今回は戦闘と主人公の途中参加です。
では、どうぞ。
Side 黎嗚
「うっ……あぁ………っ」
暗い視界。ぼんやりと霞みがかかる意識の中で、僕は微妙な嘔吐感と共に目覚めた。
うつ伏せに倒れていた体を起こし、軽く頭を振って意識を覚醒させる。
「此処は……僕は確か…………おえっ」
現状を確認しようと頭を動かす。だが、あの黒い穴に吸い込まれた時に感じた上下の感覚すら失う回転のせいだろうか、軽い目眩と吐き気が込み上げる。
ちくしょう。なんなんだ、あの回転は……過激なジェットコースターを超えて、洗濯機の中に放り込まれたような気分だよ。
絶叫系が好きな人間でも、アレは絶対に吐くと思う。
「水ぅ~……ん?………水の音? 川かな?」
ねだる子供のように呟いた時、ふと水の流れる音が聞こえた。
側に落ちていたボストンバッグを持ち、音の聞こえた方向に歩いていくと、そこには濁りがまったく無い綺麗な湖があった。すごいや………ここまで澄んだ水見たことない。
僕は湖の前で手を合わせて一礼し、両手で掬った水を飲む。そのおいしさは想像以上で、僕は3、4回両手で水を掬って喉を潤し、最後に顔を洗って大きく息を吐いた。
そして、湖の水に夢中になっていた僕は、その時初めて自分の周りの光景を目に映した。
「ここ………何処?」
周りには、無数の大きな木が聳え立ってる。つまりは森なんだけど、こんな大きくて深い森が辰巳町の近くに、てか、地球上に存在してるもんなの?。
そんな時、前に偶然校内で聞いた噂話を思い出した。
『神隠しにあった人間の行き先は、異世界である』
それを思い出し、僕はもう一度周りの森を見渡してみる。
目に映る木はどれも立派な大木で、軽く樹齢百年は超えてると思う。中でも、湖の中心にある巨木は次元が違う。…………アレ、植物としては有り得ない大きさなんだけど。樹齢何千年?
ドドドドドッ!!
そんなことを考えていると、走る馬が土の上を踏み荒らすような音が僅かに聞こえた。
座り込んでいた僕はゆっくり立ち上がり、周りを見渡してみる。だけど、こんなに深い森の中では百メートル先もマトモに見えない。
マトモ以外に見る方法が有るけど、こんな時は今まで鍛えてきた御神流の技を使ってみよう。
目を閉じて意識を集中。精神を落ち着け、神経を研ぎ澄ませ、自身の感覚範囲を徐々に広げていく。
すると、まるで赤外線スコープを除いたように生き物と植物が閉じた瞼の内側で映し出され、感じ取れるようになる。
『御神流・心(しん)』
目に映る視覚情報を遮断し、音と気配によって敵の居場所を知る技だ。
しかも面白いことに、これは錬度を上げていくと、今のように植物や無機物などもハッキリと感知出来るようになるのだ。
そしてその結果は…………
(近くに複数の気配がある。数は3……6……12…いや、1つの気配が少し離れてる。追われてるのかな? だとしたら他にも………ダメか、遠くて気配を拾えない)
夢の人なら出来るのに、と一瞬考えてしまうが、僕は気を取り直して気配の位置をもう一度確認し、それを頭に叩き込む。
そしてゆっくりと瞼を開き、僕は意識を思考の海に沈めて、どうするか考える。
(多分、団体の方は少し離れてた方を追ってたんだよね。だとしたら、近付いたら荒事に巻き込まれるのは間違い無い。しかも、此処は本当に“異世界”かもしれない)
つまり、荒事は荒事でも、その詳細はまったく分からない。僕の常識から外れたおぞましい生き物がいるかもしれないし、最悪死ぬ可能性もある。
だけど…………
「無視出来るわけないよねぇ~………僕だってそんなのごめんだもん」
こんなことで命を惜しんでたら、僕は一生、御神の剣士を名乗れないし、名乗る資格も無い。それに………もう、誰かの死で後悔するのは絶対にイヤだ。
夢の人も言ってたしね。御神の剣は………守る為の剣なんだから。
「…………それじゃあ、戦闘準備といきますか」
肩に掛けていたボストンバッグを降ろし、僕は手早く『御神流の武器』を装備した。
* * * * * * * * * * * * *
「………と、格好付けてやって来たけど………アレって、何の冗談?」
大体の位置は覚えていたので、団体の方にゆっくりと回り込むことは出来た。
僕は今茂みの中に姿を隠しているのだが、そこから見える敵の姿は、覚悟していたとはいえ、予想外も良い所だった。
いや、だってね…………人間がいないんだよ。
今見える10体の内4体は鎧を着こなし、右手にたくさんの棘が付いた棍棒を持った小さい鬼、いや悪魔のような生き物。何となくだけど、アレってゴブリンってやつかな?
