐ突っ込んで大太刀を叩き付ける。

 

「はあっ!!」

 

ハイブレードモードの刀身が巨大な岩塊とも言えるベイルグランの頭部と衝突し、受け止める。それによって周囲に拡散した衝撃が地面に亀裂を走らせる。

 

「アローバースト!!」

 

そこへ間髪入れずにベイルグランの頭上からアルティナの放った矢の雨が降り注ぐ。命中と同時に小規模の爆発を起こす矢が全身を絶えず襲い、流石のベイルグランも怯む。その瞬間にレイジは大太刀を引き戻して即座に後退する。

 

「エルミナ!」

 

その時、エルミナの傍に駆け寄ったラナが名を呼んだ。

 

それに気付いたレオが視線を向けると、何かを耳打ちで伝えるラナが自分の足元の地面を指差している。恐らくベイルグランに作戦を聞かれないようにするための対策なのだろうが、何故かレオは盛大に嫌な予感に襲われた。

 

「レオさん……ごめんなさい!」

 

え? 何が? と尋ねる前に詠唱を終えたエルミナの杖が振るわれ、レオの立つ地面がボコボコと激しく脈動する。

 

「……ちょっと待って? これって、まさか……」

 

「飛んでけ~♪」

 

レオがそこまで言いかけたところで、エルミナの隣に立つラナが笑顔でサムズアップ。

 

直後、レオの足元から突き出た土の柱が、レオの体をカタパルトよろしく空へと撃ち放った。

 

「アンタ って人はァァー!!」

 

凄まじい速度で風を切りながら叫び、レオは眼下に見えるベイルグランの背中を捉える。

 

言いたい文句は山ほどあるが、こんな真似をしなければ得られないチャンスがあることも、レオは理解している。

 

「恨みますよホント……クリュスタルスッ!!」

 

ガントレットの後部から飛び出た氷剣が冷気を噴き出し、その全てがレオの左手に集束する。冷気はすぐに質量を宿して膨れ上がり、3メートルに届く巨大な氷の球体、アイスシェルが完成する。

 

重力を味方に付け、アイスシェルを形成したレオの左手が振り下ろされる。

 

しかし……

 

「<ぬぅんっ!!>」

 

ベイルグランはその場で体を横に回転させ、球形状の岩塊のような尻尾を頭上から迫るアイスシェルに叩き付けた。

 

その瞬間、砕け散ったアイスシェルを通してレオは僅かな違和感を覚えた。

 

(なんだ……? 足を攻撃した時と手応えが違う……)

 

思考する途中で耳を塞ぎたくなるような粉砕音が響き、先程以上の衝撃が周囲に拡散、地面に小規模のクレーターが出来上がる。

 

巨体のベイルグランは四本足を地面にめり込ませて反動を堪えるが、人間であり、しかも空中にいたレオは衝撃をもろに受けた。アイスシェルを粉々にしても止まらなかった衝撃はレオの体を吹っ飛ばし、滑空するように森の中へ突っ込んでいった。

 

幸か不幸か、レオはすぐさま背中から木に激突して勢いが止まる。しかし、あまりの衝撃で咳き込むと一緒に血を吐き出した。

 

「なんだって毎度……尻尾にぶっ飛ばされるんだか……げほっ!」

 

喉元に込み上げていた血を全て吐き出し、口元を手の甲で拭いながらレオは立ち上がる。

 

不意を付いた結果がこのザマだが、口の中に広がる血の味と痛みに釣り合うだけのヒントが得られたかもしれない。

 

(もう一度懐に飛び込めれば、さっきの違和感を確かめられる……!)

 

決断してすぐに木々の中から飛び出し、レオはベイルグランとの交戦を続けるレイジ達の元へと走る。

 

エルミナとアルティナが遠距離から攻撃してベイルグランを牽制し、レイジが攻撃を仕掛けているが、やはりベイルグランの頑丈さを前に決定打を与えられない。そこへレオは真っ直ぐ突っ込み、通過した仲間達に短く指示を出す。

 

「突っ込む! 援護お願い!」

 

口にした内容はそれだけだったが、レイジ達は何も訊かずにレオを援護する。

 

遠距離組みは攻撃の密度を上げて動きを縫いつけ、レイジは大太刀で地面を切り裂いて土煙を撒き散らし、ベイルグランの視界を遮る。当然レオの視界も悪くなってしまうが、『心』によって気配探知能力が飛び抜けているレオにとっては大した障害にならない。

