無能の烙印、森宮の使命(完結)   作:トマトしるこ

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トマトしるこ、です。

ユニオンバトル実装当時を思い出してはあの頃の真新しさと楽しさを噛み締めてます。


77話 PM0044~

PM0044

 

束さんの案内を受けて警備マシンを文字通り蹴散らしながら進んだ先で俺達は足を止めていた。視線の先には扉…と言うより壁が立ちふさがっている。パッと見ただけでは扉と判別のつかないそれだが、苦労して手に入れたマップのお陰でこの向こうに空間があると気づけたわけだ。

 

何処かに引き戸があるわけでもなし、スイッチの様なものも見当たらない。なので消去法的にぶち壊そうとするところだった。

 

が、しかし。

 

「……どうだ?」

「ダメです、傷一つありませんわ」

「やっぱりか」

 

肝心の破壊が難航していた。

 

夜叉は豊富な武装を備える速度に尖った万能型だ。好んで使う種類じゃないが、破壊に特化した武器もある程度は積んである。シールド内蔵のミサイル始め、グレネード、地雷、バズーカ、レールガン、ガトリング、エトセトラ…。

 

そのどれを使っても目の前の壁には傷一つ入れられないまま。一体どんな仕組みになっているのやら、夜叉の弾薬とエネルギーだけが無駄に減っていくばかりだ。

 

加えて編成がまずい。突入班の人選は内部で対人戦に躊躇いのない事が前提条件で、制圧力や破壊は考慮されていなかった。だから、出来る人間を選んだ上で連携を重視して更識と亡国機業に分かれて、制圧と破壊の役割を分担している。爆破担当は亡国機業の二人が担っており、装備も相応に見直し、さらに追加で爆薬をたんまりと持ってきていた。制圧担当の俺達に割けるほどの数は無い。

 

桜花はライフルが二丁とエネルギー強奪の力場生成と破壊とは無縁。

 

マドカは今回“気合の入った全部載せ”状態。火力任せにできないことも無いが、大量のエネルギーを使い果たしてしまうらしい。奥で敵が待ち構えている可能性は高く、倒し切ったとしても馬鹿みたいに広いここを脱出できなければ本末転倒だ。そもそも壁をぶち抜ける保証は何処にも無い。

 

姉さんも同じようなもので、攻城兵器でも作ってしまえば突破できなくもない……と思う。物理的にガリガリと削れる掘削機の方が、爆発物やエネルギー兵器よりも信頼性は高いが確実にガス欠する。

 

というわけで弾薬に余裕のある俺が頑張ってみたんだが、結果は御覧の通りだった。

 

「……はぁ」

 

闇雲に撃ってもダメだな、一旦落ち着いて考えてみるか。こっそりくすねてきたドリンクのストローを口にくわえてずごごごと中身を吸う。

 

最初は爆発系統を試してみた、が煙たくなるだけ。では別の壁ならどうなのかと試してみたが、こちらは普通に破壊できた。コレが特別製だということがこの時点で発覚する。

 

次はエネルギー系統。ヴェスパインと最大チャージのアグニを数発撃ち込んだがこれもダメ。というよりこれが一番効果が無かった。照射し続ければ熱で変形できるかと思ったが見えない膜に防がれているらしい。というのも、ニュードは元々こいつらの技術。当然対策もバッチリってわけ。夜叉にはニュードを含まないエネルギー兵器は積んでないので、マドカに数発ほど試してもらったが、これも同じように膜が弾いていた。ニュードに特別強い対エネルギー装甲とか、そんな感じの奴だろう。発生装置でも潰せばどうかと探してみたが見当たらず。

 

ならばと取り出したのが近接武器。ティアダウナーはIS相手なら恐ろしい質量を持つが、この壁に対しては無力だった。全力で、加速をのせた一撃を叩きこんでも傷や凹みは全く見当たらず、逆に俺の心が凹む結果に。パイルバンカーの提案があったが、杭がまず刺さらないので断念。

 

そしてどうかと思いながらもガトリングを打ち込むが……うん、察してほしい。

 

単純に硬いわけではない。エネルギー系統は壁に到達する前になんらかの膜が弾いて拡散。殴っても切っても傷や凹みはつかず。

 

