ゲイムギョウ界に来てしまった!?〔改稿中〕   作:ULTRA-7

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連続投稿です!これでやっとルウィー編終了!そして次回からはオリジナル回へと入ります!


第十一話 二人の救出

「ブランとはある計画を進めていましたの」

 

 

 俺達に話しかけながら、ベールさんは巧みにパソコンを扱いながらキーボードを叩く。

 目の前に映し出されているのは何かのデータベースの様なもの、これはベールさんが言う何かの計画と関係あるのか?

 

 

「計画ですか?」

 

「ええ、ルウィーでは人工衛星を使ったサービスが行われていましたの。真司くん以外はご存知ですわよね?」

 

「確か…お寺ビューだったっけ?」

 

「十年前に終わったやつよね?」

 

「ええ、実はあの人工衛星はまだ稼働していて地上写真のデータを送る事が出来るのですわ。ただし低解像度の、それを解析して高解像度にするソフトウェアをリーンボックスの研究所が開発しましたの」

 

 

 流石にここまでのレベルの話はついて行けない…でも内容からしてすごく重要な事なんだろうな。

 …この話にネプテューヌがついて行けている事が納得できん。

 

 と言う事は、今現在その人工衛星を使ってロムちゃんとラムちゃんの居場所を特定していると言う事なのか? 何だかスーパー1のレーダーハンドやフォーゼのレーダースイッチを連想してしちゃうな、今そんな事を考えるのは不謹慎だとわかっているんだけど…

 

 

「お~! さすがベールの国! 進んでるね~!」

 

「そこでブランに持ちかけたのですが、ルウィーが写真のデータを提供してくれれば我が国はこのソフトを提供すると」

 

「あれ? それって…世界中の情報ははブランさんの国とベールさんの国が独占出来るって事じゃ…」

 

 

 流石にこれは俺でもわかる、人工衛星はルウィーが、そしてソフトウェアはリーンボックスが管理しているものだ。

 必然的に、この世界の情報は他の国も含めて二人の国だけが独占出来てしまうと言う事になっちゃうんじゃないか?

 

 

「え~! 私達見られすぎて困るじゃん!」

 

「いいえ、私達はそのデータをみんなで共有しようと思っていたのですわ」

 

「「え?」」

 

 

 ベールさんの言葉に俺達の目は点になった。

 本音を言ったら両国で独占するものかと思っていた、人工衛星はルウィーが、ソフトウェアはリーンボックスが開発したもの、独占して使ってもおかしくないものだ。

 だけどそれをベールさんはみんなで共有しようと言ってきたのだ、自分達だけではなくみんなでと。

 

 

「ブランが言い出したんですのよ? 友好条約を結んだんだから、四つの国で等しく利用するべきだと」

 

「ブランさん…」

 

「だから公開する機会を窺っていたのですわ。サプライズプレゼントみたいで洒落ているでしょ?」

 

 

 それを知った俺は胸が熱くなるのを感じた、ネプテューヌ達の事をちゃんと考えてくれていた、自分だけじゃなく他国の事もちゃんと思ってくれていた事が嬉しく思えた。 やっぱりブランさんは優しい人だ、そしてもちろんベールさんも。

 

 その時パソコンから音が鳴り響く、どうやら解析が終わった合図の様だ。

 

 

「解析が終了しましたわ、これで誘拐犯の居場所が…?ここは…」

 

 

 俺達はパソコンを覗く、誘拐犯がいる場所がこれで特定出来る! そう思いパソコンを覗き込こむ。

 でもそこは、思いもよらないところだった。

 

 

 

*     *     *

 

 

 

「う…ん…」

 

 

 暗い場所、ここはどこかの倉庫なのだろうか? 機材や工事用の機器が多数置かれている場所、その中で誘拐された女の子の一人目、ロムがを覚ます。

 ロムはぼんやりとしながら、次第に鮮明になっていく景色に目を凝らす。そんな彼女が最初に見たもの、それは異形だった。

 

 

「うへへへへ…」

 

「ひっ!? いやあ…!?」

 

「ん…ロムちゃん? は!?」

 

「くくく…寝起きの幼女キタぁあああああああああああああ!!」

 

 

 

 ロムは途端に叫びだしてしまう、その声に反応して誘拐されたもう一人の女の子であるラムも目を覚ました。

 目の前にいたのは二人を誘拐したトリック・ザ・ハードだ、そのトリックは目の前のロムとラムを目にして叫び出した。

 何が彼をここまでこうさせているのか? それは彼の性癖にある、彼は所謂ロリコンと呼ばれる者、要はここにいるロムやラムの様な小さな女の子が好きで好きでたまらないのだ。

 それ故に彼は興奮し雄叫びを上げるほどテンションが上がっている、すると自身の長い舌をロムに目がけて飛ばし絡め、そしてあろうことかそのまま舐め回し始めた。

 

 

「いやぁあああああ!?」

 

「ちょっと! ロムちゃんに何してるのよ!! 止めなさい!!」

 

「…? うへへ!」

 

「い、いやぁあああ!? やめてぇええええ!?」

 

 

 勇敢にもラムがトリックに向けて叫んだ、だがトリックはそんな叫びもなんのその、笑い顔を浮かべたと思ったらラムも巻き添えにして舐め回し始めた。

 二人の表情は険悪そのもの、とてもじゃないが気持ちいいとは言えないものだった。

 

 

「トリック様~、身代金の要求してきました…って何してるんですか!」

 

「見て分からないか? ペロペロしてるんだ! 俺の唾液には艶効果があるからな!」

 

「…そ、そっすか」

 

 

 部屋のドアが開き、そこから誰かが入って来る、ネズミの様なパーカーを身に纏

い緑色の髪をした女の子、彼女は下っ端…もといリンダと言う名前だ。

 彼女は目の前にいるトリックを見てドン引きしていた、そんな彼女を見たトリックは息を弾ませながら自慢げに語りだしたが呆れた表情になるリンダ。

 その間もトリックは、二人を舐め続ける事を止めはしなかった。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 ここはテーマパークのスーパーニテールランド、ルウィーに出来た新たなテーマパークだ。