4体は全身が肉無しの骨だけで、頭部と手足の先端に青い布を巻いている。その骸骨人間の武器は右手に持つショートソード。
そしてさらに2体。こちらは一番驚いたことに、下半身が馬の4本足、上半身が人間という外見をしている。ケンタウロスというやつだ。
その身に黒の兜と甲冑。武器にランスと楯を持っているが……見た所、あいつがゴブリンと骨人間の指揮を執っているみたいだ。
けど、最後の1体が見つからない。『心』で気配は感じられるけど、近くに姿は見えない。どうやら少し後方にいるようだ。
10対1か…………奇襲を掛けられるアドバンテージが有っても少し難しいな。しかも密集してるから、早めに察知されてしまう。
(どうしよう…………あれ? 何体か離れていく………分散しての捜索かな?)
奇襲で出来る限り相手を仕留められるパターンを必死に考えていると、突然ケンタウロスの1体がゴブリンを2体、骸骨人間を1体連れて、離れていった。
残った敵は6体………チャンスだ。“この程度”なら、仕留められる。
(装備の準備は万全、仕留める順番は完璧………それじゃ、行こうか)
片膝を付いた状態から両足を上下させ、一瞬だけ力を溜める。そこからバネのような要領で思いっきり地面を蹴り、跳躍する。
だけど、ちゃんといつも通りの力で跳んだはずなのに、僕の跳躍は隠れていた茂みを越えただけでなく、2、3メートル先の2体のゴブリンの後ろを取った。
おかしい、いつもと同じ力で跳んだのに明らかに距離が大きい。
(なんだ、この跳躍距離………ええいっ! 考えるのは後!)
両腕の袖の中からカチャ! と何かが外れるような音を聞き、僕は両腕を伸ばして左右の後方それぞれに横薙ぎに振るう。
すると、袖の中のから日光を浴びて薄く光る糸、ワイヤーが飛び出した。もちろん普通の糸じゃない。御神流が主に捕縛に使う鋼の糸、鋼糸だ。
ただ、鋼糸は0番から9番まで番号分けされていて、今ゴブリン2匹の首に巻きついた鋼糸は捕縛用ではなく……極細・高摩擦を発揮する3番鋼糸。
この鋼糸の切れ味と今の僕の腕なら、人の首くらいは斬り落とせる。
伸ばした両腕を一瞬で引き戻す。それだけで、背後から何かが地面に落ちる音と、遅れて倒れる音が聞こえた。
間違いなく死んだ。人間でないとはいえ、二足歩行の生き物を初めて殺した。
だけど、今は実戦。感傷に浸ってたら僕が殺されるだけだ。
再び袖の中からカチャ! という音が聞こえ、伸ばした鋼糸は袖の中の0番から9番までを収納する専用の改造ホルスターの下部へ吸い取られるように戻る。
そしえ再び走り出す。いつも通りの力で走っているつもりなのに、その速度は黒い穴に飲み込まれる前よりもかなり速い。
走った先にいるのは、全身骨だけの骸骨人間3体。その顔から表情なんて読み取れないけど、ちゃんと動揺して慌ててくれているらしい。
右手を袖の中に入れ、ホルスターの左右と上部にはめてある物を、僕から見て左の骸骨人間目掛けて、腕を抜き放って投擲する。
それは、鏃に似た形の刃物。御神流が使う唯1つの遠距離武器『飛針』だ。
投擲した飛針は左の骸骨人間の額に直撃し、カーン! と良い音を響かせる。骸骨人間はその衝撃で首が後ろに仰け反り、体勢が大きく崩れる。
その隙を見て僕は真っ直ぐ突っ込み、震脚と共に右の掌底を打ち込む。
直撃。次の瞬間、胸部に受けた衝撃が背後まで貫通し、骸骨人間は胸部の骨を粉々に粉砕され、腹から胸に至るまでの大穴を空けた。
『御神流・徹』
衝撃を表面ではなく内側に通す撃ち方で、威力を『徹す』打撃法。使いこなせれば、素手でも簡単に内臓を潰し、人を殺せてしまう。
僕は崩れ落ちていく骸骨人間の右手からショートソードを奪い取り、近くのもう一体目掛けて再加速。羽のように軽くなった体で突撃する。
だが、そう馬鹿正直には上手くいかない。
残った2体の骸骨人間が左手を僕に向けると、そこから光球が1つずつ放たれた。遠距離攻撃が有るとは思わず、体を捻っても避け切れなかった1発の光球は僕の左肩に当たる。
(痛っ~~…………でも、こんなことで止まれるか!)
