シャイニング・ブレイド 涙を忘れた鬼の剣士   作:月光花

11 / 59
今回はユキヒメの始解習得です。

では、どうぞ。


第10話 白刃は上機嫌? 不機嫌?

  Side レオ

 

 静かな決意表明をした次の日、僕はいつも通り日課のランニングを行っていた。

 

二度目なので体が徐々にペース配分を理解し、一度目よりも疲れが明らかに少ない。

 

そういうわけで、今回は挑戦を兼ねて二週目にチャレンジした。

 

でも、やっぱりやめておけば良かった……終わりの無い坂地獄のコースを二回も走ったせいで、消費した体力は昨日よりも多くなってしまった。

 

というか、僕自身よく完走出来たなって思えてくる。特に辛かったのが…………アレ? おかしいな。二週目の中盤から先の記憶が思い出せない……

 

 この後、露店の準備を始めていた人達から聞いたのだが、ランニング中盤以降の僕は目の焦点が定まっておらず、話しかけても返事が無かったそうだ。

 

…………当分、ランニングは一周だけにしよう。うん、そうしよう。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 その後、小太刀の鍛錬を終えて水浴びをして、朝食を取り終わった僕はやることもないので噴水広場に足を運び、酒場の手伝いをしていた。

 

やったのは酒樽運びや掃除だったけど、伊吹家で子供の頃から家事全般の能力を教えられ、1人暮らしでさらに磨きが掛かった僕には苦じゃない。むしろ、掃除は楽しい。

 

「ん? アレって……レイジにユキヒメさん……?」

 

手伝いを終えてテーブルに座り、軽く休憩していたら酒場のすぐ外の場所に見覚えのある人影を見つけた。あの赤髪と黒い羽織は間違いない。

 

そう思って立ち上がり、2人のところへ歩き出す。だけど、僕の到着よりも先にユキヒメさんが突然発光し、大太刀へと姿を変えた。

 

さすがに人が集まっているところで物騒な大太刀を取り出されたらまずいと思い、僕は慌てて走り出し、レイジの元へと近付いた。

 

「レイジ、店の前で大太刀なんて取り出してなにしてんのさ……」

 

「い、いや……なんか、ユキヒメの奴が先代と戦ってた頃の夢を見たらしくて、今日はすごい気分が良いって言い出して……こんな姿に」

 

僕と同じ様に何が起きているのか理解出来ていないのはレイジも同じみたいで、戸惑う視線の先にはレイジの両手に握られている大太刀となったユキヒメさん。

 

ただし、その姿は普段、というか……今まで見たものとは違っていた。

 

大太刀の刀身が内側から広がるように展開されており、その内側から止めどなく放たれる青い光は冷気のように刀身を漂い、何だか力強さを感じさせる。

 

レイジも驚いてるってことは、少なくともよくある現象じゃないみたいだけど、ソウルブレイドって機嫌の良さで姿が変わるもんなの?

 

『ふははは! いや実に気分が良い。今なら先代以外が相手なら何者にも負けんぞ!』

 

「なんか……自信が有るのか無いのか微妙にわかんねぇな。でも、なんだろうな……オレまで気分が乗ってきたような……力が涌いてくるような感じが……」

 

「レイジ、レオ! 何をやってる!? 敵襲だ! 急いで裏門から迎撃に出るぞ!」

 

突然聞こえてきたフェンリルさんの声。気が付くと、周りの皆が慌しく動き、それぞれの迎撃地点に向けて走り出している。

 

『おお! ちょうどいい! 急げレイジ! 今の私の力を存分に発揮しようではないか!』

 

「お、おう! わかった! やってやるぜ!」

 

本当なら気を引き締めなきゃいけないんだろうけど、なんだか上機嫌過ぎて盛大にキャラが変わっているユキヒメさんの影響か、レイジもすごい乗り気だ。

 

僕もだけど、呼びに来たフェンリルさんもその変容に呆然としている。

 