 あのデータ解析の後俺達は本当に驚いた、ロムちゃんとラムちゃんが誘拐されてその後どこに消えてしまったのか見当がつかなかった、だけど二人はあのテーマパークの建設中のアトラクションの中にいた。

 まさに灯台下暗し、思わぬ盲点だった。

 

 

「よ~し! 今すぐ殴り込みだ!!」

 

「お待ちになって」

 

「ねぷ?」

 

 

 意気込んで腕を捲り乗り込もうとするネプテューヌ、だけどその時ベールさんがネプテューヌを止めた、そしてベールさんは真剣な表情で俺達の前に立った。

 不謹慎かもしれないけど俺はベールさんに魅入ってしまった、今の彼女の目は何かを決意したそんな目をしていたから。

 

 

「今は人質の救出が最優先ですわ、ここは…まず私が身代わりとなります」

 

「っ! べ、ベールさん!? それは…」

 

 

 ベールさんの言葉に思わず目を見開いた、それなら確かにロムちゃんとラムちゃんの安全は確保出来るかもしれない、でもその代りベールさんの身に危険が及んでしまう! 俺は止めようと思った。

 だけどそんな俺を安心させようとしたのか、ベールさんは優しく微笑みかけた。

 

 

「あくまでロムちゃんとラムちゃんが救出されるまでですわ、私も二人が無事に助け出されたら隙を見て逃げればいいだけの話ですし」

 

「で、でも! そんな危ない事ベールさんにさせる訳には…」

 

 

確かに人質が解放されるまでの間に身代わりになって隙を見て逃げ出せば問題は無いのかもしれない、でもそれはあくまで事が全部うまく言ったらと言う事だ。

 この方法がうまくいかなかったらロムちゃんとラムちゃんはもちろんの事、ベールさん自身にも危険が及んでしまうかもしれない…

 確かに彼女は女神だし俺なんかより遥かに強いと思う、でもついこの前その女神であるノワールは危険な目に合っていた、ネプテューヌが助けに来てくれたから良かったもののもしあの時来てくれなかったら俺もノワールも大怪我じゃ済まなかった。

 そう言う事を知っているから俺はベールさんにこんな事をさせたくない、それに女神である彼女の身に何かあったらベールさんの国全体に影響する筈だ、このルウィーにも責任を取らされてしまう可能性だってある。

 

 そしてそれ以上にベールさん自身を危険な目に合わせたくなかった、だって女の子が自ら危険な場所に行くと言って黙っていられると思うか? ベールさんだって女神だと言う事を除けば何処にだっている普通の女の子なんだぞ?

 

 

「だったら、だったらその身代わり役は俺がなります。そうすればベールさんがわざわざ身代わりにならなくても…ムグッ!?」

 

 

 俺は自分で身代わり役を買って出ようとした、だけどベールさんが人差し指で軽く俺の唇に触れて閉じ、優しく微笑み返して来た。

 

 

「ご心配痛み入りますわ、ですが私は大丈夫、それに真司くんを危険な目にあわせる訳にはいきませんわ。私が女神である以上、一般市民を危険な目にあわせる事を良しとしません、わかっていただけますか?」

 

「だけど…っ!」

 

「それに責任を感じているのは真司くんだけではありませんわ、私達もあの場にいたのにロムちゃんとラムちゃんを助ける事が出来なかった、私達にも責任はあります。真司くんだけが責任を感じる必要はないんですのよ?」

 

 

 ベールさんの言葉に思わず押し黙ってしまった。

 そうだ……俺だけがロムちゃん達を助けられなかった事を悔やんでいる訳じゃない、現にネプギアとユニちゃんもすごく悔やんでいたじゃないか。

 ベールさんに言われるまですごく焦っていたみたいだ、責任を取らなきゃ、早く二人を助けないとって。

 みんなも俺と同じ事を思っているって、少し考えればわかる事だったのに……

 

 

「だからこそこんな時は頼りにして下さいな、そしてロムちゃん達を助け出しましょう? ここにいるみんなで、ね?」

 

「ベールさん…」

 

 

 その言葉で何となくだけど心が少し軽くなった気がした、そうだ、ここにいるみんなで助け出そう、そして笑顔でブランさんの下へ戻ろう。

 ブランさんとの約束を果たすためにも、絶対に。

 

 

「な~んかベールと真司二人だけの空間になっちゃってる気がするんだけど? 私達の事忘れてない?」

 

「シッ! いい話っぽくなってるんだからアンタは黙ってなさい!!」

 

 

 …うん、ネプテューヌの言葉のおかげでそれが見事に壊れちゃったけどね。

 

 ベールさんはそれを見ると口元に手を当ててクスクスと笑っていた、ネプテューヌもこの人の大人っぽさの三分の一でも見習えばいいのに。

 

 

「ふふ、それじゃあ参りましょうか? ロムちゃんもラムちゃんも私達が助けに来る事を待ち望んでいますわ」

 

「そうね、それじゃあ早速……」

 

「…あの! ベールさん」

 

「…? 真司くん? どうかなさったのですか?」

 

 

 とっさに声をかけた、いざ救出に行こうとしたみんなの足が止まる。

 何で俺がベールさんに声をかけたのか不思議に思ったみたいで、みんなの視線が俺に集まった。

 

 

「…せめて、ベールさんについて行っていいですか?」

 

「え?」

 

 

 俺の言葉を聞いたベールさん達は目が点になった、するとみんなは慌て始め、俺に詰め寄って来た。

 

 

「何でまたその様な事を? 真司くんを危険な目には…」

 

「そうだよ! わざわざ真司が危険な目に合う様な真似をしなくても…」

 

