シャイニング・ブレイド 涙を忘れた鬼の剣士   作:月光花

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今回より3章に入ります。

では、どうぞ。



第14話 雪に閉ざされし聖王国

  Side Out

 

 ヴァレリア地方東部に位置するルーンベールは、温暖な気候で知られる農業国だ。

 

しかし現在、領内の全域が突如訪れた猛烈な寒波に襲われ、国土のほぼ7割は雪と氷に包まれていた。

 

この現象と期を近しくして精霊力の減少が確認されているが、関連性があるのかどうかはまだ不明だった。

 

しかも、ルーンベールを襲っている問題はそれだけではなく、首都の破壊と聖騎士団を壊滅させたドラゴニア帝国との抗争も続いている。

 

自然の猛威と強力な軍事力。

 

この2つが、今ルーンベールの直面している危機の形だった。

 

 

 

 

        *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 

 

 

 

  Side レオ

 

 「み、み、皆様……ルーンベールへようこそ。

此処は山麗の街、クレリアです。ルーンベールにいる間は、この街を拠点として……拠点と……は、は、は……くちゅん!」

 

「エルミナ、大丈夫か? 風邪か?」

 

「いやいや……レイジ、周りの環境を見てみなって。むしろレイジは大丈夫なの?」

 

見渡す限り、周りには白い雪が降り積もっており、街灯に照らされる建物の殆どには長い氷柱が見える。

 

巡回兵のケンタウロスや街を歩く人達は揃ってコートなどの防寒装備。猛烈な寒波が吹き荒れるこの街では、どうやらあれ位が必須装備みたいだ。

 

だけど、レイジの格好は普段通りのまま。いや、レイジだけでなく、戦線メンバーは全員普段通りの格好だ。

 

僕もそうだけど、昔の冬の山篭もりのおかげか、この服のおかげか、震えるほどに寒いとは感じない。精々肌寒いと思う程度だ。

 

みんな……寒波の規模を甘く見ていたってレベルの格好じゃないよ? 死ぬ気ですか?

 

実際、この街まで来るまで何度か吹雪にあったから、結構皆の体力が奪われてる。

 

それとレイジ、ユキヒメさんの精霊の加護が体に働いてなかったら、多分その格好じゃ今頃死んでると思うよ。

 

「だ、大丈夫です。いつもは、この辺りがこのように寒くなることはないのですが……」

 

膝を付いて足元の雪を拾い、指で軽く擦ってみる。そこまで冷たくはない。

 

続いて建物の上に飾られているルーンベールの国旗を見る。軽く横に靡く程度だ。

 

「雪、というより、そもそも気温が低過ぎるんだと思うよ? この程度の雪と風じゃあ、普通はここまで低温にはならない」

 

そもそも、温暖な農業国って知られてる国がこんな状態になっている時点で既に異常気象を通り越してもはや天変地異だ。

 

龍那さんも空を見上げて数秒だけ目を閉じ、目を開くと納得したような顔になる。

 

「やはり、この地の精霊力が極端に低下しています。もしかしたら、氷の精霊王の力がおかしくなっているのではないでしょうか?」

 

「アイラ様も、以前そのような事をおっしゃっていました……ですが、どうしてそのような事が……」

 

「考えられるとすれば……精霊力の源である精霊王がその役目を果たせない状態にあるとか……あるいは、すでに存在していないとか」

 

存在していない。

 

簡単な話、死んでいるかもしれないということなんだけど、そうなった場合、僕達にとっては最悪に近い状況だ。

 

そうなると[シャイニング・ブレイド]を解放する為に必要な承認がもらえない。ルーンベールの帝国を片付けても、最終的には全ての苦労が無駄になる可能性がある。

 

「その精霊王の安否を確かめる方法はないのか?」

 

「そうですね……確かこの国には、古代種のドラゴンが住んでいましたね? 古竜たちと精霊王には深い関わりがありますし、その者達に尋ねてみるしか……」

 

「ドラゴン? この世界ってドラゴンまでいるんですか……?」

 

フェンリルさんの質問に答えた龍那さんの言葉につい反応してしまった。

 

だけど、よく考えたらゴブリンやらケンタウロスやら獣人やらがいて、野生のモンスターも生態系が狂ってるようなやつばかりだったし、いてもおかしくない。

 