『何をしているレオ! 帝国の連中など、私達で薙ぎ払おうではないか!』

 

「あぁ……うん、今行きます……」

 

酒屋のテーブルに置いておいた麒麟と龍麟を手に取って両腰に差し、裏門へ走り出したレイジの後を急いで追い掛ける。

 

その際に弓を持ったアルティナと杖を持つエルミナの姿が見えたので、どうやら僕達はいつものメンバーで一部隊と認識されてるらしい。

 

でも、ユキヒメさんの様子から戦闘時が不安だとは思わないけど……

 

「大丈夫かなぁ~…………?」

 

何だかんだで、僕の心の中には微妙な不安があるのだった。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 裏門を出てしばらく走り、到着した場所はアルセイド大森林。

 

そこには巨大キノコに顔と触手を生やしたような、シュリーカーと呼ばれるモンスターがウジャウジャと集まっていた。

 

攻撃手段は触手と胞子を飛ばすくらいだそうだけど、最前列に6体以上が一箇所に集まっているので、正面突破するのは少しキツそうだ。

 

『おお! 見ろレイジ! あそこに敵がウジャウジャと集まっているではないか! さあ、行くぞ! 私達の力で蹴散らしてやろうではないか!』

 

「おうよ! 行くぜ、ユキヒメ!」

 

……と思ったのも束の間、一箇所に群れを成している敵を見つけたユキヒメさんの声に従い、同じくテンションが高いレイジが我先にと突撃していった。

 

もちろん1人で、真正面から。

 

『ちょっ…………!』

 

そのあまりにも予想を裏切り過ぎた行動に驚いたけど、僕達全員の驚きはすぐに上書きされ、今度は黙り込むこととなった。

 

「はあぁぁぁぁ!!」

 

レイジが迫る大量の胞子や触手を前にして、気合と共に大太刀を振り下ろした。

 

すると、振るわれた大太刀の刀身を中心に無色の衝撃波が放たれ、斬撃のコースに沿って無作為に拡散した衝撃波が胞子を吹き飛ばし、足元の地面を抉った。

 

何の変哲も無い唐竹の斬撃のはずなのに、それだけで2体のシュリーカーは飛ばしてきた触手を大きく弾き飛ばされ、全身が粉々になった。

 

『は・・・・・?』

 

僕を含めた全員がその破壊力に唖然とするが、ハイテンションの状態を維持したレイジは気にせず大太刀を振るい続けてシュリーカーを『粉砕』していく。

 

「えっと……とりあえず、僕達も行こう。念のためアルティナはレイジに付いてあげて。エルミナは僕と一緒に来て、別方向から攻めよう」

 

色々と気になるけど、僕は我に帰って龍麟と麒麟を抜刀。アルティナとエルミナもハッとなってすぐに動き出した。幸い、レイジはまだそんなに離れていない。

 

僕とエルミナはレイジとは別方向に向かい、僕は先行して高台から飛び降りて攻撃を開始する。

 

シュリーカー数体が集まっている所にエルミナのブレイズやアースが直撃し、混乱した所に僕が斬り込んで体勢を整える前に潰す。単純だけど、こちらの手の内がバレてない敵なら有効だ。

 

右手の麒麟で放つ『虎切』で一体を真っ二つにして、身を翻しながら逆手に持ち替えた左手の龍麟でもう一体の脳天を貫く。

 

そのまま龍麟を突き刺したシュリーカーを右足で蹴り飛ばし、胞子を撒き散らそうとして集まっていた3体目掛けてぶつける。

 

即座に腰を沈めて地を蹴り、敵目掛けて『射抜』の急加速による刺突で突っ込む。一体を貫いてそのまま通過し、急ブレーキで貫いた死体を放り投げる。

 

後ろにはシュリーカーが2体残ってるけど、僕が動く必要はない。戦ってるのは僕だけじゃないし、火力なら僕よりも遥かに上だからね。

 