 

 確かにそうかもしれない、ベールさんがロムちゃん達の場所に行く以上俺がわざわざ危険な場所に行かなくてもいい筈なのだから。

 ネプギアにユニちゃん、ノワールも首を縦に振って賛成している、だけど俺はそれでもついて行きたかった。

 

 

「確かにそうかもしれません。だけど俺はブランさんに約束したんです、絶対に助け出すって、責任を取るって。それが例え危険な事でも俺は言った事を守る義務がある、そしてこれは、俺自身が決断した事だから。だからベールさんにだけ任せる事はしたくない」

 

「真司くん…」

 

「それに俺、ロムちゃんとラムちゃんの事だって助けたいけど…ベールさんの事だって助けたいんです」

 

「…え?」

 

 

 俺の言葉に再び目をキョトンとさせるベールさん、だが俺は、その表情を気にせず話を続けた。

 

 

「俺の事を気にしてくれた事、凄く嬉しかったです。そのおかげでみんなで頑張ろう、ロムちゃん達を救い出そうって気持ちを起こさせてくれました。だけどそんな気持ちにさせてくれたベールさんがこれから危険な場所に行くんです、それをただ見送る事はしたくないんです」

 

「でもそれは…」

 

「ベールさんが女神だからと言う事はわかっています。だけどそれ以前に、ベールさんだってロムちゃんとラムちゃんと同じ女の子なんです。女の子が危険な場所に行く事が解っている以上、それを一人だけで行かせたくないんです」

 

「…っ!」

 

 

 ただベールさんを見据えて言葉を伝える、俺の素直な思い、絶対に曲げたくない感情、俺の正直な言葉を彼女に誠心誠意伝える。

 

 

「もちろん我が儘だって事は承知の上です。だけど俺だって力になりたい、ロムちゃんとラムちゃんもそうだけどベールさんにだって危ない目にあってほしくない! だから俺にベールさんの手助けをさせて下さい、俺に、ベールさんを守らせて下さい…」

 

「え…っ、あ…その…」

 

 

 頭を下げた、俺の正直な気持ちを全部伝えた、正直どうなるかはわからない、言ったところで俺が望む様な結果にはならないかもしれない。

 でもそれでもいい、俺の想いを全て伝えられたのだから。

 

 

「えっと…そのですね…」

 

「べ、ベールさん!? 顔が真っ赤ですよ!?」

 

「…へ?」

 

 

 頭を下げて数秒、ネプギアの声に反応して頭を上げた。

 すると目の前にはまるで茹でたタコの様に顔を真っ赤にして、両手を両頬に当てて顔

をブンブンと横に振っているベールさんの姿が目に映ったのだ。

 

 

「べ、ベールさん!? 大丈夫ですか!?」

 

「ふぇ!? あ、は、はい! 大丈夫ですわ!?」

 

 

 とにかくベールさんの事が心配になった俺はすぐさま声をかける、だが俺の声を聞いた瞬間目の前で手をブンブンと振りながら大丈夫だと声を張り上げていた。

 でも顔は赤いまま、大丈夫なんだろうか?

 

 

「「はぁ…」」

 

 

ノワールとネプテューヌが何故か溜息を吐く、ノワールはいいとしても何でネプテューヌに溜息をつかれるんだ!?

 

 

「何だよ二人とも…」

 

「べっつに~」

 

「何でこう、出し惜しみもなく恥ずかしいセリフをポンポン言えるのかしらね真司は…」

 

「はぁ?」

 

 

 二人の言っている事が全くわからなかった、もう一度考えてはみるものの、やはり何を言っているのかがわからない。

 そんな俺をジト目で見るネプテューヌにノワール、苦笑いをしているネプギアにユニちゃん、そして現在進行形で顔を真っ赤にしているベールさん。

 

 ……何このカオス。

 

 

「あの、ベールさん? 本当に大丈夫ですか?」

 

「え? あ…コホン。ええ、大丈夫ですわ」

 

 

 ユニちゃんがベールさんに声をかける、するとベールさんはコホンと可愛く咳払い、少しだけ調子を取り戻したみたいだ。

 そして改めてもう一度俺の方へ向き声をかけてくれたが、何となく上ずった様な声だ。

 

 

「し、真司くん。もしついて来てくれるのであれば、私からの条件を飲んでくれますか?」

 

「条件?」

 

「絶対に私から離れない事、決して無茶な事をしない事。それを約束して下さるのであれば、私について来て下さって構いませんわ」

 

「…出来る限り努力します」

 

 

 ベールさんの言葉を了承する、だが目の前にロムちゃんとラムちゃんがいた場合、冷静でいられるかどうかはわからない。

 そうならない様に努力はしないといけないな…

 

 

「それでは、救出作戦開始ですわ!」

 

 

 ベールさんの号令の下、ロムちゃんとラムちゃんの救出作戦が決行された。

 

 

 

*     *     *

 

 

 

「やだ! 止めて! 止めてってばぁ!!」

 

 

 ロムとラムの悲鳴が倉庫中に響き渡る、あれから休みなく二人はトリックの舌によって弄ばれていた、嫌がる二人の表情を見てトリックはにやけた表情を浮かべる。

 だがその表情も長くは続かなかった、ドアが勢いよく開き、誰かが中へ入って来たからだ。

 

 

「「お姉ちゃん…?」」

 

 

 出口の前に映るシルエットを見て呟くロムとラム、だが目の前にいた者は自分達の姉ではなく、別の人物だった。

 

 

「そこまでですわ!」

 

「ロムちゃん! ラムちゃん!」

 

「ベールお姉ちゃん…真司さん…」

 

 

 リーンボックスの女神であるベール、そして真司だ、二人はロムとラムを救出するためにトリック達が潜む倉庫へ乗り込んで来たのだ。

 

 

「その子達を解放なさい…私が身代わりになりますわ!」

 

 