「押してダメなら引いてみな、って言うけどさ」

 

取っ手なんて無いし。

 

何かしらのトリックがあるはずだ。十中八九、ニュードを用いたトリックが。

 

「って訳なんですけど、どうしましょ」

『うーん、考えてなかった訳じゃないけど、まさかそんだけ武器をガン積みしてて破れないとはねぇ』

「こっちは悪くない」

『その意見には全面的に賛成。破片とかホントに落ちてないの? 構造さえ分かればどうにでもなるんだけど』

「ない、です」

 

困ったときは詳しい人に聞く、だ。悠長に思いつく方法を潰していく時間はない。どうせ考えるなら束さんが考えた方がまだ良いだろう。

 

『いっくんなら何とかできるんじゃないの?』

「えぇ? さんざん試したんですが」

『試してないニュード兵器がまだあるでしょ? そのどれかが刺さる筈』

「そりゃまぁありますけど……どういう事です」

 

リストには束さんが言うようにまだ使っていない武器はある。UAD―レモラの様な支援火器も含めればそれなりの数が揃ってるが、一通りの系統を試しても効果は無かったし、それ以前にニュードは弾かれてしまう。

 

『倉持の一部にニュードの情報と素材を流したのは私なんだよ。その後に何だか知らないけど技術者が移動したとか一悶着あったらしいけど、結果的に夜叉はニュード技術が全て注ぎ込まれた』

「…どうやってそれを手に入れたんですか」

『自白剤飲ませて死んだ奴から直接。そいつが持ってきたデータ全部解析して手渡ししてやったんだ。解析データの中身が全部夜叉の武器に反映されているなら……』

「この中のどれかが、突破口になる、と」

『そーゆーこと。だから―――ッ! 左左! 数機抜けてる! ゴーレム回して! デカブツは――』

「た、束さん!? ……くそ、切れた…」

 

何やら非常に不安にさせる言葉を残していったが……大丈夫なのか? デカブツとか言ってたけど…。データリンクは正常に働いているし、誰かのシールドエネルギーが危険域を割っている様子も無い。

 

いよいよ不味い事になれば引き返す様になっている。その指示が来ないと言う事はまだその段階じゃないってことか…。だったらもう少し粘らせてもらおう。幸いにもヒントは貰えた。

 

「何かわかった?」

「…どうだろう。束さんは手持ちの武器を全部試せとは言っていたけどさぁ」

「意外そうなものからやってみたらいいじゃん」

「意外そうなもの、ねぇ」

 

ざっとリストに目を通す。確かに正攻法でどん詰まりになってる状態だし、抜け道はそういうところにありそうな気もするが……。

 

細かく分類して使っていないのはやはり支援火器。

 

特殊な力場を発生させて動きを鈍らせる…中心部は空間に貼り付けるほどの出力を持つマグネタイザー。

 

U字の金具から電流を流し込んで信号を狂わせ行動不能にする……スタンガンと言えばいいか、なスタナー

 

端末を中心とした球状の範囲内にいる味方機を修復してくれるリペアフィールド。

 

………。

 

直す?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

AM1128

 

高速で飛び出していった四人を見送った私達はマップに視線を落とした。

 

一つの光点が移動をはじめ、もう一つは動く気配を見せない。後者が私達を示しているのだろう。これからは奥へ向かう奴らと別行動をとらなければならない。寂しくなどちっともないが、未開の土地で二人だけというのは戦力的に不安が残る。宇宙で逃げ場が無いというのが尚更それを掻き立てた。

 

当然だが、それはパートナーであるオータムには見せない。

 

「さて、どうすんだ?」

「爆薬はドッグを中心に仕掛けるわ。これだけ広いのに出入口が一ヶ所しかない欠陥住宅、潰すならこれが手っ取り早いでしょう」

「だな」

 

俯瞰すればどれだけいびつな構造をしていたのかが良く分かる。

 

地球からの発見を恐れたのか、月面上に施設を広げるのではなく、月を掘削して内部に全てを設けているようだ。そして出入りは私達が入ってきたバカでかいドッグのみ。こんな作りにするなら地球からは見えない……いわゆる裏側で建設すればよかったものを。何かしら理由があったと察するが、こちらとしては現状の方が破壊しやすいので感謝しかない。

