【完結】ラスボス詐欺【転生】   作:器物転生

6 / 10
【あらすじ】
近衛詠春は飾り物であり、
私こそ真の支配者であると、
ラスボスは申しております。


上位悪魔も私の支配下にあります

 天ヶ崎千草と名乗った白い女の残した、予定表の通りに物事は進む。1日目の夜は僕のミスによって結界の内側に敵を引き入れたため、木乃香さんを一時的に誘拐された。3日目の昼はシネマ村で観光する生徒達を守るために、襲撃の予定を避ける事はできなかった。夜に陥落する予定の関西呪術協会の本山へ行かず、次の日に行こうと思っていたけれど――次に襲撃されれば守り切れない。そう思って本山へ向かった僕達は長い階段を登る途中で再び襲撃され、木乃香さんを誘拐される。

 階段に張られた封鎖結界を破った僕と刹那さんは、慌てて本山へ駆け込む。すると、すでに本山は陥落していた。本山の守っていた結界は消え、木乃香さんの父親である詠春さんは魔法によって石化されている。おそらく、本山の結界は内側から解除されたのだろう。白い女は内部に裏切り者を潜り込ませていたに違いない。白い女の言っていた「サプライズ」は此の事なのだと、立ち並ぶ石像を見て思った。侵入した敵によって石化された、呪術協会の人々だ。それは6年前の繰り返しで、白い女の関わっている事は明らかだった。この神経を逆撫でするような遣り方は、白い女の仕業に違いない。

 木乃香さんの大魔力によって復活した大鬼神は、同じく復活したエヴァンジェリンさんによって粉砕されたらしい……「らしい」と言うのは其の間、白い髪の少年によって僕は石化されていたからだ。敵の隙を誘うために「テルティウム」という名前を呼んだものの、本気を出した白い髪の少年によって全身を無数の針で貫かれ、僕と刹那さんは一瞬で石化させられた。あの名前に反応したという事は、まさか本当に白い女の3番目の息子なのだろうか。

 大鬼神を倒すためにエヴァンジェリンさんは復活した。麻帆良学園から茶々丸さんを連れて転移し、大魔法によって広範囲を氷で閉ざし、白い髪の少年によって体の大部分を消し飛ばされても再生する、吸血鬼の真祖だ……と思ったけれど、学園長によって父さんの掛けた封印もとい呪いを誤魔化しているらしい。ちなみに、一時的に解除できると言う事は、封印と言うよりは呪いに近い物なのだろう。それは兎も角、大鬼神討伐の代償としてエヴァンジェリンさんは、修学旅行の残り2日間を完全復活した状態で維持される事になった。

 やたらテンションの高いエヴァンジェリンさんに捕獲されて、僕は観光に付き添う。ビクビクしながら様子を見ていたけれど結局、エヴァンジェリンさんに襲われる事はなかった。魔法球の使用料として血を捧げているから、僕を襲う必要は無かったのだろう。京都にいる人々の血を吸っていたか如何かは分からない。その事を木乃香さんの父親である詠春さんに伝えたけれど、「その心配はありませんよ」と笑って返された。

 ……タカミチの件と合わせて察するにエヴァンジェリンさんは、高い好感を得ているらしい。エヴァンジェリンさんは信頼されている。例えば修学旅行の4日目に詠春さんは、僕達を父さんの別荘へ案内してくれた。その別荘でエヴァンジェリンさんは、呪いを解除するための資料を探す。そんなエヴァンジェリンさんを、詠春さんは止める事もなかった。呪いを解呪してもエヴァンジェリンさんは、悪い事を行わないと詠春さんは考えている――これでは誰も、僕の言う事を信じてはくれない。

 

~修学旅行編・完~

 

