シャイニング・ブレイド 涙を忘れた鬼の剣士   作:月光花

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他の小説と違って、こっちは大きな修正をしないので投稿がスムーズに出来ますわwww

では、どうぞ。


サブタイトル変更しました。


第11話 小さな波紋

  Side レオ

 

 「あぁ~……うぅ~……」

 

「だ、大丈夫ですか? レオさん」

 

「そっとしておいてあげなさい、エルミナ。レオ、今回の戦闘で一番頑張ったわよ?」

 

「あはは……ありがとうね、エルミナ、リンリン。多分、あと十分も休めば充分動けるようになるから」

 

酒場の机に顔面を横に突っ伏したままエルミナとリンリンに乾いた笑みを返す。

 

ちょっと行儀が悪いけど、今だけは勘弁して欲しい。単純に疲れたというのもあるけど、腕や足を初めに体中が筋肉痛で痛いんだ。

 

この体の異常な回復力が無かったら数日は朝起きるのに苦労しそうだ。

 

「……それにしても、どうしてこうなったの? レイジとリックの2人はそんなに疲れた様子は見えないけど……」

 

トコッと僕の顔の近くに水が入ったコップを置いてくれるアルティナ。僕に続いて移動した視線の先には、申し訳なさそうな顔をしているアミル、エアリィ、ユキヒメさん。

 

「そりゃそうだよ……ちょっと正直に言えば、あの2人のせいで僕が走り回されたようなもんだからね……うん、本当、生き地獄だったよ」

 

「ちょ、ちょっと! 目が虚ろになってるわよ!? しっかりしなさい! そんな生気の抜けたような笑み浮かべないで!? 一体何があったの!?」

 

必死な顔で、だけどそっと僕の肩を揺らすアルティナ。優しいなぁ~。

 

左右の手を動かして腰に差した麒麟と龍麟を机に置き、少しだけ顔を持ち上げてアルティナの持ってきてくれた水を飲む。

 

「別にそんな大それたことがあったわけじゃないよ……あの2人も何だかんだで自分の出来ることを必死にやってるだけなんだしね」

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 僕、レイジ、リックの3人は昼時を迎える頃に敵陣に向かった。

 

僕等3人はあくまで少数精鋭、というやつで、他の区域の敵に関してはフェンリルさんと他のみんなが担当することになった。

 

前にも同じ人数とメンバーで戦ったし、最初は大丈夫だと思ってた。

 

だけど、そこから先は地獄だった。主に僕だけの。

 

まず、戦闘開始前の2人の会話は…………

 

「おい、レオ、リック! あっちに敵がいるぞ! どうやら、まだオレたちには気づいていないけど、どう攻める?」

 

「……好きにしろ。俺は好きでお前達と組んでるわけじゃない。俺は一人で戦う。お前等はお前等で勝手にやればいい」

 

「ああ、そうですかっと……そんじゃ、オレはオレのやり方でやらせてもらうぜ!」

 

 

ここまではまだ良い。むしろ、リックの突き放す態度にレイジが動じず話しかけているのだから進展を喜んだ。アミルとエアリィもね。

 

だけど、戦闘開始後、2人は本当にそれぞれ“1人で”敵陣に突撃していった。

 

さすがにビックリしたね。僕、数秒呆然としてたよ。

 

取り残された僕はひとまず『心』で敵の動きを確認して、左右から攻めた2人の中間を責めることにした。

 

敵はウルフとシュリーカーが大多数、他に大きな猪のようなブタ、イノブタだ。

 

他にも空に浮くエメラルドの敵がいたんだけど、足元に残骸が散らばってた残骸から、戦闘が始まってすぐにレイジとリックの斬撃で粉々に砕かれたらしい。

 

ウルフとシュリーカーは2、3体で連携を取られなければ大した脅威にならないし、イノブタも突進のタイミングを覚えれば簡単に倒せた。

 

そうやって十体近く敵を倒し、僕は再び『心』で戦場の状況を確認した。

 