 身代わりになるとトリックに宣言するベール、これだけとびっきりの美女、しかもスタイルが抜群な人がそんな事を言ったら並みの男ならなびいていたと思う。

 だが忘れてはいけない、このトリック、ロリコンだと言う事を。

 

 

「…はぁ? 俺紳士だし。守備範囲は幼女だけだし、でかい胸は興味ないし」

 

「…は?」

 

 

 トリックの言葉を聞いた真司は、思わず目が点になって間抜けな声を出してしまう。 当のトリックはものすごくキリッとした表情で平然と言ってのけているのだが…だがその発言を聞いたベールは憤慨した。

 

 

「な!? 大きな胸のどこがいけないと言うんですの!?」

 

「…垂れる未来しか見えない」

 

「ベールさん、ツッコむところそこじゃないです。そしてお前! それは失礼にもほどがあるだろうが!?」

 

 

 まさにツッコみのオンパレードと言うべき言葉が飛び交う、何か違う方向の話のベールに失礼な発言のトリック、正直頭が痛くなる…

 そんな事を思い頭を抱えている真司、ふと隣に目を向けた、そしたら思わず身体が震えて悪寒が走った。

 それは何故か?その理由はただ一つ……

 

 

「ふふ、ふふふふふふふ…」

 

 

 ベールが笑っていたからだ、その笑みはとても黒く怨念が籠っていると言わんばかりに。

 

 

 

「貴方…私を本気で怒らせてしまったようですわね…」

 

「ベールさん? いっ!?」

 

 

 怒りに身体を震わせるベール、すると彼女は自身の身体に力を籠めた。

 身体が輝きだし、周りからは光の粒子と共にパーツの様なものが浮かぶ、ベールの着ていた服が消え、代わりに粒子が纏わりついてそれが女神が装着するレオタードへと姿が変わる。

 そしてそれだけではない、彼女の美しい金髪が緑色へと変わっていき、ポニーテールに纏められる。

 そして何処からともなく表れた槍が彼女の手に渡る、今ここにリーンボックスの女神であるベールの真の姿、女神グリーンハートが姿を現した。

 

 

「な!? 女神だったのか!!」

 

「グリーンハート、変身完了…真司くん?」

 

「あー…」

 

 

 変身を完了して戦闘態勢に入るベール、女神だと言う事実に驚きを隠せないトリック、そしてその姿を、真司はボーっとしながら見つめていた。

 そうなった理由はたぶん誰でもわかるだろう、女神達が着ているコスチュームは見た通り露出度がものすごく高い、その中でもベールのコスチュームは後少しで胸が丸見えになってしまうほどなのだ。

 男なら誰しもそこに目がいってしまう、真司とて例外ではない。

そんな真司の気持ちを察したのか、ベールは挑発する様に自身の胸を持ち上げて声をかける。

 

 

「ふふ…私の胸が気になりまして?」

 

「うぇい!? ぞ、ゾンナゴドナイディスヨ!?」

 

「…それは何語ですの?」

 

 

 ベールの言葉の動揺し過ぎて真司の言葉が思わずオンドゥル語となってしまう、言葉の意味が解らず首を傾げるベール、だがおふざけもそこまでだ。ベー

ルは槍を構え戦闘態勢に入る、そして力の限りトリックに突撃した。

 

 

「はぁぁぁあっ!!」

 

「ぐが!? んんんっ、はぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 ベールの槍がトリックの胴体に一閃喰らわせた、だがトリックは相当頑丈の様だ、一旦攻撃を受けるや否や反動を利用してベールを弾き返した。

 だがベールも負けてはいない、弾き返された反動を更に利用してバック転する、そして光のサークルを呼び出し自身の体勢を立て直した。

 

 

「かかか! この俺にそんな攻撃が効くか!!」

 

「どうですかしら? 狂乱怒涛の槍、受けてみなさい! レイニーラトナピュラ!」

 

「ぐぁぁぁぁぁあっ!?」

 

 

 超高速による槍の連続突き、それがトリックの胴体に降り注ぐ。

 確かに一撃一撃は軽い、だがそれが連続で出されたら例え小さな攻撃でも受けたら大きなダメージとなる、トリックは堪らずベールの攻撃により苦悶の表情を浮かべて叫んだ。

 

 

「はぁぁぁぁぁあっ!!」

 

「っ! ロムちゃん! ラムちゃん!!」

 

 

 ベールが攻撃をしている間トリックに隙が生じた、その隙を真司は見逃さず、全速力でロムとラムがいる場所へと走り出す。

 そしてどうにかロムとラムがいる場所へと滑り込んで二人を抱きかかえる事に成功した、安堵の危機を漏らす真司、だがそのせいで気が抜けていたのだ。

 

 

「ぬぅぁぁぁあっ!!」

 

「え? どわぁっ!?」

 

 

 何かが纏わりついた、その正体はトリックの舌、大方ロムとラムを連れ去ろうとしていたのだろう。

 それに真司が巻き込まれる形になってしまった、どうにか脱出しようとする真司、だがそれも叶わぬ事になる。

 ベールの必殺技の余波でトリックが空の彼方へ吹き飛ばされてしまった、その意味はわかるだろう、真司はロムとラムと共にトリックと一緒に吹き飛ばされてしまったと言う事なのだ。

 

 

「ふう、余裕でしたわね…あら? ロムちゃんとラムちゃんは? それに真司くんまで…まさか!」

 

 

 ベールは気が付いた時には時すでに遅し、周りを見渡しても真司は愚か人の影すら見当たらない、一般市民を危険な目に合わせたくないと言っておきながら何たる為体!

