無能の烙印、森宮の使命(完結)   作:トマトしるこ

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 キリよく短めに行きます。たまにはこういうのもいいよね?

 そうそう、以前後書きに書いていた新作ですが、早速連載始めました。二話連続で出していますので、ちょっぴり興味あるなぁーという方おられましたら暇つぶしにでも読んで見てくださいな。
 ヒロインは簪で、鬱展開にもって行きます。タイトルは『僕の心が染まる時』です。



47話 「本来の目的は―――」

 

 本来ならば使用されるはずのないアリーナで、私はライフルのグリップを握りしめてスコープを覗いていた。ライフルビットとシールドビットのコントロールも忘れない。的確に目の前の女―――アリスを落とすために狙いを定める。

 

「ひゃあっ!?」

「チッ……」

 

 こいつ、弱いくせに回避とセンスだけは一人前だ。ビビって照準をはずしたかと思えば、カウンターは余裕をもって避ける。ビットも含めた波状攻撃も、フェイントを用いた射撃も掠りすらしない。

 

 既に戦闘開始から十分経過しているにもかかわらず、この私が命中させたのはたったの五発のみ。射撃メイン機と相性が最悪な楯無であっても倍以上の数は装甲に当てられるというのに………。

 

 仕掛けてくる気配はない。牽制としか思えない攻撃は先からずっと降り注いでいるが、当てる気が無いのか当てられないのか分からない程に狙いがブレまくっている。

 

 構えも姿勢もメチャクチャだ、ビットコントロールも全くなっていない。そもそも戦い方が分かっていないんだ。

 

 素人か。

 

「人を撃ったこともなく、殺したこともないやつがISを任されるのか。亡国機業も堕ちたものだな」

「あれ? わかります?」

「むしろ分からない方がどうかしている」

 

 もう見ていられないぐらい酷いんだよ。敵のくせに姉妹機だから余計イライラも増す。オルコットは最近成長を見せているから目をつぶってもいいが、こいつはどうしようもない。

 

 しかし、なぜこんなやつが。これなら初期化してオータムに使わせた方がよく動いてくれるはずだ。

 

「確かに、私、使い始めたばっかのしろーとです」

 

 マリアは銃を下げてこちらを見据える。真剣見を帯びたかと思えばすぐにおちゃらけ、にやにやとうざったい笑みを浮かべた。

 

「でもでも、これだけは負けない自信がありますよー!」

 

 展開されるのはユニットに接続されていた四基のビット。一号機、二号機とは違って、銃口が三つに増えている。中央に一つ、その中央から左右の斜め四十五度に一つずつの計三つ。それが四つで、十二。単純に数だけならサイレント・ゼフィルスよりも多いのか。

 

 周囲に展開した四基から十二の閃光が迸る。真っ直ぐに進むはずのそれはブレたかと思うと螺旋を描いたりくの字に曲がったりと複雑な軌道を見せた。

 

 ほうほう、偏向射撃か。どうりで三号機に乗れるわけだ。恐らく最も適正が高かったのがこの女なのだろう。ただ適正が高いだけでは使用できない高等技術が使える辺り、実戦よりもBT兵器の応用をこなしてきたようだな。

 

 しかし、この程度なら私でも余裕でできる。ビットを全展開し、偏向射撃をもって撃ち落とし、撃ち漏らしはシールドで防ぐ。避けたからといって当たらない、という常識は偏向射撃の前では意味をなさない。相殺か防御の二択だ。

 

 行く先を読み、正面や横からこちらの弾をぶつける。

 

「何!?」

 

 その前に、マリアのエネルギー弾が六つに裂けた。私のエネルギー弾はその内の一つにしか命中せずに消滅する。

 

 連射による相殺も間に合わないと判断して、『アンブレラ』と名付けたシールドビットによる全方位防御シールドをはってやり過ごした。これはエネルギーを喰うので好きじゃないんだが……。

 

「偏向屈折曲拡散射撃。それが切り札だな」

「さぁっすが! ご存じなんですね! その通りですよ!」

 

