シャイニング・ブレイド 涙を忘れた鬼の剣士   作:月光花

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スペル様、赤バラ様から感想をいただきました。ありがとうございます。

では、どうぞ。


第28話 すれ違い

  Side Out

 

 銀の森を歩く中、アルティナは現在不機嫌だった。

 

本人は普段通りにしてるつもりのようだが、全身から放たれている怒りの雰囲気のせいで全員に丸分かりである。

 

話し掛けるのを完全に躊躇ってしまう様子なので、アルティナの後ろを歩くレイジ、エルミナ、ユキヒメの3人は気まずいことこの上ない。

 

そして原因は恐らく、先程からアルティナが睨み付けている先頭の2人にある。

 

「アハハ! レオ、半年ぶりに会ったけど、ずいぶん背が伸びたわねぇ~。前より10センチは伸びたんじゃない?」

 

「まぁ、確かに180近くまで伸びましたけど……エルウィンさん……じゃなくて、ラナさんの方はあんまり変わってませんね。人の肩にしがみつきながら話す辺りは流石としか言えませんよ」

 

冷静に、というより呆れたような声で返すレオの右肩に担がれるように乗って楽しそうに話す女性。彼女こそ、アルティナの実の姉であるエルウィン・ラナ・シルフィスだ。

 

アイラと同様、レオとは以前会ったことがあるらしいが、ラナもその詳細を話してはくれなかった。正確には「教えな~い♪」とドストレートに断られたのだが。

 

それとは別に、レオ達はラナがベイルグランに何の用があるのかを尋ねた。すると、こちらの方はアッサリと答えてくれた。

 

「ん? 簡単よ。精霊王の卵を貰いに行くの」

 

予想通りと言えば予想通りの結果だったが、その行動はこの土地の精霊王がルーンベールと同じ状況にあるのだという確信を与えた。

 

そして、それを聞いたからにはレオ達もこのまま戻るわけにはいかない。ラナ1人でベイルグランと戦って勝てるわけはないし、止めても聞かないだろう。

 

なので、レオ達はこのままラナと一緒にベイルグランの要る場所を目指す事にした。里を出る前にリンリンには知らせておいたので、サクヤ達もすぐに追い掛けてくるはずだ。

 

例え戦闘になっても、此処にいるメンバーは決して弱くない。レイジなどにいたっては、このメンツで充分ぶっ倒せるだろとやる気満々だ。

 

そんな流れで今のような状況が出来上がっているのだが、アルティナとしては目の前の光景に色々と思うところがあるようで、レオの背中と右肩周辺にビシビシと視線が突き刺さる。

 

「……それで? このまま進んでいいんですか?」

 

「ん~? 何が~? 道は間違ってないよ?」

 

突然の問いに対し、ラナは首を傾げながらレオの顔を覗き込んだ。

 

アルティナと同じくかなりの美人に入るラナの顔が間近に迫ってドキリとするが、レオはその無防備さに溜め息を吐いて意識を落ち着け、声の音量を少し下げる。

 

「アルティナのことですよ。彼女がさっきから不機嫌な理由、本当はラナさんだって分かってるんでしょ?」

 

「……まぁね、アタシが自由にやれてるのは、あの子がしっかりしてるおかげみたいなもんだからさ。色々と不満はあるわよ」

 

レオの問いに、ラナは間を置いて真面目な声で答えた。

 

その横顔は何処か悲しそうで、誤魔化すような笑顔が逆に痛々しい。

 

「話さないんですか? 不満があるって言っても、人の話しを聞かないほどアルティナは短気じゃないでしょ」

 

「そりゃあね。だけど今はまだ、ね。やることがあるから……にしても、ずいぶんと気に掛けてくれるのね。迷惑ってわけじゃないけど……」

 

「難しい理由はありませんよ。ただ、ラナさんとアルティナがすれ違ったままなのが嫌なだけです。僕はもう、喧嘩も仲直りも出来ませんから」

 

後半に連れて声のトーンが下がったのは、レオ本人にも無意識のことだった。

 

その変化と伝えたいことを理解したラナは微笑を浮かべて何も言及せず、大丈夫だよ、とだけ言ってレオの黒髪を優しく撫でた。

 

何処か楽しそうに髪を撫でるラナに何も言わず、レオも気恥ずかしそうにするだけでそれ以上は何も言わなかった。

 

ただ、レオの背中に突き刺さる視線の強さは増したような気がしたが。

 

(あれ? なんで!? 今の何処に不機嫌が増す理由が…………っ!)

