無能の烙印、森宮の使命(完結)   作:トマトしるこ

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トマトしるこです。

短いです。

アキブレは装備詳細閲覧の機能を増やしてほしいですね。折角開放したのに実際に使わないと分からないのは面倒というかなんというか。


69話 瞳

「うーーん……」

 

訓練を終えて自室に戻って来たら待ち伏せしていた楯無様と運動してシャワーを浴びた後、パジャマに着替えた主は俺の瞳をじーっと見てうなり始めた。

 

「え、えっと…なんです?」

「いや、いつも思うけど赤と緑のオッドアイって結構珍しいわよね」

「オッドアイそのものが珍しいと思いますけど」

「確かに」

 

カラコンでわざと色を変えるぐらいしか聞かないな。猫なら大人しめの色で見たことはあるけど、あれって視力が悪いんだっけ? 可愛いけど素直に喜べる話じゃないか。

 

「視力じゃなくて聴力ね」

「はぁ」

「そんなことはいいのよ。緑は聞かないことも無いけど、赤は珍しくない?」

「楯無様だって赤じゃないですか」

「いやん」

「下着の話してませんから!!」

 

確かに赤だったけど! じゃなくて!

 

「まぁ、確かに珍しいと思いますよ。何せ世界で私だけでしょうから」

「どういうこと?」

「施設に居た頃の話になりますが……」

「…そう。聞かせて」

 

以前はもう聞きたくないと錯乱したこともある話題。あの頃はまだ幼くて物事も良く知らない年頃だったが今は違う。人の上に立ち、生き死にを裁いてきた、裏社会ではなく子も黙る更識楯無その人だ。どちらかと言うと俺の話し方が悪かっただけなんだが……。

 

今回のコレはそんなにグロテスクな話じゃないし、大丈夫だろう。それにいつかは話さないといけない事だったから、丁度いい。

 

「実はですね、その頃に一度失明しているんです。両目」

「そう、なの?」

「記憶が戻った時に、断片的ですが少し思い出したんです。その中に、真っ暗な中で生活している自分が居て」

「ああ。じゃあ今の目は義眼か、再生した目ってこと?」

「そうです」

 

テーブルに置いていたお茶を手にとって喉を鳴らす。

 

「今のこの両目は、ISコアです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏、それ、ほんと?」

「ホントです」

 

ちょっと待ったを掛けられて、そんな大事な話をどうして今まで黙っていたのと叱られ、翌日関係者各位の前で公表しなさいと言い渡され、姉さんのどす黒い目が怖くて震えている森宮一夏です、はい。

 

簪様も負けじと恐ろしい目で見てきます。嘘じゃないです。

 

「確か、収容されていた施設は男性でもISが使えるようにする為の施設。だったらコアの情報もある程度は揃っているでしょうし、それだけの物をつくる技術や設備もある。ありえない話じゃないけど…」

「私が実際に見ている。間違いない」

「そっか、ラウラは……」

 

ラウラは俺やマドカと一緒に居た。記憶障害も出ていない様子だし、失明した頃の俺を知っているんだろう。更識とは違う場所で生きているが、立派な証人なので連れてきた。

 

「両目に包帯を巻いていた姿は覚えている。それが大体一ヶ月程度だったか……いきなり包帯を外したと思ったら赤と緑の目をしていた」

「ただ、それ以降兄さんの記憶障害や言語機能が狂っていったんだ。私はてっきり投薬の影響かと思っていたんだが」

「私としてはどうして貴重なコアがそこに二つもあって、一個人の両目として使われているのかが不思議で仕方が無いんだけど……」

 

どっちの悩みもごもっとも。俺もそう思う。一体どこの国のなんだろう。

 

「コアの提供先は心当たりがある」

「蒼乃さん?」

 

そこに一石投じたのは以外にも姉さんだった。

 