「はい。霊峰グレイシアに、氷竜エールブランがいます」

 

エルミナがそう言って、全員が北に聳える山を見上げた。

 

今は天候が荒れているのか、それとも常にその状態なのか、山頂の方は吹き荒れる猛吹雪のせいで何も見えない。

 

「なあ、レオ……気になってたんだけどさ、霊峰ってどういう意味の呼び方なんだ?」

 

「簡単に言うなら、神仏とかを祭ってある山のことだよ。中には山そのものを信仰の対象にするのもあったりするよ」

 

「じゃあ、あの山が祭ってるのって……?」

 

「可能性が高いのは氷の精霊王か、その氷竜だろうね……もしかしたら、アイラ姫も僕達と同じ結論を出したんじゃないかな?」

 

「そうかもしれません。ですが、山の方はここより気候が厳しく、しかも現在は帝国の勢力圏内にあります。その中に、アイラ様はたった一人で……」

 

どうやら、山を登ることは確定のようだ。

 

だけど、帝国の敵がいるのはあの山だけじゃない。この街から少し離れたところにも間違い無くいくらかいるだろう。

 

「まずはこの街周辺と山に近付くためのルートの安全確保、その後に準備を整えて霊峰グレイシアの敵を排除しながら山頂を目指す。大体はこんな感じだろう」

 

「はい、よろしくお願いいたします……」

 

フェンリルの提案にエルミナが頷き、レイジが手を叩いて声を上げた。

 

「よし! ならまずは、このあたりの敵を片っ端から倒していこうぜ!」

 

その言葉に全員が頷き、解散という雰囲気になった時、僕が手を上げた。

 

「ああ、ごめん。ちょっと皆に渡しておきたい物があるから待って。まずは……エルミナ、ちょっとこっちに来て」

 

肩に下げていたバッグを下ろし、まだ一番寒そうにしているエルミナを手招きする。ちなみに、2本の小太刀は長期移動で邪魔にならないよう縦長の筒状バッグに入れて肩に掛けている。

 

きょとんと首を傾げながら近寄ってきたエルミナの首に、僕はバッグの中から取り出したものを手早く、だけど丁寧に巻く。

 

エルミナは数秒間呆然として、自分の首に巻かれたものにそっと触れる。

 

「これは……マフラー、ですか?」

 

「そう。吹雪の規模が正直予想外だったから此処に着く前に渡せなかったけど……使ってる毛糸の質は悪くないから、少しは暖かいでしょ?」

 

僕がエルミナの首に巻いたのは、長さ1メートル60センチ程のロングマフラー。毛糸の色はエルミナの金髪に合わせて少し明るめの山吹色だ。

 

「あ、皆の分もあるからね。次は……はい、アルティナ」

 

アルティナに渡したマフラーの長さはエルミナと同じで、毛糸の色は黒を薄めた明るめのグレー色。金色もだが、銀色の毛糸なんて早々手に入らない。

 

「これ、どうしたの? もしかして砦を出る前に買ったの?」

 

「いや、毛糸は買ったけど自作だよ。子供の頃からこういうの作るのが楽しくて、今まで何度か練習してたんだ」

 

「もしやレオよ、出発までの数日で全員分作ったのか?」

 

「うん。1人暮らしになってからは自然とこういうスキルが上達しちゃってね、思い切ったら出来たよ……はい、どうぞ。これ、ユキヒメさんとレイジの分」

 

ユキヒメさんは混じりの無い黒色、レイジはちょっと派手に見えるけど明るめの朱色。

 

レイジはマフラーだけじゃ致命的に足りないと思うけど、ユキヒメさんがいる限りは大丈夫みたいだから放っておこう。

 

「おぉ! サンキュー、レオ」

 

「わ、私の分も作ってくれたのか……?」

 

「そりゃもちろん。精霊でも1人の女の子なんだから……はい。アミルとエアリィにはライトグリーンとオーシャンブルーのマフラーだよ。剛龍鬼はこれね。

あと、リックはマフラーあるし、フェンリルさんは邪魔になりそうだから。これを」

 

「なんだこれは……? 手袋か?」

 

「確かに俺にはこっちの方がありがたいが……レオ、これは本当に手作りか? 手袋に別の色で名前の頭文字が描かれてるんだが……」

 