 

内心で動揺しながら嫌な汗を流していると、レオの秀でた感知能力が新たな気配を捉えた。すぐさま目を閉じて精神を研ぎ澄ませ、気配の正体を探る。

 

「レオ、どうした?」

 

突然先頭のレオが足を止め、レイジが声を掛けた。

 

アルティナとエルミナも首を傾げるが、ラナだけは反動をつけてレオの肩から飛び降り、軽やかに着地して森の奥をじっと見つめた。

 

やがて、レオと同じ結果に至ったらしく、感心しながらポンと手を叩く。

 

「この先に帝国のモンスターの集団がいる。こっちに気付いてはいないけど、無視出来る奴等じゃない。だけど、それよりも問題は……」

 

「隠れ里に近いってことよね。探索なのか巡回なのか知らないけど、帝国の目は議会の皆が思ってるよりずっと広がってる」

 

レオの言葉に続き、ラナが深刻そうな顔で補足する。

 

それ以上は何も言わなかったが、他のメンバーにも事態の深刻さが分かった。

 

隠れ里から此処に来るまでの道は、そう遠い距離でもない。実際、地理の無いレイジとレオでさえも強引に突っ走って辿り着けた。

 

このままの状況が続けば、恐らく帝国は遠くない内に隠れ里の大体の場所を補足してしまうだろう。

 

そうなってもエルフの議長が言っていた通り、帝国の戦力は霊樹の加護が働く場所には辿り着けないのかもしれない。

 

だが、それはただ“その場所に辿り着けないだけ”であって、その場所が透明になったわけではなく。そこに“有る”という事実は変えられない。

 

ならば、帝国は隠れ里の場所さえ分かってしまえば足を踏み入れる必要は無い。大体の場所さえ分かれば、そこを包囲して火を放てば良い。それか、レオが提案したように木を残さず薙ぎ倒すかだ。

 

「フォンティーナに来てから今まで、敵に見付からないなら大丈夫だと思ってたけど。本当はかなりのピンチだったってことか」

 

『どうやら時間をかけている余裕は無さそうだな。これではサクヤ達と合流する時間も惜しい、何としても我等だけでベイルグランを破るぞ』

 

「はい、もちろんです! でも、その前に帝国のモンスターを倒しちゃいましょう。あんなのが近くをうろついてたら安心して眠れませんから!」

 

「敵は10体くらいかな。一体強そうなのがいるけど、やれるでしょ」

 

上からレイジ、ユキヒメ、エルミナ、レオの順番で言葉と共に気を引き締め、それぞれが自分の武器を携えて歩を進めていく。

 

闘気を迸らせるその背中を、後ろからアルティナとラナの2人が見ていた。

 

「みんな、どうして……」

 

「良い仲間がいるのね」

 

理解出来ない、と言うようなアルティナの呟きに対し、ラナが嬉しそうな声を返した。その顔には、喜びの他にも過去を懐かしむような色があった。

 

それはまるで、もう見ることの出来ない過去の光景を思い出しているようだ。

 

「彼等は帝国を倒すとかの前に、アルティナやエルフの皆を助けたいのよ。理屈なんて無しで、ただ助けたいの」

 

そう言って、ラナはアルティナの肩を軽く叩いてレオ達を追う。

 

「ほら、行こうアルティナ。此処は私達の森なんだから、しっかりしないとね」

 

「わ、分かってるわ!というか、それ姉さんにだけは言われたくないわよ!」

 

