無能の烙印、森宮の使命(完結)   作:トマトしるこ

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 しばらく家を開けるので、ならばと急いで書きました。



 前回で束さんに多くの疑問を持たれたでしょう。

 「誰だよお前ww」「なんか態度が違うんですけど……」

 単に言えば、無能ではなく才覚を見せた(見た)束さんは一夏を気に入ったのです。でも色々と昔言っちゃったし、自分のせいで人体実験にまで合ったもんだからもうしわけないなぁーとも思っています。

 これ以上は先の展開に関わるので「おくちミッフィー」ですが、おかしくね? と思われた方々、どうか矛を収めていただきたいです。

 それではどうぞ。


37話 「久しぶりに暴れるとするか」

 ふと、目がぱっちりと覚めた。壁にかかった時計を見ようとするが、暗くてよく見えない。結局、待機状態の白式を起動させて時刻を確認した。

 

 午前二時過ぎ、か。

 

 今日……いや、昨日は朝からバタバタしていた。二度あることは三度ある。予定通りすんなりと臨海学校が終わるとは思ってはいなかったけど、束さんが来て、既に第四世代を完成させていて、それが箒へのプレゼントになってて、アメリカの実験機が暴走してそれを止めて………大変だった。昼には全部終わったと言っても、内容が内容だけにまだ疲れが抜けきっていない。

 

 千冬姉さんはこんな時間になっても部屋に帰っていなかった。まだ事後処理に追われているのだろうか……。

 

 大分目が慣れてきた。そこで気付く。

 

「森宮がいない?」

 

 福音を撃破してから、俺達専用機を持っているメンバーは自室待機となり、各々が話す時間も無く部屋に押し込められた。食事もわざわざ部屋まで運んでもらうという徹底ぶり、外には教員が張りついていると森宮が言っていた。備え付けの露天風呂に入って寝るまで、俺は森宮と二人きりだった。

 だが目を開けてみればどうだろうか。隣の布団はもぬけの殻、トイレと風呂の電気もついていないのでこの線はない。

 

 いったいどこへ?

 

 最近知ったことだが、アイツは意外と優等生だ。言いつけはしっかりと守るし、礼儀も正しい。学力に目をつぶれば、学生としては申し分ないと噂になっている。先生が寝ろと言えば寝るし、今日に限っては「簪様」とまるでお姫様のように接している女子からもゆっくり寝るように言われていたみたいだし、目が冴えたからとかいう理由で外を出歩くことはないと思う。

 

 ………何かあったのかもしれない。もしかして、福音がまだ絡んでいるのか?

 

 そこまで行きついた俺は、音を立てないように布団から這い出て、ISスーツを中に着こみ制服に着替えた。

 ヘッドギアだけを部分展開して、廊下に繋がる引き戸に耳を押し当てて外を探る。音響とサーモセンサーを使えば外で人が歩いているのを簡単に知ることができた。ラウラに感謝しつつ、窓の外から出る方向に切り替える。

 

 カーテンを静かに開けて、月明かりが部屋に入る。雲のない空には大きな月が浮かんでおり、それを切り裂くように黒い影が過ぎ去っていくのを、白式が捉えた。

 

「あれは……夜叉?」

 

 識別は間違いなく味方で、コアナンバーと機体の特徴から見て間違いない。森宮は既に旅館の外に居て、そこから夜叉を使ってどこかへ向かったんだ。

 

 何が起きているのかは分からない。でも、何かが起きているのは確かだ。

 

 行こう。俺にもできることがあるはずだ。

 

「白式!」

 

 俺の声を聞いた相棒はすぐに光を発して姿を現す。目立った損傷のないボディは月明かりに照らされて白く輝いている。好調だ。

 

 PICだけを使ってふわふわと高度をあげ、雲が浮かぶ高度へ達したところでスラスターを全開にして夜叉を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〓〓〓〓〓〓〓〓〓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やはり遅いな。それもそうか、脚部スラスターとPICだけじゃ速度が出るはずない。量産機だって追いつけるだろう。逆に、メインのスラスターを欠いているにもかかわらずこれだけの速度が出ていることを驚くべきか。

 

