【完結】ラスボス詐欺【転生】   作:器物転生

5 / 10
【あらすじ】
ネギは茶々丸を誘拐し、
吸血鬼の真祖を封じるために、
真祖ごと自身を氷漬けにしました。


関西呪術協会も私の支配下にあります

 目覚めると僕は、エヴァンジェリンさんの所有する魔法球にいた。茶々丸さんによると、魔力の消耗で一時的に低下した体力を回復させるためらしい。この魔法球は内部に異界を形成できる魔法具だ。異界に満ちる魔力の濃度によって、内部の時間を加速できる。僕の入っている魔法球の場合は24倍らしい。そんな豪邸を建てられるほど高級な魔法具を、エヴァンジェリンさんは個人で所有しているのか。

 そして魔法球の内部で1日経ち、外部で1時間過ぎた。最初はベッドの上から動けなかったけれど、一日も経てば走り回れるようになる。異界に満ちる高濃度の魔力によって、消耗した魔力の回復は早かった。そうなると僕は、茶々丸さんによって外へ案内される。金曜の夜に凍結封印を行ってから2日ほど経ち、日曜の夜になっていた。もしも魔法球を使わなかったら、明日の出勤に間に合わなかっただろう。その気遣いは感謝するべき事だ。

 しかし、エヴァンジェリンさんと対面した僕は、魔法球の使用料の支払いを求められる。無料じゃないらしい。僕の意思を確かめないまま放り込んで置いて、代償を求めるなんて勝手な行為だ。そう思ったけれど僕は、魔力封印を施され、杖も取り上げられている。エヴァンジェリンさんの命令を受けた茶々丸さんによって、僕の体は床へ押し付けられ、抗う術はなかった。僕は魔法球の使用料として、エヴァンジェリンさんに血を提供する「血の契約」を押し付けられる。そうして僕は、エヴァンジェリンさんの家から解放された。

 でも、まだ終わっていない。エヴァンジェリンさんは僕の血を吸ったけれど、父さんの掛けた封印は解けていなかった。エヴァンジェリンさんは力を取り戻していない。僕の血を用いて解呪する方法と言えば、僕の血を父さんと錯覚させるか、僕の血を解析してエヴァンジェリンさんの魔力を父さんの魔力に偽装するか……封印を解かれるまで何のくらい余裕はあるのだろう。一年か、一ヶ月か、一週間か。それまでにエヴァンジェリンさんを止めなければ麻帆良学園は滅ぶ。もっと強くならなければ……早く強くならなければ……僕に時間はない。

 ふと、エヴァンジェリンさんの住み処であるログハウスへ振り向く。あの氷結封印を、どうやってエヴァンジェリンさんは破ったのか。茶々丸さんは水の底で凍らせて、エヴァンジェリンさんも僕と共に凍った。外から誰かが氷結封印を解除しなければ……そうか。エヴァンジェリンさんの言っていた僕の知らない魔法教師だ。もしかするとタカミチも加担しているのかも知れない。

 

~3段落で纏めました~

 

 エヴァンジェリンさんと色々あった一週間後、僕は高速鉄道に乗っていた。修学旅行で京都へ向かうためだ。エヴァンジェリンさんと茶々丸さんは欠席となっている。なので魔法球の使用料として行う血の提供も、修学旅行の期間中は支払いを免除されていた。血の契約によってエヴァンジェリンさんに血を吸われる事はない。しかし、その代わりの厄介事として僕のポケットに入っている物は、関西呪術協会宛ての親書だった。

 関東魔法協会の使者として僕は、関西呪術協会へ親書を届けに行く。しかし、呪術協会の中で魔法協会を嫌っている人々は、この親書を奪い取ろうと考えているらしい。それならば修学旅行のおまけではなく、休日の間に届けようと僕は思った。そうすれば安全に修学旅行へ行ける……しかし、学園長によると呪術協会の許可は下りなかったそうだ。京都へ使者として入域を許された魔法協会所属の魔法使いは僕一人で、それは修学旅行の間と決まっている――つまり、修学旅行として京都へ行く生徒達は、僕に対する人質だ。京都で下手な事をすれば、生徒に危害を加えられたり、修学旅行を中止に追い込まれたりするかも知れない。