 偏向屈折曲拡散射撃。略して拡散射撃(スプレッド・ショット)。元々高度な技術である偏向射撃の更に応用編と言えばわかるか。

 

 一本のエネルギー弾を複数に分割することを指す。数は適正と技量によって大きく変動し、高ければ多いし、低ければ少ない。複数の方向性を持たせて、それぞれを独立させるだ。これがかなり難しく、歴史の浅い現代に於いては机上の空論となっているのだが………。

 

「素人がよくやるものだな」

「ふっふーん! これでお仕舞いじゃー!」

 

 高笑いを響かせて、もう一度拡散射撃で私を狙い撃ってきた。威力も数に比例して下がるものの、無視できるダメージでもない。結局は全て捌かなければならないのだ。

 

 単純に×6だから……七十二本か。

 

「少ないな」

「………うそぉー」

 

 私ならその三倍はいけるぞ?

 

 七十二を越える圧倒的な数に化けたエネルギー弾は全てを相殺してもなお、数が減らない。物理シールドで防ごうとすれば軌道を変えて隙間を付き、拡散射撃での迎撃をしようとするのなら、拡散する前に打ち消す。

 

 逃げ道など与えはしない。

 

「う、ううっ………」

 

 絶え間なく撃ち、圧倒的な技量をもってして打倒する。威力は下がるため数での勝負になるが、今回はそれでいい。

 

 半端な力をもって私に挑んだことを後悔させてやる。二度と向かってかないように、心をへし折ってやろう。

 

「適正なら負けないのに……私はSランクなのにぃ……」

 

 その呟きを聞いてどこか納得した。それだけ高ければ大した訓練も無しに拡散射撃まで習得しても不思議はない。アンバランスな実力も頷ける。訓練しだいでは化ける可能性も見えた。

 

 が、帰しはしない。ここで落として三号機は頂くとしよう。

 

「そうか。私はSSSだ。残念だったな」

「そんなのありぃ!?」

「アリだ」

 

 この世はすべからく不平等なのだから。同じ血が流れていても、突き詰めれば他人なんだ。

 

「墜ちろ!」

 

 散らすことができるのなら、集めることもまた可能なはずだ。拡散射撃とは真逆の技術である集束砲撃(バースト・ショット)

 

 星を砕く者とライフルビットを一斉射、七本の光を一つに束ね、機体を飲み込むほどの大きさになった閃光は周囲のビットごと飲み込んだ。

 

 そのままアリーナの電磁シールドに衝突し、突き破って空へと消え去る。

 

「相変わらず威力の調節が難しいな。私もまだまだということか。さて………」

「か、っく……!」

 

 ゆっくりと高度を下げて、地面で這いつくばるボロボロの三号機に歩み寄る。シールドエネルギーはとっくに底をついているはずだ、弾の一発だって出やしない。中々てこずらせてくれたものだが、無事確保か。

 

 しかし、この期に及んでもアリスはにやにやとムカつく笑みを顔に張り付けている。何が面白いのやら、さっぱりわからん。亡国機業の連中はやはり頭のネジがぶっ壊れているな。

 

「お前、被虐愛好家だったりするのか?」

「まさか……どっちかと言えばエムなんてコード持ってたあんたのほうじゃないんですか?」

「それだけ言えるなら十分元気だな。医者は呼ばん」

「うふ、うふふふ! あはははははは!!」

「………当り所が悪かったか」

 

 わりと整った容姿も台無しだ。虚ろな目で狂ってしまえば可愛いもあったもんじゃない。

 

「時間切れですよぉー織斑マドカさあぁぁん! 勝負は私の勝ちですねぇ! ギャハッ、素人に負けてやんの!」

「何が言いたい? なるべく正常な私にも分かるように話してくれよ?」

「最初にこう言いましたよねぇ? 時間稼ぎだって!」

「あぁ、そう言えばそうだったな」

「惜しくも織斑マドカはタイムアップ! 学園の平和を守れませんでしたぁ! なーんてテロップとナレーションが入るところなんですよぉ! わっかりますぅ?」

 