 どうでもいいか。追い掛けやすいし、気付かれたところで反撃できないだろう。学園側がかけていたリミッターは外されたまま、稼働率は80%という入学前の性能を取り戻している。大抵の事態には対応できるはずだ。それでも苦しいならさらにリミッターを外せばいい。

 

 時折揺れながら飛び続ける福音を遥か遠くから捉えながら、そんなことを考えていた。

 

「そろそろか。夜叉、無人機の位置はどうだ?」

《真っすぐ福音へと向かっています。一秒でも早く回収したいのでしょう》

「距離は?」

《福音との距離が約1000m、無人機集団との距離が約8000mです》

「ものの数分でぶつかるな」

《コール『LZ-ヴェスパイン』『炸薬狙撃銃・絶火』。どちらを使われますか?》

「絶火にしよう」

 

 俺の意図を察した夜叉が狙撃銃を二つ展開する。ある程度距離を詰めたところで停止して、狙撃で確実に数を減らす。

 

 シールド内側にあるアームを使えば、夜叉がその武器を使う事ができる。この特性を活かした二丁狙撃だ。これが結構効果的で、今回の様な追撃戦ではなく防衛戦や殲滅戦ではかなりの脅威になる。先制、援護にも使えるなど距離さえあれば汎用性が高い。勿論登録している武装であれば何でも使えるため、その気になれば銃六丁にミサイルという鬼畜弾幕を一人で張れるのだ。

 

 手の中には絶火。第一シールドにはヴェスパインが現れる。

 

 福音との距離を常に1000m保ち、無人機との距離が3000mを切ったところで狙撃体勢に移った。

 

 エネルギーが充填されていくいヴェスパインの銃口が緑色に光り、輝きを増していく。右目の端でそれを捉えながら狙撃モードへ以降、視界が一気に狭くなり、スコープが覗く先の景色だけが脳を占める。このモードは望遠倍率を何倍にも伸ばす仕様で、超長距離狙撃に使う。今回は夜叉がヴェスパインを使うためにアシストを受けられないので、保険をかける意味で使用する。

 

 いっぱいに広がる無骨な機体。全身を装甲で包み、青く光る一つ目が福音を捉えようと進行方向を見つめていた。篠ノ之博士から貰ったデータ通りの外見をしている。

 

「ISに比べれば少し小さいな」

《楯無ちゃんが言っていた通り、ISとは違った技術を採用しているのかもしれません》

「もし有人機だったとしたら、あれには男が乗っているのかね」

《大惨事です》

「まったくだ。面倒極まりない」

 

 今度は男が調子に乗る時代が来たりして……。

 

 程よく拡大したスコープの先では、無人機達が速度を緩め始めていた。完全にストップしたのを確認して、倍率を下げる。福音と合流した様だ。

 

「俺が先に撃つ」

《はい》

 

 絶火の弾丸は炸薬弾……つまり、着弾すると爆発する。爆炎が起きるのは分かっているが、絶火の1マガジンには一発分しか込められない。大口径高火力極大爆発半径のツケだ。マガジン交換の時間をヴェスパインで繋いでもらう。

 

 あらかじめ左手に次のマガジンを用意しておいて、もう一度倍率をあげる。狙いは……丁度連中の中心にいる一機だ。

 

 風を読み、サイトの中心に胸の部分を捉えて、人差し指を引く。

 

 腕が吹き飛ぶであろう衝撃を難なく抑え、絶火は狙い通りに弾丸を吐きだし、無人機の中心を捉えて炸裂した。直撃した機体は五体バラバラになって海へと落ちて行き、すぐ近くに居た数機にも無視できないダメージを与える。

 

 少しだけ倍率を下げ、すぐにマガジン交換に移る。こちらを向いた全機体の内、もっともダメージを受けていない奥の一機がニュードに貫かれ四散。ヴェスパインによって頭部を丸ごと溶かされた。

 

 すぐに第二射を放つ。今度は福音を巻き込むように、盾になろうとした一機の胸を吹き飛ばし、もう一機分海へ沈める。絶火同様に一発ずつしか撃てないヴェスパインもチャージを完了し第二射、またしても無傷の機体を破壊した。