 苦虫を噛み潰した様な表情になるベールは、慌ててトリックが吹き飛ばされたところから真司達の行方を追う事にした。

 

 同時刻、下っ端ことリンダがノワール達によってブッ飛ばされたのはまた別の話。

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 シーンと静まり返る場所、ここはどこかの廃置場のようだ。

 その場所からガラガラと物音が響き渡る、その正体はトリックだった、先ほどベールの攻撃によりこの場所まで吹き飛ばされてしまったのだ。

 

 そんな彼の表情は何やら清々しくも見える、自分は痛い目にあったと言うのにこのにこやかな表情、それを絶やさない理由はただ一つ、ロムとラムを手中に納めたからだ。

 

 

「幼女は命に代えても守る、それが紳士のジャスティス! ん? 幼女は何処?」

 

 

 だがその手にはロムとラムがいない、一体何処へ行ってしまったものかと辺りをキョロキョロと見渡しながら探すトリック。

 そして見つけた、ロムとラムがフェンスをよじ登り逃げ出そうとするところを。

 トリックの口元がつり上がり、舌なめずりをする。

 

 

「この生きのよさ! まったく! 幼女は最高だぜ!!ん~レロレロレロ!」

 

 

 トリックの舌がロムとラムに襲い掛かる、それを見た二人は目を見開き、悲鳴を上げた。

 

 

「「ひう!?」」

 

「危ない!!」

 

 

 だがその舌が二人を絡め取るより前に何者かがロムとラムを抱きかかえてそれを避けた、恐る恐る顔を上げてその者の正体を探ろうとするロムとラム、その正体は、先ほど同じ様に吹き飛ばされてしまった真司だった。

 

 

「真司!」

 

「真司さん…!」

 

「二人とも、もう大丈夫だ!」

 

 

 ロムとラムの声に笑顔で応える真司、だがその様子が気に食わなかったからなのか、トリックは憤慨して真司を睨みつけた。

 

 

「この野郎…俺様の幼女を返してもらおうか!!」

 

 

 真司へと飛ばされるトリックの舌、だがそれはロムとラムに向けられた様なものとは違い鋭利な刃物のような形となっていた、その舌で真司を突き刺し、ロムとラムを奪還しようと思っているのだろう。

 だがそう易々と喰らう訳には行かない、真司はロムとラムを抱えたままトリックの舌を掻い潜る。

 

 

「ふ、ふぇ…」

 

「大丈夫…大丈夫だ! 二人は絶対俺が守るから…だから心配すんな!」

 

「真司さん…」

 

 

 ロムとラムは泣き出してしまう、そんな二人を勇気づける様に真司は二人に心配するなと、絶対に守ると声をかけた。

 だが何分この状況、危機的状況には変わりない。

 それに避け続ける事にも限界が来る、今真司はトリックの攻撃を避け続けて肩で呼吸をしているほどなのだ、そしていよいよその限界が頂点に達する。

 攻撃を避けた瞬間、真司の足が滑ってしまい転倒したのだ、その隙をトリックは見逃さず舌を真司に目がけて突き出して来た。

 

 

「くたばれぇっ!!」

 

「ぐっ!?」

 

 

 目と鼻の先には鋭利な刃物と化したトリックの舌先が迫って来ている、もうダメかもしれない、そう思った真司は目を固く閉じロムとラムだけは守ろうと背中を丸くして二人を強く抱きしめる。

 だが一向にトリックの攻撃が来ない、痛みさえ来なかった。

 恐る恐る目を開ける真司、その先に見た光景とは…

 

 

「いってぇっ!?」

 

「これは…」

 

 

 トリックが痛みに声を上げて悶絶していたのだ、トリックを見てみるとそこにはハンマーによって打ち付けられた舌が目に映った。

 だがこのハンマー、所有者は一体何者なんだ? そう思ったのも束の間、廃置場の陰から何者かが歩いて来る音が聞こえ、影が見えてきた。

 

 

「あ…!」

 

「ブランさん!」

 

「てめぇ…私の大事な妹達に何しやがる、許さねえぞ…この変態が!」

 

 

 影の正体はブランだったのだ、今のブランは怒りの感情で満ちている、大事な妹達を危険な目に合わせた者が目の前にいるのだから。

 真司はブランの姿を見て安堵する、抱えていたロムとラムを一旦地面に下ろすと、そこから少し離れてへたり込んだ。

 

 

「変態!? それは褒め言葉だ!」

 

「そうかよ、なら…褒め殺しにしてやるぜ!」

 

 

 トリックを一睨みした後、ブランの身体が輝きだした。

 普段着ている服が光の粒子となって消えて代わりに別のコスチュームが現れる、背中には大型のウィング、プロセッサが装着され髪の色も普段の茶色からシアン色へと変わっていった。

 そして何処からともなく現れた巨大な斧、尖刃を手に取ると大きく振り回して構える、ルウィーの女神ホワイトハートの誕生だ。

 

 

「覚悟しやがれ! このド変態!!」

 

「かかか!!」

 

 

 ブランの掛け声と共に戦闘が始まった、尖刃を構えたブランはトリック目掛けて突撃するが、トリックはその舌を刃物状に変えてブランに襲い掛かる。

 だがブランも負けてはいない、トリックの攻撃を躱し、追尾してくる舌も華麗に躱し続ける。

 トリックの攻撃を躱し続け漸く振り切るとブランの反撃が始まった、その大きな尖刃を振りかぶり、トリックに向けて次々に技を放っていく。

 罵倒も込みで…

 

 

「この超絶変態!!」

 

「げひ!?」

 

「この激重変態!!」

 

「んぐぁ!?」

 

「テンツェリントロンベ!!」

 

「うぐぁぁぁっ!?」

 

 

 巨大な尖刃を何度もトリックに打ち付け、最後には大きく回転しながら強烈な一撃をトリックの腹に向かって叩き込む。

 怒涛の連続攻撃に加えて必殺技を放たれたトリック、ダメージは目で見るほど明らかだった。

 だがその事に激情したのかクワッと目を見開くトリック、そしてブランの方へ鋭い視線を向けると、力いっぱい舌を飛ばしたのだ。

 

 

「せめて…貴様に一矢報いてやるわぁぁぁあっ!!」

 

「っ!?」

 

 

 まさかの不意打ち、だがそれをブランは紙一重で躱す事に成功する。

 そこからすぐさま反撃に出ようと試みるブラン、だがそれはすぐに中断する事になった。

 その理由は躱した舌の行方を見てしまったから、舌のその先には…ロムとラムがいたのだ。

 

 

「っ! ロム! ラム!!」

 

「ふえ…」

 

「あ…」

 

 

 今あの舌は鋭利な刃物となっている、その舌が二人に迫って当ったりでもしたら?