そして、驚きで目を見開くと共に全力で走り出していた。目指すのは僕達がここまで来るのに通ってきた道。

 

細かい確認はしなかったけど、レイジとリックは敵を倒しながら随分進んでるみたいだ。だけど、その勢いに怯んで後退を始めた敵がそっちに集まっていた。

 

僕達が引き受けたのはこの近辺で行動している敵を倒すこと。1体や2体ならともかく、集団と言えるくらいの敵を逃がしちゃ意味が無い。

 

それに、今は他の隊も戦闘中。もし逃がした敵がそこへやってきたら大変だ。

 

だけど、レイジとリックは奥で戦闘中、今その敵の元に行けるのは僕だけ。

 

というわけで、僕は来た道を全力疾走で戻り、逃げ延びてきた数十体のモンスターを1人で相手にすることになった。当然、全部倒したよ。

 

流石に疲れたんで少し休もうかと思ったけど、近くに隠れてたアミルがやって来て、今度は突っ込んでいったレイジとリックが敵に囲まれそうになっていると知った。

 

それを知ったら休んでるわけにはいかず、僕はアミルの護衛をしながら体の疲れを無視して最前線まで走った。そして、到着と同時に戦闘開始。敵の包囲網をリック、レイジの順に崩していった。

 

リックは包囲網を抜けて一端後退、エアリィからアミルに切り替えて再び突撃。レイジはハイブレードモードになったユキヒメさんを振り回して敵を薙ぎ払った。

 

この時点で、僕は休み無しで戦闘を3連続、最前線と最後尾を2回走った。見栄なんてすぐに捨て去れるくらいに疲れていた。

 

汗を流して肩で息をする僕の様子を見たアミル、エアリィ、ユキヒメさんの3人はそれぞれ自分のパートナーに慌てて進言してくれた。

 

このまま同じ形で進んだら、打ち損じた敵をまた僕が相手にすることになるし、囲まれる可能性も出てくる。だから単独で進むのは控えようと。

 

だけど2人の返答は…………

 

「心配すんなよ、レオならきっと大丈夫さ!」

 

「あいつの強さなら1人で問題ないだろう」

 

 

…………だった。

 

キミ等は鬼ですか? 殺す気ですか?

 

レイジ、親指立ててサムズアップしてるけど、何の根拠を持って僕の体力に関してそこまでハッキリと断言出来るのさ。

 

それとリック、こんな時だけ他人の強さ信頼するのってどうなの?

 

結果、僕は2人が仕留め損なった敵を少し後方で迎え撃つというポジションになった。残りの敵の数が少なかったおかげか、相手にしたのは4、5体程度。

 

正直、あの体力で目立った傷を負わなかったのは自分でも驚きだよ。

 

ゴメン。欲張っても良い? リンリンの言うとおり、今回の戦闘で僕一番頑張ったよね? ひたすら走りまくって戦ったよね?

 

疲れ切った足での帰り道は本当に辛かった。アミル達が肩を貸そうとしてくれたけど、女の子にそんなことはさせられない。挫けないよ、男の子だもの。

 

 

 

 

 「……そんな感じで今に至るってわけ」

 

「……つまり、あの2人が自分のやりたいようにやって、そのフォローに必死に奔走して、ここまで体に疲れが溜まったわけ?」

 

目を向けなくてもアルティナの呆れるような視線が背中に伝わってくる。

 

まあ、今回はあの2人も色んな意味でやり過ぎてくれたけど、ちょっと進展もあった。

 

砦に戻った時、リックが負傷した兵の1人に薬を与えていたのを見えた。薬を受け取った方は怖がってたけど、アミルとエアリィが喜んでたってことは良いことなんだと思う。

 

だけど、嬉しい出来事が筋肉痛を治してくれるってわけでもないんだよね。

 

「面目ない……あの時、強引にでもレイジを押し留めていれば……」

 

「私とアミルも……ずっと守ってもらってたのに……」

 

「うん。ごめんなさい……リックにもちゃんと言っておくから」

 