 

 これで十二機の内四機を撃墜。あっと言う間に三分の一を失った連中は迷わず撤退を選んだ。速度の足りない福音は、まだ無傷の無人機二機が両方から支えてカバーしている。

 

 ここからが本番だ。

 

「よし、行くぞ!」

 

 絶火とヴェスパインを収納して狙撃モードから通常の戦闘モードへ切り替える。代わりにジリオス……ではなく久しぶりにティアダウナーを取り出す。使用禁止を言い渡されていた“魔剣”だが、ここは学園ではない。存分に振り回すとしようじゃないか。

 

 IS一機分の大きさと重さのあるそれを片手で握り、肩に担ぐ。左手には同様に危険度の高いジリオス。一番、四番にお蔵入りしていたニュード軽機関銃『ヴルカンMC』をアームに接続、悪質なまでの集弾率の悪さと引き換えに大量の装弾数を手に入れたコイツで、いつにもまして広範囲の弾幕を張る。二番、三番にはクラスターミサイルを装填して発射態勢を整えた。

 

 爆発的な加速を持って突撃、あっという間に差を詰めて最後尾の一機をティアダウナーで串刺しにして縦に両断する。綺麗に二等分した機体の間を進んで、ジリオスで並走していたもう一機の首を飛ばして胸に突き立て、海へと放り投げた。

 

「随分脆いんだな」

《シールドエネルギーの類は無いようです》

「だとしたら装甲だけなのか……それは兵器として大丈夫なのか?」

《私達が気にすることではありませんよ》

「それもそうだ」

 

 残り六。

 

 更に速度をあげた残りの連中へ向けてミサイルを放つ。六発のミサイルは、計四十八発のミサイルへと姿を変えて追い始める。その内の半分、二十四発は無人機の先頭を追い抜いて、500m先で反転して頭を叩くように迫り、もう半分は上空から雨のように降り注いだ。そこへ追い打ちのヴルカンを叩き込む。

 

 爆発の嵐であたり一帯は焦げ臭さと熱風で包まれる。煙やら破片やらが舞い上がる中でもセンサーはしっかりと状況を把握していた。

 

 福音含めてあと三機か。丁度いい、鹵獲するか。

 

 福音は当然捕まえるとして、篠ノ之博士の依頼で一機“なるべく”無傷で連れて帰る必要がある。それとは別で一機欲しかった。

 もしあれがISとは別系統の機体なら、技術も違う部分が多いはず。解析すれば以前姉さんが手に入れたコアと相まってハイブリッドISが作れるかもしれない。更識の勢力拡大を考えれば、喉から手が出るほど欲しかった。

 

 夜叉が持つ武装はどれも一撃必殺の火力を秘めているモノばかり、鹵獲には向いていない。なので、またもやお蔵入りしていた武装を引っ張りだす。

 

 『スタナーJ2』という、グリップの先に二本のクローがついた独特な武装だ。弾が出るわけでもなく、ニュードの刃が出るわけでもない。ものすごく簡単に言うなら、スタナーは“スタンガン”だ。ただし、威力は魔改造したそれの比じゃない。IS用に調整されている為に、通常の機械なら回線を焼き切ってしまうほど強力だ。これはコアによるシールドエネルギーで威力を減衰される前提で作られている。

 

 福音は兎も角、無人機ならどうだろうか? コアの反応は無い。つまり、シールドエネルギーは無く、それに類似したシールドが発生している様子も無かった。

 

 ということは……

 

「……結構効いたな」

 

 ある程度痺れてくれればいいかな、ぐらいの気持ちだったが、かなりの高威力だったらしく一つ目型のセンサーアイが光りを失ってがくりと力を抜けて倒れこんできた。これだけの質量を動かすものすら機能停止まで追い込むのか……。有人機のタイプがあるのなら、使用は控えるべきかな。

 

 シールドのアームを上手く使って固定し、二機目も同じように機能停止させる。

 

 残った福音は大した脅威でもなく、適当に攻撃を加えてシールドエネルギーを貫通して絶対防御を発動、あっという間に機能停止まで追い込んで無力化した。

 