怪我だけでは済まない、最悪命を失ってしまう結果になってしまうかもしれない。

 その事が脳裏をよぎったブラン、そこから先は考えるより先に身体が動いていた。

 力の限り飛び立ち、全速力でロムとラムがいる場まで駆けつけようとするブラン、だが舌のスピードの方が遥かに速い、このままでは確実に二人に当ってしまう。

 手を伸ばしても届かない、もうどうしようもない…

 

 

「っ…!?」

 

「え? あ…」

 

 

 飛び散る鮮血、目を見開くロムとラム、そしてブラン。

 だがその鮮血はロムとラムのものではなかった、なら一体誰の鮮血なんだ? その鮮血の正体、それは……真司だった。

 

 

「お、お前!?」

 

「………」

 

 

 真司はロムとラムを抱きとめトリックの舌から二人を守ったのだ、だがその代り、その舌による攻撃が真司の額付近に直撃してしまう、そのせいで真司の額からは夥しいほどの血が流れ落ち、地面を真っ赤に染め上げていく。

 

 

「き、貴様! 俺様の幼女n「…ろ」あ? なんだ、と…っ!?」

 

 

 

 真司に憤慨したトリックは更なる攻撃を放とうとした、だが何故かそれが出来なかった。

 その代り身体から異様なまでに鳥肌が立つ、そしてそれはブランも同じ事だった。

 そして聞こえたのは恐ろしいまでに低い声を出した真司、その声をブランは聞いた事がある、アブネスに怒りを向けていた時の、完全にブチ切れた真司の声を。

 

真司はゆっくりと顔を上げる、そしてトリックに向けて一言――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失せろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!? ひっ、ひぃぃぃぃっ!?」

 

 

 恐ろしいまでの殺気、そして視線、それを真正面からもろに受けたトリックはガタガタと震えだして狂気にも似た叫び声を上げた。

 逃げ出そうとしても動けない、腰が砕けて立つ事も出来ないのだ。

 

 

「っ! 今度こそぶっ飛びやがれ!!」

 

「ぎゃぁぁぁぁぁあっ!?」

 

 

 トリックが動けない隙をブランは見逃さなかった、真司の殺気に怖気づいていたものの、それを振り切って渾身の一撃をトリックに叩き付ける事に成功する。

 トリックはその攻撃により、遥か彼方の空へと姿を消したのだ。

 息を切らしながら自身の武器を降ろすブラン、とりあえずロムとラムにとっての脅威は消え去るった。

 だが今のブランにはそんな事は二の次であった、武器を光の粒子に返しすぐさまロムとラムがいる場所へ、真司がいる場所へと向かって行った。

 

 

「おい! 大丈夫か!?」

 

 

 真司の傍に辿り着いたブランは真司の肩に手を掛け声をかけた、だが真司は動かない、その間にも額から血が流れ続けている。

 その様子を見ていたロムとラム、ガタガタと震えて目からは涙が滲み出ていた。

 

 

「あ…あ…」

 

「ふぇ…」

 

 

 真司に起きた事、そして今まで誘拐された時の恐怖が込み上げた事もありただ震えるしかなかった。

 だがそんな二人を優しく抱きしめる温かい手、真司が二人を優しく抱きしめたのだ。 先ほどの鬼の様な表情ではない、とても優しい笑みで。

 

 

「二人とも怪我はない?」

 

「っ……お前…」

 

 

 ブランはその言葉を聞いて目を見開く、真司は自分が大怪我を追っているにもかかわらず、自分の妹の身を優先して心配してくれたからだ。

 その妹達は真司の言葉を聞いて更に涙を流し、身体を震わせていた。

 

 

 

「そ、それより真司の方が…」

 

「血が…いっぱい…出て…」

 

「何だよ。これくらい大した事ないって、な?」

 

「でも……でもっ!」

 

「俺は大丈夫、それに……」

 

 

 真司は二人に対しての微笑みを絶やさない、それどころか自分は心配いらないと、ロムとラムを安心させる様に声をかけ続けた。

 そしてポンと二人の頭に手を置いて頭を撫でる、優しく、あやす様に……

 

 

「安いもんだよ、こんな怪我で二人が助かったんなら。無事で本当に良かった……」

 

「ひっひっく…うわぁぁあん!!」

 

「こ、怖かった…怖かったよぉ…!」

 

 

 一気に涙腺が崩壊するロムとラム、そんな二人を真司は優しく抱きしめ、ゆっくりと背中を撫でた。

 これで漸く誘拐事件は幕を閉じたのだ、めでたしめでたし……

 

 だがこの後、駆けつけたネプテューヌにノワール、ネプギアにユニ、ベールに自身の怪我の事を問い詰められた事は言うまでもない。

 

 

 

*     *     *

 

 

 誘拐事件も無事に解決した、事件が終わったその日はルウィーの教会に泊る事になり俺はそこで傷の手当てを受けた。

 幸いにも傷は浅かったから大事に至らずに済んだけどきちんと処置はしてもらったよ、あの時の消毒液は沁みたぜぇ…

 

 そしてその翌日の事、俺達に改めてお礼と謝罪をしたいと言う事でブランさんに呼び出されて応接室に来た。

 そこでの話で、あの時何でインタビューの後ブランさんが倒れたのか、何でテーマパークに一緒に行かなかったのかその理由を知った。

 

