【完結】ラスボス詐欺【転生】   作:器物転生

7 / 10
【あらすじ】
悪魔の封印を解いて、
ネギと戦うように仕向けた、
とラスボスは申しております。


いどのえにっき(上)

 白い女の事も合わせて、悪魔の襲来を刹那さんに伝えた。でも、刹那さんは悪魔に誘拐される。マスターもといエヴァンジェリンさんによると、刹那さんは僕よりも強い。その刹那さんを、麻帆良学園に侵入した悪魔は誘拐したらしい。近接戦闘に長けた刹那さんを軽々と無力化した悪魔は、いったい何れほどの力を備えているのか……侵入者を感知し、魔法で様子を探っていたマスターは「あの色ボケめ、色仕掛けに引っ掛かりおったぞ」なんて呟いていたけれど、そんな事はないだろう。そういう訳で僕は、生徒達を誘拐した悪魔の招待を受けた。その悪魔の指定した屋外ステージへ、僕と小太郎君は向かう。

 この小太郎君とは誰なのかと言うと、僕の生徒である木乃香さんを誘拐しようと試みた天ヶ崎一派の一員だ。京都で白い女の息子に勧誘された小太郎君は「封魔の瓶」を奪った後、麻帆良へ知らせに来たと言う。僕のパートナーとするために、わざと見逃されたのだろうか……そう思ったけれど、小太郎君の傷は思ったよりも深かった。これでは悪魔相手に、どの程度戦えるのか分からない。

 さらに悪い事に、小太郎君を助けた生徒の一人を誘拐された。それは僕の生徒である千鶴さんだ。刹那さんと千鶴さんを誘拐された以上、悪魔と一人ずつ戦うなんて余裕はない。だから白い女の予定通り、僕と小太郎君は力を合わせる事になった。でも、それでも悪魔に勝てるのかは分からない。相手は上位悪魔だ。だから僕は、小太郎君に仮契約を持ちかけた。

 

「俺は従者に成るなんて、お断りーや」

「じゃあ、僕が小太郎君の従者になるよ」

 

「お前が? せやかて、俺がマスターっちゅうのもなぁ……」

「良いアーティファクトを引き当てられなかったら解約するよ。今は少しでも手札が欲しいんだ」

 

「道具目当てかいな……まぁ、その方が分かりやすいっちゃー分かりやすいな……ええよ、今は姉ちゃんを助ける方が先や。お前と仮契約を行ったる」

「うん、それじゃカモ君、おねがい」

 

「よっしゃー! 行くぜ、兄貴! パクティオー!」

 

「……おい、ちょっと待てや。その仮契約の方法って何や……止めい、近寄んなや。顔を近付けんなっちゅーとろうが! ネギィィィィィィ!!」

「下らない事で問答してる場合じゃないだろ! 千鶴さんを助けるためだ! このくらい我慢しなよ、小太郎君!」

 

 君がマスターで、僕が従者だ。その結果、僕は「いどのえにっき」という人の思念を読み取れる本型のアーティファクトを手に入れた。アーティファクトは従者の資質に左右されると云う。それは未来に持つべき能力の暗示とも云われ、育てるべき能力の指針とも云われる……しかし、読心の力は僕に合っているのだろうか。読心系の魔法を鍛えるべきなのかと、僕は本気で思ってしまった。

 「いどのえにっき」は対象の名前を知る必要はあるけれど、強力なアーティファクトだ。このアーティファクトの凄い所は、質問の答えを誤魔化せない事にある。例えば「何を考えているのか?」という問いに対して、頭の中で「殺す殺す殺す」と考えても、「殺す殺す殺す……と考えて、本当の事を読み取られないようにしている」と表示される。読心を防ごうと理性的に考えている時点で防げない。

 それに何よりも、今の僕に必要なアーティファクトだった。この「いどのえにっき」を上手く使えば、相手に知られる事なく敵か味方かを調べられる……でも、まずは悪魔を倒さなければ成らない。エヴァンジェリンさんから伝授された「闇の魔法」も発動は出来るけれど、今の僕では使った瞬間に暴走するので使えない。小太郎君と力を合わせて、刹那さんと千鶴さんを助けるんだ。

 

~ネギちゃんは大変なアーティファクトを引き当てました~

 