「あっけない」

《まあこんなものでしょう》

「一回目の福音戦もあっさりと終わったしな」

《まあ意識を乗っ取られていては勝てる戦いも勝てはしませんから。あれはこちらの勝ちで終わるべき作戦でした》

「無人機でのお出迎えまで用意された出来レース、か」

《そう考えるのが妥当です。ならば――》

「おーい!! 森宮―!」

 

 鹵獲した無人機をシールドのアームで固定し、機能停止した福音を片腕で抱える。夜叉との会話をぶった切るように、そこへ何故か織斑が来た。

 

 困ったな。これで怪我でもされるとこっちが困るんだが……。

 

 時間が時間だけに、起きていないだろうと勝手に決めつけていた。学園では消灯時間まっただ中だし、先生が同室だから尚更だろうと思っていたんだが……。まぁ、手洗いに行く途中に見られたのかもしれないな。だとすれば、俺も鈍ったもんだ。

 

「お前、何でここにいる?」

「いや、起きたらいないし、なんか夜叉が見えたから」

「先生からの許可は貰ったのか?」

「まさか。姉さんはまだ部屋に帰ってきていない」

 

 連絡もせずに飛び出してきたのか……。言えば止められただろうし、俺も力づくで呼び戻されたかもしれない、そう思えばまだマシな結果だろう。

 

 ここに織斑が来たからといってやることに変わりはない。面倒事が増えただけだ。随分と厄介で性質の悪い面倒事がな。

 

「まあいい。戻るぞ」

「なあ、何で福音がここに居るんだ? それに、そっちのISは前に襲撃してきた奴とそっくりじゃないか。何があったんだ?」

 

 ………。正直に話しておこう。依頼に触れる部分だけはお茶を濁せばいい。

 

「福音が再暴走してな、追いかけた。すると待っていたのはこの無人機というわけだ」

「……下の残骸は無人機なのか」

「行くぞ。もうここに用はない」

「ああ。……俺も運ぼうか?」

「そうだな……なら、福音を任せようか。暴れ出しても抑えられるだろう?」

「おう」

 

 怪我でもされると堪ったものじゃない。武器満載の無人機よりも無防備状態の福音の方が織斑でも組みしやすいはずだ。

 

 衛星から送られる情報を頼りに旅館へ向けて移動する。篠ノ之束と会った森はすぐ近くにあるので、同じ方向を目指せば後はどうとでもなる。……向こうが同じ場所で待っていれば、だが。どこかで見ているだろうし、向こうが欲しがっている無人機は俺の手の内にあるんだ、連絡ぐらいは寄越してくれるはず。

 

 織斑が福音をしっかりと抱きあげたのを確認して、白式が追いつける程度の速度で移動を開始した。

 

 そういえば………

 

(夜叉、お前さっき何を言おうとしていた?)

《ああ、そうでしたね。我々が福音を取り返そうと追撃してくる事を想定しているのなら、増援や伏兵がいてもおかしくは無いでしょう? 何せ作戦に参加したISは全て専用機なんですから》

 

 確かに……。無人機作成にかかるコストや労力を測りきれない今では何とも言えない事だが、既に大量生産されているのなら数にモノを言わせた物量戦を仕掛けてこないとも限らない。むしろ福音の暴走よりもこちらがメインの可能性もある。

 

 だとすれば……男性操縦者が二人だけ、荷物まで抱えているこの状況は連中にとって絶好の機会。

 

 たらたらと飛んでいればあっという間に落とされる。織斑をロープで牽引してでも速度を出して戻るべきだ。

 

《高エネルギー反応! 場所は……二時の方角にあるあの無人島です!》

「なにっ!?」

 

 行動を起こそうとしたところへ夜叉からの警告。大丈夫だ、コレをやり過ごせば振り切れる。

 

「織斑!」

「狙われてるってんだろ!? 分かってる!」

「傍を離れるなよ!」

 

 シールドのない白式はこういう時不便だ。盾代わりの速度も福音(デッドウェイト)のおかげで活かせず的になるだけ。夜叉には携行できるシールドなんて搭載していない………いや、あれがあったか。

 