 

「寝不足? あの時気を失ったのってそのせい?」

 

「そう…あの時一緒に行かなかったのもそのせい…」

 

「何よそれ…」

 

「このところずっと徹夜続きで貴女達と向き合う余裕がなかったの…それなのにロムとラムを助けてくれてありがとう、ベール、ノワール、ネプテューヌ……そして」

 

 

 ネプテューヌ達にお礼を言った後、スッと立ち上がり俺の前に出るブランさん、その時いきなり俺に頭を下げてきた。

 

 

「ちょっ!? ブランさん!?」

 

「加賀美真司、ごめんなさい…貴方にはすごく酷い事を言ってしまったわ。それなのにあの中継の時、私を庇ってくれて…本当に嬉しかった、それにロムとラムを命懸けで守ってくれて…ありがとう」

 

 

 あ、ありがとうって…いきなり頭を下げられても…

 あまりにも唐突な事だったから対応にすごく困ってしまう、しかもそんなに深々と頭を下げなくても…これじゃあ逆にこっちが申し訳なく思っちゃうじゃないか。

 と、とにかくこのまま頭を下げさせる訳にはいかない! 

 

 

「いいんですそんな事! 俺がやりたかった事をしただけだし。それにあんな状態だったんならだれだってそうなりますよ」

 

「でも…」

 

「でもも何もこの話はもうお終いです! 終わりよければ全てよしって言うじゃないですか、ね?」

 

「ありがとう…」

 

 

 結構強引かもと思ったけど俺はこの件の話を終わらせることにした、確かにブランさんはあの時俺を責める様な言葉を使っちゃったけど…だけどそれくらいにブランさんは苦しんでいたのだからしょうがないと思う。

 それにお礼は言われたけど俺はブランさんに僅かばかり手を貸しただけだし、この事件の大部分を解決したのは結局のところブランさん達だし。

 話を終わらせた後、ブランさんは改めて俺にお礼を言ってくれた、その時の表情がすごく綺麗で思わずドキッとしちゃったよ。

 

 

「加賀美真司、私の事はブランでいいわ。敬語もいらない、フレンドリーに話してくれる方が嬉しいから…」

 

「あー…了解、それじゃあ俺の事は真司って呼んでよ、フルネームで呼ぶのはしんどいだろ?」

 

「わかった、改めて…よろしく、真司」

 

「おう、ブラン」

 

 

 ブランさん改めブランとがっちり握手を交わした、ノワールの時も同じ感じだったけどまさかブランともこうなるとは。

 握手した手の柔らかさを感じながら俺はふと思った、この小さな手でこの国を築き上げてきてそして守って来たんだなって。

 ブランは本当にすごい、改めて思うよ、それにそれはブランだけに限った事じゃない、ネプテューヌもノワールも、そしてベールさんも同じ事をしてきたんだ。 

 自分の国を守るために、発展させるためにものすごく努力した、時には涙を飲んで悔しい思いもした筈だ、それは並大抵な事で出来る事じゃない。

 そして今、みんなは友好条約を結ぶまでに至ったんだ、本当にすごい。

 ただ…昨日までのみんなは何だかギクシャクと言う感じがしていけどな、事件が終わってからはそれが無くなった気はするけど。

 

 

「何だか漸く纏まった感じだよな、今までのみんなを見ていたら何か固い感じだったし」

 

「まあ確かにね、友好条約を結んだって言ってもまだそこまで経っていなかったし、結ばれる前まではお互いにまだ敵視してたままだったしね」

 

 

 確かに友好条約を結んでいたけど前のノワールの言葉を聞く限りまだお互いの関係が良くなかったのかなと考えていた、妹達は仲がいいんだけど姉の場合は立場とかそう言ったものもあったからしょうがないのかもしれない。

 

 

「でもさ…」

 

「真司くん?」

 

 

 俺はノワールの手を取る、ノワールだけじゃなくネプテューヌ、ブラン、ベールさんの手を取り、その手を重ね合わせる様にみんなの手を添えた。

 

 

「俺達は時に自分一人で戦う事もある、この手で、だけどこの手で相手の手を握る事も出来る。そんな時俺達は、弱くても、愚かでも、一人じゃない…今ここには最高の仲間が集まってるんだからさ」

 

 

 仮面ライダーディケイドの門矢士が言った言葉だ。

 今まで女神のみんなは争ってきた、でも今はもう一人きりじゃない、仲間がいる、家族もいる、手を取り合えばどんな事も乗り越えられる筈だから。

 

 

「「「「…っ」」」」

 

「あれ? みんなどうかした?」

 

「「「「な、何でもないっ!!」」」」

 

 

 みんなの顔が少しだけだが赤くなった、声をかけたが何でもないとの一言、だけど視線を合わせようとしてくれない。

 俺が一体何をしたと言うのか…あれか? 俺がみんなの手に軽々しく触れてしまったからなのか!?

 そうだとすると俺自身ダメージが…少しばかりしょんぼりしてしまう、そう思っている時応接室のドアが開いた、するとロムちゃんがニコニコ笑顔で走り寄って来たのだ。

 

 

「お姉ちゃん、お兄ちゃん…!」

 

「…はい?」

 

 

 ロムちゃんが俺に言った言葉に一瞬だが思考が停止してしまった、そして思わず真顔でロムちゃんに先の言葉を聞き返してしまう。

 

 

「ロムちゃん? 今なんと?」

 

「えっと…お兄ちゃん」

 

「…お兄ちゃん!?」

 

 

言葉を聞いたら思わず声を張り上げて叫んでしまった、まさかこんな子からお兄ちゃんと言われる日が来るなんて……何だ? 無茶苦茶胸がキュンッてくるんだけど…

 

 

「嫌…だった?」

 

「そんな事はない! でもどうして?」

 

 

 嫌なわけがない、小さくともこんなに可愛い子からお兄ちゃんと呼ばれるんだぞ? 寧ろご褒美だ!