すると、2体のシュリーカーを爆炎が包み込み、頭部に溜まった胞子を着火材にして数秒で派手に燃え尽きた。その背後からはエルミナが杖を持って小走りでやって来た。

 

僕も歩いて近付くと、エルミナの背後にある壁、正確には此処に元々あった建造物が崩れて積み重なった瓦礫の山がパラパラと小さく崩れ出しているのが見えた。

 

「危ない、エルミナ!」

 

両手の小太刀を即座に鞘に収めて走り出し、首を傾げるエルミナを抱き寄せて瓦礫に背中を向けて庇う。同時に、瓦礫の山が何かに吹き飛ばされたように崩れ出した。

 

幸い背中に飛んできたのは小さい瓦礫の破片と煙を含んだ風だけだったので怪我は無い。ただ、僕の腕の中で顔を少し赤らめるエルミナには何だか申し訳なかった。

 

右手で麒麟を抜刀し、エルミナを背後に庇いながら土煙の奥を警戒する。『心』で気配を探れば簡単かもしれないけど、この状況で目を閉じたら逆に危ない。

 

「げほっ!げほっ! くそ、調子に乗って少しやり過ぎた……えっと、敵は……おお、レオ! お前がこっちの敵を片付けてくれたのか?」

 

土煙の奥から聞き覚えのある声が聞こえたと思ったら、やって来たのは大太刀を肩に担いで咳き込むレイジだった。どうやら、瓦礫の山を破壊した犯人は確定のようだ。

 

その背後からは土煙を手で払うアルティナの姿があったけど、呆れたような目でレイジを見ていることから、恐らく敵の殆どをレイジが倒したんだろう。疲れた様子も無い。

 

僕の記憶が正しければ、レイジが突っ込んで行った5体の先にも3、4体くらい敵がいたはずだけど、見たところレイジの外見は無傷だ。

 

「……レイジ、いくらコンディションが良くてもやることには気を付けてね。今のは下手したら味方も巻き込んじゃうから」

 

にしても、さっきも驚かされたけど、瓦礫の山も連撃で崩して吹き飛ばすって……どんだけ一撃の破壊力が大きくなってるんだろう。ガードしても崩されるんじゃないかな?

 

『敵はあと少しだ! このまま一網打尽にしてくれるわ! ハハハハ!』

 

再びハイテンションなユキヒメさんの声が聞こえ、僕達は苦笑しながらも再び走り出して残りのシュリーカーが集まる場所に向かう。

 

先頭を僕とレイジが走り、その少し後ろをアルティナとエルミナが付いて来る。だけど、自然とレイジが走る速度を上げて先行し、大きく跳躍してシュリーカーの群れのど真ん中に着地する。

 

「薙ぎ払えぇ!!」

 

そして両手で握る大太刀を左肩に担ぐように構えて両腕を引き絞り、レイジは体を右へと一回転させて大太刀で回転斬りを放った。

 

 

『零式刀技・円』

 

 

大太刀の長い刀身から逃げ切ることが出来ず、3、4体のシュリーカーが深く斬り裂かれて絶命し、回転斬りに続いて生じた衝撃波が小規模の爆発と竜巻を発生させた。

 

それによって生き残ったシュリーカーも四方八方に吹き飛ばされ、群れを成していた集団はたちまちバラバラになった。これで触手も胞子も大した脅威にはならない。

 

「エルミナ、お願い。その後に僕も突っ込むから、アルティナは援護をお願い」

 

僕の言葉に頷いたエルミナが上空に放った4発の光球がシュリーカーに着弾すると同時に生き残り目掛けて真っ直ぐ突撃する。

 

後ろから追い越したアルティナの矢が一体の額を貫き、僕は左手で飛針を投擲して2体を怯ませる。その隙に僕は一体を『虎切』で仕留め、もう一体は7番鋼糸で首を締め上げる。

 