 

「兄貴、魔法警報機の調子は如何ですかい?」

「……うん、こっちは問題ないよ。一番の問題は皆が、ちゃんと持っててくれるのかって事だね」

 

 カモ君の提案で用意した魔法警報機。それは子機で魔法を感知すると、親機に通知される魔法具だ。子機は魔力を持たない人に持たせて、魔法に掛けられた事を知るために使う。親機は子機の状態を知る機能を備えていた。出発前に駅で生徒達に渡した子機の見た目は「カラフルな防犯アラーム」で、魔法を感知するとピーと鳴る。すると僕の持っている「卵型の受信装置」で、受信した子機の番号を読み上げる。魔力のない人のために、科学的に偽装された魔法具だ。精霊によって通知されるため、電池切れも距離制限もない。でも、1つや2つなら兎も角、28人分を用意するのは金銭的に大変だった。

 

「そういえばカモ君、魔法警報機の提案をしてから、パートナーの事を言わなくなったね」

「ギクッ……へへへ、オレっちには何の事だか……」

 

 それでも有効な策である事に違いはない。この方法ならば、自由行動でバラバラに動く生徒達の状態も確認できる……でもね、カモ君。そうして魔力を使う生徒、魔法生徒の存在を感知できたとしても、僕は仮契約を行わないよ。僕は教師という大人の立場だから、生徒と仮契約を行っては成らないんだ。魔法を使えるからと言って、その生徒を争いに巻き込んではならない。僕は巻き込みたくなかった……エヴァンジェリンさんと戦った事で僕は魔法使いの戦い、その恐ろしさを知ったから。

 

~そろそろ出番です~

 

 生徒達の様子を見ていた僕は、白いワゴンを押す女を目に映す……一度見た後、もう一度その女を見た。見間違いではない。あの女だ。「そんなバカな!」と思った僕は、通路を歩く白い女を見たまま思考を止める。まさか、こんな所に姿を現すのか。こんな所で姿を現すのか。僕は杖を握り締める……いいや、ダメだ。こんな場所で魔法は使えない。生徒達の前で魔法は使えなかった。

 生徒の一人は金銭を払って、白い女からジュースを購入する。あの女から買った物を飲むのだろうか? それは危険だ。危険なんて物じゃない。毒入りでも不思議じゃなかった。生徒の口から血が溢れ出すというオゾマシイ光景を、僕は思い浮かべる。白い女に限って、何事も起こらないという発想はなかった。それを防ぐために僕は慌てて、生徒へ向かって声を上げる。

 

「待って! 待ってください!」

「このような場所で、そんな大声を出さずとも聞こえているよ……それで何のようかね、少年。欲しい物はチョコか、アメか、ガムか、グミか、それともジュースかね? チョコは腹を満たしてくれるし、アメは長持ちする。ガムは口をサッパリとさせてくれるし、このグミはゼラチン入りだ。ついでにビタミンB1・B2・Cも入っているから肌に良い」

 

――お前じゃない。

 

 そう思う僕の前に、白い女は立ち塞がる。白い女から買ったジュースを持ち、生徒は驚いた様子で僕を見ていた。他の生徒達も大声を出した僕に驚き、「どうしたのー、ネギ君?」と声を掛ける……まずは白い女と生徒達を、何かで遮断するべきだ。最初から人は居るので、人払いの魔法を使っても無意味だろう。認識阻害の魔法も、注目された後でかけても無意味だった。

 

「その人から買ったジュースを飲んではいけません!」

「酷い事を言うね。まさか飲み物に薬を入れていると? そんな事はしていないよ。そんな事をしても君のピンチに繋がらない。せいぜい腹を壊すか、血を吐くか、入院するか、即死するかだ。生徒一人が死ぬ程度で、大したピンチではない。君に必要なピンチは、もっと大きな物だよ……ああ、吸血鬼の時は残念だったね。やはり、『封印が解けたら』なんて条件付きではダメか――実際に封印を解かなければ、ね。君の父親の薄情っぷりには私も困っているよ」