かなりの速度で走ったから威力が増したのか、左肩から焼けるような痛みが走るけど、僕は歯を食いしばって骸骨人間2体に接近する。
右手に握ったショートソードを腰溜めに構え、走りながら手前に軽く引き、視界の中に斬撃のコースを描く。その形に沿って、右袈裟に剣を振り抜く。
小説で目撃して散々練習し、結果的に黒歴史を作ることになった片手剣突進技『ソニックリープ』。でも、残念ながら僕のはソードスキルじゃないタダの真似。
だから全身が急加速なんてしないし、黄緑色のライトエフェクトなんて出ない。でも正直に言えば………ソードスキル使いたいなぁ~。
学んだその動きを完璧に再現した僕の斬撃は、ショートソードを凄まじい速度で振り抜き、2体目の骸骨人間を深く斬り裂いた。
そいつの持っていたショートソードも奪い取って左手に持ち、即席でショートソードの二刀流を作り、双剣を構える。
うん。やっぱり、普通の構えは剣を2本持ってる方がしっくり来る。
残った最後の骸骨人間がショートソードを左袈裟に振り下ろしてくるけど、僕はそれを受けず、体を後ろに引いて斬撃を避ける。
そのまま骨だけの体に突き刺すような蹴りを放ち、脚を相手に突き立てたまま体を反転させて、骸骨人間を地面に叩き付ける。
『御神流体術・猿(ましら)おとし』
御神流が扱う武器は剣だけじゃない。実力の極地に辿り着いたその肉体と精神こそが何よりも信頼できる強い武器だ。
間を空けずに左足を振り上げ、震脚と同じ要領で骸骨人間を踏み砕く。これで残りは黒いケンタウロスだけ。
………と思って振り返ろうとした瞬間、僕は自分の直感に従ってで左に跳び退いた。すると、数瞬前まで僕の心臓が有った辺りの位置を赤黒い槍が通過した。
(何て未熟……っ! 背後を取らたことにあんなギリギリで気付くなんて……!)
初めての『殺し合い』とはいえ、緊張で周囲の警戒すらも疎かになる自分を恥じる。
でも、体の動きは止めない。確実に相手の息の根を止める。
体を右に回転して左足で回し蹴りを放つ。ケンタウロスは楯で防ぐけど、『徹』を込めた蹴りだから衝撃が左腕に襲い掛かり、楯を地面に落とした。
僕は左の剣を上に放り投げ、左腕の袖の中から拘束力に優れた7番鋼糸を飛ばしてケンタウロスの首に巻きつけ、一瞬で腕を引いて首を締める。
人間ならここで馬から転落するんだろうけど、相手はケンタウロス。急な酸欠と一緒に体を引っ張られて、大きな体が僕の方へ前のめりに傾く。
その瞬間、僕は前に踏み出して右の剣を大きく振り上げる。
「ごめんね」
意味が無いとわかってるのに小さく呟き、僕はケンタウロスの首を刎ねた。軽い血飛沫が起こり、僕は顔面に少量の返り血を浴びる。
ボトリと首が地面に転がり、落ちてきた剣を左手でキャッチした僕は、静かになった森の中で大きく息を吐いた。
でも、まだ気を抜けない。さっき離れてた奴等が戻ってくるかもしれないんだから。
そう思って目を閉じて、『心』を使ってもう一度気配を探ろうとした瞬間………
「ほう……。先ほどの娘の捜索状況が気になって戻ってみれば………随分と面白いことになっているな」
新しい声が聞こえ、剣を持つ両手の力が増し、聞こえた方向を振り向く。
そこにいたのは1匹のケンタウロスだった。でも、その姿は一言で言えば漆黒の騎士。
だけど、その雰囲気はさっき殺した奴とは明らかに格が違う。その手に持つ禍々しいデザインのランスと髑髏のような兜、個人のその身に合わせて作られた専用の鎧。
どう見てもかなりの実力者だ。1体だけ見つからなかった敵も多分こいつだ。
「やってくれたな………草の根分けても捜させるつもりだったのだが、ご丁寧に全員殺してくれおって。タダで済むとは、思うまいな」
周りを見渡した黒騎士は静かにランスを構えて殺気をぶつけてきた。
僕も両手の剣を静かに構え、いつでも全力で動けるように力を溜める。
だけど、意識を集中した途端に後ろから気配を感じ、視線だけで後ろを向く。
「待ちなさい! 誰を探しているのかは知らないけれど………森の中で勝手なことはさせないわ! 立ち去りなさい! さもなければ、この弓で……って、なんで人間が!?」
「アレ? あの制服……もしかして、ウチの生徒か!?」
分かれた別働隊が戻ってきたのかと思ったけど、そこにいたのは男女の2人組み。
男の方は赤色の髪をしていて、右手には鍔が雪結晶の形をして、刀身が美しく輝く大太刀を持っている。良かった~……やっと人間に会えた。それもイケメンだ。
女性の方は肩にかかる程の銀色の髪に海のような青色の瞳をしていた。左手には白色の各所に青色を混ぜた弓を持ってる。こっちもかなりの美人だ。
ただ、その服装は少し大胆で、胸の谷間と腹をむき出しにしており、腕は肩の部分が露出して、下はミニスカート。なんというか…………僕には目の毒です。
けど、まず誰でもいいから答えて欲しい。
これ、一体どういう状況なの?
ご覧いただきありがとうございます。
今回の主人公は原作メンバーと出会いました。
自分の一番得意な武器、二刀小太刀なんて持ってないんで、武器は敵の死体から現地調達です。
では、また次回。