 コホン…とりあえず自分の思った事は置いておこう、今は何でロムちゃんが俺の事をお兄ちゃんと呼んでくれたかだ。

 

 

「お兄ちゃんすごく優しくて、私達を必死に守ってくれて…すごく嬉しかったの…その時お姉ちゃんとは違う優しさを感じて…その時思ったの、これがお兄ちゃんなんだって…だからこれからもお兄ちゃんのことお兄ちゃんって呼びたい。ラムちゃんもそう思ってるから…」

 

「ラムちゃんも?」

 

「こくこく…」

 

 

 いきなりだからびっくりしたけど…それにしてもお兄ちゃんか、今までそんなこと言われた事がなかったから何かこうくすぐったい。

 

 

「真司がお兄ちゃんなら安心ね…♪」

 

「うん! お姉ちゃん…!」

 

「あはは、そう呼びたいなら別に構わないよ。ロムちゃんとラムちゃんが呼びやすい様に呼んでくれればそれでいい」

 

「えへへ…うん! お兄ちゃん…!」

 

 

 まさかのブランからのお墨付き、俺がお兄ちゃんなら安心って買い被りし過ぎなん

じゃないのか? だけどロムちゃんはとても嬉しそう、この際細かい事は置いておこう、ロムちゃんやラムちゃんが満足してくれてるんだからそれでいいじゃないか。

 

 

「それとお姉ちゃん見て…!」

 

「? よく描けてるわね…っ!?」

 

 

 ロムちゃんが手元から何かをブランに差し出した、どうやらブランの似顔絵を描いていたみたい、それを見たブランはロムちゃんの頭を撫でながら褒める、そこまではよかった。

 だがブランの表情が段々と変わり始めて、いきなり立ち上がったかと思うと一目散に走り出した。

 一体どうしたんだろう? そう思いながら俺達も後を追う事にした。

 

 

 

*     *     *

 

 

 

 ブランを追って一つの部屋に辿り着いた俺達、その部屋には山積みになった段ボール、そしてラムちゃんにネプギア、ユニちゃんもいた。

 何か本を読んでいるみたいだけど…

 

 

「ラム! 落書き止めて!!」

 

「こんなに同じ本があるんだからいいでしょ~?」

 

「だ、ダメ!」

 

 

 ラムちゃんはどうやら落書きをしていたみたい、それを必死になって止めようとするブラン、でもその必死さが尋常じゃない、それほど大切な本なのだろうか? 

 だけど今ラムちゃんが落書きに使っている本、ラムちゃんは同じ本だって言ってるけど…

 

 

「何がダメなんだよブラン?」

 

「あ! お兄ちゃん!」

 

 

 俺がブランに尋ねてみると、俺に気が付いたラムちゃんが飛びついて来た。     慌てて俺は抱き留める、その時感じたラムちゃんの柔らかさと温かさ、何か癒されるなぁ…

 そう思っている時ラムちゃんが何かを差し出してきた、それは先ほど書いていた落書き、その落書きの絵は男の人? もしやと思うが俺を書いてくれたのか? そう思いラムちゃんへと視線を向けると途端に笑顔となった。

 

 

「えへへ! お兄ちゃんを描いたの!! 上手でしょ?」

 

「あはは…ありがとうラムちゃん、でもこれはブランの大切な…ん? これは…」

 

 

 似顔絵が描かれた本をもう一度見る、確かに本なのだが普通の本よりは薄い気がする、こんな本を俺は見た事があるぞ? これは所謂同人誌と言うものではなかろうか?

 ネプテューヌ達も各々手に取り確認している、どうやら他のみんなも気が付いたようだ。

 

 

「これって…もしかして…」

 

「そ、そうだよ…これは…私が徹夜して書いた小説なんだ!!」

 

「つまり…ブランが描いた同人誌って事かしら?」

 

 

 徹夜して書いた小説? まさか寝不足の原因ってこれの事? 仕事じゃなかったんかい!? そりゃ趣味は人それぞれと言うけどさ、寝不足になるまでやってたら身体を壊すに決まってるだろうに…

 でもまあ終わった事をグチグチと言うのもしょうがない、女神としての仕事をしている合間自分の楽しみとして書いているものなのかもしれないし、俺が口を出すのも野暮と言うもの。

 ……ただ寝不足の理由がねぇ…

 

 

「え!? ユニ! どんな話なの?」

 

「空から落ちてきた少女と生まれつき特殊能力を持った少年が世界を救うお話…」

 

 

 ブランの小説を読んでいたユニちゃんが本の内容を教えてくれた、ファンタジーものか、結構興味ある。

 俺もちょっと読んでみようかな?

 

 

「し、真司は読むな!!」

 

「ちょっ! ブラン!?」

 

 

 だがブランに小説を取り上げられてしまう、それほど恥ずかしいのか? だけどそんな反応をされたら余計に読みたくなっちゃうぜ? 悪戯心が刺激されるな~。

 

 

「すごい! 主人公が新しい力に目覚めた! かっこいい!!」

 

「~~~~~~っ読むなぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 ブランの絶叫が木霊した、その間にもネプギアとユニちゃんは小説を読んでいたが俺はブランに遮られて読む事が出来なかった。

 後でこっそり持って帰って読む事にしよう…

 

 

 

――――――――

 

 

 

 その日の夜、ルウィーの街の外で協会にいたメイドさんが陰でこそこそと何かをしていた、隠れたと思うと身ぐるみを剥ぐ。

 だがそこにはメイドの姿ではなく、黒い魔女帽子を被った女が怪しげな表情を浮かべていた。

 

 

「ふふふ…」

 

 

手にしている箱の中身を見る女、その中身は怪しげな赤い光を放つ石であった…




一応フラグは立ったのか?前書きでも書いたように次回はオリジナル回に突入します!

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