 

 白い女の言葉を聞いた生徒は「これ、あげるー」と言って、隣の生徒にジュース缶を押し付ける。しかし、白い女の話を聞いていた隣の生徒は「やーめーろーよぅー」と言って、それを突き返した。とりあえず、ジュースの問題は何とかなったようだ……でも問題は、それだけじゃない。この状況を何とかする魔法はある。それは『眠りの霧』だ。生徒達を眠らせれば、僕は魔法を使える。だから僕は生徒達に聞こえないように、小声で呪文を唱えた。

 

「大気よ 、水よ、白霧となれ、彼の者等に一時の安息を――眠りの霧」

 

 それと同時に白いワゴンからペットボトルを取り、中の水を撒き散らす。「ちょっとバカネギ、何してんの!?」という声は聞こえたけれど、そんな事を気にしている場合ではなかった。発動した魔法は床に撒いた水を媒介として、その体積を増大させる。おまけに高速鉄道なので、車両の中は窓の開かない密閉空間だ。眠りの霧は車両の中に満ちて、生徒達を眠らせた……しまった、毒入りだったら如何しよう。

 

「ピー! ピー!」   「ピー! ピー!」   「ピー! ピー!」

「神楽坂明日菜ハまじっく☆ぱわー!」「神楽坂明日菜ハまじっく☆ぱわー!」」

「近衛木乃香ハまじっく☆ぱわー!」「近衛木乃香ハまじっく☆ぱわー!」

「桜咲刹那ハまじっく☆ぱわー!」「桜咲刹那ハまじっく☆ぱわー!」

「宮崎のどかハまじっく☆ぱわー!」「宮崎のどかハまじっく☆ぱわー!」

 

 あっちこっちでピーピーというアラームの音が鳴り始める。生徒達に配った魔法警報機だ。僕のポケットに入っている受信機も音声報告を行っていた。座席に座って眠る生徒や、ピーピーと鳴り響くアラーム。魔法の秘匿を考えた結果、意味不明な文脈で読み上げる事になった精霊さん……その結果、その場は混沌で満ち溢れた。やはり、初期設定の音声案内は変えるべきだったと僕は反省する。

 

「こんなにピーピーと大きな音を鳴らしては、隣接する車両から人が来てしまうではないか……仕方あるまい、人払いの魔法は私に任せたまえ。これも協力者としての務めだ。しかし、少年よ……魔法秘匿の意識が低いのではないか? こんな場所で魔法を使うなど正気とは思えん。一般人の前で魔法は使うべきではない。いくら記憶を消す魔法があると言っても、ちょっとした切っ掛けから人は魔法に気付いてしまうのだよ」

 

「それを貴方が言いますか! こんな場所に現れて、何をするつもりなんですか!?」

「ああ、わざわざ君の前に現れたのは他でもない。そろそろ私の存在を、君だけに見える幻覚なのではないか……と疑い始めた頃だと思ってね。こうして人前へ姿を現したわけだよ。観測者が君一人では、他人に私の存在を証明する事は難しいだろう? このように姿を現せば、私の存在を皆が認めてくれる――6年前のように君一人で私を観測したために、皆から夢や幻だったと言われる事もない」

 

 そうだ。僕に杖を渡した父さんの消えた時、ネカネお姉ちゃんは気絶していた。その後、白い女と会ったのは僕だけだ。だから白い女の事を皆に話すと、初めは信じてくれた。でも、「白い女と会って、村を襲撃すると予告された事」や「襲撃後に現れて、悪魔を召喚したと告白された事」を話すと、疑いの目を僕へ向けるようになる。だから魔法で僕の記憶を覗いて貰ったけれど、白い女の存在を証明する事はできなかった。僕は覚えているのに、僕の記憶の中に限って、なぜか白い女は存在しなかったからだ。

 