 修学旅行を終え、麻帆良学園へ戻った。その翌日、電車で移動した僕はエヴァンジェリンさんの家を訪れる。魔法球の使用料として、エヴァンジェリンさんに血液を差し出すためだ。今回で11回目になる……エヴァンジェリンさんの呪いは、いつ解けるのだろうか。どのくらい余裕はあるのか――このままでは間に合わない。もっと強くなりたい。このままじゃダメだめだと、僕は思った。

 

「エヴァンジェリンさん、僕に戦い方を教えてください」

「何を言い出すかと思えば……くだらん」

 

 討伐目標であるエヴァンジェリンさんに、僕は教えを乞う。学園長は白い女と通じている疑いによって除外され、タカミチはエヴァンジェリンさんと繋がっているから除外する。それならば明確に敵と分かっているエヴァンジェリンさんを僕は選んだ。最初から敵と分かっていれば裏切られる心配はない……でも、茶々丸さんを誘拐した上に、凍結封印を仕掛けた僕に、協力してくれる訳はなかった。

 

「僕は白い女に命を狙われています。修学旅行中に起こった事件のようなピンチが再び起これば、僕は命を落とすでしょう。それは僕の血を必要としているエヴァンジェリンさんにとっても損失となるはずです。僕は生き抜くための力を必要としています」

「貴様が死んでも血のサンプルは残っている。時間を掛ければ、サウザンド・マスターの掛けた呪いは解けるさ。坊やの命が無くなっても、私は構わないんだよ。在るのなら在ったほうがいい……貴様の価値は、その程度だ」

 

 僕の命は取引の材料にならない。エヴァンジェリンさんは僕の命に興味を持っていなかった。エヴァンジェリンさんの興味のある対象と言えば、僕の父さんだ。詠春さんとエヴァンジェリンさんの会話から僕は、父さんの生死について興味のある事を察している。父さんについて僕の知っている事は少ないけれど、エヴァンジェリンさんの知らない情報は持っていた。

 

「僕のお父さんは生きている、と言ったら如何しますか?」

「そんな訳はあるまい……と言いたい所だが、私を説得するつもりなのだから確証はあるのだろう?」

 

「この杖は6年前に、お父さんから貰った物です」

「ふーん……たしかに其の杖は、あいつの持っていた杖に似ているな。しかし、サウザンド・マスターの杖に似た新しい杖を買った可能性もあるし、サウザンド・マスターの死んだ後に残った杖を貰った可能性もある――お前の言葉を証拠もないまま信じるほど、私は安くないぞ。その杖をサウザンド・マスターの物だと、お前は如何やって証明する?」

 

「僕の記憶を見てください。僕は6年前に、お父さんと会っています」

「そうか。では、さっそく確認のために覗かせてもらおう」

 

「待ってください! 僕の記憶を見て、お父さんが生きていると分かったら……僕に戦い方を教えてくれますか?」

「ああ、もちろん。坊やに戦い方を教えてやるさ」

 

 うそっぽい。こんなに簡単に教えてくれる訳はない。知れるだけ知って、見れるだけ見て、その代償を払う気はないのだろう。エヴァンジェリンさんの興味を留めなければ、エヴァンジェリンさんは約束を守ってくれないに違いない。必要なものは人質だ。人質として最適なものは僕の記憶だろう……しかし、それを要求されている。このままでは人質は居なくなり、僕は無防備になる。

 

「僕の記憶を見れば戦い方を教えてくれるという、保証をください」

「おい、坊や。それが人に物を頼む態度か? 心配しなくても約束は守るさ」

 

 信用できません――なんて言えばエヴァンジェリンさんの機嫌を損ねて、戦い方を教えてくれない。しかし、このまま機嫌を取れば戦い方を教えてくれる、なんて思えなかった……物でダメならば心を人質にするしかない。エヴァンジェリンさんは高い自尊心を持っているように見える。言葉の隙を突く事はあっても、自分の発言を違えるような事は少ないはずだ。ならば、その隙を事前に潰そう。

 