 

「<この程度の目くらまし……お主らごと吹き飛ばしてくれるわ!>」

 

声を上げたベイルグランが体を持ち上げ、深く息を吸った。

 

その動作を目にした瞬間、アルティナは慌ててエルミナを手を引っ張って走り出し、すでに大太刀を構えてフォースを練り上げるレイジの元へと走る。

 

今ベイルグランが行った動作は、エールブランが暴風雪(ブリザード)を放った時のそれとよく似ているのだ。そうなると、今放たれようとしている攻撃は高い確率でアルティナ達に対応出来るものではない。それが出来るのは、この中で瞬間火力が最も高いレイジだけだ。

 

だが、レオはアルティナ達のように戻らず、さらに速度を上げてベイルグランに突っ込んでいく。

 

レオには攻撃をかわす方法がある。だが、それが成功するかは攻撃の見切り、つまりはタイミングによる。

 

フォースの輝きは守るように立つレイジの体を伝い、大太刀から噴き出す青い光を別の力へと変換させていく。その姿はエールブランと戦った時のような『炎』ではなく、大太刀を中心に吹き荒れる暴風、つまりは『風』。

 

「<こいつはわしのとっておきじゃ……受けとれい!!>」

 

言葉の後にベイルグランの咆哮が鳴り響き、眼前に展開された魔法陣から巨大な衝撃波と雷が放射状に放たれる。あれではすぐ近くにいても衝撃波で吹き飛ばされ、離れていても雷に体を貫かれる。つまりは、真後ろに回り込むくらいでなければ回避できない。

 

だが、雷光と衝撃波が放たれる寸前にレオは頭の中でスイッチを切り替え、己の集中力を一気に極限まで高めた。

 

 

『御神流奥義之歩法・神速』

 

 

視界に映る世界が色を失い、動きを止める。レオはその中を真っ直ぐ走り抜け、ベイルグランの胴体の真下に入り込んだ。通常の時間の流れでは1秒も経っていない中で、レオはベイルグランの攻撃を見事にかわし、懐に入り込んだ。

 

そして、レオを通り過ぎた雷光と衝撃波はアルティナ達へと向かうが、大太刀を構えたレイジが立ちはだかる。

 

『レイジ、分かっているな? なるべく攻撃範囲を絞って撃つのだぞ』

 

「分かってるよ。思い付いたのは良いけど、この技威力有り過ぎて使いどころを選ぶからな」

 

体の右側面で握り締めた大太刀の矛先を真横に向け、刀身を地面と平行に倒す。吹き荒れる風は徐々に勢いを増していき、やがては大太刀の刀身全体を覆い隠すほどの小規模の竜巻を形成していく。

 

「零式刀技……太刀風(たちかぜ)!!」

 

その場で左薙ぎに振り抜かれた大太刀。次の瞬間、刀身から解き放たれた風がレイジ達の眼前で炸裂し、ベイルグランの放った衝撃波と雷に正面から激突した。衝撃波がすぐに相殺され風を巻き起こすが、それを遥かに上回る暴風に飲み込まれて無意味と化す。

 

残るは雷撃と拮抗する風なのだが、これはただの風ではない。暴風とすら言える風の全てが、ハイブレードモードの刀身から放たれる衝撃波なのである。今起きている風はあくまで副産物であり、実際は無色の衝撃波が弾幕を張るように前方へ拡散し、正面から雷撃を相殺する壁となっているのだ。

 

ちなみに、この技を思いついたレイジは威力を確かめるために全長3メートル近い岩で試射をした。だが、技の威力は思いついたレイジ本人の予想を裏切るほどに強力で、的にした岩は10センチ程の石ころ1つになるまで粉砕されていた。

 

こんな威力の技を人間相手に使用すれば、恐らく原形を留めない肉塊が出来上がるだろう。

 

それを思い知らされたレイジは、ユキヒメとの相談の末「よほどの相手で無い限り、人間相手に使ってはいけない」と決めた。

 

そんな危険な技だが、今の状況には頼もしいことこの上ない。何せ、ベイルグランの奥の手を正面から無力化したのだから。

 

「<ぬぅ……流石はエールブランを倒した者達、やりおるな……む?>」

 

自身の奥の手を破られ、ベイルグランが僅かに怯む。だがその時、岩に覆われた自分の体に違和感が走った。その場所は、体を支える足と尾の先端。

 