「違う! 信じてくれなかった訳じゃない! あの事件を公表すると、僕の存在を知られてしまうからって!」

「秘密裏に捜査すると? では、こうして私が此処に居るのは何故だろうね? 本当に彼等は私を探していたのだろうか? 探していなかったのかも知れない。彼等は君を信じていなかった。だから私は捕まらなかった……それも当然の事だろう。君の記憶の中に私は居なかったからだ。見つからなかったからだ。君の記憶の中で、君は湖へ飛び込んだけれど、助けたのは私ではない。父親の去った後、再び湖へ飛び込んだ君を助けたのは、ネカネ・スプリングフィールドだった」

 

 その通りだった。僕の記憶の中で、湖へ飛び込んだ僕を助けたのは「近くにいた人」で、再び湖へ飛び込んだ僕を助けたのは「ネカネお姉ちゃん」だった。僕の記憶の中に、白い女は存在しなかった……でも、そんなはずは無い。ちゃんと僕は憶えている。湖へ飛び込んだ僕を二度も助けたのは白い女だった。そう皆に言ったけれど信じてくれなかった。それに、どういう訳かネカネお姉ちゃんは、僕を助けた記憶を持っていた。僕を助けたと思い込んでいた……ちょっと待った。どうして其の事を、白い女は知っているのだろう? 僕の記憶に関する事を知っているの?

 

「君は彼等を信用していないね。私と再会しても、君は彼等へ通報しなかった。ネカネ・スプリングフィールドから手紙が来ても、私の事を報告しなかった。きっと彼等は君の言う事を信じてくれないからだ……その判断は正しい。なぜ彼等は、君の言う事を信じなかったと思う? それは私が手を回していたからだよ。私の指示で彼等はネカネ・スプリングフィールドの記憶を書き変え、君の記憶も差し替えた。君の記憶を覗いた彼等は、じつは偽の記憶を貼り付けていたのだよ」

 

「そんな事は、ありえません」

「忘れたのかね、少年。立派な魔法使いになるための「日本で教師をやること」という課題を与え、吸血鬼の封印された麻帆良学園へ誘き寄せたのは私だ。当然、ウェールズの魔法学校から派遣された調査員も私の支配下にある。もちろん、そんな事は誰も言わないだろう……いいや、言えないのだ。魔法使いを育てる魔法学校が個人の支配下にあるなど、言えるはずが無い。そんな事が明らかになれば、魔法学校は非難を受け、人々の心は離れて行くからね」

 

 麻帆良学園だけではなく……ウェールズの魔法学校も? しかし、課題は精霊による高度な占いの魔法によって示される物だ。エヴァンジェリンさんを倒す事こそ、立派な魔法使いになるための試練なのかも知れない……いいや、違う。課題は「日本で教師をやること」だ。もしかして僕はエヴァンジェリンさんと殺し合うのではなく、教師として接しなければ成らなかったのだろうか……そんな無茶な。

 それは兎も角、学園長はエヴァンジェリンさんの存在を知った上で、あのクラスに僕を担当させた。まさか、「サウザンド・マスター」の封印した「元600万ドルの賞金首」な「吸血鬼の真祖」の存在を知らないとは思えない。つまり、学園長は白い女と通じているのだろう。それ以外に何の警告もなく、僕の血を狙う吸血鬼と同じクラスにした理由を察せられない。タカミチは白い女と通じていないと思うけれど、エヴァンジェリンさんの味方だ……でも、魔法学校は分からない。

 もしも精霊ではなく、人によって課題を書き変えられていたのならば……いいや、証拠は無いのだから疑うべきじゃない。そうだ、証拠はない……証拠なんて無かった……どうして白い女の存在を信じてくれなかった人達を、僕は無条件で信じなければ成らないのだろう? ネカネお姉ちゃんも、校長のお爺ちゃんも、白い女の存在を信じていなかった。信じている振りをして、僕を偽っていた――僕は魔法学校で、いつも一人だった。

 

~せっちゃんなら足止めされています~

 

「さて、そろそろ私は帰るとしよう。楽しい修学旅行なのに邪魔をして、悪い事をしたと思っているよ。せめて出発前に声を掛けるべきだったと反省している……しかし、このまま何もせず、この場を去るというのは君にとって失礼な話か。このワゴンに載っている物を無料で渡しても良いのだが……じつを言うと、これは先ほど販売員の方から借りた品で、私は代行しているだけなのだ――その代わりとして、これを君に差し上げよう」

