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では、どうぞ。
Side オリ主
さて、皆さんはじめまして。
僕の名前は伊吹黎嗚。イブキ レオと読む。
名前の意味は、黎明を知らせる鳴(おと)、と言うものらしい。ちなみに黎明といのは、夜明け、または文化・時代・物事の始まりを意味する言葉だ。
でもよく考えたら、レオって人に付ける名前じゃないよね。子供の頃はカッコイイと思ったけど、今になってみると自己紹介の度に恥ずかしくなる。
僕の家、伊吹の一族は、土地神を奉じる霊的な氏族……まあ、古くから特殊な力で幽霊のお祓いや物の怪退治をして日本に名を残している“陰陽師”に似たものだ。
三重県にある実家は立派な神社と共に建てられていて、政治に関しても少しは影響力を持っているそこそこの名家だ。最も、その権力の理由を知る人間はかなり少ないだろうが。
今ではその能力と伝統はほぼ失われつつある(むしろ積極的に捨てようとしている)が、僕が4歳の頃まで生きていた曽祖母の人は確かに特殊な力、霊能力を見せてくれた。
しかも、聞いた話だと、伊吹家の先祖は鬼だったらしい。霊能力を見ただけあって、先祖の話も、あながち推測ではないと思う。
そして僕は、その伊吹本家の2番目の次男として生まれた。その上には、1つ歳上の姉が1人いる。
姉さんの名前は伊吹志摩。こちらはイブキ シマと読む。
志摩という名前は地名でもあり、それを人の名とするのは地霊の加護あれという、一種の祝福の意味をこめているのだ。僕は次男だから、そういう意味の名前は付けられないらしい。
というか、どういう意味を込めて黎嗚なんて名前を付けたんだろう?
そんな僕と姉さんは家の内外で大切に扱われた。でも、その代わりに父さんや母さん、親戚の皆は僕達に一切の愛情を向けてはくれなかった。
その理由は、多分僕と姉さんが曽祖母様の持つ異能、霊能力の素質を強く受け継いでしまったからだと思う。はっきりした理由は不明だが、それを直接訊けるほど幼かった僕と姉さんに勇気は無かった。
まあ、素質を強く受け継いだと言っても、強い資質を持って生まれたのは姉さんの方だ。僕にも素質があるのは間違いないらしいが、姉さんを100とするなら、僕は20か30程度だ。
大おばあ様から色んな術を教えてもらったけど、僕と姉さんじゃ精度に明らかな違いがあった。
そんな扱いを受けてきたからか、僕と姉さんの仲は比較的に良かったと思う。少なくとも、伊吹家の中で気を使わずに話せたのは曽祖母様と姉さんだけだった。
そんな僕だけど、両親にはもちろん、仲の良い姉さんにも言ったことがない変わった体験を幼いときから積み重ねている。
それは、僕が時折夢などで見る『別の誰かの記憶』だ。
最初は時折夢に出てくるだけだったが、僕の中に異能の素質が宿っていると知った時から昼間でも頭の中に出てくるようになった。曽祖母様に聞いた話だと、これは夢見の力らしい。
ただ、僕が夢で見る映像はそんなに長くないし、夢だから忘れることもよくある。
その夢の人の名前は未だに分からないが、性格は温和で、人との衝突は避けるタイプだった。それに細かい気配りができるみたいで、周りからも慕われていた。
でも、何でだろう……その性格のせいでやたら損な役割をしてた気がするな、あの人。
その人は夢の中で2本の小太刀を振るっており、相当歴史の根強い古流剣術を習得していたようだ。名前は確か……永全不動八門一派・御神真刀流小太刀二刀術……だっけ?