「ごめんなさい。エヴァンジェリンさんの事だから、

 『サウザンド・マスターが生きているのならば貴様は用済みだ!』と言い出したり、

 『戦い方を教える約束? そんな約束を守ると思っていたのか?』と言い出したり、

 『貴様の記憶なんぞ当てになるか。そんな物は証拠にならん』と言い出したり、

 『貴様を助けた者がサウザンド・マスターという証拠はない』と言い出したり、

 『一般人に勝つための戦い方は教えてやるさ。それでも教えた事に変わりはない』と言い出したり、

 ――するんじゃないかと心配していました」

 

「お前は私に喧嘩を売っているのか……!?」

 

 エヴァンジェリンさんは怒気を発する。この様子ならば約束を破られる事はないと思う。もしも約束を破られたとしても、父さんの生存を知られるだけだ。エヴァンジェリンさんは父さんに強い思いを抱いているようだから、上手く行けば『自分の意思で呪いの解呪を思い留まる』かも知れない。そう思った僕はエヴァンジェリンさんに、6年前の記憶を見せる事にした。

 

~好感度が不足しています~

 

 魔法陣の上で記憶を見せる魔法を唱えると、僕とエヴァンジェリンさんは眠る。夢の中へ入ると、僕の記憶を襲撃の前日から再生した。冬の湖へ飛び込んだ僕は、近くにいた人に救助される。偶然、近くにいた人に発見されたのではなく、人の見ている前で飛び込んだのだろう。救助される事を確認してから飛び込んだ……もちろん、これは偽の記憶だ。僕は誰もいない場所で湖へ飛び込み、そして白い女に拾い上げられた。でも、どういう訳なのか分からないけれど僕の認識している記憶と、魔法で再生する記憶は噛み合わない。

 

「ピンチになれば奴が戻って来るなど……」

 

 湖に飛び込んだ僕を見た、エヴァンジェリンさんは呟く。それは偽の記憶で、真の記憶じゃない。でも、そう思っていた事に違いはなかった。それでも偽の記憶を見て、そう言われる事に僕は怒りを覚える。だからと言ってエヴァンジェリンさんの独り言に、何かを言う事はなかった。記憶を改変された証拠を見つけない限り、誰も僕を信じてはくれない。白い女の存在を信じてくれない……その事実は身に染みて分かっていた。

 その翌日の僕は、白い女を待っていなかった。僕を父さんに合わせると約束した白い女、その白い女と会えなかった事に落ち込む事もない。いつものように山の中で遊び、夕方になって帰ると村は燃えていた。燃える村の中を走り回り、悪魔に襲われた所で父さんに助けられる。でも、見慣れた家々ごと悪魔を吹き飛ばした父さんの魔法に僕は恐怖を覚え、その場から逃げ出した。その後、お姉ちゃんと共に僕は父さんに救助され、村から離れた場所へ運ばれる。

 

「ここでお父さんの杖を貰った後、お父さんは姿を消しました」

「不自然だな。浮遊呪文は兎も角、転移呪文なんぞ奴が使えるとは思えんぞ」

 

「……お父さんは偽者だと?」

「いや、あんなバカみたいな威力の魔法を使える者は、世界に2人もいないだろう」

 

 エヴァンジェリンさんは納得したらしい。それでは再生を終わらせよう……そう思ったものの、終わらせる事はできなかった。夢を終わらせる呪文を唱えたけれど、何の変化もない――いいや、変化はあった。記憶の再生は止まらず、気絶しているネカネお姉ちゃんと、父さんの杖を持つ僕の姿を再生している。そこへ白い髪の女が現れた。それは僕の持つ真の記憶と一致する。

 

「ん? あれは新学期の日に、お前と会っていた白髪の女か」

「ええ、そうですけど……」

 

 おかしい。なぜ今さら、記憶の中に現れるのだろう。これまで僕の記憶の中に、白い女は登場しなかった。僕を助けた相手は近くにいた人やネカネお姉ちゃんで、白い女じゃなかった。そのせいで僕は疑いの目を向けられ、白い女の存在を信じて貰えなかった。それなのに何故、今さら白い女は現れたのだろう……嫌な予感を僕は覚えた。記憶の再生を止めようと思っても止まらない。僕の記憶なのに止められない……!

