今回はVSスルトですが、ちょっと出番が偏ってるかもしれません。
では、どうぞ。
Side Out
レオ達5人はそれぞれの方向に散って斧をかわす。そこから放たれた衝撃波が地面を砕き、盛大な土煙を撒き散らした。
そして、すぐさま土煙の中から笑みを浮かべたままのスルトが飛び出して来た。その進行方向にいるのは、スルトの接近を察知して振り返るサクヤ。
右薙ぎ、左薙ぎに振るわれる斧を右手だけで振るう長刀で流して弾き、続く唐竹に振り下ろされた斧を踊るような左へのターンで避ける。
サクヤは振り下ろされた斧の柄部分を踏んで高く跳躍。そして、斧を振り下ろした体勢のスルトの背中からリックが炎を纏う大剣を右薙ぎに振るって斬りかかる。
だが、スルトは地面に振り下ろしていた斧をそのまま背後に振るってリックの大剣を受け止めた。2人の間を炎が漂うがスルトは表情1つ動かさない。
そこへ側面から接近したレイジと頭上から落下するサクヤが斬りこむ。
レイジとサクヤの接近に気が付いたスルトは大剣を受け止めていた斧を上に跳ね上げ、右足を振るってリックに蹴りを放つ。
その蹴りの威力は前の戦闘でレオの肋骨をへし折ったことからリックも理解している。間に割り込ませた大剣の刀身を横に倒して受け止め、反動で吹っ飛びながらもどうにか防ぐ。
リックを押し退けたスルトはレイジの斬撃を宝石の付いた左手の手甲で横殴りに弾き、頭上から振り下ろされた斬撃を斧で押し返してサクヤを吹き飛ばす。
「ブレイズ!」
リックが発動させた魔法の爆炎とハイブレードモードの姿から放たれる衝撃波が左腕に直撃するが、スルトの表情に苦痛の色は無く、むしろ笑みが濃くなっている。
「スルトォ!!」
そこへ突撃するのは、鉤爪を展開して憤怒の表情を浮かべるフェンリル。怒りと殺意を浴びたスルトは短い笑い声を漏らし、正面から迎え撃つ。
脳天を狙って振り下ろされたフェンリルの鉤爪がスルトの手甲に阻まれ、胴元から下を斧の横薙ぎで斬り落とそうとしたスルトの腕をフェンリルの腕が掴んで抑える。
数秒間の力比べが起こったが、先に動き出したフェンリルの右足のローキックがスルトの左足を叩き、続いて前方に放たれた左膝蹴りが腹を打つ。
スルトは衝撃で僅かに後退するが、打ち込まれた蹴りは黒みを吸ったような金色の鎧に衝撃を散らされて有効打にはなっていない。
「どうした? こんなもんかよ、フェンリルゥゥ!!」
振り下ろされた斧に続いて衝撃波が放たれ、その後ろをスルトが走る。
フェンリルは衝撃波をサイドステップで避けるが、回避先にスルトに回り込まれ、振り下ろされた斧が左腕を斬り裂いた。
「ちぃ……!」
悔しげな声を上げたフェンリルは左の鉤爪で斧を弾き、両足で地面を蹴ってスルトを飛び越えるほどの高さまで跳躍。同時にスルトの首を狙った蹴りが放たれる。
スルトは首を傾けて蹴りを回避。フェンリルが着地して背中合わせのような状態となり、そこから両者同時に放たれた後ろ回し蹴りが激突する。
人間より基礎スペックで数段勝る獣人、それも同門の流派を学んだ故か蹴りの威力は人間同士の対決では中々聞くことの出来ない音で理解できた。
足に伝わる反動が互いの距離を開かせたが、スルトは着地した瞬間に身を翻して旋風を起こすような速度で斧を振るう。
直後、ガァァン!! と大きな金属音がその場に響き、スルトの鎧と足元に少量の血が垂れる。
その上では、武器を突き出したレオとスルトが至近距離で睨み合っていた。と言っても、睨み付けているのはレオだけで、スルトは笑みを浮かべている。
レオは右手の麒麟で『射抜』を放ち、左手の龍麟を逆手に握ってスルトの斧を押し留めている。だが、完全に防げたわけではないらしく、斧の刀身が少し左肩に斬り込んでいる。
スルトは振り向き様に斧を右袈裟に振るってレオに傷を負わせたが、決して無傷ではない。盾にした左手がレオの『射抜』によって手甲ごと貫かれている。
「惜しかったなぁ……」
(こいつ……前より強い……!)