見ると、4本の足が第一間接の高さまで凍り付いており、尾に至っては球形状の部分が全て氷になっている。

 

「<これは……! 先程雷撃を潜り抜けた小僧の仕業か……!>」

 

「ご明察です。そして、思った通りでした」

 

声のした方向に目を向けると、そこには黒のロングコートを着て二刀の小太刀を握るレオがいた。

 

『神速』によって雷撃を避けたレオはベイルグランの胴体の真下に入り込み、そのままクリュスタルスの冷気を開放。まったく勘付かれることなく、ベイルグランの足と尾を凍結させたのだ。そして、その際に先程感じた違和感の正体を突き止めた。

 

「あなたの体は岩を鎧のように纏っていますけど、凍らせてみて分かりました。岩が鱗の表面に張り付いてる4本の足と違って、尾の先端だけ鱗と岩の間に僅かな隙間がある。そして、そこには気付かれたくない何かが隠れている」

 

(こやつ……!)

 

レオの言葉を否定するかのようにベイルグランが動き出した。足は凍り付いて動かせないが、尻尾は動かすことが出来る。アイスシェルを正面から粉々にしたことで、その威力はレオも充分に理解している。

 

だが、横薙ぎに迫る尾に対してレオの取った行動は回避ではなく……前進だった。

 

(確かに、今の僕の実力じゃ『斬』を使ってもあの岩を斬れない。だけど……)

 

踏み出すと共に意識に撃鉄が下ろされる。

 

本日3度目の『神速』によって世界が色を失い、目の前に迫るベイルグランの尾の速度がまるで停止したように遅くなる。

 

(砕くことは出来る……!)

 

 

『御神流奥義之肆(し)・雷徹(かみなりどおし)』

 

 

その技は、『徹』を2重に放って過度の衝撃で内側を破壊する奥義。その破壊力は、御神流の奥義でも最高を誇る。

 

踏み込みと共に両腕を振り上げ、二刀の小太刀の柄尻をベイルグランの尾に叩き付ける。だが、『神速』の速度域で打ち込まれた2重の衝撃は外面を通過して内面に『徹る』。それによって発揮される瞬間的な破壊力の前では、どんな防御も意味を成さない。

 

そしてその攻撃はついに、ベイルグランの尾の先端の岩塊を……砕いた。

 

バアァァン!!!

 

『神速』を解除した瞬間、アイスシェルが砕けた時以上の粉砕音がレオの耳を叩く。しかし、レオはその音に関心を示さず、砕けたベイルグランの尾を捉えている。

 

岩を砕いた先に見えたのは、尾の先端で僅かに光る緑色の巨大な球体。アレこそが、強硬な体を持つベイルグランの唯一つの『弱点』。

 

「コレでチェックよ、ベイルグラン!」

 

その声は、全員の頭上から聞こえてきた。

 

目を向けると、そこには頭を地面に向けた体勢で3本の矢を放とうとしているラナの姿があった。

 

「<おてんば姫か! いつの間に空中へ……!>」

 

「レオが突っ込んだ時から隠れてたのよ! そんで、雷撃が止んだと同時に木の上から跳んだってわけ。この森の木は子供の頃からよく知ってる。気付かれないように登るなんて、アタシにとってはお茶の子さいさいよ!」

 

ラナがいつの間にか姿を消していたのはアルティナも気付いていたが、まさかこんなことを狙っていたとは思わなかった。

 

そして、全員の予想を上回ったラナの照準は、ベイルグランの弱点に定められている。

 

「アローフレア!!」

 

放たれた3本の矢が空を突き抜け、大地へと降り注ぐ。

 

その全ては一切の狂いなくベイルグランの弱点を直撃し、着弾の際に生じた爆発が勝利の祝砲を上げた。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

今回はアルティナとエルミナの出番が少なくなってしまいました。ラナも少し強引だったかもですね。だけど、やっぱり全身岩の竜に弓矢と魔法はキツイです。斬撃もですけど。というわけで、物理で攻めてみました。

まあ、モンハンとかには全身が鉱石とか鋼の竜もいますけどね。普通に考えたら無理ゲー過ぎる。

あと、いつの間にかレイジの単体火力が半端無いことになってます。まあ、竜那の言ってた公式の全開スペックが異常なんで、おかしくはないんですが。

では、また次回。

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