素直に喜んでくれてるアミルとエアリィの隣では手袋を付けて手を閉じたり開いたりしているリックと、驚きと少しの怪訝の二種類の表情を浮かべるフェンリルさん。

 

剛龍鬼のはフルプレートに引っ掛からないように太さと長さを変えてあるけど、エメラルドグリーンのマフラーを靡かせている様子から、問題無さそうだ。

 

リックには薄い黒、フェンリルさんにはアルティナのマフラーと同色の手袋を渡したけど、フェンリルさんの言う通り、手の甲の部分にはエンディアスの文字で頭文字を描いてある。

 

皆は驚いた顔をしてるけど……この程度、1年に渡る1人暮らしと寂しい日々で磨かれ続けた僕の腕ならお手の物だ。

 

そして、今の僕ならばこんなものも作れちゃったりする。

 

「はい。こっちが龍那さん、こっちはサクヤさん、これがリンリンの分ね」

 

龍那さんのマフラーは表面にカドケゥスの杖をイメージにした白と黒の羽を、サクヤさんのは黒の中に白色の毛糸でラインを走らせて少し可愛い感じに解放戦線の旗を、リンリンは少しピンク色を混ぜた桜色に黒と白の毛糸を使って端に小さい猫の顔を描いた。

 

お礼を言う3人を含めて、皆がデザインに絶句してるけど、問題無い。うん、力作だ。

 

暗器の扱いに長けたおかげでこっちの腕も上がってるし、ありがたいね。

 

 

 

 ちなみに、編み物などの腕が元から高かったおかげで暗器の扱いが上手くなった、という事実を僕が理解したのは、かなり先の話だった。

 

 

 

「丈夫な毛糸じゃないから、戦闘中は外して、良かったら街中で寒い時にでも使って。もし、破けたりしたらすぐ直すから」

 

僕はバッグを肩に掛け直し、皆に手を振って別れ、少し小走りで街中へと向かう。

 

けど、大通りに入らず、戦線の皆から僕の姿が見えなくなってすぐに路地裏に入る。

 

そのまま歩を進め、僕は右肩の筒状バッグの取っ手を握り直した。

 

「さてと……後は、最後の1人に会わないとね……」

 

 

 

 

        *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 

 

 

 

  Side Out

 

 路地裏は大通りよりも冷え込んでおり、薄暗い道に呼吸の白い息が漂い、軽く積もった雪がレオのブーツに踏まれて音を鳴らす。

 

そんな場所を無言で歩くレオは何も無い広場を見つけ、再び歩を進めて広場の真ん中で立ち止まり、左肩のバッグを地面に下ろす。

 

「……ここなら誰もいません。何か用があるんでしょう?」

 

首を動かして視線だけを後ろに向けたレオの言葉に応えるように、薄暗い通路の闇の中から足音を殆ど鳴らさずに1つの人影が現れる。

 

暗闇に溶け込むような黒いフィットスーツとボディーアーマー、そのアーマーの各部から光る緑色のフォトン光と瞳の色が月の光を加えて姿をハッキリと照らす。

 

ハッキリ見えるようになった人影の正体は、龍那と剛龍鬼の2人と期を同じくして戦線に加わった仲間、ケルベロスだった。

 

「……いつから私が接触を図っているとお気付きに?」

 

「一応、他人の視線とか気配を感じるのには自信があるので。最近は……殺気を含んだ視線もハッキリと感じられるようになりまして」

 

初対面の時から、レオはケルベロスの視線に徐々に殺気に似た敵意を感じ始めていた。

 

流石に無視するわけにもいかず、レオは荒事も踏まえてこの状況を作った。

 

それで、何の用ですか? とレオは再度問い掛ける。

 

「……詳細な理由を説明するわけにはいきません。ですが、用件は1つです。あなたがマスターの敵であるかどうか、それをこの手で確かめたいのです」

 

そう答えるケルベロスの雰囲気が空気を伝って変わり始め、ハッキリとした殺気がレオの肌に突き刺さるように伝わってくる。

 

「……僕は何をすれば?」

 

「簡単です。私に勝つ、それだけです」

 

(どうにも、やるしかない……かな)

 

心の中で呟いたレオは溜め息と共に少しだけ肩を落とし、そこから弾かれたように体を左へ回転させた。

 

その際、右肩にある筒状バッグを遠心力を加えてケルベロス目掛けてぶん投げる。

 

バッグはそこそこ頑丈に出来ているし、中には2本の小太刀。さらにレオの腕力と遠心力も加わっているので、直撃すればタダでは済まない。

 

だが、レオの狙いはバッグをぶつけることではない。

 

まだ一度も見たことが無いケルベロスの武器を知ることが本当の目的だ。

 

(さあ、何を使う……素手か? それとも剣でも取り出すか?)