左肩に走る痛みに耐えながらレオが心中で呟いた言葉は、他の4人も同じく思ったことだ。前回手を抜かれていたのか、それとも未だに進化が止まらないのか。
「良いこと教えてやる。お前が傷を付けたこの鎧はな、帝国に入る前にぶっ殺した騎士から奪った物なんだよ。奪った時は金色だったんだがな、浴びた血を少しずつ……少しずつ吸って此処まで黒くなったんだよぉ」
何が良いことで楽しいのかもレオには理解出来なかったが、一つ言いたい事が出来た。
「アンタ、長年その調子みたいだけど……少し下品が過ぎるよ」
吐き捨てるように呟いたレオとスルトの瞳に強烈な殺意が蘇える。どちらにしても、この2人がやる事は変わらない。
お互いに刃が当たった状態から相手の痛覚を全力で刺激するように武器を手元に引き抜く。傷口から飛び出た鮮血が地面に飛び散るが、2人の表情は揺るがない。
『御神流奥義之弐・虎乱(こらん)』
至近距離から間髪入れずに放たれた二刀小太刀の乱撃。
流石に見たのが二度目ということもあって、スルトは鎧に数回の斬撃を受けながらも連続のバックステップで距離を取る。
レオは即座に『射抜』で追撃しようとするが、それを先潰すように放たれたスルトの衝撃波を回避する為に横へ跳んだ。
その回避先には回り込んだスルトが斧を振り上げているが、レオは慌てない。前とは違い、戦っているのは自分1人ではないのだから。
「おらぁぁぁ!!」
気合の声と共にスルトの真横から衝撃波が迫り、獣人の巨体を滑空させるように吹っ飛ばした。飛んで来た方向からは大太刀を手に持って走ってくるレイジ。
レオは吹き飛んでいったスルトの元に走りながら周りを見ると、サクヤ達は自分の近くにいる帝国の連中を相手にしている。
「やってくれるぜ……」
頭を抑えながら立ち上がったスルトの正面からレイジが大太刀を右薙ぎに打ち込む。スルトは軽いサイドステップで避けるが、その先で首筋を狙ったレオの『虎切』が迫る。
だが、放たれた抜刀の一撃は盾にした斧の刀身部分に当たり、火花を散らしながら横に滑る。レオはスルトの隣を通過して背中合わせのような状態から左手で龍麟を抜刀。身を翻して横薙ぎに振るわれた小太刀と斧がぶつかる。
そこからレオは麒麟を振り上げ、龍麟の峰中心に直角に叩きつける。
小太刀二刀流・陰陽交叉(おんみょうこうさ)
二刀の小太刀が斧を押し返し、後退したスルトをレイジが反対面から追撃する。
いつの間にか中間にスルトを置き、その左右からレオとレイジが絶えず連撃を打ち込むような位置取りとなった。
ほとんど間を空けずに攻撃を打ち込んでいるというのに、スルトは右手の斧と拳を握ることが出来ない左腕を振り回してコマのように攻撃を弾く。
(くそっ……!)
(攻めきれない……!)
現状に心中で苛立ちを吐き出しながら、レイジとレオは攻撃のギアを上げていく。
そんな時、2人の攻撃を防ぐスルトの目がある一角を捉え、口元がにやりと歪んだ。その笑みを見た途端、レオの背筋に強烈な悪寒が走った。
その笑みは、あの2人の子供を見つけた時の、残虐性に満ちた笑みによく似ていたから。
「っ……!」
焦るように小太刀と大太刀が一閃する。
しかし、スルトは獣人の脚力に物を言わせて高く跳躍し、戦場の一角へと素早く移動した。
レイジとレオはすぐに追い掛けようとするが、2人の進行方向に無数の帝国兵士が割り込んで足を止められる。
「こいつら……!」
「邪魔だぁぁぁ!!」
叫びと共に振り下ろされた大太刀から衝撃波が放たれ、数体の敵が吹き飛んで生まれた穴にレオが斬り込んで敵を斬り裂く。
凄まじい勢いで2人は包囲を食い破り、スルトの後を追った。やがて、進んだ先には白色の竜巻と爆発を起こす赤い光が見えた。
レオ達との距離はおよそ100メートル以内。進行方向には2人の兵士が立ち、その先に目を凝らして見ると、アイラとエルミナが背中合わせの状態で魔法を放ち、自分達の周りにいる敵を殲滅している。
その中で、ふとレオの瞳が大きく見開かれた。
エルミナのブレイズがボーンファイターを炸裂させる。その後ろから飛び出してきたブリザードウルフが牙を剥いて飛び出すが、地面から飛び出たアイラの数本の氷柱に体を貫かれる。
アイラの後ろから帝国兵士が斬り掛かるが、一箇所に集まった冷気が一瞬でその体を凍結させ、無色の衝撃波で粉々に砕いて吹き飛ばす。
その2人が背中を合わせた側面から凄まじいスピードで斧を構えたスルトが突っ込んでいたのだ。その距離はレオ達よりもかなり近い。
それを見たレオは、直感で理解した。アイラとエルミナの2人ではあの距離まで接近されたスルトを止められない。2人とも、あるいは片方を庇って1人が確実に死ぬと。
そして、理解と同時に気付いた。このままでは、間に合わない。
* * * * * * * * * * * * *
Side レオ
今も僕とレイジの体は走り続けている。使っている武器の特性によるものか、駆け抜ける速度は僕の方が頭1つ速い。だが、2体の敵を間に置いた80メートル近くの距離を一気には縮めらることは出来ない。
この身を盾にしようとしても、『活歩』をフル活用しても、あそこへ辿り着く為の時間が足りない。目の前で、アイラさんかエルミナのどちらかが、あるいは両方が死ぬ。
(……死ぬ? あの2人が?)