 片目を歪ませて下品な笑いで盛り上がる。騒がしいやつめ。

 

「げふっ!」

「おおっとすまない。足が滑った」

「ぃっ……ぅ……。同じ、女の子相手によくもまぁこんなことができますねぇ……?」

 

 軽く小突くようにアリスの下腹部を蹴る。絶対防御が発動しない程度に力を加えた一撃は、モロに入ったようで激痛が襲っていることだろう。ISのとがった足は相当痛い。

 

 下腹部には、女性を女性たらしめる器官がそこにはある。本能で守ろうとする程に脳と体はそこを守るのだ。自分がされればと思うとゾッとするが、女相手にはこれがよく効くので頭から想像をおいやる。

 

「ドマゾなクソビッチにとってはご褒美なんだろう? ほら、続きを聞かせてみろ。運が良ければまたご褒美が貰えるかもしれないぞ?」

「……まぁ、いいてすよ。これ以上子宮を蹴られちゃ堪りませんのでね」

 

 部分解除した右手でお腹を抑え、展開したままの左手で地面に絵を描き始めた。どうやら学園の見取り図らしい。

 

「お察しの通り、私達の狙いは織斑秋介と白式。これらの確保と、出来るならば他の専用機を手に入れることですよ」

 

 トントンと第一アリーナと思われる場所を指先で示す。今ここでは生徒会企画のシンデレラが行われているはずだ。王子様の役を織斑に任せると言っていたので、当然織斑もここにいる。そして何らかの方法で敵に誘導されて、一対一で戦っているはず。コイツの言葉を信じるならオータムだな。

 

「しかし、それを遂行する上で邪魔になる存在が幾つか居ました」

「私と楯無だな」

「付け加えるなら、森宮一夏、ラウラ・ボーデヴィッヒ、皇桜花の三名もですよ。実際には、森宮一夏は死亡、あとの二人は劇の参加者が大勢出たためにクラスの企画で大忙し。懸念すべきは残った二人になります」

「そこで、お前が時間稼ぎか」

「ザッツライ。更識楯無は自ら企画した劇とオータムさんが仕掛けたトラップで阻まれ、ここで私が身体を張って足を止める」

 

 白式を手に入れるまでの時間を稼げばいい、か。とすればこの問答も時間稼ぎとやらなのだろう。

 

「そうか」

「あらぁ? 反応薄いですねぇ?」

「私にとっては白式などどうでもいいからな。好きにすればいい」

「え!?」

「だがしかし、それでは楯無がいい顔をせん。行くしかない。恩を売るのも悪くはないしな」

「ほっ………」

 

 ………何なんだこいつは。私が行ってもいいのか? 時間稼ぎが目的のわりにはやっていることが矛盾している。

 

 嘘は言っていないはずだ。レーダーの範囲を広げれば不自然に詳細を掴めない空間が第一アリーナにある。ここでオータムが暴れていることは確実。そして今も戦っているのだろう。終わっているならさっさとオサラバするだろうから。

 

 だったら、何なんだ?

 

「貴様、何が目的だ?」

 

 悩んでも時間の無駄だ。聞くなり吐かせるなりする方が早くていい。

 

 キョトンとした驚きの表情を見せたかと思えば、一転してゲラゲラとまた笑い出す。

 

「いえ! いえいえいえいえいえいえ!! こんなにドツボに嵌まるなんて思ってもいなかったモノですから!! おかしくって………ひゃはっ!!」

「時間稼ぎの事を言っているのか? 別に遅れても構わん、取り返せばいいだけだからな。オータム程度片手で十分だ」

「NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!! ぜんっぜん違いますよ織斑マドカさぁん!! 私が言っていることはそういうことじゃあありませんの!」

「ああくそ、喧しい奴め」

 

 キャラがブレまくりだ。キチガイなのは間違いない。

 

 唾を飛ばしながら狂ったように笑うアリスは私に人差し指を突きつけてきた。

 

「こんな茶番に付き合っていただいてありがとうございましたぁ! おかげ様で作戦は成功ですわ!」

 

