シャイニング・ブレイド 涙を忘れた鬼の剣士   作:月光花

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オメガ様、桐生乱桐様から感想をいただきました。ありがとうございます。

すごいお久しぶりです。投稿にかなりの間が空きました。

では、どうぞ。




第18話 霊峰グレイシア

  Side Out

 

 時刻は昼を少し過ぎた頃。

 

現在のクレリアの状況から見て比較的に落ち着いた天候の中、ヴァレリア戦線の精鋭メンバーは霊峰グレイシアの山頂に続く雪道を歩いていた。

 

街中とは違って整備もされていないので、道中はかなりの雪が積もっている。普通に歩いて山頂を目指せば足に凄まじい疲労が蓄積するだろう。

 

そこで、今は寒さに一番の耐性を持つ剛竜鬼を先頭に道を作り、その後ろをフェンリルとレオの2人で道を広げ、さらにその後ろをサクヤを先頭にした女性陣、レイジとリックが殿を務める形だ。

 

「レオ、本当にもう肋骨大丈夫なのか? まだ痛むんなら俺が場所変わるけど」

 

「ありがとう、レイジ。でも、朝に体を動かしても痛まなかったから平気だよ。それに、雪道を広げるのは体がデカイ僕の方が良いでしょ」

 

首だけ振り向いたレオの様子はいつも通り。

 

アルティナに加えて龍那にも治癒術を施してもらい、折れた肋骨と頭部の傷は見事に完治。傷跡も後遺症も残らず、完治までベッドに縛り付けられていた体の調子も万全である。

 

「にしても、アイラ姫は大丈夫なのか? この山って、もう帝国の奴等が入り込んでんだろ? もし山頂まで敵が進行してたら……」

 

「いえ、それは多分大丈夫です。今の山頂は古竜が守っているはずですし、アイラ姫ご自身も“氷刃の魔女”という2つ名を与えられるほどの魔法使いです。簡単にやられはしません」

 

レイジの提案を否定したのは山頂を静かに見上げる龍那。

 

相変わらず山頂の様子は猛吹雪で見えはしないが、この場の全員が山のあちこちから漂う険しい空気や無数の気配をすでに感じている。

 

「むしろ、今この山中で一番危ないのは僕達かもね」

 

『心』によって気配察知能力が飛び抜けて高いレオの言葉に自然と全員の耳が傾き、無言の視線が何故? と質問を飛ばした。

 

「今の地形は山で、僕達はそれを登ってる。つまり、この山を占拠してる帝国側からすれば待ってても敵が勝手に来てくれるわけで……」

 

そこまで言いかけた時、レオを初めに何人かがその場から左右へ大きく跳んだ。

 

その際にレオがエルミナと龍那を、レイジがユキヒメとアルティナを、リックがアミルとエアリィを両脇に抱え、他のメンバーもそれぞれ跳ぶ。

 

すると、先程まで戦線メンバーがいた場所を巨大な雪玉が一直線に通過し、白い雪煙を巻き上げながら山道を凄まじい速さで転がり落ちていった。

 

「……待ち伏せにはもってこいってわけだね」

 

木々の中に隠れて山の上を見ると、そこには白い毛並みの上にスパイク状の棘を生やした巨大ゴリラのような魔物、ランプスマッシャーが両腕の手をぶつけて音を鳴らしていた。

 

その近くには数体のダークスカルが控えており、木々の間にも何体か隠れている。

 

「エルミナ、龍那さん、隠れてる奴をお願い……アルティナ! ケルベロスさん! そこから狙える!? ゴリラの近くの奴だけでもいいんだけど!」

 

「了解。攻撃を開始します」

 

「余裕よ! むしろ全部仕留めてやるわ!」

 

返ってきた冷静な声と大声の後に弓の弦と銃声の音が鳴り、木々の中に隠れるダークスカルが正確に撃ち抜かれ、粉々にされていく。

 

それを確認したレオは小太刀、レイジは大太刀、リックは大剣を構えて隠れる木々の中から飛び出し、雪玉と岩石を掴むランプスマッシャーに向かって走る。

 

3人の行き先を理解したサクヤはリンリンとフェンリルを連れ、まだ近くに隠れているダークスカルの元へと走った。

 

走りながらレイジが握るユキヒメの刀身が展開してハイブレードモードへ姿を変えるが、それを見たレオが急いで止めに入った。

 

「レイジ、ストップ! こんな場所で無闇に衝撃波を撒き散らしたら雪崩が起きる!」

 

「っと、マジか!? なら仕方ねぇ、ぶった斬るぜユキヒメ!」

 

『おうとも! やるぞレイジ!』

 

レオの言葉を聞いたレイジはすぐに意識を切り替え、大太刀を構えながら走る速度を上げてランプスマッシャーに真っ先に斬り込む。

 