「アハハハ! それもそうね~」

 

うがー! とでも叫びそうな剣幕のアルティナに笑顔を返し、エルフの姉妹は不器用ながらも森の奥へと進んでいった。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 進んだ先の平地でレオ達が対面したのは、二足歩行で立つトカゲ、リザードと呼ばれるモンスターだった。

 

その手には人間よりも平均の高い身長を生かす為か2メートル以上の長槍が握られているが、前衛を務めるレイジとレオは恐れることなく正面から突っ込む。

 

迎撃するように顔面を狙って突きが放たれるが、レイジは下方から振り上げた大太刀で槍を弾き、レオはタイミングを見切って首を傾けて避ける。

 

「零式刀技……砕!!」

 

懐に入り込んだレイジが叩き付けるように大太刀の3連撃を打ち込む。

 

着込んだ鎧を容易く打ち砕き、それでも殺し切れぬ衝撃がリザードの体を数メートル単位で勢い良く吹っ飛ばした。

 

 

『御神流奥義之弐・虎乱(こらん)』

 

 

もう一方のレオは至近距離からの小太刀の乱撃でリザードを切り刻み、力が抜けた体を蹴り飛ばして他の敵へとぶつける。

 

そこから走り出し、レオは次の標的として捉えたリザードに龍麟を振り下ろす。だが、フェイントも一切無しの斬撃のため、槍の持ち手部分に防がれる。

 

しかし、それを狙っていたレオは構わず麒麟を振り上げ、龍麟の峰の中心近くに刀身を叩き付ける。

 

 

『小太刀二刀流、陰陽交叉・斬式』

 

 

押し出された一刀目の小太刀が防御していた槍を綺麗に両断し、麒麟の刀身はリザードの頭部を深く斬り裂いた。

 

続いて崩れ落ちたリザードの後方から他の3体が槍を突き出しながら横並びで突っ込んでくるが、レオは7番鋼糸をセットしてスナップと共に右手を振るう。

 

薄く光る暗器が宙を駆け抜け、真ん中を突進するリザードの足首に巻き付く。その状態でレオが腕を引くと、足をもつれさせたリザードは盛大に地面をすっ転んだ。

 

側面にいた2体の足にもアルティナとラナが放った矢が打ち込まれ、3体の突進は見る影も無く中断された。

 

そして、3体の頭上に大き目の魔法陣が展開され、最後尾に立つエルミナの杖が振るわれる。

 

「集え大地の恵み……アース!」

 

杖に埋め込まれた宝玉が輝き、頭上の魔法陣から同等の大きさの岩塊が出現する。それは重力の力に従って落下し、3体のリザードを土煙と共に押し潰す。

 

後衛陣を攻めようと2体のリザードが迫るが、立ちはだかったレオとレイジがそれを阻む。

 

突っ込んでくる2人を迎撃しようとリザードは槍を構えるが、レオの投擲した4本の飛針が手首に突き刺さり、悲鳴と共に手から武器を零した。

 

そこへ、麒麟を弓を引くように構えたレオが『射抜』の突進で迫り、寸分違わず心臓の位置を貫いた。

 

もう1体がレオの背後から槍を突き出すが、それを察知したレオは振り返ると共に龍麟を一閃。槍の矛先を叩いて真横に弾いた。

 

「おいコラ、お前の相手はオレだろ」

 

真後ろから聞こえた声にビクリと肩を震わせるリザード。そこには、大太刀で肩を叩きながら不敵な笑みを浮かべるレイジがいた。

 

慌てるようにリザードが槍を右薙ぎに振り回すが、ろくに力が入っていない。右切り上げに振るわれた大太刀に弾かれ、槍はリザードの手元から弾き飛ばされた。

 

「ふっ……!」

 

レイジの左手が大太刀から離れ、アッパーカットのように振り抜かれた拳がリザードの顎を真上へと打ち上げる。あまりにも綺麗に決まったせいか、歯が何本か砕けている。

 