 悪魔は強敵だった――その際、「ヘルマンさん、貴方は何を隠しているんですか?」と尋ねて情報を盗む。すると悪魔の雇い主は、京都で僕を石化させた白い少年と分かった。白い女によって差し向けられた悪魔なので、白い女の息子に雇われていても不思議ではない。悪魔を派遣した目的は僕の脅威度を計るため……ではなく、小太郎君の口封じや、悪魔の入っていた封魔の瓶の回収、ついでに陽動のためだ。そのために刹那さんを誘拐して、僕を誘き寄せたらしい。要するに、封魔の瓶で封印される恐れのある悪魔は本隊から外されて、別行動をしていたようだ……なんて迷惑な。

 その悪魔は僕と小太郎君に倒された後、消え去ろうとしていた。高位の悪魔は高度な魔法を用いて滅ぼさなければ復活する。これは吸血鬼の真祖であるエヴァンジェリンさんも同じ事だ。でも僕は、白い女を捕えるために氷結封印を習得した。僕は白い女の言っていたように、高位の魔物を滅ぼせる魔法を習得するべきだった。そうすれば今頃、エヴァンジェリンさんも悪魔も滅ぼせていただろう……仕方ないので僕は氷結封印を施し、悪魔を氷の中へ保存した。その後、スライムの中から刹那さんと千鶴さん――それと何故か誘拐されていた明日菜さんも救出する。明日菜さんは運悪く、スライムと遭遇してしまったようだ。

 悪魔を倒した数日後、僕は出張から帰ってきたタカミチと会う。最初に確かめる相手はエヴァンジェリンさんの味方と言っても、白い女と繋がりの薄いタカミチだ。僕は悪魔の雇い主を白い女という事にして、白い女に雇われた悪魔に襲撃された事をタカミチに話した。「いどのえにっき」を肩掛けカバン中に入れ、その中に片手を突っ込んだ状態で質問する。後は名前を呼んで、質問するだけだ。

 

「タカミチ、白い女について教えてくれない?」

「白い女かい? ごめん、ネギ君。数年前にネギ君から聞いて、僕も探してはいるんだけどね。白い女に関する情報は集まってないんだ……きっとネギ君の方が詳しいと思うよ」

 

「そうなんだー」

 

 タカミチは悪魔を倒した事を誉めて、学園長に報告すると言ってくれた。どうやら学園長を避けている事を、タカミチは察しているらしい……その問題も直ぐに解決できると思う。タカミチの後は学園長だ。タカミチと別れた後で「いどのえにっき」を僕は見る。もしかするとタカミチも白い女に加担しているのかも知れない。でも、タカミチから直に聞くのではなく、「いどのえにっき」で間を挟めば、タカミチに気づかれる事はない。その答えを僕は読んだ。

 

『白い女と言えば、6年前にネギ君が目撃したと言っている人物だよ。でも、ネギ君の証言はネカネ君の証言と食い違っているし、ネギ君の記憶にも白い女は存在しないから、白い女はネギ君の創作物とされているね』

 

 僕の質問に答える形で、タカミチの答えは表示された。それを読んだ僕は、ギリィと歯を食い縛る……ふーん、そうなんだ。タカミチって、そんな風に考えてたんだ。知らなかったよ。僕は怒りで何も考えられなくなり、手に持った本型のアーティファクトを強く握り締める。タカミチは僕を信じているような振りをして、本当は信じていなかったんだ。僕の罪の証だって、笑っちゃうよね――分かってる。こうなる事は分かっていたはずだ。タカミチはエヴァンジェリンさんの味方なんだから。タカミチに優しくされて、僕は勝手に勘違いをしていた。

 次に僕は学園長室を訪れる。表向きの理由は小太郎君に関する事だ。小太郎君を麻帆良学園に留めれば、仮契約は解除されず、「いどのえにっき」を僕は所有できる。だから悪魔の討伐によって、小太郎君の罪を軽減して欲しかった。すると学園長は小太郎君の滞在を許してくれる。ついでに、危険過ぎて保管に困っていた「氷漬けの悪魔」を学園長へ引き渡した。その際、タカミチの時と同じように問いかける。

 

「近右衛門さん、白い女について教えてください」

「ふぉっ? ネギ君、わし何かしたかのぅ?」

 