 

ケルベロスが両手を前に突き出す。両手の指先に緑色のフォトン光が集まり、それを掴むと同時に武装の形が形成、固定される。

 

取り出された武装は、レオの予想を軽々と上回る代物だった。

 

「武装展開、オルトロスⅡ」

 

それは、真っ黒なフォルムで統一された、二挺のアサルトライフルだった。

 

(銃!? まずい、火器を予想してなかった! しかもアレは、形状からしてアサルトライフル……やばい!)

 

認識すると共にレオは前へと走り出し、ケルベロスはトリガーを引く。

 

直後、絶え間無い発砲音とマズルフラッシュが起こり、放たれた無数のライフル弾が数秒で筒状バッグを鉄屑へと変えた。

 

レオはその中から投げ出された二刀の小太刀を掴み取り、転倒するように前へ転がってケルベロスの横を通り過ぎる。流石に今の瞬間で抜刀は出来ない。

 

だが、レオは転がりながら感覚頼りで小太刀を腰に差し、勢い良く起き上がると共に両手の小太刀を抜刀する。

 

転がった際に雪を被ったが、それどころではない。少しでも視線を逸らせば、レオはケルベロスの足元に転がっている破片と同様、即座に蜂の巣にされてしまう。

 

(くそっ! 荒事になると踏まえて誰もいない場所を選んだけど……あの武器相手にこの場所じゃ、完全に僕が不利だ……!)

 

二挺の銃と二刀の小太刀、リーチからして今どちらが有利なのかは考えるまでもない。

 

しかも、今いる広場には遮蔽物に使えそうな物は何一つ無い。これでは小太刀の間合いに近付くことすら困難だ。

 

いくらレオでも弾丸より速く動くことなど出来ぬし、近付いてもケルベロスが近接戦闘に完全に弱いということはないだろう。

 

再び二挺の銃、オルトロスⅡの黒い銃身が持ち上がり、トリガーに添えられたケルベロスの指に力が入る。

 

その瞬間、レオは両手の小太刀を手放し、刀身が地面に刺さるよりも速く、上に跳ね上げた右手から3番鋼糸を、スナップを効かせた左手から飛針を抜き放ち、銃身を狙う。

 

鋼糸が絡んだ銃身はレオの腕の動きに引っ張られ、もう1つは飛針に弾かれた。それによって二挺の銃の照準が狂い、弾丸はレオの横を通り過ぎる。

 

冷や汗が流れる中、レオは右膝を屈んで左手で龍麟を掴み、膝のバネを使って前方へと全力で地面を蹴る。

 

『射抜』の刺突が放たれる。だがケルベロスは崩れた体勢から両足で真上へと高く跳躍し、小太刀を突き出すレオの頭上を飛び越える。

 

そこで一端攻防が終わるかと思われたが、ここで再び距離が開けば自分が一方的に不利になるだけだと判断したレオは『射抜』を放った体勢から無理矢理後ろに跳ぶ。

 

着地と共に振り返ったケルベロスの目が見開かれ、すぐにオルトロスⅡの照準が迫るレオへと向けられる。

 

しかし、それよりもケルベロスの予想を上回ったレオの方が速い。

 

(あの技なら……でも本当にあんなの実現出来るか? このタイミングで……ええい! 蜂の巣にされるくらいなら……!)