 

月の重力など地球に比べれば非常にやさしいものだが、一応上下を訴える程度はある。上層から中層に、特にエレベータや階段を中心に仕掛ければ棺桶の出来上がりだ。今居る要所も一緒に壊していけばなお良し。まぁ、今まで見てきた限り生きている人間なぞ居ないだろうが、外から入ってこられるのも困る。破壊する場所と爆薬の設置個所は慎重に選ばなければならない。

 

「博士、マップデータには部屋の情報は無いのかしら?」

『うーん……無いね。まぁ外から誰かが来るわけじゃないし、全員が内部構造を把握していたから必要なかったとかだろうね』

「じゃあこれはどうなんだよ」

『図面が無いと警備マシンのルーティンが組めないでしょ』

「なるほど」

 

案内は知らない人間…いわば外部の為のものだ、鎖国状態の月には無くてもいい、と。

 

しかし、どこに何があるのかは分からないまま。虱潰しに駆け回るような無駄はできない以上、要所を重点的に破壊する方法はとれない。各階を繋ぐ場所に数を割いて、残りは等間隔に設置していこう。

 

「ところで博士、あの話だけど」

『ああ、いいよ。君たちがここで収集したものについて私は関与しない。好きに調べて持ち帰ると良い。ただし』

「ええ。貴女の研究と、近親者に対して害が出ない範囲で、でしょう?」

『守ってくれよ。人を手に掛けるのは骨が折れるんだ』

「勿論」

 

今回の依頼を受けたのは、全く体系の異なる技術を欲していたからだ。

 

例えばBRが昨年の夏に見せた単機での大気圏突入。ISならもちろん可能だが、ISコアに頼らないマシンがそれをやってのけたのは衝撃的でしかない。実際は全て無人機だったので、人が乗った結果がどうなるかは未知数だが、改良を重ねれば確実に実現できる筈だ。

 

更にはBR単機ごとの転送機能。こちらは有人でも機能することが確認されている。原理は全く分からないが、これを我が物とできれば……どれだけの恩恵がもたらされるのだろうか? 金だけで考えてもよだれが出るわ。

 

地球では考えもつかないような、未だ至ることのない技術を持つ彼らの知識を借りれば、何にだってなれる。いつか篠ノ之束を排除する日が訪れれば……それからはこの世界は私の、私達の物になる。

 

「うふふ」

 

通信が切れると同時に、彼女が操作していたマシンがマリオネットの様にこと切れる。ついでピーっと音を出した瞬間に小さな爆発を繰り返して粉々に砕けた。原型からして複雑だったが、ここまで綺麗に爆散してしまってはデータの回収は不可能だろう。

 

「ちゃっかりしてるぜ、あの女」

「そうね。好きにさせればいいわ。私達は私達で動いてもいいのだし」

「だな。じゃ、早速やる」

「お願い」

 

自分はしっかりとデータを頂いていった様だが別に構いやしない。私達が自由に動けるのなら。同じようにデータを頂いて帰ればいいだけの事。

 

オータムに吸出しを任せて私は爆破ポイントのあぶり出しにかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〓〓〓〓〓〓〓〓〓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PM0003

 

作戦が次フェーズに移行した事で、内部の情報を手に入れた束博士が目前の巨大兵器の仔細を教えてくれた。

 

城塞の様な外見をしたアレは、“ツィタデル”という巨大要塞らしい。主砲、電磁砲台二十基、ミサイル砲台四基、拡散熱線砲、特殊榴弾砲、その他大小様々な火器を備えているという。基部の直径はおよそ二キロほどで、それから更に囲うように柱が、砲台が、パイプがと混沌を極めている。一体何を想定して作ったのか小一時間ほど問い詰めたいが、どうせ地球がどうのこうのとか言い出すのだろう。

 

今のところは現れた場所から動き出す気配はなく、贅沢な後方支援が雑多なBRの群れを後押ししてくる程度。可愛い言い方をしてみたがそれだけでもかなり辛いものの、こちらに口を向けるバカでかい主砲が使われていないだけマシだと喜ぶことにした。