 

「京都旅行は残念だったね。私からも謝罪するよ、少年。まさか私の息子が、君を石化させるとは思わなかったのだ。あれは私の息子なのだから、私の責任に違いない。今回は結局、最後まで君の父親は現れなかったから良いものの……下手をすると、父親と再会するチャンスを潰す所だった――うん? どうしたのだ、少年? まるで記憶と違う事を言われて、驚いているかのようじゃないか。私だよ、天ヶ崎千草だ」

 

 僕は混乱する。なぜ僕の記憶の中に、白い女は居るのだろう……いいや、違う。僕の夢に侵入されたんだ。それは現実で眠っている僕達の側に、白い女の存在する可能性を示す。その事に気付いた僕は焦って、夢を終わらせる呪文を唱えるけれど――やはり夢から覚められない。おそらく、これは白い女の仕業だろう。僕達は夢の中に閉じ込められてしまった。

 

「ちっ、侵入者か。天ヶ崎千草とやら……って、それは先日にチャチャゼロが捕まえた女の名前だぁ!」

「すまないね。それは偽名なのだ。悪い事をしたと思っているよ。私の本当の名前は……いや、止めておこう。今日の私はメッセンジャーだ。ただのメッセンジャーで構わない。それで何のメッセージを届けに来たのかと言うと、パーティーの招待状だ。そこの少年宛てなのだがね。2人仲良く眠っているようだから、勝手に上がらせて貰ったよ。君の家に無断で侵入した事は許して欲しい」

 

「ふざけた奴だ……おい、外にいた私の従者は如何した?」

「あのロボットの事かね? 心配せずともいい。あのロボットに私は何もしていないよ。あのロボットは、私の存在に気付いてすらいない……呼び鈴を鳴らさなかったからね。私はロボットに気付かれないまま、君の家へ入り込んだのだ。だから君の従者を怒らないでやってほしい。私の存在を認識できなければ、私を止める事など不可能なのだよ。まあ、そういう訳で安心したまえ」

 

「話が長い。さっさと用事を済ませろ」

「おお、そうだね。申し訳ない。さて少年、これは悪魔からの招待状だ。何の悪魔かと言うと、6年前に君の村を襲った悪魔の内、数少ない爵位持ちの上位悪魔であるヴィルヘルム・ヨーゼフ・フォン・ヘルマン伯爵からだ。君も知っての通り、彼は封印されていたのだがね。君が修学旅行へ行っている間に、私の手で解放させてもらったよ。これから一ヵ月後、再び君の前に現れるだろう」

 

「貴方は! また、そんな事を……!」

「しかし、君一人で上位悪魔を相手にするのは一方的過ぎる。なので私から一人、パートナーを付けてあげる事にした。パーティーの当日になったら、君の下を訪れるように調整するよ……ああ、そう言えば「桜咲刹那」は君のパートナーだったね。残念ながら今回、彼女はパートナーではなく景品になってもらう。君が悪魔に負けた場合、彼女に永久石化を掛けるように命じてあるからね。負けないように頑張りたまえ」

 

 京都で誘拐された木乃香さんを助けるために、刹那さんと僕は仮契約を結んだ。しかし、その仮契約は解約してある。今の僕と刹那さんは、パートナーではない。刹那さんは木乃香さんの護衛であって、僕のパートナーになる事は出来ないからだ。それに刹那さんは僕の生徒だろう。それなのに白い女は刹那さんを景品にして、悪魔に負けたら石像へ変えると言った……勝手な言い分だ。白い女は僕と関わった者全てを、不幸にするつもりなのだろう。

 