そして握り直した大太刀が唐竹に振り下ろされ、リザードは空を見上げたまま膝を付き、地面に倒れ伏した。

 

「ナイスパンチ」

 

「サクヤさんに見られたら怒られそうだけどな」

 

『その前に私が説教してやろうか? まったく、チンピラの喧嘩ではないのだぞ』

 

手を打ち合わせる2人と呆れるように溜め息を吐くユキヒメ。

 

続いて3人の視界が向けられたのは、残ったリザード3体。見るからに、半数以上の味方がやられたせいで怯んでいる。逃げる気満々だ。

 

その予想通りにリザード3体は身を翻して森の中へと走っていく。

 

だが、このままではマズイ。逃げた奴等の報告を聞いた帝国の本隊がこの近くへ集まってしまう。

 

(『神速』を使って仕留めるか……?)

 

正直、レオとしては1日の使用回数に限界がある『神速』を無闇に使いたくないのだが、逃げられてしまっては元も子も無い。

 

そう思って意識を集中させ、頭の中のスイッチを切り替えようとした時、レオの視界の中で異変が起こった。正確には、逃げていくリザード達の足元だ。

 

ドオォン!! と音を立ててリザード達の足元の地面が急速に盛り上がり、リザード達の体が空中に打ち上げられた。

 

これは前に見た覚えがあるエルミナがアースの魔法を応用してやってみせた土の操作である。今回は実戦用らしく、威力も規模も大きく違う。

 

「いっただき~!」

 

そこへ、陽気な声を上げたラナが力強い弦の音を響かせ、神弓ウルから放たれた1本の矢がリザードの体を貫く。

 

同タイミングで隣のアルティナも矢を放ち、真銀弓スカディから放たれた矢もリザードの体を的確に貫く。

 

残った最後の一体は、エルミナのブレイズによって空中で爆散し、空気中に焦げたような臭いを漂わせて塵と化した。

 

エルミナの攻撃が一番強烈だったせいか、レオとレイジは空中で絶命した3体のリザードの死体を見ながら女性陣に若干の恐怖を覚えた。

 

((なんだって周りの女性陣はこう、戦闘に関しては容赦無いんだろう……))

 

『おい2人とも、何を呆けている! 後ろだ!』

 

心の中でまったく同じことを考えている2人に、ユキヒメの警告が飛ぶ。

 

だが、その警告よりも先に2人は動き出していた。なぜなら、初めから正体を隠していた最後の1体の存在に気付いていたからだ。

 

直後、2人が立っていた場所に巨大な岩塊が突き刺さり、凄まじい衝撃が周囲の地面を揺らした。

 

攻撃を避けた2人が改めて見ると、地面に突き刺さっているのは岩塊ではなかった。正確には巨大な“拳”だった。

 

その根元を視線で辿っていくと、そこにいたのは全長が3メートル程ある岩の巨人、ブリックゴーレムだった。

 

顔と思われる部分には目も口も見当たらないが、放たれる敵意は確かに眼下のレオ達を捉えている。

 

体の所々が鉄板のような板で補強されており、岩の上から巨大なボルトで強引に貼り付けたような右の肩当がずいぶん目立つ。

 

ゴーレムの右腕が地面から引き抜かれ、入れ替わるように左腕が真上から振り下ろされた。だが、レオとレイジはその拳が地面を叩くよりも先に離脱する。

 

岩の巨体を見て小太刀は不向きだと判断したレオは走りながらグラマコアのカードを親指で弾き、一瞬の発光と共に姿を変える。

 

同時に、反対方面からハイブレードモードへと姿を変えたユキヒメと共にレイジが斬り込んだ。右薙ぎの斬撃と共に放たれた衝撃波がゴーレムの右足首を直撃し、姿勢が片方に傾く。

 

そこへエルミナの放ったブレイズが腹部で炸裂するが、表面の岩を少し削っただけで大きなダメージは与えられていない。

 