 

 白い女は白い紙を取り出す。特に変わった所もない、普通の紙だ。強いて言うなら、枠線も横線もない無地のコピー用紙のようだった。その紙を僕に差し出す。言われたままに受け取る……なんて事はせず、僕は白い女に杖を向けた。そして呪文を唱えて、風の矢を放つ。すると白い女は、眠っている生徒の一人を掴み上げ、僕に向かって盾のように掲げた。「生徒に当たる」と思った僕は、思わず魔法をキャンセルする――僕の生徒を盾にするなんて卑怯な……!

 

「関西呪術協会によって君達の襲撃される予定を、ここに記してある。修学旅行の「しおり」のような物だ。敵が来ないと分かっていれば、その間に観光できるだろう? 私としても修学旅行を楽しんで欲しいと思っているのだがね……君の父親を呼び寄せる絶好のピンチが京都にあるのだよ。それは20年ほど前に復活し、君の父親によって再封印された大鬼神、リョウメンスクナノカミだ」

 

「まさか、また貴方が……!」

「学園長から話を聞いた時点で、勘付いていたのだろう? オカシイと思わなかったのかね? 君に使者を任せるのは、『埼玉に滞在している外国人を、使者として京都へ訪問させる』ような物だよ。もっと悪く言うと、『日本に滞在しているイギリス人を、使者として中国やロシアへ訪問させる』ようなものだ。魔法協会と呪術協会の仲の悪さから言って……どちらの例えを適した物と見るべきか、君ならば分かるだろう」

 

「つまり、僕の使者としての役目に意味はない……?」

「だからと言って、親書を郵送してはいけないよ。使者として君が選ばれ、親書を持って行く事は周知されている。それを郵送したとなれば、雑に扱われた呪術協会は黙っていないだろうね。魔法協会と呪術協会の関係は、『さらに』悪化する――しかし君の手で送り届ければ、『少し』悪化する程度で済むだろう」

 

「どっちにしてもダメじゃないですか!?」

「仕方ないではないか。君のために、この舞台を用意したのだ。君以外の魔法使いを、この舞台で踊らせても意味はない。踊って、踊って――その踊りで君の父親を誘い出すのだ。その踊りが激しく美しく鮮やかで危険なほど、君の父親は吸い寄せられる……まあ、安心したまえ。君のファミリーネームを上手く使うことだ」

 

「僕の正体を明して、使者としての価値を高める――?」 

「とは言っても、英雄の息子であるという事実は、すでに知れ渡っているのだがね。君の父親に恨みを抱く人々も、これ幸いと刺客を差し向けるだろう。その刃から頑張って生徒達を守ることだ。君の犠牲になる生徒達は――ある意味、6年前の繰り返しだよ。今回は何人生き残れるのかな? 最後はサプライズも用意してあるから頑張ってくれたまえ」

 

「そんな事を頑張れだなんて……!」

「……そうか、頑張っている君に『頑張れ』は心無い一言か。たしかに少年、君に『頑張れ』という言葉は似合わない。私は知っているよ。どれほど力を尽くして来たのか。魔法学校から受け取った報告書で知っている……君の様子を見に行った事もあった。勉強に集中するため、友達を作らなかった事を知っている。禁呪書庫へ忍び込んで、教師に怒られた事も知っている――もしも友達と共に居れば、逃げ切れたのかも知れないのにね。そうして子供時代を切り捨てた代償として、その力を君は手に入れた。ああ、素晴らしい。だから、君の努力を認めよう」

 

――頑張っているね、と。

 

( どうしてだ……どうして、お前なんかに褒められなくちゃならない。僕は父さんに褒めて貰いたかったのに……どうして、その言葉を言うのが、お前なんだ……! そんな言葉、は聞きたくなかった! お前なんかに褒めて欲しくなかった! そんな言葉を使うな! その言葉を言っていいのは、僕の父さんだけだ……! 僕を褒めて良いのは父さんだけだ! その言葉を言って欲しかった相手は、お前なんかじゃない……! )

 