 ………動揺を表に出さないようにレーダーを見る。未だにノイズが酷く結果が分からないままだ。そのままにして去った事も考えられるが、オータムのISの反応まで無いのは少しおかしい。コアネットワークのリンクはそう簡単に切れるものではないし、反応を隠す事も同じくそうだ。

 

 まだ戦闘は続いている。ただのハッタリか。

 

 そう結論を下した私は背を向けてスラスターに火を入れる。

 

《Warning!!!》

 

 突然サイレント・ゼフィルスが警告を知らせてきた。間をロックオンアラートがけたたましく頭の中で鳴り響く。相手が何処にいるのかも確かめず、直感と経験に身体を任せて飛びのいた。

 

「ぐぅっ!」

 

 紙一重で避けること敵わず足に被弾。芯を捉えた弾丸は装甲に触れると同時に盛大な爆発を起こした。右脚の一部が爆発により消滅し、足首と少しを失う。生身の身体は無事だ。

 

 一体どこから……!

 

 右脚の脛から先を失った私は膝をついてもう一度マリアと向き合う。ビットも展開し、レーダーも範囲を拡大、警戒レベルを上げる。

 アリスはもう動けない。とすれば、私を撃ったのは新手としか考えられない。

 

 私に突きつけられた人差し指はそのままだった。

 

「増援の時間を稼ぐことだったのか……!」

「私、言いましたよねぇ? “時間稼ぎ”が目的だって」

「オータムと白式の方はどうなんだ!」

「それはそれ、ですよ。まさか、敵のあなたに何でもかんでも話すと思ったんですかぁ? 随分と緩い頭してますね!」

 

 成功したことが面白いのか、それとも私を嵌めた事を喜んでいるのか。恐らく両方だろう。アリスは今までにないほど喜びの声を上げている。実に喧しい。

 

 そこはもういい。これからどうするか、何をしなければならないのかだ。

 

 白式と織斑秋介の保護に変わりはない。これは確定している。今襲われている以上、無視はできない。世界にとっては唯一の男性操縦者なのだ。

 そして私自身が捕まらないこと、サイレント・ゼフィルスを盗られないこと。敵に戦力を与えるだけでなく、こちらの力も弱まる。何より私には耐えられない。

 最後に学園の被害を最小限に抑えること。人的にも物的にも。

 

 ISにとって重要な脚を損傷している現状では中々にハードだ。………仕方が無い、助けを期待できる仲間……ラウラがいいな、緊急の連絡を送ろう。

 

「今度はちゃーんと教えてあげますからね! あ、でも信じるかどうかはあなた次第ですから?」

 

 私に向ける指をゆっくりと腕ごと上へと向ける。ピタリと頭上を指して、こう叫んだ。

 

「私()の今回の作戦目的は、“次作戦の成功を盤石にする為の布石”! 白式も織斑秋介もそのついでに過ぎず、ただのダミーでしかないのですよ! 本来の目的は―――」

 

 急に空が陰る。太陽を見上げれば、一つの小さな黒点が出来ていた。それは次第に大きくなり、近づいてくる。徐々にシルエットが露わになり、レーダーにも反応が現れる。

 

 特徴的な影と、レーダーの識別コードとコアナンバーを見て、私は驚くことしかできなかった。

 

「―――あなた達学園生を絶望に落とすことなんですよねぇ? うふっ」

「兄さん………」

 

 四枚の大型シールド、全身の大小様々な刃、実戦仕様の全身装甲、光沢のない漆黒。

 

 夜叉が……兄さんが、愛用の狙撃銃絶火の銃口を私に向けていた。

 

 





 よくあるパティーンだと思う、うん。



 さて、アリスに関してですが、ビジュアルや性格、その他諸々の設定は後ほどでると思われますので、そちらを見ていただきたい。今回は素人なのに戦場にぽいされるというありえない状況で時間稼ぎをやれと言われたので、普段の自分をかなぐり捨てて無茶苦茶やっています。本当はこんなラリった子じゃないんです……

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