「亡国機業」

「……ちょっと待った、それはおかしいよ。私達がその施設を出られたのは、スコール達が襲撃したからだ。つまり亡国機業が襲ったから。なのにコアの提供先も亡国機業だと筋が通らな……あ」

「私も、分かったかも」

 

マドカと簪様が同時に閃く。

 

「エイジェン側の亡国機業がどこかから強奪したコアを、当時下請けの様な関係だった施設に卸して研究させていて、博士側の人達がそれを潰した。ってこと?」

 

整理してみよう。

 

亡国機業は既にエイジェンと篠ノ之の二勢力に影で別れており、エイジェン側の構成員が奪ったコアを施設に預けて研究させていた。その研究と実験の一環で、当時失明していた俺が対象に選ばれて、両目にコアを埋め込まれた。コアが身体に馴染んで、あるいは外殻を与えて目の形をとった結果、赤と緑のオッドアイで落ち着いたんだろう。

 

このコアはどこかのタイミングで外す予定だったはずだ。そうして別の人間にまた装着させて、データをとっていく。そういう手筈だっただろう。

 

そうなる前に、スコール達が襲撃して施設を破壊した。

 

各々の推理に姉さんが頷く。正しい様だ。

 

「となると、同時期に一夏の様子が変わっていったのが気になるわね。これはやっぱりコア移植の影響かしら」

「だろうな。コアがもたらす情報量は膨大だ。ISに備え付けてあるセンサーやインターフェースを介して初めて正常に受け取っている。それでもあれだけの高揚感と高感度が得られるとなれば、やはり直接人体に取り込むのは毒なのだろう」

「しかも、五感の一部として、内臓として機能を果たすなら尚更、か。ただ埋め込むならまだしも脳と神経で直結しているから、影響も脆に受けるわよね」

 

自分で周囲の推測を聞いてすとん、と納得した。

 

眼球は視神経で脳と直結している。光や色彩を捉え、脳に情報を送るのが役割だ。コアを代替品として埋め込めば、当然視界で得た以上の情報が流れ込む。スパコン真っ青の処理能力を持つのだ。人間の脳がいかに優れていようとも、薬物で強化されていようとも耐えられるモノでは無かった。

 

つまり、脳が絶え間なく送られる圧倒的な情報量に常時オーバーヒートしていたと考えられる。だから通常どおりの機能が果たせなくなり、記憶障害や言語機能まで影響が出ていた。

 

しかし悪いことばかりでもない。都合良く言いかえるなら、通常では絶対に得られない情報を拾うことも容易いということ。俺が背後からの不意打ちや長距離からの狙撃に気付けたのは、決して極限まで強化された身体があったから、だけではない。

 

加えて、コアには独自のエネルギー回路がある。シールドエネルギー、絶対防御、武装に供給するエネルギー等々枚挙に暇がない。外付けで拡張するのが最近の主流だが、コアも独自にそれらの回路を持っている。自己で生産し消費できるのだ。それらの調節機器が取り付けられていなかったが為に十全な機能を果たさなかったが、生身にはそれでも十分過ぎた。

 

やはり、何だかんだでこの身体には感謝だな。

 

「そう言えば夜叉を見つけてからは、調子が良かったよね」

「ああ。簪ちゃんの言うとおりかも。子供のころからちっとも変らなかったのに、入学してからはどんどん良くなっていってる。思い返せば夜叉を見つけた辺りからじゃない?」

 

言われてみれば確かにそうかも。夜叉が代わりに出来事を記憶していたのとは別で、自分がより昔のことを覚えていられるようになった自覚がある。

 

ということは、夜叉がコアから送っている情報を知らずに組み取って整理していたから、とか?

 

(どうなんだ?)

