無能の烙印、森宮の使命(完結)   作:トマトしるこ

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 サイズが合わないからつけられないなんてことは無いと思う。多分。

 私は男性なので詳しいことは分かりません。

 その場の雰囲気で乗り切ってくださいww


43話 「これは、私への挑戦状………」

 

 夏休みは終わりを告げ、新しく始まった二学期。一ヶ月後に迫る学園祭のために……もっと言うならば、篠ノ之束からの講義を受ける権利と織斑秋介を部活動に引き込むために、どのクラスも部活動も知恵を絞って票数をいかに稼ぐかを張り巡らせていた。

 

 なお、裏取引など行われようものなら織斑千冬からの制裁と企画そのものが無くなってしまうために、正々堂々を余儀なくされる。

 

 一週間が経過し、諦めたところとそうでないところが見え始め、やる気もまた差が出始めていた。

 

 四組はと言うと………

 

「射的だよ! 絶対射的!」

「NO! お化け屋敷しかないわ!」

「何を言うかと思えば……ハムカフェ以外にありえない!」

 

 既に一週間が過ぎたにもかかわらず、まだ企画決めで揉めていた。ごく一部を除いた殆どのクラスメイトがやる気に満ち溢れ、確実に一位が取れるだけの企画はなんだろうかという論争を続けていたのだ。

 

 四組は、これだけ遅れているにもかかわらず、クラス対抗ランキングで一位を取る気でいるから恐ろしい。

 

 理由は勿論、兄さんにある。

 諸々の事情を隠した上で、“篠ノ之束が森宮一夏の行方を知っているかもしれない”ということだけを話した結果がこの現状を作った。ダウナーでパパラッチ上等な清水も、今回ばかりはやる気を見せてクラス委員代理を務めている。

 

「………ふぅ、やっぱりこの三つから動かないし、決まらない」

 

 第七回緊急(?)企画会議でやっとのこと三つに絞られた企画案は、射的、お化け屋敷、喫茶店(+α)だ。だが、ここまできてもまだ決まらない。

 

 原因は、突き詰めれば簪にある。

 

 というのも、三つに分かれてどれを行うかで完全に三つに分かれてしまったのだ。先生はそれを判断する為に票には入れず、四組の生徒だけで集計してもこうなる。

 

 IS学年は一クラス四十人となっている。二年生からは整備科などの新学科が出来たり、得意分野を伸ばすためのコース選択等もあるため、クラスの人数にばらつきが出るが、一年生の時は入学時に均等に割り振られた為にぴったり四十人なのだ。

 

 ただし、例外として一組と四組が上がる。どちらのクラスも入学者が決まった上で男性操縦者を迎え入れた為に、このクラスは一人多い。

 

 本来の四組は四十一人。ただし、兄さんはいないので四十人になる。これならばフラットになったところでどこかが必ず一票分多くなるので決まるんだが、今現在の四組は三十九人に減っていた。

 

 簪は、二学期初日以降の登校を拒否している。俗に言う不登校だ。

 

 

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

 

 

 今日も決まらずに解散となった。部活動に遅れていく者、今からアリーナへ練習に行く者、PCルームや自室の持ちこんだPCでレポート作成をする者、部屋でゆったりする者など、自由な時間だ。

 

 私は部活もやっていないし、アリーナの申請も出していないので訓練もしない。つかつかとお気に入りのロングブーツで音を鳴らしながら寮を歩いていた。走ってはいけないという規則を律義守ろうとするならこれが最速なのだ。

 

 勿論、簪の所である。

 

 確かにあれはショッキングな光景だ。気丈なラウラと私でさえ声を上げて泣いたのだから。近くに居続け、想い続けてきた簪には強烈だったに違いない。本音は毎晩魘されているし、碌に食事も取ろうとしないと言っていた。

 

 だが、それは私や他の仲間だって同じだ。

 

 何時までも呆然自失としていていいわけが無い。考えることを放棄するのは、兄さんが生きているかもしれないという可能性まで否定する行為だ。それすらも気付いていないだろう。それに、もうそんな事が許される歳でも立場でもない。

 

「簪、入るぞ」

「あ、まどっちだ~」

 

 部屋に入ると、本音がいつも通りの返しをくれる。こいつはいつ見ても癒しだ。

 

「簪は?」

「シャワー浴びてるよ~。ああ、疲れた疲れた……」

「うん?」

「かんちゃんは、もう大丈夫ってことなのさ」

 

 ………ほう?