ゴーレムが右足を持ち上げ、真下の地面を強く踏み抜く。すると、ゴーレムを中心とした衝撃波が起こり、一番近くにいたレイジが土煙と一緒に吹き飛ばされる。

 

それを見たアルティナが治癒の為に駆け出し、ゴーレムが追撃を仕掛けようと足を進める。しかし、それを阻む為にレオが正面から接近する。

 

自身の身の丈の半分ほどしかない敵を潰そうと、ゴーレムは握り締めた右拳を振りかぶる。先程の威力から見て、人間の体など掠っただけでも重傷だろう。

 

だが、レオの瞳に恐怖の色は微塵も無い。その意識はゴーレムの拳を見切ることのみに傾けられている。

 

そして、レオは振り抜かれた拳に対して突進しながら跳躍。真下を通り過ぎた拳を回避し、ゴーレムの右腕の上を走って巨体を登る。

 

「クリュスタルス」

 

呼びかけに応え、ガントレット後部の氷剣から噴き出した冷気が左腕の手の平に集まる。白い風を漂わせたレオの左手はゴーレムの肩当を掴む。

 

「それ、どう見ても怪しいんだよね」

 

開放された冷気がゴーレムの右腕を完全に凍らせ、両手で握ったミズハノメのフルスイングが肩当部分を粉々に砕いた。

 

慌てるようにゴーレムの左手が迫るが、レオは即座に右腕の上から飛び降りる。地面に落ちながらゴーレムの右肩を見ると、そこには岩の体に突き刺さった緑色の結晶があった。

 

「どう見ても弱点ね。ナイスよ、レオ」

 

そこへ声を掛けたのは、最初と変わりない位置に立って弓を構えるラナ。

 

ゴーレムとの距離はおよそ4、50メートル。右肩に刺さっている結晶の大きさは10センチあるかどうかだ。

 

そんな状況下だというのに、ラナは片目を瞑った余裕の表情で迷わず弓を引く。そして放たれた矢は、寸分違わず結晶を直撃した。

 

その精度はほぼ必中に近いアルティナと同等。先程の戦いから分かってはいたが、ラナも間違いなく他より秀でた実力者だ。

 

結晶が砕け散り、ゴーレムは糸が切れた人形のように地面に倒れる。いや、実際それと似たような物だったのだろう。

 

岩の体はあくまで傀儡であり、突き刺さっていた結晶がそれを操っていたのだ。

 

「こんな物まで森の中に持ち出してくるなんて、急いだほうが良さそうね」

 

倒れたゴーレムの体を弓でツンツンと小突き、ラナは大きく頷いて森の中へと駆け出した。突拍子の無い急発進に驚きながら、アルティナがその後を追う。

 

「ちょ、ちょっと待って姉さん! 1人で勝手に行かないでよ!」

 

「いやいや、それよりもお前が待てって! エルフのお前らと離れたら人間組みのオレ達今度こそ遭難しちまうっての!」

 

「心配しなくても大丈夫よ。空気の感じが違う道を進んでいけば、自然と霊樹のある場所に着くから」

 

「んな曖昧過ぎる説明で大丈夫って言われても分かるか!!」

 

他種族の都合を忘れたかのようにエルフの姉妹が森の中を先行し、その後を大太刀を携えたレイジが声を上げながら追う。

 

レオはそんなデコボコのメンバーに溜め息を吐きながら「んじゃ、追いかけるよ~」と言ってエルミナを肩に担いで再び疾走した。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 やがて、ラナを先頭にしたメンバーは大きな湖に辿り着いた。

 

その湖の中心には他を圧倒する巨木、霊樹が聳え立っている。

 

(戻ってきたんだな……この場所に……)

 

エンディアスでレオにとっての始まりの場所は特に変わっておらず、目の前には以前と同じ美しい水面が広がっている。

 

それとは対照的に、レオ本人はずいぶん変わったように思えた。何故か、レオの指は無意識に赤色の目を撫でていた。

 

「ベイルグラ~ン! いるんでしょ~! 出てきてよ~!!」

 

「ね、姉さん……!」

 