それを許さんと巨大な岩石と雪玉が投擲されるが、先頭を走るレイジはもちろん、その少し後ろを走るリックとレオに軌道を読まれ、難無く避けられる。

 

そして、投擲によって両腕を大きく振り抜いたことで隙が生まれ、無防備となった腹部をレイジの右薙ぎの斬撃が斬り裂く。

 

その痛みに怒りの声を上げ、ランプスマッシャーは両の巨腕を地面に叩きつけるようにレイジ目掛けて振り下ろす。

 

だが、怒りに任せたその大振りの攻撃は余裕で見切られ、バックステップで大きく後退したレイジに掠りもせず、周囲に雪の白煙を撒き散らした。

 

白煙は一時的な濃霧となって視界を遮り、ランプスマッシャーは怒りで興奮の息を上げながらも周囲を警戒する。

 

しかし、警戒を始めてから数秒も経たない内にランプスマッシャーの後頭部を重い衝撃が叩き、バァン! と鳴り響いた大きな打撃音と共にその巨体が雪の上にうつ伏せに倒れる。

 

倒れた巨体の背中から飛び退いたのは、『心』の気配感知によって濃霧の中を真っ直ぐ突っ切ってきたレオ。先程ランプスマッシャーの後頭部を直撃したのは、『徹』を込めた飛び蹴りだ。

 

流石に巨体に見合う頭部の頭蓋骨を粉砕するには至らなかったが、強烈な脳震盪を起こしながら立ち上がったランプスマッシャーは今にも倒れそうなほどにフラフラだ。

 

「うおぉぉぉぉ!!!」

 

畳み掛けたのは、重い足音を鳴らしながら近付いた剛龍鬼。

 

竜人の腕力によって戦斧が烈風を纏って振り下ろされ、ランプスマッシャーの両腕を破壊。防御の姿勢を完全に崩した。

 

そこへ大剣の刀身に炎を纏わせたリックが踏み込み、すれ違い様に放たれた横薙ぎの一閃がランプスマッシャーの首を跳ね飛ばした。

 

全身から力が抜け落ち、絶命したランプスマッシャーは僅かな白煙を巻き上げ、その場に倒れ伏した。しかし、もうその身が起き上がることはない。

 

「さっさと行くぞ」

 

短く呟いたリックの声に頷き、レオ達は再び雪道を登り始めた。

 

 

 

 

        *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 

 

 

 

 待ち伏せしていた敵を全て排除し、レオ達は雪道を抜けてグレイシアの内部に広がる洞窟の中へと足を踏み入れていた。

 

ただ、外の気候と同じく洞窟内部には雪が降り積もっており、天井や壁には巨大な氷柱や氷が張り巡らされている。

 

「うわぁ……」

 

洞窟内部に射し込んだ光が氷に反射された景色は美しく、周りを見渡したレオは素直に感動の声を漏らした。一見隙だらけに見えるが、『心』によって洞窟内の敵の気配を察知しているので不意打ちは通用しない。

 

「レオさん、敵が来ます!」

 

隣に立つエルミナの言う通り、氷によって広さが制限された通路からはスノーボア2頭を先頭にトーチとダークスカルがこちらに向かっている。

 

狭い通り道なので逃げ場は無いが、あの猪2体の突進に正面から立ち向かうのは得策ではない。そう思ったレオは周りに目を走らせ、打開策を探す。

 

「……アルティナ、ボアの足を狙える?」

 

「足? 頭じゃなくていいの?」

 

「うん。それで大丈夫……後は僕が斬り込むから」

 

小太刀を鞘から抜いたレオに頷き、アルティナは弓を強く引き絞る。

 

放たれた矢は正確な照準によってボアの前足に突き刺さり、姿勢を完全に崩した。

 

支えを失って前のめりに倒れたボアは横向きに倒れ、隣にいたもう1体を巻き込んで氷の上を何度も派手に転がる。後ろにいたトーチとダークスカルを巻き込み、進行が止まった。

 

そこへレオが斬り込もうと腰を沈めるが、優しく触れたサクヤの手がそれを止める。

 

「大丈夫よ。エルミナ、お願い」

 

「は、はい! 行きます!」

 

エルミナが掲げた杖の先端にある赤い宝玉が輝き、進行が止まったモンスター達の頭上に大きな火炎魔法、フレイムの魔法陣が展開される。

 

魔法陣の中心から地面に向かって赤い光が放たれ、着弾点からブレイズの数倍に及ぶ大爆発が起こった。

 

先頭にいたボア2体は真っ先に焼き尽くされ、爆風で吹き飛ばされたトーチは周りの氷に激突して粉々になる。

 

「ケルベロス、お願い」

 

「了解しました」

 

続く命令に従い、すぐさまケルベロスのアサルトライフルが生き残ったダークスカルを蜂の巣にした。

 

「制圧完了」

 

「ありがとう、ケルベロス、エルミナ。お疲れ様」

 

((……よ、容赦ねぇ~)

 