 二度目の襲撃で使った『バリアユニットγ』がある。内蔵エネルギーが切れればリチャージまで使えないが、無いよりはマシだ。

 

「コイツを使え。覚えているか?」

「懐かしいやつ持ってんじゃん」

 

 無駄口をたたきながらも受け取った織斑はバリアユニットを起動、直後展開されたバリアにエネルギー弾が命中してバチっと面前で弾ける。間一髪とはこのことだ。

 

 次に取り出したのは頑丈なロープ。装甲を掴ませたりすると剥がれてしまうし、手を握ってしまえばとっさの迎撃が間に合わなくなる。身体と身体を括りつけるのが安全だ。相応のリスクもあるが、振り切ってしまえば問題はない。

 

「福音をいったん預かるから、ロープをしっかりと結んでおけ」

「お、おう」

 

だらりと腕を垂らした福音を脇に抱え、周囲を警戒しシールドで狙撃を防ぐ。暢気に見えるかもしれないが、四方八方からの狙撃の雨は止まない。四枚のシールドと、刀身が大きく頑丈なティアダウナーで弾くなどして被弾しないように必死だった。無人機に傷がつくことも怖いので割と気をつけている。

 

 俺はというと、既に結ばれた状態で展開したので防御に専念できた。

 

 あとは織斑の準備が終わるのを待って、夜叉が敵位置を特定できればすぐにでも動ける。

 

「結んだ!」

《完了です、視界に表示します》

 

 噂をすれば、だな。

 

 織斑はもやい結びと呼ばれる方法でお腹の部分を縛っていた。よく知っていたなと思いつつ、しっかりと結ばれていることに安堵する。最悪縛り直すかと考えていたが、その必要は無さそうだ。

 夜叉が射線から割り出した敵の数はおよそ二十。さっきと合わせて三十以上の無人機が作られていることになる。敵は相当な資源と資材を持っているらしい。加えてどの機体も俺達を中心とした半径1km以内には存在しない。そして、どれもが狙撃銃や榴弾砲などの単発で高火力な砲撃をタイミングよく連射してくる。

 

《さらに増援! 数は……三十! 太平洋を北上してきます!》

 

 倍率の下がった衛星からの映像が視界の隅に表示された。密集した幾つもの赤い光点が虫の大群のようにこちらへ向かって来ている。

 

これで六十か。間違いなく、再暴走した福音を捉えに来るISが目的だな。篠ノ之束め……覚えていろよ。

 

「急ぐぞ」

 

 返事も待たずに加速する。過ぎ去る景色と、掠めるエネルギーを感じながら更に速度を上げた。織斑は……まだいけるな。

 

 矢のように真っすぐ飛び、時折直撃弾を回避する為に身体を傾ける。織斑への負担もなるべく少なくなるように気をつけているが、そろそろ気にしていては避けられなくなるほどエネルギーの雨が酷くなってきた。追いぬいた機体が追って来ながら撃ち続けているのである。

 前方だけでなく、後方を含めたあらゆる方向から負傷必死の弾丸が当たれば御の字と言わんばかりに迫る。いつも以上に繊細な操縦に精神が削られるも、乗り切るまでの辛抱だと思って耐えた。

 

「抜けた!」

 

 密集していた敵地帯を突破した途端、織斑が叫んだ。夜叉の声も聞こえず、データリンクしていないこいつには後から来る増援を知らないんだったな。その方が都合いいから教えないが。

 

 速度を落とさずに後ろを見ると、確かに二十に近い数の機体がこちらに銃を向けながら追って来ている。姿形はまんま鹵獲した機体と同じで、武装にも大きな違いが見られない。複数のタイプがあるのかと思っていたが、この一種類しか開発していないようだ。

 

 鹵獲した二機はここで破壊して、新しくもう二機鹵獲するかな。そっちの方が多分手早く済む。

 

 織斑は………

 

『おい、お前等今何処にいる?』

「ち、千冬姉さん……!」

 

 ……ナイスと言うべきなのか、しまったと悔やむべきか。どちらにせよ、織斑が自分からここへきて、織斑先生が通信を繋いできた時点で“巻き込まない”という条件は達成不可能だ。口止めしようとも見られているだろうから言い逃れはできない。せめて影響の及ばない形で締めなければ。