「これから君を襲う呪術協会の強硬派は、少年のために私によって用意されたピンチだ。近衛木乃香の父親である近衛詠春は飾り物であり、本当の意味で権力を握っていない。強固な結界で覆われた山の上に座しているつもりなのだろうが、実際は近衛詠春を捕える檻だ……どういう意味かと言うと、真の意味で関西呪術協会を支配している者は――私なのだよ」

 

「貴方に支配されている勢力は、その強硬派だけでしょう! 関西呪術協会を支配している訳ではありません! 群れから離れた羊を取り込んだくらいで、思い上がらないでください!」

「そんなに怒らないでくれないか。事実は君の目で確かめるといい……さて、そろそろ失礼するよ。その予定表は私だと思って、大切にしてくれて構わない。京都に着いたら呪術協会の刺客によって君達は襲撃されるが、観光を楽しみつつ「頑張って」くれ……そうそう、私の3番目の息子が刺客として参加している。白い髪の少年だ。もしも会ったら「テルティウム」と呼んでやってくれ。そして友達になってあげて欲しい……彼は怒るだろうけれどね。私は悪い母親だったよ」

 

 そう言うと白い女は、地面に何かを叩き付ける。すると、その何かは白い煙を発生させて、車両の中を満たした。おそらく白い女は、このまま去るつもりなのだろう。魔法を使って煙を晴らせば、そこに白い女は居ないに違いない。息子や母親という発言に突っ込みたかったけれど、今は抑える。何よりも知るべき事は白い女の名前だ。僕は何所に居るのか分からない白い女に向かって、質問を行った。

 

「待ってください……貴方の名前は何ですか!」

「私の名前かね?」

 

 

――天ヶ崎千草だよ




▼魔法球の説明を追加しました。
 茶々丸さんによると、魔力で消耗した体力を回復させるためらしい。

 茶々丸さんによると、魔力の消耗で一時的に低下した体力を回復させるためらしい。この魔法球は内部に異界を形成できる魔法具だ。異界に満ちる魔力の濃度によって、内部の時間を加速できる。僕の入っている魔法球の場合は24倍らしい。そんな豪邸を建てられるほど高級な魔法具を、エヴァンジェリンさんは個人で所有しているのか。
------------------------
▼魔法球の魔力濃度に関する説明を追加しました。
 そして魔法球の内部で1日経ち、外部で1時間過ぎた頃に、茶々丸さんによって外へ案内された。

 そして魔法球の内部で1日経ち、外部で1時間過ぎた。最初はベッドの上から動けなかったけれど、一日も経てば走り回れるようになる。異界に満ちる高濃度の魔力によって、消耗した魔力の回復は早かった。そうなると僕は、茶々丸さんによって外へ案内される。
----------------------
▼勝負の結果と代償を修正しました。
 しかし、エヴァンジェリンさんと対面し、僕は敗者である事を示される。僕は2日過ぎてから氷結封印を解呪された事に疑問を覚えた。氷結封印を解いた第三者は存在するのではないか? (中略)僕は2人に危害を加えた代償として「血と服従の契約」を押し付けられる。そうして僕は、エヴァンジェリンさんの家から解放された。その有り様は、まさに敗者だ。

 しかし、エヴァンジェリンさんと対面した僕は、魔法球の使用料の支払いを求められる。無料じゃないらしい。僕の意思を確かめないまま放り込んで置いて、代償を求めるなんて勝手な行為だ。(中略)僕は魔法球の使用料として、エヴァンジェリンさんに血を提供する「血の契約」を押し付けられる。そうして僕は、エヴァンジェリンさんの家から解放された。
----------------------------
▼勝負の結果と代償の修正による変更です。
 なので2人に危害を加えた代償も、修学旅行の期間中は支払いを免除されていた。血の契約によってエヴァンジェリンさんに血を吸われる事もなければ、服従の契約によって茶々丸さんに荷物運びとして連れ回される事もない。

 なので魔法球の使用料として行う血の提供も、修学旅行の期間中は支払いを免除されていた。血の契約によってエヴァンジェリンさんに血を吸われる事はない。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。