エルミナ/アイラさんが死ぬ。
どちらか生き残っても片方が悲しむ。
同じ悲しみが連鎖してみんなが悲しむ。
何より、あんな楽しそうに、心から嬉しそうに笑い合っていた2人が二度と見られなくなる。
(そんな結末……認められるわけないだろ)
単純な思考連鎖の結果、自分でも驚くほど冷静な声が心の中で呟かれた。
何か手は無いだろうかと思考がフル回転する。だが、あの場に一瞬で辿り着ける手段など今の僕には存在しない。
…………いや、ある。正確には知ってる。
それを知ったのは、夢の中の人がやっていたことを見た時だ。アレならば、間に合う。
だが、今僕には使えない……いや、違うな。本当は使わなかっただけだ。
そうだ。今の僕にも使うことが出来るはずなんだ。だが、まだ足りない。力を出す為の何かが足りていない。
(届け……!)
意識の中で手を伸ばす。今まで朧気に見ていることしか出来なかった領域に。今自分が出す事の出来るありったけを立ちはだかる壁にぶつける。
今までは憧れていたものだった。そこに辿り着きたいとひたすらに鍛えることを続けてきた。不可能だと何度も思った。だが諦めなかった。諦めたくなかった。
自分が守りたいと思った者を守れなくて、悔しくて、理不尽な結末を変えたくて。
後悔することが何度あっても……それでも、ずっと手を伸ばし続けてきた。
だから、今この時から憧れるのはやめる。
高く、奥へ手を伸ばす。いや、届かせる。
今度こそ、守りたいと願ったものを守るために。レオは自分の前に立ちはだかる壁を越え、今までの自分を打倒する。
「届けぇぇぇぇっ!!!」
(……驚いた。思念の強さだけで私を起こすなんて。いいわ、その思いの強さに免じて、力を貸してあげる)
何か、声が聞こえたような気がした。
そう感じた瞬間、僕の瞳に映る世界が音と色を失い、あらゆるものが動きを止めた。人も、獣も、武器も、土煙までもが止まっている。
いや、よく見るとほんの少し、ほんの少しずつ、スローモーションのように動いている。
その世界の中で僕は動けた。普段よりかなり遅いけど、それでも周りよりは確実に早く動けている。ただ、それでも普通に走るだけじゃあそこには辿り着けない。
力強く地面を踏み抜いて蹴り抜き、『活歩』の加速で地面を滑るように進む。
今まで一度の踏み込みで進むことが出来た距離は3、4メートル。だが、たった今地面を蹴った踏み込みは、ゆっくりと流れる世界の中で7、8メートルの距離を縮めた。
1人目の兵士を目の前に捉え、僕は龍麟を逆手に持ち替え、右手に握る麒麟を右薙ぎに一閃。兵士の首を通り過ぎ様にあっさりと跳ね飛ばした。
麒麟を振り抜いた体勢から再び『活歩』の踏み込み。滑るように加速しながら体を左回転させ、体勢を元に戻す。
同時に、逆手に握った龍麟を真後ろに突き出し、通り過ぎた2人目の兵士の心臓を背後から貫く。
これで障害物は消え、僕は連続の『活歩』で跳躍の勢いを維持したまま両手の小太刀を鞘に納めて駆け抜ける。
そうして……何度目かの跳躍で、僕は理不尽に打ち勝った。
(今なら……やれる!)
絶望的だった距離はゼロへと縮まり、僕の目の前には斧を振り上げたスルトが、背後にはアイラさんとエルミナがいる。
鞘に納められた二本の小太刀の柄に手を添える。
「御神流奥義之陸(ろく)……」
突進すると共に左手で龍麟を抜刀。スルトが振り下ろした斧を真横に容易く弾く。
そして、続く3連の斬撃が空間を走り、スルトの体を鎧越しに深く斬り裂いた。
「……薙旋(なぎつむじ)」
悲鳴よりも先に斬撃を浴びたスルトの体が吹き飛び、鮮血が宙を舞う。狭い範囲に振る赤い雨の中、レオは色を取り戻した世界で呟いた。
ご覧いただきありがとうございます。
ドラゴニア帝国に4人しかいない将軍の1人がこんなに弱いわけがない。そう思い、3馬鹿の1人のスルトが強いです。
多分、あと1、2話で第3章は終わりに出来ると思います。
では、また次回。