 

「福音が再暴走を起こして脱走した為、追い掛けました」

『たったの二人でか?』

「元々は私一人でしたが、それを見ていた織斑が後から追ってきたため、二人です」

『なぜ報告をしなかった?』

「すれば呼び止めたでしょう? 追いついた先には十を超える無人機が待ち構えていました。恐らく迎えに来たのだと思われます。専用機持ちを起こして作戦を立て準備をしていれば逃げられていました。それに―――」

『ああ、分かった分かった。言っていることは正しいと分かる。続きは帰ってからだ、とりあえず早く戻れ』

「はい」

 

 何故か深追いされることなく通信が切れた。戦闘音が聞こえていなかったのか……?

 

「なんか姉さんきつそうだったな」

「きつそう?」

「いつもなら絶対にあんな風に折れたりしない。多分ついさっきまで事後処理に追われていたんだろ」

「流石のブリュンヒルデも、疲労には抗えないか」

 

 言われてみればそんな雰囲気だったように思える。まぁなんにせよ好都合だ。最難関の織斑先生は結果的に俺達が置かれている状況を理解していない。織斑に口止めすれば拡散することはないだろう。が、悠長にもしていられない。捉えたはずの福音が居ないと分かればすぐに別の作戦が組まれる。というかこれだけの時間が経っているにも関わらず、未だに福音が逃げ出したことが知られていないという時点でおかしい。

 疑問や不信感は尽きず増える一方だが、請け負った以上はこなす。勝手に何かやって失敗したとなればまた面倒だ。

 

 最優先は織斑の安全確保、次に無人機を鹵獲して届けること。これさえ守れればいい。

 

 その為には………

 

「織斑」

「?」

「今からロープを切り離す。お前はそのまま旅館に戻って福音を元いた場所に戻して縛りつけておけ」

「お前はどうするんだよ?」

「俺はここで足止めだ。このままだと旅館にまでこいつらはついてくるぞ」

「だったら俺も……!」

「足手まといだ。それに、俺は俺の事情があってここにいる。ガキは帰って寝てろ。ばれるなよ」

「………分かったよ」

 

 言いたげな表情だったが、足手まとい、の部分を強調したこともあって渋々引き下がった。悪いことじゃない。実力の無さを理解し、できることを選んだだけに過ぎない。シールドの有無や能力の違いで役割が変わることとなんら変わりはないのだ。

 

 今のお前がやるべきことは、福音を無事に連れ戻して元に戻すこと。誰かを心配させないように。

 

 夜叉の右腕に白式がしがみつくように両腕で握りしめ、空いている左手にジリオスを展開してロープを切る。加速する白式を牽引する為にこちらも速度を上げ、速度型IS二機のスピードをもって後ろにいる群れを振りきった。

 

「いくぞ!」

「こい!」

 

 更に加速を重ね、白式の重みを感じる右腕を振り抜いた。シャトルの如き速度に乗った白式はあっという間に水平線のかなたへと消えていった。まるで白い流星だな。福音を担いで尚あれだけの速度が出るのか………。自分の周囲がアレだから忘れそうになるが、白式もまた最先端の技術が詰まった高性能な機体だ。外部の追加ブースターさえあればあの程度は造作も無いだろう。

 

「さて……」

 

 最大の懸念だった織斑は旅館へ向けて旅立った。道中に無人機が居なければ無事にたどり着けるだろう。反応も無いし、ここよりさらに旅館へ近づけると探知されるだろうから居ないと予想したからこその行動なんだが。

 

 続けて荷物になっている鹵獲した二機をジリオスとティアダウナーで切り裂いて破壊した。シールドの内側に固定されているコイツに命中して爆発でもしたらひとたまりも無い。特殊な装甲を採用して入るが、防御力が低いことには変わりない。あっという間にシールドエネルギーが底をついてしまう。敵に投げ返して復活されても困るので俺の手で壊す。

 

 ようやく身軽になった。出来れば旅館に戻ってからこの感覚を味わいたかったんだがな………。

 