そのまま左腕を思いっきり引いてシュリーカーの体を引き寄せ、左手で抜刀した龍麟でその体を横一文字に深く斬り裂いた。

 

レイジの方を見ると、一人で3体のシュリーカーを相手にしてたけど見たところ問題は無さそうだ。むしろ圧倒してるように見える。

 

レイジは飛んできた触手をサイドステップでかわし、着地と同時に肉薄して一体を右袈裟に斬り裂く。返す刃で背後から迫ってきたもう一体を右薙ぎの斬撃で真っ二つにする。

 

すぐにそこから飛び退いて残りの一体が飛ばしてきた胞子から逃れ、地面を薙いだ斬撃で発生した衝撃波が胞子を吹き飛ばす。

 

道が開けると同時にレイジは走り出し、刀身から溢れる青い光を身に纏って大太刀を構える。

 

「打ち払えぇ!!」

 

『砕』による3連撃が叩き込まれ、最後のシュリーカーは粉砕された。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

  Side Out

 

 「すげぇ……すげぇな、ユキヒメ! お前、実はこんな力があったのか! 今まで戦ってきてまったく知らなかったぜ」

 

敵の姿が無くなり、レオが『心』で周りの気配をしていると、夢から覚めたかのようにレイジが表情を輝かせてユキヒメに問い掛けるが、褒められている本人は………

 

『……何が「すげぇな」だ何が! 何だこのザマは! まるで私の力を使いこなせていないではないか! たったアレだけの敵を片付けるのにどれだけ時間を掛けている!』

 

「え?……あれ?……」

 

戦闘開始前とは天と地ほどに違い、テンションはがた落ちしていた。むしろ、声の中には明確に怒りの色が有り、苛立っているように見える。

 

何やら様子がおかしいと思い、周囲の安全を確認して小太刀を鞘に収めたレオがレイジの方へと歩き出し、アルティナとエルミナも首を傾げて続く。

 

「あの……ユキヒメさん? もしかして……機嫌悪くしてらっしゃいます?」

 

『当たり前だバカモノ! それがわかっているなら、少しは精進せんか!』

 

どうやら疑うまでも無くすこぶる機嫌が悪いらしい。おそるおそる問いを投げたレイジに対してハッキリと怒りの声を上げ、バカモノのおまけ付きだ。

 

これには流石に口を挟めないレオ達3人は苦笑するしかなかった。

 

『いいかレイジ……もっと強くなって見せろ! 今よりも強く……そうるれば、また私の力を貸してやらんでもない。 わかったな!』

 

「あ、ああ……わかった」

 

呆気に取られたレイジの答えを最後にして、レオ達は自然と砦へ戻る為に足を進めた。

 

この戦闘以降、ユキヒメは自分の機嫌が良い、あるいはレイジが戦闘で活躍した時に今回のように姿を変えるようになったのだった。

 

ちなみに、ユキヒメが上機嫌となった状態の名前をどうするかという話し合いがあったのだが、最初にレイジが出した『ご機嫌モードとかで良いじゃん』という案はユキヒメさんの殺意が込められた絶対零度の眼差しによって掻き消された。

 

結果、冷や汗を流して慌てて沈静化に走ったレオの提案で『ハイブレードモード』という名前で落ち着くこととなった。その時、心なしかユキヒメが嬉しそうだったのは気のせいではないだろう。

 

 

 

 

 翌日、サクヤの提案を受けて、レイジ、リック、レオの3人は神殿までの進行ルートを切り開く最後の一押しの役割を任されたのだった。

 

昨日のアミルとエアリィから相談を受けたのでもちろんレイジに不満などはなかった。それは同じ相談を受けたレオもだが、このメンバーに若干の不安を感じるのは仕方ないことだった。

 

(……また2人が喧嘩したら、どうしよう……)

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

ゲームではユキヒメのハイテンションモードの凄さがほとんどわからなかったので、こっちでは斬撃と一緒に衝撃波をぶっ放すという性能を発揮しています。

では、また次回。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。