しかもその人は、その流派で歴代最強クラスに届く程の実力者だったらしい。夢で見た限り、素人の僕でも分かるほど無敵に近かった。
そして、そんなカッコイイ剣士の姿を見てしまった僕は、幼いながらも夢の人のように強くなりたいと願い、人生最大の目標を持った。
それから僕は、夢で見た動きを参考にしながらずっと鍛錬を続けている。今でもそれは変わらず、気が付けば随分と筋肉の付いた体になった。
けど、最初は本当に苦労したものだ。
体が出来上がっていない子供の体では満足に木刀すら振れず、何度体がぐらついて地面を転がったことか。その度に姉さんに心配を掛けてしまったのも申し訳なかった。
けど、初めて木刀をブレずに振れた時は本当に嬉しかった。姉さんはもちろん、世話係の使用人達も自分のことのように喜んでくれた。
そして、本格的に夢の人を目指す鍛錬を始めた。
こちらは木刀を振れるようになるまでとは難易度が別次元だったが、それと比例する位に一生懸命になれたし、楽しかった。
まず永全不動八門……長いから夢で呼んでいたように『御神流』で……その流派の基本動作の初歩の技『斬』。
御神流は普通の剣術とは違って小太刀を使うため、普通に斬るのではなく、引き斬る方が多い。この戦い方を総じたのを『斬』と呼ぶ。
それを体得しようと鍛錬を重ねたのだが、少しでも動きに乱れが出ると、夢の中の人が怒鳴るように間違いを教えてくれるような錯覚を何度も感じた。
まるで夢の中の人がすぐ傍で師匠のように教えてくれているようで、初めは見よう見真似を覚悟した僕の体は、記憶の中の御神流の技を徐々に体得していった。
そして、僕と姉さんは中学校を一年違いで卒業し、両親の“決定”で聖ルミナス学園に入学した。
知人の経営する寮付きの学園できちんと教育してもらう、というのが“表向きの理由”だが、本当は疎ましい僕達を遠くにやりたいだけだったのだろう。
僕と姉さんも異論は無かった。まあ、有っても聞いてくれたとは思えないが。
でも、この時の決断は、僕達にとっては牢獄からの出口になった。
少なくとも、僕の方は少なからず日常の形が変わった。
御神流の鍛錬しかすることも出来ることもなかった僕は、殆どの同年代の男の子が関心を示すこと、本や音楽などの様々な娯楽に興味を持った。
こっちに来てからすぐの話だが、小説に書かれていた剣技を真似できないかな、と思い、小さな神社で小太刀サイズの2本の木刀を振り回したのは正直、黒歴史だ。
頭の中に叩き込んだ動きを幾つか真似ることが出来て、調子に乗ってしまった。
だが最悪なことに、神社にいた巫女さんにその現場を少し見られてしまった。
恥ずかしくて全速力でその場から逃げ出したので、巫女さんの顔は覚えていない。あちらも僕の顔を覚えていないことを祈るばかりだ。
だけど、失っただけではない。代わりに得る物もあった。
スラント、バーチカル、ホリゾンタル、ソニックリープ、この4つの動きはもう完璧に物に出来た。二刀小太刀の片手でも再現できるほどに。
参考にした小説は、察してください。
だけど、今度から剣技の再現練習は絶対に人が来ない場所でやろう。やめようとしない僕も悪いけど、姉さんに見られたりしたら恥ずかしすぎる。
そして、僕は今17歳となり、来年は受験を控えている身なのだが、この学園に入学してから今に至るまで、僕の周りは色々大きく変化した。
まず、一番大きい変化は、姉さんが死んだことだった。
冬休みの学園で起こった怪物騒動や神隠し。これの犯人が姉さんだった。この事件で、少なくとも5人以上の死者が出ている。当然、実行犯も姉さん。
原因というか、動機は……姉さんの恋人、森崎(もりさき)景一(けいいち)に他に好きな人が出来たことで、姉さんはその人の心を大おばあ様に教えてもらった術で『処理』したらしい。
でも、心を変えることが出来た代償に、恋人の肉体は原型を失ってしまった。そこで姉さんは、学園に封印されていた悪霊を自身に取り込み、今回の騒動を引き起こした。
う~む、まさか姉さんにヤンデレの属性があったとは夢にも思わなかった。
その狙いも過程もまったくわからないが、とにかく、姉さんは死んでしまった。遺体も無い。
あと、その騒動が起こった時、僕は病院で昏睡状態になっていた。こちらの原因も姉さん。
クリスマスの日に姉さんに呼び出されたのだが、場所に着いた途端、僕は見えない力で拘束され、体の中に詳細不明の『力』を溶け込まされた。
マトモに説明出来てないのはわかってるけど、そうとしか言えない。
姉さんは、自分が手に入れた力の“問題が無い部分”と言っていたが、体中を沸騰するような熱が駆け抜け、体内で何かが激しく脈動したあの時は、まったく理解できなかった。