 

「自分で立ち直ったのか?」

「時間はたっぷりと自分で取ってた(・・・・)みたいだしねぇ。心配で部屋に来たけど、大丈夫そうだよ~」

「はっはっは!!」

 

 そうかそうか、私がこう来るまでも無かったと言うわけか。やはり簪も更識ということだ。

 

 最近は沈んだことばかりだったから、こうして笑うのは久しぶりかもしれない。それが親友の成長を垣間見れた時となれば尚更嬉しい。

 

「よし、私も風呂に入るか」

「ふぇ?」

「私の分の着替えとタオルも頼むぞ」

「えぇ~? じゃあ食堂のケーキで手打ちにしてあげようぞ」

「ああ」

 

 快く買収されてくれた本音に礼を言いつつ、バスルームに入る。内側からカギが掛かっていたがちょっと弄ればすぐに外れた。

 

 洗面所と洗濯機、脱衣スペースを兼ねたフロアには青い籠があり、簪の学生服と下着が畳まれて置かれていた。隣にはピンク色に可愛らしいキャラクターが描かれた籠がある。多分、本音が使っているものだろう。借りるか。

 

 服と下着を脱いで、同じように畳んだ上からウィッグを置く。

 

「………」

 

 二つの籠は隣り合って置かれているので、畳まれた二人分の服が並んでいるわけである。型崩れしたくないし、真っ先に身につけるのは下着なので目立たない程度に一番上にそっと置いている。

 

 青い籠に入れられている水色の下着は、私の黒の下着に比べて結構小さい。まぁ私のものではないし、これの持ち主は小さめだから理由は分かる。

 

 ――この時の私は、今思えば酷く浮かれていた。簪が立ち直った事が嬉しかったんだろう。何故か次に私が取った行動は、水色の下着をとって広げるだけでなく、付けようとしていた。

 

 腕を通して上手くフィットするように整える。明らかにサイズが合わないがそこは無視だ。そして背中に手をまわしてホックを引っかけようとしたところで事件が発生してしまう。

 

「くぁ……キツイ……!」

 

 かなり胸が苦しい。加えて目いっぱい伸ばしているにもかかわらず、ホックは届きそうにない。何度も試すが……くっ……やはり………無理だった。

 

 やり過ぎると今度はブラが痛んでしまうのでもう止めることにした。こんなところを簪に見られてしまっては………

 

「何、してるの?」

「あ」

 

 見られて、しまっては………

 

「ねぇ、それ、私の……」

「ま、待て! これには深いワケが……!」

 

 しまっては………!

 

「バカアアアアアアアアァァァァァ!!」

「キャアアアアアアアアアアアァァァァァァァ!!」

 

 こうなると言うのに………。

 

 柄にもなく、黄色い声で叫んでしまった………。本音曰く、寮全体に響いたとか。

 

 

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

 

 

「もうっ……!」

「すまんすまん、つい気になっただけなんだ」

「だからってあんなこと……もう止めてよ?」

「ああ、誓ってしない」

「はぁ………」

 

 簪が大人しくなるまでされるがままだった私は、私の着替えを取りに部屋へ向かった本音が止めに来るまで揉まれたり撫でまわされたりと大変だった。互いに裸だったものだったし、簪に至っては風呂上がりということもあって、当初の予定通り一緒に風呂に入った。とはいえ、個室にはシャワーしかないので、狭い空間で身体を寄せ合いながら浴びる。

 

 不機嫌全開だが、まぁ昨日までの様な人形状態に比べればはるかにマシだ。心底悪いと思い心から謝るが、ついつい顔が綻ぶ。簪も分かっているのか、それ以上は何も言わなかった。

 

「……ごめんね」

「気にするな。何のために兄さんや私、本音がいると思っているんだ?」

「……ありがとう」

 

 確かにこの一ヶ月は大変だった。だが、私達はそれだけで十分だ。お金が欲しくてやっているわけじゃないのだから。……まぁ、給金はしっかり森宮から貰っているが。

 

「腹を括ったか?」

「……っていうより、開き直ったのかな?」

「ほう?」

 

 簪お気に入りのシャンプーで頭と髪を洗ってもらう。美容室で初めて知ったが、自分で洗うよりも、他人にやってもらった方が気持ち良い。誰かと一緒に風呂に入る時は、決まって髪を洗うのをお願いしていた。

 

「生きてるって信じたくて、でも信じられなくて、どっちが本当なのか私の中でもごちゃまぜになって、考えようとすればするほど、血で濡れた一夏を思い出して頭が痛くなるの。だから、もう嫌になって止めた」

「して、どうする?」

「動く。勉強に詰まったら運動したりするのとおんなじ。痛みがすーっと消えてね、すっごく楽になったの。考えたりするのは好きだけど、今は動きたい。何もしないで泣くのは、できることをやりつくした後でいいから……」