《意識したことはないです》

 

本人はこう言ってるが、情報の整理とは特に意識してやるほどのことじゃない。展開した時だって、情報の取捨選択は意識的にしているものの、流石に毎回意識して整理するのは骨だ。人間でさえそうなんだから、彼女らもきっとそうだろう。

 

「色々あったみたいだけど、結果的にはプラスってとこね」

「ですが、大きな問題も残っていますわ」

「両目のコアの帰属先だ。すまん、遅くなった」

「鍔女ちゃん」

 

豪快に生徒会室のドアを開けたのは更識三女、鍔女様である。久しぶりとか言ってはいけない。今までずっと拘束されていたので、一般常識はさておき、義務教育分と入学から今までの授業が遅れている。なので、毎日補修を受けて遅れを取り戻しているそうだ。今日も補修である。

 

因みに、鍔女様は束さんとも面識があるのでなんだかんだで話が合ったらしい。豪快なところが織斑千冬に似ているとか何とか。男勝りな性格してるし、分からないでもない。もっと言うなら人間離れした怪力も。

 

「亡国機業が持ってきたコアってことは、どこかの国から盗んで手に入れたって事だ。勿論それをおおっぴらにしちゃいないが、内心取り返そうってどこの国も考えてる。マドカみたいに運よくそのまま貸し与えられるなんざ期待しない方がいい」

 

ごもっともです。

 

個人が三つもコアを所有するなんて許されるはずが無い。いかに地球広しと言えど、四百六十七しか存在しないのだ。中にはコアを所有していない国もある中で三つもだなんて贅沢過ぎる。目の代わりなんて義眼で良いんだから返却するべき

 

「束博士が新規に作成したコアなら話が変わるが、それは既にナンバリングされたコアだ。委員会に照会を頼めば直ぐに分かる」

「返すべきということか? では兄さんの目はどうなる?」

「こっちには篠ノ之束がいるんだ、義眼なんざどうとでもなるだろ」

「それがそうもいかないのですわ」

 

それに斬り返すのは桜花。変色していく左目には、俺同様にコアが埋め込まれている。専用機刻帝の待機形態だ。

 

「それ、ISか?」

「ええ。私も左目を失ってコアを移植しましたの。ですが、先日の検査で驚く様な結果が出てしまいまして……」

 

はぁ、と両手を合わせて溜め息を吐く。

 

「移植されたコア。人体と同化してしまうらしいです」

「は?」

 

桜花が検査を受けたのは移植後から一ヶ月経った頃。俺はまだ学園に戻ってきていない時期で、当然鍔女様も居ない。その時の検査結果ときたら、一派全員が頭を抱えたそうだ。かく言う俺もその話を聞いてどうしたものかと悩ませた。なにせ自分のことだったからな。

 

最新の医療機器で診察した結果、目に移植されたコアは視神経と完全に同化してしまい、取り外す事が出来なくなっていたそうだ。お陰で機体のメンテナンス時はわざわざ展開し、降りてから預けるらしい。格納したモノを出してもコア自体は眼窩に残っているので影響は今のことろないとのこと。

 

もし、剥離剤を使われようものなら桜花のダメージは心身共に計り知れない。

 

「それが発覚したのが移植して一ヶ月後ですので、一夏様は数年前からとなれば、もはや不可能でしょう」

「そういうことかよ」

 

二人して苦虫をつぶした様な表情だ。外すべきだが外せない。無理矢理ではどんな障害が残るのか計り知れない。加えて貴重な男性操縦者ときた。

 

返却は不可能。となれば、次に考えるのはどうやって認めさせるか。

 

「男だからってのは無理があるか」

「ISコアが人体に与える利点…毒だな」

「しゃ、社会貢献?」

「直訴は…通らないよね」

 

それからも思いつく限りを並べてみるが、どれも難題で実現不可能なものばかりだった。

 

八方ふさがりである。するとどうなるか。

 

「…簪ちゃん、博士に相談してみて。一先ず、保留で」

 

人間決まって現実逃避するもんだ。

 

 




伏線回収、のつもりの一話でした。

初期から「なんか一夏がどんどん普通になっていくんですけど」という感想を頂いていましたが、実はこんなかんじでした。


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