頷き合う女性3人と大き目のクレーターと無数の弾痕が刻まれた爆心地を交互に見比べ、レイジとレオは無言の中で戦慄を覚えた。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 「皆さん、もう少しでアイラ様のいらっしゃる山頂です」

 

「つまり、精霊王のことを知ってるドラゴンも一緒ってことだよね。僕の世界じゃドラゴンなんて伝説の生き物だから、少し楽しみだな~」

 

氷の洞窟をしばらく歩き、先頭を歩くエルミナが出口から差す光を見て呟いた。

 

その後ろを歩くレオは警戒が半分、期待が半分という様子だが、本物を目にした時も同じ様子でいられる自信は無かった。

 

他の全員にも多かれ少なかれ緊張の色があるが、ここで立ち止まるわけにはいかない。

 

そして、ついに出口に辿り着くと、全身を強風と雪の冷たさが襲った。

 

下方や洞窟に入るまでの中腹とは違い、どうやら山頂の天気はこの猛吹雪が常らしい。現在猛烈な寒波に襲われるルーンベールの中で、恐らく一番厳しい場所かもしれない。

 

その猛吹雪の中、そこらの魔物とは比べ物にならない程の巨大な影が佇んでいた。

 

一歩一歩と近付くごとにその姿が徐々に見えてくるが、突然山頂全体に巨大な咆哮が轟いた。

 

咆哮は瞬間的に吹雪の強風を上回り、音が過ぎ去ると、不思議なことに山頂の猛吹雪が少し和らいでいた。全身を突き刺すような冷気も、耳を叩くような突風音も弱まる。

 

四本の足の跳躍力によって巨体が大きく飛び上がり、レオ達の前へと着地した。

 

着地の際に生じる雪煙の中から現れたその姿は、まさしくドラゴンだった。

 

己が獲物を噛み砕く無数の牙、地面を強く踏んだ足の先から生える爪、足の付け根や腹部から見える青色の鱗。それはまさしく伝説に記されたドラゴンの特徴だ。

 

だが、その場にいるのはただのドラゴンではない。氷竜だ。

 

ドラゴンの有する特徴はもちろん、体の各所から飛び出た鎧のような外骨格も、全て氷で出来ている。

 

透き通るように輝く白色、先端が蛍火のように淡く光る青色、奥まで染み渡るような蒼色。様々な氷の色があるが、その姿は美しく、力強い。

 

「流石はドラゴン、すげぇ迫力だな……」

 

想像以上の迫力にレイジは僅かに飲まれるが、気を引き締めてすぐに持ち直す。

 

『<私は氷竜、エールブラン。定命の者たちよ、なにゆえ我が領域に足を踏み入れた>』

 

全員の耳に、いや頭の中に聞こえてきたのは獣ではなく知識を持つ生命の言語。

 

「オレたちは、[シャイニング・ブレイド]の封印を解くために、氷の精霊王に会いに来たんだ。精霊に関わりが深いあんたなら、精霊王の居場所を知ってるんじゃないのか!」

 

「そ、そうです……! お願いします! 精霊王のこと、教えてください!」

 

率先して問いを投げたレイジに続き、エルミナが懇願する。

 

2人の問いにゆっくり頷いたエールブランは考えるように沈黙し、言葉を続けた。

 

「<……事情はわかった。確かに私は、精霊王について色々と知っている>」

 

「ほ、本当ですか!? では……!」

 

「<だが、君達が信頼に足る者かどうか、確かめさせてもらいたい…………他にも、少しだけ気になることもあるのでね>」

 

エルミナの言葉を遮ったエールブランの声に僅かな敵意が宿り、2つの大きな目がほんの数秒間、戦線の中にいるレオだけを見詰めた。

 

(なんだ……? 僕を、見ている……?)

 

その敵意と視線を感じ取り、レオは小太刀に手を添えて身構え、目を細める。

 

「……確かめるとは、どうやって?」

 

「<ふっ、それほど難しいことではない……>」

 

鋭くなったレオの視線に笑みを浮かべ、エールブランは右の前足で雪を一度強く蹴り、前屈みになって力を溜める。

 

「<私と戦い、キミ達が光の加護の下にある者である事を証明すればいいだけだ>」

 

その言葉を聞き、解放戦線の全員が手馴れた手つきで武器を構えた。

 

「……古竜って意外に体育会系なんだね」

 

「オレとしちゃ、やることが単純でありがたいけどな!」

 

驚きと呆れを混ぜたような表情で小太刀を構えるレオに対し、楽しそうな笑みを浮かべるレイジは大太刀の刀身が展開させてハイブレードモードの姿を形成する。

 

「<そうだ……それでこそだ!>」

 

戦線メンバーが戦闘態勢を取ったのを確認し、エールブランは何処か嬉しそうな声を上げて真っ直ぐ突撃した。

 

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

次回はVSエールブランです。

では、また次回。

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