「ふふ、そうだな。強くなったじゃないか」

「一夏と、マドカのおかげ……お姉ちゃんに負けたままは嫌だし、私も、更識だから」

 

 にこりと笑って、簪はシャンプーを流してくれた。

 

 

 

 

 

 

*********

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、簪は登校した。そして行われる第八回緊急企画会議は朝のHRが始まる前に行われた。票数が完全に割れていながら誰も変えようとしないので、ぶっちゃければ簪の一票で全てが決まる。それを誰かが聞いていればいい。

 

「更識さん!」

「……大丈夫なの?」

「うん。ありがとう」

 

 心配するクラスメイトをかき分けて机につく。道具をカバンから出す前に、清水からそれはつきつけられた。

 

「これは?」

「学園祭でやる企画なんだけど、票が均等に割れちゃったのよ。更識さんの一票で決まる状態ね」

「ま、まだ、決まって無かったんだ……ごめんなさい」

「いいのよ、あなたに責任はないわ。あーあ、頑固者ばっかりの馬鹿共からそんな台詞が聞きたいわ」

 

 それはつまり、クラス全員に土下座を要求しているということか。甘いな、そんな奴は一人もおらんよ。

 

「はい、どれにする?」

 

 そう言って清水は紙を簪に渡した。筆箱を取り出した簪は、少し悩んだ様子を見せるとボールペンを走らせる。

 

 受け取った清水はため息をつきながらも笑っていた。

 

「はぁ、あなたも馬鹿なわけね」

「妖子だって……自分の票を移動させなかったんでしょ?」

「そうだけどさぁ。あなたには負けるわ」

 

 簪は正の字で書かれた票数に一本加えるのではなく、新たに企画候補を上げて横棒を一本足していた。

 

「“アクセサリー製作”ね」

「皆で機械を組み立てるの。お願いされたアクセサリーを自由に作れる機械。球体からフィギュアまで作れるような」

「得意分野じゃない。攻めるわね」

「……当然。だって、私は更識簪だもの」

 

 技術、工作、整備面に置いては楯無と姉さんすら上回る簪は、クラスを一位に導くために本領を発揮できる分野を選んだ。自分の一声で全部決まるこの状況で、我儘を押し通すというのだから。本気なのは分かるがそこまでやるか……?

 

 簪も、楯無の妹なのだな。

 

「だってさ? どうしようか?」

「まぁ、どうするのか聞きたいよね」

「参考になるデザインをデータで読みとって、忠実に再現する機械を組むの。大きさに制限はあるけど、色んな形にしたりする機能もつければ、多分たくさんの人が来てくれる」

「おお、なんか凄そう……」

 

 作った機械にデータを送り、あらかじめ補充してある材料を使って、データ通りに物体を再現する。

 

 “3Dプリント”という技術だ。原理としては、立体を何層にも及ぶ平面で解析し、平面を重ねていくというもの。私が知っている物はシリコンを使っていた。実用化はまだ先になると言われている。

 

 つまり、簪は最先端の技術を自分達で作りだそうと言うのだ。ただの学生が、である。

 

 このことにどれだけの人間が気付いているのか分からないが、とんでもないことを平然と口にしたり実行しようとする。

 

 更識はこんな女ばかりなのか?

 

「あー、工作かー! 料理作るより楽しそうじゃん!」

「輪ゴム鉄砲作るよりは学園らしいんじゃない?」

「高校でお化け屋敷もアレだしねぇ……」

 

 そしてウケが良い。まったく………

 

「じゃあそれで。四組は“アクセサリー作成”で出すわ」

 

 この一週間はなんだったのやら。あっさりと塗り替えた簪もそうだが、それを拒まずに受け入れたこの面子も中々に面白い。

 

 ここは良いバカどもの巣窟なようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ただでさえ四組は一週間も出遅れている。私のせいではないと皆は言うけど、部屋に引きこもっていた私に責任が無いわけではない。むしろ、参加すらしなかったのだから大きい。

 

(普通にやっていたんじゃ追いつかないし、完成度も高くはならない。並ぶだけじゃダメ、他のクラスを追い抜くだけのものじゃなくちゃ………!)