「どうしたんですか、学園長さん?」

「ネギ君、今わしの名前を呼び捨てにせんかったか?」

 

「そんな事しませんよ。やだなー、学園長さん」

「そうかのぅ……わしも耳が遠くなったのかも知れん」

 

 学園長を下の名前で呼ぶのは、ちょっと困った。いつも学園長と呼んでいたから、下の名前で呼べない。結局、間違えて呼んだ振りをする事にした。学園長はエヴァンジェリンさんの属しているクラスに僕を配置したり、僕を使者に任命して生徒達を危険に晒したりしている。僕の知っている中で一番、白い女と関係の深い人物だ。だから白い女に関する深い情報を得られるかも知れない――そう思っていた。

 

『白い女と言うと、ネギ君の故郷を壊滅させたとされる人物じゃよ。しかし、その存在を証明する物はネギ君の証言のみなのじゃ。共に救出されたネカネ君の記憶も、ネギ君自身の記憶も、白い女の存在を否定しておる。白い女の存在を証明する事は困難じゃろう』

 

 学園長も白い女の存在を否定しているなんて……おかしい。じゃあ、学園長に指示した人物は誰なのだろう。そんな人物は居なかった? いいや、それにしては不用意すぎる。僕の血をエヴァンジェリンさんに吸われたら如何するつもりだったのか。京都でも孫娘を誘拐されて大鬼神の復活を許してしまった。大鬼神はエヴァンジェリンさんによって討伐されたけれど……まさか、タカミチだけではなく学園長も「エヴァンジェリン派」なのだろうか?

 よく考えると木乃香さんの父親であり、関西呪術協会の代表でもある詠春さんもエヴァンジェリンさんに悪い感情を抱いていなかった。エヴァンジェリンさんのクラスに僕を配置したのはエヴァンジェリンさんを復活させるためで、僕を使者として任命したのはエヴァンジェリンさんの出番を作るためだったのかもしれない……いやいや、そんなバカな。まさか、そんな事のために孫娘を危険に晒すなんて事は無いはずだ。

 情報収集の最後に僕は、エヴァンジェリンさんの下へ向かう。エヴァンジェリンさんを最後に回した理由は、明らかに敵と分かっているからだ。それに、エヴァンジェリンさんは白い女を知らないと僕は疑っている……でも、「白髪の女」をエヴァンジェリンさんは知っていた。いったい白髪の女に関する情報を、どこで手に入れたのか。それも「いどのえにっき」を使えば読み取れる。問題は、マスターと呼ぶように言われているため、エヴァンジェリンという名前を呼べない事だ。

 

「エヴァンジェリンさん、白い女について教えてください」

「……おい、ぼーや。私の事はマスターと呼べと言っているだろう」

 

「だって、ここは学校ですよ。エヴァンジェリンさんをマスターと呼んでいるなんて知られたら、クラスの皆が大騒ぎしますよ」

「話しかけるのならばマスターと呼べ、マスターと呼べないのならば学校で話しかけるな……それと、その手に隠し持っている物はなんだ?」

 

「いいえ、何でもありません」

「肩掛けカバンに手を突っ込んで、見抜かれないとでも思ったのか? マスター命令だ、出せ」

 

 断ればマスターではなくなる。それはエヴァンジェリンさんの下で修行を出来なくなるという事だ……それを僕は惜しいと思った。エヴァンジェリンさんから伝授された闇の魔法を制御できるようになれば一気に強くなれる。でも、まだ僕は制御できない。そうして暴走した僕を抑え切れるのはエヴァンジェリンさんだけで、闇の魔法を教えられるのもエヴァンジェリンさんだけだ。あと少し、あと少し……せめて闇の魔法を制御できるように成りたい。悩んだ末に僕は、本型のアーティファクトを差し出した。

 

「他人の心を読むアーティファクトか……ずいぶんと薄汚い手を使う。そんなに私が怖いのか? 一度だけだ。この一度だけ許してやる。一度だけだからな。次は許さん」

 

 そう言ってエヴァンジェリンさんはページを破り取る。ページは火の魔法によって燃え上がり、手の上で灰になった。エヴァンジェリンさんは「いどのえにっき」を僕に返し、茶々丸さんと共に去って行く……その後、僕はズボンの腰部分に挟んで置いた、もう一冊の「いどのえにっき」を取り出した。じつは、「アベアット」ではなく「アベアント」と唱えると、アーティファクトのコピーを複数個よび出せる。おまけに、アーティファクトに手で触れる必要もなかった。