「刹那さんは、僕のパートナーではありません」

「たしかに現在は、パートナーではないようだね。しかし、過去にパートナーだった。君にとって初めてのパートナーだったという記録を消す事は出来ないのだよ。「今はパートナーじゃないから関係ありません」なんて言い訳は通用しない――彼女を突き放しても、もう遅い。関係のない振りをしても、もう遅い。すでに彼女は君と魔法的に関わってしまったのだ。だから彼女は、君の魔法関係者と見なされる」

 

 白い女の言葉は、僕に重く圧しかかる。やはり、仮契約を行うべきではなかった。木乃香さんを助けるために刹那さんと仮契約を行ったけれど、ほとんど役に立っていない。木乃香さんの下へ辿り着く前に、白い女の息子によって仲良く石化されたからだ。役に立つ所か仮契約は、刹那さんを僕のピンチに巻き込んだ。今回だけで済むとは限らない。これからも刹那さんは、僕のピンチとして利用されるかも知れなかった……また僕は選択を間違えたのだろうか。

 

~ヒロインは不在のままです~

 

「気に入らんな」

 

 落ち込んでいる僕の横で、エヴァンジェリンさんは呟く。白い女に対して怒っているようだった。白い女の態度が気に入らなかったのだろうか。その怒りと共に、エヴァンジェリンさんは強大な魔力を放ち始める。ここは夢の中なので、現実でエヴァンジェリンさんの魔力を抑えていた父さんの呪いは存在しない。エヴァンジェリンさんは完全復活した状態と同じように力を行使できる。

 

「おい貴様、私の家に無断で侵入して――このまま無事に帰れると思っているのか?」

「ああ、帰らせてもらうよ。暇そうに見えても、複数の組織を統治している身でね。万年学生の君に構っている暇は無いのだ。遊んで欲しいのだったら、子供同士で遊ぶことをオススメするよ。君と戦えば少年にとって、いい経験になるだろう。もしかすると悪魔と戦う際に、パートナーは必要なくなるのかも知れない。それほど強くなれば、私も安心してピンチを差し向けられる……京都では力の差が大き過ぎて、話に成らなかったからね」

 

「ほぅ、口だけは大きいな……その口を二度と開けないようにしてやる!」

 

 エヴァンジェリンさんは呪文を唱え、黒い竜巻を放つ。高速で回転する竜巻は、周囲の空気も歪ませた。しかし、それは白い女の体に当たると弾けて散る。あいかわらず白い女は、その場から動かない。続けてエヴァンジェリンさんは黒い竜巻を複数作り出し、白い女に向けて撃ち出した。ゴウゴウと低い音を鳴らして風は渦を巻き、冷気を撒き散らす。しかし、それらも白い女に当たると弾けて消えた。

 

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック――契約に従い、我に従え、氷の女王、来れ、とこしえのやみ! えいえんのひょうが!」

 

 エヴァンジェリンさんは大魔法を行使する。巨大な氷の柱によって、白い女の姿は見えなくなった。白い女を中心として、大きな氷の柱は何本も生える。周囲の地面も氷で覆われ、魔法の広範囲を白く染めた。白い女は氷の中から出て来ない。さらにエヴァンジェリンさんは詠唱を続け、「おわるせかい」という呪文と共に氷は砕けた――その中心に白い女は、何事も無かったかのように立っている。でも、全ては防げなかったらしく、白い服は砕けて全裸になっていた。

 

「読めたぞ――貴様、そこから『動かない』のではなく、『動けない』のだな」

「やれやれ、困ったものだね。君は仕方のない奴だ。私の息子を倒したり、大鬼神を倒したり、余計な事ばかりしてくれる。ピンチになれば駆け付ける……まるで少年の父親のようではないか。君が居てはピンチにならず、少年の父親も来てはくれない。我ながら面倒な生命体を作り出してしまったものだ。まさか数百年の時を越えて、私の前に立ち塞がるとはね」