 

 だからこそ、他の案を一蹴した上で最も得意とする工学系企画を提案した。通るのかは賭けだったけれど、案外すんなりといった。サボっていた私を何の文句も無く受け入れてくれた皆に感謝だ。

 

 期待されている。

 

 絶対に成功しなくちゃいけない。

 

「簪、作れるのか? 疑うわけじゃないが、3Dプリントはかなり最先端の技術だ。まだ試作機が作られたばかりの段階だったはず」

 

 マドカが言った通り、これは難易度が高いなんていうものではない。世界中の技術者を相手に喧嘩を売るようなものだ。何せ、私が作らなければならない物は試作のものではなく、来客相手にお金を取って売る商品を作る完成品だ。つまり、世界の先を行く行為。

 

 当然、原理は私も知っているけれど細かな設計図やOSは自作しなければならない。工具は兎も角、ここには無い部品もあるだろう。私だけでなく、他にも技術畑の人がいれば何とかなりそうだけど、四組にはそんながっつりとのめり込んだ人はいない。私が軸になり、中心になって皆を導く。

 

 かなり高いハードルを自分で設定したものだ……。実現できる可能性なんて数パーセントしかない。頼りにしていた一夏もいない。だけど、いや、だからこそ……!

 

「これは、私への挑戦状……」

 

 弱い自分への挑戦。へこたれていた私には丁度いい機会だ。

 

「負けない」

 

 お姉ちゃんは一人であれだけの機体をくみ上げた。ISは最先端を行く技術の結晶だ。追いつくのなら、並ぶのならば、更識であるのなら……この程度(・・・・)はできなければならないこと。

 

 目の前にデスクには膨大な量の紙が散らばり、積み上げられている。同じかそれ以上のデータが、愛用ではない眼鏡型のディスプレイに投影されていた。本当なら馴染みの物を使いたいけれど、あれでは並列処理に限界があるので高性能なものを引っ張り出してきたわけだ。

 

 視界には大量に散らばるデジタルとアナログのデータ。設計図は勿論、理論や有名な著書に論文などなど、使えそうなものは私が持っている全てが揃っている。実家からも大量に持ってきてもらったし、足りない物は図書館へ足を運ぶなり、更識としての高い権限で家のPCを使えば殆どの情報が揃うはず。

 

 あとは私次第。設計図さえ引けば、マドカや妖子が仕切ってくれる。

 

 視線を上げると、ズラリと並ぶ教科書や工学関連の著書に、私が学んできた全てを記し、今なお増え続けているノート。更に上へと上げれば視界を埋め尽くすほど大きなコルクボードが掛けられている。全て写真で埋められていた。

 

 意外なことに、一夏は写真を取るのが好きだ。

 

『その時、その場、その雰囲気、その風景、その人物。全てがこんな紙きれ一枚に全て詰まっているのです。こんなに便利且つすばらしい物はないでしょう?』

 

 なんとなく察したその言葉の意味を、私なりに解釈して、大切にしている。

 

 この中で古いのは……多分、これ。

 

 一夏が仁さんに引き取られたばかりのころ、私とお姉ちゃんが初めてあった日だった。この頃はとても怖くて、痛々しい姿をしていたっけ。目がうつろで、言葉も片言であやふやだったし、数分前の会話の内容でさえ忘れている。まだ蒼乃さんとも上手く話せていないということでかなり珍しい。

 

 その次は何とか手をまわして手に入れた秘蔵の一枚。風邪をひいて寝込んでいた私を看病していた時に見せた初めての笑顔。よく見なければ分からないほどに動いた表情筋が見せるそれは、どう見ても無表情だが私には分かる。励ますための精一杯の笑顔だった。きっと、一夏はもう覚えていない。

 

 それからもずっと、ずっと、私が暮らしてきた時間がここに詰まっている。一夏と、お姉ちゃんと、蒼乃さんと、虚と、本音と、マドカと、リーチェと、ラウラと、妖子と、みんなと………。全部詰まってる。

 

 私の宝物。

 

 そっと撫でて、一枚一枚を思い出す。

 

 馬鹿をやったこともある。

 

 小言を言われて落ち込んだこともあった。

 

 逆に私が一夏にお説教をしたことも………あったっけ?

 

 ………そう、大切なもの。きっと、何時までも私に元気をくれる。

 

「よし」

 

 設計図の製作にとりかかろう。

 





 今回は少し調べ物をしました。

 終盤に出てきた「3Dプリンター」です。

 参考にしたサイトでは1980年には既に開発が始められ、それから数年後には第一号が完成していた、と書かれていました。そして今では個人用まで製作されているそうです。数字が苦手な私はこのあたりの事情をよく知りませんが、現代においてはそこまで珍しいものではなさそうです。

 ISが作成されているのなら、アニメ版のように電子ボードがあったり一人ごとの机が機械満載な雰囲気なので、相当技術が進んでいると思います。とっくに3dプリンターなんて作られているはずです。

 敢えてスルーしてください。修正しようがないほど書き溜めてしまったのです……

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