「いや、あの2人には何も言わないで……あの2人は、まだ今のままの方が良い。時間が経てば、自然と良い方向に変わっていくよ」

 

今日みたいな3人編成は勘弁してほしいけどね、と付け足しておく。

 

あの2人はゆっくりと変わっていくべきだ。背負った後悔と向き合い、今日のように自分なりの頑張り方で徐々に向き合う。その方が2人のためになると思う。

 

僕の言ったことを何となく理解してくれたみたいで、3人は申し訳なさそうな顔のままゆっくりと頷いてくれた。

 

「……まあ、レオが良いなら別に構わないけど……どうする? 次の戦闘もあの2人と一緒に行く? それとも他の人と行く?」

 

「どうか、その力を僕にお貸しください。アルティナ様」

 

気が付けば、僕は筋肉痛の痛みを無視してアルティナに土下座をしていた。

 

多分、心が否定したんだと思う。もうあんな地獄はご免なんです。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 「みんな、ご苦労様。どうやら上手くいったみたいね」

 

それから、砦周辺から神殿までに潜む敵を探して狩るサーチ&デストロイを数日間に渡って続け、昼頃にサクヤさんの召集の声が掛かった。

 

「皆が頑張ってくれたおかげで、砦の周りを初めに、街道沿いからは、敵勢力を殆ど追い払えたようね」

 

「はい、隊長。巫女のいる神殿の手前までは、すでにこちらの勢力圏内です。もう丸腰でも安心して歩けるくらいですよ」

 

各所からの報告を聞いて、サクヤさんの笑顔に続き、フェンリルさんの言葉が続く。

 

実際、フェンリルさんの言うとおり、帝国が増援でもよこさない限り、すでに砦の周辺地帯は安全だ。ランニングで走った僕が絶対の自信を持って保証できる。

 

「特に、レイジ達三人はよくやってくれたわ………うん、本当にお疲れ様」

 

笑顔で褒めてくれたサクヤさんだが、後半になって声のトーンが下がる。

 

やめてください、サクヤさん。そんな気の毒そうな目で僕を見ないで。あの生き地獄のことなら僕本当にもう気にしてませんから。二度とやりたくないけど。

 

「3人とも、さすがですね……」

 

「え? い、いやぁ……別に大したことねぇよ、あれは」

 

僕達3人に素直な褒め言葉をくれたのはエルミナ。レイジは照れながら余裕の返答を返して、リックは目を逸らし、僕はありがとうと礼を返す。

 

「あら、そうなの? じゃあ、さっそく次の仕事に移ってもらおうかしら」

 

「え?」

 

流石は我等が戦線のリーダー。人を使うのがやはり上手なようで、レイジの発言を汲み取り、当然と言うような様子で言葉を続ける。

 

「ヴァレリア解放戦線は、これより白竜教団の神殿に向けて出撃、神殿周辺の敵勢力を排除します! 出発は10分後。各自、それまで準備を整えてね」

 

迫力の込められた声が鳴り、呆然としていたレイジの顔にも緊張が走る。

 

「レイジ、リック、レオ。あなたたちが先鋒をお願い。それと、今回は私も出るわ」

 

「隊長も、ですか?……やはり、神殿への突入に?」

 

「ええ。こちらから協力をお願いしに行くのだから、ちゃんと顔を見せないとね」

 

フェンリルさんの問いに笑顔で返すサクヤさん。

 

そう言われて気が付いたけど……僕、サクヤさんが戦ってるとこ見たことないや。

 

まったく動揺してないレイジとリックの様子から、絶対に弱くないと思うけど。

 

「レオさん、頑張りましょうね!」

 

「あ、うん。皆で頑張ろう、エルミナ」

 

とりあえず、今はやるべきことをやろう。強さなんて戦場に着けばわかる。

 

「さぁ皆! 巫女たちを迎えに行くわよ!」

 

サクヤさんの声を合図に、僕達はそれぞれの準備に動き出した。

 

さあて、頑張るとしよう。反撃の時間だ。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

次回は巫女さんと竜人にご対面です。

では、また次回。


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