 

ISを前面には出せない。よって、IEXA二機で必死に受け止め、漏れたものをISで仕留める。結局のところやってることは変わらないが、連中の背後に控えたプレッシャーの塊が思った以上に私達の焦りを掻き立てた。

 

ミサイルや榴弾砲を迎撃して、張り付こうとするBRを機体動作で蹴散らし、すり抜けていった雑魚をせめてとガトリングで屑の様に引き裂く。それでも無限に湧き続けるBRよりも小型なあの兵器は、我関せずと言った様子で素通りしていった。

 

あれは“ドローン”と言うらしい。これも篠ノ之博士が教えてくれたことだ。

 

ボールの様な丸い形をしたBRと比較して格段に劣り、搭載される武器も一種類だけと非力な超量産マシン。ただし、その低スペックがもたらす圧倒的物量が何よりも恐ろしいのはこの場にいる全員の骨身にまで染みている。しかも個体差があり、搭載武器がそれぞれ違うのがまた小賢しい。無人を活かした自爆タイプはIEXAも無視できない火力を出すそう。

 

「まだなの……!」

「耐えるの! それとも、もうへばった?」

「こ、こんなの、よゆー…!」

 

打開の一手を知らせるコールはまだ響く気配がない。我慢強いほうだと思う妹も、流石に根をあげるくらいには長時間粘っている。気合を入れなおす一喝もどこか力の籠ってない弱弱しさがあった。

 

防戦一方なのはドローンという新戦力の小賢しさと数に加えて、もう一つ理由がある。どちらかと言うと、こちら――ツィタデルの方が問題だ。

 

見た目と状況が既にアウトだった。なので、私は見つけた瞬間に有効射程ギリギリまで距離を詰めて、荷電粒子砲でど真ん中を撃ち抜いた。遮蔽物の最も少ないルートを選んだ絶好な一射。それが、何らかの見えない力場で弾かれたのだ。最大射程最高火力を誇った一射限りのランチャーが使えない以上、これがIEXAが撃てる強力な武器だというのに、気張る様子も見せずに霧散したとあっては、私も萎える。

 

理屈はさっぱりだが、見えない力場が一度限りでないことは間違いない。無駄弾は控え、解析すると言った篠ノ之博士を信じてずっと待っているわけだ。そろそろ博士の胃に穴が開きそうで楽しみだわ。

 

『お待たせー』

「あら、噂をすれば」

『どんな陰口なのか気になる所だね』

「そんなことしません。ストレスで胃痛になりそうだとか思ってただけです。むしろ心配していたわ」

『私は腹痛よりも出される薬のほうが怖いよ。で、ちょちょっと調べてみたんだけどね、外からどうにかするのは難しそうだ。銃火器使用中につき、その銃口分だけバリア的なものが消えるらしい。あとは中に乗り込んでぶっ壊すしかない』

「はぁ、結局そうなるんですか……」

 

古今東西、デカい敵を攻略するには内側からと決まっているのだ。外からじゃどうにも出来ないからというキチンとした理由がある、決して様式美ではない。爆発する中を駆け抜けてヒヤヒヤするまでがお約束なわけだが、そうはなってほしくないわね。

 

距離はISとIEXAにはあまり関係ない。道中の敵も、先程の様に盾でも構えて吶喊すればどうにでもなる。曲者なバリアも零落白夜で切り裂いてしまえば、中に入るだけの空間は確保できるだろう。あれより内側に入ってしまえばこっちのモノだ、出鱈目にミサイルでも荷電粒子砲でもばら撒いて無力化、中に入って核を潰せば終わる。

 

なーんて簡単そうに口にしてみる。実際そんな風に上手くいけばいいけど、まぁ無理でしょうね。何と言っても推進剤と弾がヤバい。

 

「で、どうすんです?」

『いつ主砲を撃たれるかわかんないし、どれだけの火力があるかもわからないからね……安全策を取りたいんだけど、それやってると持たないでしょ』

「まぁそうですけど。補給中のラウラちゃん達の分しかもう残ってないでしょうし」

『うん。だから総力戦を掛ける』

「は?」

『突っ込むのさ! みんなでね!』


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