 それにしても、随分と聞きわけが良かったな。前みたいにガツガツと突っかかって来るかと思っていたが。

 

《信頼されているのでしょう》

「アイツが、俺に?」

《ここにいれば邪魔になる、という考えもあったでしょう。ですが、そこに至る前にマスターなら大丈夫だと判断したはず。信頼以外の何と言いましょうか?》

「………好きに言ってろ」

《はい。………嫌なのですか?》

「人間的にはそうでもないさ。というか、俺にとっては身内以外はどうでもいい。だが、アイツはちょっとなぁ………」

《ほうほう?》

「“天才”って奴は、なにかと“無能”との相性が悪い。姉さんや楯無様は稀なお人だよ」

 

 本当に、そう思う。

 

 会話がふと途切れて、波の音が響き始める。何をどう切り出せばいいのやら、そもそも不味いことを言ったのかすら分からない。怒らせてしまった時の様な沈黙に似ている。

 

 耐えきれずに口を開こうとした時、警報が鳴る。

 

「夜叉!」

《五十機がこちらへ来ます! ロックオンされました!》

「狙撃と榴弾か……!」

《続けて増援……数三十!》

「まだ来るのか!? 流石の俺でも驚くぞ……! 何処から来る?」

《既に遭遇している……? そんな、でも……。いや、まさか……!?》

「おい、どうした?」

《上から、来ます》

「上?」

 

 そう言われて真上を見上げる。現在位置の高度は雲より低いが、今夜は晴れているために月と星が綺麗だ。当然、映るのは夜空と星ばかりで機体は見えない。

 

 いないじゃないか。そう返そうとして、ふと気になるものが目に映った。その部分だけを拡大して視界の一部に映す。あれは……光っているが星じゃないな。それに少しずつ動いている。

 

「まさか……!?」

 

 その光点は動くにつれて赤へと輝く色を変えていく。続いて、同じような光がどんどん増えていった。その数は……軽く二十を超えている。

 

「大気圏外からだと!?」

《全ての機体が単独で突入しています! あと数分で全ての無人機がここへ……およそ八十!》

「質より量というわけか……」

 

 一機がどれだけの性能を秘めているのかは分からない。篠ノ之博士が渡してくれたスペックデータもざっと目を通しただけだし、アレが確実に正しいとは限らないのでポテンシャルが測れないままだ。最低でも、数機集まればアリーナのシールドを突破できるだけの火力は備えている、量産タイプだろうと無視はできない。

 

 数が多いものだから量と例えたものの、質だってかなりのものだ。例えばの話、ISの劣化品だとしても、あれだけの数がいれば国家代表といえども撃墜は免れられない。国を潰すなどたやすく行えるだろう。それだけの戦力だ。

 

 が、それは一般的な見解に過ぎない。

 例えば、一騎当千……いや、万、億に置き換えても尚表現できないほどの力を秘めた実力者ならばこれだけの戦力も“この程度”に成り下がる。

 

 もっと言えば、世界最強の姉とか、学園最強の生徒会長とか、その僕で弟とか。

 

「久しぶりに暴れるとするか」

 

 手ごたえのありそうな戦いに、心が高ぶった。

 




 前書きも後書きも書くのは久しぶりな気がします。

 それはさておき、ここからは若干のネタバレを含みますので、気にされる方はここで戻られた方がよろしいかと思います。

 そんなの気にしない! とか、むしろOK! 的な方。あと、できればボーダーブレイク大好き! って方はどうぞ、スクロール頑張ってください。



















































































































 よろしいですか?

 では、本題に入る前に少し語らせて下さい。

 この作品にSEGA様の「ボーダーブレイク」というアーケードゲーム要素を絡めたのは、勿論私個人が好きだからなんですが、もう一つ理由があります。

 何処へ行ってもボーダーブレイクネタのSSが見当たらない。

 これです。
 無いわけではありません。探せばあるでしょうし、実際にこのハーメルン様でもタグ付けされている方はおられます。

 しかし、少ない! ボダブレ要素の含まれたウマーなSSが少なすぎる!!

 深刻なニュード中毒者は考えました。書けばいいじゃない、司令官!!