 

「ふん、貴様の都合など知ったことか」

「まるで人の話を聞いていない……幸いな事に、外で君の力は抑制される。これ以上の秘密を暴かれる前に、私は退散させて貰うよ。このままでは少年の出番が無くなってしまうからね。今でさえ少年は、置いてきぼりにされているではないか。年寄りは大人しく眠りに着いて欲しいものだ。もはや二度と、君の前に姿を現すことは無いだろう――それでは少年、また会おう」

 

 パリンッと軽い音を立てて、視界は割れた。割れ目の入った風景は、真っ白な背景を残して崩れ落ちる。僕の記憶で形作られた夢は終わり、現実へ引き戻された。目覚めると僕は辺りを見回し、立ち上がると玄関へ走る。そこに白い女の姿はなかった。茶々丸さんに聞いても、誰も居なかったと言う。しかし、記憶を見せるための魔法陣に触れないまま、「僕の記憶を見せる夢」へ侵入する事は難しい――もしや白い女は、夢へ侵入する能力を持っているのか。夢魔に属する悪魔ならば、そういう能力の保持者でも不思議ではないけれど……それは考えすぎか。

 

「おい、ぼーや。約束通り、戦い方を教えてやる」

 

 黒い笑みを浮かべたエヴァンジェリンさんは僕に言う。口は吊り上がっているけれど、目は笑っていなかった。身の危険を感じて、僕は思わず身を引く。誰が悪いのかと言えば、エヴァンジェリンさんを煽るだけ煽って逃げた白い女だろう……しかし、貴重なヒントを得られた。どういう原理なのかは分からないけれど、その場から移動しない事で、白い女は攻撃を無効化するらしい。新学期の夜に会った時だって、一歩も動かなかった。つまり、白い女を強制的に移動させれば、攻撃は通じるのかも知れない。

 

「上位悪魔だか何だか知らんが、ピンチなど潰してくれるわ! 闇の福音をコケにした報いを受けさせてやるぞ! フハハハハハハ!」

 

 ハッスルしているエヴァンジェリンさんを見て、僕は思った。もしやエヴァンジェリンさんは、白い女を知らなかったのではないか。麻帆良学園から逃げ出す途中の駅で会った時、エヴァンジェリンさんは「白髪の女」と言っていた。あの発言から白い女を知っていると思い込んでいたけれど……エヴァンジェリンさんの反応を見る限り、とても白い女を知っているとは思えない。エヴァンジェリンさんも、僕を騙していたのだろうか?

 

「戦い方を教える以上、私はお前の師匠だ。これからはマスターと呼べ」

「はい、マスター! 強くなって悪魔を打っ飛ばしましょう!」

 

 

まあ、敵同士なんだから、そういう事もあるよね。




▼勝負の結果と代償の修正による変更です。
 服従の契約に従って、僕は茶々丸さんの観光に付き添う。ビクビクしながら様子を見ていたけれど結局、エヴァンジェリンさんに襲われる事はなかった。2人に危害を加えた代償として血を捧げているから、僕を襲う必要は無かったのだろう。

 やたらテンションの高いエヴァンジェリンさんに捕獲されて、僕は観光に付き添う。ビクビクしながら様子を見ていたけれど結局、エヴァンジェリンさんに襲われる事はなかった。魔法球の使用料として血を捧げているから、僕を襲う必要は無かったのだろう。
----------------------------
▼勝負の結果と代償の修正による変更です。
 危害を与えた代償として、エヴァンジェリンさんに血液を差し出すためだ。

 魔法球の使用料として、エヴァンジェリンさんに血液を差し出すためだ。
----------------------------
▼完結から7ヶ月後に感想で『ザイン』さんから指摘を受けて、タイトルの誤字を修正しました。
 上位悪魔も私の支配化にあります→上位悪魔も私の支配下にあります

 (´・ω・`) ショボーン

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。