周りの森に大きな声で呼び掛けるラナ。その無遠慮な行為を咎めようとアルティナが詰め寄ろうとするが、それよりも先に地鳴りのような音が聞こえた。

 

ドスン! ドスン! と徐々に近付いてくる音の方向に全員の目が向けられる。すると、森の中から大きな影が浮かび上がり、日に照らされたその姿が見えてくる。

 

エールブランが氷竜の名を持つように、ベイルグランが持つ呼び名は地竜。その体を構成するのは、全てが岩だ。

 

亀を連想させる全体的にゴツイ巨体の表面には草木が芽生えており、背中の甲羅からは赤・黄・緑など様々な色の木が生えて小規模の森林を作っている。

 

「こいつがベイルグランか……エールブランもかなりデカイって思ったけど、こいつもかなりのもんだな」

 

「だね、見た感じエールブランより少し小さいけど、ゴツさならこっちが上だ」

 

「それに全身が岩ですから、頑丈さもこちらが上ですね」

 

レイジ、レオ、エルミナの3人が外見に感想を出し合う中、ベイルグランは一同を見渡してラナとアルティナの前で止まる。

 

「<やれやれ、そんな大声を出さずとも聞こえてとるよ。子供の時より変わらず、おてんば姫は息災のようじゃの>」

 

エールブランの時と同じく頭の中に聞こえてきた声は、レオ達が想像していたよりもずっと優しいものだった。まるで、気さくな老人と話しているようだ。

 

「あ、あの! あなたがベイルグランですね? 私は、アルティナと言います。この銀の森の守り人を務めている者で……」

 

「<もちろん、おぬしの事も知っておるよ。お姉さんのラナと同じく、お主らが子供の頃から、ずっとな>」

 

「ほ、本当ですか? ありがとうございます!」

 

ベイルグランの言葉に、アルティナは嬉しそうな声で頭を下げた。

 

どうやら、フォンティーナのエルフにとってベイルグランに名前を覚えてもらうことは、とても誇らしいことのようだ。

 

「ベイルグラン! 悪いけど、今すぐ精霊王の卵が必要なの! 貴方が守ってるんでしょ? 渡してもらえないかしら」

 

だが、その横から前に進み出たラナは、相変わらずドストレートに用件を告げた。敬意どころか、遠慮もまるで無しだ。

 

((すげぇな、おい……))

 

再び思考が似る男2人。あの思い切りの良さは、もはや尊敬すら出来るほどだ。

 

「<ガハハ! 流石はおてんば姫、耳が早い上に直球じゃのう。聞いてて清々しく感じる程じゃ! しかし……>」

 

ラナの態度に笑い声を返したベイルグランの優しい瞳が、言葉を区切ると共に鋭いものへと変わり、レオ達を見詰める。

 

「<エールブランと戦ったのなら分かっておるだろう。いくらお主達でも、ただで卵を渡すわけにはいかん>」

 

「試練を受け、あなたに勝ってみせろということですか?」

 

「<左様! 見事ワシを打ち倒し、お主達が光の加護を受けし者だと証明してみせるのだ!>」

 

アルティナの質問に肯定を返し、ベイルグランが地面を強く踏み抜く。それだけで地面が揺れ、地鳴りの音が周囲に響いた。

 

「……覚悟はしてたけど、やっぱりこうなるか」

 

「時間は多くないんだ。手順の省略と強敵との戦い、一石二鳥と考えようぜ!」

 

やっぱりやるのか、と言うようにレオは溜め息を吐くが、すぐに意識を切り替えて武器を構える。隣に立つレイジも、大太刀を構えて臨戦態勢だ。

 

「<このように戦うのはずいぶんと久しい。張り切るとしようか!>」

 

ベイルグランの咆哮が轟き、森の中で開戦の合図が上げられた。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

ベイルグランとの戦いの前にラナを混ぜた戦闘をやってみようと思ったのですが、気が付けばかなり長くなっていました。

次回はVSベイルグランです。

では、また次回。

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