 というわけであります。

 前提でSSは読むのも書くのも好き、ISも大好き。同じぐらいボーダーブレイクも好きなんです。これコラボしたらすんごい俺得SSの出来あがりジャン!! 

 聖書である「sola」要素も姉さんだけに抑えてまでプッシュしてるのはそんな理由なんです。

 くだらない? そんなこといわんといてぇな……。

 おかげ様で読まれる方の中にもボーダーの方がちらほらとおられるようでして、感想欄を見ては喜んでおります。あの武器だして! とか見るとウキウキします。殆どの方が私よりも上のランクですからビクビクしながらありがたやーとディスプレイに向かって拝んでたり。Aでうろうろしている砂乗りはそんな気持ちです。

 さてさて、ここからが本題です。

 そんなわけで、私自身がボーダーブレイク要素のあるSSが見たいが為に絡めましたこの作品、武器だけで終わるわけがありません。

 出します! ブラスト出しますよ!! ええ、もっとボダブレ要素濃くしてほしいそこのニュード中毒な庸兵さんのリクエストと私自身の欲望にお応えします!! 最近のアップデートでてんてこまいな私は精一杯頑張りますとも!

 ボーダーブレイク? なにそれおいしいの? という方にも大丈夫! ちゃんとどんな機体なのか等々しっかり解説を踏まえて作品には出していきます。

 まずは………



・クーガーⅠ型
 ブラスト・ランナー(ボーダーブレイクに登場する戦闘する機体を総じてブラストと呼ぶ)の原点ともいえる機体。バランスが良く「様々な状況に適応できる様に」というコンセプトで設計された。新人ボーダー(搭乗者をボーダーと呼ぶ)に受けがよく、安全性が高く人を選ばない。廉価であることも高評価。

・へヴィーガードⅠ型
 機動力を犠牲に、非常に高い防御力と分厚い装甲、転倒やスタンにも強い名前通りのブラスト。がっしりとした作りと、機動性の低さから拠点防衛に向いている。勿論前線での壁役としても活躍。

・シュライクⅠ型
 機動力、索敵能力が高いブラスト。その代わり装甲が薄く防御力が低め。全ブラスト中でも機動力が高いレベルにあり、軽やかな動きがウリ。



 やはりこの三機は欠かせないでしょう。皆さんお世話になった筈です。

 この三機は出します。確実に。

 そして………



・ヤクシャ
 全ての性能が非常に高い水準でまとめられている機体。薄めの装甲が気になるものの、目をつぶれば高機動型の万能機で、どんな作戦でも見事にこなせる。エースの中のエースだけが乗ることを許されたブラスト。



 これも欠かせませんよね。ヤクシャ=エースという脳内変換が私の中では勝手に行われております。

 少ない? まあ、そうでしょう。あえてこの四機に絞りましたから。

 でも見たい! 俺の嫁や相棒が活躍するシーン見たいよ!!

 な、ボーダーのあなた方へ。



 作品に出てほしい、出してほしいなーと思ったボーダーブレイクの機体を募集します!! アセンや、そのアセンで最も使用する、活躍できる兵装と搭載武装もOKです!! 武装だけでも可!!



 私の活動報告に分かりやすいタイトルで募集を受け付けます。下記の注意事項を読まれた上で、書き込んでください。



・型番は無視して、全て「Ⅰ型」等のゲーム内購入順にのっとって公開していきます。
 例)エンフォーサーの場合
   Ⅰ型→Ⅱ型→Ⅲ型…………

・キメラも勿論OKです! が、登場する機体によっては実現しない可能性もあります。なるべく全種類出していく覚悟ですが、アップデートによる新機体開放や、作品の進行具合で登場が難しくなる事も考慮ください。
 ボダブレの真価はキメラにあると思っております。どんどん下さい。

・武装も可です。単品でも、兵科と武装、アセン、チップの組み合わせまで何でもござれ。

・感想欄には感想だけをお願いします。今回募集するアンケートは、活動報告かメッセージに書き込んでお送りください。これは、運営から設けられたルールです。


 以上にご留意の上、お待ちしております!! 皆々様のアセン楽しみです!!

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