 

『白い女と言うと、ぼーや自身の言っていた奴だ。故郷を滅ぼした犯人だろう?』

 

 それだけだった……その文章に僕は違和感を覚える。なんだろう、分からない。でも、何かオカシイ。文章の短さだろうか……そうだ、エヴァンジェリンさんの知っているべき事が記されていない。エヴァンジェリンさんの弟子になった日、夢の中に白い女は現れた。その時に得ているはずの情報が記されていない。まさかネカネお姉ちゃんのように、エヴァンジェリンさんは白い女の事を忘れている? いいや、忘れているのならば、僕の修行を見てはくれないだろう――たしかに白い女は夢の中に存在していた。でも、エヴァンジェリンさんは、それを白い女と認識していない。

 もう一度、「いどのえにっき」をエヴァンジェリンさんに使いたい。でも、さっき禁止されたばかりだ。禁止されたけれど、エヴァンジェリンさんに気付かれないまま使う方法を考えよう。とりあえず今回は、タカミチも学園長もエヴァンジェリンさんも、『白い女に会った事はない』と分かった。でも、『白い女と知らずに会っている』可能性もある。それを調べるために、また「いどのえにっき」を使わなければ成らない。

 

~「いどのえにっき」を悪用しまくるネギちゃん~

 

 麻帆良祭は2週間後だ。なのに、僕のクラスの出し物は決まっていない。エヴァンジェリンさんの家から学生寮へ帰る途中だったけれど、落ち込んでいた僕は屋台に寄った。僕の担当している生徒の数人が働いている、路面電車を改造した屋台だ。そこで僕は生徒にスタミナスープをサービスされ、元気付けられる。でも、その翌日、また出し物は決まらなかった。また落ち込んだ僕は、生徒の一人によって屋台へ誘われる。

 

「タカミチも学園長もマスターも、白い女と会った事はなかった。皆を疑っていたのは、僕の思い込みだったのかな……?」

「そんな事はないよ、少年。君は間違っていない。間違っているのは彼等だ。彼等は私の正体に気付いていないだけなのだよ。私は確かに存在する。けれども私は様々な姿を持っていてね。だから彼等は私を正しく認識できない。様々な組織を一人で支配しようと思うのならば、姿形を使い分けた方が便利なのだよ。君の前で私は私だが、それ以外の者達の前で私は私ではない」

 

 隣を見て、白い女を目に映す。いつまにか隣の席に、白い女は座っていた。白いスーツを着て、液体の入ったグラスを手に持っている。驚いた僕は席に座ったまま後退り、椅子の端から落ちそうになった。思わず辺りを見回すけれど、他の客に変わった様子はない。修学旅行の時のように客を眠らせるべきかと思ったものの営業妨害だ。それに、また眠った一般人を盾に使われる可能性もあった。

 僕は気持ちを落ち着かせる。新学期の日に会った時も、修学旅行の時に会った時も、夢の中で会った時も、攻撃的な行動を取りすぎた。いまだに白い女の名前すら分かっていない、今の状況を変えるべきだ。僕は震える手でグラスを手に取り、その中にあった液体を口へ注ぐ……あれ? 水の量が増えてる? これ、僕のグラスだっけ? と思ってテーブルの上を見るけれど他にグラスはない。あえて言うと、白い女の手にも液体の入ったグラスはあった。

 

「おお、すまない少年。今気付いたのだが、これは君のグラスではないか。見た目も中身も似ていたので、間違えて取ってしまったよ。どうりで水の量が少ないと思った。私のグラスは、もう飲んでしまったのかね? もしかすると間接キスになってしまったのかな? 飲み込んでしまうと、ある意味ディープキスではないか。これは間違えてしまった私の責任だ。飲んだ物を吐き出す事は出来ないから、お詫びの印としてジュースを御馳走してあげよう」

 

 それを聞いた僕は、口の中に入れた水を吐き出したくなった。おかげで口の中の水を苦く感じる。でも、吐き出すなんて行為は人目のある場所で出来ない。なので我慢して、白い女の水を飲み込んだ……涙が出そうだ。ぜったい偶然じゃない。女は意図してグラスを入れ替えたに違いない。落ち着け、落ち着くんだ……こんなに人目のある場所で女に殴りかかったら問題になる……!