その後、気を失った僕は病院に運ばれ、2、3週間は眠り続けていた。
目が覚めれば全て終わっており、今回のような化け物騒動に精通した学園長から、事件の詳細を教えてもらったのだ。
とりあえず真相を知った僕は、他人の目を気にすることなく、親しい家族の死に涙を流した。
本当に長く、本当にたくさん。
この時の涙が、僕の知る限り、最後に流した涙だった。
それから、学園長の配慮で姉さんの葬式を行った。
ろくな遺品も、遺体も無く、参加人数も少ない葬式だったが、死んで弔われるのは人間として当たり前のことだ。弟の僕にしか、姉さんの墓を作ってあげられない。
葬式を終えると共に、僕は姉さんの死に踏ん切りをつけて、1人で生きていくことを決意した。
まあ、踏ん切りはついても吹っ切れたかは微妙だけどね。
伊吹本家の人間は姉さんの葬式に誰一人として出席しなかったが、お金の仕送りは続けてくれた。学園長も学園に存学させてくれたし、生きていくことは可能だった。
だが、僕を見る学園の生徒達の目は、次の日から異物、化け物を見るような目だった。まあ、姉さんの弟ってだけで、怖がるには充分な理由だろうね。
しかし姉さん………なんて置き土産を残してくれたんだ。
見下すのではなく、怖がられたことで、幸いイジメは一切無かった。代わりに、学園で普通に話せる人は一切いなくなったけどね。
あれ? 気のせいかな? 目から変な汗が出てくるよ。
誰かと遊ぶことも無かったから、テストでは高得点を取れたし、同じ理由で御神流の鍛錬にも充分時間を使うことが出来た。ただ、テストの答案を回収したり、体育の授業でペアになった子がいつも青褪めた顔をするのは、流石にイラついたよ。
そんなことがあるので、僕は自然とクラス全員で取り掛かるような行事をサボるようになった。基本的に屋上や人のいない場所で時間を潰してる。他人に気を使って不良になるって……この結果はどうなんだろう?
まあ、苛立ちや怒りを抑える為にタバコや飲酒をしているし、否定も出来ない。姉さんが埋め込んだ力のおかげなのか、酒にはこの上なく強いし、肺はいつまでも綺麗なままだ。
そんな半不良ライフを満喫している僕ですが、どうにか生きております。
「……もう、学園での視線にも慣れたよ。本当に、アレだけ怖がられるって姉さん何したのさ。稀に廊下で肩がぶつかっただけで、その人悲鳴を上げて腰抜かすんだよ? 異常だって」
制服姿の僕が今いるのは、そう広くない墓場だ。目の前には伊吹志摩と書かれた墓石がある。
近くには黒色のボストンバッグが置いてある。先程まで遠出の鍛練の時に食うカロリーメイトなどの非常食を買いに行っていたのだ。まあ、中には食料以外の物も入っるけど。
一ヶ月に一度の割合だけど、僕はこうして姉さんの墓参りによく来る。墓石に語りかけるのも、もはや当たり前のことになっている。
「アレから剣の鍛錬をもっと厳しくしたんだ。奥義も幾つか覚えたよ。残りの奥義はまだ未熟で、夢の人にはまだ届かないけど……今日はその成果を伝えに来たんだ。あ、ちゃんと勉強もやってるよ? 先生怖がるから質問出来ないけど、この間の試験は上位に入ったよ」
御神流の鍛練の方は、本当に強くなっていると実感出来る。
姉さんの与えた力のおかげで肉体の性能が人前では本気が出せないくらいに上昇した。具体的に言うなら、20メートルくらい壁走りが出来る位に。
そんな感じで夢の人の動きに体がついていくようになり、体得出来る技は厳しい鍛練と共に増えていった。
「……あ、もう時間か。それじゃあ、今日はもう帰るよ。来月も適当な日に来るよ。ここ以外じゃ口を動かす機会なんて滅多にないからね」
胸ポケットに入れておいた携帯(ちなみにスマホ)を生徒手帳と一緒に取り出し、時間を確認して立ち上がる。
姉さんのことも、事件を解決したと言われている生徒会、四季会も別に恨んでいないが、話し相手が墓石だけという今の状況は流石に寂しい。
友達、とまではいかないかもしれないが、気兼ね無く話せる相手が欲しいものだ。
そのとき、顔を上げた僕の目の前の空間が…………割れた。
「なっ!?…………ちょっ……!」
その超常現象に驚く間も無く、僕の体は気が付けば宙を舞っていた。
いや、正確には割れた空間、黒一色の穴の中に、吸い込まれていたのだ。
一秒と掛からず、僕はボストンバック共々飲み込まれ、上下の感覚を失い、気を失った。
後に残っていたのは、墓石の前に落ちている生徒手帳だけだった。
ご覧いただきありがとございます。
こっちも所々に修正や改修を加えながら更新するつもりです。
では、また次回。