 

半ばヤケクソ気味に結論を出し、レオは跳躍しながら体を右へと回転させた。

 

ただ、その一瞬の回転速度はベーゴマなどを上回る程に速く、一瞬でケルベロスの視界からその姿が消失した。

 

そして、姿が消失すると共に烈風が吹き荒れ、一瞬の刹那に3つの斬線が走る。

 

その斬線を視認することも叶わなかったケルベロスは咄嗟に左手のオルトロスを身を守る盾に使ったが、響いた衝撃が防御越しにその体を吹き飛ばした。

 

雪の上に倒れてすぐ起き上がると、そこには逆手に持ち替えた右手の龍麟を振り切り、肩で息をするレオの姿があった。

 

「ハァ……ハァ……もどきだけど本当に出来た……回天剣舞」

 

本人も驚きながら呟く今の技は、レオがマンガなどを参考にした技の1つ、回天剣舞。

 

本来はある動きから繋げる“必殺技”なので、本人が言うとおり“もどき”だ。

 

視認するのも難しい程の体の急速回転、それと共に放たれる3連撃がこの技の正体だ。

 

「一体……何が……っ!」

 

立ち上がるケルベロスがもう一度目を見開いた。

 

なんと、盾に使ったオルトロスのフレームが深く斬り裂かれていた。獣の爪で切り裂かれたように3つの傷が綺麗に揃い、斜めに刻まれている。

 

まだ大破とはいかないだろうが、これでは銃として機能するか怪しいものだ。

 

これが回天剣舞の威力。レオの見たマンガでは、鉄の鞘が輪切りになった程だ。

 

「勝負ありです……片手の銃だけなら、僕の暗器ですぐに照準を逸らせる。次に距離を詰めれば、僕の勝ちです」

 

銃身を3番鋼糸で斬ることは叶わなかったが、それでも照準を狂わせることは充分に可能だと分かった。

 

ならば、次に距離を詰めることが出来れば、レオには即座にケルベロスを抑え込む自信がある。麒麟を回収出来れば、その自信はさらに強固となる。

 

そして………

 

「……勝率の著しい低下を認識。敗北を肯定します」

 

ケルベロスは両手のオルトロスを緑色のフォトン光へと戻し、両手を上げた。

 

完全に敵意が無くなったのを感じ、レオは息を吐きながらその場に座り込む。

 

「はぁ~……それで? 今の戦いで、僕がサクヤさんの敵かどうかっていうのは確かめられたんですか? というか、どっちになったんですか?」

 

「そうですね…………」

 

言葉を止めたケルベロスは雪に突き刺さった麒麟を抜き取り、座り込むレオに手渡す。

 

「……確信を得ることは出来ませんでした。しかし、私個人の判断により、あなたはマスターの敵性存在ではないと認識することにしました」

 

「その根拠は?」

 

「今回の戦闘理由と同じく、説明することは出来ません。ですが、このような事態は二度と起こらぬものと思っていただいて問題ありません」

 

「……そうですか。まあ、それだけ分かれば今は充分ですかね……あ、そうだ」

 

雪を払いながら立ち上がったレオは、思い出したようにもう1つのバッグの元へと駆け寄り、残っていた最後のロングマフラーを取り出した。

 

「はい、コレ。ケルベロスさんの分ですよ。サクヤさんのと似て、黒の中に緑色のラインでナイフとリボンを描いてみました」

 

そう言ったレオからマフラーを手渡され、ケルベロスは若干困惑しながら受け取る。

 

「私は戦闘用オルガロイドです……このようなお気遣いをなさらなくても………」

 

「でもサクヤさんが言うには、オルガロイドって脳の一部に機械処理を施しただけで、他は人間と特に変わらないんですよね? だったら持っていてください。今はとても寒いですし、風邪を引いたらマズイでしょ?」

 

その言葉に反論出来ず、ケルベロスはマフラーを首に巻いてみる。

 

だが、マフラーを首に巻き終えると、先程の戦闘で流れ弾が当たったのか、マフラーの先端が弾痕の穴の形に削れていた。

 

「あっちゃ~……すいません。これ、すぐに作り直しますんで………」

 

「いえ、このままで大丈夫です………私は、このままの方がいいです」

 

そう言ってマフラーを両手で抱きしめたその時のケルベロスの顔には、嬉しさを表す綺麗な笑顔が浮かんでいた。

 

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

普通、遮蔽物が殆ど無い平面の地形で銃火器を相手にした場合は即座に蜂の巣にされます。レオが勝てたこと事態異常です。

そして、今回登場した回天剣舞…………

今のレオは流水の動きなんて出来ないんで、もどき止まりです。

次回は三馬鹿の1人、スルトとのご対面です。

では、また次回。


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