 

「……貴方の本当の名前は何ですか?」

「それは言えないね。以前ならば答えても良かったのだけれど、もはや答えられない。君は絵日記を手に入れてしまった。名前を知られれば私の心は、君の手で裸に剥かれる。そうなると知っているのに、名前を教える事は出来ないよ。アレは本来、君と仮契約を交わした宮崎のどかのアーティファクトなのだがね……オコジョ協会の介入でもあったのかな? 「いどのえにっき」は濫用を考えている従者へ渡らないように、取得制限を掛けられているからね。君の手に入った事は、私にとっても意外な結果だったよ」

 

「どうして僕の持っているアーティファクトの事を知っているんですか?」

「麻帆良学園から報告を受け取ったのだよ。学園長の心を読んだではないか。まさか、気付かれていないと思っていたのかね。そんな訳はあるまい。他人の心を読んだ事は見逃されていたのだよ。問い質すよりも放って置いた方が、君の行動を見通しやすいからね……まさか私一人で君の監視や情報操作、舞台の構築や情報収集を行っているとは思っていないだろうね――私には8千人の部下がいるのだよ」

 

「学園長は無実です。それは確かめました」

「ほぅ、それは本人に聞いたのかね。それとも絵日記を使ったのか……そんな事実は確認していないね。まぁ、たしかに老人は無罪だろう。君に関する報告は強制で、私に情報を渡していると知らないまま報告を行っているのだ。過失もなく、悪意もない――善意ある第三者だよ。しかし、無実ではない。君の情報を間接的に、どこかへ流している事実は変わらない。そんな学園長を君は信じられるのかね?」

 

「学園長は信じますよ。貴方の言葉は信用なりませんから」

「やれやれ、ずいぶんと嫌われた物だ。私の心を絵日記で読めないから、学園長のように信じてくれないのかな。私も心を暴かれれば、君に信じてもらえるのだろうか。何を考えているのか分からないから、君は不安に思っているのだろう。しかし、私の考えている事は単純だ。私はピンチを君に与えて、父親と再会させてやりたいのだよ。しかし、私の中には君にとって辛い真実が内包されている……これらを君に見せるのは、まだ早い」

 

~まだ早い(キリッ~

 

「さて、もうすぐ麻帆良祭だね。その期間中にピンチを仕込んだよ。今回は誰も死なない、石になる事もない。せいぜい服を脱がされる程度だ。だから安心するといい……失敗すれば、世界規模で混乱を生じさせる事になり、君達はオコジョにされるだろうけどね。一人分のピンチを抑える代わりに、範囲を広げたのだ。しかし、このピンチを乗り越えるためにはカシオペアというキーアイテムが必要になる。カシオペアが無ければ舞台に上がる事すら許されない。生徒の一人が隠し持っているから、頑張って探してくれたまえ」

 

「……む? どうしたのだ、少年。急に泣き出して、そんなに嬉しいのか。袖が濡れてしまっているよ。いや、これは……酒臭い。なんという事だ、少年の飲んだ水は酒だったのか。いったい誰が、こんな悪戯を……仕方あるまい。せっかくのピンチを無駄に終わらせるのは忍びない。少年に伝えるべき事は、紙に書いて置こう。このような状態の少年に伝えても、「記憶に御座いません」と言われるに違いない――おお、少年。そんな場所を掴んでも、ロッククライミングは出来ないよ……よしよし、おりこうさんだ」

 

~翌朝のネギちゃん~

 

 目覚めると、電車の中にいた。路面電車を改造した屋台だ。辺りを見回すと、外は薄明るくなっていた。どうやら眠ってしまったらしい。今日は土曜日だけれど、登校して出し物を決めなければ成らない。どうして眠ってしまったのだろう。そう思って昨日の事を思い出した。たしか昨日はエヴァンジェリンさんの家に寄って、学生寮へ帰って……ない。出し物を決められなくて落ち込んだ僕は、生徒に屋台へ誘われて、そこで白い女と会って、話して、眠くなって……ロッククライミング?

 

 

――僕は昨夜の記憶を、闇へ葬ることにした。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。